TMI 中国最新法令情報 ―(2015 年 11 月号)―

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TMI 中国最新法令情報
―(2015 年 11 月号)―
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皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事
の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下
さい。バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきますので、
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目次
一.中国最新法令
1. 中央法規
(1)インターネット分野における権利侵害及び偽造行為の取締り強化に関する意見
(2)中国(上海)自由貿易試験区における金融開放革新施行をより一層推進し、上海国際金
融センターの建設を加速する方案
(3)インターネット市場の監督管理を強化することに関する意見
2. 司法解釈
(1)『中華人民共和国刑法改正案(九)』の時間的効力問題に関する最高人民法院の解釈
二.連載 中国企業法実務/第九弾:刑事法
(第 2 回 刑法総則)
三.中国法務の現場より
1. 北京市の密雲県と延慶県が区に昇格
2.中国に学ぶべき裁判期日の調書作成のあり方
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一.中国最新法令(2015 年 10 月中旬~2015 年 11 月中旬公布分)
1.中央法規
(1) インターネット分野における権利侵害及び偽造行為の取締り強化に関する意見 1
国務院弁公庁 2015 年 10 月 26 日公布 同日施行
① 背景
現在、「インターネット+」 2を主要な内容とする電子商取引が急速に発展し、中国の
経済成長の重要な要素となっている。他方で、インターネット分野における知的財産権
の侵害及び偽造・劣悪商品の製造・販売といった違法又は犯罪行為(以下「侵害偽造行
為」という。)が多発するという問題も生じている。
そこで、3 年程度の時間をかけて、侵害偽造行為を効果的に抑制し、政府による監督、
業界による自律及び社会参加型の管理・監督体制を初歩的に構築し、電子商取引の健全
かつ秩序のある発展を促進する等の主要目標を実現させるために、国務院の同意を経て、
本意見が公布された。
② 主な内容
本意見は、(a)法に従った管理監督、(b)技術指示、(c)全体計画と部門間協力、(d)地
域連動、及び(e)社会共同取締りとの基本原則を挙げたうえ、侵害偽造行為の抑制等の目
標を実現するための具体的な対策を以下のとおり定めている。
ア 重点的な管理監督対象の特定
(a) インターネットにおける偽造・劣悪な農業物資、食品・薬品、化粧品、医療機器
及び電気・電子製品等社会的反響が大きく、健康に関わり、又は公共安全に影響
を与える商品の販売について、集中的に取締りを行う。
(b) 商標権、著作権及び特許権等の知的財産権の保護を中心として、インターネット
を利用して行われた侵害偽造行為について、厳しく取り締まる。
(c) ビッグデータ、クラウドコンピューティング、IoT3及びモバイルインターネット
等の新しい情報技術を利用し、市場に対する管理監督の方法のイノベーション及
び情報化のレベルアップを実現させる。
イ 企業責任の具体化
(a) 電子商取引プラットフォーム企業に対し、ネット経営者資格審査の強化、及び法
の執行部門による電子商取引プラットフォームにおける侵害偽造商品の経営者に
対する追跡調査への協力等を指導、促進する。
(b) ネットワークサービス業者に対し、「通知-削除」義務 4の履行を促す。
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国务院办公厅关于加强互联网领域侵权假冒行为治理的意见(国发[2015]77 号)
「インターネットの革新成果と経済社会の各領域と深く融合させ、技術発展、効率向上と組織変革を推進
し、実態経済の革新力と生産力を高め、広い範囲におけるインターネットを基礎インフラと革新要素とする
経済社会の新しい発展形態」と定義されている(「積極的に『インターネット+』を推進する行動に関する指
導意見」(国务院关于积极推进“互联网+”行动的指导意见、2015 年 7 月 1 日施行))。
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「Internet of things」(モノのインターネット)のこと。中国語では「物联网」という。
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「通知-削除」義務とは、ネットワーク利用者がネットワークサービスを利用して権利侵害行為を行い、
被権利侵害者がネットワークサービス提供者に対して、削除、遮蔽、接続の切断等の必要な措置をとるよう
通知した場合に、ネットワークサービス提供者が通知を受けた後、遅滞なく必要な措置を取る義務であると
理解されている(権利侵害責任法(2010 年 7 月 1 日施行)第 36 条第 2 項)。
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(c) 配送、倉庫保管、郵便及び宅配便等の流通関連企業による実名制の実施を指導、
促進する。ウェブサイトによる情報提供により、消費者の誤導を避ける。
ウ 法の執行に関する提携の強化
(a) 法の執行部門と司法部門との間における情報提供、案件相談、合同会議制度を整
備し、行政執行部門と警察、検察及び裁判機構の情報共有を実現させる。
(b) 電子商取引商品に関する地域間の法執行連携を整備する。
(c) 国外の法の執行部門との連携を強化し、侵害偽造行為に対するオンライン追跡、
国境を跨ぐ協力、合同取締りの作業体制を整える。
エ 持続的な体制の整備
(a) 電子商取引分野の法令の制定及び整備を加速し、オンライン商品取引規則、紛争
解決方法、法律責任及び管理監督の法的根拠、各種の電子取引証書、電子検査検
疫報告と証書の法的効力を明確にする。
(b) 全国統一の信用情報共有・交換プラットフォームと「信用中国」等の政府ウェブ
サイトを利用した信用喪失企業が記載されたブラックリストの公布等を通じて、
侵害偽造行為等の情報公開を強化する。
(c) 法の執行部門と電子商取引企業との情報交換及びコミュニケーションを強化し、
クレーム・告発及び違法案件の通報体制を整える。
(d) マスコミとネット情報プラットフォームを通じて、侵害偽造行為を公開し、社会
監督を強化する。
(2) 中国(上海)自由貿易試験区における金融開放革新施行をより一層推進し、上海国際
金融センターの建設を加速する方案 5
中国人民銀行、商務部、中国銀行業監督管理委員会、中国証券監督管理委員会、中国
