後 沢 昭 範 - 豆類協会 mame.or.jp

後 沢 昭 範
「めんと和菓子の夜明け 索餅の謎を解く」
します。
松本忠久著
俗説や誤説が錯綜する索餅の話に終止符
丸善出版、平成 23 年 10 月発行、272 ペー
を打つべく、著者は古文書を調べ、歴史的
ジ、1,800 円
考察を加え、実験や試作まで行って、丹念
に解明して行きます。本書は日本のめんと
和菓子の原点「索餅」の実態と歴史をテー
マにした異色の一冊です。
著者は、東大文学部の美術学科を卒業後、
TBS で長年勤められ、退社後も「ある郷
土料理の 1000 年」(2002)、「平安時代の
醤油を味わう」(2006)、「平安時代の納豆
を味わう」(2008)などの著書を出してお
られます。
話を分かり易くするために、まず結論か
ら先にご紹介すれば、本書の前書からです
さくべい
索餅?何?すぐ反応する方は、麺か和菓
が、「米粉と小麦粉を混ぜ、塩を加えた湯
子関係の方が多いかと思います。
で練って蒸す。出来上がった一種の粉餅を、
ある人は“索餅は麺のルーツ!和名は麦
紐状にすればめんになり、短くして縒れば
縄である!”
と自信たっぷり。ある人は“索
お菓子になる。油で揚げることも多かっ
餅は菓子のルーツ、現に儀式菓子として存
た。めんであり、お菓子でもある。餅を雑
在!”とこれまた当然との反応。しかし、
煮にすれば食事になり、霰にして揚げれば
麺と和菓子ではイメージも大分違います。
お菓子になるのと似ている。めんの索餅は、
一体どういうことでしょうか。
中世にそうめんやうどんに押されて廃れた
よ
あられ
ねつ
お菓子説、めん説、変化説、はたまた捏
が、お菓子の索餅は、幕末まで宮中の儀式
ぞう
造説、模倣説まであり、オーソドックスな
菓子として存続し、現在でもしんこ餅とし
国語辞典の類でも一部に異なる説明が混在
て生きている。」ということです。
-
37
-
この辺り、もう少し詳しく見て行きま
で、公文書が主体の『正倉院文書』には索
しょうか。
餅で載っているものが多く、一方、平城京
本書は 14 章から成ります。〔中国で生
跡から発掘された付札木簡や、平安末期の
まれ、日本に伝わった索餅〕、〔日本で変化
『今昔物語』等の世俗的な文献等には麦縄
した索餅〕
、
〔索餅のつくりかた〕、〔索餅を
が多用されているそうです。“ムギ”も“ナ
どうやって蒸したか〕、〔古代人の小麦粉づ
ハ”も、やまとことばです。
くり〕
、
〔ポピュラーで楽しい食べ物だった
もう一つは〈小麦粉に米粉を混ぜたこと〉
「めんの索餅」
〕
、〔八種唐菓子として尊重さ
です。中国の索餅は小麦粉ですが、製粉技
れた「お菓子の索餅」〕、〔小麦粉めんの急
術が未熟で搗き臼の粗い粉しか出来なかっ
速な発達と日本への伝来〕、〔小麦粉めんに
た日本では、扱い慣れた米粉を混ぜ、蒸し
圧倒された「めんの索餅」〕、〔しんこ餅に
てつなぎました。平安中期の辞書『倭 名
つ
うす
わ みょう
るいじゅうしょう
変化した「お菓子の索餅」とその図〕、〔世
類 聚 抄』には、“餅は糯米と小麦粉を合わ
界の文化遺産・日本料理を支えた二つの高
せてまとめたもの”と記されています。米
橋家〕
、
〔江戸時代の「お菓子の索餅」〕、
〔索
粉には砕け米が利用されました。
餅の「お菓子説」「変化説」「めん説」を精
更に一つ、大きな変化は〈索餅をめん
査する〕
、
〔まとめ〕と展開して行きます。
とお菓子の 2 種類に作り分けたこと〉で
今から 1900 年程前、中国は後漢の字書
す。日本でも、中国同様、めんとしても食
『釈名』に“索餅”なる最古の記録が載っ
べましたが、同時に、これを短く切って 1
ゆ
よ
ています。小麦粉を練って、蒸したり茹で
本または 2 本を縒り合わせてお菓子とし、
たりして餅にし、太めに細長く成形して、
胡麻油で揚げて食べることも多かったよう
今で言う“太めのうどん”に近いものだっ
