第10回 白神山地世界遺産地域科学委員会 議事要旨

第10回 白神山地世界遺産地域科学委員会
議事要旨
作成:公益財団法人 日本生態系協会
開会挨拶
環境省 坂川所長
最近の課題として、ニホンジカへの対応と遺産地域の入山利用がある。
ニホンジカについては前回までの科学委員会での議論を踏まえ、世界遺産地域及びそ
の周辺地域での自動撮影カメラを設置し監視体制を強化した。その結果、昨年 10 月に
は青森県側、秋田県側それぞれでニホンジカが撮影された。世界遺産地域から 150m
という近いところで撮影されたため、危機管理を早急にと考えている。生息情報の把
握やニホンジカに関する普及啓発等の対応に努めていく。
遺産地域の入山利用に関しては、地元の意見も踏まえつつ、白神山地の世界遺産とし
ての価値を将来にわたって保全し、その保全が地域の発展にもつながるように、遺産
地域に精通した人材の育成や、緩衝地域での適正な利用の促進などについて検討を進
めていく方針である。
委員長挨拶
中静委員長:
世界遺産付近でシカが発生したということで、差し迫った事態となっていることが説
明された。2 番目の議題がニホンジカへの対応であるので、有益な助言をお願いしたい。
議題 1 資料 1-1~3 資料説明
環境省 藤井保護官:<資料 1-1~2 の 説明>
資料の 1-1 については、前回の委員会からの内容の変更はない。
環境省では平成 26 年度に 23 台のカメラを設置し、合計で 14 種 461 頭が撮影された。
ニホンザル、ノウサギ、カモシカの順に多く撮影された。
入山者数調査の結果、これまでで一番少ない入山者数であった。
ブナ林のフェノロジー調査として、櫛石山の気象観測施設で定点カメラを設置して調
査を実施した。
環境省 瀬川保護官:<資料 1-2 の 説明>
平成 26 年度のクマゲラ調査の結果、生息情報を持つ有識者へのヒアリングや資料のご
提供をいただき、取りまとめを行った。
結果として、最近のクマゲラの痕跡情報は少ないことがわかった。これは実際に調査
として現場に入った回数自体が少ないためであり、クマゲラの生息状況の全体像をと
らえるには至っていない。
林野庁 佐藤調整官:<資料 1-2 の 説明>
倒壊林冠発生木調査、最深積雪深調査、林内気温調査、入り込み利用調査の 4 つを実
施した。
ブナ 1 本が新たに倒木となった。これは胸高直径 68cm、樹高 24m のブナである。平
成 26 年の青森県側の調査結果では、高木性樹種のうち生立木の割合は 67%となってい
る。24 年 25 年に比べてやや減少傾向で推移している。秋田県側では、高木性樹種の
うち生立木の割合は 72%となっている。25,26 年とほぼ同じ割合で推移している。
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最大積雪深は、青森県側、秋田県側共に前年より少ない値になった。昨年 2 月から 3
月の林内気温の月平均値を見ると前年より高くなっており、一時的に気温が高かった
ことが、最大積雪深が前年より少なくなった要因と推測される。
林内気温では、月最高気温は、夏場は大きな差は見られないものの冬季は明らかに昨
年の方が高い月が多いという特徴が見られた。
入り込み利用調査では、昨年の 8 月から 10 月を通じ、白神ラインが閉鎖されていたた
め、追良瀬川、笹内川の利用者数が大変少なくなっている。一方閉鎖の影響のない大
川や暗門川の利用者は平年とあまり変わらなかった。
越年調査用カメラを、主に核心地域の冬季のブナ林の様子や積雪量の変化を撮影する
ために設置している。写真で 1 時間おきに記録し、データを整理している。
すぐ南側が遺産地域である調査地点 D-7 で、昨年 10 月にシカが 3 回撮影された。夜中
にも活発に活動していることが見て取れる。D-7 は人の入り込み利用調査のために設
置したカメラである。
『ニホンジカ監視カメラ』は、青森側は 22 台、秋田側は 23 台、計 45 台設置した。
青森側では、トータルで野生動物が 626 回撮影された。1 番多かったのがカモシカで
203 回である。ハクビシンが 2 回、アライグマが 4 回撮影されている。
秋田県側では、動物の総撮影回数が 1,277 回であった。ハクビシンとアライグマは秋
