アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 以下の【事例】を読んで,【問い】に答えなさい。 問題 【事例】 Xは,東京都内に自宅用のマンションを購入しようと考えていたところ, ある高層マンション(以下「本件マンション」という。)が売りに出されて いることを知った。本件マンションの価格は,相場よりも2割程度高い60 00万円であったが,本件マンションのベランダからは,昼は東京タワー, 東京スカイツリー,富士山等の景色が,夜は東京湾岸の夜景が一望にでき, 眺望が抜群であった。 本件マンションに一目惚れしたXは,早速,所有者Yと交渉を開始した。 当該交渉の過程で,Xは,Yに対して,眺望の良さが非常に気に入ったので 本件マンションを購入したい旨伝え,Yも,Xに対して,本件マンションの 最大の売りはこの眺望の良さである旨述べた。こうして,XYは,本件マン ションを6000万円で売買する旨の契約を締結した(以下「本件売買契 約」という。)。 ところが,Xが本件マンションを購入してから約1年後,本件マンション の目の前に本件マンションよりも高層のマンション(以下「別件マンショ ン」という。)が建設され,ベランダからの眺望は完全に阻害されてしまっ た。そこで,Xは,Yに対して,本件売買契約にかかる売買代金6000万 円の返還を求めた。 なお,Yは,本件売買契約締結の時点で,別件マンションが建設される予 定があることを知っていたが,Xがその情報を知れば売買契約が頓挫すると 考え,あえてこれを告げなかった。また,かかる情報は,不動産関係者でな ければ知り得ないような情報であったが,Yは,偶然これを知っていた。 【問い】 Xの請求は認められるか。ただし,消費者契約法については触れる必要が ない。 1 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 解 説 第1 錯誤無効(95)の主張について Xの請求の根拠は,不当利得返還請求権(703,704)であり,ここで問題となるのは,「法律上 の原因」の有無である。Xとしては,本件売買契約の錯誤無効を理由に「法律上の原因」がないと 主張することが考えられる。 ここで,Xは,本件マンションの眺望の良さを理由に本件マンションを購入しており,いわゆる 動機の錯誤が問題となる。動機の錯誤については,動機が表示されて法律行為の内容となった場合 には「錯誤」(95本文)に当たるとするのが判例(最判平元.9.14等)である。本件では,Xが,Y に対して,眺望の良さが非常に気に入ったので本件マンションを購入したい旨伝え,Yも,Xに対 して,本件マンションの最大の売りはこの眺望の良さである旨述べたこと等からすれば,動機は表 示され,法律行為の内容になっているといえ,「錯誤」があるといえる。 また,「要素」(95本文)の錯誤とは,錯誤がなければ表意者も一般人もその意思表示をしなか ったであろうと認められるものをいうところ(大判大7.10.3),本件では,眺望の良さがなければ, Xも一般人も,相場の2割増しで本件マンションを購入することはなかったといえるから,「要素」 の錯誤があるといえる。さらに,別件マンションが建築されるという情報は不動産関係者でなけれ ば知り得ないような情報であったのだから,「重大な過失」(95ただし書き)も認められない。 よって,錯誤無効の主張は認められ,Xの請求は認められる。 第2 詐欺取消し(96Ⅰ)の主張について 他方,Yは別件マンションの建築予定があることを知りながら,Xに対して,あえてこれを告げ ず,本件契約を締結していることからすれば,Xは,詐欺取消し(96Ⅰ)を理由に,Yの利得に 「法律上の原因」がないと主張することが考えられる。ここで,前述の通り,本件契約は錯誤無効 であるから,無効な契約を取り消すことができるかという,いわゆる無効と取消しの二重効の問題 が生じるが,二重効を肯定するのが一般的な見解である。 よって,詐欺取消しの主張も認められ,Xの請求は認められる。 第3 説明義務違反を理由とする債務不履行責任について Xは,説明義務違反を理由とする債務不履行に基づく解除(541)及び原状回復請求としての売買 代金の返還請求(545Ⅰ本文)を主張することも考えられる。しかし,判例(最判平23.4.22)は, 契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった事案におい て,その説明義務違反によって締結された契約から生ずる義務に対する違反とするのは「一種の背 理である」として、不法行為構成によることを明らかにしている。 本問は,まさにこの判例の射程が及ぶ事案だろうから,債務不履行責任を追及することはできな い。もちろん,不法行為に基づく損害賠償請求をする(709)ことはできるが,「Xは,Yに対して, 売買代金6000万円の返還を求めた」のだから,このような構成は題意に沿わない。 