平成 21 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ

平成 21 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ
論文題目
ジェネリック医薬品における普及の現状と今後の展望
薬物動態学研究室 4 年
06P129
木村 元範
(指導教員:上野 和行)
要 旨
高齢化社会を迎え、医療費の増加が予想される中、ジェネリック医薬品(GE)は安価で、良
質な医薬品を通して国民負担の軽減を資するものとされている。医療費抑制の大きな手段と
してGE利用は、米国、EU各国ではすでに広く普及されている一方、日本でのGEの普及は
未だ進んでいない状況にある。GE普及は国家財政の負担軽減だけでなく、臨床においても患
者に対して経済的負担への軽減にも貢献できると考えられる。しかし、薬剤師からGEに対す
る懸念が示唆されており、薬剤師のGEへの懸念を除くことがGE利用推進には必要である。
既に、薬剤師の懸念する問題点について考察をおこなった論文が発表されている。本論文で
は、さらに大きな視点からみて、薬剤師のGE利用のための医薬品使用に関わる制度について、
基盤整備を検討していく。方法として、GEの現状を他国間と比較しながらと今後の展望につ
いてまとめる。現状については、GE普及に関連する日本の現状として「高齢化」と「国民医
療費」について報告する。また、「GEの普及状況」、「医療保険制度」、「制度改革」及び
「薬価算定方式」の4点について日本と海外の差異を報告する。日本と海外におけるGE普及
の現状から、GEの阻害要因を考察する。「高齢化」は今後も進んでいくと政府から推計が出
されており、高齢化に伴い国民医療費が増加することがわかった。海外との比較から、日本
の医療保険制度、薬価算定制度では、GEの特徴である価格差が患者へのインセンティブとし
て働いていないことがわかった。また、海外の医療保険制度はコスト意識が高いことがわか
った。日本でも医療保険制度、薬価算定制度の制度改定を取り入れることでGE普及がさらに
促進すると考えられる。今後はさらに、別な視点からの政策の展開と促進活動が広がってい
くと考えられる。その中で最終的に医薬品を調剤するのは薬剤師であるため、薬剤師がGE普
及に直接的に働く立場にあるのは現在もこの先も変わらない。基盤整備の進展に伴い、GE利
用は薬剤師の働きにかかる環境へと変化すると考えられる。本論文により、薬剤師がGE普及
における薬剤師の重要性、GEの有効性を認識し、多くの薬剤師のGEへの意識が高まること
であろうと考える。今後、臨床において患者への経済的メリットも考慮した、より患者のニ
ーズにあった治療がなされることを期待したい。
キーワード
1.ジェネリック医薬品
2.先発医薬品
3.高齢化社会
4.国民医療費
5.医療保険制度
6.薬価算定方式
7.自由価格制度
8.参照価格制度
9.調剤報酬改定
10.診療報酬改定
11.代替調剤
目 次
1.序論
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
2.GE について
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
3.GE 普及の背景
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
4.GE をとりまく現状
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
5.考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
6.今後の展望
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
謝
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
辞
引用文献
1.序論
現在、高齢化社会を迎え、今後も医療費の増加が予想される中、ジェネリック医薬品
(以降、GEとする)は安価で、良質な医薬品を通して国民負担の軽減を資するもので
ある。さらに医薬品市場の競争を促進し、医薬品価格の抑制に寄与するメリットを有し
ているとされている1),2)。
医療費抑制の大きな手段としてGE利用は、米国、EU各国ではすでに広く普及されて
いる一方、日本でのGEの普及は未だ進んでいない状況にある3)。今後は日本でも、GE
普及の発展は不可欠といえる。また、政策面での国からの後押し、製品面では大型医薬
