グローバル・プロパティ・レビュー (2015年第3四半期)

 2015 年 7‐9 月期 CELEBRATING 40 YEARS グローバル・プロパティ・レビュー
本書はモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのグローバル・リアル・エステート運用チームが作成したレポートを邦訳したものです
グローバル市場 株式市場および不動産関連証券市場のパフォーマンス(米ドル・ベース、2015 年 9 月末現在)
リターン
国/地域
株式市場
イ ン デ ッ クス
グローバル
MSCI
ワール ド
-8.3 %
-5.6 %
北米
MSCI
北米
-7.2 %
-6.1 %
米国
S&P500
-6.4
-5.3
カナダ
S&P トロント
総合指数
-14.9
-21.4
欧州
MSCI
ヨーロッ パ
-8.7 %
-4.7 %
英国
FTSE100
-9.6
-7.4
フランス
CAC40
-6.6
-1.0
ドイツ
DAX100
-11.5
アジア
MSCI
パ シフィッ ク
香港
当期
10年債利回り
リターン
年初来
不動産関連証券
イ ン デ ッ クス
FTSE EPRA/NAREIT
グローバル ・ デ ベロッ プド
FTSE EPRA/NAREIT
北米
FTSE NAREIT
エクイティ・リート
FTSE EPRA/NAREIT
カナダ
FTSE EPRA/NAREIT
デ ベロッ プド゙欧州
FTSE EPRA/NAREIT
英国
当期
年初来
対前期比
変化幅
-1.4 %
-4.2 %
-
-
1.6 %
-4.6 %
-
-
2.2
-4.0
2.04 %
-31 bps
-9.4
-13.8
1.43
-25 bps
3.8 %
6.6 %
1.6
10.7
FTSE EPRA/NAREIT
フランス
0.3
-9.4
FTSE EPRA/NAREIT
ドイツ
12.6
-13.1 %
-5.3 %
FTSE EPRA/NAREIT
デ ベロッ プド・ アジア
-10.3 %
ハンセン
-19.8
-8.8
FTSE EPRA/NAREIT
香港
-17.3
-12.5
日本
日経平均
-11.7
1.1
-4.5
オーストラリア
S&P /
ASX 200
-14.5
-16.2
-7.7
FTSE EPRA/NAREIT
日本
FTSE EPRA/NAREIT
オーストラリア
2015年
9月末
-
-
1.66 %
-38 bps
1.1
0.89
-30 bps
7.4
0.59
-18 bps
-9.5 %
-
-
1.52 %
-23 bps
-6.1
0.35
-10 bps
-7.5
2.61
-40 bps
出所:FactSet、EcoWin
*情報提供を目的としたものです。過去の実績は、必ずしも将来の成果等を示唆・保証するものではありません。
巻末のディスクレーマーを必ずお読みください。
1 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
不動産関連証券市場のパフォーマンス*、米ドル・ベース (2015 年 9 月末現在) 50%
30%
10%
-10%
-30%
-50%
-70%
38.3%
28.7%
30.1%
10.1%
28.0%
20.4%
14.3%
18.1%
15.9%
11.8%
11.0%
4.4%
2.5%
10.5%
-4.2%
-3.8%
8.3%
28.0%
15.9%
13.1%
7.0%
11.9% 12.0%12.6%
10.9%
6.8%
9.6%
9.2%
9.0%
8.3%
8.0%
5.4%
-6.5%
-7.0%
-5.8%
-16.9%
-15.7%
-37.7%
-47.7%
2015年
年初来
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
過去3年
過去5年
過去10年
過去15年
FTSE EPRA/NAREIT グローバル・デベロップド・リアル・エステート・インデックス
FTSE NAREIT エクイティ・リート・インデックス(米国)
NCREIF プロパティ・インデックス
出所:FTSE EPRA/NAREIT、FTSE NAREIT、NCREIF
リターンは米ドル・ベースで算出されます。期間 1 年未満のものを除き年率にて表示しています。FTSE EPRA/NAREIT グローバル・デベロップド・リアル・エス
テート・インデックスは、時価総額加重で算出されるインデックスで、北米、欧州、アジア市場の不動産関連証券の株価を反映します。FTSE NAREIT エクイ
ティ・リート・インデックスは、時価総額加重で算出されるインデックスで、米国で投資適格商業用不動産を所有・管理・リースする不動産関連証券全ての株
価を反映します。NCREIF プロパティ・インデックスは、全米不動産投資受託者協議会が四半期ごとに公表する実物不動産のインデックスで、個々の商業用
不動産を集計したトータル・リターンを示し、不動産投資成果を評価する指標として普及しているものです。
*情報提供を目的としたものです。過去の実績は、必ずしも将来の成果等を示唆・保証するものではありません。
2 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
概況
FTSE EPRA/NAREIT グローバル先進国リアル・エステート指数は 2015 年 7-9 月期に米ドル建
てで 1.4%値下がりした(現地通貨建てで 0.5%値下がり)。この結果、年初来のリターンは
4.2%下落(現地通貨建てで 1.8%下落)となり、前の期からマイナス幅を広げた。世界の不動
産株は 7 月に 3.5%値上がりした後、8 月に 5.9%反落し、9 月に 1.2%上げ戻した。8 月には投
資家のセンチメントがネガティブに振れたことを映して、主要 3 市場すべてが下落した。様々
なマクロ面での懸念、とりわけ中国経済の減速に対する懸念が強まり、株価低迷を招いた。7-9
月期にはアジアが 10.3%値下がりしてパフォーマンスが最も悪化した。欧州および北米はそれ
ぞれ 3.8%と 1.6%上昇した。
今日の低リターン環境を踏まえて、不動産の期待利回りの低下を受け入れる投資家が増えるに
つれ、優良不動産資産の投資価値は復調を続けた。貸出状況の改善が続いたことに加え、借入
コストが依然低水準で推移したことも、投資価値の回復を後押しした。不動産市場に極めて高