田側では撮影されていない。
青森県 皆上技師:<資料 1-2 の 説明>
21 年度から 23 年度まで白神山地の登山道における土壌硬度および浸食状況に関する
調査を実施した。6 ルートを調査し、いずれの調査地にも侵食は認められたもののオー
バーユースによる著しい荒廃は認められなかった。
青森県 石田総括主幹:<資料 1-2 の 説明>
航空機から森林の病害虫被害探査を実施した。鰺ヶ沢方面から深浦町方面を中心に探
査して、青森空港に戻るルートで、6 月 23 日と 9 月 3 日に実施した。いずれも異常木
が疑われるものが見つかったものの、調査の結果、被害はないと判明している。
秋田県 上田主査:<資料 1-2 の 説明>
松くい虫被害、ナラ類集団枯損等の森林病害虫の航空調査を毎年実施している。
昨年9月に実施した結果、松くい虫被害については八峰町の海岸地域で発生している。
徹底防除をしているが、鎮静化には至っていない。
ナラ枯れ被害については、確認されなかった。
環境省 藤井保護官:<資料 1-3 の説明>
気象観測調査で、昨年の調査において課題であった核心地域での積雪深の観測に成功
した。
調査開始から 15 年以上経ちシステムの老朽化も進んでいるため、来年度は必要性の高
い機器から交換し、モニタリングを滞りなく継続できるよう更新を図る。
ブナ林気象調査及びブナ林モニタリング調査については、来年度もブナ林モニタリン
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グ調査会と共同で連携を取りながら進める。
ブナ林のフェノロジー調査も来年度も継続して実施する。
中・大型哺乳類定点カメラ調査は今年度の結果を踏まえて来年度も引き続き実施する。
今年度は 23 台であったが、来年度は 27 台程度で実施の予定。
入山者数調査も継続して実施する。
林野庁 佐藤調整官:<資料 1-3 の説明>
原生的ブナ林の長期変動調査を来年度も継続して実施する。
定点カメラの哺乳類調査は、平成 26 年度に 45 台のカメラを設置して実施したが、来
年度は 5 台程度増やして監視強化に努める。
毎月、現場から各森林管理署にニホンジカ・チェックシートで報告を上げさせ、そこ
で取りまとめた年度末までの情報を管理局の担当課が吸い上げている。その情報を管
理局のホームページ上でグーグルアースにより視覚的にわかりやすくみなさんにお伝
えする準備を進めている状況である。
青森県 石田総括主幹:<資料 1-3 の説明>
松くい虫及びナラ枯れ被害木の早期発見、早期駆除のため、今年度同様の調査を継続
する。地上からの目視に加え、上空からの探査も実施する。
秋田県 上田主査:<資料 1-3 の説明>
9 月上旬に上空からの探査を実施する。松くい虫の被害が発生した場合には地上からも
調査予定。
議題 1 資料 1-1~3 質疑応答
由井委員:
クマゲラは毎年観察することになっている。クマゲラ調査をされた方も高齢化し、林
道も荒れて入りにくいため情報が少ない。
ここ 2~3 年は東北全体で繁殖情報がない。
かつては北海道からの飛来した分散個体がいたと考えられるが、
最近は北海道にも 500
羽ほどしかいない。
遺産区域内のブナ林でクマゲラの巣が 1 件確認されている。昨年か一昨年は 1 羽いた
が最近は目撃がない。後で正式に調査しようと考えている。
ブナの国有林では、遺産地域外でもクマゲラの記録もある。したがって今より一層周
辺のブナをまず保全して欲しい。
平成 27 年度の計画の中にシカ用のチェックシートがあるが、クマゲラも見ればわかる
ので、声や姿を見たら備考欄に記入することが望ましい。
幸丸委員:
映像など、多くの情報が集まっている。これを定量的な解析につなげることができる
だろうか。
環境省 西村次長:
今年度の結果報告により、定点カメラで哺乳類を確認可能であることが証明された。
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データが集まるほど定量的な解析が可能になるので、データを集約して中長期的なト
レンドを解析したい。
堀野委員:
一定割合で「不明」があるが、これはどのようなものか。
