シロナガスタジラ ・ マッコウクジラ ・ シャチを対象とした調査報告

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シロナガスクジラ・マッコウクジラ・シャチを対象とした調査報告
写真撮影を用いた個体識別の有効性について 1994-2000年
荻野友希・荻野みちる
国立科学博物館友の会 干 1
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8東京都台東区上野公園72
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ちと体の配色の濃淡模様で個体識別が可能であ り、地道
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な写真撮影の継続により個体群の把握、回避ルー トな ど
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が少しずつ明 らか になることが期待できた。 またこ の 7
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年間にシロナガス クジラ の個体識別は もとよ りシャチ、
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クジラ、ハ ン ドウイルカな ども同様に写真撮影を行い比
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較検討した結果、シロナガス クジラ同様に個体識別が可
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能であり非致死的調査として有効である と確認 した
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こでは シロナガスクジ ラに加えマ ッコウ クジラ、 シャチ
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についてシロナガスクジラを目撃した海域にいた ことか
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らあわせて報告する。
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写真撮影、ビデオ撮影を用 いた個体識別を行い、クジ
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け多くのことを知る。また、日 本近海は もとより 北太平
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方
はじめに
法
私たち 2名で写真撮影、ビデオ撮影を分担し 、観察 し
1994年からは じめた写真撮影を用いた個体識別の調査
た日時、緯度経度、天候、温度、風向き、クジラ の頭数、
は、今年2000年にな って 7年目を迎え る
。 生き ているク
特徴などをでき るだけ詳細に記録した。 また シロナガス
ジラについて 当初あてもなく始めた個人レベルでの調査
クジ ラはもとよ り、他の種に関しでもそれぞれ種別に記
は、いつ にな った ら科学的にも有効なデータとな るかは
録し観察後比較し個体別に分けた。シロナガスクジラに
確信も ないま ま
、 とにかく自分たちの手でやれるだけの
おいては北半球のあらゆる海域で、シャチ、ザ トウクジ
事をや ってみようと 無我夢中の 7年であった。 当時日本
ラ、コククジラ、マッコウ クジラ 、ゴン ドウクジラ、ハ
国内では四国のニタ リクジ ラの戸籍簿づくりが知ら れて
ン ドウイルカについて、北太平洋ア ラスカか ら南はメキ
お り、海外ではカナダのブリテ ィッシ ュコロ ンビア の定
シコ沖までを対象と して行った。
住性 シャ チの個体識別が有名であった。前報(荻野
、 1
9
1i
1i
荻野友希・荻野みちる
観察結果
親子がおり、入り混じ って泳ぐ こともある。
1
観察結果
シ口ナガスクジラ
1
. 個体識別
シロナガスクジラについては、からだの背びれを中心
マッコウクジラ
2
マ ッコウクジラは、からだの表面がでこぼこ しており
とした右、左のわき腹の色素形成を比較することにより
大きな頭が特徴的である。海上では左上に上がる潮吹き
998
;1
9
9
9)
個体識別が可能であることを前報(荻野ら、 1
で種の同定は容易である。オス の噴気は大変高く、勢 い
で述べたが、頭部の斑模様の濃淡がややはっきり しない
があり濃厚であるが、メスは斜めに上がる噴気がオスに
個体もいる。また、からだ全体のはけでなすったような
比べて弱い。平均 2
0回以上の呼吸の後、尾びれを上げて
ブルーグレーの色素形成の模様もいくつかのパターンに
直角に潜っていく。海面下に潜ると平均4
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分も 浮上しな
分かれている(S
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) またからだ全
い。群れでいる ことが多い。繁殖個体群と思われる私た
体のブルーグレーの体色もそれぞれ濃いもの、 うすいも
ちが目撃した群れの大きさは時には 1
0
0
頭以上また 5頭
のに分類できる事を確認した。同じ個体が数年後に目撃
から 1
5
頭の時もある。群れには子クジラがおり、また妊
されたときに同じ色素形成をしており 、体の柄が変わら
娠していると思われる個体もいた。親子と思われる 2頭