水準の資本が流入し、ほとんどの優良市場で資産価額を史上最高値に押し上げた。米国の大半
のセクターとロンドンおよび香港のオフィス市場の業績は明るいものとなり、伸び悩んだ他の
大半の市場と好対照をなした。欧米市場の優良資産の投資価値は 2007 年に達成した天井をほ
ぼ回復したか、天井を凌いだ。キャッシュフローの伸びとキャップ・レートの改善が、回復を
後押しした。アジア市場では、香港でキャッシュフローの改善を主因に資産価額が回復した
(キャップ・レートの圧縮はさほど広範には見られていない)。これに対して東京では、資産
価額の改善はキャップ・レートの圧縮が主体となっている。ファンダメンタルズも小幅改善し
た。オーストラリアでは、事業ファンダメンタルズの冷え込みにもかかわらず、商業用資産に
対する投資家の需要は引き続き旺盛だった。
過去数年間の特徴として、世界中の市場で前例のない規模の政策導入が行われ、資本市場や市
場センチメント、ボラティリティに大きな影響を与えたことが挙げられる。大半の市場で刺激
的な金融政策が導入され、景気が浮揚、それに伴って資産価額が押し上げられ、優良商業用不
動産の資産価額が大幅に改善した。対照的にアジアの政策当局(中国、香港、シンガポール)
は、住宅市場の資産価額の急騰を抑え込む努力の一環として、数次にわたる行政措置を導入。
現在までにこうした政策はかなりの成果を上げた。一方中国では、不動産の下降サイクルと経
済成長鈍化に対する懸念から、7-9 月期中に政府はそれまでの引き締め策を反転させるスタン
スを維持し、更なる金融緩和に踏み切った。
3 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
FTSE EPRA/NAREIT グローバル・デベロップド・リアル・エステート・インデックスの時価総額の推移
(2015 年 6 月末現在)
(10 億米ドル)
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
地域
北米
欧州
アジア
グローバル
199 2 199 3 199 4 199 5 199 6 199 7 199 8 199 9 200 0 200 1 200 2 200 3 200 4 200 5 200 6 200 7 200 8 200 9 201 0 201 1 201 2 201 3 201 4 2015
9月末
北米
1992
15%
23%
63%
100%
1993
10%
21%
70%
100%
1994
22%
22%
56%
100%
1995
29%
20%
51%
100%
1996
31%
17%
52%
100%
1997
42%
20%
39%
100%
1998
41%
23%
36%
100%
1999
35%
22%
44%
100%
2000
40%
19%
41%
100%
欧州
2001
53%
17%
30%
100%
2002
56%
20%
24%
100%
2003
55%
20%
25%
100%
アジア
2004
53%
20%
27%
100%
2005
51%
19%
31%
100%
2006
45%
22%
33%
100%
2007
38%
19%
43%
100%
2008
43%
17%
40%
100%
2009
41%
18%
42%
100%
2010
45%
16%
39%
100%
2011 2012
53% 50%
14% 14%
33% 36%
100% 100%
2013
50%
15%
35%
100%
2015
2014 9月末
56% 55%
16% 18%
28% 27%
100% 100%
4 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
不動産関連証券インデックス・パフォーマンス*(米ドル・ベース、2015 年 9 月末現在)
インデ ックス・ ウェイト
FTSE EPRA/NAREIT グローバル・ デ ベロップ ド
FTSE EPRA/NAREIT 北米
カナダ
グローバル
100.0 %
55.5 %
2.8
インデ ックス・パフォーマンス
地域別
当期
-
100.0 %
5.0
-1.4 %
1.6 %
年初来
-4.2 %
-4.6 %
-9.4
-13.8
-4.0
52.7
95.0
2.2
賃貸アパート
8.0
14.4
7.2
8.8
学生専用賃貸アパート
0.5
0.8
-0.7
-10.5
プレハブ住宅
0.6
1.2
11.5
15.6
ショッピング・センター
4.5
8.1
4.4
-3.5
モール
7.7
13.9
4.1
-2.6
中心地区オフィス
4.3
7.8
-1.5
-8.1
郊外オフィス
3.0
5.4
-1.8
-8.2
特化型オフィス
1.8
3.2
0.0
-1.1
産業施設
3.3
6.0
4.1
-7.2
医療施設
7.0
12.6
2.5
-10.0
ホテル/リゾート
3.8
6.8
-13.8
-22.7
個人用倉庫
3.8
6.9
16.1
20.5
分散投資型/ 金融
0.8
1.4
-5.2
-6.1
ネット・リース
3.6
6.5
-1.4
-10.7
米国REIT
FTSE EPRA/NAREIT デ ベロップドEMEA
17.8 %
イスラエル
FTSE EPRA/NAREIT デ ベロップド欧州
0.1
17.7
0.7
99.3
0.0
3.8
23.1
6.6
ヨーロッパ大陸
10.8
60.6
5.3
3.8
オーストリア
0.3
1.6
7.2
6.0
ベルギー
0.5
2.6
1.9
-4.8
フィンランド
0.2
1.0
0.7
-9.9
フランス
1.5
8.5
0.3
1.1
ドイツ
3.0
17.1
12.6
7.4
ギリシャ
0.0
0.2
8.4
1.1
アイルランド
0.2
0.9
2.6
-4.8
イタリア
0.1
0.5
4.1
15.3
オランダ
2.5
14.0
4.0
2.5
ノルウェー
0.1
0.4
-12.1
-18.3
スペイン
0.5
3.0
4.9
12.0
スウェーデン
1.1
6.2
7.9
4.7
スイス
0.8
4.7
-3.9
1.6
英国
6.9
38.7
1.6
10.7
英国主要地区
3.6
20.3
1.7
6.8
英国その他
3.3
18.4
1.4
15.3
FTSE EPRA/NAREIT デ ベロップド・ アジア
26.7 %
100.0 %
100.0 %
3.8 %
-10.3 %
6.7 %
-9.5 %
オーストラリア
5.5
20.6