林野庁 佐藤調整官:
「不明」については、一部しか写っていないものや、動きが速いなどで画像が不鮮明
なものは不明とした。
時間的余裕があれば専門家の先生方に確認するようなやり方も今後考えていきたい。
基本的には環境省と連携しながらデータをより効率的に、定量的に分析するための整
理を想定している。
環境省 藤井保護官:
毛や羽の一部から哺乳類又は鳥類と判断できたものを表には「不明」として記載して
いる。この他、生物か無生物かもわからないものもあったが、枚数としては少ない。
由井委員:
青森県と秋田県病虫害の航空探査のコースを見ると、一部が希少猛禽類の営巣地の上
空を通過している。
秋田県側の病虫害航空探査は、繁殖期から外れる 9 月のみであるので問題はない。だ
が、青森県側の航空探査は、6 月のイヌワシが巣立つ頃、あるいはクマタカがまだヒナ
のころとなる。この付近の希少猛禽類の分布情報は東北森林管理局がほぼ全て把握し
ているので、県と局で相談して、繁殖可能性のある時期は少し遠めに飛行する等の配
慮をお願いしたい。
ヘリの調査について、ヘリは非常に威圧的なので、ドローンを使うなどはどうか。
檜垣委員:
気象関係は森林の変動に係るバックグラウンドのデータであり、15 ページにある 15
年間の積雪深の記録は山の中のもので貴重である。
平地の積雪や冬の間の降水量などと比較して一緒に載せていただきたい。
田口委員:
シカについて、足跡(トレッキング)の痕跡調査を実施し、どこで生息し、どこを移
動しているのかを掴む努力を始めた方が良い。
白神山地の入山者数が気になる。かつて 8 万人いた入山者数が今や 2 万人以下となっ
ている。人間の圧力が減っている一方で、白神への人々の関心が薄れているという問
題があり、危機感を共有する必要がある。
白神について、どのように外部から観光客を呼ぶのかなど、地域に対する経済的波及
効果も含めて地域を巻き込んでいくことを踏まえ考えなくてはならない。
以前データを見たことがあるが、ビジターセンターの入場者数など、白神山地の周辺
で人の動きがどれくらいあって、どれくらいが入山者であるかなどのデータも集めて
ほしい。地域に協力を求める際の裏付けのデータになりうる。
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中静委員長:
観光入り込みは、県の方でかなり議論されている内容であり、過去に見せて頂いたこ
とがある。そういったデータの比較などもやっていければよい。
幸丸委員:
撮影されたシカの画像について、1 枚目の写真のシカの写真は角が一本しかない。個体
識別材料になると思うので、角がないのかどうか教えてほしい。
また、2 枚目の写真にも何か白いものが写っている。
林野庁 佐藤調整官:
1 枚目の写真は、一本角のオスジカと判断している。
2 枚目の写真の白いものは、何かの写り具合で別のものが光ってそういう風に写ったも
のと考える。
紹介した 3 枚の写真は、おおむね、同一個体のオスジカであろうと推測している。
由井委員:
田中先生が配布した森林総研の『季刊森林総研』では、日本のブナ林の将来予測に関
する資料が掲載されている。この場合に白神がどうなるのかを教えてほしい。
田中委員:
温暖化が進行した際のブナの生育適地の減少予想を、10 年ほど前に実施した。それに
伴い、ブナの適応策が検討すべき課題となっている。
ブナについては、伐採しないことが守る手段の一つとなる。
温暖化が生じてもブナの生育に適する場所と、ブナの保護区の重ね合わせを行った。
温暖化の進展について、中庸な気温上昇の予測であれば、白神山地はブナの適地のま
ま残るが、面積は狭くなる。
北海道南部にはブナがたくさんあるが、ほとんど保護区に入っていない。将来的には
保護区を拡大していくべきである。
西日本のブナはほとんどが保護区内にあるが、ブナに適さない気候条件になる。ブナ
に適さない気候条件に変化する地域では、別の森林への推移を見守る場所と、ブナを
残したい場所とあるだろう。ブナを残したい場合、置き換えやブナの植栽、競合種の
排除などの積極的な作業が必要となる。
環境省が世界遺産の地域を拡大・追加のために、招聘したドイツの専門家から意見を
聞いたと報道された。その際に、白神山地のブナの保護域を他の地域にも拡大した方
