外科術後MRSA感 染症に対する併用化学療法 外科

VOL.39
NO.9
外 科術後MRSA感
883
染 症 に対す る併用 化学療 法
外 科 術 後MRSA感
染 症 に 対 す る併 用 化 学 療 法
の 臨 床 的 お よ び細 菌 学 的 研 究
上寺
祐 之 ・佐 藤
富 良 ・粟 根
康行
東京都立府中病院外科*
山
崎
悦 子 ・水
口
同 臨床検査科
国
雄
横
田
健
順天堂大学医学部細 菌学教室
(平成3年6月10日
Methicillin-resistant
Staphylococous
受付 ・平成3年7月5日
受理)
aureus(MRSA)は,強
毒 菌 で あ る と と もに,多
剤耐
性 化 し や す い 菌 種 で あ る。 そ の た め 単 剤 に よ る治 療 は無 効 な こ とが 多 く,多 剤 併 用 療 法 が 実 施
さ れ て い る。 今 回,1988年6月
MRSA感
染 症 の46例
か ら1990年6月
ま で の 期 間 に 当 科 で 経 験 した 外 科 術 後
を 細 菌 学 的 お よ び 臨 床 的 に検 討 し た。 ま た,1989年11月
感 染 症 対 策 ガ イ ド ラ イ ン を 作 製 し,そ れ を 基 本 と し た 治 療 を実 施 し た の で,そ
用 療 法 例(実
Inhibitory
施 前10例,実
Concentration
施 後8例)に
Index(FIC
tory Concentration(MIC)の
果,次
つ い て,MRSAに
index)の
変 化,臨
よ りMRSA
の 前 後 の2剤 併
対 す る 併 用 薬 剤 のFractional
測 定,併
用 に よ る 各 薬 剤 のMinimal
Inhibi-
床 的 背 景 因 子 お よ び 臨 床 効 果 を比 較 検 討 し た。 そ の結
の 結 論 が 得 られ た 。
(1)消
化 器 外 科 術 後MRSA感
(2)グ
ラ ム 陰 性 菌 や 嫌 気 性 菌 と の 混 合 感 染 例 は9例
Aeuaomonas
(3)グ
aemginosaと
ラ ム 陰 性 菌,嫌
はMRSA感
染 症 は,Compromised
hostに 多 発 して い た 。
に 認 め ら れ,特
にMRSAと
の 混 合 感 染 は5例 で あ っ た 。
気 性 菌 と の 混 合 感 染 例 を考 慮 し,第2世
代 セ フ ェ ム 系 薬 剤+IPM/CS
染 症 に 対 す る有 効 な 併 用 療 法 の 一 つ で あ る と考 え られ た。
(4)併 用 療 法 の 評 価 をFIC indexの み で 行 う こ と は不 充 分 で あ り,「 併 用 に よ り少 な く と も
一 つ の抗 菌 剤 のMICが
ブ レ イ ク ポ イ ン ト以 下 に な る こ と。 」 とい う判 定 条 件 を付 け加 え る こ
とに よ り,よ
Key
り正 確 な 判 定 が 可 能 に な る と考 え られ た。
words:MRSA,併
用 療 法,混
Methicillin-resistant Staphylococcus
合 感 染,FIC
aureus(MRSA)
は,細 胞壁 の構 成 要素 で あ るペ ニ シ リ ン結 合 蛋 白 が変 化 す
るこ とに よ り,多 剤 耐 性 化 した 黄 色 ブ ドウ球 菌 で あ る1∼3)。
MRSAは,菌
自体 が 強 毒 菌 で あ り,速 や か に 薬 剤 耐 性 を
獲得 す る ので,MRSA感
染 症 の 治 療 は きわ め て 困 難 な も
の とな っ て い る。MRSA感
index,併
用 時MIC
学 療 法 の工 夫 を含 むMRSA感
製,実 施 し,ほ ぼ 満足 す べ き結 果 を得 た と考 え られ る。 そ
こで,今 回,当 院 外科 にお い て施行 され た2剤 併 用 療 法 に
つ い て臨 床 的 お よび細 菌 学 的 に検 討 し,若 干 の知 見 を得 た
の で報 告 す る。
I.対
染 症 の 対 策 の 要 点 は,次 の3
点 で あ る。(1)院内感 染対 策 を励 行 す る。(2)外科 手 術 後 に
1.対
は,ブ ドウ 球 菌 に 強 い 抗 菌 剤 を 投 与 す る。(3)多剤 耐 性
1988年6月
MRSA感
染 症 に対 して は 有効 な 併 用 化 学 療 法 を強 力 に施
行す る4)。都立 府 中病 院 外 科 に お い て も,MRSA感
流行 が 数 回起 こっ た が,1989年11月,早
*東 京 都 府 中市 武 蔵 台2 -9-2
染症 の
期 診 断 ・併 用 化
染 症 対 策 ガ イ ドライ ンを作
象 お よび方法
象
か ら,1990年6月
まで の期 間 に都 立 府
中 病 院 外 科 で 発 生 し た 術 後MRSA感
び,こ
染 症46例
れ ら の 症 例 か ら 得 ら れ た 菌 株39株
MRSAの
お よ
で あ る。
定 義 は,methicillin(DMPPC)のMini-
CHEMOTHERAPY
884
mal Inhibitory Concentration(MIC)が12.5μg/ml
以 上 のS.aureusと
法
1)術
後MRSA感
る た め に,年
位,混
混 合 感 染 は9例
Pseudomonas
染 症 の 臨 床 的 背 景 を明 ら か に す
齢,性
別,原
疾 患,基
合 感 染 の 有 無,MRSA検
た 抗 菌 剤,MRSAの
礎 疾 患,感
染部
出 時 に使 用 さ れ て い
治 療 に 用 い ら れ た 抗 菌 剤,お
よ
び 臨 床 成 績 を検 討 し た。
2)保
存 し得 た39症
剤 に 対 す るMICを
て,測
株 を 用 い て,各 種 抗 菌
日本 化 学 療 法 学 会 標 準 法 に従 っ
