愛知県における橋梁長寿命化の取り組み

㈱建設図書:「橋梁と基礎」2009.10、pp.11-17
「橋梁と基礎」原稿用紙
2
文字9P
14P 送り
26 字詰
52 行
2段組
愛知県における橋梁長寿命化の取り組み
The Efforts of Aichi Prefecture Government to Extend Bridges' Service Life
Suzu
k
鈴
木 五
Suzu
鈴
i
k i
S
a
tsuki
Nishi
月 *・西
Hiro
shi
Kawa
Take
hiro
宏**
川 武
T a
baru
Kazu
木 啓 司***・田 原
hisa
和 久****
はじめに
ている。
国では、平成 15 年 4 月の「道路構造物の今後の管理・更
新等のあり方提言」
、平成 16 年 3 月の「橋梁定期点検要領
1−2.橋梁の状態
(案)の策定」に始まり、最近では平成 20 年 5 月に「道路
橋の予防保全に向けた提言」がとりまとめられた。こうし
示す。この点検は、改訂前の点検要領によるものである。
た国の動きを始めとして、各地方自治体においても橋梁長
橋であった。
改訂前の点検要領では損傷度の評価区分をⅠ,
寿命化の取り組みが活発化している。
Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,OK の区分で評価しているが、ここでは、現行の
県点検要領に準じて a∼e(※損傷が最も進行した状態が損
愛知県では、平成 16 年度から道路施設のうち橋梁と舗
装を対象として、社会資本長寿命化の基本的な方向性及び
県管理橋梁の平成 14∼18 年度の定期点検結果を以下に
この間に点検を実施した橋長 15 m 以上の橋梁は、約 1,400
その具体化の検討を進めている。また、平成 19 年度より、
傷度 e)の区分に変換して整理を行った。このため、厳密
には新しい点検要領による場合とは異なるが、概ねの損傷
新たに制定した「愛知県橋梁定期点検要領(案)
」に基づく
の傾向は示していると考えられる。
定期点検を進めているところである。
本稿は平成 16 年度か
ら平成 19 年度までの橋梁に関する検討成果から報告を行
うものである。
床版、高欄・防護柵、舗装では、点検した橋梁の半数以上
の橋梁で何らかの損傷が確認されている。また、特にコン
1.管理橋梁の現状
1−1.管理する橋梁
県内の道路延長は約 42 万 km であり、このうち県管理延
長は 4,621km である。県管理橋梁の総延長は 98km、橋梁数
は 4,003 橋(橋長 2m 以上)である。
県の管理する橋梁(橋長 2m 以上)の建設時期のピークは、
昭和 42 年度であり、その後しばらくの間は年間 50 橋前後
の建設であったが、
昭和 62 年度には年間 100 橋を超える橋
梁が建設された。特に前半のピーク時に全体の約 20%の橋
梁が建設された。また、昭和 40 年以前はほとんどが RC 橋
であったが、
昭和 60 年以降は RC 橋に替わり PC 橋が主流に
なり、鋼橋とほぼ同じ割合となっている。県管理橋梁全体
d
e
200
舗装
排水施設
0
伸縮装置
この 6 年間に全
体の 20%を建設
鋼橋
20%
c
遮 音 ・照 明 施 設
その他
1%
PC橋
23%
b
橋 600
梁
数 400
支承
140
a
高 欄 ・防 護 柵
160
(全 1,400 橋)
800
床版
その他
1000
コン下 部 工
PC橋
れる。
コン上 部 工
RC橋
可能性が高い損傷度 e や損傷度 d の橋梁が多い傾向が見ら
鋼下部工
鋼橋
クリート下部工、床版、高欄・防護柵、支承、排水施設、
舗装で比較的損傷が大きく、補修要否の検討が必要となる
鋼上部工
ではコンクリート系の橋梁が約 8 割と大きな割合を占め
(橋)
1−3.部材別の損傷状況
図-2 に、部材別の損傷状況を示す。コンクリート下部工、
120
図-2 部材別の損傷状況
100
RC橋
56%
80
建設後 50 年以上経過:750 橋
2.社会資本長寿命化基本計画の策定
60
アセットマネジメントの考え方を取り入れ、建設と維持