が良いという話になった。
厳しい温暖化予測では、白神山地はブナの適地ではなくなる。飯豊・朝日、奥只見・
奥日光、北アルプス、白山地域、北海道の狩場山などが、厳しい温暖化予測であって
ものブナの適地として残る場所である。その地域のブナの保全も白神山地世界遺産地
域と合わせて考えていかねばならない。
由井委員:
『季刊森林総研』に、現在の好条件下でブナの潜在生息域が 630 万 ha で、実際のブナ
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林は 140 万 ha くらいとなっている。白神だけで 1%以上ある。
気温が 2℃上昇程度の条件下でブナの維持を想定する場合、現存するブナの母樹とその
子供でよいのか。ブナでは暴れ木が生じることがあると思うが、クマゲラは真っ直ぐ
な木を利用する。暴れ木の種からは暴れ木しかでないということはあるか。
中静委員長:
遺伝的な問題があるので一概には言えない。環境の要因の方が大きいのではないか。
田中委員:
白神山地では、木が枯れた後でも再生することが多く、今すぐに衰退するという兆候
は出ていない。
温暖化の変化により、ブナが天然更新できなくなる場合が生じることが予測される。
そういうことが把握できるモニタリングであるかの確認が必要。
白神山地の世界遺産周辺にも、将来のブナ林に適する場所がある。その部分について
の、将来に向けた保護の検討も必要。
中静委員長:
世界遺産の事務局からも、前回のまとめの時に、世界遺産の温暖化への対策をどのよ
うに進めるかというアンケートに回答することになっていたので、注視していかなけ
ればならない。
モニタリングもその辺を意識したものを盛り込んでいければよい。
温暖化については、次回、次々回あたりで議題にしていければよい。
環境省 西村次長:
世界遺産地域の追加の話については、海外の有識者の方にご助言をいただいた段階。
今後さらに詳細な調査を行なうところまでしか決まっていない。
議題 1 資料 1-4 説明
林野庁 佐藤調整官:<資料 1-4 の 説明>
ナラ枯れが秋田県の男鹿半島まで北上してきている。将来的には白神山地でナラ枯れ
の発生を想定する必要があるため、考え方のたたき台を作成した。
白神山地に約 13 万 ha の森林があるが、遺産地域外の国有林でナラ枯れが発生した場
合、被害の拡大防止を図るため、原則として伐倒駆除、具体的に言うと伐倒くん蒸の
実施を検討する。
遺産地域内の緩衝地域においてナラ枯れ被害が確認された場合には、伐倒くん蒸の実
施を検討するが、現地の状況等に応じて、その他の方法も検討する。
核心地域にまで被害が及んだ場合は、周辺森林の被害状況を把握し、監視強化に努め
る。原則として自然の推移に委ねる考え方だが、現地の状況等を踏まえ、必要に応じ
て対策を検討する。
平成 22 年、23 年、24 年にかけて、白神山地にいちばん近い秋田側の米代西部森林管
理署管内の男鹿市内の国有林で 43 本のナラ枯れが発生した。この 43 本のナラ枯れは、
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全て伐倒くん蒸処理した。その結果、次の年から米代西部森林管理署管内の国有林の
ナラ枯れ被害はない。
民有林のナラ枯れ被害を見ると、男鹿市のナラ枯れ被害は、平成 26 年までに合計 5,272
本の被害が出た。平成 26 年は 1,665 本ということで、増加傾向を示している。
青森県では、平成 22 年 12 月に深浦町でナラ枯れの初被害が確認されたが、速やかに
伐倒くん蒸を行った結果、その後の被害は確認されていない。
議題 1 資料 1-4 質疑応答
中静委員長:
今の温度状況では、秋田県北部がカシノナガキクイムシの北限であり、白神の標高の
高いところに被害が広がるかは微妙なところである。だが、温暖化の影響により、将
来的な影響については予測できない。
田中委員:
白神山地地域の低標高の所にもミズナラがある。将来的にブナに代わる重要な樹種は、
ミズナラである。ミズナラが健全でないと、生態系の健全さが保たれない点が重要で
ある。
由井委員:
原則は人手を加えず、自然の遷移に任せるが、著しく悪影響が出てくれば、対策を考
