BESTFIRM Magazine24

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マイツグループに見る士業事務所の成長戦略
「身元保証サービス」
から相続へ。
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行政書士・司法書士法人オーシャン
営業スタイルの転換が、
ビジネスモデルを革新する
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The Magazine for Professional Firms
24
JAN.2015
営業スタイ
ルの転換が
ビジネスモ
デルを革新
する
「ビジネスモデル」
。この言葉の意味するところは広いが、こ
と士業においては営業スタイルと同義と言うことができるかも
しれない。事務所によって提供する商品やサービスが変わるこ
とはない。変わるのは営業のやり方だけだからだ。これまでも
多くの事務所が、営業スタイルの転換によって事務所を成長さ
せてきた。まさに、ここにビジネスの源泉がある。
INDEX
独創のアライアンス戦略
ORではなくANDの戦略
士業SENSOR
異端がスタンダードになる日
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特集 革新のビジネスモデル
INTERVIEW
INTERVIEW
RESEARCH
INTERVIEW
SATOグループ・佐藤良雄氏
トリブルグッド税理士法人・実島誠氏
法律事務所の無料相談の " 競争力 "
横浜パートナー法律事務所・藤井総氏
特集
株式会社オーシャン(代表・
黒田泰氏)が主催する第4回
『ブルーオーシャン戦略研究
会』で講演するSATOグ
ループの佐藤良雄氏。背後の
スライドに映るのは、グルー
プのキャリアバンク札幌本社
の所在するビルの外観
革新のビジネスモデル
昨年、船井財団の「グレートカンパニーアワード 2014」を受賞したSATOグループ。その中核となる
SATO社会保険労務士法人は現在、従業員数 4 00名を超え、グループ全体では 1,000 名に迫る勢いで
拡大を続けている。この勢いとスケールは、社労士業界の枠を大きく逸脱した無二のものであり、その成長
と発展は、
士業の常識を超えたビジネスモデルの革新の歴史でもある。今回同グループがグレートカンパニー
アワードを受賞した理由のひとつには、そうした背景がある。では、SATOグループの桁違いの拡大を可
能にしたビジネスモデルの本質とは何か――。グループ代表の佐藤良雄氏に話を聞いた。
独創のアライアンス戦略
SATOグループ(北海道札幌市)
・佐藤良雄氏
磨きあげた、
独自のビジネスモデル
―船井財団グレートカンパニーアワード
2014、『ユニークビジネスモデル賞』の受
賞、おめでとうございます。大企業向けの労
務管理というブルーオーシャンを開拓し、社
労士業界では他に類を見ない規模にまで事務
所を成長させた独自のビジネスモデルが評価
INTERVIEW
ビジネスモデルを磨き上げ、その
を切り拓いたという意味で、大きな意義のあ
成長性や社会的価値を評価された
ることと思っています。まずはご感想をお聞
企業に贈られるものです。
かせください。
このグレートカンパニーの定義
ありがとうございます。実は、 を考えると、皆が同じビジネスモ
ノミネートされたのは今年で3回 デルである士業として、この賞を
目です。しかしながら、2年連続 いただけたということは大変あり
で、受賞までは届きませんでした。 がたいことだと思います。
グレートカンパニーとは、独自の ―かねてから、佐藤代表は「士業には経営が
され、受賞されました。これは士業の可能性
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した中で、この賞を受賞した意味というのは
このような賞をいただくことがで
きたのだと思います。
非常に大きいですよね。
―佐藤代表ご自身は、経営者として、今回の
ない」ということを仰っていましたが、そう
はい。6000 社超の企業と競合
して選ばれるためには、組織の規
模も必要条件だと考えて、今回は
SATOグループ全体で選考を組
み立てていただきました。その意
味で今回は、士業の仕事から顧客
のニーズを集めてグループ会社を
つくり、それでグループ全体を拡
大させてきたというプロセスがユ
ニークだと評価されたのだと思い
ます。
また、SATO社労士法人は社
労士業界では全国トップの規模に
なりますが、業界2位の事務所と
の規模の差が4倍以上離れている
という点も評価されたようです。
それからSATO社労士法人
は、他事務所が目を付けていな
かった、大企業向けの労務管理と
いうブルーオーシャンマーケット
を開拓してきました。
この3つの要因が評価されて、
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れていますが、佐藤代表ご自身は、それを否
定されていますね。
ビジネスを成長させるために必
受賞をどのように受け止めていらっしゃいま
要なのは、グループ内の連携では
すか?
