1996年 第33号

弘
剛
平
第 33号
大 学 経 済 学
ム
報
弘前大学経済学会報
第 33号
弘
前
大
学
経
済
学
会
1996年 11月 10日
〒036弘 前市文京町 1・ 弘前大学人文学離 済学科資料室気付
第 21回 経 済 学 会 大 会 特 集
さる 7月 12日 に、第21回 弘前大学経済学会が人文学部 において 開催 され ま した。地 主豊会長 の挨拶 に続 いて 、
本学 人文学部 の北 島誓 子 会 員 お よび浅 生卯 一 会員 による研究発表 が行 われ、 日本銀行青森支店 の瀬尾純 一郎
支店長 に よる学術講演 が行 われ ま した。
以下、講演 な らびに研究発表 の要 旨を紹 介 いた します。
学 術 講 演
変 化 す る青森 県経済
日本銀行青 森 支店長
瀬
尾
純―郎
1.日 本経 済 を取 り巻 く環境 変 化
近 年 、我 国経 済 を取 り巻 く環 境 は大 き く変化 して きて い る。 その主
要 な もの と して 、以下 の 3点 を あげ る こ とがで きる。
(1)新 興経 済 圏 の勃 興
第 1は 東 南 ア ジア経 済 の急速 な発展 で あ る。東 南 ア ジア諸 国 は こ
の と こ ろ年率 7∼ 10%と い う高 い成長 を続 けて い る。 この結果 、 こ
れ ら諸 国 か ら我 国 へ の消 費財 を中′
心とす る製 品 の輸 出が急速 に増 加
して ヽヽる。
(2)為 替 レー トの 円高化
第 2に プ ラザ 合意以降 の急 速 な 円高化 が あげ られ る。 円高 が進 んだ結果、第 1の 東 南 ア ジア経 済 の発 展 と もあ い ま っ
て 、東 南 ア ジア諸 国 と我 国 の輸 出入構 造 は大 き く変化 して きて い る。
(3)規 制緩 和 の進 展
第 3点 と して は、 最近 の規 制緩和 の進 展 が あ る。規 制緩 和 の進 展 に伴 い 、企 業 が新 しい分野 へ 進 出す るチ ャ ンス が増
えて い る。
2
変化 す る青森 県経 済
上 記 の よ うな我 国経 済 の環 境 変 化 の結 果 、我 国 の産 業構造 は近年大 き く変化 して きて い るが、 これ に伴 い青森 県 で も、
この と こ ろ経 済面 で 構 造的 な変 化 を窺 わせ る動 きが広 が りつ つ あ る。
(1)小 売業界 の変 化
先 ず 、小売業 界 をな る と、平成 3年 と平成 6年 の大型店 舗法 の改正 を機 に、大型 小 売店 の 出店 が活 発化 して い る。例
えば 、平 成 4年 か ら平 成 7年 まで の 間 に 、県 内で大 型 小 売店 は、85店 舗 、床 面積 で268千 ポ 増 加 して い る。 これは 、 日
本橋 の三 越店 が 県 内 に 5つ 出来 たの に等 しく、 各方面 に少 なか らず影響 を与 えて い る。 具体 的 には、経 済 が活 性化 され
雇 用機 会 の増 加 が もた らされ て い るが、 そ の一 方 で、 旧来 か らの商店街 は売上 げ の減少 に直面 して い る.