えるということか。核心地域でも行動を起こすと読んでもよいのか。
林野庁 佐藤調整官:
そこは案に示したように「現地の状況等を踏まえ、必要があれば対策を検討」という
読み方となる。
由井委員:
伐倒くん蒸の薬剤で死んだキクイムシを食べる鳥のことも考えなければならない。
林野庁 関口計画保全部長:
今回、ナラ枯れが核心地域まで入った場合を考えて案を出したが、核心地域には当面
来る状況にはないと考えている。
核心地域では、基本的には被害がひどい状態であっても手を加えないイメージ。
物理的にも厳しいということもあり、本当にどうしようもなく、何とかしろというこ
とにならない限り、核心地域内に手を加えることにはならないと考えている。
中静委員長:
科学委員会は基本方針に対して科学的な助言をするという立場か。
林野庁 関口計画保全部長:
科学委員会にご助言をいただいて、最終的には東北森林管理局で判断する。
中静委員長:
現時点ではかなり不確定事実が多く、個人的な意見としてはこれ以上のことはできな
いと考える。
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ナラ枯れ被害の防止については、白神山地の国有林よりも外側で対策を実施できれば、
白神山地を守るためにも望ましい。ただし、民有地でも対策をとらなければならない
ので難しい。
田口委員:
ナラ枯れには標高の問題がある。標高を踏まえて対策をとることが必要。
中静委員長:
国有林でも標高が低いところがあるので、ナラ枯れ対策をとることが確実にできると
ころだ。
林野庁 関口計画保全部長:
ナラ枯れが白神に近づいた場合、そこは先端地域となる。先端地域では伐倒くん蒸を
確実に実施したい。
由井委員:
核心地域と民有林か指定地域外が隣接する場所の中で、低山地、低標高の箇所で徹底
的に防除すれば、直に核心地域に入ることはないだろう。
中静委員長:
基本的に、科学委員会としては、この森林管理局の案で対策を実施する方向でよいと
考える。
議題 2 事務局報告
環境省 藤井保護官:<資料 2-1 の 説明>
青森県、秋田県それぞれの自然保護課でシカの目撃情報を収集した。平成 26 年度に青
森県に寄せられた目撃情報は 38 件、43 頭であり、秋田県に寄せられた目撃情報は 29
件、36 頭であった。
自動撮影装置による生息状況調査では、白神山地世界遺産地域およびその周辺地域に
おいて、地域連絡会議として 68 台の自動撮影装置を設置した。その結果、ニホンジカ
の可能性が高い個体が 1 個体、秋田県八峰町二ツ森で撮影された。また、森林管理局
が別業務で設置していた自動撮影装置で青森県深浦町において、1 カ所で 3 回撮影され
ている。
シカが目撃された 2 カ所については、来年度以降、カメラを増設して、監視の強化に
努める。
秋田県八峰町二ツ森の個体については、メスの可能性もあるため、雪融け前の時期に
痕跡調査を実施し、定着の有無等を調べる。
中静委員長:
確実に目撃回数が増えている。啓蒙により報告回数が増えたという側面もあるが、個
体数が確実に増えているとみた方が良いのではないか。
環境省 藤井保護官:<資料 2-2 の 説明>
環境省でチラシを 14 万部作成し、うち、9 万部については、白神山地周辺の自治体、
鰺ヶ沢町、西目屋村、弘前市、深浦町、能代市、八峰町、藤里町において全戸配布を
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実施した。
目撃情報については、各県の自然保護課から頂いた情報を GIS で集約している。
対策の効率化を図るために、白神山地世界遺産地域から 15km の範囲について、シカ
の餌場等の高利用地域や集中的に守る必要のある湿原などの位置情報を GIS の植生区
分図を用いて整理している。次年度以降のカメラの設置などに活用する。
林野庁 佐藤調整官:<資料 2-2 の 説明>
岩手県早池峰山で GPS 首輪をシカ 2 頭に装着し、移動経路等を調査している。リアル
タイム方式で、6 時間おきに発信される電波を確認している。
ハンターが利用しやすいように、林道除雪による捕獲支援を実施した。平成 25 年度の
捕獲頭数は 273 頭に達した。