なく、グループ外の企業とのアラ
経営者というのはめったに人か イアンスにあると考えています。
ら褒められないものですが、今回、 そして、そのときに大事なことは、
第三者の客観的な評価をいただけ 顧客にとって最適な組み合わせを
たことはとてもありがたいことと 考えることです。
―「顧客にとって最適な組み合わせを考える
思っています。
経営者として誰よりも神経を使 こと」というのは、頭では理解できますが、
い、誰よりも努力し、激しい競争 実践となると、何から始めていいのか分から
を勝ち抜いてきた。ここで言う競 なくなります。今回は、そのアライアンス戦
争とは、同業者間の競争もそうで 略について詳しく教えてください。
すが、消費者やユーザーのニーズ
との競争も意味します。厳しい選
に転換した
択眼を持っているお客様から評価 「訪問型」
をいただけなければ、競争は勝ち 営業スタイルがベース
抜けないからです。だから、そう
した評価は、大変ありがたいこと ―まず始めに、開業当初のお話をお伺いしま
す。当時は、どのような戦略でビジネスを成
と思います。
―グループ内に給与計算と人材派遣の上場2
長させてきたのでしょうか?
社があって、社労士法人を中心にした士業と
私は開業当初は、札幌で行政書
士事務所としてビジネスをスター
トさせていますので、顧客から顧
企業のビジネスを融合させたこと。これが貴
グループの拡大の源泉だと一般的には理解さ
客を紹介してもらうことがベース
になります。当然、紹介元となる
顧客との人間関係を先につくって
おくことが前提になります。
当時は事務所で顧客を待つスタ
イルの事務所がほとんどでしたか
ら、
「訪問型」の攻めのスタイル
にすることで顧客を増やすことが
できました。
自分ひとりで営業をしていた頃
には、工務店の社長と仲良くなっ
て、その工務店に出入りする業者
を紹介してもらっていました。紹
介してもらった次の日には、その
人たちを訪ねていくんです。当時
は集金が一般的でしたから、集金
日に工務店に居れば一網打尽でし
たね(笑)
。
同じ考えで、金融機関の支店長
からは新設会社を、警察署からは
風俗関係の会社を紹介いただくよ
うになりました。
れるかどうかでしょう。あとはコ
ミュニケーション力と、その中で
の提案力に尽きます。相手のニー
ズと自分のニーズが合致するとこ
ろを見つけて、それを繋ぐだけで
す。
多くの人はコミュニケーション
と言うと、
「昨日のジャイアンツ
は強かったね」というような話を
しています。そういう人には、残
念ながら一生かかってもビジネス
チャンスは生まれません。なぜな
ら、情報発信をしていないからで
す。
ン力でどうやって組む相手を見つけていくか
―情報発信をすることで、きっかけをつくる
―普通なら自グループ内のアライアンスを優
ことができるということですね。
先して、ワンストップ型でサービスを提供す
ると思うのですが、そうではないということ
何が必要なのでしょうか?