(2)製 造 業部 門 の 変化
次 に製 造 業部 門 をみ る と、電 気 関係 、紙 ・ パ な どで は生産額 が増加 す る傾 向 にあ るの に対 し、 食 品加工 、木材木製 品
な ど従 来 の青 森 の主 要産 業 が衰 退傾 向 を辿 って お り、製造業 にお け る業 種構 成 が徐 々 に変 化 して きて い る。
こ う した中で 、最近 注 目され るの が情 報通信 関連企 業 の動 きで あ る。 これ ら企 業 で は、近年 の PCや 移動体 通信 ブー
ム を背 景 に生 産 が増 加 して お り、平成 6年 の情 報通信 関連 業種 の生産額 は米 を上 回 るまで に至 って い る。
第 33号
弘 前 大 学 経 済 学 会 報
(3)雇 用 部 門 の変 化
青森 県 の雇 用 情勢 をみ る と、失業 率 が全 国平均 に比 べ かな り高 い等 、 なお、厳 しい状 況 が続 いて い るが、 この間 、雇
用 面 で もい くつ かの変 化 が出て きて い る。 そ の第 1は 日本型 の雇 用慣 行 を見直す動 きで あ る。 この と こ ろ育森 で も、小
売 、 サー ビス業 を中心 に終 身雇 用 の年功 賃 金 を 見直す動 きが出て きて い る。 第 2に 県内 で も求人雑 誌 の 販売数 が増 加 す
るな ど、職 安 以外 の セ カ ン ダ リー マ ー ケ ッ トが拡 大 して きて い る。
以 上 み た様 に、 青森 県経 済 は、 近 年急 速 に変化 して きて い るが、今後 を展望 して 教て も、① 一 段 の 国際化 、② 人 口の 高 齢
化 、③ 情報 化 あ るい は、④新 幹 線 の 開通 等 の影響 で、 こ う した変化 は さ らに加 速 して い くもの と思 われ る。
ポス
経済
理
フ学
研 究 発 表
卜地
/
ォー ド主義論争 と
の諸 問題 (研 究発表要 旨)
弘前大学人文学部助教授
ゴヒ
島
誓
子
問題 の 所在
過 去約 20年 間 に 、先進 資 本主 義 諸 国 の政 治 、経済 お よび社 会 に、共通
の変 化 がみ られ る。 ポ ス ト 。フ ォー ド主 義 仮説 は、 この動 向 を資本主 義
発展過程 の一転換 を示す もの と して、 フォー ド主義体制 か らポ ス ト・ フ ォー
ド主 義体 制 へ の 移行 と1/7え るcポ ス ト・ フ ォー ド主 義論争 は、 この仮 説
の妥 当性 をめ ぐって 行 われ て い る学 際的論 争 で あ り、経済地理学 におい
て も最近 の研究動 向 の 一つ をな して い る。 この報 告 では、 ポ ス ト・ フ ォー
ド主 義仮 説 の概 略 と問 題 点 、 さ らにその仮説 の経 済地理 学 におけ る展 開
を紹 介 し、経 済地理 学 の観 点 か らみ た ポ ス ト・ フ ォー ド主義 仮説 の 百
1能
性 と限 界 を指 摘 す る。
ポ ス ト・ フ ォー ド主 義 仮 説
ポ ス ト・ フ ォー ド主義 仮説 に対 す る接 近 は、 レギ コラシオ ン、 ネオ・ シュンペ ー ター、 柔軟 な専 門化 の 3つ の理論 的 モ デ
ル の 視 角 か らな され て い る.レ ギ コ ラシオ ン 。モ デ ル は、 ポ ス ト・ フ ォー ド主 義 へ の移行 を新 た な蓄積体 制 へ の転換 と捉 え
る。 1960年 代 末 頃 か ら、先進 資 本 主 義諸 FIlの 戦後 の主 流的蓄積体制 で あ った フ ォー ド主 義体 制 の危機 の 兆候 がみ られ、 ポ ス