です。平安前期の和漢字書『新撰字鏡』や
しょう じ
しんせん じ きょう
が
た様です。ほぼ同時代の字書『小爾雅』で
当時の法令『延喜大膳式 造雑物法』でも、
せつもん
は“索”とは縄より太いもの、また『説文
めんの索餅とお菓子の索餅は書き分けられ
かい じ
解字』では“餅”とは小麦粉で作った餅の
ており、『倭名類聚抄』では、お菓子の方
ことであると記しています。現在、中国で
は“手束索餅”等と呼ばれています。ただ、
ピン
た づかさくべい
こ
餅と言えば、小麦粉に水を加えて捏ね、薄
平安時代を過ぎる頃には、単に“索餅”と
く円盤状に伸ばして、平釜で焼くか蒸すか
呼ばれる様になり、このことがめんの“索
した食べ物の総称です。北京ダックをくる
餅”との混同・混乱の元になったと指摘さ
む薄い焼き餅がお馴染みです。
れます。
これが奈良時代前に日本に伝わり、そこ
ところで“お菓子の索餅が何故縒られた
で〈3 つの変化〉が起こります。
のか?”ですが、著者の実験によれば、膨
むぎなわ
一つは〈索餅に麦縄という日本名を付け
張させない練り粉を、ただ揚げると歯が立
たこと〉です。索餅は中国伝来の漢語なの
たない程硬くなりますが、縒り合わせると
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38
-
砕け易くなります。味や触感はナッツ風。
よると、七夕には、織女にめんの索餅とお
索餅が、古代日本ではフルーツやナッツを
菓子の索餅を供え、その宴席では、素麺、
くだもの
意味する“菓子”に数えられた所以のよう
次いで索餅が供され、何れも汁を掛けて食
です。
べています。しかし江戸中期の絵入り百科
現代のうどんは、小麦粉に塩水を加えて
事典『和漢三才図会』になると、織女に供
捏ね、生地を足踏みしたり寝かして、グル
するのは、索餅と書いて、振り仮名はさふ
テンの力を最大限に引き出して打ちます
めん(それも紙で束ねた乾麺の絵)になっ
が、索餅は、ビーフンやはるまきと同じく、
ています。めんの索餅は姿を消し、江戸は
わ かんさんさい ず
せいろう
え
蒸籠で蒸して作りました。
うどん・そうめん・そばの時代に変わって
〈めんの索餅〉は、平安時代を通じて、
います。
宮中では毎日供され、また庶民の世界でも、
一方、〈お菓子の索餅〉は、庶民にまで
平安京の東西の市場で売られるポピュラー
普及しためんの索餅と異なり、宮中の饗宴
な食べ物だったようです。味付けは、『倭
に用いる高級な儀式菓子でした。平安時代
名類聚抄』によると、醤・未醤・酢・塩・
に、朝廷の儀式次第を成文化した有識故実
生姜のほか、小豆が頻繁に出て来ます。汁
書『江家次第』によると、節会に供される
粉の様にして食べたようです。その後、水
“八 種 唐菓子”のひとつに数えられ、特に
や くさのからくだもの
がん にちの えん え
はれのご ぜん
飴や胡桃なども加わります。
重要な元 旦 宴 会 では“晴 御膳 ”として、
中国では、唐代に、水車の発達とともに
縒られた形の“お菓子の索餅”が真っ先に
小麦粉がよく使われる様になり、宋代には、
供されています。この習慣は幕末まで続き
めん料理が飛躍的に発展し、それとともに
ます。
索餅の影が薄くなって行きます。中国で発
しかし、途中で材料の変化が起こります。
展した小麦粉めんは、やがて日本にも伝わ
遡って『延喜大膳式 造雑物法』のレシピ
ります。鎌倉時代、曹洞宗開祖の道元の『正
では、小麦粉と米粉 7:3 程の割合で混ぜ
法眼蔵』に“麺”という漢字の小麦粉めん
て塩を加えていますが、鎌倉以後になると、
が登場します。暫くは、“小麦粉+米粉の
小麦粉を使わず、粳米の粉(上新粉)だけ
索餅”
、
“小麦粉の索麺”、その食べ方によ
で作る様になります。更に、室町以降、宮
る別称“素麺”の 3 つが併存しますが、索
中の儀式菓子「お菓子の索餅」から、大衆
餅は、索麺・素麺に較べ、腰が弱くて切れ