-7.7
-7.5
香港
8.1
30.3
-17.3
-12.5
香港不動産事業会社
6.9
25.8
-19.3
-13.1
香港リート
1.2
4.5
-6.2
-8.5
11.2
41.9
-4.5
-6.1
日本不動産事業会社
6.1
22.8
-5.5
-3.6
日本リート
5.1
19.0
-3.2
-9.1
ニュージーランド
0.1
0.3
-5.4
-12.5
シンガポール
1.9
7.0
-19.0
-18.2
シンガポール不動産事業会社
0.5
2.0
-24.9
-22.5
シンガポール・リート
1.3
4.9
-14.9
-16.1
日本
出所:FTSE EPRA/NAREIT、FTSE NAREIT、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
情報提供を目的としたものです。過去の実績は、必ずしも将来の成果等を示唆・保証するものではありません。
5 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
地域別市場
米国
概況
7-9 月期に米 REIT 市場は FTSE EPRA/NAREIT 米国不動産指数で見て 2.2%値上がりした。こ
れに伴い、年初来の下落率は 4.0%に縮小した。株価上昇は 7 月と 9 月に集中し(それぞれ
5.7%と 3.0%値上がり)、概ね金利低下と足並みを合わせる格好になった。8 月は株式市場の値
下がりと歩調を合わせて REIT 株も 6.1%反落した。マクロ経済に対する懸念、とりわけ中国経
済の減速がネガティブな影響を及ぼしかねないとの不安が高まったためだ。7-9 月期に 10 年物
国債利回りは 31bp 低下して 2.04%となり、4-6 月期の上昇分をほぼ下げ戻した。7-9 月期には
REIT は株式市場全体を大幅にアフトパフォームし、4-6 月期のアンダーパフォーマンスをほぼ
打ち消した。
中核不動産の資産価額は完全に回復し、平均的に見て今や 2007 年に達成した天井を 20%程度
上回っている。不動産各社の業績好調、優良資産に対する投資家の旺盛な需要、借り入れ状況
の改善などの要因に後押しされ、7-9 月期に不動産価額は値上がりした。今日の低利回り環境に
おいて、投資家の間で期待収益率の低下を受け入れる機運が高まったことも、追い風となった。
極めて低利の借り入れが利用可能で、LTV が 50-60%なら、借り入れ資金を利用して高いリタ
ーンが上げられる。ちなみにこのレバレッジ水準は危機前と比較してはるかに低い。
7-9 月期は企業活動が大きく活発化したことが注目される。中でも特筆されるのは、4-6 月に 3
件の株式非公開化案件(総額 115 億ドル)が実施されたのに続き、7-9 月期にも 2 件(潜在価
値[TEV:Traditional Embedded Value]140 億ドル)の株式非公開化案件が行なわれたことであ
る。具体的にはホテル REIT の Strategic Hotels (TEV60 億ドル)と、ライフサイエンス・オフィス
ビルに特化したオフィス REIT の BioMed Realty(TEV80 億ドル)の株式が非公開化された。両
ディールとも、実物不動産市場における価格高騰と、優良資産に対する投資家の旺盛な需要を
映し出す形になった。さらに、Macerich が 2 件のポートフォリオ・ジョイントベンチャー案件
の売却を発表した。売却金額は総額 54 億ドルで、キャップ・レートは 4%台前半。Macerich は
4-6 月期に Simon からの買収提案を拒否していた。売却金額は 12 億ドルの自社株買い(浮動株
の 10%)のほか、特別配当や債務返済に充てられる。
7-9 月期のもう 1 つの特徴として、資産売却を原資とする自社株買い活動が活発化したことが挙
げられる。実物不動産市場が引き続き堅調な推移を続けたのに加え、中核セクターにおける割
安な株価が原動力となった。自社株買いを特に積極的に行なったのはモール、ホテル、オフィ
ス REIT。年初来の自社株買い活動は 2008 年の金融危機の直前から金融危機の最中に実施され
た 15 億ドル――ちなみにこれらの活動はバランスシートのレバレッジという点でニュートラ
ル・ベースで行なわれたわけではない――に急速に近づいており、遠からずこの額を凌ぐと予想
されている。
伝統的なセクターを中心に、多くの REIT が買収から開発・再開発活動に焦点をシフトした。こ
の背景には、開発プロジェクトが卓越したリターンを生み出していることがある。加えて、企
業が選別姿勢を強化して極めて優良な資産の買収に焦点を当てていることや、資産の獲得競争
が顕著に激しさを増していることも、開発・再開発活動への焦点のシフトを促した。価格が上
がり過ぎて REIT は買収市場からはじき出されているのが実情である。開発・再開発活動は賃貸
住宅部門で最も広範に見られているが、他のほとんどの分野でも REIT の一部が活動を活発化さ
せている。全体として見れば開発活動は依然低水準ながら、優れた資本アクセスや開発能力を
6 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
映して、REIT がパイプラインのかなりの部分を握っている。対照的に、ファイナンス指向の
REIT はこれまで通り積極的な買収活動を繰り広げている。この要因として、株価がプレミアム
水準をつけている点が挙げられるが、これらの非中核資産を巡る機関投資家の争奪戦はさほど
激しくない事実も、もう 1 つの要因として指摘できる。資産売却に加えて、REIT は今も資本に
容易にアクセスできる恵まれた立場を利用して、引き続き外部活動に関わる資金の多くを、起
債や株式発行により調達している。株価の低迷を反映して、7-9 月期の株式発行額は 17 億ドル
にとどまり、1-3 月期の 63 億ドル、4-6 月期の 38 億ドルから減速した。7-9 月期には株式を発
行したのは、ほぼヘルスケアおよび特化型(データセンター)REIT に限られた。期中に IPO は
実施されなかった。7-9 月期の無担保社債の起債額は 60 億ドルに達し、引き続き活況を呈した
ものの、15 年 1-6 月期の四半期平均 80 億ドルのペースからは減速した。調達資金は買収によ
る外部成長に向けられたほか、低金利の恩恵を享受するとともに満期を先送りする目的で、満
期の近づいた債券の借換えに充てられた。