品の特許切れが相次ぎ、GEを巡る現状は大きく変化している。
また、国民のGEに対する認知度は高まってきており、GE利用に対して前向きな意見
が多いという報告がある。一方、医師・薬剤師への意識調査からではGE利用に対し不
安だという意見が挙げられている。この問題点について検討し、解決することで薬剤師
からのGE利用が進み、治療としてだけでなく、患者の経済的負担への軽減にも貢献で
きると考えられる。従って、医師・薬剤師のGEへの懸念を除くことが必要である。既
に、薬剤師の懸念する問題点について考察をおこなった論文が発表されている。そのた
め本論文では、さらに大きな視点からみて、薬剤師のGE利用のための医薬品使用に関
わる制度について、基盤整備を検討したいと考える。GEについて、GE普及の現状を他
国間と比較しながら考察し、今後の展望についてまとめることにした。
2.GEについて
2̶1.GEの定義と特徴
GEとは「新薬として製造承認を受けた先発医薬品の特許が切れた後に、先発品と同
一の成分を同一量含み、投与経路、用法・容量。効能および剤形が同じ医薬品として承
認される医薬品のこと」と定義されている4)。特徴には以下のことが挙げられる4)-6)。
① 先発品と同等の品質である。
GEの承認において、規格および試験方法、安定性、溶出性、生物学的同等性の項目
を厳しく審査した結果、先発品と同等であると国が担保した上で販売される。さらに
は市販後も、GEにも再評価が課されているので、有効性・安全性が先発品と同等に
評価される。
② 開発費が軽減されているため安価である。
通常の医薬品開発には、10年以上の歳月と200億円以上の莫大な投資が必要とされる
が、新規物質のスクリーニング、非臨床試験、臨床試験等がパスでき、承認審査のプ
5
ロセスが簡素化されているので、開発期間の短縮、研究コストが少なくてすみ、安価
な価格での提供が可能となる。
③ 有効性・安全性は既に証明されている医薬品である。
GEは再審査期間、特許期間(20∼25年)がきれないと開発・申請ができないが、そ
れまでに先発品での長期使用の実績あるいは安全性の定期報告がされてきたため、上
市されたばかりの新薬に比べて安全性・有効性に関する情報が十分にある医薬品とし
て扱える。
④ 先発品に比べ、製剤技術の発展、企業努力により製剤的に優れている場合がある。
先発品が市販されたあと、20年以上も遅れてGEが開発される。この期間の製剤技術
の発展を考えると、GEが先発品に比べ、製剤技術的に優れている場合も考えられる。
2−2.GEの承認
GEを製造販売するためには、先発品と同様に薬事法に基づき、厚生労働大臣からの
承認を受けなくてはならない。GEの承認必須要件は、
「先発医薬品と同レベルの品質、
有効性、安全性が確保され、治療学的に同等である」及び「申請データに信頼性がある」
の2点である4)。
製造販売の承認を得るためには、品質、有効性、安全性が先発品と同等であることを
証明する必要があるため、申請者は規格及び試験方法、安定性試験、生物学的同等性試
験での試験結果を提出しなくてはならない。
承認に必要な規格及び各試験については以下のようになる。
① 規格及び試験方法
GEは、先発品と有効成分の含有量、不純物の程度、溶出の程度(内用固形製剤の
場合)が同等でなければならない。それを保証するために、有効成分の確認試験、
含量規格、純度試験、溶出試験(内用固形製剤の場合)などを行う。規格値には、
後発品、先発品とも安全域を加味した一定の幅が設定される。
②安定性試験
GEの安定性は先発品と同等でなければならない。安定性の保証をするため、最終
包装された状態で、通常の保存条件よりも厳しい環境で長期保存し、有効成分の含
有量や不純物の程度等が「規格および試験方法」の範囲内である必要がある。これ
により、通常での保存条件下で3年間安定であることが推測できる7)。
③生物学的同等性試験
GEは、ヒトでの有効性と安全性が先発品と同等でなければならない8)。そのため
の試験として、「生物学的同等性試験ガイドライン」が設定されている。
6
3.GE普及の背景
そもそものGEの普及が求められるようになった原因は高齢化の進展、国家財政の逼
迫にある。「高齢化」と国家財政の逼迫の一因である「国民医療費」について述べる。
3−1.「高齢化」
日本の総人口は、2008年10月で1億2,769万人と、前年に比べ約8万人の減少となった。
65歳以上の高齢者人口は、過去最高の2,822万人となり、その総人口に占める割合(高齢
化率)は22.1%となり、5人に1人が高齢者という社会状況にある。政府の発表では、今
後も高齢化率は上昇し、2013年には高齢化率は25.2%、2035年には33.7%と3人に1人