保険監督管理委員会、国家外貨管理局、上海市人民政府 2015 年 10 月 29 日公布 同日
施行
① 背景
中国(上海)自由貿易試験区(以下「上海自由貿易区」という。)の発足から約 3 か月
後の 2013 年 12 月 2 日に、人民銀行は「中国(上海)自由貿易試験区建設への金融支持
に関する中国人民銀行の意見」6を公布(同日施行)し、居住者自由貿易口座の開設、投
融資両替の便利化、人民元のクロスボーダー利用の拡大、及び金利の自由化等の金融改
革の方針を示した。
2015 年 4 月 8 日には、国務院が「中国(上海)自由貿易試験区の改革開放方案をより
一層深化させることに関する通知」7を公布(同日施行)し、上海自由貿易区における資
本項目の自由両替可能性と金融サービスの開放を目標とする金融制度の革新及び上海金
融センター建設との連動を強化することを決定した。
同年 10 月 21 日には、国務院が常務会議を開催し、上海自由貿易区において金融改革
試行をより一層促進することを決定し、人民元資本項目における自由両替の拡大、自由
貿易口座の機能拡張、国内適格個人投資家による国外投資の試行、及び国外持分投資基
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进一步推进中国(上海)自由贸易试验区金融开放创新试点 加快上海国际金融中心建设方案
中国人民银行关于金融支持中国(上海)自由贸易试验区建设的意见(银发〔2013〕11 号)
国务院关于印发进一步深化中国(上海)自由贸易试验区改革开放方案的通知(国发〔2015〕21 号)
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金に対する支持等の改革方針を挙げた。
本方案は、上記の各規定と国務院の決定に基づき、上海自由貿易区における金融改革
方針を全 40 項目で取りまとめ、金融改革の方向性を明らかにしたものである。今後、か
かる方針を実現させるための関連実施細則の公布も期待される。
② 主な内容
ア 人民元資本項目の自由両替の実現
(a) 自由貿易口座における人民元・外貨一体化の各種業務を始動し、自由貿易口座の
機能をより一層拡大する。
(b) 自由貿易口座の開設及び使用条件を明確化する一方、経済主体が同口座を通じて
渉外貿易投資活動を展開すること、及び銀行、証券、保険類の金融機関が自由貿
易口座を利用して金融革新業務を展開することを支持する。
(c) 適格国内個人投資家による国外投資の試行開始を研究し、適宜、関連実施細則を
公布する。
(d) 早急に関連弁法を制定し、条件に合致する機構及び個人による国内外の証券・先
物市場での投資を許可する。
(e) 上海自由貿易区内のマクロプルーデンス管理枠組みに基づく国外融資及び資本流
動管理体系を導入し健全化する。
(f) 外貨管理体制を革新し、上海自由貿易区内で限度額内自由の試行展開を模索し、
個人による両替可能限度額の更なる拡大を総合的に調整・研究する。徐々に外貨
両替の限度額を拡大し、率先して自由両替を実現する。
イ 人民元クロスボーダー使用の一層の拡大
(a) 関連制度規則を整備し、上海自由貿易区内企業の国外親会社又は子会社が国内で
人民元債を発行することを支持する。
(b) 管理制度を整備したうえ、市場の必要性に基づき上海自由貿易区の個人事業者が
その国外での経営主体にクロスボーダー人民元の資金支持を提供することを始動
する。
(c) 国外人民元の投資還流ルートを拡大し、人民元資金のクロスボーダー双方向流動
を推進する。
ウ 金融サービス業の対内・対外開放の継続的な拡大
(a) 民営資本による民営銀行、金融リース会社、財務会社及びファイナンス・カンパ
ニー等の金融機関の設立を支持する。
(b) 各種銀行業金融機関が新設法人、分支機構、専門営業機関、専門子会社等の方式
で上海自由貿易区に参入することを支持する。
(c) オフショア業務資格を有する商業銀行が、上海自由貿易区においてオフショア関
連業務を拡大することを支持する。
(d) 上海自由貿易区における機関投資者向けの非標準資産取引プラットフォームの設
立を支持する。
(e) 上海自由貿易区内の証券・先物経営機関による証券・先物業務の相互乗り入れの
試行を展開する。
(f) 公募ファンド管理会社が、上海自由貿易区内においてインデックス・ファンド管
理業務に専門的に従事する専門子会社を設立することを許可する。
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(g) 証券・先物経営機関が上海自由貿易区内で率先してクロスボーダー・ブローカレ
ッジ等の業務を展開することを支持し、ファンド管理会社の子会社がクロスボー
ダー資産管理等の業務を展開することを許可する。
(h) 上海自由貿易区内において国外持分投資に専門的に従事するプロジェクト会社を
設立することを支持する。
(i) 外資金融機関が上海自由貿易区内で外資持分比率が 49%を超えない合弁証券会
社の設立を許可し、内資株主が証券会社であることを要求しない。
(j) 上海自由貿易区内における保険資産管理会社・子会社及び保険資金運用センター
の設立、保険資産管理機関による私募基金等の設立を支持する。
(k) 上海自由貿易区内における中外資再保険機関の設立、新型保険組織の設立及び専
門性保険サービス機関の設立等を支持する。
(l) 外資の健康保険機関の設立を支持する。
(m) 上海自由貿易区内におけるインターネット金融の革新・発展を支持する。
(n) 浦発硅谷銀行等のフィンテック・サービスを特徴とする銀行とベンチャー投資企
業等との戦略提携を許可し、投資・貸付連動を模索する。
(o) 金融業の総合経営の展開、金融持分会社の設立を研究・模索する。
(p) 上海自由貿易区内での金融開放領域の試行において外資に係る国家安全審査を展
開する。
(q) 銀行、証券、保険等の業界の各種機能性金融機関を集積、発展させる。
(r) 上海自由貿易区内において法人金融機関を設立し、海外進出の戦略を実施する。
エ 国際的な金融市場の建設の加速
(a) 中国外貨取引センターによる国際金融資産取引プラットフォームの建設を支持す
る。
(b) 上海黄金取引所国際業務ボードの後期建設を加速する。
(c) 上海証券取引所が上海自由貿易区で国際金融資産取引プラットフォームを設立す
ることを支持する。
(d) 上海先物取引所が国際エネルギー取引センターの建設を加速し、迅速に原油先物
の取引開始をさせることを支持する。
(e) 上海保険取引所の設立を支持する。
(f) 上海清算所による上海自由貿易区の区内及び国外の投資者に航運金融及びコモデ
ィティ商品場外デリバティブのクリアランス等のサービスの提供を支持する。
(g) 持分受託管理取引機関が上海自由貿易区内の科学技術型中小企業等への総合金融
サービスを提供することを支持する。
オ 金融監督管理の継続強化によるリスク管理
(a) 金融監督管理体制を整備し、行政審査項目及び事前認可事項を簡素化し、金融信
用情報インフラ施設の建設を強化する。
