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公益財団法人大林財団
研究助成実施報告書
助成実施年度
2012 年度(平成 24 年度)
研究課題(タイトル)
バングラデシュ南部における主要構造に竹を用いた構法の研究
研究者名※
前田 茂樹
所属組織※
大阪工業大学
研究種別
研究助成
研究分野
建築技術
助成金額
100万円
概要
共同研究者である今本啓一(東京理科大学工学部建築学科准教授 博
工学部
建築学科
士(工学)の研究室にて、竹 ―鉄筋コンクリート複合構造における接
合部に関する基礎的研究、〜その 1 竹内部における定着要素〜
〜その 2 割裂挙動拘束材による補強効果〜 の 2 編の研究論文が執筆
され、研究の成果と課題が明らかになった。
またバングラデシュの竹―鉄筋コンクリート複合構造建築物におけ
る接合部の経年変化 (耐久性)の視察・研究も実施され次頁以降に示
されるような知見を得た。
発表論文等
※研究者名、所属組織は申請当時の名称となります。
(
)は、報告書提出時所属先。
1.研究の目的
バングラデシュのベンガル湾沿岸は、地理的条件によってサイクロン(大型台風)が頻発し、その暴
風雨と高波、社会的状況により、現代においても多くの人命、財産が失われている。2007 年 11 月に
この地域を襲ったサイクロン「シドル」は、約 4000 人の死者を出す大きな被害をもたらすなど対策が
急がれている。
人口約 1 億 5 千万人以上を抱えるバングラデシュにとって、地方の自治体は、現地住民の住居や学校
も、鉄筋コンクリート構造の住居を建てる資金は無く、沿岸地域の住民は、サイクロン襲来の度に生
活の糧である家畜や住居が流されては再建する状況が何十年も繰り返されている。調査により、シェ
ルターだけでなく安全性や耐久性を確保した上でより安価で住民自身が施工を行える、住居や学校の
開発が急務である。
本研究により竹を主要構造に用いる構法の安全性、耐久性が実証されれば、その研究結果を開示する
事により、より安価で住民自身が施工を行える住居や学校の開発への基礎研究となる。また、同様の
技術の発展により、バングラデシュの建築基準法において、鉄筋コンクリート造と同等の強度が認め
られれば、竹構造を主要構造としたサイクロンシェルターの開発へ繋がり、より早い年度でのシェル
ターの整備につながる。 2.研究の経過
申請者、共同研究者により以下の研究を行った。
1) 竹―鉄筋コンクリート複合構造における接合部に関する基礎的研究
~その1 竹内部における定着要素~
○ 小柴夕季(東京理科大学工学部建築学科)、小川裕史郎(同大学院工学研究科建築学専攻)、
今本啓一(同学科 准教授 博士(工学))、 清原千鶴(同学科 補手)
2013 年度日本建築学会 関東支部研究報告集掲載予定
2) 竹―鉄筋コンクリート複合構造における接合部に関する基礎的研究
~その2 割裂挙動拘束材による補強効果~
○小川裕史郎(同大学院工学研究科建築学専攻)、小柴夕季(東京理科大学工学部建築学科)、
今本啓一(同学科 准教授 博士(工学))、 清原千鶴(同学科 補手)
2013 年度日本建築学会 関東支部研究報告集掲載予定
3) バングラデシュの竹―鉄筋コンクリート複合構造建築物における接合部の経年変化(耐久性)
や僻地域での施工事例の視察・研究
○前田茂樹(研究申請者)
3.研究の成果
前項目 1)の研究の成果のまとめ
竹-RC 構造物の接合部について、竹にコンクリートを充填した CFB(Concrete Filled Bamboo)を
用いた端部から最初の節までの距離、コンクリートの充填深さ、鉄筋の埋め込み深さ、鉄筋と節
の位置関係等に関する実験・考察を行った。
その結果、接合部から竹の節まで距離が短く、節の残存隔壁の存在を利用してコンクリートおよ
び鉄筋を竹端部より節を越えて埋没することが接合部間の強度を確保する上で有効であることが
確認できた。CFB の内でコンクリートが充填されている位置では、断面剛性が高くなり、コンクリ
ートが引き抜けることで CFB の軸直交平面へ放射状に働く応力が生じ、竹の割裂に至ったと言え
る。竹に割裂が発生した後に荷重が下がり変位が増していることから、割裂を防ぐことが強度向
上のために有効であると考える。
前項目 2)の研究の成果のまとめ
「その 1」の実験の際の CFB の性能低下に関する破壊モードとして、竹の割裂が主要因となってい
ることが明らかとなったので、割裂挙動拘束材による補強効果を検討した。
(1) 竹の割裂に抵抗する拘束バンドの使用によって、CFB としての強度および最大荷重時の変形
能力が上昇することを確認した。
(2) 本研究のCFB部材の構造は竹内部の残存隔壁の強度に強く依存する。
(3) 竹に初期割裂があっても、拘束バンドにより耐力を向上させることができる。
(4) 拘束バンドの材質によって、竹本体の軸直行方向の変形能力に大きく影響があることを確認
した。
前項 3)の研究の成果のまとめ
建設後 5 年が経過した建築物における、竹にコンクリートを充填した CFB(Concrete Filled Bamboo)
部の経年変化による割裂は見られたが、拘束バンド等は用いられていなかった。
竹自体への防腐剤注入の有無が、経年変化に大きく影響を及ぼす。
経年変化によって損傷した竹構造や接合部は、地域の大工のみで解体や再施工が可能なように技
術継承が出来ていた。
4.今後の課題
・新たに検証が必要となった事項として、竹の個体差の影響と拘束バンドの拘束力(締付力)の影響が
挙げられ、引き続き検討を行う予定である。
・平成 24 年 10 月のバングラデシュ視察の際に、国民による政治ストライキが発生するなど、国
内情勢が不安定であったため、滞在や移動可能な期間が限られてしまい、実験施設にて検証
した結果を住宅等の構造計画へと反映させること等は今後の課題となった。