管理のバランスをとりながら進めていく今後の維持管理の
40
20
あり方を「社会資本長寿命化基本計画(以下、長寿命化基
T1
T6
T11
S2
S7
S12
S17
S22
S27
S32 S37
S42 S47 S52
S57
S62
図-1 建設年度別の橋梁数
*
**
***
****
愛知県 知立建設事務所 道路整備課 課長
愛知県 建設部 道路建設課 主査
パシフィックコンサルタンツ㈱ 行政マネジメント部 グループリーダー
パシフィックコンサルタンツ㈱ 行政マネジメント部
1 橋梁と基礎 □−□
H4
H9
H14
(年)
本計画とする)
、平成 18 年 3 月」としてとりまとめた。
長寿命化基本計画の策定にあたっては、
「愛知県社会資本
キーワード:長寿命化、維持管理手法、マネジメントシステム
橋梁と基礎
□−□
2
「橋梁と基礎」原稿用紙
14P 送り
文字9P
長寿命化基本計画策定委員会(委員長:名古屋大学大学院
環境学研究科、山田健太郎教授、副委員長:
(社)日本道路
建設業協会技術及び施工管理部会、井上武美部会長、県建
設部職員による 15 名の委員)
」を立ち上げ、平成 16 年度か
ら 17 年度の 2 ヵ年にわたり計 6 回の委員会を開催して基本
26 字詰
基本の要
橋梁の要求性能
適
安全性
快適性
第三者影
ライフサイクルコスト最小化、予算の平準化及び施設の長
響度に関
寿命化を目指し、以下に示す 3 項目を目標に掲げることと
する性能
した。
①中長期的な視点から計画的に維持管理に取り組む
②維持管理業務のさらなる効率化を図る
用
求性能
(1)取り組みの基本方針
将来にわたって行政サービスを維持・向上させる中で、
2段組
表-1 橋梁の要求性能
構造の安全性
全橋梁
走行の安全性
全橋梁
計画を取りまとめた。
2−1.社会資本長寿命化基本計画の概要
52 行
経済性
跨道橋・跨線橋・公園に架か
美観・景観
る橋梁・ランドマーク的な橋梁
桁下を利用する人
跨道橋・跨線橋・公園に架か
やものに危害を加
る橋梁・駐車場にかかる橋梁
える可能性
環境影響
(現地状況をもとに検討)
経済性
全橋梁
b.状態把握・評価
点検では、これまで同様に安全で円滑な交通の確保のた
③維持管理業務を継続的に改善するプロセスを取り入れる
めに異常や損傷の早期発見に努めるとともに、定期点検に
(2)橋梁維持管理の役割分担
ついて以下の考え方を明確にした。
上記の基本方針に基づく、県橋梁全体の維持管理では顧
客志向、成果志向の視点から、また、個別橋梁の維持管理
では実際の維持管理を行う現場の視点から各々役割分担す
ることとした。
県橋梁全体のマネジメント
管理指標・管理水準
将来の状態を予測することに活用する。
今後継続的に蓄積されたデータをもとに、点検手
個別橋梁のマネジメント
法、点検の頻度、状態の把握区分(記録方法)な
どを適宜見直すことで点検の合理化・効率化を図
現状把握(点検)・評価
る。
以上の定期点検の考え方を踏まえ、県が管理する全ての
橋梁全体の状態把握
計画立案
個別シナリオの選定
中長期予算計画の集計,
橋梁全体の中長期予算計
画の立案/修正
損傷状態の経年的な変化を把握する中心的な手段
である。
資産群の中長期・単
年度事業計画立案
/予算に応じた修正
予算要求(財務)
予算配分(各事務所)
事業実施
モニタリング・事後評価
モニタリング・事後評価
道路橋の定期点検業務に適用する定期点検要領を策定した。
策定した定期点検要領の要点を以下に記す。
b-1.点検の体系
県では、初期点検を導入するとともに、日常点検、定期
点検、異常時点検の結果を関連付けて情報を管理し、これ
らを総合的に判断して、詳細調査および対策を行うことと
した。
初期点検※
通報
(苦情/要望)
日常点検
図-3 橋梁維持管理の役割分担
(3)橋梁の維持管理手法
上記の役割分担にしたがって計画的に維持管理を行っ
ていくために必要となる維持管理手法のうち、ここでは、
定期点検
異常時点検
詳細調査
事故
対策
維持管理計画の策定までのプロセスに関わる以下の主な 6
つの項目について記述する。
※初期点検は定期点検と同様に損傷状態を確認する。
a.管理目標の設定