ト・ フ ォー ド主 義体 制 の模 索 が な されて きた。新 しい体制 は、 国際 レヴ ェル で の 階級 闘争 の展 開 にかか るのでそ の形態 は不
確 実 と され るが、 ボ ワイ エ は 、 ポス ト・ フ ォー ド主 義 の可能 性 と して、 1)柔 軟 な専 門化 、 2)国 際的 ケ イ ンズ政策 、 3)
市場 先 導 に よる柔軟 な労働 、 4)分 害」され た 労働 市場 、 5)技 術 と労働 資源 の 開発 の ための 交渉 、 を あげて い る。
ネオ・ シ ュンペ ー ター 。モ デ ル は、 ポ ス ト・ フ ォー ド主義 の登場 を、長期波動 の転換 と して捉 え る.標 準製 品 の大量 生産 、
規模 の 経 済 、寡 占的 競 争 、等 を特 徴 とす る これ まで の第 4コ ン ドラチ ェ フ波動 が危機 に陥 り、 次 の 第 5コ ン ドラチ ェ フ波動
が模 索 され て い ると され る。 そ の特 徴 と して、刷 新 的・ 知 識 集約 的産 業 、情報 技術伝 達部 門 に基 づ く産 業 と経 済 、柔軟 な生
産 シ ステ ム 、等 がす
旨摘 され る。
柔 軟 な専 門化 モ デル は、 ポ ス ト・ フ ォー ド主義 へ の移行 を、新 た な クラフ ト的生産体制 が復活 す る転機 と捉 え る。 19世 紀
初 頭 の 第 1の 産 業 分 水 嶺 に お い て 、 大量 生産 体 制 が クラ フ ト的生産 体 制 を圧 倒 し産 業組織 の 支配 的形態 とな った。 と くに
1920∼ 30年 代 以 降 、大 量生産 体 制 が主要工 業 国 において主 流 とな った。 しか し、1970年 代以 降 の 景気低迷 に伴 い 、今 日先進
諸国 は “
第 2の 産 業 分 水嶺 "に あ り、大 量生産体 制 と柔軟 な専 門化 に基 づ くクラ フ ト的生産 体 制 との選択 の 可能性 を 与え ら
れ て い る と され る。
経済 地 理学 にお け るボ ス ト・ フ ォー ド主 義論 争
以上 の ポ ス ト・ フ ォー ド主 義仮 説 に対 し、 1)大 量 生産 。大量 消費 の後退 等 の ポ ス ト・ フ ォー ド主義 体 制 へ の移 行 を示 す
と され る根拠 が必 ず しも事実 とあわ ない、2)フ ォー ド主義 か らポ ス ト・ フォー ド主 義 へ の移 行 の分析視角 が機 能主義的 で
あ る、 等様 々 な批 判 が な され て い る。 こ う した なか に あ って、経 済地理 学 におけ る この論争 の検討 は、 ポ ス ト 。フ ォー ド主
第 33号
弘 前 大 学 経 済 学 会 報
義仮 説 の検 証 の 手 だて を与 え うる と思 われ る。経 済地理学 において 、 ポ ス ト・ フ ォー ド主 義仮説 が論 じられ て い るのは、主
と して、 1)産 業地 理 、 2)都 市 化過 程 、 3)都 市 。地域政 策 、 の 3分 野 で あ る。
産 業地理 分 析 は、 フ ォー ド主 義体 制 か らポ ス ト・ フ ォー ド主 義体 制 へ の 移行 を次 の よ うに捉 え る。 フ ォー ド主 義体制 にお
け る産 業地 理 は、 生産 の 集積 、都 市 。地域 間 の分業 と して総 括 され 、特 に、 垂直的統 合 の生産 工程 を もつ先導 的工場 を中心
と した産 業 集積地 域 、先 導的 工場 とその サ テ ライ トエ 場 の労働 力 の再 生産 の場 と しての大規 模 都市化 、 が強調 され る。 ボ ス
ト・ フ ォー ド主 義体 制 にお け る生産 の特徴 と して は、課業 の垂 直的分解 と分散 的意志 決定 シス テ ム にみ られ る “