arbekacin
(ABK),
minocycline
vancomycin
(VCM),
fosfomycin
(FOM),onoxacin(OFLX)で
3)2剤
5)MRSA検
spp.1例
で あ っ た。
出 時 に使 用 さ れ て い た 抗 菌 剤 の 延 べ
使 用 例 数
は,piperacillin(PIPC)14例,cefazolin
て 単 独 時 お よ び併 用 時 のMICを
例,CMZ1例,latamoxef(LMOX)2例,cefmenoxime(CMX)2例,ceftizoxime(CZX)1例,
例,cefuzonam(CZON)2例,FOM3例,AMK2
例,dibekacin(DKB)8例
で あ っ た 。 「第3世
6)MRSA感
例 か ら 得 られ
症 例 で使 用 され た抗 菌 剤 に つ い
Concentration
aerogenes1例,Enterococcus
中9例
代」 セ
で 使 用 さ れ て い た。
染 症 の 治 療 に 用 い られ た 抗 菌 剤 の 延
べ 使 用 例 数 は,PIPC2例,CMZ18例,CTM5例,
併 用 療 法 が 施 行 さ れ た18症
Inhibitory
Bacteroides fragilis1例,E.coli1例,Enterobacter
フ ェ ム 系 抗 生 剤 は46例
あ る。
を 用 い て,各
coliと
cefoperazone(CPZ)3例,ceftazidime(CAZ)1
cefamandole
(CMD),
cefmetazole
(CMZ),
imipenem/cilastatin
(IPM/CS),
amikacin
た18株
で 認 め られ た。検 出 され た 菌 は
aeruginosa5例,Escherichia
(CEZ)10例,cephalothin(CET)1例,CTM7
例39菌
定 し た 。 用 い た 抗 菌 剤 は,cefotiam(CTM),
(AMK),
(MINO),
1991
った。
した 。
2.方
SEPT.
測 定 し,Fractional
index(FIC
cefaclor(CCL)1例,CZON2例,IPM/CS16例,
AMK10例,netilmicin(NTL)2例,MINO4例,
VCM内
index),す
な
わち
2剤
服2例,FOM5例,OFLX9例,で
併 用 療 法 は18例
さ れ た 。2剤
あ っ た。
に,3剤
併 用 療 法 は3例
に施 行
併 用 療 法 の 内 容 は,CMZ+FOM3例,
CMZ+AMK2例,CMZ+MINO1例,FOM+
OFLX1例,IPM/CS+OFLX1例,CZON+
MINO2例,CMZ+IPM/CS4例,CTM+IPM/
CS4例
を求 め た 。
FICindexが0.5以
加 効 果,1.0以
下 を 相 乗 効 果,0.5∼1.0を
上 を拮 抗 効 果 と し た。 そ して これ ら18
症 例 の 臨 床 的 背 景,治
推 移 お よ びFIC
療 効 果 と,併 用 に よ るMICの
indexに
1.術
後MRSA感
染症 の臨床 的背景
1)術
後MRSA感
染 症46例
で あ っ た 。 年 齢 分 布 は26歳
あ り,平 均 年 齢 は60歳
2)原
疾 患 は食 道 癌1例,胃
発 性 肝 癌1例,食
腹 膜 炎1例,イ
レ ウ ス2例,腸
癌2例,閉
か ら82歳
癌16例,胃
女性
まで で
1例,腸
ml,AMK:6.25,6.25μg/ml,ABK:0.39,1.56
3.2剤
痩1例,傍
2剤
直 腸 腫 瘤1
創1例
礎 疾 患 は,慢 性 肝 障 害6例,肝
尿 病3例,イ
併 用療 法 の臨床効 果 の検討 をす るた めに症例 を
ま ず,MRSA感
染 症 対 策 ガ イ ド ラ イ ン を作 製 し た 以
であ
果(0.5以
転 移3例,他
テ ロ イ ド使 用 中)2
レ ウ ス3例,そ
の 他4例
で あ り,
に基礎疾 患 が合併 してい た。
染 症 は,腹 腔 内 膿 瘍26例,肺
炎3例,腎
孟 腎 炎1例,皮
炎3例,膿
下 膿 瘍12例
あ った。
併 用化学 療 法 の臨床効 果 の細菌 学 的検討
前 と 以 後 に 大 き く 分 け,さ
46例 中22例
4)感
そ れ ぞ れ,CMZ:50,100μg/
1.56μg/ml,OFLX:6.25,100μg/mlで
潰 瘍4例,
道 ・胃静 脈 瘤3例,
原 病(ス
布 を示 し
μg/ml,MINO:0.39,12.5μg/ml,VCM:0.78,
塞 性 動 脈 硬 化 症1例,褥
臓 器 癌 の 併 発5例,膠
例,糖
測定 結果
各 種 抗 菌 剤 に 対 す る 累 積MIC分
IPM/CS:25,100μg/ml,FOM:>400,>400μg/
性 は33例
った。
3)基
で あ っ
ml,CMD:25,25μg/ml,CTM:100,200μg/ml,
で あ った。
大 腸 癌12例,原
例,乳
中,男
2.MICの
た 。MIC50,MIC90は
果
併 用 療 法 の 内 容 はCMZ+
た。
Fig.1に
つ い て 検 討 した 。
II.結
は13例
相
で あ っ た 。3剤
FOM+AMK2例,CMZ+MINO+AMK1例
胸
で あ
効 果(1.0以
下),相
ら にFIC
加 効 果(0.5∼1.0)お
上)を
indexで
相 乗 効
よ び拮 抗
示 し た症 例 に 分 け て 記 載 す る。 抗
菌 剤 の 有 効 あ る い は 無 効 の ブ レ イ ク ポ イ ン ト は
MINOを0.39μg/mlと
μg/mlと
1)MRSA感
例(Table1)
し5),そ
の 他 の 薬 剤
は12.5
し た6)。
染 症 対 策 ガ イ ド ラ イ ン作 製 以 前 の 症
VOL.39
NO
.9
外科術 後MRSA感
Fig.1.