7-9 月期には米国不動産セクターは小幅な値上がりを記録した。主要セクターでは、賃貸住宅と
商業施設セクターが指数をアウトパフォームし、オフィス・セクターがアンダーパフォームし
た。賃貸住宅セクターがアウトパフォームしたのは、投資家が明るい事業ファンダメンタルズ
や新規供給の増加にブレーキがかかった点を好感したことによるとみられる。オフィス・セク
ターでは、中心商業地区(CBD)に立地する資産にエクスポージャーを有する REIT と、二番
手 CBD および郊外型オフィス REIT がアンダーパフォームした。特化型オフィス・セクターは
またもや指数をアウトパフォームした。データ・センターREIT の好調が牽引役を果たした。商
業施設 REIT はアウトパフォームした。ショッピング・センターREIT とモール REIT がともに
アウトパフォームした。ヘルスケア REIT は指数を小幅アウトパフォームした。中小セクターで
は、極めて好調な事業ファンダメンタルズを映して、倉庫株が 16.1%値上がりし、全セクター
の中で最も高いパフォーマンスを上げた。産業施設もアウトパフォームした反面、ネットリー
ス・セクターは指数をアンダーパフォームした。最も低迷したのはホテル・セクターで、13.8%
下落した。収益の落ち込みと、世界経済の減速に対する懸念が逆風となった。
主な投資戦略
・ ホテル、都心部のオフィス、アパート、モール等のオーバーウェイト
・ ネット・リース、ヘルスケア、スペシャルティ・オフィス等のアンダーウェイト
不動産関連証券のバリュエーション
優良資産の資産価額は完全に回復し、今や平均で 2007 年に達成した過去最高水準を約 20%程
度上回っている。全体として REIT 市場は 7-9 月期末に NAV に対して平均 6%ディスカウント
となった。留意すべきなのは、大半の不動産セクター(賃貸住宅セクター、モール、ホテル、
CBD オフィス)と金融会社/配当指向のセクター(ヘルスケア、ネットリース)のバリュエー
ションが大幅に乖離している点。前者は NAV に対して大幅ディスカウントで取引されている。
対照的に、後者は NAV に対して大幅プレミアムを付けている。
7 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
米国:市場価格/NAV プレミアムまたはディスカウントの推移* (2015 年 9 月末現在)
40
30
20
(%)
10
0
-10
-20
-30
-40
1992年
1994年
1996年
1998年
2000年
2002年
2004年
株価/NAVプレミアム(ディスカウント)%
2006年
2008年
2010年
2012年
2014年
期間平均
出所:Green Street Advisors、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
*情報提供を目的としたものです。予告無しに変更する場合があります。
8 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
カナダ
概況
カナダの不動産株は 7-9 月期に米ドル建てで 9.4%下落した。これは、期中にカナダ・ドルが対
米ドルで 7%近く下落したためで、カナダ・ドル建てでは 2.7%下落にとどまった。7-9 月期の
株価下落は、中国経済の低迷に対する懸念に加えて、長期化する原油価格の低迷がカナダ経済
にネガティブな影響を及ぼしかねないとの見方が引き金となった。カルガリーのオフィス市場
の悪化や、厳しさを増す小売環境の中で閉店を強いられる小売企業が増加したことも、株価下
落の一因となった。7 月にカナダ中銀は政策金利である貸出金利を 25bp 引下げて 0.50%とした。
予想外の利下げとなった 1 月の 25bp の引下げに続き、年初来 2 度目の利下げが行なわれた。
10 年物カナダ国債利回りは、4-6 月期末の 1.68%から 7-9 月期末には 1.43%に低下した。7-9
月期の株式発行額は 1 億 5900 万カナダ・ドルとなり、年初来の発行額は合計 14 億カナダ・ド
ルとなった。これは 2014 年の発行ペースをやや下回る程度だが、過去最高となった 2012 年の
68 億カナダ・ドル、及び 2013 年の 47 億カナダ・ドルにははるかに及ばない。株式発行額がこ
のようにペースダウンした原因として、株価バリュエーションの低下、投資機会が限定的にな
ったこと、資金調達の代替手段として企業が非中核資産の売却に一段と前向きになったことが
挙げられる。7-9 月期にカナダの上場不動産会社の無担保社債の発行活動はスローダウンし、2
億 7500 万カナダ・ドルが発行されただけだ。この結果、年初来の起債額は 25 億カナダ・ドル
にとどまった。カナダの上場不動産会社は 2014 年には 55 億カナダ・ドルと過去最高の無担保
社債の発行を行っていた。7-9 月期末にカナダの不動産株は NAV に対し平均 8%のディスカウ
ントとなった。カナダの不動産会社の場合、NAV はキャップ・レートの圧縮を牽引役とする資
産価値の力強い改善をすでに反映している事実を銘記したい。しかも、キャッシュフローの成
長見通しは依然として相対的に冴えない。
9 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
欧州
概況
欧州不動産株は 7-9 月期に 3.8%値上がりし(現地通貨建てで 5.6%値上がり)、年初来のリタ
ーンは 6.6%(現地通貨建てで 12.6%)に拡大した。欧州不動産株は 7 月に 6.1%上昇した後、
8 月に 2.0%反落、9 月も 0.2%続落した。主要市場の中で最も高いパフォーマンスを上げたのは
ドイツ、スウェーデン、オーストリアで、7-9 月期のリターンは米ドル建てでそれぞれ 12.6%、
7.9%、7.2%に達した。最も低迷したのはスイス、フランス、フィンランドで、スイスは 3.9%
値下がりした。フランスとフィンランドもそれぞれ 0.3%と 0.7%値上がりしただけだった。期
中にユーロは対米ドルで若干上昇した一方、ポンドは対米ドルで下落した。
大陸欧州を中心に、資本調達活動は減速した。株式発行による資本調達活動は 1-6 月期に 108
億ユーロに達した後、7-9 月期には 37 億ユーロにペースダウンした。7-9 月期には上場欧州不
動産会社による起債活動も減速し、期中の無担保債の発行額は 22 億ユーロにとどまり、2014