コミュニケーションをとるのは
目的を達成するための手段に過ぎ
ないのに、多くの人はそれを目的
としてしまいます。コミュニケー
ションの中に、相手のニーズを引
き出す仕組みを持っているかどう
かを『コミュニケーション力』と
言うんです。
それは、最初のきっかけがつく
―なるほど。では、そうしたコミュニケーショ
―紹介をいただくまでの関係性を築くには、
を知りたいのですが、貴グループがユニーク
なのは、そのアライアンス先が同業者だった
り、まったく異なる業種の企業だったりと、
相手を問わないことですね。
例えば、自グループ内の会社で
あっても、それが組む相手として
最適な存在だとは限りません。弊
グループにはエコミックという給
与計算の会社がありますが、SA
TO社労士法人が組んでいる最大
のパートナーは、エコミックの競
合相手であるペイロール(東京都江
東区)です。
ですか。
それでは、競争力がつきません。
会計事務所のグループ内に社労士
や行政書士事務所を併設している
ところは多いですが、それらは、
会計事務所のサービスが多様化し
ただけです。みんなで会計事務所
の顧問先をお客様にしているだけ
船井財団の主催する第5回グレートカンパニーアワードで、士業として初めてユニークビジネスモデル賞
を獲得したSATOグループ。写真左は8月に行われた授賞式の様子。右は表彰盾
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ですから、このパターンを作って
しまうと、外部と競合したときに
勝てる競争力を持つことはありま
せん。
「中小企業向け」
市場で、
ついに全国展開を開始
―アライアンス戦略に関連して、グループ下
のもうひとつの社労士法人である日本社会保
険労務士法人では、大きな動きが進んでいる
ようですね。
6拠点を中心にした全国ネットワークで全国
展開を狙うというものです。
「業界トップがつ
いに動いた」というインパクトを感じている
のですが、いかがでしょうか。
私にとっても、日本社労士法人
で現在進めているマーケティング
は、SATO社労士法人で大企業
向けのマーケティングを始めたの
と同じぐらい、革新的なものだと
思っています。しかし、まだまだ
始まったばかりで、これから多く
の試行錯誤が必要でしょう。
―こちらも他業種とのアライアンスが核に
昨年の夏に始まったばかりで、 なっているようですね。
本格的な動きはまだこれからで ひとつは、全国の金融機関に
す。
サービスを提供している企業。も
―こちらは、大企業向けの手続きに特化した
うひとつは、全国の中小企業にイ
SATO社労士法人とは異なり、中小企業向
ンフラを提供している業界シェア
けの労務サービスを提供する事務所です。分
トップの会社です。どちらも全国
かりやすく言えば、多くの社労士事務所と競
展開のサービスですから、我々も
合するサービスです。そして、グループ下の
全国でサービスを提供できる体制
を作らなければいけません。
今、動き出しているのは、全国
ネットワークを作って、ネットで
コンテンツを提供して、組んだ先
の金融機関と現地でセミナーを開
催して、コールセンターからアプ
ローチをするという、プル型に
プッシュ型を上乗せした営業モデ
ルです。今はこのモデルを突き詰
めて、土台を築いていくようなこ
とを行っています。ただ、今のと
ころコールセンターが問題で、思
うように顧客にアプローチができ
ていません。
―アライアンス先は誰もが知る企業達で、メ
ガバンクから地銀までのネットワークがあ
り、それから中小企業への影響力を持ってい
ます。このサービスモデルが完成したら、地
方の事務所にとっては大変な脅威となるので
はないでしょうか。
脅威ということではないと思い
「お客様によっては、コスト面でアウトソーシングしたいというニーズもありますし、会社で使っているシステムをどうにかして利用できないかというニーズ
もあります。多くの案件を扱ってきたので、そうしたニーズやコストに合わせて我々が提案できる引き出しが増えてきていると思います」と話すのは、SAT
O社会保険労務士法人で営業を担当する上道伸稔氏。今まで多くのアライアンスの接点となってきた
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ます。お互いに切磋琢磨しあえる
関係になればいいと私は思ってい
ます。重要なことは、顧客にとっ
て最適なサービスを提供できるか
どうかです。私は同業者と争う気
持ちはまったくありません。
これが上手くいくかどうかは分
かりませんが、挑戦するのは私た
ち、選ぶのはお客様です。
―なるほど。日本社労士法人の今後の展開に
目が離せませんね。
顧客にとって最適な
アライアンスを組む
―SATO社労士法人に話を戻しますが、現
在のアライアンス先は、何社くらいあるので
すか?
