2015年度 中長期日本文化紹介型 (PDF形式、1.44MB)

2015 年度
海外インターンシップ報告
~百聞は一見にしかず、現地に赴いて得た学び~
中長期型・ミャンマー連邦共和国(ヤンゴン)
所属・学年:国際文化学研究科言語コミュニケーションコース・博士前期課程 1 年
名
前:甲藤 瞳
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【概要】
目的:
ミャンマーの日本語教育の現場で、ティーチング・アシスタント(以下、TA と略す)として日本語・
日本事情の教育補助をする。実際に日本語学校の生徒と触れあいながら異文化理解を深め、併せて自身
の専門についても視野を拡げる機会とする。
研修期間:2015 年 8 月 26 日(水)~ 9 月 17 日(木)
、計 23 日間
研修先:THINMYANMAR LANGUAGE CENTER
訪問及び見学先:
・ミャンマー元日本留学生協会(Myanmar Association of Japan Alumni: MAJA)
・ヤンゴン外国語大学(Yangon University of Foreign Languages: YUFL)
・ヤンゴン経済大学(Yangon University of Economics)
・伊藤忠商事株式会社 ヤンゴン事務所
・独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency: JICA) ミャンマー事務所
【目次】
1. 活動報告
1.1 THIN MYANMAR LANGUAGE CENTER
1.2 ミャンマー元日本留学生協会
1.3 ヤンゴン外国語大学
1.4 ヤンゴン経済大学
1.5 伊藤忠商事株式会社 ヤンゴン事務所
1.6 JICA ミャンマー事務所
2. 本プログラムへの参加による成果
3. 今後に向けて
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1. 活動報告
1.1 THIN MYANMAR LANGUAGE CENTER(以下、TMLC と略す)
今回のインターンシップ研修先である TMLC での主な活動は以下の通りである。
・漢字辞書出版のため、初稿の確認をする
・N4 の漢字授業に入り、書き順や読み方の指導を行う
・N5 の授業に入り、ひらがなとカタカナの書き方や読み方の指導を行う
・これから日本へと渡る学生に向け、日本文化とマナーについて紹介する
漢字辞書の原稿チェック
漢字辞書の原稿チェックは TMLC での
メインの仕事であった。活動初日から約
20 日間かけて約 2,000 語の漢字の音訓、
書き順、画数、熟語の読みが合っているか
確認し、熟語については漢字の出題レベル
(N1~N5 のどれに該当するかが右から 2
番目の行に書かれている)や実際に使われ
ているかどうかを踏まえて適宜追加・削除
した。
漢字の授業への参加
原稿チェックの作業の合間に、N4 の学
生の漢字の授業に何度か参加させていた
だく機会があった。生徒たちから難しいと
思う漢字を聞き、書き順、「トメ・ハネ・
ハライ」等の書き方、左右・上下のバラン
ス等を指導した。1 回目は説明しながら一
人で書き、2 回目は生徒たちと書き順を確
認しながら全員ができるまで繰り返し一
緒に空中に書き、3 回目は実際にノートに
書いてもらい、4 回目は生徒の中から一人
にお願いして前に書いてもらい、それをみ
んなと確認し合った。
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ひらがな・カタカナの授業への参加
日本語を習い始めた学生と一緒にひらがな・カタカナの読み方や書き方を確認した。特に、ひらがな
はカタカナや漢字と比べて柔らかく曲線が多いため、丸みや角度、バランスについて気を付けながらホ
ワイトボードに書き、一人ずつチェックをした。
(ひらがなカードを使って読みを覚えているか一人ひとりに当てて確認)
日本文化とマナーについて発表
当日の参加学生は約 50 人で、皆これから日本に向かう人たちであった。特にトイレの使い方に関して
は日常的なことでかつ、ミャンマーと日本の習慣に違いがあるものであったため、クイズも取り入れな
がら丁寧に解説した。
(発表後、日本のキャンディーを巡ってジャンケン大会)
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1.2 ミャンマー元日本留学生協会(以下、MAJA と略す)
ミャンマーの日本語教師が所属を超えて連携し合うネットワーク作りの場として、ちょうど筆者の滞
在中に、第 1 回「ミャンマー日本語教師の集い」が開催された。TMLC のティンエイエイコ先生に随行
させていただき、MAJA を訪問した。使用教科書の共有や、ミャンマーでの日本語教育の現場や教師の
課題等について話し合いが行われた。教材の不足や日本語の発音・聞き取りの難しさなど課題に上る内
容に共通点は多く、各現場でそれぞれ改善策を考えるだけでなく、それを互いに共有しミャンマーの日
本語教育界全体で切磋琢磨し合う場が必要とされていることを実感した。
その後、MAJA センターの原田正美先生(岡山大学准教授)を訪問し、ミャンマー人の留学事情につ
いてお話を伺った。近年、ミャンマー人学生の留学志向は高まっているが、そのほとんどが英語圏での
留学を希望しており、日本留学を希望する人は全体で見るとまだ少数だそうだ。また、N1, N2 の学生は
