キラリ! 「 食 」への 要 望 を 多 面 的 に す く い あ げ る た め 特 養 で は

施設紹介Vol.42
特別養護老人ホーム 愛全園 (東京都昭島市)
「食」
への要望を多面的にすくいあげるため
特養では導入例が珍しいNSTを導入
東京都昭島市に都内の特別養護老人ホーム第一号としてスタートした愛全園では、
運営理念の筆頭に「食の充実」を掲げる平成 年に栄養サポートチームの「愛全園NST」が発足。
管理栄養士が多職種チームと毎週園内のラウンド(巡回)を行うことで、利用者の要望を多面的にすくいあげる試みを続けています。
ホーム偕生園や昭島市高齢者在宅サービスセ
年、都初の特養として認可を受けた特別
ンター愛全園等を運営しており、なかでも昭
和
います。
年には、
「愛全園NST」が発足。N
が常に把握できる状況を整えているなど、一
(産総研)との共同研究による見守り支援シス
平成
瘡ラップ療法や大量皮下点滴の導入など、さ
コープによる胃ろうチューブ交換の導入、褥
くないものの、高齢者福祉施設で導入される
ST( Nutrition Support Team
)は栄 養 サ ポー
トチームと呼ばれ、医療機関での実施は珍し
嚥 下 評 価、 胃 ろ う 造 設 者 に 対 す る P E G ス
テムの構築、嚥下内視鏡検査による入所者の
養護老人ホーム愛全園は、スウェーデンのメー
特別養護老人ホーム 愛全園
療所の蓮村友樹久所長の発案でした。蓮村所
長は次のように話します。
Vol.532 月刊老施協 24
(C) 2015 全国老人福祉施設協議会.
〒196 - 0014
東京都昭島市田中町 2 - 25 -3
TEL:042 - 541 - 3100
貫して医療と密に連携して介護に取り組んで
社会福祉法人同胞互助会
例は多くありません。このNSTは、愛全診
24
まざまな先駆的な取り組みで広く知られてい
ます。また、法人傘下の愛全診療所を昭和
年に同園内部に開設し、利用者の状態を医師
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丸山和代理事・園長
24
特養での導入自体が極めて珍しいNSTの成果と今後の課題をレポートします。
年、東京都昭島市に設立された社会
先駆的な取り組みの一つとして
NSTが平成 年に発足
昭和
24
福祉法人同胞互助会。現在、市内で養護老人
23
カー製造のおむつ導入、産業技術総合研究所
39
地域発
NSTラウンドではまず、利用者の居室前で情報交換、ケアの方向性を議論します
右から2 人目が NST 導入に尽力した愛全診療所の蓮村友樹久所長
キラリ!
以前は利用者への対応に各職種で温度差があり、連携が不十分でした
NSTラウンドを行うようになってからは多職種間の情報
共有がスムーズに
「 食の 充 実 は、医 療 と 介 護の 充 実 とと もに、
%を数え
私どもが三本柱に置く最重要項目。特に現在、
看取りにおける施設内死亡率 ・
3
る。
人のスタッフがご利用者様の気持ちに
栄養士に話したいこととがすべて分かれてい
に話したいことと、介護職に話したいことと、
は簡単ですが、実際にはどの方も、ドクター
「
『ご利用者様の気持ちになる』と口で言うの
じます。
施設運営にあたる丸山和代園長も、こう応
うした試みの一つなのです」
組みを行ってきました。愛全園NSTは、そ
自家厨房製造をはじめとするさまざまな取り
しでも満足して過ごせるよう、凍結含浸食の
る当園では、ご利用者様が限られた時間を少
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報交換を行い、対応を検討。
的に集まって、栄養面から利用者に関する情
指導員、園長等で構成され、メンバーが定期
看護師、介護福祉士、生活相談員、機能訓練
愛全園NSTは、管理栄養士を中心に医師、
NSTラウンド時にカンファレンス
情報共有等のプロセスを効率化
べき姿なのです」
ています。それこそが、本来のNSTのある
者様の要望を多面的にすくいあげたいと思っ
から話を聞く愛全園NSTを通して、ご利用
ちは専門の異なるスタッフがそれぞれの視点
なるのに限界があります。だからこそ、私た
1
そのプロセスを簡単に紹介すると、まず毎
(C) 2015 全国老人福祉施設協議会.