県では、旧点検要領では、損傷の種類ごとの損傷度を指
b-2.損傷状態の把握の考え方
点検では、点検者の主観を極力排除して、できるだけ客
標として損傷度d
(旧要領Ⅱ)
以下を要対策としてきたが、
施設の性能がどのように低下するから対策が必要なのかが
観的な事実を表現すべきと考え、標準的な損傷状態の把握
方法を設定することとした。損傷状態の把握方法は、計測
不明確であった。このため、今後は施設の状況、変化の予
測及び施設の要求性能を踏まえて管理指標と管理水準を設
機器を用いて定量的に記録する方法と、あらかじめ数段階
定することとした。
するかを記録する方法とに大別される。県として当面は、
図-4 県の橋梁点検の体系
に区分して定義された損傷度区分のいずれの損傷度に該当
橋梁の要求性能は、表-1 の 6 つの視点を考慮することと
定期点検を従来同様に国土交通省と同程度の精度(最大で
した。管理指標としては、国土交通省やその他機関で一般
に適用されている「損傷状態」とすることとした。また、
5段階に区分)で行う方針であることから、後者の方法に
より状態を把握・記録することとした。
管理水準は、後述の検討(b-3)を踏まえ設定した。
2 橋梁と基礎 □−□
また、部材・部位の特性を表現するため、部材や部位(パ
橋梁と基礎
□−□
「橋梁と基礎」原稿用紙
3
文字9P
14P 送り
ネル)単位で損傷状態を記録することとした。
損傷区分
a
b
c
d
e
b-3.対策の必要性を判断する条件の設定
対策の必要性は、部材・部位による特性、構造特性、橋
梁に作用する環境特性、橋梁の要求性能を条件として、橋
a
梁に応じて設定することとした(表 2∼表 5)
。ただし表 2
∼表 4 については、現時点での対応として、点検により把
握できる損傷の状態区分数を踏まえながら、適用の妥当性
Yes
b
Yes
鋼桁
桁端部、 一般部
Yes
No
主桁端部
No
B
d
■コンクリート桁
要 素
区 分
構造種別 RC桁、PC桁
備 考
PC床版のひびわれは設計で許容さ
れないことが基本
備 考
PC桁のひびわれは設計で許容され
ないことが基本
表-4 環境特性に関する条件
■コンクリート桁
要 素
区 分
大気環境 海岸地帯、その他
備 考
はく離し、鉄筋が露出している場合
には鉄筋腐食の進行が早い
表-5 要求性能に関する条件
要 素
着目する損傷
構造の安全性 主部材全般
区 分
全ての橋梁に適用
走行の安全性 ■伸縮装置
・破断
■排水ます
・破断
・変形・欠損
■路面の凹凸
■遊間の異常
■舗装の異常
■支承の機能障害
美観・景観
■鋼部材
・腐食
・塗装劣化
■コンクリート部材
・はく離・鉄筋露出
・漏水・遊離石灰
・コンクリート補強材の損傷
桁下を利用す ■鋼部材(ボルト)
る人やものに ・ゆるみ・脱落
危害を加える ■コンクリート部材
可能性
・はく離・鉄筋露出
・コンクリート補強材の損傷
・浮き
・定着部の異常
環境影響
・異常な音・振動
全ての橋梁に適用
経済性
全ての橋梁に適用
■鋼部材
・腐食
・塗装劣化
■コンクリート部材
・ひびわれ
■RC 床版
・床版ひびわれ
3 橋梁と基礎 □−□
対策実施の考え方
損傷区分 e の場合は、緊急
対応(判定 E)を基本
ただし、コンクリート部材につい
ては、各種条件に応じて詳
細調査で原因把握を行っ
た上で対策を行うことを
基本
走行速度や交通量が大き
い場合に、走行の安全性を
損なう恐れが高い。ただ
し、現時点ではこれを合理
的に判断・説明できるだけ
のデータや方法が十分で
ないため区別しない
Yes
C
※3
LCCmin
備 考
遅れ破壊によるボルトの破断
C
No
備 考
腐食: 進行速度が大き く 異な る
表-3 構造特性に関する条件
Yes
※1
桁端部、 中間支点部
■鋼構造物
要 素
区 分
ボルト仕様 F11Tの適用、それ以外
■コンクリート床版
要 素
区 分
構造種別 RC床版、PC床版
景観
No
腐食: 進行速度が大き く 異な る
衝撃に よ る ひびわれ: 進行速度が大き く
RC床版
桁端部、 一般部
異な る
ひ びわ れ 発生 部位や ひびわれ: 発生部位や発生形態( 要因)
