art 機械仕掛けの見世物小屋 ――ジルベール・ペールのアトリエから

http://www.roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=724 2015/10/21号 Vol.184(1/2)
"Gilbert Peyre, l'Inventeur d'un spectacle au goût forain"
Interview de l'artiste "électromécanomaniaque" par Kyoichi Tsuzuki" - Roadsiders - 19/09/2015
Traduction : Yûki Takahata (réservé aux abonnés)
Kyoichi Tsuzuki est rédacteur en chef du magazine web "Roadsiders", destiné aux abonnés japonais.
Egalement photo journaliste, il est collectionneur de l'art populaire. Invité à Paris par la Halle SaintPierre en septembre dernier, il expose sa collection de bannières Misemono Goya dans "HEY! modern
art & pop culture/ Act III". Il avait déjà vu l'installation de Gilbert Peyre dans "HEY! Act II" en 2013 et
fortement impressionné, a souhaité cette fois-ci, présenter au public japonais plus de 20 ans du travail
original de Gilbert : sculpturOpéra, sculptures animées, installations… Il est venu à son atelier
d'Aubervilliers pour l'interviewer longuement, afin de faire partager (un peu) des rêves fous et
l'imagination excitante de Gilbert Peyre.
art
機械仕掛けの見世物小屋
――ジルベール・ペールのアトリエから
「豚の王様 Le Roi Cochon」1992-2000 photo: David Damoison
先週まで2週にわたって、パリのアル・サンピエールで開催中の展覧会『HEY! ACT
III』についてお伝えしてきた(『モンマルトルのベガーズ・バンケット
前・後編』)。60名以上によるビザールでエネルギッシュな作品が展示されている中で、ひとき
わ奇妙なユーモアを漂わせ、動きのある作品を出展していた数少ない作家がジルベール・ペール
。1947年生まれ、みずからを「エレクトロメカノマニアック=電気機械マニア」と呼ぶ、風変わ
りなフランス人アーティストである。
「小さい女の子 La Petite Fille」2015
今回アル・サンピエールで展示されている最新作。「ママン・・」と繰り返しながら、両脚のあいだから血を流
す。背が伸びると今度は「一緒に遊びたい?」と誘いかける
モビールで知られるアレクサンダー・カルダーやジャン・ティンゲリーに連なる、メカニカルで
軽妙なキネティック・アートの継承者といえるジルベール・ペール。2013年に同じアル・サンピ
エールで開催された『HEY! ACT
II』で初めて彼の作品に接したとき、最初に思い浮かべたのはハービー・ハンコック/ゴドレイ
&クレームによる不朽の名作PV『Rockit』のメカニカル・アートを手がけたジム・ホワイティン
グだった。ただ、ジム・ホワイティングの『Rockit』がいかにも英国的なアイロニーを色濃く滲
ませているのに対して、ジルベール・ペールの作品は不気味でビザールな中にも、淡い暖色のユ
ーモアが潜んでいるようでもあった。
現代美術でもあるけれど、機械による演劇でもあり、スペクタクル=見世物でもある彼の作品に
、これまで日本ではほとんど接するチャンスがなかった。今週はパリ郊外のアトリエを訪ね、イ
ンタビューを交えながら過去20年以上にわたる作品群を紹介してみたい。
パリ市内中心部からクルマで30分弱の郊外にある集合アトリエ
集合アトリエの入口ではまるでバラバラな作風の絵を集めた路上展が開かれていて、聞いてみたら蚤の市などで
買い集めた絵画を収集して、そのまま展示しているそう!
