算数・数学における「図形領域」の指導(講演)

鳥取数学教育研究会(Lapin の会)研修報告
算数・
算数・数学に
数学における「
おける「図形領域」
図形領域」の指導(
指導(講演)
講演)
講師:広島大学大学院 講師 影山和也
於:国民宿舎 グリーンスコーレせきがね
昨今の
昨今の談義:
談義:ICME12(
ICME12(TSG10)
TSG10)より
→図形領域で議論なされる話題として,「ソフトウエアの活用」,「テクノロジーを含む道具の使用」,「多様な
幾何的なアイデア(対称性,変換など)」,「推論と論証」が挙げられる。
→一方であまり議論なされないが,「空間幾何」,「初等幾何の教育的価値」,「高等幾何(公理,ベクトルな
ど)」,「ユーグリッドを含むカリキュラム論」も大切な話題であると考える。
→さらに個人的な関心事として,「数学を知るとはどういうことか?(正当化,妥当化)」,「認知論と認識論」,
「身体的認知と経験論」。
子どもたちは「
どもたちは「数学的知識」
数学的知識」をいかに「
をいかに「正当化(
正当化(justification)」
justification)」し
)」し示すのか
すのか(認識論)
認識論)について
→PME33 の基調講演(P.Ernest)によれば,「認識論は,知識の理論である構造と文字の知識だけでなく,
その正当化するための手段の両方に関係がある。(中略)数学の方法論は、認識論の次元である
(p.95)」
→Proof or justification schemes(Sowder and Harel,1998)によれば,子どもは〔外的〕⇒〔経験的・実証的〕
⇒〔数学的〕の順に正当化していく。実際に教室で認められた事例:「対称の中心」をめぐる議論(中 1)。
問題 「対称の中心」を求めなさい。
(1)長方形
(2)平行四辺形,ひし形
(3)円,正多角形
※(1)について,2 通りの方法が示された〔アイデアの生起:外的〕。
・対角線の方法:2つの対角線の交点が対称の中心
・中点の方法:隣り合う 2 つの辺について,辺とその辺の中点を通る垂線の交点が対称の中心
※(2)で,中点の方法を向かい合った辺の中点同士を結んだ交点へと修正〔アイデアの修正:経験的・実
証的〕。
※(3)で,円の性質から点対称な図形の捉え直し〔アイデアの概念化:数学的〕
→M.M.Rodd(2000,2010)によれば,視覚化(visualization)は,「数学的知識」の保証(warrant)になりうると
同時に新しい発見を導くもの。
問題 図で,四角形 DECF はどんな四角形になるか?(△EAC,△FCB,△DAB は正三角形)
D
D
E
E
F
点 C が動いたときも言えるか?
F
C
A
C
B
A
B
→視覚化する人/視覚化されたものを読む人の志向性(intentionality)や情意性(affect)に関わり,見るとい
う知覚的行為以上のものとなる。
初学者の
初学者の認識,
認識,数学者の
数学者の認識について
認識について
→E.Fischbein(1993)によれば,figural concept は,概念的性質と図形的性質を同時に持つ心的実体である。
数学的推論では定義や定理に頼るが,数学的発明・発見はイメージに頼る。
→初学者の認識は身体経験に強く依存し,数学者の認識は身体経験を柔軟に投射しつつ,身体経験の
影響を受けない。
問題 円周上の 3 つの角はすべて“同じ”と言えるか?(何ら操作することなく)→円周角の定理
※数学的定義:ある 1 点から等距離にある点の集合
※代数式: (x − a)2 + (y − b)2 = r 2
→これらの定義や式から導くことは初学者にとっては困難なはずである。通常,図的な論証で学習。
問題 正八面体の一面を水平においたときの,投影図は?
※数学的定義:すべての面が合同な正三角形で,すべての頂点において接する面の数が4つの多面体
→定義よりも経験。模型を見たり触ったりした経験がないと困難。
→立面図:平行四辺形(向かい合う面が平行),平面図:正六角形(向かい合う面は点対称の関係)
問題 ※H23 啓林館教科書より
→場面分析:数学的条件および視覚的/物理的制約は何か?すでにこの問題場面はかなり「数学化」され
ている。理想的な「平行光線」を用意することが困難。現実的には太陽光が一番近い。
問題 平行投影したとき,その影が正方形になる立体は「立方体」だけか?
→模型の観察において,視覚的に「奥行き」があるので正方形を見ることはできない。しかし,数学的に辺
の長さや角度は正方形になるはずである。
→モノの見え方は志向性による。
身体経験(
身体経験(physical experiences)
experiences)の解釈について
解釈について
→認識は認知を基盤とし,認知は身体経験および社会/文化と不可分である。
※正多面体の定義に関する実験(ポリドロン)授業後のエピソード
→2 つのピースではグラグラ⇒3 つでがっちり(身体経験を通した図形の決定条件の理解)
→「球」をつくるグループは,転がす(球に触れる-球に近い立体をつくる-転がす)
→身体的認知は集団に共通する部分も多いがあくまで個々の現象である。したがって,数学的アイデア分
析の結果は唯一絶対のものではなく,むしろ数学的知識は多様な数学的アイデアに支えられていること
を知るべきである。
(文責 山脇雅也)