コ ン ク リ ート 部材
形態によ る
によ り 構造物に及ぼす影響が異なる
鋼製支承
B
※2
c
表-2 部位・部材の特性に関する条件
区 分
2段組
一般的状況
損傷の深さ
損傷の面積
損傷な し
小
小
小
大
大
小
大
大
A
No
政策に応じて変動することが想定できるため、対応の便を
要 素
52 行
No
を判断して設定している。
なお、
橋梁の重要度については、
考慮して優先度評価項目として扱うこととした。
26 字詰
Yes
C
No
e
Yes
E
Yes
C
【対策の必要性区分】
A:補修を行う必要がない。
B:状況に応じて補修を行う。
C:次回の定期点検までに補修を行う必
要がある。
E:まず緊急対応が必要で、その後、必
要に応じて詳細調査を行って損傷
原因等を明らかにしたうえで、補修
を検討する。
S:詳細調査により損傷原因等を明らか
にしたうえで、補修を検討する。
※1:主桁・支承に関して、腐食が桁端部で生じ
ているか。
※2:景観に配慮する必要があるか。
※3:ライフサイクルコストを最小とする管理水
準を適用するか。
注:同一の路線における同年代に架設された橋梁
と比べて損傷の程度に大きな差があり、環
境や地域の状況など一般的な損傷要因だけ
では原因が説明できない状況などにおいて
は、進行性の評価や原因の特定など損傷の
正確な判定のための詳細調査を実施する。
図-5 鋼部材の腐食の管理水準(例)
c.劣化予測
中長期的な視点から計画的かつ戦略的に維持管理を
行うためには、施設の状態の変化を事前に予測すること
が不可欠である。すなわち、劣化予測の結果は、以下の
局面に対して活用することができる。
どの施設が、いつ、どのような状態となるかを把
握する。
いつ、どのような技術で対策を行うことができる
かを把握する。
各種対策の比較代替案についてライフサイクルコ
スト(以下、LCC)を評価する。
県管理施設に関して、LCCの最小化や予算の平
準化を踏まえた中長期的な管理計画を策定する
(将来的に必要な投資額の把握)。
劣化の進行を踏まえて点検時期を設定する。
劣化予測手法は、確定論的手法、確率論的手法、理論
的手法に大別できる。いずれの手法も適用できるものの、
跨道橋・跨線橋・
ランドマーク的な橋
梁
と、その他の橋梁で
区分
跨道橋・跨線橋・ランドマ
ーク的な橋梁で、着目する
損傷が確認できる場合は、
一般の橋梁より早期に補
修を実施することを基本
跨道橋・跨線橋
と、その他の橋梁で
区分
跨線橋、跨道橋で、はく落
の可能性のある損傷が確
認できる場合は、緊急対応
(判定 E)を基本
経年的な損傷については、
「回帰分析による劣化予測(確
定論的手法)」を適用することを基本した。これは、デ
ータの質や量の現状から、施設をある程度大きく括って
グループ化して、施設群全体のマクロ的な予測に活用さ
れることが主となる。当面はデータ分析だけで設定する
ことは困難であり、現時点では既往の知見や他機関の事
例も参考に劣化予測を設定した。また、将来的には、デ
全ての橋梁に適用
異常な音や振動は、定期点
検ではその有無を記録し、
詳細調査により原因を確
認
LCC 分析により経済的な
優位性が認められる損傷
区分となった段階で、次回
の定期点検までに補修(判
定 C)を行うことを基本
ータの蓄積によるグループ化や予測精度の向上及び個別
施設の対策計画への展開も可能と考えられる。今回は鋼
主桁の腐食・塗装劣化、コンクリート主桁のひびわれ・
遊離石灰、RC床版のひびわれ類を検討対象とした。表
-6,7 に、劣化予測検討結果の一例を示す。
d.維持管理計画の策定のためのケーススタディ
中長期的な観点から経済性を踏まえながら最適な維持管
橋梁と基礎
□−□
4
「橋梁と基礎」原稿用紙
14P 送り
文字9P
26 字詰
52 行
2段組
表-6 鋼主桁の劣化速度の設定(案)
損傷度
a
b
c
d
腐食
塗装劣化
∼10年
∼14年
11年∼
15年∼
16年∼
21年∼
20年∼
−
腐食
∼6年
7年∼
14年∼
22年∼
塗装劣化
∼13年
14年∼
24年∼
−
腐食
∼10年
11年∼
19年∼
26年∼
塗装劣化
∼15年
16年∼