Susceptibility
lin-resistant
1989年11月
以 前 に は,MRSA感
distribution
針 が な く,CMZ+FOM
FOM+OFLX
of clinical
Stapvlococcus
aureus
染症対策 ガイ ド
ラ イ ン は作 製 さ れ て い な か っ た。 そ の た め,一
定 の方
3例,CMZ+AMK
1例,CZON+MINO
2例,
2例,CMZ+
MINO
1例,IPM/CS+OFLX
Table
1に,こ
景,単
独 時 お よ び 併 用 時 のMIC,FIC
臨床 的 背
indexを
示 し
た。
胃 静 脈 瘤,大
手 術,結
CMZ
腸 癌,肝
硬 変 症 に 対 し て,Hassab氏
腸 切 除 術 を 施 行 し た。 単 独 時 のMICは,
100μg/ml,FOM
100μg/ml,併
3.13μg/ml,FOM
6.25μg/mlで
用 に よ り両 者 のMICは
た。FIC
用 時 のMIC
あ り,併
ブ レ イ ク ポ イ ン ト以 下 と な っ
indexは0.094で
あ り,腹 腔 内 膿 瘍 は速 や か
に 治 癒 した 。
症 例1.70歳
男 性,腹
症 例4.65歳
腔 内 膿 瘍,IPM/CS+
女 性,皮
下 膿 瘍,CMZ+AMK
慢 性 関 節 リウ マ チ(RA)の
OFLX
ス テ ロ イ ド治 療 中 に 胃
潰 瘍 か ら大 量 出 血 し胃 切 除 術 を施 行 した 。 術 後 に 広 範
肝 硬 変 症 を 伴 っ た 原 発性 肝 癌 に 対 し て肝 左 葉 切 除 術
を施 行 し た 。 単 独 時 のMICはIPM/CS
12.5μg/mlで
μg/ml,OFLX
MICは
of methicil-
(2)相加 効 果 を 示 した 症 例
(1)相乗 効 果 を示 し た症 例
0FLX
isolates
.
はCMZ
1例 が 行 わ れ て い た 。
れ ら10例(No.1∼10)の
885
染症 に対 す る併用 化学療 法
あ り,併
3.13μg/mlで
6.25μg/ml,
用 時 はIPM/CS
1.56
っ た が,併
用 に よ り,そ
のMICは
さ ら に低 下 した。
あ っ た。 抗 菌 剤 の 投 与 後2日
目に
37℃ 以 下 に 解 熱 し,腹 腔 内 膿 瘍 は 速 や か に 治 癒 し た 。
症 例2.
59歳 女 性,腹
出 血 性 胃 潰 瘍 に 対 し て 胃 切 除 術 を施 行 した 。 単 独 時
以 下 とな っ た 。FIC
indexは0.156で
12.5μg/ml
ブ レイ ク ポ イ ン ト
あ り,腹 腔 内 膿
男 性,腹
6.25μg/ml,併
3.13μg/mlで
な っ た 。FIC
腔 内 膿 瘍,CMZ+FOM
用 時 は
あ っ た。 併
な り,AMKのMIC
indexは0.625で
あ り,皮 下 膿
瘍 は速 や か に 治 癒 した 。
症 例5.
26歳 男 性,筋
肉皮 弁移 植 部位 の広 範 な皮
下 膿 瘍,CMZ+MINO
移 植 部 位 に 広 範 な皮 下 膿 瘍 が 発 生 した。単 独 時 の
併 用 時 はCMZ
た。FIC
50μg/ml,MINO
50 μg/mlで
25μg/ml,MINO
12.5μg/mlで
indexは0.75で
あ り,
あっ
相 加 効 果 を示 して い た 。 し
か し抗 菌 剤 の 投 与 後 も大 量 の排 膿 が 持 続 した 。 そ こ で
ポ ピ ド ン ヨー ドに よ る 局 所 の24時
瘍 は速 や か に 治 癒 し た 。
症 例3.66歳
も1/2と
MICは,CMZ
6.25μg/ml,FOM
とな り,併 用 に よ り両 者 のMICは
1.56μg/ml,AMK
難 治 性 の 褥 創 部 に 筋 肉 皮 弁 を 有 茎 移 植 し た と こ ろ,
腔 内 膿 瘍,CMZ+FOM
のMICは,CMZ200μg/ml,FOM100μg/ml,併
用 時 のMICはCMZ
12.5μg/ml,AMK
CMZ
用 に よ りCMZのMICが1/8に
あ っ た 。IPM/CSの
単 独 時 も併 用 時 も ブ レ イ ク ポ イ ン ト以 下 で あ
FIC indexは0.5で
な 創 部 の 皮 下 膿 瘍 を 形 成 し た。 単 独 時 のMICは
CMZ
間持 続 灌流 療 法 を
施 行 し た 。 ポ ビ ド ン ヨ ー ドに よ る治 療 を 開 始 し て 約1
886
CHEMOTHERAPY
SEPT,1991
VOL.39
NO .9
ヵ 月 後,膿
外科術 後MRSA感
染症 に対 す る併 用化学 療法
瘍 は 完 全 に治 癒 し た。
887
療 法 と し て,第2世
代 セ フ ェ ム 系 抗 菌 剤(CMZ,
(3)拮抗 効 果 を 示 し た症 例
CTM)(4g/日)+IPM/CS(2な
症 例6.73歳
7日 間 前 後 行 っ た 。Table
女 性,後
腹 膜 膿 瘍,CMZ+FOM