第4 瑕疵担保責任(570)について 本件売買契約時点(契約責任説によれば,引渡(危険移転)時点)で,眺望が害される(潜在的 な)可能性があるとして,これを「瑕疵」であると捉え,瑕疵担保責任に基づく契約解除(570, 566)及びそれに基づく原状回復請求としての売買代金の返還請求を主張することも考えられる。 もっとも,そのような「瑕疵」が認められるか否かは議論がある(学説上,環境瑕疵と呼ばれる 問題である)。「瑕疵」概念については,いわゆる主観説が判例・通説であると解されているから, この点では「瑕疵」に当たるとすることに問題はないが,潜在的な瑕疵であるといえるか否かにつ いては難しい問題がある。本件売買契約時における別件マンションの建設の具体的な可能性等の事 情に左右されることになるだろう(「瑕疵」に当たるとしたものとして大阪地判昭61.12.12,「瑕 疵」に当たらないとしたものとして東京地判平2.6.26)。 なお,担保責任と錯誤無効の主張を両方認めた場合には,その関係が問題となるので,その点に ついても触れる必要がある。 以 上 2 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 解 答 例 第1 請求の法的根拠 Xは,Yに対して,本件売買契約にかかる売買代金6000 万円の返還を求めているところ,この請求の法的根拠について 考 察 す る と , ① 錯 誤 無効 (9 5 条 ) , ② 詐 欺 取 消し (9 6 条),③債務不履行に基づく解除(541条),④瑕疵担保責 任に基づく解除(570条,566条)が考えらえる。 第2 ①錯誤無効 1 Xの請求の根拠は,不当利得返還請求権(703条,70 4条)である。Xとしては,本件売買契約の錯誤無効を理由 に「法律上の原因」がないと主張することが考えられる。 ここで,Xは,本件マンションの眺望の良さを理由に本件 マンションを購入しており,契約に至る動機に錯誤がある。 2 「錯誤」(95条本文)とは,内心と表示の不一致を意味 するから,原則として,契約に至る動機に錯誤があるにすぎ ない場合には,「錯誤」は認められない。 もっとも,動機が表示されて法律行為の内容となった場合 には,内心と表示の不一致が認められるから,内容の錯誤の 一種として「錯誤」に当たると解すべきである。 本件では,Xが,Yに対して,眺望の良さが非常に気に入 ったので本件マンションを購入したい旨伝え,Yも,Xに対 して,本件マンションの最大の売りはこの眺望の良さである 旨述べたこと等からすれば,動機は表示され,法律行為の内 容になっているといえ,「錯誤」があるといえる。 「要素」(95条本文)の錯誤とは,錯誤がなければ表意 者も一般人もその意思表示をしなかったであろうと認められ るものをいうところ,眺望の良さがなければ,Xも一般人 も,相場の2割増しで本件マンションを購入することはなか ったといえるから,「要素」の錯誤があるといえる。さら に,別件マンションが建築されるという情報は不動産関係者 でなければ知り得ないような情報であったのだから,「重大 な過失」(95条ただし書)も認められない。 4 よって,Xの主張及び請求は認められる。 第3 ②詐欺取消し 1 Yは別件マンションの建築予定があることを知りながら, Xに対して,あえてこれを告げず,本件契約を締結している ことからすれば,Xは,詐欺取消しを理由に,Yの利得に 「法律上の原因」がないと主張することも考えられる。 2 ここで,Xの錯誤無効の主張が認められていることから, 無効な契約を取り消すことはできないかに思われる。 しかし,無効も取消しも法律行為の効果を消滅せしめるた めの法的な擬制にすぎない。また,両方の主張を認めた方が 表意者保護に資する。特に,錯誤無効の主張は,いわゆる相 対的無効であるから,法的効果において取消しと大差ない。 したがって,錯誤無効の主張が認められた場合でも,詐欺 3 3 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 取消しを主張することができる。 3 よって,Xの主張及び請求は認められる。 第4 ③債務不履行に基づく解除(541条) 1 Xは,Yが別件マンションの建設計画を知りながらこれを 告げなかったことが,本件売買契約上の説明義務の違反に当 たるとして,債務不履行に基づく解除及び原状回復請求とし ての売買代金の返還請求(545条1項本文)を主張するこ とが考えられる。 2 もっとも,本件のように,契約を締結するか否かに関する 判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった事案 において,その説明義務違反によって締結された契約から生 ずる義務に対する違反とするのは一種の背理であるから,こ のような主張は認められない。 第5 ④瑕疵担保責任に基づく解除(570条) 1 Xは,本件売買契約時点で,眺望が害される(潜在的な) 可能性があるとして,これを「瑕疵」であると捉え,瑕疵担 保責任に基づく契約解除及びそれに基づく原状回復請求とし ての売買代金の返還請求を主張することも考えられる。 