的な「しんこ餅」が枝分かれし、武家や民
易い、細くならない、乾麺に出来ないので
衆に広まります。“しらいと・よりみず・
保存が利かない等の理由で、やがて、一般
しんこ”等と呼ばれ、名前は変わりました
の世界からは消えて行きます。
が、捻った形がお菓子の索餅の痕跡を残し
江戸初期に、衰微していた宮中儀式を復
ています。
古して記した『後水尾院当時年中行事』に
徳川幕府は、これを、疫病を払う儀式の
-
うるちまい
39
-
か じょう
「嘉定」の菓子に定めています。記録によ
います。これも一つの驚きです。
より
ると、江戸城の大広間を三つつなげて、寄
みず
ともかく膨大な文献を丁寧に読み解き、
か
水 を含む 8 種類、総数 2 万 324 個の「嘉
じょう が
し
その解釈に当たっては、今日的な感覚で都
お しき
定 菓子」を 1612 膳の折敷に盛って並べ、
合のよい推測や断定をするのではなく、そ
将軍から、参列の大名や旗本に手渡したそ
の時代の制度や思想、著者の身分や立場、
うです。
更には当時の技術水準等をも踏まえ、的確
本書では、このお菓子の索餅の変化と製
な判断を下します。古文書の記述自体の間
法について、江戸中期の故実書『類聚名物
違いやその後の引用の不適切さにも気付か
考』や最古の菓子専門書と言われる『古今
されます。また、凄いのはみんな自分で作っ
名物 御前菓子秘伝抄』を始め、多くの文
て確かめていることです。著者の探求心と
献から解説が加えられており、和菓子関係
有職故実の博学振りには、ただ敬服するば
の方には興味深いでしょう。
かりです。
今でも、京都や奈良では、例えば大和盆
著者の解説に導かれ、何やら謎めいた索
地一帯など、吉事や法事等の際に、捻った
餅の歴史を辿るうちに、普段は馴染みのな
形のしんこを家庭で作ったり、菓子屋に注
い古文書の記録から、平安朝の優雅な節会、
文して供する風習の地域があるそうで、出
江戸城大広間の嘉定の儀式、また、二つの
来立ては砂糖を付けて食べ、翌日以降は、
索餅の作り方、商う姿、食べ方等々、タイ
こんがり焼いて砂糖醤油を付けて食べると
ムスリップした往時の情景が浮かび上がっ
のことです。
て来ます。 索餅の歴史を解き明かして行く過程で、
是非、一度、手にとってご覧下さい。
く ご
天皇の食べ物「供御」を調進する職を世襲
ないぜん ぶ ぜん
して来た二つの高橋家、内膳奉膳を千百年
み
ず
し どころ あずかり
務めた高橋(浜嶋)家と御 厨 子 所 預 を
八百年務めた高橋(紀)家の存在と、両家
に伝わる調理に関する文献が大きな役割を
果たします。著者が言われる様に、この様
な存在は世界の料理史にも類がなく、まさ
に世界に誇る日本の文化遺産でしょう。こ
の世襲両家の職は明治維新で宮内省内膳司
(現在は宮内庁管理部大膳課)に統一され
ますが、両家が連綿と伝えて来た、調理故
実書を含む膨大な文書は、それぞれ学習院
大学資料館と慶應義塾図書館に保存されて
-
40
-
〜「気にならない」の 3 割を上回った。
資料箱
「平成 23 年度 消費者動向調査結果」【特別
(買わない〈生鮮食品 37%、加工食品
調査】
35%〉⇔買う〜 気にならない〈生鮮
日本政策金融公庫、第 1 回:平成 23 年 9
食品 28%、加工食品 31%〉)
月公表、第 2 回:平成 24 年 3 月公表
・食品から、当時の暫定規制値を上回る放
射性物質が相次いで検出されたこと等
これは、東日本大震災以後の消費者の購
が、消費者の不安を呼び、購買行動に大
買行動の変化を探ることを目的に、全国
きく影響しているようです。
2000 人(男女各 1000 人)を対象に、平成
○食品の購入時に消費者は、産地をチェッ
23 年 7 月と 24 年 1 月に行ったアンケート
クする。
調査(インターネット)の結果です。実施
・生鮮食品の購入時に重視する項目は、
「産
に当たって、地域別サンプルは都道府県別
