やんばる野生生物保護センター

紹 介
やんばる野生生物保護センター
澤志 泰正
Yasumasa Sawashi
環境省 沖縄奄美地区自然保護事務所
やんばる自然保護官事務所
やんばる野生生物保護センターは、やんばるに住
てきた資材や木炭の産地であったこと、現在は本島
む人、やんばるを訪れる人にノグチゲラ、ヤンバル
中南部の水道から流れ出る水の半分以上を送り出し
テナガコガネ、ヤンバルクイナなど希少な野生生物
ていること、近年やんばるで問題となっているノネ
の保護への理解や関心を深めて頂くための普及啓発
コなど移入動物の多くが他地域から持ち込まれた
活動、絶滅のおそれのある野生生物の保護増殖事
ペットに由来すること、広大な基地が存在するこ
業、調査研究などを総合的に行うための拠点施設と
と、自然とふれあうための探勝地であることなどを
して1999年4月にオープンし、今年で5年目となり
考えると、他の地域とやんばるとは様々な面でつな
ます。センターは普及啓発のための展示施設を備え
がっています。センターの展示の中には、このよう
た展示棟と調査研究の拠点施設としての研究棟とそ
な地域間のつながりについてのメッセージも含まれ
の周辺施設からなります。
ています。
センターのメイン展示のテーマは「水系をたどる
旅」です。山地からイノー(礁池)まで7つの環境
に分け、それぞれの環境下における生きもの同士の
多様なつながりや、やんばるの人々と自然との深い
関わりなどについてパネルの解説とイラストで紹介
しています。
「多目的ホール」ではやんばるの自然と地域の暮
らしとの関わりについてのオリジナル映像が上映さ
写真−1 やんばる野生生物保護センター
れるほか、講演会の開催やパネル展などが行われて
います。またヤンバルクイナなど希少な野生動物の
【利用案内】
開館時間/午前10時∼午後4時半
休 館 日/毎週月曜日・みどりの日およびこどもの
日をのぞく祝日・6 月2 3 日(慰霊の
日)・年末年始
入 館 料/無料
住 所/沖縄県国頭村比地263番地の1
TEL. 0980-50-1025 FAX. 0980-50-1026
存続に重大な影響を及ぼすノネコの問題については
最新情報を伝えるコーナーを設置しました。ほかに
も、来館者にどこでどのような生きものと出会った
かの情報を頂き次の来館者にお知らせする「やんば
る生きもの掲示板」や掲示板の過去のデータを集積
しコンピューター画面上で検索したり図鑑ともリン
クしている「やんばる自然観察マップ」、自然や環
1.普及啓発活動
境に関する書籍を2000冊近くそろえた「ライブラ
沖縄本島中南部、あるいは県外に住んでいるとや
リー&フェノロジー(自然暦)サロン」がありま
んばるは遠く離れた自然豊かな地域であり、そこに
す。
すむ野生生物の保護と自分たちの生活とはかなりか
展示施設は、やんばるを訪れる観光客のほか、遠
け離れたものと思われるかも知れません。
足、県外からの修学旅行生、海外からの研修生も利
しかし、やんばるは本島中南部の戦後復興を支え
用しています。最近では総合的学習での利用も増え
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〔やんばる野生生物保護センター〕
を基本とし、生息地における野外個体群の急激な減
少に備え、飼育下での繁殖の可能性が検討されるこ
ととなります。そのため、事業では、生息状況等の
把握・モニタリング、生息地における生息環境の維
持・改善、生息地における監視、普及啓発の推進、
効果的な事業の推進のための連携の確保など保護す
るために必要な項目は多岐にわたっています。
ノグチゲラはやんばるのみに分布する一属一種の
中型のキツツキです。スダジイ等の優占する森林に
生息しますが、生息に適した環境の悪化等により、
写真−2 地元幼稚園児の見学風景
現在個体数、生息地とも限られています。ノグチゲ
てきました。また自然観察会を開催したり、ヤンバ
ラ保護増殖事業は、本種の生息状況等の把握とモニ
ルテナガコガネの密猟防止や捨てネコ防止のチラシ
タリングを行い、その結果等を踏まえ、本種の生息
配布など、地域内外での活動も行っています。
に必要な環境の維持・改善及び生息を圧迫する要因
の軽減・除去等を図ることにより、本種が自然状態