年 1-3 月期以来の最低水準を記録した。
7-9 月期は金融市場のボラティリティが高まったにもかかわらず、欧州商業用不動産投資市場の
活動にかげりは見えなかった。これは、貸出状況の改善と投資家の強い関心を背景に、不動産
取引高が引き続き好調に推移したためだ。2015 年 7-9 月期の投資活動は合計 661 億ユーロに上
り、4-6 月期の 626 億ユーロから増加した。前年の水準からは 24%増加した。欧州投資市場の
中で投資活動が最も活発に行われたのは引き続き英国で、7-9 月期には 233 億ユーロの物件が取
引された。次に活発だったのがドイツおよびフランスで、期中にそれぞれ 140 億ユーロと 71 億
ユーロの取引が行われた。7-9 月期にはそのほか多数の国で不動産取引が大幅に拡大、中でもベ
ルギー(+183%)とノルウェー(+140%)では投資額が 2 倍以上に膨らんだ。
欧州投資市場の活況、債券利回りの低下、貸出条件の改善を受けて、7-9 月期には欧州数都市で
優良物件の利回りがさらに下落した。平均で欧州の優良オフィス物件の利回りは 8bp 下落した。
期中に欧州全体で債券利回りが再び低下、欧州全体で平均利回りは 32bp 落ち込んだ。とりわけ
イタリア(-61bp)とスペイン(-41bp)で利回りが大幅に下落し、欧州全体の利回り低下を牽
引した。その結果、欧州優良オフィス物件の利回りと国債利回りの平均格差は期中に 24bp 低下
し、9 月末には 301bp となった。それでも利回り格差は過去 10 年間の平均格差 122bp の 2 倍
以上に達している。こうしたなか、債券利回りが引き続き低位にとどまり、賃料の伸びが加速
するなら、優良物件の利回りは一段と下落する可能性がある。借入がより容易になり、投資家
の需要が最優良物件以外にも広がりを見せている点を勘案すると、現在過去最高水準をつけて
いる優良資産と二流資産の利回りスプレッドは、今後縮小に向かうと予想される。
7-9 月期には英国上場不動産市場は米ドル建てで 1.6%値上がりし(現地通貨建てで+5.4%、ユ
ーロ建てで+1.4%)、欧州平均をアンダーパフォームした。英国不動産株は 7-9 月期末に公表
NAV に対し平均 1%ディスカウントとなった。英国の大手不動産株は平均 8%のディスカウン
トで取引されている。
12 月末に年度末を迎える英国の不動産会社の中間期決算では、NAV の伸びこそ減速したものの、
公表 NAV は引き続き予想を上回り、またしてもコンセンサス NAV 予測の上方修正につながっ
た。不動産各社では 2015 年 6 月までの 6 ヶ月間に NAV が加重平均ベースで 7.5%増加したが、
2014 年 12 月までの 6 ヵ月間における 9.5%増加からは小幅減速した。経営陣は引き続き先行き
を明るいとみており、商業施設セクターの業績改善を強調するとともに、ロンドンのオフィス
10 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
市場では供給逼迫を背景に賃料が一段と加速するとの見通しを示した。とはいえ今後、利回り
圧縮の寄与が低下し、代わって賃料の伸びが資本価値の伸びの最大の牽引役になるに伴い、
NAV の伸びはさらに減速するとみられる。上場不動産会社は 2015 年 6 月までの 6 ヵ月間に
NAV が平均 5.7%上昇、同じ時期に資産価額が 3.9%上昇した IPD 指数を上回った。
2015 年 7-9 月期に英国不動産市場の資本価値は、4-6 月期の水準から伸びが小幅減速したもの
の、上昇トレンドを維持した。取引事例ではなく不動産評価額を基にした投資用不動産のデー
タバンクであるインベストメント・プロパティ・データバンク(IPD)指数によれば、7-9 月期
の資産価額の伸びは 2.1%となり、1-3 月期に 1.6%増、4-6 月期に 2.2%増となった流れを引き
継いで底堅く推移した。資産価額は 7 月に 0.7%、8 月に 0.5%増加した後、9 月には 0.8%に伸
びが加速した。7-9 月期にはロンドン中心部のオフィスの資産価額が 3.5%上昇、引き続き最も
高い伸びを記録した。セクター別ではオフィス資産の価額は 3.1%増加し、再び最も大幅に伸長
した。次に高い伸びを示したのが産業用資産で、資産価額は 3.0%増加した。一方、期中に商業
施設は 0.8%の成長にとどまり、またもや出遅れた。商業施設セクターでは賃料の伸びが依然平
均に届かず、リターンの足枷となった。商業施設では 7-9 月期に賃料が若干伸びただけで
(+0.3%)、賃料が 2.3%増加したオフィス、1.4%増加した産業用資産を下回った。発表によれば
不動産資産全体では賃料の伸びは 1.2%に達し、四半期としては 2000 年 10-12 月期以来最も高
い伸びとなった。
IPD によれば、7-9 月期に当初利回りは 8bp 低下して 5.06%となった。それでもまだ当初利回
りは 2007 年 6 月の底を 47bp 上回っている。期中に 10 年物英国債利回りが 26bp 低下したのに
伴い、7-9 月期末の不動産当初利回りと 10 年物英国債利回りとのスプレッドは 330bp に拡大し
た。利回りスプレッドは長期平均を今なお 225bp 以上上回っている。さらに、賃料の一段の上
昇を受けて投資家の需要が引き続き伸びている点を踏まえるならば、不動産利回りは低下傾向
が続くと考えて良いだろう。ロンドン市場では利回りが安定し始めているが、ロンドン以外の
市場では利回り圧縮が続いている。賃料が上昇に転じたことや、金融情勢の改善が継続してい
ることが、この追い風となっている。とりわけ大きな恩恵を享受すると期待されるのが、高利
回りの二流資産。優良資産については、ここからの利回り低下は穏やかなものにとどまろう。
過去 2 年にわたり優良資産の利回りと二流物件の利回りの格差は縮小に向かっているが、それ
にもかかわらず、今も長期平均を 100bp 以上上回っている。現在、過去最高水準にある優良資
産の利回りと二流物件の利回りの格差は、今後縮小すると予想される。
大陸欧州の不動産株は 7-9 月期に米ドル建てで 5.3%値上がりした(現地通貨建てで 5.7%、ユ
ーロ建てで 5.1%それぞれ値上がり)。7-9 月期末に大陸欧州の不動産株のバリュエーションは
公表 NAV に対し、平均でおよそ 14%プレミアムとなった。優良物件の現在のバリュエーショ
ンは、量的緩和に牽引された利回り圧縮への期待感を反映していると思われる。大陸欧州の大
