研究計画・方法

特推2-4-(1)
研究計画・方法
本欄には、研究目的を達成するための具体的な研究計画・方法について、平成26年度の計画と平成27年度以降の計画に分
けて、適宜文献を引用しつつ焦点を絞り、具体的かつ明確に記述してください。ここでは、研究が当初計画どおりに進まない時
の対応など、多方面からの検討状況について述べるとともに、研究計画を遂行するための研究体制について、研究分担者ととも
に行う研究計画である場合は、研究代表者、研究分担者の具体的な役割(図表を用いる等)、学術的観点からの研究組織の必要
性・妥当性及び研究目的との関連性についても述べてください。
また、研究体制の全体像を明らかにするために、連携研究者及び研究協力者(海外共同研究者、科研費への応募資格を有しな
い企業の研究者、その他技術者や知財専門家等の研究支援を行う者、大学院生等(氏名、員数を記入することも可))の役割に
ついても記述してください。
なお、研究期間の途中で異動や退職等により研究環境が大きく変わる場合は、研究実施場所の確保や研究実施方法等について
も記述してください。
本研究では、反電子ニュートリノ反応(n e + p → e + + n )の際に
発生する陽電子と中性子を同時計測することによって、真の反電子
ニュートリノ反応を同定する。中性子の信号を捉えるためにガドリ
ニウムを 0.1%の濃度でスーパーカミオカンデタンクに溶解させる。
(ガドリニウムは化合物として溶解させるが、具体的には硫酸ガド
リニウム(Gd2(SO4)3)を 0.2%で溶解させる。ガドリニウムは中性子
の捕獲断面積が非常に大きい物質であり、0.1%の Gd 濃度でも 90%
の効率で中性子を捕獲できる。中性子がガドリニウムに捕獲される
と総エネルギー8MeV のガンマ線が放出される。スーパーカミオカン
デは水中で荷電粒子が発するチェレンコフ光を 11000 本の 20 イン
チ光電子増倍管によって捉える装置であるが、陽電子が発生するチェレンコフ光と Gd 捕獲ガンマ線
が発するチェレンコフ光とを別々の事象として観測する。これらの事象は時間的には約10マイク
ロ秒差でおこり、それぞれの事象の発生点は50cm以内に再構成されるため、これらの事象の時
間的、空間的な相関をとることによってバックグラウンド事象を4ケタ以上落として、年間数事象
しかない超新星背景ニュートリノを観測できるようになる。ガドリニウムをスーパーカミオカンデ
に導入するためには、溶解させるための「Gd 溶解装置」の建設、溶解後に Gd 水を循環させて水の透
過率を保持するための「Gd 水循環装置」の建設、スーパーカミオカンデから Gd 水が環境へ漏れ出す
ことが無いようにタンクの水密化工事、データ解析の準備をおこなう必要がある。以下、平成26
年度、それ以降に分けて具体的な研究計画・方法を示す。
平成26年度
(1) Gd 水循環装置の詳細設計を行う。右図に装置の
基本的な設計概念を示す。ガドリニウムは3価のイオ
ンであるため、原子サイズが適度に大きく、
UltraFilter(UF)は透過するが、NanoFilter(NF)は、
透過しない。そこで、右図のような水の流れを作ると
ガドリニウムを保持したまま、サイズの大きな不純物、
サイズの小さな不純物は処理をすることができる。こ
の基本概念は試験用タンクを使って実証しており、そ
の結果をもとに右下図のような概略システム設計がす
でにできている。平成26年度はこれをもとに詳細設
計をおこなう。
(2) スーパーカミオカンデタンクを水密化するため
の準備をおこなう。スーパーカミオカンデタンクは現
在、1日当たり1トン程度の水漏れがあり、超純水で
実験を行っている限りは問題とならないが、ガドリニ
ウムが入った場合には環境へガドリニウムを逃さない
ようにするために水密化する必要がある。その手法は、
タンクの水を抜きながら、タンク内面の溶接個所に止
水用のエポキシ系の樹脂を塗布していく。具体的な作
業は平成27年度以降になるが、なるべく短い期間で
作業が終えられるように作業工程の検討を平成26年
度に行う。
(3) Gd 溶解装置の詳細設計をおこなう。Gd 溶液は、
硫酸ガドリニウム(Gd2(SO4)3)粉末を水に溶かして作るが、その溶解速度をもとに必要とされる
装置の規模を見積もり、詳細設計をおこなう。
特推2-4-(2)
平成27年度以降
(1)平成26年度に作成した詳細設計に基づき、Gd 水循環装置の建設、設置をおこなう。
(2)スーパーカミオカンデの水を排水しながら、水密化するための工事を行う。このためには他
の研究とのすり合わせをしながら、作業時期を決定する。
(3)水密化工事後、純水を満たしてしばらくの期間純水循環をおこないタンク内の洗浄を行う。
(4)Gd 溶解装置の建設をおこなう。
(5)タンク水の透過率をモニターしながら、徐々に Gd2(SO4)3 を溶解させる。
(6)スーパーカミオカンデ検出器のエネルギー較正をおこない、また中性子線源を用いて、Gd に
よる中性子捕獲効率の較正、Gd 捕獲ガンマ線の検出効率を求める。
(7)長期データ取得をおこない、超新星背景ニュートリノのデータを収集する。
(8)データ解析プログラムを最適化し、バックグラウンド除去効率をあげる。
(9)中性子の放出をともなうバックグラウンド(具体的には、原子炉ニュートリノからのバックグ
ラウンド、宇宙線の核破砕によって生まれる 9Li)の見積もりをおこなう。
(10)データ処理をおこなって、超新星背景ニュートリノ事象を取り出し、バックグラウンドの
見積もりを差し引いて、ニュートリノ強度、エネルギー分布を求める。
本研究は以下の研究組織のもとに推進する。
スーパーカミオカンデタンクの水密化(小汐(研究分担者)、岸本(連
携研究者)
)
研究の総括
(中畑(代表者)
)
Gd 水循環装置の設計、建設(M.Vagins(連携研究者)、池田(連携研
究者)
、研究員(新規雇用))
Gd 溶解装置の設計、建設(関谷(連携研究者)、研究員(新規雇用))
ガドリニウム中の不純物測定(竹内(連携研究者)、作田(連携研
究者)
、Luis Labarga(研究協力者))
水の透過率の測定(M.Smy (研究協力者))
中性子バックグラウンドの評価(Lluis Marti(連携研究者))
超新星バースト早期発見プログラム開発(石野(連携研究者))
データ取得、キャリブレーション(研究員(新規雇用))
データ解析(全員)