地」が 30 %と際立っており、安全性へ
に人口割合で振り分け、年代構成は 20 〜
の警戒感が強い。(次いで「鮮度」13%、
70 歳代の合計から各年代の比率で按分し、
「低価格」9%…)
日本の人口の地域バランス、年代バランス
・一 方、加工食品では、「原材料産地」重
の縮図になっています。
視が 17%ですが、際立った項目はあり
特に“原発事故の影響があると消費者が
ません。
考える地域の食品の購入”に、どう影響し
○震災後の購入量は、消費の自粛や物流の
ているのかに関心が持たれますが、2 回の
混乱で減少。
調査結果を一口で言うと〈原発事故から 1
・震災後は、消費の自粛や物流の混乱の影
年近く経っても、その影響があると考える
響等で、生鮮食品・加工食品ともに購入
地域の生鮮食品については、依然として「買
量を減らした消費者が多い。
わない」が「買う」を上回っており、更な
・その一方で、めん類や冷凍食品等の保存
る検査の徹底等による安全の確認もしくは
食、またミネラルウォーターや飲料は、
安心の確保を求めている消費者が多い〉と
家庭内備蓄や被災地への送付需要等で、
いうことになります。
購入量が増えています。
○震災後も、購入先には変化なし。
(1)
「第 1 回消費者動向調査結果」(23 年
・食品の購入先(店等)は「震災前と変わ
7 月実施)
らない」と言う人が 8 割を超えている。
○影響があると考える地域の食品を「買わ
・いつもの購入先で食品を吟味して安全性
ない」が「買う」を上回る。
を確保しようとしていることが伺えま
・
“原発事故の影響があると考える地域の
す。
食品”を「買わない」が 4 割で、
「買う」
-
○食品備蓄の必要性を 7 割の消費者が強く
41
-
認識。
関による放射性物質検査」や「生産者の
・
「元々必要性を感じていた」が 35%、
「感
自主検査」を求める回答が 43%を占め、
じる様になった」が 34%、合わせて 7
これらの人々は、現行の検査では安心せ
割と、高い水準にある。
ず、更なる徹底した検査を求めています。
・必 要 と 考 え る 備 蓄 量 は「3 日 分 」 が
・一 方、「買う」〜「気にならない」と回
32%で最も多く、「3 日分」〜「7 日分」
答をした人々の理由は、「特に気にして
を合わせると、全体の 8 割を占める。
いない」44%、
「安全性に問題ないから」
・購入の仕方は、買い溜めに走らず「計画
32%、「被災地を応援したいから」22%
的に数回に分けて購入する」との良識的
となっており、現行の検査やその結果の
な回答が 6 割を占めます。
情報開示など、消費者に対する安全性の
説明が、それなりに評価されていること
(2)
「第 2 回消費者動向調査結果」(24 年
も伺われます。
1 月実施)
○ 原発事故後の食品イメージは「変わら
○ 影響があると考える地域の生鮮食品を
ない」が最上位。
「買わない」が依然として続く。
・原発事故後の“国産食品のイメージ”は、
約 8 割が事故前と「変わらない」と回答。
・原 発事故から 1 年近く経っても、“その
影響があると考える地域の生鮮食品”を
・また“東北・関東産食品のイメージ”は「変
「買わない」(38% ) が、前回調査 (37% )
わらない」が 47%で、「一時的に悪い方
と同じく、ほぼ 4 割を占め続け、放射性
向に変わったが元に戻った」の 20%と
物質に対する不安感があまり変わってい
合わせると、総体として 7 割が、事故前
ないことが伺えます。
と「変わらない」イメージになっていま
す。
・そ の一方で、“影響があると考える地域
の生鮮食品”でも「買う」〜「気になら
ない」は 30%と、前回調査と較べると、
公表資料だけでは正確に掴み難いのです
2 ポイントですが、改善の兆しも見えま
が、概括的に見ると、〈今はどうやっても
す。
心配で、不安と不信に固まってしまってい