(b) 人民元・外貨一体化の監督管理体系を模索し、外貨口座管理体系を革新する。
(c) 上海自由貿易区において、部門、業界、市場を跨ぐ金融業務監督管理の協調及び
情報共有を強化する。
(d) 金融リスクを防止するため、クロスボーダー資金流動のモニタリング分析体制を
整備し、マネーロンダリング、テロへの資金提供及び脱税を取り締まる作業体制
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を強化する。
(e) 金融発展環境を積極的に整備する。
(f) 試行措置と行政法規、国務院文書、部門規則等の規定と不一致の場合、国務院に
調整・実施の決定を下すよう申請する。
(3) インターネット市場の監督管理を強化することに関する意見8
国家工商行政管理総局 2015 年 9 月 2 日公布 2015 年 10 月 1 日施行
① 背景
「電子商取引を大いに発展させて経済の新たな推進力の育成を加速することに関する
国務院の意見」9(2015 年 5 月 4 日公布、同日施行)及び「市場公平競争の促進及び市
場正常秩序の維持保護に関する国務院の若干意見」10(2015 年 6 月 4 日公布、同日施行)
等の国務院規範文書に定める趣旨を具体化し、事前の規範指導及び事中・事後の監督管
理を強化し、オンライン・オフライン一体となるインターネット市場監督管理の体系を
構築し、インターネット市場の健康で秩序的な発展を推進するため、国家工商行政管理
総局が本意見を公布した。
② 主な内容
ア 法に従ったインターネット管理の推進
インターネット市場の監督管理の規範化を強化する。電子商取引の立法及び関連法
律・法規の制定及び改正を積極的に実施し、工商法令のインターネット市場への拡大
適用を推進する。
イ インターネットを通じたインターネット管理の推進
技術手段と管理監督業務の融合を強化する。情報インターネットの技術手段を十分
に利用し、管理監督の法執行の効率と効果を高める。インターネット経営主体のデー
タベース及びインターネット監督管理用のプラットフォーム等のインターネット市
場監督管理の基礎インフラ施設を整備する。
ウ 信用に基づくインターネット管理の推進
信用のインセンティブによる制約体制の機能を十分に発揮する。企業信用情報公示
システムの建設に伴い、インターネット経営企業の情報公開責任を強化し、インター
ネット経営企業信用情報公示、経営異常リスト、重大違法企業リスト等の制度を徹底
し、信用喪失に対するペナルティーのインターネット市場監督管理における役割を効
果的に果たせる。
ウ インターネットに対する協力管理の推進
国家工商行政管理総局はインターネット市場監督管理工作の指導グループを設置し、
各地の工商、市場監督管理部門はそれを参考にして統一的な計画体制を構築する。オ
ンライン・オフラインの一体化となるインターネット市場監督管理を推進し、地域を
跨るインターネット取引案件の調査・処理、消費者権利保護等の作業に関する連携ル
ールを明確化し、地域を跨るスムーズな監督管理の連携体制を構築する。
エ 権利侵害及び偽造・劣悪商品の販売違反行為に対する厳格な取締り
8
国家工商行政管理总局关于加强网络市场监管的意见
国务院关于大力发展电子商务加快培育经济新动力的意见(国发〔2015〕24 号)
10
国务院关于促进市场公平竞争维护市场正常秩序的若干意见(国发〔2014〕20 号)
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インターネット上の商取引から偽造・劣悪商品等を追放することを目指す「紅盾網
剣(Red Shield Net Sword)」のキャンペーンを継続し、インターネット上の商取引商
品に対する重点モニタリングの常態化体制を構築する。
オ 商事制度改革との緊密な連動及びインターネット経営主体に対する管理の強化
登記登録制度の便利化政策措置を着実に実施し、インターネット経営者の工商登録
登記を促進し、インターネット商店の実名制度の更なる徹底を図る。
カ 「12315」ホットライン体制構築の積極的な推進
消費者苦情の受付、処理、監視を一体化するために構築された「12315」サービスネ
ットワークの全国インターネットプラットフォームを建設し、インターネット取引に
対する苦情申立と権利保護体制を整備する。
キ 各種インターネット関連経営行為の規範化による公平競争の保護
インターネット広告に対するモニタリング及び監督管理を強化し、虚偽のインター
ネット広告に対する取締りを強化する。
ク インターネット市場の新しい業態に対する研究を強化し、監督管理の規律を把握す
る。
ケ 末端組織のインフラ建設を強化し、インターネット市場の監督管理能力と水準を高
める。
2.司法解釈
(1)『中華人民共和国刑法改正案(九)』の時間的効力問題に関する最高人民法院の解釈11
最高人民法院 2015 年 10 月 29 日公布、2015 年 11 月 1 日施行
① 背景
全国人民代表大会常務委員会は、2015 年 8 月 29 日付で「中華人民共和国刑法改正案
(九)」12(2015 年 11 月 1 日施行、以下「改正案(九)」という。)を公布し、汚職、サ
イバー犯罪、虚偽訴訟及び収賄・贈賄等の犯罪に関する刑法条文の追加又は修正を行っ
た。最高人民法院は、改正案(九)が施行された後、即ち 2015 年 11 月 1 日以降の刑事
案件の審理において、人民法院が改正前後の刑法の適用関連問題を定めるため、中華人
民共和国刑法(1997 年 10 月 1 日施行、2015 年 11 日 1 日改正施行、以下「刑法」という。)
の遡及効に関する規定(刑法第 12 条)に基づき、本司法解釈を制定・公布した。
② 主な内容
改正案(九)の主な内容は以下のとおりである。
(a) 2015 年 10 月 31 日以前に行われた、改正後の刑法第 27 条の 1 に定める職業上の
便利を利用する犯罪、又は職業に求められる特定の義務に違反する行為を実施す
る犯罪に該当する行為については、原則として同条を適用しない。
(b) 死刑執行猶予に処せられた犯罪者について、死刑執行猶予期間中であり、かつそ
の故意犯罪行為が 2015 年 10 月 31 日に行われていた場合、改正後の刑法第 50 条
第 1 項が適用される。
(c) 2015 年 10 月 31 日以前に、1 人が数罪を犯し、当該数罪のうち、有期懲役と拘役、
11
最高人民法院关于 《中华人民共和国刑法修正案(九)》时间效力问题的解释(法释〔2015〕19 号)
中华人民共和国刑法修正案(九)(主席令第 30 号)。また、当該修正案(九)の詳細については、「TMI
中国最新法令情報(2015 年 9 月号)」の「一.中国最新法令」参照。
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有期懲役と管制、又は拘役と管制に処するため、併合罪とされた場合、改正後の
刑法第 69 条第 2 項が適用される。
(d) 2015 年 10 月 31 日以前に、インターネットを通じて刑法第 246 条第 1 項に定める