岩手県五葉山において、新たな捕獲技術によるシカ対策の実証を行っている。簡易囲
いワナを 1 基設置し、シカ 4 頭を捕獲した。
2014 年 9 月に「東北地方におけるニホンジカ被害対策検討会」を開催した。堀野先生
を含めた 3 名の有識者と、関係行政機関が、東北 5 県のシカ対策を議論するはじめて
の機会であった。予防的な対策として、国が持つ広域的な情報と県が持つ地域的な情
報を組み合わせること等の提言がなされた。
青森県 皆上技師:<資料 2-2 の 説明>
県内の市町村や国、関係者を集めた「ニホンジカ対策予備検討会」を 12 月 11 日に青
森市で開催した。
ニホンジカに関するチラシ、ポスターを作成し、各方面に配布した。また、ニホンジ
カの目撃情報に関するホームページを開設し、情報収集を図っている。
通常年 2 回の狩猟免許試験を、平成 26 年度には年 3 回、西目屋村で実施した。
秋田県 上田主査:<資料 2-2 の 説明>
ニホンジカが生息している岩手県境と接して、目撃情報が多い鹿角市、仙北市、横手
市、湯沢市において、平成 26 年 6 月から 27 年 1 月にかけて、ライトセンサス、聞き
取り調査を実施した。その結果、横手市で 1 頭、鹿角市で 3 頭の計 4 頭が確認された。
北秋田市と大仙市でそれぞれ各 1 回の計 2 回、狩猟免許取得者増を目指したフォーラ
ムを開催した。
市町村担当職員や猟友会会員を対象として、シカの生態や対処法を学ぶための研修会
を開催した。
環境省 藤井保護官:<資料 2-3 の 説明>
ニホンジカと思われる個体が撮影された場所について、雪融け前の痕跡調査及び自動
撮影装置の増設を行い、監視を強化する。また、シカが高利用可能な地域の抽出結果
から、自動撮影装置の設置場所を調整する。撮影後の公表や痕跡調査などのフォロー
も含めて確実に実施する。
捕獲手法の検討について、低密度下での捕獲体制について、他地域の事例収集ととも
に、地元の地域関係者へのヒアリングから、望ましい体制を検討する。
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林野庁 佐藤調整官:<資料 2-3 の 説明>
基本的には平成 26 年度の取り組みを、平成 27 年度も継続実施する。
岩手県では被害箇所での取り組みが実施されているので、その対策を参考とする。
青森県 山谷課長:<資料 2-3 の 説明>
シカの被害に関するパネルを作成し、危機意識について広報する。
ニホンジカ管理対策検討委員会において、シカを獲る体制について考え方をまとめる。
八戸地域を中心にセンサーカメラを設置し、岩手県からのシカの侵入経路を突き止め
たい。
2014 年 10 月に北里大学と共に、青森県東側の猟友会を対象としたアンケート調査を
実施した結果、60 歳以上が、全体の 74%。70 才以上が 23%。59 歳以下のハンターは
上北地域(十和田市)周辺で 57 名。三八地域で 70 名であった。
また、このアンケートの回答者のうち、70 歳未満で、ライフルを持ち、シカ撃ちの経
験を有する人は、十和田地域で 29 名。三八地域で 48 名であった。アンケートの回収
率をもとに推計すると、シカ撃ちが可能な 70 歳未満のハンターは、十和田地区で 50
名、八戸地区で 70 名程度と推測される。
行政の行う捕獲・有害駆除に概ねいつでも対応可能な方が約半数。ウィークデーは無
理だが、土日なら可能な方が 25%程度。
秋田県 上田主査:<資料 2-3 の 説明>
13 市町村、42 地区(1 地区は 3km 四方メッシュ区切り)において、目撃調査、糞塊
調査、足跡調査等の調査を実施する。
また、自然公園等の県内 9 地区においてセンサーカメラを計 20 台設置し、監視体制を
強化する。
中・長期的な対応としては、鳥獣保護法に基づく、特定鳥獣保護管理計画を策定予定。
議題 2 質疑応答
蒔田委員:
(藤井保護官代読)
すでにシカが遺産地域のすぐ近くまで来ている現在、影響軽減策を実施できる体制を
今すぐに整備する必要を認識して行動すべきである。遺産地域外での対策強化が緊急
に必要である。
ニホンジカ対策方針は、いわばシカ対策の基本設計であるが、事態はすでに基本設計