2⑴ 何が「瑕疵」に当たるかは,当該目的物が通常備えるべ き品質・性能が基準になるほか,契約の趣旨によって定ま るから,本件マンションが優れた眺望を有することを前提 にして本件売買契約が締結されていることからすれば,眺 望が害されている場合には「瑕疵」があるといえる。 ⑵ もっとも,そのような「瑕疵」は,本件売買契約締結時 点ではなく,その約1年後に生じている。 ここで,瑕疵担保責任は,有償契約における対価的均衡 を維持するための制度であるから,「瑕疵」は契約時まで に存在した原始的瑕疵に限られるべきである。 そうすると,仮に契約成立時に「瑕疵」が具体化してい なかった場合には,契約成立時に「瑕疵」の原因となる事 実が相当程度具体的に生じていない限り,原始的瑕疵があ ったものとはいえない。 本件でも,本件売買契約締結時に別件マンション建設計 画が相当程度具体的に生じていない限り,「瑕疵」に当た らないから,Xの上記主張及び請求は認められない。 ⑶ なお,仮に,「瑕疵」の存在が認められれば,本件売買 契約の目的を達することができない(566条1項)こと は明らかである。また,「隠れた」(570条)とは,買 主が取引通念上一般にされる程度の注意をしても「瑕疵」 を発見できないこと,すなわち買主の善意・無過失をいう ところ,別件マンションの建築予定について不動産取引の プロではないXが知り得る余地はなかったといえ,Xは 「瑕疵」の存在について善意・無過失である。 この場合,Xの上記主張及び請求は認められる。以 上 4 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 講義内添削サンプル講義問題採点基準 1 配点 得点 錯誤無効(95)の主張について (15) ― ⑴ (3) ― 請求の根拠について 請求の根拠が,不当利得返還請求であることを示すことができてお り,「法律上の原因」の有無と関連付けて,錯誤無効の主張が記載さ れている ⑵ 錯誤無効の要件について (12) 動機の錯誤の点について,判例理論を踏まえ,自説が展開できてい る 「要素」性,重過失の有無について検討されている 2 3 ― 7 5 詐欺取消し(96Ⅰ)の主張について (9) ― ⑴ (3) ― 請求の根拠について 請求の根拠が,不当利得返還請求であることを示すことができてお り,「法律上の原因」の有無と関連付けて,詐欺取消しの主張が記載 3 されている ⑵ ⑶ 詐欺取消しの要件について (2) 簡潔に要件検討がなされている 2 無効と取消しの二重効について (4) 自説を展開することができている 3 説明義務違反を理由とする債務不履行責任について (6) ― ⑴ (3) ― ⑵ 請求の根拠について 説明義務違反を理由とする債務不履行責任の成否について 判例理論を踏まえた検討がなされている 3 (3) 3 (15) ― ⑴ (3) ― 請求の根拠について 状回復請求としての売買代金の返還請求であることを指摘できている ⑵ 「瑕疵」の存否について 潜在的瑕疵について,自説を示した上で,本件事案を分析すること ができている ⑶ 3 (9) 「瑕疵」の意義について,自説を示すことができている その他の要件について 7 (3) 「隠れた」(570)の意義を論じることができている 2 契約の目的を達することができないか否か検討している 1 裁量点 (5) ※錯誤無効の主張と担保責任の追及を双方認めた答案で,その関係につい て触れているものは,裁量点で加点する 計 5 50 5 ― 2 主張間のバランス,論理の流れ等 合 ― 瑕疵担保責任(570)について 請求の根拠が,瑕疵担保責任に基づく契約解除及びそれに基づく原 5 ― 4 請求の根拠が,債務不履行に基づく解除及び原状回復請求であるこ とを指摘できている 4 ― ― ― アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 Aさんの答案 1 Xは,Yに対し,不当利得に基づく本件払い済み代金返還 請求をすることが考えられる(703条)。 ⑴ Xは,本件マンションの代金として,Yに対し6000 万円を支払っており,「損害」が認められ,Yにはこれに 対する「利益」が認められる。また,両者の間には社会通 念上の因果関係が認められる。 ⑵ では,「法律上の原因」がないといえるか。XY間の本 件売買契約(555条)が錯誤(95条本文)により無効 となるかが問題となる。 ア この点,Xは眺望の良さという点につき錯誤があるた め,いわゆる動機の錯誤が認められる。動機は意思表示 の内容をなすものではなく,原則として「錯誤」に当た らない。しかし,表意者保護という錯誤制度の趣旨は動 機の錯誤にも妥当する。もっとも,これを安易に認める と取引の安全が害される。 そこで,動機が明示又は黙示に表示され,意思表示の 内容となり,「要素」の錯誤といえれば,95条本文に より無効になると考える。 