侮辱又は誹謗を行い、被害者が人民法院に提訴したにもかかわらず、証拠を提出
することが確かに困難である場合、改正後の刑法第 246 条第 3 項が適用される。
(e) 2015 年 10 月 31 日以前に行われた刑法第 260 条第 1 項に定める虐待について、被
害者に提訴する能力がなく、又は脅迫等により提訴不能の場合、改正後の刑法第
260 条第 3 項が適用される。
(f) 2015 年 10 月 31 日以前に行われた試験カンニングの組織及びそれに対する協力等
について、改正前の刑法に基づき、国家秘密の不法取得罪及び専用スパイ器材の
不法生産又は販売罪等に該当し、刑事責任が追及される場合、改正前の刑法が適
用される。但し、改正後の刑法第 284 条の 1 により刑罰が軽くなる場合、同条が
適用される。
(g) 2015 年 10 月 31 日以前に行われた虚偽訴訟、司法秩序の妨害又は他人の合法的な
権益の厳重侵害については、修正前の刑法に基づいて印鑑偽造罪又は立証妨害罪
等に該当し、刑事責任が追究される場合、改正前の刑法が適用される。但し、改
正後の刑法第 307 条の 1 により刑罰が軽くなる場合、同条が適用される。
(h) 2015 年 10 月 31 日以前に行われた贈収賄について、その事情が極めて重大であり、
改正前の刑法により死刑執行猶予に処せられれば罪刑均衡原則に適合しないが、
改正後の刑法により死刑執行猶予に処せられると共に、死刑執行猶予期間(2 年
間)が満了したことにより、無期懲役とされ、終身監禁、かつ刑罰の減軽及び仮
釈放を禁止することにより罪刑の均衡を実現できる場合には、修正後の刑法第
383 条第 4 項が適用される。他方で、罪刑の均衡を実現できない場合には、同項
は適用されない。
(田暁争・外国法事務弁護士)
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二.連載 中国企業法実務
第九弾:刑事法(第 2 回/全 6 回)
第1回
2015 年 10 月号
中国刑法の特徴
第2回
2015 年 11 月号
刑法総則
第3回
2015 年 12 月号
刑法各論 1
第4回
2016 年 1 月号
刑法各論 2
第5回
2016 年 2 月号
刑事訴訟法
第6回
2016 年 3 月号
治安管理処罰法
第2回
刑法総則
本連載の第 2 回となる今月号では、刑法総則を取り上げる。
総則部分においては日本の刑法と共通する部分も多く見受けられるものの、一部独特
の規定が存在している。そこで、日本の刑法との異動を踏まえつつ重要な内容について
説明する。
1.基本原則
刑法では、基本原則として以下の 3 つの概念を定めている。
(1) 罪刑法定主義
罪刑法定主義とは、法律が明文で犯罪行為と規定している場合は犯罪として処罰す
るが、法律の明文で犯罪行為と規定されていない場合は犯罪として処罰しないという
原則である 13。
かかる原則は日本の刑法では明文化されていないが、当然の原則として理解されて
いる14。
(2) 平等原則
平等原則とは、何人による犯罪に対しても、法律の適用は一律に平等でなければな
らないという原則である15。
日本の刑法では規定されていないが、憲法第 14 条第 1 項で法の下の平等が規定され
ている以上、刑法の適用に関しても当然に平等原則に服するものと考えられる。
(3) 罪刑均衡の原則
罪刑均衡の原則とは、刑罰の軽重は、犯罪者の罪及びその負うべき刑事責任に相応
するものでなければならないという原則である。
日本の刑法ではかかる原則は規定されていないが、法の下の平等及び罪刑法定主義
の趣旨から、当然の前提になっていると考えられる。
13
14
15
刑法第 3 条
日本国憲法第 31 条や第 39 条から罪刑法定主義を読み込むことができると理解されている。
刑法第 4 条
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2.刑法の適用範囲
刑法では、属地主義を中心に、補充的に属人主義、保護主義及び普遍主義を採用して
いる16。また、他国で裁判を受けた場合の取り扱いや、外交特権を有する外国人の取扱い
についても規定している17。具体的な刑法の適用範囲に関する規定は以下のとおりである。
属地主義
中国の領域内での犯罪には、法律に特別な規定がある場合を除き、刑法
を適用する。
第 6 条第 1 項
中国の船舶又は航空機内での犯罪についても、刑法を適用する。
第 6 条第 2 項
犯罪の行為又は結果の一部が中国の領域内で発生した場合、中国の領域
内での犯罪とみなす。
第 6 条第 3 項
属人主義
中国の国民が中国の領域外で刑法上の罪を犯した場合、刑法を適用す
る。但し、最高刑が 3 年以下の有期懲役の場合、追及しないことができ
る。
第 7 条第 1 項
中国の公務員又は軍人が中国の領域外で刑法上の罪を犯した場合、刑法
を適用する。
第 7 条第 2 項
保護主義
外国人が中国の領域外において中国国家又は国民に対する罪を犯し、当
該犯罪の法定刑の下限が 3 年以上の有期懲役である場合、刑法を適用す
ることができる。但し、犯罪を行った場所の法律に照らして処罰を受け
ない場合を除く。
第8条
普遍主義
中国が締結又は参加している国際条約に規定された犯罪行為について
は、国際条約で中国が義務を負う範囲内において管轄権を行使する場
合、刑法を適用する。
第9条
その他
中国の領域外で罪を犯し、刑法に照らして刑事責任を負うべき場合、外
国で裁判を受けたとしてもなお刑法上の責任を追及することができる。
但し、外国で既に刑の執行を受けている場合、刑を減免することができ
る。
第 10 条
外交特権及び免責権を有する外国人の刑事責任については、外交ルート
を通じて解決する。
第 11 条
3.犯罪及び刑事責任に関する諸原則
(1) 犯罪の定義
刑法では、犯罪を「国家主権及び領土の完備と安全に危害を加え、国家を分裂させ、
又は人民民主政権若しくは社会主義制度を転覆させ、社会秩序及び経済秩序を破壊し、
国有財産又は労働集団の団体所有財産を侵害し、国民の私有財産を侵害し、国民の人
16
17
刑法第 6 条ないし第 9 条
刑法第 10 条及び第 11 条
10
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身権利、民主的権利その他の権利を侵害し、並びにその他社会に危害を加える行為で
あって、法律に照らして刑罰を受けるべき行為はすべて犯罪とする。但し、犯情が著
しく軽微であり、危害が大きくない場合、犯罪とみなさない。」と定義している 18。
(2) 故意犯処罰の原則
中国の刑法においても、日本と同様に故意犯が原則とされ、過失犯については法律
に過失犯を処罰する旨の規定があって初めて処罰される 19。
(3) 正当防衛・緊急避難
① 正当防衛
国家、公共の利益、本人又は他人の身体、財産及びその他の権利を現在進行してい
る不法な侵害から免れさせるために講じた不法な侵害を制止する行為については、侵