柔軟性 "が
強調 され 、 この 生産 に基 づ く産 業地理 は、 工場 内 。間 での広 範 な垂 直的分解 とそれ に対応 す る産業 集積 が特 徴 と され る。 し
か し、 今 日の産 業地 理 は よ り複 雑 な様相 を示 し、 1)国 内 。国際的階層序 列 に基 づ くフ ォー ド主義 的生産地 理 の復活 と 自足
的地 域 経 済 へ の 回帰 の 同時進 行 や 、 2)垂 直的分解 を伴 う生 産 の 国際化 にお け る産 業集積地域 内 の刷新 の可能性 、等 が指 摘
され て お り、 これ らの こ とか らボ ス ト 。フ ォー ド主 義体 制 下 にお け る産 業地理 は、 “
地域 経済 の グ ロー バ ル 。モ ザ イ ク"と
総 括 され る。
都 市化過 程 にみ られ るポ ス ト・ フ ォー ド主 義 へ の移行 の分析 は、 ハー ベ イに よ って試 み られ て い る。 ハ ー ベ イは、 米国 の
都 市 の 分析 に基 づ いて 、1970年 代 初頭 以降 の都 市化過 程 にお け る急速 な変化 と して、 1)象 徴 的 資本 の 生産 と消 費 、 2)ス
ペ クタ クル (見 世物 、 シ ョー )の 動 員 に よる文 化 の 大量 消費、 3)貧
困 とイ ンフ ォー マ ル経 済 の蔓延 、 をあげ 、 これ らを ポ ス
ト・ フ ォー ド主 義体 制 の 柔軟 な蓄積過 程 と間 連 づ けて い る。
都 市 。地 域 政 策 の 分析 は、 ポ ス ト・ フ ォー ド主義 体制 へ の移 行 を、 国家形態 の変化 に伴 う地 方政 府 の 介入形態 の 変化 と し
て捉 え る。 フ ォー ド主 義体 制 にお いて地 方政 府 は、 共 同消 費手段 や福祉 の提供 を主眼 と した政 策 を行 った。 しか し、財政 危
機 に示 され る フ ォー ド主 義 の調 整様 式 の 危機 に直面 す るなかで、地 方政 府 は、経 済振 興主 義 あ るいは企 業家主義 の政策 を余
儀 な くされ る。 この政 策 の 実行 にあた り、公共 体 と民 間 との提携 がな され る場 合が 多 い。
ポ ス ト・ フ ォー ド主 義 仮 説 の展 望
経 済 地理 学 におけ るポ ス ト・ フ ォー ド主義論 争は、 ポ ス ト・ フ ォー ド主義 仮説 に基 本的 な問題 を投 げ かけ る。 F■j内 。国際
甲 序列 に暮 づ く伝 統 │● フ ロー ド主義 ウ
,t■ Tlll習 のイ
1活 、
・Tr直 的分解 を伴 う生 産 の 国際化 、都市 にお け るエ リー ト文化 と
''唯
大量 消 費 文化産 業 の二 元的発 展 、都 市 の イ ンフ ォー マル・ セ ク ターの形 成 とそ の企 業 主義的 発展 、 とい った 諸現 象 は、 ポス
ト・ フォー ド主義 仮説 が提起 す る生産 。消費 。文化 の パ ラ ダイ ム と、現状 が示唆 す る方 向 とはか な りのずれ があ ることを示 す。
しか し、 この こ とが た だ ちに ボ ス ト・ フ ォー ド主義 仮説 の全面 的 な否定 には な らない と思 われ る。 なぜ な らば、 労働 の
新
た な技 術 的 。社 会的 分 断 、 それ に伴 う空 間 の再編 、それ に関与 す る政 府 の 介 入形 態 の 変化 、等 が 国際 レヴ ェル で進 行 して い
る とい う事 実 は、 資 本主 義 シ ステ ム の構造 的 な転換 を示 唆 して お り、 ポス ト・ フ ォー ド主義仮 説 は、 これ らの具体 的事 実 に