25 月刊老施協 Vol.532
利用者との温かいふれあいを大切にしながら、ADLを把握します
利用者にカメラを向けると、笑顔で 職員とのコミュニケーションを通じて、
「撮影 OK 」
との返答をいただきました 利用者から笑顔がみられました
柔道が得意な利用者との思い出の写真。施設
での生活を通じて、楽しい思い出が増えていま
す
地域のニーズに対応するため、胃ろうの利用者を受け入れています。利用者に肉体的・精神的な負
担がないようにビデオ内視鏡検査(VE)による摂食・嚥下評価、超細径内視鏡による施設内胃ろ
うチューブ交換を行っています。それにより迅速な処置が可能
赤星式の音楽療法プログラムを導入。楽器の演
奏や歌を通じて、利 用 者のストレス発 散につな
げています
時に、利用者の担当チームが居室
前の廊下に集合。利用者の簡単な履歴、現在
来 求 めている 特 養 に お け る N S Tに な ら な
医師に希望を言うものに留まってしまい、本
なってしまい、体のことを中心に利用者様が
の状態と問題点、今後のケアについて、それ
かったため、管理栄養士主導に切り替えまし
週水 曜日
ぞれの立場から報告し合います。続いて、担
た。こうして始まったNSTラウンドは、少
用者様がより心を開いて自分のことを話すよ
当チームが居室内に入り、食べたいものやし
す。それらを踏まえたうえで、今後の食事や
うになり、我々も彼らの変化により気づくこ
しずつ形を変えながら行われることで、ご利
ケアについて軌道修正したほうがよい点はそ
とができるようになったのです」
たいことといった利用者の要望に耳を傾けま
の場で議論し、メンバー全員の了承が得られ
大の特徴といえるでしょう。
です。この効率性こそが、愛全園NSTの最
点の把握から解決までが一挙に行える仕組み
つまり、介入が必要な利用者に対して、問題
研究報告として、愛全園NSTのリーダー・
ウンドあっての成果とのこと。これら2例は
がわずか1か月で完治するなどは、NSTラ
加や嚥下機能の改善に至ったり、重度の褥瘡
ケースで、適切な栄養改善によって体重の増
たとえば、いずれも病院から転所してきた
「ラウンド」における担 当チームの構 成は各
中野もも管理栄養士らの手でまとめられ、平
れ ば、即 日 実 行 に 移 さ れる という 流 れです。
利用者によって異なります。フロアを移動す
成
年 度 全国 老人 福 祉 施設研 究 会 議で発 表。
る際には園内アナウンスで招集。NSTメン
時
う振り返ります。
優秀賞を受賞しました。中野管理栄養士はこ
間ほどかけてラウンドします。対象者は現在、
「当園では、長期間ご利用者様の体重を記録
Tの介入をきっかけに体重のV字回復が見ら
ス ク リ ー ニン グ に よって 抽 出 さ れ る 経 過 観
り対応中の者が中心となります。
例ほどあります。また、NS
Tラウンド時に、多職種間での情報共有とご
年から既に行われていた、と丸山園長は
した。しかし、病院のドクター回診のように
「ラウンドは当初、医師主導でスタートしま
を利用者に提供。さらに近年は、食形態のひ
自家厨房を備え、調理師が毎日手作りの料理
また、
「食の充実」を謳う同園では、地下に
した点が評価されたのだと思います」
ことで、業務の効率化に成功しました。こう
利用者様への対応策の決定までを一度に行う
れたケースが
きめ細かなNSTラウンドにより
多数の利用者の栄養状態が改善
していますが、それによると、明らかにNS
バーは、3〜4人ほどの利用者の居室を
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察・介入を要する者や、新入所、褥瘡、看取
1
ラウンドそのものはNST発足に先立つ平
成
15
Vol.532 月刊老施協 26
(C) 2015 全国老人福祉施設協議会.