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のクジラは、寄り添うように泳ぎ、時折、子どもは母親
認した。背びれがないもの(写真 1)、尾びれが半分な
の脇を左右交互に潜ったりする。子 どもも小さ いながら
いもの(写真 2)など、大きな傷を負っていた個体の場
尾びれを上げて潜ることがある。背びれは山型ででこぼ
合には、傷は治っているものの失われたからだの一部は
こし、尾びれ近くまで続いている。体色にはいく つかの
再生できないので個体識別の対象になるが、クッキーカ
パターンがあり、真っ黒いもの、茶色系のものまた緑が
ッターシャ ークにかまれたような傷や、着生生物がつい
かっているもの、時折濃いグレーのものもいる。からだ
ていたと思われるような後の傷は、きれいに治ってくる
に大きな傷を負いからだの一部が白く 剥げて いる ような
とまた前と同じ色素形成ができていることがわかる(写
個体も目撃することがある。子クジ ラがシャチに襲われ
真 3)
。着生生物は、着生生物自体が死んでしま った場
て傷だらけにな っているところも 目撃し た。
マ ッコウクジラは、尾びれの裏の写真を比較すること
合、剥がれ落ちるときがある。同じ個体でも海域により
着生生物のついている時とついていないときがある の
により個体識別が可能である(写真 6
. 7)。からだの
で、フジツボ(写真 4)やぺンネラ(写真 5)などの着
体色や背びれの形は比較の対象にはならない。しかし、
生生物は個体識別の対象にはならない。またシ ロナガス
からだに負った深い傷や表皮が脱落し白くな ってし まっ
クジラは、尾びれの形にも個体差があり、写真撮影により
た個体は、数年後にも同じ傷が残っ ており、識別 の対象
識別に有効である。シロナガスクジラは同じ個体であっ
になる。また着生生物は認められない。過去 7年間の調
ても尾びれを上げて潜るときと尾びれを上げないときが
査により 1
9
9
8年 (
写真 8
)と 2
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0
0年 (
写真 9)に同じ個
ある。
体が同時に同じ海域で一緒に泳いでいる ところを確認 し
たので、群れで行動することおよび同じ海域に回避も し
くは定住している可能性がある。 また、これらのマ ッコ
2 母子クジラ
シロナガスクジラの場合、生後約半年ほどで子クジラ
ウクジラ群が生息する海域ではイカの大群を確認 した。
は母クジラと別に生活するようになり別々でいること
イカの胃内容物には、シロナガスクジラが捕食 してい る
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7)が確認できた。母クジ
オキアミが確認できた。 写真撮影を用いた個体識別によ
ラは子ども連れでも餌を食べていることは前報(荻野ら 、
り個体群のおおよその数や同 じ群れがどのように移動 し
1
9
9
8
;1
9
9
9)でも述べたが、成体と思われるシロナガス
クジラと子クジラと思われるクジラが、 一緒に泳いでい
ていったかを知ることができる。観察後の写真照合の結
果、一度に閉じ海域に 1
0
0
頭以上いたこと も確認でき た
。
たとしても親子である決め手は目視調査でははかり知る
特に、マ ッコウクジラは群れでいること、い ったん潜る
ことは難しい。 2
頭が数日また数 ヶ月の問、別の日にも
と平均40
分 も浮上してこないことなどから、群れの規模
一緒にいた場合に写真撮影による個体識別を行い、親子
を知る上でもこの写真撮影が有効である。 この調査は、
である可能性が高いと確認できる。母クジラではない個
北半球だけでなく過去ニュ ージーランドでも行ったが、
体と l日過ごすこともある。 また同じ海域に同じよ うな
同様に有効であ った
。
内
4
1i
シロナガスクジラ・マッコウクジラ・シャチを対象とした調査報告
写真 l 背びれがなくなってしまっているシロナガスクジラ(撮影
写真 2 尾びれが半分欠けているシロナガスクジラ(撮影
写真 3 傷の下にもすでに濃淡の色素形成ができている (
撮影
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写真 4 背びれに着生 したフジツボのなか ま (
-13
荻野友希)
荻野友希)
荻野友希)
荻 野友希)
荻野友希 ・荻野みちる
写真 S クジラの体表に着生しているペンネラ(撮影
荻野友希)
写真 6 ・7 マッ コウクジラの尾びれの裏には個体差がある(撮影荻野みちる)
写真 8 ・9 1
9
9
8年と 2
0
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0年に目撃した同ーと思われる個体(撮影
-14-
荻野友希)
シロナガスクジラ ・マッコウクジラ・シャチを対象と した調査報告
写真 1
0・1
I シャチの背びれとサドルパ ッチには個体差がある(撮影
写真 1
2 シャチの家族
荻野みちる)
一頭一頭識別でき、戸籍簿がつくられている(撮影荻野みちる)
写真 1
3 1
9
9
9年北海道浜名町 シャチの背びれ(撮影
荻野みちる)
写真 1
4 1
9
9
5年生まれのシャチの背びれ、サ ドルパ ッチがまだない(撮影
-15一
荻野みち る
)
荻野友希 ・荻野みちる
写真 1
5 カマイルカを襲っているシャチの家族(撮影
荻野みちる)
写真 1
6 1
9
9
8年山 口県油谷湾に迷入したマ ッコウクジラ(写真提供
瀬戸浩幸氏)
写真 1
7 1
9
9
9年北海道浜中町にライブス トランデ、ィングしたシャチ(写真提供
津辺利美氏)
。
向
よ
唱E