○ 放射性物質の検査に対する“信頼感も
る人達〉、〈より徹底した検査と管理で、安
しくは安心感”は分かれる。
心と思えるようになれば買うであろう人
・
“影響があると考える地域の生鮮食品”
達〉、〈余り気にしていない〜今の検査や管
を「買わない」と回答した人々が“今後
理を信頼している人達〉と、3 グループが
に向けて求めること”は、「今後とも購
透けて見えて来ます。もっとも、これ以外
入するつもりはない」(19%)という頑
にもう 1 グループ、〈よく分からないと言
なな回答もあるものの、「政府等公的機
う人達〉がいます。この層は、その時の雰
-
42
-
囲気や状況次第で付和雷同的に動くことに
が付くという経緯がありましたが、“今で
なるでしょう。
も安全だが、より一層の安全と安心を確保
2 回に亘るアンケート時点でも、食品中
する(厚労省資料)”ということで、4 月
の放射性物質については、「暫定規制値」
1 日から、それまでの「暫定規制値」から、
(23 年 3 月 17 日から)が適用され、検査
更に厳しい「新基準値」に切り替わってい
が行われていました。モニタリング方式で
ます。「新基準値」の下でも“それを超過
すが、蓄積性の低線量被曝の問題なので、
するものが出ない!出ても出荷規制される
まずは安全性は確保されているはずなので
から大丈夫!そもそも基準値自体、周到な
すが、
消費者の不安はなかなか拭えません。
安全側を見込んだもの!”ということで、
こうなるといわゆる風評被害の世界と
落ち着きを取り戻して欲しいものです。
オーバーラップして来ます。しかし、産地
なお、豆類については、「暫定規制値」
や販売する立場からすれば、いま売れなけ
では〔穀類:500Bq/kg〕に含まれていま
れば生活が成り立ちません。“科学的にど
し た が、「 新 基 準 値 」 で は〔 一 般 食 品:
うか”
・
“リスク管理的にどの程度意味があ
100Bq/kg〕に含まれます。
るか”等々は別にして、コスト高になり、
目を転じて、海外との関係では、原発事
また、可能な範囲でということにはなりま
故の発生以降、日本産の食品に対する各国
すが、ともかく消費者の心情に合わせて検
の輸入規制がなかなか緩和されません。1
査して結果を見せ、まずは安心してもらい、
年経った 3 月時点でも、16 ヵ国・地域が
後は時間の経過を待つしかなさそうです。
輸入停止措置等を継続していました。この
ただ、これが行き過ぎると、パフォーマ
状況に対して、「残念ながら、科学的根拠
ンスめいた殊更厳しい自主基準や精粗まち
や合理性をもって判断されていない状況に
まちの自主検査が氾濫し、消費段階での混
ある。」との外務大臣発言が報道されまし
乱、生産段階での過剰負担や混乱を引き起
たが、これは国内に向かっても言えること
こし、更には際限のない風評被害をもたら
でしょう。今回のアンケート結果に見る消
すことにもなりかねません。
費者の購買行動、また、最近になってこそ、
このため、農林水産省は、4 月 20 付けで、
ようやく動き出しましたが、被災地にある
「食品中の放射性物質に係る自主検査への
放射線量チェック済の瓦礫の受入れすら反
対応に関する通知」を発出して、自主検査
対する地域住民の存在とそれを理由に受入
を行う場合には、科学的に信頼出来る分析
れを拒否する多くの地方自治体等々、日本
をするように、また、食品衛生法の基準値
国内がこんな状況では、まして海外の理解
に基づく判断をするように、求めています。
を得るのは容易ではないでしょう。こちら
検討過程の「放射線審議会」で“必要以
も長期戦覚悟で、国内の沈静化と併行して、
上に厳しい”という内容の異例の付帯意見
粘り強くアピールし、要請して行くしかな
-
43
-
さそうです。
てもらうために、昨年 11 月から今年の 3
一連のアンケートは、直接、豆やその加