という高齢化社会が到来すると推計されている9) -11)。
「年齢階級別国民医療費の構成割合」を図1に示す。高齢化は国民医療費の増大と深
く関わっており、年齢の上昇に伴って、医療費が増大する傾向にある。
0∼14歳 15∼44歳 45∼64歳 65歳以上
人口構成比
13.8
国民医療費 6.9
0%
38.3
15.3
10%
20%
27.7
26.8
30%
20.2
51
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
図 1. 年齢階級別国民医療費の割合
出所 平成 17 年 度国民医療費の概況 厚生労働省資料より
7
3-2.「国民医療費」の推移
国民医療費の推移を図2に、国民医療費の国民所得に対する割合を図3に示す。
老人の医療費
<国民医療費の推移>
老人以外の医療費
60
50
40
38.4
30
37.2
36.8
37.5
37.9
36.9
36.1
35.5
34.2
33.1
31.6
20
25.4
10
9.7
10.3
11.8
11.2
11.7
11.7
11.7
11.6
8.9
10.9
8.2
1994
95
96
97
98
99
2000
01
02
03
(年度)
04
4.1
0
1985
図 2. 国民医療費の推移 出所 平成 19 年度版 厚生労働白書
<国民医療費の国民所得に対する割合>
10
7.5
7.6
8.6
8.4
7.9
8.7
8.8
02
03
8.9
8
8.1
6.9
7.2
6
6.1
4
2
0
1985
1994
95
96
97
98
99
図 3. 国民医療費の国民所得に対する割合
2000
01
04 (年度)
出所 平成 19 年度版 厚生労働白書
2004年度の国民医療費は32兆1111億円、前年度の31兆5375億円に比べ5737億円、
1.8%の増加となった(図2)。過去の推移を振り返ると、国民医療費の伸び率は、毎年
8
国民所得の伸び率を上回っている(図3)。
患者の一部負担増や診療報酬のマイナス改定といった国民医療費の抑制策がない年
においては、国民医療費は概ね年間1兆円ずつ増大する傾向にあり、年率では約3∼4%
に達する。
老人医療費についてみると、1999年度から2004年度までほぼ横ばいの額となってい
るが、これに関しては、2000年度には介護保険制度の導入に伴い、老人医療費の一部
が対象範囲から除外されるようになったこと、2002年10月からはそれまでの70歳以上
としていた老人医療費の対象範囲が段階的に75歳まで引き上げられることとなった点
にも留意する必要があり、実際には医療費の伸びの多くは高齢者の医療費の増大による
ものである10),11)。
4.GEをとりまく現状
現在の医療保険制度を維持、医療財源の効率化・適正化を図るために診療報酬・介護
報酬等の連続マイナス改定がなされたが、それにより医師不足、診療科の廃止、介護難
民等の問題が生じた。そこで、医療の質を落とさずに、医療財源の効率化・適正化をお
こなう手段として安価であり、治療学的に先発品と同等であるとされるGEが注目され、
政府は普及のための制度改革を打ち出してくるようになった12)。
以上の点を踏まえ、GEの現状について述べるにあたり重要な要因である、「GEの普
及状況」、「医療保険制度」、「制度改革」、「薬価算定方式」について、日本と海外
の差異を報告する。
4-1.「GEの普及状況」
GEの数量及び金額ベースの国内シェアの年次推移を図4に示す。
GEの国内シェアは、数量ベースでは、近年は停滞しているのが現状である。GE使用
に対するインセンティブが盛り込まれた2002年度の翌年、03年度には顕著な上昇がみ
られるが、その後の相次ぐGE使用の制度改正の効果は認められない(図4)。
9
数量ベース
金額ベース
20%
18%
16.4%
17.1%
16.8%
17.2%
16.9%
16%
14%
12%
12.2%
10.8%
10%
8%
6%
4.7%
4.8%
5.2%
5.2%
5.1%
01
02
03
04
05
5.7%
6.2%
06
07 年度
4%
2%
0%
図 4. GE 国内シェア
出所 日本ジェネリック製薬協会
2006年度における日本と海外の後発品シェアを図5に示す。
日本と海外のGEシェアを比較すると、数量ベースにおいて日本は16.9%、アメリカ
63%、ドイツ 57%、イギリス 56%、フランス 39%と他の国と比較しても、大きく出
遅れている状況にある(図5)。
数量
70
63
59
56
60
金額
50
39
%
40
30
20
10
23
16.9
26