半の市場で、賃料の伸びはまだ穏やかな水準にとどまっていることが、そのように判断する理
由である。ここで注目したいのが、7-9 月期に発表された決算発表が失望的だった点だ。大陸欧
州の不動産会社は 2015 年 1-6 月期に利回りの圧縮がほとんど見られず、資本価値の伸びが予想
を下回った。対照的に英国では、バリュエーションの主たる牽引役が利回り圧縮から賃料成長
にシフトするに伴い、更なる NAV の伸びが期待される。しかも、英国企業は明るい景気見通し
が追い風となるうえ、大陸欧州の企業よりも財務体質が健全で、負債比率が低く、平均的に債
務の満期もより長い。成長見通しがより脆弱なのにプレミアムで取引されている欧州の不動産
株は、上記の観点から、英国の不動産株よりも依然として魅力に欠ける。
11 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
主な投資戦略
・ 英国のオーバーウェイト
・ ベルギー、スペイン、ドイツ等のアンダーウェイト
12 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
欧州主要オフィス市場賃貸料騰落率*
都市
2012年
2013年
ロンドン・シティ地区
3.6 %
ロンドン・ウェストエンド地区
0.0
10.5
パリ中心地区
-7.2
フランクフルト
0.0
ミラノ
ストックホルム
2014年
5.3 %
2015年
1-3月
2015年
4-6月
2015年
7-9月
2015年
年初来
6.3 %
2.5 %
0.0 %
3.2 %
3.1 %
9.6
2.2
0.0
2.1
4.3
-7.8
4.9
-2.7
-2.1
2.1
-2.7
6.1
0.0
0.0
1.4
0.0
1.4
-5.7
-10.0
4.4
0.0
0.0
2.1
2.1
4.8
0.0
2.3
0.0
0.0
0.0
0.0
マドリッド
-5.8
0.0
5.2
1.0
1.0
1.9
3.9
バルセロナ
-2.7
-4.2
2.9
1.4
5.6
2.6
9.9
0.0
0.0
3.0
0.0
0.0
0.0
0.0
ブリュッセル
-5.0
0.0
-3.5
0.0
0.0
0.0
0.0
欧州全域
-1.5 %
0.1 %
0.3 %
1.2 %
0.9 %
アムステルダム
2.0 %
-0.6 %
・
2015 年 7-9 月期、欧州のプライムオフィス賃料は前期比+1.2%の上昇。
・
主要都市の賃料では、ロンドン・シティ(+3.1%)、パリ(+2.1%)、ミラノ(+2.1%)、
マドリッド(+1.9%)バルセロナ(+2.6%)等が上昇
・
一方、ジュネーブ(-5.4%)の賃料は下落。
欧州主要オフィス利回りと 10 年債利回りの比較*
主要オフィス利回り
都市
2015年
6月末
2015年
9月末
( a)
ロンドン・シティ地区
4.00 %
4.00 %
ロンドン・ウェストエンド地区
3.50
パリ中心地区
3.50
フランクフルト
ミラノ
10年債利回り(ご参考)
当期
変化幅
2015年
9月末
( b)
当期
変化幅
2015年 9月末
スプレッド
( a ) -( b)
0.00 %
1.76 %
-0.26 %
2.24 %
3.50
0.00
1.76
-0.26
1.74
3.25
-0.25
0.99
-0.21
2.27
4.35
4.35
0.00
0.59
-0.18
3.76
4.50
4.50
0.00
1.73
-0.61
2.78
ストックホルム
4.00
4.00
0.00
0.73
-0.26
3.27
マドリッド
4.25
4.25
0.00
1.89
-0.41
2.36
バルセロナ
5.00
4.75
-0.25
1.89
-0.41
2.86
アムステルダム
5.00
5.00
0.00
0.78
-0.25
4.22
ブリュッセル
5.75
5.50
-0.25
0.91
-0.31
4.59
平均
4.39 %
4.31 %
-0.08 %
1.30 %
-0.32 %
3.01 %
・
当期不動産利回りは 4.31%(対前期比-0.08%)であり、10 年債利回りに対するスプレッド
は 過去 10 年間の平均スプレッドである 1.22%を引き続き大きく上回る過去最大となる
3.01%(対前期比+0.24%)。
出所:Jones Lang LaSalle、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
*情報提供を目的としたものです。現在の市場環境によるもので、予告無しに変更される場合があります。過去の実績は、必ずしも将来の成
果等を示唆・保証するものではありません。
13 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
市場価格/NAV プレミアムまたはディスカウントの推移* (2015 年 9 月末現在)
50
40
30
20
10
(%)
0
-10
-20
-30
-40
-50
1992年
1994年
1996年
1998年
2000年
汎欧州
2002年
2004年
欧州大陸
2006年
2008年
2010年
2012年
2014年
英国
出所:モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
汎ヨーロッパ:英国、フランス、スペイン、スウェーデン、フィンランド、オランダ、イタリア、オーストリア、ドイツ、スイス、ベルギーを含みます。ヨ
ーロッパ大陸には英国を含みません。
*情報提供を目的としたものです。予告無しに変更する場合があります。
14 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
アジア
概況
アジアの不動産株は 7-9 月期に米ドル建てで 10.3%下落した(現地通貨建てで 9.1%下落)。こ
の結果、年初来のリターンは-9.5 %に落ち込んだ(現地通貨建てでは-6.1%)。中国 A 株市場の
乱高下を背景とする投資家のセンチメント悪化、人民元の取引レンジの拡大、全般的な経済指
標の軟化などの要因が株価低迷を誘った。円を例外として、期中にアジア通貨は対米ドルで大
幅に下落した。
各国の不動産市場の動向
日本
CBRE によれば、7-9 月期の東京都心部のグレード A オフィスの空室率は 4.5%となり、4-6 月
期の 4.8%から低下した。一方、三鬼商事の総合オフィス指数は、空室率が 7-9 月期に 0.6%低