月にかけて、被災地を中心に 18 都県で生
工品を対象にしている訳ではありません
協組合員 237 世帯(福島は 96 世帯)の協
が、広く農産物や加工食品の生産、流通、
力を得て、食事トータルの摂取量を検査し
製造、販売に関わる方々にとっては、今年
ました。
の生産や販売に向けて、関心のある内容と
具体的には、各家庭の 2 日分の食事(6
思います。
食分と間食)を 1 サンプルとして全て混
資料は、簡潔な解説文と数字やグラフを
合し、本格的なゲルマニウム半導体検出器
組み合わせ、分かり易くまとめられていま
(検出限界 1Bq/kg)で、原発事故由来の
す。下記アドレスから入れます。是非、現
放射性セシウム(Cs134,Cs137)とヨウ素
物をご覧下さい。
(I131)、それから、参考までに天然由来の
放射性カリウム(K40)を分析しています。
[日本政策金融公庫 HP…各種レポート…
調査結果
特別調査]
http://www.jfc.go.jp/a/information/
○放射性セシウムは 95%が検出せず。検
investigate.html
出された 5%も 1.00 〜 11.70Bq/kg の範囲。
・検査した 237 世帯の内、放射性セシウ
「家庭の食事からの放射性物質摂取量調査
ム に 関 し て は、226 世 帯(95 %) が 不
結果」
検出。1Bq/kg 以上が検出されたのは、
日 本 生 活 協 同 組 合 連 合 会( 日 生 協 連
福島 10・宮城 1 の計 11 世帯で、1.00 〜
COOP)平成 24 年 3 月公表
11.70Bq/kg の範囲。
・放射性ヨウ素に関しては、全て不検出。
昨年の原発事故以来、不安に駆られた消
○検出世帯の年間内部被曝量の試算は、多
費者や組合員から、日生協連の窓口には、
めに見ても 0.019 〜 0.136mSv。
放射性物質の影響に関する問い合わせが絶
・放射性 Cs が検出された 11 世帯について、
えないそうです。不安の背景の一つに“個々
検出されたのと同じ食事を 1 年間食べ続
の食品については暫定規制値が示されて各
けたと仮定した場合でも、食事からの年
地でモニタリング検査は実施されています
間内部被曝量は 0.019 〜 0.136mSv(ミ
が、
実際の日々の食事トータルで見た場合、
リシーベルト)と推定され、4 月 1 日施
どの位摂取しているのか分からず心配だ”
行の新基準値の基礎・年間 1mSv の 1.9
ということがあるようです。
〜 13.6%にとどまる。
そこで日生協連では、消費者が心配する
・ 参 考 ま で に、 仮 に 不 検 出 の 世 帯 が、
点を科学的に調査し、現状を正しく理解し
Cs134、Cs137 ともに検出限界の 1Bq/
-
44
-
kg だったとした場合でも、年間内部被
等の数値にばかり気を取られていますが、
曝量は 0.022mSv で、新基準値の 2.2%。
元々、太古から自然放射線に被曝しながら
半分の 0.5Bq/kg だったら、年間内部被
生き、進化して来たのです。
曝量は 0.11mSv で、新基準値の 1.1%に
私達は、通常でも自然界や食べ物から放
相当。
射線を受けており、おおよそ世界平均で年
○放射性カリウムは全ての家庭から検出さ
間 2.4mSv、日本平均では 1.5mSv を浴び
れ、
15 〜 56Bq/kg で、年間 0.05 〜 0.38mSv。
ています。この自然放射線量は場所によっ
・天然由来の K40 は原発事故に関係なく、
ても違い、海外では年間 10mSv を超える
元々全ての食品に含まれているので、=
地域もあり、日本でも、西日本は、東日本
当然のこととして全世帯から検出され、
より 2 〜 3 割ほど自然放射線量が高くなっ
レベルは 15 〜 56Bq/kg。
ています。西日本には花崗岩地帯が多く、
