光学シミュレーションによるLED照明設計手法の開発

福岡県工業技術センター
研究報告 No.25 (2015)
光学シミュレーションによるLED照明設計手法の開発
-LEDパッケージ詳細モデル作成手法の開発-
田中 雅敏 *1
古賀 文隆 *1
西村 圭一 *1
Development of LED Lighting Equipment Design Method
Using an Optical Engineering Software
- Development of LED Package’s Detail Models Design Method Masatoshi Tanaka, Fumitaka Koga and Keiichi Nishimura
LED照明器具の設計には光学シミュレーションソフトの活用が有効である。しかし,低い精度のLEDパッケージな
どの光源モデルを使用して解析を行い,LED照明器具を設計・製作すると,配光特性などの誤差が設計時と比べて
大きくなるという問題がある。そこで,LED照明器具に使用されるLEDパッケージの高精度モデルを作成するために,
外観や内部断面の寸法測定を行い,指向特性を測定した。本研究では,これらの実測した寸法や形状,波長分布,
指向特性,入手可能な材料光学特性の情報を用いることにより,実測値と解析値の最大誤差が約12%以内に収まる
LEDパッケージモデルを作成した。
1 はじめに
2 実験方法
近年,LED照明器具開発の効率化や高付加価値化の
LED パッケージの外観寸法を測定するためにマイク
ために光学シミュレーションソフトを用いた設計が注
ロスコープ((株)キーエンス,VH-8000)を用い,内
目されている。しかし,データシートに記載されてい
部断面寸法を測定するために X 線 CT システム((株)
る指向特性を用いて,光学シミュレーションソフトで
ニコンインステック,MCT225K)を用いた。また,LED
LEDパッケージモデルを作成し,LED照明器具の設計を
パッケージの封止樹脂形状を測定には,微細形状測定
行った場合,配光特性などの解析値と実測値の誤差が
装置(三鷹光器(株),NH-3SP)を用いた。
大きくなるという問題がある。これはLEDパッケージ
LED パッケージの指向特性と発光波長分布を測定す
が点光源と見なせる遠い距離(ファーフィールド)で
るために山口県産業技術センター所有の配光(指向特
測定した指向特性を用いて光学設計を行ったことに原
性)測定装置((株)スぺクトラ・コープ)を使用し
因がある。LED照明器具の設計には,LEDパッケージが
た。JIS C8152-1 の CIE 平均化 LED 光度測定条件であ
面光源と見なせる近い距離(ニアフィールド)で測定
るコンディション B で,LED パッケージ単体の場合及
した指向特性を用いる必要がある。今回は,ニアフィ
び LED パッケージ近傍にレンズを配置した場合の指向
ールドでの指向特性を測定せず,LEDパッケージ近傍
特性を測定した。レンズはエドモンドの TS 平凸レン
にレンズを配置し,ニアフィールドの影響を含んだフ
ズ 25.4×50.8(コーティングなし)を TS ケージ用レ
ァーフィールドでの指向特性を測定することで,ニア
ンズマウント 25/25.4MM 5MMD に固定したものを使用
フィールドでの指向特性と同等の光線情報を得ること
した。
を試みた。
照 明 設 計 解 析 ソ フ ト ウ ェ ア LightTools 8.1.0
本研究では,実測した寸法や形状,波長分布,指向
(Synopsys 社)を用いて LED パッケージモデル及び
特性,入手可能な材料光学特性パラメータを基にニア
指向特性測定系モデルを作成し,解析を行った。LED
フィールドに対応したLEDパッケージモデルを作成す
パッケージを構成する部品は微小(0.1~5 mm)であ
る手法を開発した。本稿では,市販されている表面実
り,反射率や透過率等の材料光学特性の実測が困難で
装型LEDパッケージ(LEDチップ+透明樹脂,以下「LED
あったため,LED パッケージモデルの材料光学特性パ
パッケージ」という。)のうち1例を挙げて報告する。
ラメータの一部は指向特性の解析値と実測値を比較検
証することにより探索した。
*1 機械電子研究所