機能している数で言うと、10
社くらいはあると思います。今
は企業側でバックオフィス業務
をアウトソーシングするBPO
(Business Process Outsaucing)の機運
が高まっていますから、組み先は
まだまだ増えていくと思います。
繰り返しますが、その相手を探
すときに最も重要なことは、
「顧
客にとって最適な組み合わせを考
える」ということです。
多くの士業事務所では、アライ
アンスを組む相手は “ 自分にとっ
て ” 最適な組み合わせになってい
るように思います。自分にとって
の最適化を求めると、本業とは別
の士業をグループに入れて、その
グループの中で業務を回すことで
売上を増やそうというかたちにな
ります。
こうして多くの事務所が総合事
務所化、ワンストップ化の方向に
走っていますが、これはお客様に
とっての最適化ではないと、私は
思います。
私は経験上、このやり方では上
手くいかないとわかったので止め
てしまいました。グループの中に
ぶらさがっているような組織に
は、競争力が付きません。
にとって最適だと思うからです。
普通の経営者であれば、同じグ
ループのエコミックとだけ組ん
で、共同でセミナーをやって、一
緒にお客様を開発するということ
をするでしょう。しかし、お客様
にとっては私たち以外にも選択肢
がたくさんあるのですから、それ
らを含めた最適の組み合わせの中
で、サービスが提供されていくと
いうのが目指すべき姿だと思いま
す。
―単体で他事務所と競合して、勝てる組織を
―なるほど。貴グループは、顧客にとっての
つくるべきだということですね。
最適化をテーマにして、妥協せずにアライア
ぶらさがっている組織を自立さ
せるには、自由にやらせることで
す。グループ内で顧客を共有しな
いで、自力で営業できる商品と拡
大できる社員、それとマーケティ
ング手法を作っていくことが重要
です。
ンスをつくってきたからこそ、他事務所とは
―独自で、自分たちの顧客にとって最適なア
ライアンス先を見つけて組むべきということ
ですね。
だから、エコミック(SATOグ
ループ下の給与計算会社)にもグルー
プの社労士法人を使っていないお
客様はたくさんいます。でも私た
ちは、それが当たり前だと思って
いますから、誰も文句は言いませ
ん。逆に社労士法人の方でも、お
客様の給与計算についてはエコ
ミック以外の会社と組んで行って
いることも多いです。その分野に
おいて自社が一番の “ 顧客最適 ”
ではないならば、ほかの会社また
は事務所に依頼することがお客様
アライアンスが、
“ 自分にとっての” 最適な組み合わせになっていないか?
特集 革新のビジネスモデル
スケールの違う拡大ができたのですね。
お客様の中には、全部一ヶ所で
やってもらえるワンストップ型の
サービスが便利だと言う人もたく
さんいます。ですから、それはそ
れで正解だと思います。ただ、私
たちは、それがお客様にとっての
最適化ではないと思っています。
もちろん、必ずしも私のやり方
が正しいと言っているわけではあ
りません。サービスを提供する方
法として、選択肢がたくさんある
中で、私はこういうやり方を選ん
でやっているというだけのことで
す。どちらを選んでもいいと思い
ます。
ただ大事なのは、進む道を決め
たらそれをやり切ることだと思い
ます。
―なるほど。とても勉強になりました。本日
はありがとうございました。 (朝河さくら)
SATOグループ
北海道札幌市。代表・佐藤良雄。1977 年、
行政書士佐藤良雄事務所を開業。2004 年、
行政書士事務所と社労士事務所を法人化、東
京へ進出。社労士業界では未開拓の分野だっ
た大企業の労務管理業務で顧客を拡大。
現在、
社労士法人は全国一位、行政書士法人は全国
三位の規模に成長している。他にも人材派遣
のキャリアバンク、給与計算のエコミックを
上場させるなど、グループ内で9つの法人を
運営している。現在グループ全体の従業員数
は約 1,000 人。
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