害者に損害を与えた場合、正当防衛として刑事責任を負わない20。
正当防衛が明らかに必要な限度を超えて重大な損害を生じさせた場合、刑事責任を
負う。但し、刑が必要的に減免される21。
現在進行している暴行、殺人、強盗、強姦、略取及びその他身体の安全に重大な危
害を及ぼす暴力犯罪に対して講じた防衛行為については、侵害者を死傷させた場合で
も過剰防衛に該当せず、刑事責任を負わない 22。
② 緊急避難
国家、公共の利益、本人又は他人の身体、財産及びその他の権利を現在発生してい
る危険から免れさせるために講じた緊急避難行為については、損害を与えたとしても
刑事責任を負わない 23。
緊急避難が必要な限度を超え、重大な損害を生じさせた場合、刑事責任を負う。但
し、刑が減免される 24。正当防衛とは異なり、必要な限度を超えていることが「明らか」
でなくとも刑事責任を負うこととなる。
(4) 責任能力
① 年齢に基づく刑事責任能力の有無
刑法では、年齢に応じて以下のとおり刑事責任能力の有無が定められている 25。
年齢
18
19
20
21
22
23
24
25
刑事責任能力の有無及び範囲
満 16 歳以上
刑事責任能力あり
満 14 歳以上
16 歳未満
故意の殺人、故意の傷害致重傷及び傷害致死、強姦、強盗、毒物販売、
放火、爆発、毒物混入罪については、刑事責任能力あり
刑法第 13 条第 1 項
刑法第 14 条及び第 15 条
刑法第 20 条第 1 項
刑法第 20 条第 2 項
刑法第 20 条第 2 項
刑法第 21 条第 1 項
刑法第 21 条第 2 項
刑法第 17 条第 1 項及び第 2 項
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14 歳未満
刑事責任能力なし
また、14 歳以上 18 歳未満の犯罪については、刑が減軽される26。
16 歳未満の者に刑事処罰を与えない場合、その親権者又は監護者に責任を持って管
理教育をするよう命令し、必要な場合には政府が収容して教育することもできる27。
なお、日本の刑法では 14 歳未満は一律に責任無能力者とされており 28、この点では
中国の刑法と共通している29。
② 心神喪失及び心神耗弱等
ア 心神喪失
精神病者が事理を弁識できず、又は自己の行為を制御することができない時点で危
害を生じさせ、法定の鑑定手続による確認を経た場合、刑事責任を負わない。但し、
その家族又は監護者に厳格な監視と治療を行うよう命令し、必要な場合には政府が強
制的に治療を受けさせることができる30。
これは、心神喪失者の行為を罰しないとする日本の刑法第 39 条第 1 項に相当する規
定といえる。
イ 心神耗弱
事理弁識能力又は自己の行為を制御する能力を完全には喪失していない精神病者の
犯罪については、刑事責任を負う。但し、刑を減軽することができる31。
この点、日本の刑法でも心神耗弱の状態で犯罪を行った場合、犯罪が成立した上で
刑が必要的に減軽される32。
ウ その他
酒に酔った者の犯罪については、刑事責任を問う33。
障害により声が出ない者、耳が聞こえない者又は目が見えない者の犯罪については、
刑を減免することができる34。
間欠性精神病者が精神の正常な時点で行った犯罪については、刑事責任を問う 35。
これらの規定は中国の刑法に特有の規定であり、日本の刑法には明文化されていな
い。但し、酒に酔った状態での行為について犯罪が成立することは日本の実務上確立
された取扱いであり、精神に障害を持つ者が事理弁識能力及び行動制御能力を有する
状態でなした行為について犯罪が成立することも争いはないと考えられる。他方で、
声、聴覚、視覚に障害を有する者の犯罪について刑が減免されるという規定は日本の
刑法には定められておらず、それらの障害については酌量減軽や量刑を考慮する際の
一要素にとどまると解される。
26
刑法第 17 条第 3 項
刑法第 17 条第 3 項
28
日本刑法第 41 条
29
日本では、20 歳未満の少年の犯罪については少年法が適用され、家庭裁判所が刑事処分相当と判断した
16 歳以上の少年については刑事裁判が行われる。
30
刑法第 18 条第 1 項
31
刑法第 18 条第 3 項
32
日本刑法第 39 条第 2 項
33
刑法第 18 条第 4 項
34
刑法第 19 条
35
刑法第 18 条第 2 項
27
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(5) 未遂・予備及び中止犯
① 未遂罪
犯罪の実行に着手した後、行為者の意思以外の要因によって既遂に至らなかった場
合、未遂罪とする36。未遂罪については、既遂罪に比して刑を軽くし、又は減軽 37する
ことができる38。
② 予備罪
犯罪のために道具を準備し、又は条件を整えた場合、予備罪とする 39。
予備罪については、既遂罪に比して刑を軽くし、又は減免することができる。
③ 中止犯
犯罪の実行中に自ら犯行を放棄し、又は有効に犯罪結果の発生を防止した場合、中
止犯とする 40。
中止犯については、損害が生じなかった場合には刑を免除し、損害が生じた場合に
は刑を減軽する41。
(6) 共犯
① 共犯
刑法では、共犯とは二名以上の者が共同して故意の犯罪を実行することをいい、共
同で過失犯罪を実行した場合は共犯として論じないとされている。なお、過失犯罪を
共同した場合、個別に処罰されることとなる 42。
犯罪集団の犯罪活動を組織若しくは主導し、又は共同犯罪のなかで主要な役割を果
たした者は主犯とされる43。この点、日本の刑法では、量刑の決定に際して共犯者間で
の役割分担について考慮することは一般的であるが、中国のように「主犯」という法
的概念は存在しない。
3 人以上が共同して犯罪を実施するために組成された比較的固定した犯罪組織を犯
罪集団とする44。犯罪集団を組織、主導した主要な者に対しては、集団のすべての犯罪
について処罰する45。「犯罪集団を組織、主導した主要な者」に該当しない主犯に対し
ては、参加又は組織若しくは指揮したすべての犯罪について処罰する46。このような概
念は日本の刑法には存在しない 47。
② 従犯
36
刑法第 23 条第 1 項
原文は「从轻或者减轻」である。「从轻」は法定刑の範囲内で刑を軽くすることを意味し、「减轻」は通
常の法定刑の下限よりも減軽された刑を科すことを意味する。
38
刑法第 23 条第 2 項
39
刑法第 22 条第 1 項
40
刑法第 24 条第 1 項
41
刑法第 24 条第 2 項
42
刑法第 25 条
43
刑法第 26 条第 1 項
44
刑法第 26 条第 2 項
45
刑法第 26 条第 3 項
46
刑法第 26 条第 4 項
47
但し、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律に基づく例外がある。
37
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共同犯罪において副次的又は補助的な役割を果たした者は、従犯とする48。従犯に対