イ 本件において,Xは眺望の良さが非常に気に入ったの で,本件マンションを購入したい旨を伝えており,眺望 の良さが動機であることを明示的にYに対して表示して いる。また,ベランダからの眺望が完全に阻害されてし まうのであれば,Xのみならず通常一般人も本件売買契 約を締結しなかったといえることから,本件錯誤も「要 素」の錯誤にあたる。 ⑶ したがって,本件売買契約は錯誤により無効となり,Y が本件マンションの売却代金として保有する金銭には,実 質的,相対的な理由がなくなったといえるため,「法律上 の原因」がなくなったといえる。 よって,XはYに対し上記請求を行うことができる。 2⑴ 次に,XはYに対し,瑕疵担保責任に基づく契約の解除 (570条,566条1項)を主張し,原状回復義務(5 41条1項)に基づく支払済み代金返還請求をすることが 考えられる。 ⑵ 本件において,「隠れた」とは,善意無過失をいうとこ ろ,Xは本件マンションの目の前に高層マンションが建設 されることを知らず,また,これにつき過失がないといえ れば,本件瑕疵は「隠れた」といえる。 また,「瑕疵」とは,取引通念上,Yの目的物が通常有 するべき品質,性能を欠いていることをいうところ,眺望 の良さを売りにする本件マンションにおいては,これより も高層のマンションが建設され,ベランダからの眺望が阻 害されてしまうことは,これが通常有すべき品質,性能を 欠いているといえる。 6 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 そして,眺望の良さを気に入って本件マンションを購入 したXにとっては,これが阻害されてしまうことにより 「契約の目的を達することができない」といえる。 ⑶ したがって,XはYに対して上記請求をすることができ る。 3 そして,錯誤と瑕疵担保が競合する場合における両者の関 係について,566条3項が1年間の除斥期間を定め,法律 関係の早期安定を図ろうとする趣旨であることにかんがみ, 瑕疵担保責任の規定が優先すると考える。 したがって,XはYに対し,Xが本件マンションの目の前 に高層マンションが建設した事実を知った時から1年以内で あれば,570条,566条1項の規定により,本件請求が 認められる。 4 また,XはYに対し,Yの詐欺(96条1項)を理由とし て本件売買契約を取消し,不当利得(703条)として60 00万円の代金請求をすることが考えられる。 ⑴ 本件において,YはXに対し,本件売買契約の時点で, 別件マンションが建設される予定であったことを知ってい たが,Xがその情報を知れば売買契約がとん挫すると考え あえてこれを告げなかったことからすれば,黙秘的に欺罔 行為を働いたといえる。また,これにより,Xは目の前に 高層マンションが建設されることはないという点において 錯誤があったといえる。 したがって,XはYに対し上記請求をすることができ る。 5 さらに,XはYに対し,Yの債務不履行(415条)に基 づく契約の解除(543条)を主張し,原状回復義務(54 5条1項)により支払済み代金の返還請求をすることが考え られる。 ⑴ 本件において,Yは不動産関係者でなければ知りえない ような情報である本件マンションの目の前に高層マンショ ンが建設されることを知っていたが,かかる情報を知って いたならばYはXに対して売主としての説明義務を負うも のといえる。そして,Yはこの義務に違反しているため, 「債務の本旨にしたがった履行をない」といえる。 ⑵ したがって,XはYに対し上記請求をすることができ る。 以 上 ⑵ 7 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 A さんの答案の評価 講義内添削サンプル講義問題採点基準 1 配点 得点 錯誤無効(95)の主張について (15) - ⑴ (3) - 3 3 (12) - 7 5 請求の根拠について 請求の根拠が,不当利得返還請求であることを示すことができてお り,「法律上の原因」の有無と関連付けて,錯誤無効の主張が記載さ れている ⑵ 錯誤無効の要件について 動機の錯誤の点について,判例理論を踏まえ,自説が展開できてい る 「要素」性,重過失の有無について検討されている 2 5 3 詐欺取消し(96Ⅰ)の主張について (9) - ⑴ (3) - 3 2 (2) - 請求の根拠について 請求の根拠が,不当利得返還請求であることを示すことができてお り,「法律上の原因」の有無と関連付けて,詐欺取消しの主張が記載 されている ⑵ 詐欺取消しの要件について 簡潔に要件検討がなされている 2 2 ⑶ 無効と取消しの二重効について (4) - 自説を展開することができている 3 4 0 説明義務違反を理由とする債務不履行責任について (6) - ⑴ (3) - 3 3 (3) - 請求の根拠について 請求の根拠が,債務不履行に基づく解除及び原状回復請求であるこ とを指摘できている ⑵ 説明義務違反を理由とする債務不履行責任の成否について 判例理論を踏まえた検討がなされている 4 3 1 瑕疵担保責任(570)について (15) - ⑴ (3) - 3 2 (9) - 2 2 7 0 (3) - 2 2 請求の根拠について 請求の根拠が,瑕疵担保責任に基づく契約解除及びそれに基づく原 状回復請求としての売買代金の返還請求であることを指摘できている ⑵ 「瑕疵」の存否について 「瑕疵」の意義について,自説を示すことができている 潜在的瑕疵について,自説を示した上で,本件事案を分析すること ができている ⑶ その他の要件について 「隠れた」(570)の意義を論じることができている 契約の目的を達することができないか否か検討している 5 裁量点 1 1 (5) - 5 5 50 30 主張間のバランス,論理の流れ等 ※錯誤無効の主張と担保責任の追及を双方認めた答案で,その関係につい て触れているものは,裁量点で加点する 合 計 8 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 Bさんの答案 第一 Xは,Yに対して,売買代金6000万円を不当利得 (704条)に基づく返還請求をすることが考えられる。 本件において,Xは,自己が望む眺望を阻害されるマンシ ョンを購入した一方で,Yは,右売買代金6000万円を得 ていることから,Yは「利益」を受け,Xは損失を被り,両 者の間には社会通念上因果関係が存するといえる。 それでは,Yの利得につき「法律上の原因」がないといえ るか。 1 まず,Xは,錯誤無効(95条本文)を主張して,Yの利 得に「法律上の原因」がないと主張することが考えられる。 ⑴ 本件において,本件売買契約につきXの内心的効果意思 と表示意思に不一致はなく,「錯誤」がないとも思える。 ⑵ もっとも,Xは,よい眺望のベランダがあるマンション を購入するという点で動機に錯誤が存するといえることか ら,動機の錯誤が「錯誤」といえるかが問題となる。 ア そもそも,表意者保護という95条本文の趣旨にかん がみれば,動機に錯誤があるものも保護すべきといえる が,相手方は表意者の動機を知りえないのだから,取引 安全を保護する必要がある。 そこで,両要請の調和の観点から,動機が明示又は黙 示に表示され,意思表示の内容となった場合には,動機 の錯誤も「錯誤」に当たると考える。 イ これを本件についてみると,Xは,本件売買契約の交 渉過程で,Yに対し,「眺望の良さが気に入ったので本 件マンションを購入したい」旨を伝えており,Yについ ても,本件売買契約において,本件マンションの眺望の 良さが契約の要素であることを認識していた。 そうだとすると,Xの右動機が明示に表示され,意思 表示の内容となったといえる。 ⑶ また,本件マンションの眺望が阻害されることにつき錯 誤があったのであれば,Xのみならず,普通一般人も,本 件売買契約を締結しなかったといえることから,「要素」 に錯誤があったといえる。 ⑷ さらに,本件売買契約当時,別件マンションが建設され る予定がある旨の情報は,不動産関係者でなければ知りえ ないものであり,Xが本件の事情からして不動産関係者で ないことからすると,Xに「重大な過失」があるとはいえ ない。 ⑸ したがって,Xの錯誤無効の主張は認められる。 2 次に,Xは,詐欺取消し(121条本文,120条2項) を主張して,本件売買契約を取り消され,Yの利得に「法律 上の原因」がないことを主張することができるか。 本件において,Yは,本件売買契約締結の時点で別件マン ションが建設される予定を知っていたが,あえて右情報をX 9 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 に告げず,本件売買契約に踏み切っていることから,Yは欺 罔行為をし,その結果Xは錯誤に陥り,右錯誤に基づいてX は本件売買契約の意思表示をしていることから,「詐欺」 (96条1項)があったと認められる。 3 では,Xは,錯誤無効と詐欺取消しのいずれを優先的に主 張すべきか。二重効の肯否が問題となる。 ⑴ この点につき,両者は,要件効果の点でそれぞれ差異が 存するのであるから,二重効を肯定すべきであると考え る。 ⑵ したがって,Xはどちらの主張もすることができる。 4 したがって,Xは,錯誤無効または詐欺取消しを主張して も,「法律上の原因」がないということができる。 5 以上より,Xの上記請求は認められる。 第二 次に,Xは,Yの債務不履行を追及して,損害賠償請求 (415条本文前段)として売買代金6000万円を請求す ることが考えられる。 本件において,契約の内容となっている眺望をYは履行で きていないことから,「債務の本旨にしたがった履行」がな いといえる。 したがって,Yの請求は認められる。 第三 さらに,Xは,Yに対し瑕疵担保責任を追及して,損害 賠償請求ないし解除による原状回復の一環として,売買代金 6000万円を請求できないか(570条本文,566条1 項)。 