現地の日系企業に採用されることが多く、学生の日本語を活かした仕事をしたいというニーズとも合わ
さり、日本留学の送り出しの対象は N3, N4 の学生になっているのが現状だと伺った。
研修前にミャンマーの日本語教育事情について調べていたが、実際に現場に携わっている方から伺う
お話は、ネットや本等からでは得られないことばかりであった。今やネット等を通して簡単に情報にア
クセスできる世の中になってきているが、実際に足を運んで生の声を聴くことの威力を改めて実感した。
(ティンエイエイコ先生【写真左】
、と原田正美先生【写真右】と記念撮影)
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(ミャンマー日本語教師の集いの後に参加者全員で記念撮影)
1.3 ヤンゴン外国語大学(以下、YUFL と略す)
YUFL の田邊知成先生を訪問した。1964 年に設立された同大学は、日本語、中国語、英語、フランス
語、ドイツ語、韓国語、ロシア語、タイ語、ミャンマー語の 9 学科があり、そのうち日本語学科は英語
学科に次ぐ人気である。それは教師部屋の数や広さ(キャリアごとに 3 つの部屋があり、それぞれシニ
ア、中堅、若手の先生用に分けられている)、中の机の数から予想される教師数の多さからも感じられ
た。
田邊先生は、国際交流基金日本語上級専門家として中国やインドへの派遣をご経験されている。日本
語教師になろうと思ったきっかけや現在に至るまでのキャリアパスなどについて質問すると、一つひと
つ丁寧に答えてくださった。
筆者は将来日本語教師になることを目指しており、実際に海外で日本語を教えられている先生からこ
れまでのご経験について伺えたことで、より具体的に自分の今後の進路について考えられるようになっ
た。そして、先生からお話を伺った後、海外で日本語教育に携わることがぐっと身近に感じるようにな
った。国際交流基金アジアセンターの日本語パートナーズプログラムで派遣されている鈴木さんにもお
会いした。当該プログラムは、ASEAN 諸国の中高等教育機関で現地の教師や生徒のパートナーとして授
業に参加し、日本語や文化の発信を行うことを目的としており、筆者も興味を持っていたため活動内容
についてお話を伺えたのは予期せぬ幸運であった。
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(正門前で田邊先生【写真左】と鈴木さん【写真右】と記念撮影)
(日本語学科のシニア教師用のお部屋を拝見)
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1.4 ヤンゴン経済大学
ヤンゴン経済大学のチョウミントン先生を訪問した。先生は神戸大学大学院経済学研究科の OB で、
ヤンゴン経済大学の元副学長、そしてミャンマー神戸大学同窓会の顧問でもいらっしゃる。偉大な先生
にお会いするということで緊張していたが、
「そんなに肩肘張らないで、リラックスしてください」と気
さくに声を掛けてくださり、とても話しやすい雰囲気を作ってくださった。
その後、Public Administration の院生と交流する機会にも恵まれた。このコースには若いグループと
キャリアを積まれたシニアグループの 2 つがあるそうで、今回は若いグループの 4 人の学生とお話をす
ることができた。4 人のうち 2 人は日本語が分かるというので「どこで勉強したの?」と聞くと、
「ケー
タイのアプリで独学した」と言う。自分からの発信だけでなく相手の発言も理解して対話をするレベル
にまで、独学で達していることに驚いた。他の 2 人も「今後日本語を学びたい、そして日本への留学に
も興味がある」と言っており、ミャンマーでの日本語学習熱が高いことを改めて実感した。
(←チョウミントン先生と記念撮影)
(↓Public Administration の院生方と記念撮影)
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1.5 伊藤忠商事株式会社 ヤンゴン事務所
伊藤忠商事ヤンゴン事務所では、高橋正基氏を訪問した。高橋氏は神戸大学経済学部の OB で、藤田
誠一理事・副学長の元ゼミ生である。当日も会議などでお忙しいところ時間を割いてくださった。
最初は、筆者からの質問に応えていただく形で話が進み、最後の方には対話形式でお話をさせていた
だいた。ミャンマー人スタッフと日本人スタッフが同じ職場で働く上で、
「相手に分かりやすくポイント
を絞って話す」
「叱るときは個室で、褒めるときはみんなの前で」など仕事の場での異文化コミュニケー
ションについて、その極意を教えていただいた。
また、ミャンマーは肥沃な土地を持つ農業国であるが、まだ輸出はほとんど手つかずの状態で、チャ
ット安・貿易赤字を改善するためにも輸出展開のサポートができたら、というお話も伺った。高橋氏は
とても仕事に熱い方で、今後も「次世代のために、ミャンマー人のために、日本人のために」走ってい
きたいと語られていたのが印象的だった。
筆者は就職活動の経験もなく、恥ずかしながら商社と聞くと「海外派遣」というイメージしか持って
いなかった。しかし、下調べをしている間に、その事業展開は繊維、機械といった資源分野から食料、
物流、金融といった非資源分野と多岐にわたること、特に伊藤忠商事では収益に占める非資源分野の割