しては、刑を軽くし、又は減免することができる49。
③ 教唆犯
他人の犯罪を教唆した場合、共同犯罪における役割に応じて処罰する。18 歳未満の
者を教唆した場合、重く処罰する 50。被教唆者が犯罪を実行しなかった場合、教唆犯に
対して刑を軽くし、又は減軽することができる51。被教唆者の年齢によって刑が重くな
るという規定は日本の刑法にはない特徴といえる。
③ 脅迫されて犯罪に参加した者
脅迫を受けて犯罪に参加した場合、犯情に応じて刑を減免する52。
(7) 単位犯罪
会社、企業、事業単位、機関又は団体が実行した社会に危害を及ぼす行為について
は、法律で単位犯罪と規定されている場合に刑事責任を負う53。単位犯罪の場合、単位
に対して罰金を科し、併せて直接責任を負う管理者及びその他直接責任を負う者を処
罰する54。
日本でも、刑法以外の各法令において、法人と被用者の責任を同時に認める規定(両
罰規定)が設けられている。
4.刑罰の種類
(1) 概要
刑法で規定されている刑罰の種類は以下のとおりである 55。
付加刑56
主刑
(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
(a) 罰金
(b) 政治的権利の剥奪
(c) 財産の没収
管制
拘役
有期懲役
無期懲役
死刑
また、罪を犯した外国人に対しては、上記の刑罰に加えて国外追放に処することが
できる57。
48
刑法第 27 条第 1 項
刑法第 27 条第 2 項
50
刑法第 29 条第 1 項
51
刑法第 29 条第 2 項
52
刑法第 28 条
53
刑法第 30 条
54
刑法第 31 条第 1 項。なお、刑法及び他の法律に異なる定めがある場合、当該規定に従って処罰される(同
条第 2 項)。
55
刑法第 32 条ないし第 34 条
56
付加刑のみを単独で科すこともできる(刑法第 34 条第 2 項)。
57
刑法第 35 条
49
14
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(2) 刑罰の内容
① 管制
管制に処せられた場合、言論、出版、集会、結社、旅行の権利等が制限される 58。管
制の期間は 3 か月以上 2 年以下とされる59。
② 拘役
拘役の期間は 1 か月以上 6 か月以下である 60。
③ 有期懲役
有期懲役の期間は、一部の例外 61を除いて 6 か月以上 15 年以下である 62。
④ 無期懲役
中国でも、日本と同様に死刑に次いで重い刑は無期懲役である。
また、日本と同様に一定の条件を充たした場合には仮出所が認められていることから
63
、いわゆる終身刑とは異なる。
⑤ 死刑
中国では、日本と同様に死刑制度が存在する。中国で死刑が法定刑に含まれる犯罪類
型は以下のとおりである。
犯罪類型
条文番号
国家の安全を害する罪
1. 国家反逆罪
第 102 条
(7 種類)
2.国家分裂罪
第 103 条
3.武装反乱・暴動罪
第 104 条
4.謀反投降罪
第 108 条
5.スパイ罪
第 110 条
6.国家機密・情報の窃取、探知、買収又は不法提供罪
第 111 条
7.敵援助罪
第 112 条
公共の安全に危害を及ぼ
8.放火罪
第 115 条
す罪
9.出水罪
だ 115 条
(14 種類)
10.爆発罪
第 115 条
11.危険物投放罪
第 115 条
12.危険な方法による公共安全危害罪
第 115 条
13.交通手段破壊罪
第 119 条
14.交通施設破壊罪
第 119 条
15.電力設備破壊罪
第 119 条
16.可燃性爆発性の高い設備破壊罪
第 119 条
17.航空機ハイジャック罪
第 121 条
58
刑法第 39 条
刑法第 38 条第 1 項
60
刑法第 42 条
61
執行猶予付き死刑判決が下され、執行猶予期間中に顕著な立功があった場合(刑が 15 年以上 20 年以下
の懲役に減刑される。刑法第 50 条)及び判決宣告前に複数の罪を犯した場合(有期懲役の上限が 20 年とな
る。刑法第 69 条)
62
刑法第 45 条
63
刑法第 81 条。なお、服役後の減刑については刑法第 78 条、
「減刑、仮出所案件の処理における具体的な
法適用に関する若干の問題に関する規定」第 1 条、第 7 条及び第 8 条に規定されている。
59
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犯罪類型
条文番号
18.銃・弾薬・爆発物の違法製造、売買、運搬、郵送、
第 125 条
貯蔵罪
19.危険物の違法製造、売買、運搬、貯蔵罪
第 125 条
20.銃・弾薬・爆発物・危険物質窃盗奪取罪
第 127 条
21.銃・弾薬・爆発物・危険物質強盗罪
第 127 条
22.偽薬品生産販売罪
第 141 条
23.有毒有害食品生産販売罪
第 144 条
公民の人身の権利、民主的
24. 殺人罪
第 232 条
権利を侵害する罪
25. 傷害罪
第 234 条
(5 種類)
26. 強姦罪
第 236 条
27. 誘拐罪
第 239 条
28. 女性・児童誘拐売買罪
第 240 条
29. 強盗罪
第 263 条
30. 暴動脱獄罪
第 317 条
31. 多衆被拘禁者奪取罪
第 317 条
偽劣商品生産・販売罪
(2 種類)
財産を侵害する罪
(1 種類)
司法を妨害する罪
(2 種類)
薬物を密輸、販売、運輸、 32. 薬物密輸販売運搬製造罪
第 347 条
製造する罪
(1 種類)
国防の利益を害する罪(2
種類)
横領収賄の罪
33. 武器装備・軍事施設・軍事通信設備破壊罪
第 369 条
34. 不合格武器装備・軍事施設提供罪
第 370 条
35. 横領罪
第 382 条
(2 種類)
第 383 条
第 385 条
36.収賄罪
第 386 条
軍人の職責に反する罪(10
種類)
37. 戦時中命令抵抗罪
第 421 条
38. 軍事情報隠蔽・虚偽報告罪
第 422 条
39. 軍事命令伝達拒否・虚偽伝達罪
第 422 条
40. 投降罪
第 423 条
41. 戦時中戦陣逃亡罪
第 424 条
42.軍人逃亡罪
第 430 条
43.軍事機密の窃取、探知、買収又は不法提供罪
第 431 条
44.武器装備軍事物資窃盗奪取罪
第 438 条
45.武器装備不法売却譲渡罪
第 439 条
46.戦時住民殺害財物強取罪
第 446 条
死刑判決の宣告に際しては、2 年間の執行猶予を付することができる 64。2 年間の執行
64
刑法第 48 条
16
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猶予期間内に故意の犯罪を実行しなければ、無期懲役に減刑される。さらに、顕著な立
功があった場合、15 年以上 20 年以下の有期懲役に減刑される。他方、故意の犯罪を行
い、かかる事実が確認された場合、最高人民法院の許可を得て死刑が執行される65。
また、犯罪当時 18 歳未満であった者及び裁判時に妊娠している女性に対しては、死刑
を適用しない66。