尿 管 癌 術 後 に 後 腹 膜 膿 瘍 を 生 じ,Hartman氏
を施 行 し た 。P
aemginosaと
た 。 単 独 時 のMICはCMZ
手術
の混合感染例 であ っ
100μg/ml,FOM
ク ポ イ ン ト以 下 に な ら な か っ た 。FIC
熱 せ ず,大
併 発 した 。 そ こで 大 量 輸 血,種
配 糖 体 系 薬 剤,カ
症 例1.53歳
男 性,腹
腔 内 膿 瘍,CTM+IPM/CS
は,CTM
200μg/ml,IPM/CS
25μg/mlで
用 時 はCTMI
々 の 抗 潰 瘍 剤,ア
っ た。 併 用 に よ り,両 者 のMICは
ル バ ペ ネ ム 製 剤,グ
ミノ
ロ ブ リ ン製 剤,
月後 に 治 癒 退 院 し
た。
indexを
胃 癌 に 対 し て 胃 切 除 術 を施 行 した 。 単 独 時 のMIC
量の上 部消 化管 出血 を
中 心 静 脈 栄 養 等 に て 治 療 し,約4か
2.5μg/ml,IPM/CS
以 下 に な り,特
あ り,併
1.56μg/mlで
あ
ブ レイ ク ポイ ン ト
にIPM/CSのMICは1.56μg/mlに
まで 低 下 した 。FIC
indexは0.125で
あ った。抗 菌剤
の 投 与 に よ り,腹 痛 は 消 失 し 排 膿 量 も著 明 に 減 少 し
症 例7.
49歳 男 性,腹
腔 内膿 瘍,CMZ+AMK
た。
胃 癌 に 対 し て 胃 切 除 術 を 施 行 し た 。 単 独 時 のMIC
は,CMZ
はCMZ
FIC
独 投 与 時 お よ び 併 用 時 のMIC,FIC
(1)相乗 効 果 を 示 した 症 例
100μg/
ブレイ
indexは1.125
投与 を
の臨床 的 背
示 し た。
800
μg/mlで,併
用 時 はCMZ
100μg/ml,FOM
mlで あ っ た 。 併 用 に よ っ て も,両 者 のMICは
で あ っ た 。 術 後,解
景,単
い し1g/日)の
2に これ ら8例
50μg/ml,AMK
3.13μg/mlで,併
50μg/ml,AMK
3.13μg/mlで
indexは,2.0で
症 例2.
用 時
あ っ た。
あ った。 中心 静脈 栄 養等 の併 用
に よ り速 や か に 治 癒 し た。
症 例8.
56歳 男 性,皮
MICはFOM
25μg/ml,OFLX
6.25μg/mlで,併
用 時 はFOM
25μg/ml,0FLX
3.13μg/mlで
た。 併 用 に よ りFOMのMICは
症 例9.
あ っ
変 化 し な か っ た が,
低 下 し た 。FIC
indexは1.5
た 。 併 用 後 もMICは
で あ っ た が,抗
0.39μg/mlで
不 変 で あ り,FIC
菌 剤 投 与 後6日
ブ レ イ ク ポ イ ン ト以
下 で あ っ た が,併
ら に 低 下 し た。FIC
indexは0.159で
用 に よ り,さ
あ り化 学 療 法 開 始 後,約1週
87歳
男 性,MRSA腸
炎,CTM+IPM/
前 立 腺 肥 大 症 手 術 後,MRSA腸
用
あ っ
indexは2.0
目 に37℃ 以 下 に 解 熱
MRSA腸
炎 に 対 し て,VCMの
も にCTMとIPM/CSの
MICは,CTM
炎 と な っ た。
内服 を 開始 す る と と
投 与 を施行 した。単 独 時 の
400μg/ml,IPM/CS
あ り,併 用 時 はCTM
12.5μg/mlで
3.13μg/ml,IPM/CS
mlで
し,治 癒 した 。
ポ イ ン トの 境 界 線 上 に あ っ た が,併
81歳 女 性,腹
は,CZON
100μg/ml,MINO
た。FIC
0.39μg/mlで
50μg/ml,MINO
indexは1.013で
0.2μg/mlで
あ っ た が,腹
あ り,
あっ
腔 内膿 瘍 は速
や か に治 癒 した 。
2)MRSA感
例(Table
化 学 療 法 開 始 後,約10日
2)
染 症 ガ イ ドラ イ ン を
作 製 して 実 施 した 。P.aeruginosaお
よ び嫌 気 性 菌 と
の混 合 感 染 も考 慮 に 入 れ,MRSA感
染症 の併 用 化 学
0.2μg/
単 独 時 はブ レ イ ク
用 に よ り両 者 の
indexは0.024で
目 に 便 中 のMRSAは
あ り,
消失
し た。
症 例4.80歳
男 性,腎
盂 腎 炎,CTM+IPM/CS
大 腸 癌 の 多 発 性 肝 転 移 に て 入 院 中,腎
aemginosaと
時 のMICは,CTM
mlで
以 後,MRSA感
著 し く低 下 し,FIC
した 。P
染 症 対 策 ガ イ ドラ イ ン 作 製 以 後 の 症
1989年11月
あ っ た。IPM/CSのMICは
MICは
腔 内 膿 瘍,CZON+MINO
胃癌 に 対 し て 胃 切 除 術 を施 行 し た 。 単 独 時 のMIC
併 用 時 はCZON
間 で
消 失 した 。
し,抗 菌 剤 投 与 前 に 存 在 し て い た 低 血 圧 症 状 も消 失
症 例10.