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3 結果と考察
フィールドでの指向特性を測定した。図 5 に指向特性
3-1 LEDパッケージ詳細モデリング手法
の測定結果を示す。LED パッケージ近傍にレンズを配
3-1-1 LEDパッケージの形状・寸法測定
置した場合,LED パッケージから放射された光がレン
市販されている LED パッケージ A の外観を図 1 に示
ズで屈折された直接的な光とレンズで反射された光が
す。図内に表示したスケールを基に寸法を測定した。
LED パッケージや台座で反射して再びレンズへ向かう
内部断面を図 2 に示す。X 線 CT システム測定時に出
間接的な光が生じる。したがって,LED パッケージ近
力されるボクセルサイズ値を基に画像処理ソフトウェ
傍にレンズを配置した場合は,ニアフィールドの影響
ア ImageJ(オープンソース)を用いて測定した。LED
を含んだファーフィールドでの指向特性測定である。
パッケージの封止樹脂形状は一般に全反射損失を軽減
指向特性の測定と同時に測定した発光波長分布は波長
するために凹形状である
1)
。図 3 に封止樹脂形状を示
660 nm 付近をピークに半値幅約 10 nm となる赤色の
す。封止樹脂の凹形状は滑らかな曲線であり,中心は
光であった。
約 50 μm 凹んでいた。測定時に三次元データを得た。
図4
図1
図2
レンズ配置
マイクロスコープによる外観撮影
X 線 CT システムによる内部断面撮影
図5
指向特性(実測値)
3-1-3 LEDパッケージモデルの作成
LED パッケージの形状・寸法測定及び光学特性測定
結果を基に LightTools 8.1.0 を用いて, LED パッケ
ージモデル及び指向特性測定系モデルを作成した。ま
ず,LED パッケージのケースや LED チップ,金ワイヤ
ー,電極等のモデルを作成し,配置することで,図 6
に示す LED パッケージモデルを作成した。LED チップ
の放射パターンをランバート分布とし
図3
封止樹脂形状
2)-7)
,発光波長
分布には実測値を設定した。LED パッケージのケース
や電極等の材料光学特性パラメータの設定は表 1 に示
3-1-2 LEDパッケージの光学特性測定
す代表値
8)-11)
や事前にパラメータ探索した結果を使
LED パッケージ単体の場合及び図 4 に示すように
用した。また,カップの側面やリードフレームの表面
LED パッケージ近傍にレンズを配置した場合のファー
は図 7 のように梨地加工が施されており,光は散乱す
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ると推測できる。次に,配光測定装置の台座及び電極,
3-2 LEDパッケージ詳細モデリング手法の検証
測定時に使用したレンズのモデルを作成し,図 8 に示
3-2-1 LEDパッケージ単体の場合の解析結果
す指向特性測定系モデルを作成した。
本手法の有効性を検証するためにLEDパッケージの
指向特性の解析値を図 2 の実測値に一致させれば,
指向特性の実測値と解析値を比較し,LEDパッケージ
ニアフィールドに対応した LED パッケージモデルが作
モデルの精度及びパラメータを検証した。図9にLEDパ
成できたと考えられる。
ッケージ単体の場合の指向特性の比較を示す。角度60deg~60degでは最大誤差が約4%以内に収まっている
が,角度80degでは最大誤差が約11.5%となった。角度
80deg付近では放射強度が低いため,LED照明器具設計
に適用可能であると考えられる。しかし,このLEDパ
ッケージモデルを複数個使用する場合には誤差が累積
することが考えられる。したがって,より精度の高い
解析を行うためには更なるパラメータの検証を行い,
図6
表1
LEDパッケージモデル
LEDパッケージモデルを高精度化する必要がある。
材料光学特性(代表値:斜体表示)
リード
ワイヤー
部品
ケース
フレーム
封止樹脂
,電極
,電極
Ag
材質
PPA
シリコー
Au
メッキ
屈折率
1.53
透過/
0.8/
ン樹脂
-
-
-
-
1.50
1.0/
図9
1.0
LEDパッケージ単体の場合の指向特性の比較
長さ[mm]
0.5
反射率[%]
60
80