下して 4.5%となったことを示している。日本では大規模なオフィス・スペースの供給は限定的
であるにもかかわらず、テナントは依然賃料の引上げに抵抗を示している。慎重な事業センチ
メントやマクロ経済の不透明感が、その背景にある。テナント需要の中心となったのは、企業
のオフィス拡大や企業が数箇所に分散していたオフィスを 1 箇所にまとめる動きのほか、テナ
ントの入居しているビルが改修/再開発する間の移転先ニーズ。医薬品業界および医療サービ
ス関連業界における買収活動の活発化に伴い、より大きなオフィス・スペースを求める動きが
浮上したことも、テナント需要を牽引した。CBRE によれば、7-10 月期に東京都心部のグレー
ド A オフィスの賃料は前期比約 0.7%値上がりした。
7-9 月期末に日本の不動産事業会社は NAV に対し平均 16%のディスカウント水準で取引された。
この評価には事業ファンダメンタルズの小幅な改善しか織り込まれておらず、物件取引からう
かがえる実物不動産市場で達成されたキャップ・レートの低下も、十分織り込まれていない。
主要なオフィス市場の中で、キャッシュフローが依然としてサイクルの底近辺にあり、資産価
額が 2007 年以降の天井から大幅なディスカウントを付けているのは東京だけであることに注目
したい。極めて対照的に、7-9 月期の株価下落にもかかわらず、J-REIT は引き続き NAV に対し
て 18%という大幅なプレミアムを付けている。これはグローバル・ベースで最も大幅なプレミ
アムである。日銀による買い入れと、10 年物国債利回りと J-REIT の配当利回りとのポジティ
ブな利回り格差が、国内投資家を引き付けている。
香港
香港の不動産事業会社は 7-9 月期に米ドル建てで 19.3%下落した。オフィス市場のファンダメ
ンタルズが明るく、大規模住宅の取引数量と価格が堅調であるにもかかわらず、株価が下落す
る形になった。中国の景気減速、資本市場および為替市場の乱高下、利上げ懸念が投資家のセ
ンチメントの重石となった。さらに、小売売上が引き続き不振で、モールおよびショッピン
グ・センターの足を引っ張った。香港のオフィス賃料は全体で 7-9 月期に 2.8%上昇(年初来
7.6%上昇)し、全体の空室率も 4-6 月期の 3.5%から 7-9 月期に 3.0%に低下した。オフィス在
庫の供給が限定的であることを映して、中環の賃料は期中に 3.5%上昇(年初来 10.7%上昇)、
15 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
空室率は 4-6 月期の 1.7%から 7-9 月期には 1.2%に低下した。賃貸活動を主導したのは引き続
き中国本土の金融関連企業で、最近の中国 A 株市場の乱高下もこうしたトレンドの妨げとはな
らなかった。賃料の回復を受けて、投資家は引き続き中環のオフィス資産に強い関心を示して
いる。直接不動産取引は引き続き自宅用物件を求める買い手と投資家が主体で、投資家はキャ
ップ・レートの低さや金利上昇見通しをさほど懸念していないようだった。
7- 8 月に香港の小売売上高は前年比 4.2%減少し、前年比 0.9%下落した 4-6 月期から続落した。
この結果、年初来の下落率は 2.2%となった。観光客の減少、香港ドルの上昇、最近の株式市場
の動揺が、投資家センチメントを冷やし、小売売上高にも引き続きネガティブな影響を及ぼし
た。7-8 月は高級品の売上高が前年比 7.0%減少し、汎用品の売上高も同 3.4%減少した。観光
客の好みが高級品から中価格品に移行したことを反映し、高級品ブランドが店舗を縮小する一
方、中価格帯ブランドが香港で地歩を強化している。その結果、7-9 月期には高級品以外の小売
企業が賃貸取引の大勢を占めた。一方、より好調を維持している小売モールのオーナーは、強
い集客力を持ち、小売売上指数を上回る売上を記録していることから、賃料交渉において優位
な立場にあるとみられる。しかも、モールの賃料は中心街の店舗と比べて依然大幅に低い。
CBRE によれば、中心街の小売店舗の賃料下落と空室率上昇を最大の理由に、中核的な立地の
賃料は全般に 4-6 月期に比べて 9.1%下落しているとみられる。売上生産性の低下にもかかわら
ず、優良小売モールのオーナーは、依然として 2015 年も穏やかな NOI の上昇を目指している。
住宅部門では、7-9 月期に新築物件の販売件数は前の期よりも 31%減少したが、平均販売価格
は 15.5%値上がりした。米国の利上げ見通しが市場センチメントに重くのしかかるなか、7-8
月に不動産デベロッパーは新規プロジェクトの発進を控えた。ところが 9 月には一転して、住
宅購入者を引き付けるべく魅力的な融資プランを提供して、新たなプロジェットを次々に導入
した。例えば、SHK Properties は東涌の Century Link II プロジェクトの買い手に 2.5 年間、無
利子でセカンドハウス用住宅ローンを提供し、932 戸のうち 97%を売却した。7-9 月期には中
古住宅の販売件数は 3.2%減少したが、住宅価格は 2%値上がりした。7-9 月期に CCL 住宅価格
指数は 1.7%上昇し、年初来の上昇率は 10.2%に達した。
7-9 月期末に香港の不動産事業会社は NAV に対して平均 45%ディスカウント水準を付け、引き
続きアジアで最も高い価値を提供している。グローバル・ベースで最も大幅なディスカウント
で取引されているのみならず、事業ファンダメンタルズや資産価額にネガティブな影響を及ぼ
しかねない様々なリスクは、すでに株価に実態以上に織り込まれていると思われる。低い空室
率や事業ファンダメンタルズの下げ止まり、もしくは改善見通しに照らせば、とりわけそのよ
うに言える。株価はまた、将来的な香港や中国本土の住宅開発プロジェクトの価値を織り込む
のに、投資家が消極的なことを反映している。香港の不動産事業会社は依然としてレバレッジ
水準が極めて低い事実が、バリュエーションの割安感を一層募らせている。
オーストラリア
オーストラリアの REIT は 7-9 月期に米ドル建てで 7.7%値下がりした。大部分は豪ドル下落の影
響によるもので、豪ドル建てでは 1.0%値上がりした。オフィス市場では、7-9 月期にシドニーと
メルボルンの CBD の新築グレード A 市場のスペースの純取得がプラスとなった。にもかかわら
ず、大幅な新規供給が逆風となり、空室率はそれぞれ 7.8%と 10.1%と高止まりを続けた。その