あ っ
た。 単 独 時 のIPM/CSのMICは
症 例3.
0.39μg/mlで,併
400μg/ml,MINO
あ り併 用 時
0.1μg/mlで
CS
胃癌 に 対 し て 胃 切 除 術 を 施 行 し た 。 単 独 時 のMIC
時 はCZON
注 ポ ー トの 埋 め
0.78μg/mlで
3.13μg/ml,IPM/CS
MRSAは
腔 内 膿 瘍,CZON+MINO
400μg/ml,MINO
100μg/ml,IPM/CS
は,CTM
下 膿 瘍 は速 や か に 治 癒 した 。
51歳 女 性,腹
は,CZON
大 腸 癌 の 多 発 性 肝 転 移 に対 して,動
込 み 術 を 施 行 し た 。 こ の 周 囲 に 感 染 を生 じ た の で 動 注
CTM
大 腸 癌 に 対 し て 大 腸 切 除 術 を 施 行 し た。 単 独 時 の
で あ っ た が,皮
癌 剤 動 注 用 ポ ー トの 感 染,
ポ ー ト を 体 外 に 取 り 出 し た。 単 独 時 のMICは,
下 膿 瘍,FOM+OFLX
OFLXのMICは1/2に
70歳 男 性,抗
CTM十IPM/CS
200μg/ml,IPM/CS
あ り,併 用 時 はCTM
μg/mlで
12.5μg/
25μg/ml,IPM/CS
あ っ た 。IPM/CSのMICは
ク ポ イ ン トの 境 界 線 上 に あ っ た が,併
は 著 し く低 下 し,FIC
盂腎 炎 を発生
の混 合感染 例 であ った。単 独
indexは0.141で
0.2
単 独 時 は ブレ イ
用 に よ りMIC
あった。 併用
888
CHEMOTHERAPY
SEPT,1991
VOL.39
NO .9
外 科術 後MRSA感
染 症 に対 する併用化 学療 法
日 で 解 熱 し,血 清 ク レ ア チ ニ ン 値 ,
も正 常 化 し た。 熱 発 時 に 昏 濁 し て い た 意 識 も
889
療 法 に よ り,数
イ ド ラ イ ン を 作 製 実 施 し,さ
BUN値
の 工 夫 に よ り1990年6月
清明 化 した。
し な が ら,MRSAの
症 例5.
獲 得 は きわ め て 早 く,ま たP
41歳 男 性,膿
胸,CMZ+IPM/CS
肝 硬 変 症 に よ る食 道 ・胃 静 脈 瘤 に 対 して 食 道 離 断 術
を 施 行 し た 。 単 独 時 のMICは,CMZ
25μg/mlで
ml,IPM/CS
あ り,併
6.25μg/mlと
50μg/ml,
用 に よ りCMZ
な り,FIC
25μg/
indexは0
μg/ml,IPM/CS
は0.63で
腔 内 膿 瘍,CMZ+IPM/CS
な り,併
用 に よ りCMZ
6.25
な っ た。FIC
index
3.13μg/mlと
で 解 熱 し,治 癒
した 。
50歳 男 性,腹
剤投 与では充分 な
よ り1990年6月
の 期 間 に 延 べ21例
の 併 用 化 学 療 法 が 施 行 さ れ て い た 。 しか しな が ら,ガ
12.5μg/ml,
あ り,併 用 療 法 施 行 後3日
症 例7.
っ て い た 。 そ の よ うな 状 況 下で,単
療 法 が 治 療 の 中 心 に な っ て き て い た11)。我 々 の 施 設 で
性 膵 炎 を合 併 し た 胃 癌 に 対 して 胃全 摘 術
25μg/mlと
腔 内 膿 瘍,CMZ+IPM/CS
イ ドラ イ ン作 製 以 前 に は確 固 た る方 針 が な く,様 々 な
様 式 の 併 用 化 学 療 法 が 試 行 錯 誤 的 に 行 わ れ て お り,必
ず し も満 足 す る結 果 が 得 られ て い な か っ た。 ま た,ガ
イ ドラ イ ン作 製 時 の1989年
投 与,ABKの
療 に難
使 用 も不 可 能 で あ っ た の で,治
CMZ+IPM/CSの
ば 経 験 的 推 量 に よ り,
併 用 化 学 療 法 を 思 い つ き,臨 床 応
用 す る と共 に 基 礎 的 研 究 を 行 っ た 。 第1例
CMZ
良 好 で あ っ た の で,臨
CMZ
FIC
50μg/mlで
25μg/ml,IPM/CS
あ り併 用 時 は
12.5μg/mlで
indexは0.75で
あ っ た。
あ り,併 用 療 法 に よ り速 や か に
治 癒 した。
症 例8.