16
13
5.7
0
日本
アメリカ
図 5. 各国の GE シェア(2006)
ドイツ
イギリス
フランス
出所 日本ジェネリック製薬協会
4−2.「医療保険制度」
初めに日本の医療保険制度の概要を述べる。日本での医療保険は国民皆保険制度によ
り、すべての国民に対して、比較的少ない負担で適切な医療を受けられることを保証し
ている。医療保険は社会保険方式により運営されており、財源としては保険料、患者の
一部負担、公費によって運営されている。
10
日本の医療保険のメリットは、必要な場合、いつ、どこでも医療機関の受診ができる
点(フリーアクセス)
、比較的低負担で医療を受けられる点の2点が挙げられる。デメリ
ットとして医療費の増大が挙げられ、2007年度の政府管掌健康保険、国民健康保険の
単年度収支は赤字となっている。
現在、少子高齢化により、社会保障を支える保険料収入及び税収が減少し、社会保障
給付費が増大している。よって社会保障制度が経済的に破綻することが危惧され、医療
保険制度、医療提供体制の見直しが検討されている10)。
次に海外における各国の医療保険制度について示す。
アメリカ:アメリカでは、国民全体をカバーする公的医療保険制度は存在せず、民間医
療保険が一般的である。公的医療保険制度としては、低所得者にはメディケ
イド、高齢者にはメディケアがある。2006年時点では、医療保険の未加入
者が国民全体の15.8%を占めている。民間医療保険、メディケア、メディケ
イドではFormulary listと呼ばれる保険対象となる医薬品のリストを作成
し、GEの使用を指定している5) ,10)。
イギリス:イギリスは、税財源での公的医療保険制度である。国民保険サービス(NHS)
が全国民をカバーしている。ゲート・キーパー(門番医師)制度を導入して
おり、医療提供は全てゲート・キーパーを介して行われる13)。
ドイツ :ドイツでの公的医療保険制度は社会保険方式である。一定所得以上の被用者
は任意加入ではあるが、国民の大多数が保険加入している。その保険者であ
る「疾病金庫」(日本での組合管掌方式にあたる)は、公費の補助を受けな
いため、財政責任は保険者が負う14)。
4−3.「制度改革」
日本では、医療保険財政の健全化のための重点施策として、医療機能の分化・連携、
在宅医療の推進、特定健康診査・特定保険指導、GEの使用推進が打ち出されている。
2002年4月以降、GEの使用促進のために診療報酬・調剤報酬改定や処方せん様式の変
更などが行われてきた。
特に、GEの使用促進に関して政府方針としての位置づけが具体的目標をもって明確
化されたのは2007年である。政府は、2007年6月経済財政諮問会議において、
「2012年
度までにジェネリックのシェア(数量ベース)を30%以上に」という具体的な数値化目
標を策定した。厚生労働省では、2007年10月、GEに関する安定供給・品質確保・情報
11
提供等の充実・向上と使用促進を図るため、
「後発医薬品の安心使用促進アクションプ
ログラム」を策定した12) ,15)。
最近の診療報酬・調剤報酬改定では、2008年4月にて以下の改定が行われた。
z
保険薬局におけるGEの調剤率が30%以上の場合に加算できる「後発医薬品の調剤
体制加算」が設定
z
処方せん様式が「後発医薬品へ変更しても差し支えない場合、医師が署名」から
「後発医薬品への変更が不可とする場合、医師が署名」へと変更(代替調剤の進
展)
z
「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」において、GE調剤の体制確保や患者へ
の説明義務を新しく規定
次に、GE普及が進んでいるアメリカにおける、制度改定についてまとめる。
アメリカは早い段階から医療費抑制策を興じて、基盤整備を進めている。
① 1976年に、公的医療制度であるメディケア、メディケイドにおいて、薬剤費抑制と
して最大償還限度価格(MAC)規制がしかれた。これにより、保険償還に対して限度
額を設けた。
② 1970年代、各州において
Generic Drug Substitution Law
を制定し、治療学的
に同等な医薬品の代替調剤を薬剤師に認めた。
③ FDAによる Approved Drug Products with Therapeutic Equivalence Evaluations
(オレンジブック)を発刊し、先発品とGEの治療同等性を評価し、情報提供体制を
確率した。
④ 1983年に、メディケアにおいて公的医療保険支払方式DRG(Diagnosis)/PPG
(Prospective Payment System)が導入された。これは診断群別により一定金額を支払