着 日 し、そ れ を統 合的 に捉 えて モ デ ル 化 を試 み て い るか しで あ る。 今後 、 ポ ス ト・ フ ォー ド主義 仮説 の検証 には 、地理 的 次
元 を分 析視 野 に入 れた技 術 的 。社 会的分断や 国家 介入形態 の変化 に示 される調整 様 式 の総 合的分析 と統 合 とが必 要 とされよう。
研 究 発 表
自動車産 業 にお ける生産 方式の新 展開
一 組立 ラインの新 コンセプ ト:ト ヨタ自動車の場合 ―
弘 前 大学 人 文学 部 助 教 授
日本 の主 な 自動車 メー カーは 、 1980年 代 末 ∼90年 代初 頭 にか けて相 次
いで 新「E場 の建 設 や既 存 工 場 の リニ コー アル をお こない、 新 しい生 産体
制 を構 築 しつ つ あ る。 そ こに共通 す る新 しい コンセ ブ トは「 人 と環 境 に
や さ しい 工場 Jで あ る。 本報 告 で は 、 この コ ンセ プ ト(と りわ け「 人 に
や さ しい工 場 」)を もっ と も明瞭 に打 ち出 して い る と考 え られ る トヨ タ
自動 車 の組 立 ラ イ ンを事例 と して、 その 考 え方 と諸結果 を紹 介す るとと
もに ´
定 の コ メン トを くわ えた い.
1
組 立 ラ イ ンの 新 コ ンセ プ ト
トヨ タ 自動 車 田原 :L場 第 4組 立工場 (1991/10稼 勤 )、
トヨ タ 自動車 九
浅
生
卯
一
第 33号
弘 前 大 学 経 済 学 会 報
州1(1992/12稼 動 )、
トヨ タ 自動 車元 町工場 第 2組 立 工場 (RAV4ラ イ ン、 1994/5稼 動 )で の組 立 ライ ンの新 しい特徴 は、①
新 しい工 程 編 成 (完 結 工程 )、 ② TVAL(TOYOTA Verification of Assembly Line:組
立作 業 負担 の定量 許r価 法 )に よ る作
業 負担 の 軽減 、③ 作 業環 境 の快 適 化 、④ 自動 化 (イ ン・ ラ イ ンの 自動 化 )の 4点 で あ る。 ここで は、 ① の完結 工程 に絞 ってそ
の考 え方 と諸結 果 をみ て お こ う。
2.完 結 工 程 の考 え方 と諸 結 果
完 結 Tl程 の主 な特 徴 は、 イ)車 の機 能 ご とに工程 を編 成 し、それ を管理 スパ ソ(作 業 単位 )と す る (従 来 の工 場 の組 単位 の
完結 率 は52%あ った が、 た とえば、 トヨ タ九州 のそれ は90%に な った )、 口)各 工程 の 末端 に品 質 チ ェ ックエ程 を配 置す る、
/
/
ハ )管 理 スバ ンに あ わせ て ライ ンを分害lし 、 ライ ン隔]に 一定 の バ ッフ ァー を設 け る (た とえば、 トヨ タ九州 で は 11の メイ ン
ラ イ ンに分害」され 、 それ ぞれ を一 つ の組 が担 当 し、 ラ イ ン間 に 3∼ 5台 分 の バ ッフ ァーが ぁ る、 た だ し 0台 の時 もあ る)と
い うもので あ る。
従 来 の 工程 は 、作 業 量 バ ラ ンス(生 産 性 )重 視 の 工程編 成 で あ った ことか ら、作業組織 (組 )や 個人 の作業 が 関連 の ない仕 事
の集 ま りにな り、 しか も作業 パ ター ンが多 いため に、忘れ やす く、組 み付 け ミスが発生す るな ど品 質 上 で も大 きな問題 を抱
えて い た。 完結 工程 は、 第 ―
に、 この│デ !質 上の 問題 を解 決 す るため に考 え出 され た もので あ った。 同時 に、作業 者 のや りが