の段階ではなく、実施設計の段階に入っている。
シカが遺産地域にどういうコースから入るかを考えて、重点監視地区を作ることも必
要である。
環境省 藤井保護官:<資料 2-4 の 説明>
次年度以降の取り組みを踏まえ、前回の委員会でご承認いただいた対策方針について、
時点更新したものとなる。
堀野委員:
いざというときにはシカを獲れるような体制をとる必要がある。
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ハンターを増やす際に、ハンティングの楽しさだけを伝えると、ハンターはシカが増
えるのを待つことになりかねない。
銃で撃つだけでなく、ワナをかけられる人を増やしていくことが大事だ。
青森県 山谷課長:
ワナについても考えている。ただし、シカのワナについては全くの素人であるので、
ノウハウを積み重ねるまでに多少時間が必要となる。
秋田県 上田主査:
ワナ猟も増やしていく。
普及啓発に当たっては、ハンティングの楽しさよりも、シカは脅威であり、定着を防
ぐという方向性で、狩猟者だけでなく、県民全体に対して伝えていこうとしている。
田口委員:
若い人が関わった時に事故を起こすことも考えられる。若い人をどうやって守るかを
考えなければならない。
若手を育てるときに重要なのは地理地形であり、山を覚えることを徹底する。高齢者
の経験を若い人たちにつなげる継承システムを早急に作り上げた方が良い。
目屋ダムの工事現場周辺にもモニタリングのカメラを設置した方が良い。シカが工事
現場を大きく回避するのか、工事現場の横を通っていくのかの情報は、白神以外でも
使うことができる情報となりうる。
幸丸委員:
低密度下でのシカ対策をどのようにやるのかが問題だ。
侵入経路を把握して叩くというやり方では、狩猟圧を上げるだけでは効率的ではない。
シカの駆除のためのハンターを行政が編成することなどが必要なのではないか。
田口委員:
白神山地の周辺部に強力な実施隊(シカやイノシシなどの追跡が可能な集団)を編成
することも考えられる。駆除、排除だけでなく管理の可能性も追求する必要がある。
堀野委員:
今度の鳥獣法の改正で、捕獲を行う団体を自治体が認定する制度ができた。これを白
神周辺地域で使うべきであると感じる。
人を育てることには時間がかかる。
認定できる団体がなければできない。どこまで行政が手を下せるのかはわからない。
由井委員:
特定外来生物防止措置法、鳥獣被害防止措置法では自衛隊も出動することができる。
シカは林道を通るので、林道や登山口にフェンスを張れば、進出速度を抑えられるの
ではないか。また、フェンスを越えずに留まっているシカをいろいろな方法で駆除す
るなど、対策を組み合わせてやったほうが良い。
クマはシカを捕食することがあるが、クマとシカの関係はどのようになっているのか。
堀野委員:
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肉食獣は草食獣を過分に減らすようなことはしない。仮にオオカミがいた場合、少し
はシカを減らす方向に働くかもしれないが、人間が望むような数に減らしてくれるわ
けではない。
由井委員:
岩手県ではシカのロードキルを防ぐために、オオカミの糞尿を利用したら、非常によ
く効いたという話がある。シカがクマを嫌う関係にあるとすれば、クマの臭いを使う
手法もあるのではないか。
田口委員:
NEXCO 東日本が北海道において、シカの侵入防止のために、カプサイシンをフェン
スに塗るなどの対策をとった。しかし、3 ヶ月くらいすると落ちてしまうという問題が
あり、継続して塗り続ける必要がある。塗り続ける経費をどこから出すのかというの
も問題だ。費用対効果の見地からもこの問題の手法開発を進めている。
地元の合意を得た上で対策を実施することが必要であり、喫緊の対応として実施隊の
ような特別な組織を創設し、駆除・捕獲をするという手法が一番大事なのではないか。
田中委員:
知床世界遺産地域など北海道では、クマが多い一方で、シカも多く生息している。シ
カとクマは排他的な関係にあるわけではない。
田口委員:
もっと対策のスピードを上げなければならない。後手後手では対策にはならない。
実施隊のような 10~20 人程度の組織を早めに動かした方が良い。さらにモニタリング