結果、インセンティブ水準は 30-35%と極めて高い水準にとどまった。オフィス投資市場では、
CIC が Investa Property Group の資産を推定キャップ・レート 5.6%で買収し、新築グレード A
16 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
資産の新たな価格基準を設定した。過去 1 年間はシドニー、メルボルン、ブリスベンを中心に全
CBD で新築オフィス利回りが 50bp 前後低下した。小売部門では、2015 年 1-6 月期に豪中銀が実
施した 2 度にわたる利下げに支えられ、裁量消費支出が改善を始めた。豪ドル安を受けて国民が
海外旅行を控えたことも、消費支出を支えた。7-9 月期には株式発行活動が大幅にスローダウン
した。期中の株式発行額は 5000 万豪ドルにすぎず、年初来の発行額は 12 億 5000 万豪ドルにと
どまった。7-9 月期末にオーストラリアの REIT はほぼ NAV で取引された。
主な投資戦略
・ 香港、日本の不動産事業会社等のオーバーウェイト等
・ J-REIT、シンガポール・リート、オーストラリア等のアンダーウェイト等
17 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
市場価格/NAV プレミアムまたはディスカウントの推移* (2015 年 9 月末現在)
香港
日本
80
60
60
40
40
20
20
0
0
(%)
(%)
80
-20
-20
-40
-40
-60
-60
-80
1992年 1995年 1998年 2001年 2004年 2007年 2010年 2013年
-80
1992年 1995年 1998年 2001年 2004年 2007年 2010年 2013年
香港不動産事業会社
シンガポール
80
60
60
40
40
20
20
0
0
(%)
(%)
80
日本不動産事業会社
香港REIT
-20
J-REIT
オーストラリア
-20
-40
-40
-60
-60
-80
1992年 1995年 1998年 2001年 2004年 2007年 2010年 2013年
-80
1992年 1995年 1998年 2001年 2004年 2007年 2010年 2013年
シンガポール不動産事業会社
S-REIT
オーストラリア
出所:モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
*情報提供を目的としたものです。予告無しに変更する場合があります。
・ 香港の不動産事業会社は当該地域における実物不動産市場のファンダメンタルズおよび NAV の
評価水準を勘案すると、非常に割安感が強いと思われる。
・ 日本の不動産事業会社は J-REIT に対して引続き割安感が強く投資妙味が高いと思われる。東
京・主要五区の優良物件は、今後も賃料及び空室率の改善傾向が続くと推察される。
18 グローバル・プロパティ・レビュー 2015 年 7‐9 月期
当資料の複製、公衆への提示・引用および販売用資料への利用はご遠慮ください。当資料はモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントが海外で発行
したレポートを邦訳したもので、すべてのデータはモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのグローバル・リアル・エステート運用チームから入手したも
のです。邦訳に際してその解釈や表現に細心の注意を払っておりますが、邦訳による解釈や表現の違いが生じる場合は英文が優先し、当社は一切の責任を
負いません。当資料に含まれる情報等の著作権その他のあらゆる知的財産権は当社に帰属します。当社からの事前の書面による承諾なしに、当該情報を
商業目的に利用することを禁止します。 当資料の予想や見解は、必ずしもモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントの会社としての予想や見解ではありません。また予想や見解が実際に実
現するとは限らず、将来のパフォーマンスを示唆するものではないことにご留意ください。当資料の情報はモルガン・スタンレーの金融商品にかかわるものでは
なく、また商品を推奨するものでもありません。当資料で表明された見解は原書執筆時点の筆者の見解であり、市場や経済、その他の状況による変化を免れ
ません。これらの見解は推奨意見ではなく、広範な経済テーマの説明としてご理解ください。 当資料は情報提供のみを目的としたものであり、金融商品取引法、投資信託及び投資法人に関する法律に基づく開示資料ではありません。また、商品の売
買の助言もしくは勧誘または当社が提供するサービスに関する勧誘を意図するものではありません。当資料に含まれる情報は信頼できる公開情報に基づい
て作成されたものですが、その情報の正確性あるいは完全性を保証するものではありません。当資料で表示している過去の実績は、必ずしも将来の結果を保
証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り原書執筆時点現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に
断りのない限り原書執筆時点の見解を示すものです。当資料で表示した分析は、一定の仮定に基づくものであり、その結果の確実性を表明するものではあり
ません。分析の際の仮定は変更されることもあり、それに伴い当初の分析の結果と重要な差異が生じる可能性があります。 当社およびモルガン・スタンレーは、当資料に含まれる情報を利用し、信頼しまたは利用できなかったことに起因する一切の直接および間接の損害に対する
責任を負いません。 お問い合わせ先 モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント株式会社 〒100–8109 東京都千代田区大手町 1‐9‐7 大手町フィナンシャルシティ サウスタワー tel: 03‐6836‐5100 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 410 号 一般社団法人投資信託協会会員、一般社団法人日本投資顧問業協会会員 一般社団法人第二種金融商品取引業協会会員 © 2015 Morgan Stanley. All rights reserved. 19