1 まず,「瑕疵」とは,当事者間において売買の目的物が通 常有する性状を欠いていることをいうところ,本件では,本 件マンションの眺望が当事者間において契約の内容となって いたことから,「瑕疵」が認められるとも思える。 2 もっとも,右「瑕疵」は,本件売買契約締結時ではなく, その約1年後に生じている。 この点につき,瑕疵担保責任は有償契約の対価的均衡を図 るための制度であることから,「瑕疵」は原始的瑕疵に限ら れるべきである。 したがって,本件では,原始的瑕疵が認められないことか ら,「瑕疵」は存しないといえる。 3 よって,Xの上記請求は認められる。 以 上 10 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 B さんの答案の評価 講義内添削サンプル講義問題採点基準 1 配点 得点 錯誤無効(95)の主張について (15) - ⑴ (3) - 3 3 (12) - 7 5 5 4 請求の根拠について 請求の根拠が,不当利得返還請求であることを示すことができてお り,「法律上の原因」の有無と関連付けて,錯誤無効の主張が記載さ れている ⑵ 錯誤無効の要件について 動機の錯誤の点について,判例理論を踏まえ,自説が展開できてい る 「要素」性,重過失の有無について検討されている 2 詐欺取消し(96Ⅰ)の主張について (9) - ⑴ (3) - 3 3 (2) - 請求の根拠について 請求の根拠が,不当利得返還請求であることを示すことができてお り,「法律上の原因」の有無と関連付けて,詐欺取消しの主張が記載 されている ⑵ 詐欺取消しの要件について 簡潔に要件検討がなされている 2 2 ⑶ 無効と取消しの二重効について (4) - 4 2 説明義務違反を理由とする債務不履行責任について (6) - ⑴ (3) 0 3 0 (3) - 3 1 自説を展開することができている 3 請求の根拠について 請求の根拠が,債務不履行に基づく解除及び原状回復請求であるこ とを指摘できている ⑵ 説明義務違反を理由とする債務不履行責任の成否について 判例理論を踏まえた検討がなされている 4 瑕疵担保責任(570)について (15) - ⑴ (3) - 3 2 (9) - 2 2 7 4 (3) - 2 0 請求の根拠について 請求の根拠が,瑕疵担保責任に基づく契約解除及びそれに基づく原 状回復請求としての売買代金の返還請求であることを指摘できている ⑵ 「瑕疵」の存否について 「瑕疵」の意義について,自説を示すことができている 潜在的瑕疵について,自説を示した上で,本件事案を分析すること ができている ⑶ その他の要件について 「隠れた」(570)の意義を論じることができている 契約の目的を達することができないか否か検討している 5 裁量点 1 0 (5) - 5 2 50 30 主張間のバランス,論理の流れ等 ※錯誤無効の主張と担保責任の追及を双方認めた答案で,その関係につい て触れているものは,裁量点で加点する 合 計 11 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 Cさんの答案 1 本件において,Xは①錯誤(95条本文)無効により契約 が無効であることに基づき6000万円の返還を請求する (703条)②信義則上の義務(1条2項)違反を理由とし た債務不履行解除(541条1項本文)をし,6000万円 の返還を請求する③瑕疵担保責任に基づく契約解除(570 条,566条1項)をし,6000万円の返還を請求する④ 詐欺取消し(96条1項)をし,6000万円の返還を請求 するという法律構成が考えられる。以下,それぞれの法律構 成につき検討する。 2 ①について Xは,眺望のよさがこれからも持続すると信じて本件売買 契約を締結しているところ,これはいわゆる動機の錯誤であ り,原則として錯誤にはあたらない。しかし,表意者保護と 取引安全の見地から,動機が表示されて,意思表示の内容と なった場合には,動機の錯誤も「錯誤」にあたると考える。 本件において,XはYに対して眺望の良さが気に入った旨 を伝えているため,動機が表示されて意思表示の内容になっ たといえる。 そして,眺望の良さが本件マンションの最大の売りである と考えられ,この眺望の良さが失われるとしたら,通常マン ションを購入することはないといえるため,この錯誤は「要 素」の錯誤といえる。 また,別件マンションが建設されるという情報は不動産関 係者が知りえないものであるため,Xに錯誤につき「重大な 過失」があったといえない。 よって,①の請求は認められる。 3 ②について 取引関係に入ろうとしている者らは一般市民間における関 係よりも密接な関係にあり,互いに相手方を不当に害するこ とのないような義務を信義則上負っていると考えられる。 本件では,Yは別件マンションが建設されることを知って いた。それにもかかわらず,Xがこの情報を知れば,購入を やめるだろうと考えられるため,この情報をXに伝えなかっ た。