合が大きいことが特徴であることなどを知った。訪問をきっかけに、そして高橋氏との興味深い質疑を
通して商社で働くことについて以前よりイメージがしやすくなったように感じる。
1.6 JICA ミャンマー事務所
JICA ミャンマー事務所では、企画調査員の安藤寿郎氏にお話を伺った。
「ミャンマーと JICA」という
資料に基づき、JICA のミャンマーでの活動について概要をご説明いただいた。筆者からの質問があるた
びに丁寧に解説してくださった。
基本方針として、①貧困削減、②民主化支援、③インフラ整備の 3 つの柱があるが、特にミャンマー
でのインフラ整備に関心をいだいていた。というのも、筆者は滞在時に、異様なまでの交通渋滞とそれ
に対するクラクションの応酬を毎日見聞きしており、もう少し交通整備が体系化されれば通勤時間も短
縮し、ドライバーも気持ち良く運転できるようになるだろうに、とインフラに関して素人ながらも感じ
ていたからだ。たとえば、信号機の数を増やすことや、車の流れをシミュレーションした上で信号の切
り替わりの時間調整をすることといった対策が考えられていると伺った。
今回、2 社の日系企業訪問で共通して話題になったのが、11 月のミャンマー総選挙である。この結果
によって民主化支援の動きが促進され、海外企業のミャンマーへの進出が加速化するなど、現地の日系
企業の今後の事業展開にも影響を与えるだろうとおっしゃっていた。日本でも紙面やニュースで大きく
取り上げられると思うので、情報収集の際には今回の滞在で伺ったお話や新たに得た視点を活かしたい。
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2. 本プログラムへの参加による成果
この約 3 週間のインターンシップで、出会った人たちそれぞれから多くのことを学んだ。
学生からは漢字を書く際にどういうところが難しいのかを教えてもらった。画数が多い複雑な字形の
漢字(
「題」など)だけでなく、形はシンプルでも書き順の複雑なもの(「馬」
「毎」など)も難しく感じ
ているようだった。また、彼らの授業中の反応がとても良く、楽しく授業をすることができた。他にも 2
時間の授業で集中し続ける集中力や真面目さも学びたいと思った。
スタッフの先生はよく日本語の表現の使い方などについて質問をしてくださった。中にはすぐには説
明できないものもあり、後で調べ直していると自分でも「なるほど!」と再発見する気づきがあった(「分
かります」と「分かりました」の使い分けなど)。普段は自然に使っている日本語は、使い方を説明する
となると難しいことがよくある。質問を受ける度に、どういう表現が使いづらいのかが分かり、解説を
するために勉強をするので、自身の学びにも大いに繋がった。
訪問先でお会いした方のお話を通じて、ミャンマーを様々な角度から見つめ直すことができた。日本
語教育の立場から、インフラや経済、政治の視点から、そしてビジネスの観点からなどである。渡航前
には本や新聞、ニュースを通じてのミャンマーしか知らなかったが、今回の滞在ではミャンマーの空気
に実際に触れながら生の情報を手に入れることができた。間接的にミャンマーについて学習していたと
きよりもずっとミャンマーという国を身近に感じるようになった。
ティンエイエイコ先生は、課外訪問や TMLC での活動でたくさんチャンスをくださった。特に TMLC
での活動では、学生に日本語の文字の書き方の指導や技能実習生の面接練習など、実際に学生と関わる
機会をくださった。その中で指導内容や方法に関するアドバイスとフィードバックをいただいた。今後
教える立場になったときにこの経験は大いに役立つだろう。ホームステイ先でもご家族のみなさんに大
変お世話になった。
今回、日本語教育の現場に携わりたい、ミャンマーの日本語教育のニーズや実態について学びたいと
思いこのインターンシップに参加した。本プログラムで得られた学びは、既に述べてきた通り、想像を
はるかに上回るものであった。TA として働く中では、困難もやりがいも感じた。授業で分からない質問
が出たときの対応や、20 人以上の学生相手に授業をする際にどのレベルに合わせて授業を行えば良いか
など対応に悩むこともあったが、他の先生の授業を見て勉強し、実際に悩みを共有し話し合って対策を
考える機会もあった。また、TA としてのやりがいは、学生の成長を目の前で見られること、そして学生
と向き合っての授業なので学生の反応に応じて教え方を調整できることである。よく参加していた漢字
やひらがなの授業では、説明を加える度に学生の字が整っていくのを目にすることができ、とてもやり
がいを感じた。これらはすべて現地に行ったからこそ得られた成果だと感じている。
3. 今後に向けて
あっという間の 24 日間であったが、この短い間に実にたくさんの人と出会い、その方々に支えられな
がら毎日を元気に安全に過ごすことができた。今回の経験は必ずこれからの進路選択に活かされると信
じている。今後は、現場で学んだことを積極的に研究や日々の勉強にも活かしていきたい。そして、ミ
ャンマーや海外での日本語教育について少しでも関心のある方達と今回の体験を共有し、それらについ
てより身近に感じてもらえるように伝道師としての役割も果たしたい。最後に、渡航前の日本で、そし
て渡航先のミャンマーでお世話になったすべての方にお礼を申し上げたい。ありがとうございました。
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