パリ市内の家賃高騰に伴って、郊外にある工場や倉庫跡をシェアするアーティストが増えている
が、今回訪ねたパリ郊外オベルヴィリエ市にある共同アトリエもそのひとつ。もとは家具保管所
だったという巨大な建物を、18人のアーティストが共同で改修、管理しながら使っている。ペー
ルさんを訪ねた日はちょうどアトリエ公開日にあたっていて、広々とした中庭にはカフェが設置
され、なごやかな雰囲気が漂っていた。
2区画を使っているジルベール・ペールの作業場
全面ガラス張りで明るい入口から内部を見渡す
ジルベール・ペールは南フランスのアルプ・ド・オート・プロヴァンス県生まれ。1977年から作
品制作を始めたというから、アーティストとしてスタートしたのがちょうど30歳になるころだっ
た。
生まれたのは南フランス(プロヴァンス)だけど、パリにはもう40年前近く住んでる。小さいこ
ろから手を動かしていろいろ作るのが大好きで、おもちゃはぜんぶ、いちど分解して組み立てて
た。貧しくてあまりおもちゃがなかったから、自分で作ったりもして。
住んでいた村は冬になると人口が500人くらいになってしまう田舎で、楽しみといえばたまに巡
業の興行が来るくらい。それが村にとっての大イベントで、子どもにはちょっと怖くもあったけ
ど、すごく興味をそそられた。たとえば、ある男がやってきて、広場に集まれって村中に宣伝し
て歩く。行ってみると、石と縄が置いてある。男は自分のからだに縄を巻きつけて、村の人たち
引っ張ってみろって言う。でも、どんな大男たちが引っ張っても、その男は頑として動かない。
それから石の上に横たわって、腹の上にもうひとつ石を置いて大ハンマーでぶっ叩いてみろって
言うんだね。それで石が割れても、男は平気な顔をしてて。
デスクエリア
棚に置かれたパーツのいろいろが、すでに興味深い
ティーバッグを集めたオブジェを制作中
こちらはティーバッグのすだれ
そういう見世物もどんどん減ってると思うけど、そのときの記憶がすごく印象に残ってたので、
いちどだけ自分でも路上の見世物をやったときに取り入れたことがある。ただし引っ張られるの
を男じゃなくて女にして、両側から引っ張ると腕がぱっと抜けちゃって、血がばーっと噴き出る
ように仕組んで。あれはおもしろかったねえ。
学校を出てからはカフェのギャルソンやセールスマンとか、いろんな職についたけど、27歳のと
きにこういうメカニカルなものを作る仕事に入った。どうしてメカにこだわるのか、自分でもよ
く説明できないけれど、なにかをつくるときに動きがないと、つまらなく感じてしまうんだね。
自分が生み出すものは、すべて動くべきだろうと。子どものころにおもちゃをいじりまわしたリ
、いろんな影響でそうなったんだろうけど。だからいろいろ手探りで試しながら、つくっていく
のがいちばんおもしろい。美大や機械の学校に行ったわけじゃないから、ぜんぶ独学だし。
奥の作業場全景
「世界一の怪力男」1987年
演奏しているうちに鍵盤がバラバラに飛び散っていく自動ピアノ
で、初めのうちは蚤の市で小さな作品をつくっては売ったりしていたけれど、そのうち自分の作
品で食べていけるようになって。今では作品を制作して買ってもらうほかに、劇場やアートセン
ターでスペクタクルやパフォーマンスもけっこうやるようになった。
アトリエのディテールそれ自体が作品のようでもある
スペクタクルを日本語で言えば「見世物/出し物」。動く作品をいくつも組み合わせた、いわば
機械仕掛けの演劇であり、演芸でもある。
1986年に制作された作品紹介映像「Foire Mécanique」
by Marc Alfieri
動くオブジェがだんだん売れるようになってきて、これとこれを一緒に使ったらどうだろうって
思いついて、ストーリーを考え始めたのがスペクタクルを始めたきっかけだ。美術館の展示と違
って、動作になにか問題が起こったらすぐに直さないといけないから、スペクタクルときには自
分が監督として、いつもいなくちゃならないけどね。
「世界一の怪力男 L’Homme Le Plus Fort Du Monde」1987
photo: Fred Burnier
アトリエで披露してくれたところ
「静物 Nature Morte」1993
photo: Fred Burnier
「王女 Infante」1993