6000万円という高額の売買であるため,Yとしては この情報をXに伝えておくべきであったといえる。よって, YはXを不当に害しているといえ,両者になした信義則上の 義務に違反しているといえる。 よって,②の請求も認められる。 4 ③について 「瑕疵」とは,通常物が有する性質を有していないことを いうところ,それは当事者の契約内容等を考慮して判断され る。 本件では,上記のとおり,本件マンションは眺望の良さが 12 特筆である。そこで,この眺望の良さを,本件マンションが アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 通常有する性質であるといえる。よって,眺望が害されてい る本件においては,「瑕疵」があるといえる。 また,Xは,建設予定を知らなかったし,この情報は契約 当時公のものではなかったため「隠れた」瑕疵であるといえ る。 よって,③の請求も認められる。 5 ④について 上記のとおり,YはXに建設予定の情報をあえて伝えてい ないため,この行為は欺罔行為であるといえる。 よって,④の請求も認められる。 6 以上より,Xは①から④の請求をすることができる。そし て,それぞれの請求の効果,要件は別個のものであるため, Xはどの請求をしてもよいと考えられる。 以 上 13 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 C さんの答案の評価 講義内添削サンプル講義問題採点基準 1 配点 得点 錯誤無効(95)の主張について (15) - ⑴ (3) - 3 2 (12) - 7 4 5 3 請求の根拠について 請求の根拠が,不当利得返還請求であることを示すことができてお り,「法律上の原因」の有無と関連付けて,錯誤無効の主張が記載さ れている ⑵ 錯誤無効の要件について 動機の錯誤の点について,判例理論を踏まえ,自説が展開できてい る 「要素」性,重過失の有無について検討されている 2 詐欺取消し(96Ⅰ)の主張について (9) - ⑴ (3) - 3 2 (2) - 請求の根拠について 請求の根拠が,不当利得返還請求であることを示すことができてお り,「法律上の原因」の有無と関連付けて,詐欺取消しの主張が記載 されている ⑵ 詐欺取消しの要件について 簡潔に要件検討がなされている 2 1 ⑶ 無効と取消しの二重効について (4) - 4 1 自説を展開することができている 3 説明義務違反を理由とする債務不履行責任について (6) - ⑴ (3) - 3 2 (3) - 3 2 請求の根拠について 請求の根拠が,債務不履行に基づく解除及び原状回復請求であるこ とを指摘できている ⑵ 説明義務違反を理由とする債務不履行責任の成否について 判例理論を踏まえた検討がなされている 4 瑕疵担保責任(570)について (15) - ⑴ (3) - 3 2 (9) - 2 2 7 0 (3) - 2 1 請求の根拠について 請求の根拠が,瑕疵担保責任に基づく契約解除及びそれに基づく原 状回復請求としての売買代金の返還請求であることを指摘できている ⑵ 「瑕疵」の存否について 「瑕疵」の意義について,自説を示すことができている 潜在的瑕疵について,自説を示した上で,本件事案を分析すること ができている ⑶ その他の要件について 「隠れた」(570)の意義を論じることができている 契約の目的を達することができないか否か検討している 5 裁量点 1 0 (5) - 5 3 50 25 主張間のバランス,論理の流れ等 ※錯誤無効の主張と担保責任の追及を双方認めた答案で,その関係につい て触れているものは,裁量点で加点する 合 計 14 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 Dさんの答案 第1 1 本件において,XはYに対して,本件マンションの売買契 約(555条)を,Yの瑕疵担保責任により解除(540条 1項)し,売買代金6000万円の返還を求めている。右請 求は認められるか。 2 これに対し,Yは目的物に「瑕疵」(570条)が認めら れないため,本件請求は認められないと主張し得る。ここ で,「瑕疵」の意義が問題となる。 ⑴ この問題に関して「隠れた瑕疵」とは,通常の取引通念 上当事者が知ることができない瑕疵をさすと考える。 したがって,「隠れた瑕疵」とは,買主がその不存在に つき善意,無過失であることをいうと考える。 また「瑕疵」とは,目的物が本来有する性状を有してい ないことをいう。 ⑵ ここで本問についてみると,Xは本件契約後,別件マン ションが建てられ,眺望が完全に阻害されてしまうことに 関して,それが不動産関係者でなければ知りえないような 情報であり善意無過失である。 