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話します。
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● FILE 30 /管理栄養士・臨床栄養師
● FILE 31 /介護課課長・介護福祉士
中野 ももさん
大塚 叔功さん
した。この仕事の一番の醍醐味は、多
して選んだのも、そんな気持ちからで
ていました。高齢者福祉施設を職場と
して人とかかわる仕事がしたいと思っ
持したまま分解するため、摂食嚥下障害のあ
したもので、食材本来の栄養素や色、形を保
に含まれる細胞壁を酵素で分解して柔らかく
介護食の革命として注目されています。食材
材保持型のバリアフリー介護食のこと。現在、
とつに、凍結含浸食の導入も行いました。こ
職種の方たちと一緒になって、ご利用
る高齢者でも、安心して目と舌で楽しんで食
学の管理栄養士過程で学びなが
者様のことをお互い真摯に相談し合え
べることができるのです。同園は、この凍結
れは、広島県が基本特許を出願して始めた食
ること。それが結果となって表れたと
含浸食のメニューを提供するため、専用のス
ら、いつも専門的な知識を活か
きはいつも、やって良かったという気
チームコンベクション等を導入。昨年
月か
持ちになります。現在は、嚥下機能の
大
おおつか・よしのり●平成 5 年、社会福祉法人同胞互助会入職。同法人
のデイサービスセンターケアワーカー主任、特別養護老人ホーム主任を
経験。
今年4月よりサービスセンター課長兼務。
職員の介護技術向上、
リー
ダー育成に力を入れる。
なかの・もも●平成 18 年、神奈川県立保健福祉大学栄養学科卒業後、病院管理栄
養士として聖隷佐倉市民病院、九段坂病院に計 6 年間勤務。平成 24 年、臨床栄養師
資格取得。平成 25 年、社会福祉法人同胞互助会入職。当法人では、主に愛全園の
栄養ケア・マネジメント、NSTを担当している。
でいます。予算等の制約もありますが、
ことのできるケーキの試作に取り組ん
低下した方でも召し上がっていただく
「 食の充 実 」に向け、さまざまな取り 組みに
移行しました。
らきざみ食を廃止して、完全に凍結含浸食に
護職の道を選んだのは、いろい
「一人あたりに割けるNSTラウンドの時間
分ということもあって、現在は
が
る。そういう意味で、自分は恵まれて
る。また、それを外部に発信できてい
門職として同じ目線で接してくれてい
ドクターも管理栄養士も、介護士を専
えていけるシステムが整っていること。
の気づきを的確に他のセクションに伝
すね。ゆくゆくは、この試みを在宅にも広げ
成果を焦らず、地道に取り組んでいきたいで
じていた だ くこ と か ら すべてが 始 まる は ず。
に誰か私の話を聞いてくれる人がいる』と感
「 ま ずは、ご利 用 者 様 に『この 施 設 には、常
した。
そして丸山園長は、最後にこう付け加えま
す。その意味では課題は多いですね」
いメンバーのみが話を聞いているのが実情で
管理栄養士と、ご利用者様から特に信望の厚
分から
ろなことを教えてくれた祖母の
だまだ」と言います。
力を入れる一方で、丸山園長は、
「理想にはま
7
早く実現したいです。
介
影響が大きいと思います。
当法人の良いところは、多職種が連
携するなかで、医療をはじめトータル
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ていこうと考えています」
な知識を背景に、ご利用者様の変化へ
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いると思います。
(C) 2015 全国老人福祉施設協議会.
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嚥下機能の低下した方でも
召し上がれるケーキの試作に
取り組んでいます
多職種連携システムのなかで
介護職の専門性が
認められています
キラリ!スタッフ紹介