photo: Fred Burnier
「雄鶏 Le Coq」(モメント・モリ Memento-Mori ) 1993-2013
「ムッシュー・レオ Monsieur Leo」(モメント・モリ Memento-Mori ) 1994-2013
僕は現代に生きるアーティストだけど、自分のやっていることが現代美術かはよくわからない。
オブジェに難しいメッセージはないし。ダイレクトだから、わかる人にはわかる、それでいい。
スペクタクルの場合はストーリーがあるわけだけれど、それもなんというか厳密な構造ではない
し。観る人が僕のイマジネーションを好き勝手に解釈して楽しめるように。
「ピアノ Le Piano」2011
movie: Eric Garreau
たとえばいちばん最近のスペクタクルは『キュピドン』というのだけれど(『地獄と天国に向い
たビルのオーナー、キュピドン』彫刻オペラ、55分
2007, 2009,
2010年上演)、歌詞の中にすっごく露骨な性的表現がたくさんあって、それが美しいソプラノの
声で歌われる。作曲は現代音楽のジェラール・ペソンで、自動人形のキュピドン(エロス、恋の
神)と許嫁のあいだで、いろんなやりとりがあるんだね。
彫刻オペラ「キュピドン Cupidon」2013年9月、パリ・シルクエレクトリックでの舞台
photo: Hervé Photograff
2009年の舞台から
music: Raphaël Beau
2013年の舞台から
movie: Bertrand Huet
機械のユーモラスな動きと、美しいソプラノと、すごく猥褻な歌詞。そのミックスがおもしろい
んだけど、それが伝わらないひとは拒否反応を起こすという・・笑。『キュピドン』の初演は20
07年で、パリから75キロぐらい離れたオワーズ県のアートセンターだった。なにしろ小さな村な
ので、パリから観に来てくれた人たちには受けたけど、村人からは訴訟を起こされてしまって。
作品の動きはもちろん、ぜんぶプログラミングされてるんだけど、コンピュータは使わない。す
べて機械仕掛け。自動ピアノで使う巻紙の楽譜とか、いろんなものを利用してね。だからこんな
に部品とかがいっぱい必要で、こんなに広くてもすでにスペースが足りなくなりつつある・・・
。
インスタレーション「機械動物 BêteMachine」1997
ブリュノー・ボワスリヴォーとのコラボレーション
photo; Jean-Pierre Estournet
「明かりのついた自画像 Autportrait allumé」1998
photo: Jocken Littekemann
彫刻オペラ
「今晩、豚を殺す Ce soir, on tue le cochon」 2005
photo: Bertrand Decamaret
現代美術のコレクターにもジルベール・ペールの作品は人気だが、本人は美術館に展示するより
も、どちらかといえばサーカスや劇場、あるいは路上で作品を動かして見せるほうが好きだとい
う。「だって、そのほうが他の人と関係ができて、コミュニケーションが生まれるから」と言う
彼は、もちろんアーティストではあるけれど、同時に芸人であり、監督であり、魔術師であり、
トリックスターでもあるのだろう。
2006年に制作された作家紹介動画
「寒い J’ai Froid」1998-2000
photo: David Damoison
2013年アル・サンピエールでの展示風景(右の作品はメキシコ人アーティスト、レナート・セルベーラ)
2007年の展示風景 movie Rémi Foucherot
「ラップダンス Rapdanse」1998
photo: Jocken Littekemann
Rapdanse 1998
ma
ngemange 2008
『アメリ』の監督ジャン=ピエール・ジュネの『ミックマック』(日本公開2010年)でも、ジル
ベール・ペールの作品がフィーチャーされているが、2016年秋には大掛かりな展覧会/スペクタ
クルをパリのアルサンピエールで開催予定だという。
コンセプトではなく五感で、理解することではなく夢見ることで直感的に楽しめ、想像力を拡張
してくれるような、こんな作品がもっとあるといい。こんな作家が、もっといるといい。
アトリエのジルベール・ペール
(取材協力:飛幡祐規)