2.保護増殖事業
で安定的に存続できる状態になることを目標として
現在やんばるでは、ノグチゲラとヤンバルテナガ
います。
コガネの2種について保護増殖事業を行っていま
現在捕獲した個体に足環を装着しそれらを追跡す
す。
ることで生態的知見の収集を行っています。これま
保護増殖事業というと一般的には人工繁殖を行う
でつがいの形成過程や繁殖期以外のつがいの様子、
といったイメージが強いと思われますが、野生生物
行動圏などが分かってきました。いずれは若鳥の分
の保護では生息地における野外個体群の維持・拡大
散や死亡率、年齢についてのデータも充実してくる
ものと思われます。また採集した血液のDNA分析
と詳細な形態計測結果を照合することで、これまで
困難であった若鳥の雌雄判別にも道が開けてきまし
た。
ヤンバルテナガコガネは、1984年に新種として記
載された日本最大の甲虫です。本種もまたやんばる
のみに分布し、産卵及び幼虫の生息場所である樹洞
があるスダジイ等の大木が存在する森林などに生息
しますが、生息に適した環境の悪化等により生息地
写真−3 足環を装着したノグチゲラを見かけたら
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写真−4 捕獲したノグチゲラを計測
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が減少しています。さらに、生息地では現在でも密
上記の目的を持つ大学や研究機関等の研究者や学生
猟の跡が確認され、マニアなどによる捕獲や繁殖環
に施設の一部を利用して頂くことで、やんばるの野
境の破壊が懸念されるという状況から保護増殖事業
生生物保護の研究に貢献しています。
計画が策定されました。
また、センターには目撃情報のほか、路上やその
事業を実施するにあたり2000年に現状把握調査を
周辺での事故(ロードキル)、窓ガラス等への激突
行い、現在でも密猟が頻発していることが明らかと
などによって傷を負ったり死亡した野生動物そのも
なりました。そのため、密猟防止のためパトロール
のが運ばれてきます。運ばれてきた傷病鳥獣につい
の実施、密猟回避のための緊急保護、密猟防止を目
ては沖縄県による救護ネットワークで動物園等に移
的とした関係機関・団体との調整等を中心に行って
送等を行っています。一方、死亡個体については個
いるところです。
体の状態によってマイナス85℃のディープフリーザ
また、保護増殖事業以外の野生生物調査や移入動
での冷凍保存や体の一部のアルコール保存、乾燥保
物対策事業も行っています。移入動物については、
存などを行っています。死亡した野生動物は剥製な
国内希少野生動植物種のヤンバルクイナやアカヒ
どへの利用が中心とされるケースが多かったのです
ゲ、ノグチゲラをはじめ様々な在来種がマングース
が、種ごとの形態や遺伝的分析等のための試料とし
やノネコの捕食を受けています。なかでもヤンバル
てストックしており、これまでにも国内外の様々な
クイナは捕食による分布域の縮小が著しく絶滅が危
研究に寄与してきました。
惧されることが明らかとなってきたことから、移入
動物の捕獲排除を行ったり自動撮影装置による移入
4.おわりに
動物の記録等をしています。
やんばる野生生物保護センターは希少な野生生物
を保護する目的を持った施設ですが、そこは一般来
3.調査研究などを総合的に行うための拠点
施設
館者による利用と研究者による活用の場となってい
やんばるの野生生物とそれらを包含する生態系を
保護のための新しい知見を得る。そうして得られた
保護するためには、生態調査をはじめ遺伝的分析や
新しい知見は野生動物を直接保護するための資料と
社会環境調査など様々な分野の調査研究を推進し、
して用いるだけでなく、センターの展示解説や講演
その状況を把握する必要があります。センターでは
会などを開催し来館者に還元する。そのような積み
ます。時には来館者の情報等を手がかりに研究者が
重ねがやんばるの希少な野生動物を保護する気運を
高めることになるのではないかと考えています。
写真−5 比地川中流域での淡水生物の観察
写真−6 サンゴ礁の観察会
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