う定額制度である。近年日本ではほぼ同様の内容としてDPCが導入された。
⑤ 1984年、Hatch-Waxman法(医薬品価格競争・特許期間回復法)の施行により、
GE承認手続きの簡素化と先発品に対する特許期間延長を認めた。それにより、GE普
及促進と先発医薬品の利益確保を可能にした。
⑥ 1992年から「MedWatch」が導入され、FDA中の医薬品評価研究センター(CDER)
がGEの副作用についても情報収集を行う。先発医薬品企業に依存しない情報収集・
分析・解析体制が整備されており、FDAが医療機関に安全情報を提供できるようにな
った10), 16)。更に、薬局・卸業者に対してのマージンを付与し、流通段階への制度改革
も実施した。
4−4.「薬価算定制度」
12
薬価算定制度は、自由価格制度と参照価格制度の2つに分けられる。
自由価格制度とは、企業が開発した新薬に対して、自由に価格付けがおこなえる制度
である。研究開発での費用や新薬の有効性を考慮することができるので、製薬企業の革
新的新薬の開発促進につながる。
参照価格制度とは、医薬品を同一有効成分や、治療効果、薬理作用などでグループ化
し、グループごとに一定の保険償還限度額を設定する。参照価格の超過分は患者負担と
なる仕組みである。
自由価格制度はアメリカ、イギリス、ドイツで導入されており、参照価格制度はドイ
ツ、フランスで導入されている。独国では革新的な新薬に対して自由価格で決められる
が、類似性のある医薬品に対しては参照価格を導入している。また、アメリカでは、
GEが存在する先発品に対する自己負担額の差は非常に大きいので、実質的に参照価格
制度があるものと考えられる17)。
各国における薬価制度を表1に示す。
日本はこの2つの制度には該当せず、公定価格制度を導入している。公定価格制度は、
政府(厚生労働省)により価格が決められる。GEの価格算定は基本的に先発品の7割と
している。また、日本の薬価算定は海外にはない「薬価改正」があり、薬価が下がり続
けていくとゆうシステムである。2年に1度、市場実勢価格(納入価格)を調査し、結果
に合わせて薬価を引き下げていくもので、これにより薬剤費を抑制している10)。
表1. 各国の薬価制度
日本
アメリカ
イギリス
ドイツ
フランス
自由価格制度
×
○
○
○
×
参照価格制度
×
×
×
○
○
5. 考察
国家財政の逼迫の原因である高齢化だが、前年度よりも高齢化が進んでいた。また、
厚生労働省から今後も高齢化は進展していくとの推計が出されている。今後もGE普及
を進めていく必要性がある。
日本でのGE普及の阻害要因として以下の問題点を挙げる。
13
日本の薬価算定方式の問題として、保険制度もあいまって、先発医薬品とGEの自己負
担額の差が小さい点が挙げられる。そのため、GEの特徴である価格差が患者へのイン
センティブとして働かないと考えられる。それに対し、海外で採用されている参照価格
制度は、参照価格の超過分は患者自己負担となるので、消費者の立場から考えてGE選
択のインセンティブとして働いていると考えられる。参照価格制度と共に、GE普及の
進んでいる国で採用されている自由価格制度についても、患者自己負担額の増加がイン
センティブとして働いていると考えられる。よって、海外の価格制度導入は、GE選択
のインセンティブ付与に繋がると期待できる。しかし、薬価算定方式だけでなく、保険
制度が関係して患者自己負担額の差異が生じることに注意する必要がある。日本で自由
価格制度を導入した場合、インセンティブ付与と同時に、薬剤費高騰の可能性を持って
いるためである。薬剤費高騰により、保険での薬剤負担の増加が考えられるため、現保
険制度での自由価格制度導入は難しい。一方、参照価格制度は、自由薬価制度に比べ、
薬剤費高騰の可能性は少ない。従って、日本への参照価格制度の導入はGE普及促進に
繋がると考えられる。
日本の医療保険制度については、医療が自由に受けられる点が医療費の高騰に影響し
ていると考えられる。海外では医療サービスを制限する措置がとられていた。医療サー
ビスの制限は医療費抑制に直接的に作用する。しかし、日本でも同様に医療サービスの
制限を行えば、国民の反発が大きいと予測できる。日本と同様の公的医療保険制度をと
っているのに対し、ドイツでは公費負担がない点について注目した。ドイツは公的医療
保険制度であるのに関わらず、運営責任が保険者にある。したがって日本に比べ保険者
のコスト意識が高いと考えられる。日本の医療保険制度にも、このコスト意識の概念が
必要だと考えられる。コスト意識の概念を導入するには、公費負担をなくす、財源運営