女 性,腹
腔 内 膿 瘍,MRSA腸
炎
CMZ+IPM/CS
腸 的 ポ リープ切除 術 を
施 行 し た 。 単 独 時 のMICはCMZ
CS 50μg/mlで
あ り,併
25μg/mlで
た。MRSA腸
50μg/ml,IPM/
用 時 はCMZ
あ り,FIC
間 で,排 膿,下
た。 便 中 のMRSAも
内 服 も 併 用 し た。
消失 した。
が 産 生 さ れ る こ と に よ り β-ラ ク タ ム 剤 に
強 毒 菌 で あ りtoxic
MRSA感
代セフェ
併 用 療 法 を実 施 し た。
shock
syndromeの
本 来,
原 因 と され る
素 を産 生 し得 る の で8),治 療 が 後 手 に 回 れ
染 症 は 瞬 時 に重 篤 化 す る。
染 症 の 治 療 の 要 点 は,本
し て,一
症 を 発 生 させ な
度 発 生 し た場 合 は,可 及 的 に早 期
発 見 を し,有 効 な 化 学 療 法 を 強 力 に施 行 す る こ と で あ
る。 我 々 の 施 設 で は,数
経 験 され た が1989年11月
耐 性 菌 の 出 現 を 防 止 す る 目的 で 抗 結 核 剤 の 併 用 療 法 が
(Multiple
Drug
や12)Compromised
Resistant
P
多剤 耐性緑 膿菌
aeruginosa)の
hostの 増 加 に伴 い,一
出現
般細 菌感染
症 に 対 す る併 用 化 学 療 法 が 脚 光 を 浴 び て い る。 し か
し,臨 床 薬 理 学 的 考 察 に 基 づ く抗 菌 剤 投 与 法 の研 究 は
く残 さ れ て い る。 併 用 療 法 を考 え る に あ た っ て は,拮
伝 子 が組 み 込 ま
対 す る耐 性 を 獲 得 し た も の で あ る7)。MRSAは
い こ と,そ
イ ドラ イ ン作 製 以 後 は,第2世
ム 系 抗 生 剤+IPM/CSの
遅 れ て お り,明 ら か に し な けれ ば な らな い 問 題 が 数 多
察
MRSAは,S.aureusにmecA遺
ば,MRSA感
あっ
痢 が 消 失 し,解 熱 し
III.考
TSST-1毒
良好 な基礎 的 か つ臨床 的
効 果 が 発 表 さ れ た の で,臨 床 応 用 を さ らに 推 進 し た 。
施 行 さ れ て い る。 近 年,MRSAや
12.5μg/ml,
indexは0.75で
炎 に 対 し てVCMの
併 用 療 法 後 約1週
れPBP-2′
目の結 果が
を 追 加 し た。 ま た ほ ぼ
併 用 化 学 療 法 の 歴 史 は古 く,結 核 菌 感 染 症 に 対 して
大腸 ポ リー プ癌 に対 して,経
IPM/CS
床 例3例
同 時 期 にCTM+IPM/CSの
す な わ ち,ガ
39歳
ほと
静脈内
渋 し て い た 。 そ こ で,半
胃 癌 に 対 して 胃 全 摘 術 を施 行 した 。P.aeruginosa
後 半 に は,MRSAは
ん ど の 抗 菌 剤 に 耐 性 を獲 得 し て お り,VCMの
と の 混 合 感 染 例 で あ っ た 。 単 独 投 与 時 のMICは,
50μg/ml,IPM/CS
染
て膿胸 の消 失が 確
を 施 行 し た 。 単 独 時 のMICは,CMZ
IPM/CS
中心 とし
症 に 対 す る最 適 な化 学 療 法 の 選 択 は きわ め て 困 難 に な
も,1988年6月
糖 尿 病,慢
aeruginosaを
た 混 合 感 染 例 も散 見 さ れ る よ う に な り,MRSA感
効 果 を得 る こ とが 難 し い こ と も報 告 され10),併 用 化 学
認 された。
64歳 男 性,腹
各 種抗 菌 剤 に対 す る薬 剤耐 性 の
.75
で あ っ た 。 併 用 療 法 施 行 後 のCTに
症 例6.
期 診断 法
科 術 後MRSA
感 染 症 を ほ ぼ コ ン トロ ー ル す る こ とが で きた9)。 しか
(2)相加 効 果 を 示 し た症 例
IPM/CS
ら にMRSA早
ま で に は,外
回 のMRSA感
か らMRSA感
染症 の流 行 が
染症対策ガ
抗 作 用 を 示 さ な い薬 剤 の 組 み 合 わ せ 方13),抗 菌 剤 の 投
与 順 序14),併 用 療 法 の有 効 性 の 評 価 法,混
合感 染 の併
存 な ど に つ い て15)考 慮 し な け れ ば な ら な い 。 今 回,
当 院 外 科 で 経 験 し た術 後MRSA感
染症 につ いて臨 床
的 背 景 お よ び薬 剤 感 受 性 を検 討 す る と と も に,2剤
併
用 療 法 を 施 行 し た18例
につ いて併 用 療法 の 臨床 的 効
果 と併 用 に よ るMICの
推 移,FIC
討 し,よ
indexと
を比 較 検
り理 想 的 な 併 用 化 学 療 法 の あ り方 に つ い て 考
察 した。
1.術
後MRSA感
術 後MRSA感
染症 の臨床 的背 景
染 症 は,男
性 に や や 多 く発 生 す る 傾
向 が 認 め られ た が,年
齢 分 布,原
疾 患 に は特 徴 的 な 所
め られ た 。 そ の うち,慢
に併 存疾 患 が認
療 が 奏 効 す る と は 考 え ら れ な か っ た 。 現 に,MRSA
性 肝 障 害,肝
転 移 例,他 臓 器
感 染 症 の 治 療 に は,18例
傾 向 が あ っ た 。 し た が っ て,望
hostに
多発 す る
菌 的作用 よ
し ろ殺 菌 的 作 用 を 持 つ 薬 剤 に よ る治 療 で あ る
他 の 菌 の 混 合 感 染 例 は,46例
認 め られ た 。P.aeruginosa
例,E.coli
MINO,FOM,OFLXが
中 心 に 投 与 さ れ て い た。2
す べ て 治 撤 し た。 こ れ は,MRSAに
1例 で あ り,グ
中,9例
に
5例,E.coli+B.fragilis
1例,E.aerogenes
剤 が 併 用 さ れ て い た こ と,早 期 診 断 法 を 工 夫 した こ
1
1例,Enterococcus
ラ ム 陰 性 桿 菌 と嫌 気 性 菌 が 混 合
た こ とな ど に よ る と考 え られ た 。
3.