25年∼
−
区分
海岸地帯
/B 塗装系
都市・工場
地帯/A 塗
装系
平野・山間
地帯/A 塗
装系
累積費用
(百万円)
30
C系塗装材料(シナリオ2)
25
20
15
10
5
0
0
20
表-7 RC床版の劣化速度の設定(案)
損傷度
S31 道示まで
(40 年以上経過)
道 示
( 年以
上経過 )
現Ⅳ
現Ⅲ
標準
現Ⅳ
S39
32
(下記以外)
現Ⅲ
大型車交通量 現Ⅳ
1000台以上
現Ⅲ
標準(下記以外)
S47
漏水(遊離石灰)あり
大型車1000台以上
道
示 以
降
a
b
c
d
−
(40年∼)
−
(32年∼)
−
(32年∼)
−
10年∼
10年∼
10年∼
50年∼
(40年∼)
45年∼
(32年∼)
35年∼
(32年∼)
50年∼
40年∼
30年∼
60年∼
50年∼
60年∼
50年∼
40年∼
35年∼
100年∼
80年∼
60年∼
−
−
−
−
∼9年
∼9年
∼9年
めに、作成した劣化予測モデルを用いてケーススタディを
実施した。
ケーススタディでは、将来的に必要となる概算予算及び
現状の予算規模により管理し続ける場合の橋梁の状態を推
計した。この結果、従来の管理水準で一定に管理し続ける
場合には財源的に困難な状況となることが予測できた。こ
れに対して、管理水準や管理手法を工夫により、橋梁の長
寿命化・LCC 縮減をはかることが可能となることが、ケー
ススタディを通して確認できた。
e. LCC 分析
LCC 分析は、個別橋梁の補修工法の選択や補修材料の選
択、橋梁の管理方針(対策シナリオ)の選択において複数
の案の LCC の比較分析を行うものである。各橋梁に応じた
最適な補修工法、
補修材料、
管理方法等を検討する上では、
従来手法にとらわれない管理方法の工夫や新技術等を積極
的に検討・導入する視点が重要となる。
ここでは、鋼橋の塗装を対象に、LCC 分析を行い最適な
補修工法、
補修シナリオを選択した検討事例について示す。
図-6 に示すように、従来の塗装材料(シナリオ 1)に対
して、初期費用が従来材料よりも 1 割程度高価であるが新
たな塗装材料(シナリオ 2)を採用した場合、約 2 倍程度
の補修サイクルの延命効果が発揮されることで今後 30 年
間以上の使用期間で LCC 縮減効果が期待できると考えられ
る。
また、図-7 に示すように、一定サイクルで全面一斉塗り
替えのケース(シナリオ 1)に対して、致命的な損傷とな
40
60
経過年数(年)
80
100
図-6 材料の LCC 比較
累積費用
(百万円)
18
全面塗替えのみ(シナリオ1)
社会的割引率0%
全面塗替え+部分塗替え(シナリオ2)
15
12
部分塗り替えを実施
9
6
部分塗り替えを実施
3
0
0
理計画を策定する上で、特に重要な要素としては「管理水
準」と「補修シナリオの経済性(LCC)評価」が考えられる。
これらの要素を今後検討する上での留意事項を把握するた
社会的割引率0%
A系塗装材料(シナリオ1)
20
40
60
経過年数(年)
80
100
図-7 管理方法の LCC 比較
f.優先度評価
要対策と判定された全ての損傷を一度に補修できない場
合も想定し、損傷状態、損傷の進行速度、路線や橋梁の重
要度の視点から優先度指数を設定した。優先する橋梁の考
え方は、現行の補修工事発注の際における優先順位付けと
同様に、状態の悪いものを優先的に対策する考え方を基本
として、これに新たな観点として、損傷進行速度と路線等
の重要度を加味した評価とすることを考えた。特にライフ
サイクルコストや安全性確保などに配慮した中長期的な視
点として、
損傷の進行速度を考慮している点が特徴である。
損傷の進行速度については、県の点検結果をもとに劣化
予測を行った結果等を踏まえ、表-8 に示す区分で優先性を
設定することとした。なお、鋼部材の損傷への環境特性の
影響は、現時点では飛来塩分や凍結防止剤による顕著な塩
害被害が確認できない現状を踏まえ評価項目に取り入れて
いない。また、コンクリート橋の構造特性については、点
検データを適用基準に着目して分析したが、損傷の進行速
度の違いを確認することはできなかったことから、現時点