いや達 成感 の喪 失 を回復 す るな どのね らい も込 め られ て いた。
こ う した完 結 工程 をは じめ と した新 しい コ ンセ プ トに もとづ く組立 て ライ ンは、従来 の工 場 に比 べ て、 職務編 成 の 自由度
が低下 した もの の 、① 生産 性 や品 質 の 向上 (工 程 内不具 合 の件数 の低下 )、 ②作業 者 の働 きが い (満 足度 )の
li昇
、③ 作業 が 分
か りや す くな った ことに よる作 業 習熟 時 間 の短縮 、④ 焦点 が絞 られ る ことに よ る監督 の しやす さな どの成 果 を もた ら した。
3.評 価
以 上の よ うな完結 工程 に対 す る現 時点 の 評価 と して は、 以下 の積極 面 と問題 点 を指摘 す る こ とがで きる。 す なわ ち、完結
工程 は、 従 来 の 工程編 成 に くらべ て「 労働 の 人間化 J(意 味 の あ る作 業 )の 観 点 か ら積 極面 を もつ。 それ は、「 機 能別 集約 」
とい う点 で 、 ボル ボの カ ルマ ル T場 の 実験 (作 業 集約 化 =1グ ル ー プ内 の作 業 をで きるだ け一定 の ま と す りの あ るもの にす
る、1974年 稼 動 、94年 6月 に閉鎖 され た が96年 1月 に再 開 )に 近 い 。 な お、 トヨ タ 自動車 が工 程編 成 の あ り方 を意識 的 に 見
直 l´ た 要因 と して、 おそ ら く、従 来 の工 程編 成 が他 の 日本 の 自動車 メー カー よ りも作 業量 バ ラ ンスを重視す る仕 方 で な され
て い た こ とが、関係 して い る もの と思 われ る。
問題 点 と して は、 ① 流 れ作 業、 つ ま リラ イ ンは廃 Jュ され て い ない こと、 この 点 で は、1991年 に稼 動 した ボル ボの ウ ッデ バ
ラエ 場 で の 実験 (ラ イ ンを廃 上 した パ ラ レル 生産 )と 比 べ た場 合 、「労働 の 人間化 」 とい う点 で か な りの距離 が あ る (な お、 こ
の工 場 は93年 5月 に 開鎖 され たが 、96年 に ボル ボ社 とイギ リス企 業 TWR社 との合弁 企 業 と して操 業 が再 開 され る予定 で あ
る)こ と、② タク トタイ ムは 1ヽ 2分 前 後 で 従来 となん ら変 わ らない ことで あ る.
な お、 これ まで
t´
ば しば指 摘 され て いた 労働 密 度 の緩和 に つ いては 、 一 定 の 改善 が な され た よ うであ るが 、依 然 と して生
て い ない よ うで あ る。 また、完結工程 を含 む一連 の改 良 が経 営 の イ ニ シャチ ブで な され て お
理 的時 間 や余裕 時間 は考慮 され´
り、労働 組 合の 関 わ りが弱 い よ うで あ る。 L述 の 問題 点 も この こ とと関係 して い る もの と思 われ る (こ れ らの点 は、今後 の
検討 課 題 で あ る)。
付記 :本 報告 は、 共 同調査 に もとづ く中間 報告 で あ る。
後鰈記
―、 本 会報 lL」 載 の ため 、瀬 FL講 師 には講演 の 要 旨を、北 島 、浅 生両 会 員 には研究 発表 の要 旨を お寄 せ いただ きま した。 あ ら
ため て感 謝 いた します。
■ 、 1996年 度 弘前 大学 経 済学 会 の 事務 局lH当 は以下 の 四名 です。
貰
孝
春 (事 務 局長 )、 香
取
薫 、佐 々木
純 ‐
郎 、藤
原
浩
一