シロナガスクジラ・マッコウクジラ・シャチを対象と した調査報告
観察結果
ている。そしてシロナガスクジラ の情報は各国の研究者
3
に提供し共に彼らについての科学的データ収集に努めた
い。写真照合結果については次回報告する。
シャチ
シャチの写真撮影による個体識別は 1
9
9
4年から 2000年
あわせて報告したマッコウクジラ、シャチはシロナガ
まで、行った。シャチは、カナダにおける写真撮影を用い
スクジラに比べて目撃例も多くこ の 7年間でも っとも多
た戸籍簿が有名であるが、毎年アラスカでも目撃するこ
くの情報を得た。共にシロナガスクジラ同様、写真撮影
とができ、外洋性のシャチはカリフォルニア沖やメキシ
による個体識別が可能である ので生息海域、また個体群
コ沖で も群れでまた時折一頭で目撃された。シャチは背
の規模や移動ルート、生態を知る上で有効である。日 本
びれのかたち、背びれの後ろにあるサドルパッチの柄に
国内でも今まで日本海ではマ ッコウ クジ ラはいな いとさ
特徴があるので、写真撮影を用いた個体識別が可能であ
れていたのが、 1
9
9
8年と 1
9
9
9年に日本海山口県でもマ ッ
る(写真 1
0、 ll
、1
2)
。シャチは子どもの場合、特に 生
コウクジラ の迷入 (写真 1
6)があ り、今後の調査が期待
3
, 1
4)
、また
まれて数年はサドルパッチがなく(写真 1
できる。また シャ チについても、日本では目視例やスト
背びれのかたちが成長に伴い著しく変わるので、写真の
9
9
9年 5月には
ランデイングレコードが少なかったが、 1
戸籍簿に成体になってからの写真が必要である。定住性
北海道でライブストランデイング(写真 1
7
、
) 2000年 2
のシャチに加え外洋性のシャチについての個体識別も可
月には名古屋で迷入があったこと から今後の目視調査が
能であることが確認されており、生態を知る上で有効で
期待できる。
ある。シャチは群れで行動しており、時折オスが一頭で
謝辞
いるところを目撃することがある。目撃 した群れの中に
7年間そして現在も我々の研究活動を支援してくれて
は子ク ジラも混 じって いる。また我々の調査の中で 1
9
9
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年にカナダ、ブリティッシュコロンビアのジョンストン
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海峡においてシャチの群れが、追い込んで海面に浮かび
また多くの海外研究者,協力者に感謝 申し上げると共に、
上がったシャケの群れをそのままにして、集団でカマイ
日本海セトロジ一研究会平口哲夫代表、日本鯨類研究所
ルカを襲ったのを目撃した(写真 1
5)。個体識別の結果、
の石川創先生、国立科学博物館の山田格先生、 倉持先生
このシャチの群れは定住性の A ポ ッ ドの家族であ るこ
にお忙しい中ご指導賜りましたこ とを心より感謝 申し上
とを確認した。魚しか食べないと言われる定住性のシャ
げます。
チもイルカを襲うことがある。個体識別によりこのシャ
文献
チの身元がわかり彼らの生態を知る上でも有効であ った。
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我々の調査はまだまだ序の口を脱していない。目視調
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査には長い年月が必要であり、個体識別による調査には
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査により、個体識別した写真はクジラたちのことを知る
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上で重要な情報を提供することを確信できた。クジラを
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傷つけたり文明の利器を使 って虐待することをしない
荻野友希・荻野みちる. 1
9
98. シロナガスク ジラの写真
で、生きている彼らを少しずつであるが知ることができ
撮影を用いた調査報告. 日本海セトロ ジー研究グルー
る。商業捕鯨禁止後、絶滅危倶種として世界中で厳しく
プ第 9回研究会発表要旨集 P
2
0
.
保護されているにもかかわらず、シロナガスクジラの生
荻野友希・萩野みちる. 1
9
9
9
. パハカリフォルニアのシロ
息数回復は決して良いとはいえない。また、 1
9
9
9年に日
ナガスクジラを対象とした写真撮影、目視調査の報告.
本国内市場にシロナガスクジラの肉が出回ったことが公
日本海セトロジー研究会第 1
0回研究会発表要旨集 P
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表さ れたが(Baked9
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) 密機、に しろ何か理由があるに
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しろ先進国日本として世界遺産に等しいシロナガスクジ
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ある。彼等が生き残ることができる のか我々 人間がいつ
絶滅するのか図り知ることはできないが、 シロナガス ク
ジラの生息数回復を願いつつ共存していけることを願っ
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今−