では、取り入れないこととした。
また、次式により要対策橋梁の優先度指数を算出し優先
度を定量的に評価することとした。
優先度指数=100× (損傷に関する係数α1×α2)
∑(路線や橋梁等の重要度ポイント)
×
100
・損傷に関する係数α1, α2:損傷状態に関する係数α1(損傷
りやすい桁端部のみ塗り替えサイクルを短くすることで全
体の塗り替えのサイクルの延長を図ったケース(シナリオ
度より、e:1.0,d:0.5,c:0.25,b,a:0)と、損傷進行速度に関
2)の方が LCC が有利となるなどの管理方法の工夫も考えら
・路線や橋梁等の重要度区分:各要素の重要度ポイント合計の
れる。
4 橋梁と基礎 □−□
する係数α2(表-8 参照)で構成。
最大値が 100 となるようにポイントを調整(表-9 参照)。
橋梁と基礎
□−□
「橋梁と基礎」原稿用紙
5
文字9P
表-8 損傷進行速度の区分α2(案)
部材区分
鋼部材
環境特性係数α 21
構造特性係数α 22
部位特性係数α 23
係数
区分
係数
区分
係数
-
-
A塗装系
B塗装系
1.00
0.95
主桁端部
一般部
1.00
0.80
-
C塗装系
S39道示
以前
0.90
-
-
0.90
S39道示
1.00
一般部
0.95
-
S47道示
以降
0.90
-
-
1.00
コンクリート部
材・その他
主桁端部
1.00
1.00
路線の重
要度
橋梁の重
要度
重み
30
項目
道路種別
10
大型 車 交 通区
分
15
緊急輸送道路
5
橋種・橋長
50
60
代替路
政策的判
断
重み
10
改修計画
10
10
2段組
統合道路管理システム プラットホーム
•個別システムへのリンク
•GIS地図表示機能
•基準類の検索機能
•システム管理機能
路面性状・舗装構成・舗装工事のDBを
中核としたシステム
•舗装維持管理に関するデータ管理
•苦情・異常情報の登録・閲覧
•道路パトロール関連調書の作成・ダウ
ンロード
等
要素
国道
主要道、県道
D交通
C交通
B交通
A交通
L交通
指定あり
指定なし
橋 長 200m 以 上 ま
た は ア ーチ、 トラス、
斜張橋、吊り橋
ボックスカル
バート
その他;橋長15m
以上200m未満
その他;橋長15m
未満
代替路なし
代替路あり
改修計画なし
改修計画あり
ポイント
10
8
15
12
10
10
8
5
3
現場で職員が損傷状態
を確認し、状況や対応
を登録するシステム
•GIS地図上で苦情箇所
等を表示
•道路パトロール結果の
入力
•苦情情報の確認内容
入力
等
等
道路台帳平面図システム
橋梁台帳システム
•道路台帳平面図・用地図の検索機能
•図面データのダウンロード機能
•図面データの登録機能
等
道路台帳システム
橋梁台帳の検索・参照・ダウンロードが
行えるシステム
•橋梁データの条件検索
•橋梁台帳・点検調書・耐震対策台帳の
ダウンロード
•分類毎に集計・統計
•点検結果の閲覧機能
等
道路台帳の緒元情報を扱い、区間データ
の補正業務を行うシステム
•区間データの条件検索
•調書作成・ダウンロード
•年度確定処理および進捗管理
等
舗装点検システム
表-9 路線や橋梁の重要度の区分(ポイント)
(案)
視点
52 行
・管理者ニーズを反映できるシステム
舗装維持管理システム
0.95
26 字詰
・操作性の高いユーザー・インターフェースを考慮したシステム
区分
2,000台/
日以上
2,000台/
コンクリート床版
日未満
14P 送り
舗装アセット
橋梁点検システム
現場で橋梁点検結果を
入力するためのシステ
ム
•点検結果の入力
•現場写真の登録
•緒元データの編集
•径間の追加・削除
•要素番号図の作成
等
橋梁アセット
マネジメントシステム
マネジメントシステム
県が管理する道路舗装の内アスファル
ト舗装に関して、単年度および中長期
の予算をシミュレーションするシステム
•管理水準の設定
•劣化予測式の作成
•優先度指数の算出
•工事区間の結合
•補修工法の登録・補修シナリオの作成
•来年度・中長期予算シミュレーション等
県が管理する橋梁に関して、単年度お
よび中長期の予算をシミュレーションす