に第三者機関を採用するなど、財源について考える必要性がある。
海外との比較から、以上2点の導入が、GE使用促進に有効であると考察した。
6.今後の展望
欧米でGEは日本に比べ広く普及している。しかし欧米でも、初めからGE利用の環境
が整備されていたわけではない。これには、製薬企業、政府、薬剤師、消費者それぞれ
の立場からGEを努力して利用し、育ててきた経緯がある16)。本論文では、GE普及の促
進策として、海外との比較から参照価格制度の導入、医療保険制度へのコスト意識概念
の必要性を挙げた。各立場を考慮した政策の展開と促進活動が広がっていくと考えられ
る。その中で最終的に医薬品を調剤するのは薬剤師であるため、薬剤師がGE普及に直
14
接的に働く立場にあるのは現在もこの先も変わらない。基盤整備の進展に伴い、GE利
用は薬剤師の働きにかかるといえるだろう。
今後、注目される動向として代替調剤の進展が挙げられる。日本では2008年に代替
調剤の拡大が実施された。European Generic Association(EGA)はGE普及の要因に、
代替調剤を挙げており、普及の進んでいる諸国では代替調剤が進展していると指摘して
おり、代替調剤の発展は薬剤師によるところが大きいともいわれている13)。この点から
も、日本でのGE発展には薬剤師が重要と考えられる。しかし、薬剤師側の問題として、
GEの安定性・同等性に対する不安が払拭されないことが指摘されている。薬剤師とし
て疑義のある医薬品を調剤することはできない。そのため、GE使用の懸念となる原因
について早急な対応が求められる。本論文により、薬剤師がGE普及における薬剤師の
重要性、GEの有効性を認識し、多くの薬剤師のGEへの意識が高まることであろうと考
える。今後、臨床において患者への経済的メリットも考慮した、より患者のニーズにあ
った治療がなされることを期待したい。
15
謝 辞
本稿を記述するにあたり、ご指導、ご鞭撻を頂いた指導教員である上野和行教授並びに、
福本恭子助教にこの場を借りてお礼申し上げます。
引用文献
1)矢野由里加,保険薬局薬剤師のジェネリック医薬品に対する意識調査:ジェネリッ
ク研究,2(2),p.53(2007)
2)小原拓,後発医薬品に対する外来患者の認識・希望・イメージ:ジェネリック研
究,2(2),p.18(2007)
3)福本恭子,ジェネリック医薬品の使用に対する薬剤師および患者の意識調査:ジェ
ネリック研究,2(2),(2008)
4)21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会
http://web.kyoto-inet.or.jp/org/kanpo/3W/houki/21seiki.html
5)池田俊也,後発品と医療経済,日本病院薬剤師会雑誌,41,p.263-264(2005)
6)増山光一,ジェネリック医薬品に関する厚生労働省の最近の取組み:ジェネリック
研究,2(2),p.35(2007)
7)医薬工業協議会 制作,厚生労働省 監修,ジェネリック医薬品 Q&A
8)河島進,松山賢治,政田幹夫,内田享弘,医薬品情報学・評価学,
南江堂,2,p.324-335(2008)
9)上野和行,ジェネリック医薬品の品質を考える:ジェネリック研究,2(2),p.18(2007)
10)厚生労働省,安定性試験ガイドラインの改定について,医薬審発第 0603001 号,医
薬
局審査管理課長通知,2003
11)厚生労働省,後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン等の一部改正につい
て,
医薬審発第 786 号, 医薬局審査管理課長通知,2001
12)厚生労働省 監修,平成 21 年版 高齢社会白書
13)日本薬学会,薬学と社会,東京科学同人,2,p.98-129,133-151(2008)
14)厚生労働省,平成 19 年 4 月 全国医療費適正化(案)
15)日本ジェネリック製薬協会,ジェネリック医薬品をとりまく環境
16
http://www.jga.gr.jp/medical/generic01.html
16)Steven Simoens,Sandra De Coster,Sustaining generic medicines markets,
Research Centre for Pharmaceutical Care and Pharmaco-economics,2006
17)戸田典子,ドイツ医療費抑制施策,レファレンス,平成20年11月号
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