なお、死刑の執行猶予期間は判決確定の日から起算され、死刑の執行猶予期間満了に
伴って減刑された有期懲役刑の期間は執行猶予期間満了の日から起算される 67。
⑥ 罰金
罰金については、犯情に基づいて金額が決定される 68。日本では犯罪ごとに罰金額の
範囲が法定されているのに対し、中国では事案に応じて決定されるという点に特徴があ
る。
⑦ 政治的権利の剥奪
政治的権利の剥奪とは、具体的には以下の各権利を剥奪することを指す69。
(a) 選挙権及び被選挙権
(b) 言論、出版、集会、結社、行進、デモの権利
(c) 国家機関の職務を担当する権利
(d) 国有企業等及び人民団体のリーダーを務める権利
政治的権利を剥奪する期間は、一部の例外 70を除き、1 年以上 5 年以下である 71。
⑧ 財産の没収
財産の没収とは、犯罪者個人が所有する財産の全部又は一部を没収する刑罰である。
財産の全てを没収する場合、犯罪者個人及びその扶養家族の生活費は留保する 72。
日本では犯罪行為を組成した物や犯罪行為の用に供した物等、犯罪に関連する物に限
って没収が認められるのに対し、中国では犯罪に関連しない個人の財産まで没収の対象
となる点が特徴的である。
5.執行猶予
(1) 執行猶予の要件及び期間
拘役又は 3 年以下の有期懲役刑を宣告された者に対しては、犯情及び反省の表現に
応じて、執行猶予を適用しても再び社会に危害を及ぼさないことか確実な場合、執行
猶予宣告をすることができる73。執行猶予宣告を受けた者が付加刑を宣告されている場
合、付加刑は必ず執行される74。
執行猶予期間は以下の範囲内で決定される 75。
65
刑法第 50 条
刑法第 49 条
67
刑法第 51 条
68
刑法第 52 条
69
刑法第 54 条
70
死刑又は無期懲役に処せられた者は政治的権利も剥奪される。執行猶予付き死刑判決を宣告され、無期
懲役又は有期懲役に減刑された場合、3 年以上 10 年以下の政治的権利の剥奪が付加される(刑法第 57 条)。
71
刑法第 55 条第 1 項
72
刑法第 59 条第 1 項
73
刑法第 72 条第 1 項
74
刑法第 72 条第 2 項
75
刑法第 73 条第 1 項
66
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宣告刑
執行猶予の期間
拘役
宣告刑の拘役期間以上 1 年以下
(但し、2 か月を下回ることはできない。)
有期懲役刑
宣告刑の懲役期間以上 5 年以下
(但し、1 年を下回ることはできない。)
(2) 執行猶予の効果
執行猶予期間が満了し、以下のケースに該当しない場合、刑の執行を免除される76。
(a) 新たに罪を犯した場合
(b) 判決宣告以前にまだ判決を受けていない罪を犯していたことが発覚した場合
(c) 法律、行政法規又は国務院公安部門の関連規定に違反し、情状が重い場合
他方、上記(a)又は(b)に該当する場合、新たな罪又は新たに発覚した罪について判
決を受け、執行猶予付き判決を受けた罪と併せて処罰を受ける77。また、上記(c)に該
当する場合、執行猶予が取り消される78。
6.時効
中国でも日本と同様に時効制度が設けられており、一定の期間を経過した犯罪は訴追
されない。具体的な時効期間は以下のとおりである79。
法定刑の上限
訴追時効の期間
5 年未満の有期懲役
5年
5 年以上 10 年未満の有期懲役
10 年
10 年以上の有期懲役
15 年
無期懲役又は死刑
20 年80
他方、日本では刑法ではなく刑事訴訟法で公訴時効期間が規定されており、その内容
は以下のとおりである。
【人を死亡させた場合 81】
犯罪類型
公訴時効の期間
死刑に当たる罪
なし(対象外)
無期の懲役又は禁錮に当たる罪
30 年
長期 20 年の懲役又は禁錮に当たる罪
20 年
上記以外の罪
10 年
76
刑法第 76 条
複数の罪の間での罪数処理については第 69 条の規定に従う(刑法第 77 条第 1 項)。
78
刑法第 77 条第 2 項
79
刑法第 87 条
80
20 年経過後に訴追が必要と判断した場合、最高人民検察院の許可を申請しなければならない(刑法第 87
条第 4 号)。
81
日本刑事訴訟法第 250 条第 1 項
77
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【人を死亡させていない場合82】
犯罪類型
公訴時効の期間
死刑に当たる罪
25 年
無期の懲役又は禁錮に当たる罪
15 年
長期 15 年以上の懲役又は禁錮に当たる罪
10 年
長期 15 年未満の懲役又は禁錮に当たる罪
7年
長期 10 年未満の懲役又は禁錮に当たる罪
5年
長期 5 年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金
に当たる罪
3年
拘留又は科料に当たる罪
1年
上記のとおり、日本では殺人罪等一部の犯罪が時効の対象とならないのに対し、中国
では死刑に当たる罪であっても時効の対象となる点に特徴がある。
[応用編]
中国の刑法は 1979 年にされ、現在に至るまで 9 回にわたって改正されている。第 9 次
改正法は 2015 年 8 月 29 日に公布され、同年 11 月 1 日に施行されたばかりである。第 9
次改正によって、死刑が適用される犯罪が 55 種類から 9 種類減少し、46 種類となった。
日本人が中国で死刑判決を受ける例もあり、死刑判決を受ける犯罪の大部分は覚せい剤
の密輸である。執行猶予付き判決を受けて死刑の執行を受けない場合もあるが、2015 年 7
月 17 日時点で、1972 年の日中国交正常化後に 6 人の日本人に対して死刑が執行されてい
るとのことである83。過去の裁判例からすれば死刑判決を受けるのは 1 ㎏を超える覚せい
剤を密輸した場合が多いが、法律上は 50 グラム以上の覚せい剤の密輸、販売、運搬及び
製造には死刑が適用されうる。
これに対して、日本では覚せい剤の自己使用罪は、初犯の場合、懲役 3 年執行猶予 1 年
6 月が量刑の「相場」となっている84 85。読者の方々はもちろんのこと、99%以上の日本
人には無関係な問題ではあるが、中国では日本に比して薬物犯罪に対する処罰が極めて重
いことを理解し、決して薬物に手を出し、又は運び屋として利用されてはならない旨を肝
に銘じる必要がある。
(中城由貴・弁護士)
82
日本刑事訴訟法第 250 条第 2 項
http://www.sankei.com/world/news/150717/wor1507170026-n1.html
84
日本における覚せい剤の自己使用罪の法定刑は 10 年以下の懲役である(覚せい剤取締法第 41 条の 3 第 1
項第 1 号)。
85
日本における営利目的の覚せい剤輸入罪の法定刑は無期若しくは 3 年以上の懲役、又は情状により無期
若しくは 3 年以上の懲役及び 1,000 万円以下の罰金である(覚せい剤取締法第 41 条第 2 項)。
83
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三.