るシステム
•管理水準の設定
•優先度順位の算出
•補修工法の登録・補修シナリオの作成
•劣化予測グラフの作成
•LCC分析
•中長期予算シミュレーション
等
図-8 統合道路管理システムの全体概要
3−2.橋梁マネジメントシステムの概要
(1)システム機能の概要
今回システム化を行った機能は、①定期点検データの評
50
価、②定期点検データ等をもとに単年度(短期)の補修工
事対象橋梁の抽出、③定期点検データ等をもとに中長期の
38
補修工事必要予算シミュレーションなどの機能である。
Ⅰ.点検結果の評価
45
3.橋梁マネジメントシステムの構築
長寿命化基本計画の推進を支援することを目的に、維持
管理のマネジメント体系で示した各プロセスで必要となる
分析等を効率的かつ効果的に行うためのツールとして、橋
梁アセットマネジメントシステムの開発を平成 18 年度か
ら 19 年度に実施した。
3−1.システム開発の基本構想
本県では、道路、橋梁、舗装等にかかわる各種情報を GIS
Ⅲ.中長期の予算
管理指標・管理水準の設定
40
10
5
10
8
Ⅱ.単年度(次年度)の予算
点検データを取得
点検結果の評価・集計グラフ
優先度順位の算出
劣化予測表の作成
補修工法DBの作成
工事調整設定
補修シナリオの作成
単年度予算の算出
(中長期予算シミュレーション)
(予算配分調整を含む)
予算要求資料の作成
LCC分析
中長期予算シミュレーション
(予算の上限設定を含む)
長寿命化計画の作成
図-9 橋梁マネジメントシステムの機能及び処理の流れ
(2)本システム開発の特徴
a.使用データ
(地理情報システム;Geographical Information System)
使用データは、既存のデータベース(定期点検・補修履
を介して一元的に管理することで、確実な台帳類の管理を
歴・橋梁基本諸元の各種データ、現地状況写真、一般図等)
実現し、道路行政に係わる各種関連システムと連携し、情
報共有及びその有効活用による道路管理業務の効率化・省
を最大限活用した。各機能の入力データが上記データベー
スからの使用データかまたは前処理からの出力データかを
力化を目指した「愛知県統合道路管理システム」を整備し
定め、入出力の相互関係を明確にした。またデータベース
た(図-8 参照)
。この統合道路管理システムは、既存のネ
は蓄積及び定期的な更新が可能な形態となるようにした。
ットワーク、OA 機器を利用し、県庁と各建設事務所(支所
も含む)にサーバを設置し、県職員が業務に活用する Web
b.管理者の技術的判断を反映する柔軟性
各機能間の入出力データのやりとりは、大量のデータを
システム形式の道路管理業務支援システムである。
橋梁マネジメントシステムは、上記の統合道路管理シス
扱うため、効率化やミス防止の観点から基本的に機械的に
処理することとした。しかし各機能の条件設定や評価手法
テムの中に、構築されている。また、システム設計に際し
は現段階のデータ状況や技術的知見等をもとに構築したも
ては、職員による実際の利用を通して段階的にシステムの
のであり、管理者による技術的判断に基づき設定する必要
改善を図っていくことを想定し、以下の視点を踏まえるこ
とを基本とした。
がある入力条件もある。例えば、中長期予算シミュレーシ
ョンを実施する際の補修サイクルに関する条件は、手入力
・システムの改良・変更等の保守管理の容易なシステム
により劣化予測表を作成することとしている。現時点では
5 橋梁と基礎 □−□
橋梁と基礎
□−□
6
「橋梁と基礎」原稿用紙
文字9P
14P 送り
26 字詰
52 行
2段組
劣化予測式が十分な点検データによるものでないことから、
の蓄積や実際の職員による利用を通して、段階的にシステ
劣化要因や材料・仕様等に応じた劣化予測モデルは、機械
的処理により作成したグループ別の劣化曲線を参考に職員
ムの改良を実施していくものとする。
a.システムの信頼性向上
が設定することとした。
点検データの蓄積により劣化要因別の劣化速度の傾向を
(3)システム画面の一例
より精度よく把握でき、また補修データの蓄積により補修
図-10 に、中長期予算計画作成機能の中から、本システ