2剤 併 用 療 法 の 検 討
CMZとFOMの
組 み 合 わ せ は,MRSA感
3例 の 治 療 に 嗣 い た 。 症 例2,3で
内 容 に よ る術 野 の 汚 染 は 避 け が た い 。 そ の た め,腸
のMICが100μg/mlで
内 の 細 菌 で あ るP.aeruginosa,E.coliを
FOMのMICは
グ ラ ム陰 性 桿 菌 と嫌 気 性 菌 に は,常
中心 とした
に気 をつ けて いな
け れ ば な ら な い 。 混 合 感 染 を 伴 っ たMRSA感
染症の
FIC
indexも0.156,0.094と
よ っ て もCMZとFOMのMICは
ら に β-ラ ク タ マ ー ゼ に 安 定 な も の で
MRSA感
は,FOMのMICは800μg/m1で
期 の 第3世
あ り併 用 に
ブ レイ ク ポイント
以 下 に は な らな か っ た 。 臨 床 効 果 の 面 か ら見 て も,衛
後 数 週 間 解 熱 せ ず,重
染 症 の 流 行 の 原 因 と し て,初
強 い 槽 乗 効 果 を示 して
い た 。 臨 床 効 果 も き わ め て 良 好 で あ っ た。 しか し,症
例6.で
な けれ ば な ら な い と考 え られ る の。
よび
ブ レ イ ク ポ イ ン ト以 下 に な って お り,
は,グ
気 性 菌 に 対 して も抗 菌 ス ペ ク
は 単 独 時 のFOM
あ り併 用 に よ りCMZお
存 在 を考 慮 に い れ る と,併 用 療 法 に 用 い る べ き抗 菌 剤
ラ ム陰 性 桿 菌,嫌
染 症 に対
す る併 用 療 法 と して 最 も有 名 な 処 方 で あ る鋤 。 我々 も
感 染 の 主 要 な細 菌 で あ っ た。 消 化 器 外 科 手 術 で は,腸
トル を持 ち,さ
比 較 的 強 い 抗菌
と9),病 棟 と細 菌 検 査室 との 連 絡 が ス ム ー ズ に行 われ
と考 え て よ い。
MRSAと
併 用 療 法 と3例 の3
剤 併 用 療 法 お よ び3剤 併 用 療 法 が 施 行 され た症例 では
ま しい 化 学 療 法 は,重
要 臓 器 に 与 え る 副 作 用 が 少 な く,か つ,静
の2剤
剤 併 用 療 法 が 行 わ れ,CMZ,IPM/CS,AMK,
テ ロ イ ド内 服 事 な どが 大 部 分 を 占 め,諸
家 の 報 告 の ご と く16),compromised
り も,む
ど であ
性 化 もか な り進 行 し て お り,単 独 投 与 で は治
中22例
基 礎 疾 患 に つ い て は,46例
癌 の 併 発,ス
CMD,IPM/CS,AMK,MINO,OFLXな
る が,耐
見 は 認 め ら れ な か っ た。
spp.
SEPT,1991
CHEMOTHERAPY
890
症 感 染 症 の 影 響 と考 え られ る大
量 の 上 部 消 化 管 出 血 が 合 併 して お り,CMZ+FOMは
代 セ フ ェ ム 系 抗 生 剤 の 乱 用 と,院 内 感 染 が 指 摘 さ れ て
あ ま り有 効 で は な か っ た と考 え られ た 。 著 者 の一 人で
い る。 し か しMRSA検
あ る 横 田 は,FOMのMICが200μg/ml以
出 時 に 使 用 され て い た抗 菌 剤
の 延 べ 使 用 数 を み る と第3世
46例 中9例
代 セ フェ ム系 抗 生 剤 は
で 使 用 さ れ て い た の み で あ り,当 院 に お
下 の症 例
に つ い て はCMZとFOMの
併 用 は 有 効 で あ る が,
FOMのMICが400μg/ml以
上 の 症 例 で は無 効 で あ
い て は院 内 感 染 の 方 が よ り重 要 な要 因 で は な い か と推
る と し て い る21)。我 々 の 経 験 し た3症 例 の 臨 床 治療成
察 さ れ た18)。1989年11月
績 の 結 果 も,こ の 理 論 を 裏 付 け る もの で あ っ た。
以 後,MRSA感
染症 対策
ガ イ ド ラ イ ン を作 製 し,そ の 対 策 に あ た っ た と こ ろ,
1990年6月
ま で にMRSA感
こ と に ほ ぼ 成 功 し た の で,院
は,compromised
内感染 の対 策 を立 て るこ
な 治 療 法 と さ れ て い る19).CMZとAMKの
が2例
と は 有 用 で あ っ た と考 え る。
2.術
後MRSA感
染症 の細 菌学的 検索
保 存 し 得 た39菌
測 定 しFig.1に
VCMの
効 果 は 時 間 依 存 性 で,MICを
above
MIC)と
示 し た 。 β-ラ
相 関 し,ア
越 え る時 間
ミ ノ配 糖 体 系 薬 剤,
キ ノ ロ ン 系 薬 剤 の 効 果 は 総 投 与 量,す
(area under
the curve)が
ク タ ム 剤,
な わ ちAUC
相 関 す る と され て い る19)。
hostに
対 す る併 用 療 法 と して 有効
あ り,CMZはcephamycin系
組 み 合 わ せ で あ る と考 え られ た 。 現 に,ス
内 服 患 者 を含 む2例
例4.で
は 併 用 に よ りAMKのMICも
ブ レ イ ク ポ イ ン トの1/8に
して お り,FIC
indexも
FIC
り,VCMは
入手不可 能であ
内服 の み が許 可 さ れ て い る状 態 で あ っ
た。 つ ぎ に 有 効 と 考 え ら れ た 抗 菌 剤 は,CMZ,
っ た く変 化 し て お らず
拮 抗 作 用 を 示 し て い た 。 しか し なが ら
AMKのMICは3.13μg/mlで
好 で あ っ た の で,AMKが