・これによる年間被曝量は 0.05 〜 0.38mSv
花崗岩には K40(半減期 12.8 億年)等の
と推定。
放射性物質が比較的多く含まれることに由
来します。
食品衛生法による個々の食品の基準値
放射性物質は地球が誕生した時から存在
は、元々、他の国産食品にも汚染が及ん
し、大地にはウランやカリウム、空気には
でいると仮定して、許容される年間被曝量
ラドン、食べ物にはカリウム等が含まれて
の上限値から、摂食量を勘案して逆算的に
います。植物の 3 大栄養素として窒素・燐・
算定されたものなので、基準をクリアして
カリウムが挙げられますが、人間はもとよ
いる食品を食べていて食事全体としてオー
り、生物にとって必須元素であるカリウム
バーする様なことはあり得ませんが、ここ
には 0.012%の K40 が含まれています。
は、ともかく“実態を測定して、結果を見
また、私達は、自然放射線以外に、個人
せること”で、
(きちっと読んでもらえれ
差がありますが、平均して年間 2.27mSv
ばですが)消費者の不安や疑問に応えてい
の人工放射線を受けています。その殆どは
くことが肝要でしょう。
医療被曝(X 線検診、CT、癌治療等)です。
この調査を通じて、放射性物質や放射線
こ れ と 自 然 被 曝 1.48mSv を 合 わ せ る と、
について語る時、少々難しいのですが、幾
日本人は年間 3.75mSv の放射線を受けて
つかの科学的事実を知っておかなければ、
いることになります。同様に、世界平均で
正しく理解出来ないことにも気付かされま
は人工被爆が年間 0.61mSv なので、自然
す。
被曝 2.4mSv を合わせると年間 3.01mSv と
以前、文部科学省の「放射線等に関する
なります。
副読本」でご紹介したことですが、例えば、
ここで頭に置く必要があることは、自然
私達は、原発事故由来の放射性セシウム
界から受ける放射線でも、人工的な放射性
-
45
-
物質から来る放射線でも、受ける放射線の
であるのか”をよくご存じないが故に生じ
種類や量が同じなら、発生源に関わらず影
ているであろう“過剰な不安”の解消につ
響は同じということです。発生源が、自然
ながるものと思われます。
界に元々あったカリウム 40 でも、原発事
多くの先端科学や技術の恩恵に浴し、日
故で出たセシウム 137 や 134 でも、そこ
常の便利さと快適さを享受している私達で
から出てくるガンマ線はガンマ線、ベータ
すが、それらの難しい理論や安全確保の仕
線はベータ線で、全く同じことなのです。
組みなどについては、普段、殆ど意識して
そして、自然放射線による被曝は所与の
いません。しかし、一旦、不都合が生じると、
こと、医療被曝はやむを得ないこととし、
その事実を、科学的に正確に理解し、判断
それと同じ作用をするものではあるが、人
し、対処することが、如何に難しいかとい
工的な追加被曝は、低線量であっても、出
う、今日的な課題を実感させられます。
来るだけ少ない方が良いだろうということ
写真入りの調査方法、調査結果の表等、
で、
「食品衛生法に基づく食品中の放射性
一般消費者向けに、比較的、分かり易く掲
物質の基準値」として、その追加被曝量に
載されています。詳しくは下記アドレスか
ついて定めたものなのです。4 月 1 日施行
らご覧下さい。
の、この基準値は、国際的にも厳しい(安
全側、低い方)水準となっています。
[日生協連 HP…食品中の放射性物質問題
話は戻って、今回の日生協連の調査は、
への対応]
放射性物質や放射線量に関し、そもそも“通
http://jccu.coop/info/radiation/2012/03/
常の状態がどうなっているのか”、また“基
post-1114.html
準値なるものの意味や前提がどういうもの
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