ムの主な出力画面の一例を示す。
工法別の補修サイクルの実態や単価等の実勢の傾向をより
細分化して把握できるようになると考えられる。
b.システム運用ルールの確立
長寿命化修繕計画を策定するまでの一連のプロセスが実
業務レベルでまだ確立されていないため、体制・役割、ス
補修費用
対策区分
ケジュール等について、システムを運用していく中で確立
平準 化後
していく必要がある。
c.関連システムとの連携
データベースや GIS(地理情報システム)等の共通の基礎
情報を介して、橋梁台帳システム、橋梁点検システムと橋
平準 化前
梁マネジメントシステムとの連携強化を図ることにより、
現場における管理者、本庁における管理者、利用者・住民
等の意見を維持管理に反映させるために必要なシステムの
図-10 シミュレーション結果(中長期予算計画作成)
見直しを行っていく必要がある。
3−3.橋梁点検システムの概要
(1)システム機能の概要
d.長寿命化修繕計画の策定等への活用
長寿命化修繕計画の作成は、本システムに登録された点
橋梁点検システムは、橋梁に係わる現場点検で得られた
点検結果(損傷の位置、状況、現場写真など)を効率よく
検データを活用して行う予定である。
現在のシステムでは、
アセットマネジメント対象の部材のみに対しての評価であ
データ登録するためのシステムである。橋梁点検システム
を用いてのデータ登録までの流れは以下の通りである。
り、橋梁全体として評価を行う必要がある。また、一般住
民への情報提供という視点からも、分かりやすくかつ正確
①事前準備
・橋梁台帳システムから諸元データをダウンロード
に橋梁全体を評価できる指標を考案し、システムに反映さ
せていく予定である。
②点検の準備
・所在地、路線名、橋種、径間数等の諸元データを確認
5.おわりに
・その他点検実施者の適切な安全対策に必要な一般図や
現地状況写真などの情報を収集
愛知県管理橋梁は今後一層の高齢化を迎えることになり、
計画的な維持管理を着実に実施していくことが必要不可欠
・前回の点検データの参照
な状況となっている。このような状況の中で、社会資本長
③点検の実施
寿命化基本計画策定委員会の設立から、統合道路管理シス
・径間毎、部材毎に点検要素番号を作成
・損傷程度などの点検結果を、橋梁定期点検要領に準拠
テムの運用開始まで、
多くの方々の努力と取り組みにより、
(社)全日本建設技術協会の全建賞をいただくことができた。
し、橋梁マネジメントシステムで設定した管理指標や
管理水準にしたがって入力
今後は、この成果をもとに、統合道路管理システムが、
日常の維持管理業務の中で、橋梁の長寿命化に大きく貢献
・所定の様式にしたがった点検報告書を橋梁毎に作成
できるように各種データの収集や蓄積を着実に進めていく
④データ登録
予定である。
・点検計画書、点検報告書をシステムへアップロード
・橋梁マネジメントシステムの入力データ作成
最後に、愛知県社会資本長寿命化基本計画の策定や愛知
県統合道路管理システムの開発に協力していただいた名古
屋大学大学院山田健太郎教授を始めすべての関係者の方々
4.今後の取り組み
に深く御礼申し上げます。
(1)長寿命化修繕計画の策定
平成 19 年度より各地方自治体に対して長寿命化修繕計
〔参考文献〕
1)国土交通省道路局国道・防災課:橋梁定期点検要領(案)、
画策定が要請されている。
愛知県でも平成 19 年度に新たな
橋梁定期点検要領に基づきまず 600 橋の定期点検を実施し、
平成 16 年 3 月
2)中野錦也、横山正樹、山田健太郎、重松勝司:橋梁の管
長寿命化修繕計画の策定を行っている。平成 20 年度も、引
き続き定期点検を実施している。
(2)今後のシステムの充実
今回のシステム開発は、現段階の保有データや得られた
検討成果を踏まえたものであるため、今後の新たなデータ
6 橋梁と基礎 □−□
理水準に関する検討、
土木学会第 61 回年次学術講演会、
平成 18 年 9 月
3)横山知生、田中慎一、西川武宏、長坂剛:実務に即した
橋梁アセットマネジメントシステムの開発、土木学会第
63 回年次学術講演会、平成 20 年 9 月
橋梁と基礎
□−□