を合わせ、情報収集を行い、会議で議論することで、次の手を考える形にする方法が
良い。
堀野委員:
将来が予期できるわけではないので、ここで細かい方針の文言を作ることを考えるよ
りも、状況に応じて柔軟に対応できる体制を持っていた方が良い。
中静委員長:
科学委員会の助言としては、早い段階で、行政により、組織化された捕獲体制をとれ
るようにし、そのための人材育成を急ぐべきである。
対策のスピード感があればよい。
由井委員:
猟に際しては、鉛中毒を引き起こさないような弾の使用が望ましい。
議題 3 事務局報告
林野庁 佐藤調整官:<資料 3-1 から 3-5 までの 説明>
現況把握のために、中静委員長による核心地域、三蓋沢の踏査を 7 月 8 日に実施した。
秋田側の核心地域を巡視し、その実態を伝えることができる人の育成のための具体策
の検討を、秋田県主導で実施している。
二ツ森の登山道及び山頂部の刈払い整備に向けた現地検討を行い、10 月 15 日には刈
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払いを実行した。
秋田側核心地域における入山の取り扱いの検討については、現時点では結論や合意は
得られていないことから、引き続き、検討課題として取り扱う。今後は、議題を秋田
側核心地域に限定せず、遺産地域全体における入山の取扱いを幅広く議論することと
したい。青森側の平成 26 年の入山状況は、届出入山は昨年よりも、27 名減少の 86 人。
許可入山は昨年よりも増加して 170 人。秋田側の許可を得た平成 26 年度の入山状況は
学術研究が 2 件で 18 人であった。
違法伐採は 3 件発生した。すべて青森側で、緩衝地域における小規模な伐採であった。
マナー違反として、たき火跡が 4 件見つかった。すべて青森県側の緩衝地域及び核心
地域で発生したものである。
議題 3 質疑応答
中静委員長:
昨年秋田県側で検討し、核心地域にすぐに入るのではなく、緩衝地域の利用を促進す
る形でしばらく進めるということになった。利用の促進も少し進んでいる。
将来的には自然遺産全体をどう保全・利用するかを考えていかねばならない。
幸丸委員:
白神の自然遺産は様々な制度のパッチワークによって成立している。そのため、制度
間の調整が大変で、どうしてもぎこちなさが残る。
利用の促進という点では、国立公園において、プロのガイドを養成し、プロのガイド
が同行しなければ入れないという利用調整地区という制度がある。
利用調整地区制度なども活用して、白神の自然遺産を全体としてどのように保全し、
利用していくのかを考えていく必要がある。
中静委員長:
利用調整地区制度などを活用して白神の自然遺産全体の保全・利用を考えるという話
は、白神全体のツアーのあり方に関する問題であるので、非常に重要である。今後科
学委員会から助言すべき内容であるので、今後の検討対象としたい。
シカ対策については、最新の捕獲技術についても情報収集をしながら、スピード感の
ある対策をとっていただきたいということを、科学委員会の意見としたい。
由井委員:
白神山地地域内は鳥獣保護区にも指定されている。その中でも有害捕獲はできる。被
害がなくても、周辺地域で白神遺産を守るために獲って良いか、また、シカがおいし
いときに獲って食べることについて検討してほしい。
中静委員長:
各県で有害捕獲に関する基準が少しずつ異なると思われるので、今後の報告の際に、
その成果と共に報告することが望ましい。
閉会
環境省 坂川所長:
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白神山地のすぐそばまでシカが来ている。しかもその周辺で、増えているようである
ので、今日のご意見を踏まえ、私どもも少しでもスピードアップできるように対策を、
関係機関と協力しながら進めていきたい。
白神山地においても、地球温暖化が起きた場合にその影響がきちんと把握できるよう
にモニタリングというご意見があがった。そのようなことも頭に入れながら、来年度
以降も引き続き対応していきたい。
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