中国法務の現場より
1.北京市の密雲県と延慶県が区に昇格
11 月 18 日、北京市政府は北京市内の密雲県と延慶県を廃止して、それぞれ密雲区と延
慶区に昇格する旨の通知を正式に発表した。北京市はこれまで 14 の「区」と 2 つの「県」
から構成されていたが、これをもって全ての県が消滅し、16 区制となる。北京市における
市街地は天安門を中心とした東城区・西城区及びその周りの朝陽区・海淀区に集中してい
たが、近年の地価高騰や交通網の発達に伴って、年々郊外に住宅地が広がっている。2001
年に「県」から「区」に昇格された懐柔区も密雲や延慶のように森林や清流の広がる地域
であるが、昨年同地で APEC が開催されたことを契機に都市開発が活発化しているようで
ある。
ところで、中国にお住まいでない日本人は、
「北京市密雲県」というような「市」の中に
「県」が配置されている制度に違和感を覚えるかもしれない。さらに、中国では、浙江省
の「寧波市余姚市」のように「市」の中に「市」が配置されていることもあるが、これは
中国の行政区分における「市」に複数の種類があることによる。
そもそも中国の行政区画は大きく 4 種類に分類され、大きな区画から順に①省級、②地
級、③県級、④郷級とされている。
①省級の行政区には、四川省・遼寧省といった 23 の「省」、チベット自治区や内モンゴ
ル自治区など 5 つの「自治区」、及び北京市・上海市・重慶市・天津市の 4 つの「直轄市」
がある。広東省の人口は 1 億人を超え、新疆ウイグル自治区の面積(166 万㎡)は日本の
面積の 4.3 倍以上もある。人口や面積の規模でいえば、①省級の行政区はアメリカ合衆国
等における「州」に相当するといえよう。
次に、②地級の行政区には、成都市・瀋陽市などの「地級市(特に重要な地級市は『副
省級市』と呼ばれる)」や少数民族の「自治州」があり、規模的には、日本における「県」
に相当する。また、③県級の行政区には、
「県級市」や「自治県」があり、日本における「郡」
相当する。さらに、④郷級の行政区には「鎮」や「郷」がある。主に農村に見られる行政
区画であり、規模的には日本の「町」や「村」に相当するといえよう。
「市」には①省級の直轄市、②地級の地級市、③県級の県級市の 3 種類があるのがやや
こしいが、前述の「北京市密雲県」の場合、①省級の北京市の下に③県級の密雲県が置か
れ、
「寧波市余姚市」の場合、②地級(副省級市)の寧波市の下に③県級の余姚市が置かれ
ているのであり、中国の行政区画としては珍しいことではない。
級別
行政区画
例
①省級
省、自治区、直轄市
広東省、遼寧省/チベット自治区/北京市、上海市
②地級
副省級市、地級市、自治州
成都市、瀋陽市/済南市、温州市/延辺朝鮮族自治州
③県級
県級市、自治県
三河市、義烏市/融水ミャオ族自治県
④郷級
鎮、郷
宋庄鎮、楓涇鎮/管庄郷、孫河郷
(野中信孝・弁護士)
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2.中国に学ぶべき裁判期日の調書作成のあり方
(1) 日本のある衝撃的事件
近時、東京地裁において、単純な足し算引き算の計算ミスや曜日のミスによる 40 か所
の誤記につき判決の更正がなされたという事件がある 86。
当該事件の原告代理人によれば、控訴状作成の段階で、不審に思い検算をしたところ、
労働時間に関する多数の計算ミスが見つかったということである。当該事件は労災事件
であるため、労働時間の数字は重要な内容であり、また、誤記の数も多数であり、稀に
存在する誤字脱字とは同列に扱えない深刻な問題である。
当該事件は、原告代理人が、東京地裁に厳重抗議をして、判決の更正がなされたとい
う。
小職は、裁判所での修習時代(12 年ほど前)に、裁判官や書記官の方々が、一文字の
誤字脱字も許さぬ厳格なチェックの上で、判決を起案されている(修習生が起案した書
面は細部まで徹底的に直される)現場を見ているため、中国よりも優れた廉潔かつ精密
な司法だと信じていた日本の司法現場に何が起こっているのか気になった。
(2) 完璧主義の弊害
たまたま、先輩の裁判官と意見交換をさせていただく機会があった。裁判の進め方の
日中比較の話の中で、日本の今の実務では、期日の調書は、全部録音をし、業者に頼ん
で録音反訳をさせており、2 週間ほどで録音反訳が出て来てから、内容を全部確認して、
期日調書を完成させていると伺った。
確かに、この方法を取れば、証人尋問や代理人の弁論等、法廷でなされた発言の全て
が正確に記録されることにはなる。しかし、裁判所が、法廷で主張を聞き、証拠を見な
がら、不明な点を釈明し、当事者に主張立証を尽くさせ、心証を形成していくという作
業に 2 週間以上のポーズを置くことになる。これでは、効率は悪く、心証が新鮮なうち
に、裁判官が判決を起案したり、代理人が追加の主張や反論をしたりすることにとって
不利である。
ビジネスの世界では、議事録というものは、できるだけその日のうちに作成してレビ
ューに回すのがベストプラクティスである。時間が経てば経つほど記憶は薄れ、何がポ
イントかがはっきりしなくなる。また、記憶が鮮明なうちに参加者に共有して、誤りの
訂正や追加がないかの確認を求めることで、関係者が納得のいく議事録が成り立つ。
そもそも、法廷で述べられたことの正確な反訳があったところで、法廷で言い間違い
や、不明確な主張がなされることもあり、それに基づく調書が最善の記録とは言えない。
真剣勝負を行った双方当事者が、その場で、確認・訂正することこそが、まさに、裁判
における口頭主義、直接主義のメリットを最大限に生かすことができるのではないだろ
うか。
(3) 中国の法廷での実践
中国の裁判実務では、法廷において、書記官がパソコンで調書を同時進行で作成し、
当該期日終了後に直ちに、その場でプリントアウトして、双方当事者に内容を確認させ、
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http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/150625/cpb1506251939003-n1.htm
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訂正事項があればその場で訂正させる。そして双方当事者に署名させる87。
一部の裁判所では、原告席と被告席の上に、それぞれモニターが設置され、書記官が
調書を作成している画面を映し出すという試みもなされている。これだと、リアルタイ
ムで、当事者が主張した内容が調書に正しく記載されているかを確認することができる。
確かに、中国の調書は、書記官がその場にてパソコンで打ち込むため、発言内容が一
言一句記載されるものではなく、要約が存在する。また、当事者(代理人)にとっては、
その場で限られた時間内で署名を求められるのが原則であるため、じっくりと時間をか
けて他の資料と照らし合わせて確認するということは必ずしも容易ではない。
しかし、両当事者がチェックし、重要な点が網羅された調書をその場で作ることのメ
リットの大きさは、明らかであると思われる。そして、実際に、中国では開廷のペース
が速く、判決が迅速に出る傾向がある。
(4) 提言
冒頭に述べた事件のミスが起こった実際の原因は部外者には知る余地はないが、もし
かすると、裁判官や書記官が軽重問わず多数の案件の調書のチェックという事務作業に
忙殺され、肝心の判決の迅速かつ正確な作成を妨げているという背景もあるのではない
かと思われる。
司法制度改革により、2006 年より新しい司法試験制度が導入され、弁護士の数は急増
したが、統計によれば裁判官の数は特に増えていない。他方、裁判員制度への対応、
「即
独」に象徴される非熟練弁護士の増加への対応、事件の多様化・専門化への対応等で、
裁判官の負担は増えていると思われる。そのような中で、事件の軽重を問わず、多数の
調書の確認作業に追われるという構造があるとすると、それは、限られた司法資源の有
効利用を図るべき要請に反しているのではなかろうか。
中国の裁判制度にも多様な問題が存在することは事実であるが、どの制度にも優れた
一面は存在するものであり、裁判期日の調書作成のあり方については、中国の実践は大
いに参考になると思われる。
(弁護士・山根基宏)
TMI 中国最新法令情報―2015 年 11 月号―
発
行:TMI 総合法律事務所
監
修:何連明・外国法事務弁護士
編集主幹:山根基宏、中城由貴・弁護士
発 行 日:2015 年 11 月 30 日
87
中国民事訴訟法第 147 条第 1 項により、調書は法廷審理の全ての活動を記載して裁判官と書記官が署名
すべきとされる。同条第 2 項により、当事者と訴訟関与者にその場で又は 5 日以内に読ませて補正の申し立
てを認める。同条第 3 項により、法廷の調書には、当事者と訴訟関与者が署名又は捺印をすることとされる。
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