95
4
透過率[%]
30
0
0
95
3-2-2 LEDパッケージ近傍にレンズを配置した場合の解
吸収率[%]
10
20
5
1
析結果
面特性[%]
散乱
散乱
-
-
図10にLEDパッケージ近傍にレンズを配置した場合
の指向特性の比較を示す。角度-40~40degで誤差が3
~18%と非常に大きくなった。この原因として,配光
測定装置の台座と電極の反射の影響が考えられること
から,これらの材料光学特性パラメータの反射率及び
図7
面特性を変化させて指向特性を解析した。表2及び図
カップの側面及びリードフレーム拡大
11にその一例を示す。配光測定装置の台座と電極の反
射率及び面特性を変化させると,指向特性が変化した。
したがって,図10の誤差が大きい原因は配光測定装置
の台座と電極の反射率及び面特性の精度が低いことが
考えられる。
以上から,測定系モデルの精度が低いと,レンズを
図8
用いた解析が行えないということが判明した。今後,
指向特性測定系モデル
測定系モデルの材料光学特性パラメータの検証を行う。
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パッケージ単体の場合の指向特性(ファーフィールド
での指向特性)及びLEDパッケージ近傍にレンズを配
置した指向特性(ニアフィールドの影響を含んだファ
ーフィールドでの指向特性)を基に材料光学特性パラ
メータの特定を行った。現時点では,LEDパッケージ
モデルの材料光学特性パラメータの精度及び測定系モ
デルの精度は不十分である。
今後,LEDパッケージモデルの高精度化のため,LED
図10
レンズを配置した場合の指向特性の比較
パッケージモデル及び測定系モデルの材料光学特性パ
ラメータの検証を引き続き行う。
表2
台座と電極の材料光学特性
台座
パタ
電極
5 参考文献
ーン
反射率[%]
面特性
反射率[%]
面特性
①
60
鏡面
97
鏡面
②
80
鏡面
97
鏡面
③
60
散乱
97
鏡面
④
80
散乱
97
鏡面
⑤
80
散乱
97
散乱
1) 出向井幸弘,田嶌博幸:豊田合成技報,Vol.53,
pp.22-29(2011)
2) E ・ フ レ ッ ド ・ シ ュ ー ベ ル ト : 発 光 ダ イ オ ー ド
pp.118-157,朝倉書店(2012)
3) 秋元克弥,飯塚和幸,渡邊優洋,横山康祐,藤生
真二郎:工業技術研究誌
日立電線,No.29,pp.1-
4(2010)
4) 飯塚和幸,新井優洋,北野延明,秋元克弥,藤生
真二郎:工業技術研究誌
日立電線,No.28,pp.9-
12(2009)
5) 横山康祐,新井優洋,飯塚和幸,秋元克弥,国武
栄一:工業技術研究誌
日立電線,No.27,pp.23-
26(2008)
6) 一ノ瀬昇,中西洋一郎:次世代のための白色LED材
料,pp.22-27,日刊工業新聞社(2010)
図11
7) 一ノ瀬昇,田中裕,島村清史:高輝度LED材料のは
測定系モデルの精度が指向特性に与える影響
なし,pp.39-43,日刊工業新聞社(2005)
8) LED照明推進協議会:LED照明ハンドブック,
4 まとめ
pp.52-56,62-66,オーム社(2011)
本研究所で測定したLEDパッケージ内外の形状・寸
9) LED照明推進協議会:LED照明信頼性ハンドブック,
法及び山口県産業技術センターで測定した指向特性,
pp.75-108,日刊工業新聞社(2010)
入手可能な材料光学特性の情報を基にLEDパッケージ
10) 浦崎直人,小谷勇人,水谷真人,湯浅加奈子:日
詳細モデル作成手法の開発を行った。本稿では,開発
立化成テクニカルレポート,No.50,pp.7-10(2008)
手法の検証として,市販されているLEDパッケージを1
11) 横田省二:シャープ技報,第99号,pp.17-
例にして,モデル作成手順や実測値と解析値の比較,
19(2009)
材料光学特性について述べた。本稿の検証において,
実測値と解析値の最大誤差が約12%以内に収まるLEDパ
ッケージ詳細モデルを作成した。
本手法では,LEDパッケージ部品が微小であり,材
料光学特性の測定が非常に困難であることから,LED
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