また,Xは本件マンションからの眺望に契約の重きを置 いており,相場よりも2割程度高い金額を支払って契約を 結んでいることから,さらにYもXに対して本件マンショ ンの最大の売りとして眺望の良さを挙げていることから, 本件マンションからの眺望を完全に阻害されしまうことは 本件マンションの有していた契約時の性状を欠くものと考 えられる。 ⑶ したがって,上記瑕疵は「隠れた瑕疵」にあたる。 3 以上の事情によりXは「契約の目的を達成することができ ない」(570条,566条1項)ため,本件契約を有効に 解除でき,Yは原状回復義務として(543条1項)本件代 金をXに返還しなければならない。 第2 1 また,本問において,Yから,Xが眺望の良さを気に入っ て本件契約をしたことに関し,のちに別件マンションが建 ち,眺望が阻害されてことは動機の錯誤にすぎず,Xは本件 契約を解除できないという主張が予想されうる。 2 では,動機の錯誤は「錯誤」(95条前段)にあたるか。 ⑴ この問題に関して,当事者が契約における重大な要素の 錯誤に陥った場合,取引安全,相手方の保護から無効を認 める同条の趣旨にかんがみれば,意思表示に錯誤が認めら れ,それが要素の錯誤に当たる場合に,「錯誤」にあたり 無効になると考えられる。 ⑵ したがって,動機の錯誤といえども,それが明示的又は 黙示的に表明され,契約の内容となっている場合には無効 としうるとも考えられる。 15 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 ⑶ これを本件についてみると,XはYに対して眺望の良さ から本件契約をする旨を伝えており,また,Yも眺望の良 さを売りとしていることから,契約締結にいたる動機が明 示的に表明され,契約の内容となっている。 ⑷ したがって,上記動機の錯誤は「錯誤」にあたり,Xは 有効に解除を主張し得る。 3 ここで,瑕疵担保責任と契約における意思表示の錯誤が成 立する場合,どちらを優先すべきかが問題となる。 この点,570条の準用する566条3項は,1年間の短 期除斥期間を設けており,取引関係の早期確定の観点から, 570条が95条の特別法のようなものとして優先されるべ きだと考えられる。 したがって,570条が適用され,95条は排斥される。 第3 では,YはXに対し使用利益の返還はできないか。本件契 約後1年間はXが本件マンションを使用収益していたため問 題となる。 この点Xは解除の遡及効により,「法律上の原因」なく使 用収益の「利益」を受け,それに因果関係が認められる(7 03条)。 以 上 16 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 Dさんの答案の評価 講義内添削サンプル講義問題採点基準 1 配点 得点 錯誤無効(95)の主張について (15) - ⑴ (3) - 3 0 (12) - 7 3 5 0 請求の根拠について 請求の根拠が,不当利得返還請求であることを示すことができてお り,「法律上の原因」の有無と関連付けて,錯誤無効の主張が記載さ れている ⑵ 錯誤無効の要件について 動機の錯誤の点について,判例理論を踏まえ,自説が展開できてい る 「要素」性,重過失の有無について検討されている 2 詐欺取消し(96Ⅰ)の主張について (9) - ⑴ (3) - 3 0 (2) - 簡潔に要件検討がなされている 2 0 無効と取消しの二重効について (4) - 4 0 説明義務違反を理由とする債務不履行責任について (6) - ⑴ (3) - 3 0 (3) - 3 0 請求の根拠について 請求の根拠が,不当利得返還請求であることを示すことができてお り,「法律上の原因」の有無と関連付けて,詐欺取消しの主張が記載 されている ⑵ ⑶ 詐欺取消しの要件について 自説を展開することができている 3 請求の根拠について 請求の根拠が,債務不履行に基づく解除及び原状回復請求であるこ とを指摘できている ⑵ 説明義務違反を理由とする債務不履行責任の成否について 判例理論を踏まえた検討がなされている 4 瑕疵担保責任(570)について (15) - ⑴ (3) - 3 2 (9) - 2 1 7 0 (3) - 2 1 請求の根拠について 請求の根拠が,瑕疵担保責任に基づく契約解除及びそれに基づく原 状回復請求としての売買代金の返還請求であることを指摘できている ⑵ 「瑕疵」の存否について 「瑕疵」の意義について,自説を示すことができている 潜在的瑕疵について,自説を示した上で,本件事案を分析すること ができている ⑶ その他の要件について 「隠れた」(570)の意義を論じることができている 契約の目的を達することができないか否か検討している 5 裁量点 1 1 (5) - 5 2 50 10 主張間のバランス,論理の流れ等 ※錯誤無効の主張と担保責任の追及を双方認めた答案で,その関係につい て触れているものは,裁量点で加点する 合 計 17 アガルートアカデミー講義内添削 サンプル講義・民法 18
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