る。
ま で低 下
相 加 効 果 を 示 して い た。 症例
与 で はABK,VCMが
回 の 研 究 の 時 点 で はABKは
半 減 し,ま た
CMZのMICも
indexも
テ ロイ ド剤
で の 治 療 結 果 は 良 好 で あ っ た。症
7.で は 併 用 に よ りMICは,ま
し,今
抗菌
剤 で あ る の で 嫌 気 性 菌 に対 し て も有 効 で あ り,有 効 な
こ れ ら の 知 見 と血 中 濃 度 分 布 な どか ら考 案 し,単 独 投
最 も有 効 と考 え ら れ る。 し か
併 用療 法
に お い て 施 行 さ れ た。 当 院 のAMKのMIC50
は6.25μg/mlで
株 を 用 い て 各 種 抗 菌 剤 に対 す る
MIcを
(Time
β-ラ ク タ ム 剤 と ア ミ ノ 配 糖 体 系 薬 剤 の 組 み合 わせ
染 症 を コ ン トロ ー ル す る
あ り,治 療 結 果 も良
有 効 で あ っ た と考 え られ
VOL.39
NO .9
外科術 後MRSA感
FOMとOFLXの
併 用 は,1例
に行 わ れ てい た。併
用 に よ りOFLXのMICは3.13μg/mlに
り,FIC
indexは1.5で
891
染症 に対 す る併 用化学 療法
な っ て お
はあ ったが有効 で あ った。 こ
れ は表 層 感 染 の 症 例 な の で,抗
菌 剤 の 効 果 とい う よ り
も外 科 的 処 置 が 有 効 で あ っ た と い う可 能 性 も考 え られ
る。FOM,OFLXの
よ う に 経 口 薬 を併 用 す る場 合 に
は,経 口 薬 の 血 中 濃 度 の ピー ク値 は 血 管 内 投 与 に比 べ
て 低 い の でFIC
MICの
indexの
よ う な 相 対 比 で は な く,
変 化 で検 討 す べ き で あ る と考 え られ る。
IPM/CSとOFLXの
併 用 は,肝 硬 変 症 を伴 っ た 原
発 性 肝 癌 例 に 施 行 さ れ た 。 併 用 に よ り,MICは
と も著 し く低 下 し,FIC
indexも0.5で
両者
あ り,臨 床 効
果 も著 明 で あ っ た 。IPM/CS,OFLXは
両 者 と も,
広 域 ス ペ ク トル を持 ち グ ラ ム 陰 性 桿 菌,嫌
気性 菌 に も
有効 であ るので消化 器 外科術 後 の混合感 染症 例 に対 し
て有 効 で あ る と考 え ら れ る。
MINOを
用 い た 併 用 療 法 は3例
そ の う ち,症
例9.10.で
はFIC
で 行 わ れ て い た。
Fig. 2. Combination effect of cefmetazole and
imipenem/cilastatin
sodium against MRSA.
indexは2.0と1.013
で あ り,拮 抗 作 用 で あ っ た がMINOのMICは
単独
時 お よび 併 用 時 と も に0.39μg/ml以
下 で あ り,臨 床
IPM/CSのMICは
効 果 も良 好 で あ っ た 。 逆 に 症 例5.で
はFIC
い た 。FIC
indexは
あ り,臨 床 的 に も 無 効 で あ っ
た。
合 感 染 例 に お い て もIPM/CSが
混
有 効 で あ り治 療 に成
功 し て い た。
MINOはMRSAの
治 療 薬 と し て有 効 な も の と され
て い る。MINOとCZON,CMZ,FOM等
よ るMICの
下 になって
あ り きわ め て 強
い 相 乗 効 果 を示 して い た 。 ま た,P.aeruginosaの
0.75で 相 加 効 果 を 示 し て い た が 併 用 時 のMINOの
MICは,12,5μg/mlで
す べ て1.56μg/ml以
indexも0.024∼0.159で
推 移 を 見 る と,ほ
の併 用 に
と ん ど変 化 し て お ら
ず,松 本22)が 報 告 して い る よ う にMINOと
他 剤 の併
用 は,少 な く と も拮 抗 作 用 を 示 さ な い と考 え られ る。
さ ら に血 中 濃 度 の 分 析 か らMICの
は0.2∼0.39μg/mlと
ブ レイ クポ イ ン ト
注
近,測
CMZ+IPM/CSの
併 用 は,4例
に つ い て実 施 され
た。4例 中1例
は,P
っ た が 全 例,良
好 な 臨 床 効 果 が 得 ら れ,MRSA感
症 は治 癒 し た。FIC
aeruginosaと
の 混 合感 染 で あ
indexは0.63∼0.75と
で あ っ た が,Fig.2に
示 す よ う に,併
染
相 加効 果
用 に よ り,
少 な く と も片 方 が ブ レ イ ク
indexは,MICの
比の
く ま で も相 対 的 な 指 標 で あ る。 最
定 法 の 進 歩 に よ り,薬 剤 の 血 中 濃 度 の 測 定 が 容
易 に な り,体 内 動 態 の 解 析 か ら薬 物 療 法 を 検 討 す る よ
う に な っ て き て お り,時
above
MICや
間依存性 の因子 としての
総 投 与 量 の指 標 と し て のAUCが
注 目 さ れ て い る。 そ の た め 併 用 療 法 の 効 果 を検 討 す る
上 で も,単
目 す べ きで あ る。
CMZ,IPM/CSのMICが
用 い られ て い る。FIC
値 の 和 で あ り,あ
Time
さ れ て い る の で5),MINOを
用 い た 併 用 療 法 の 効 果 判 定 に は,MINOのMICに
併 用 療 法 の 効 果 を 判 定 す る 基 準 と し て は,FIC
indexが
に 相 対 的 な 値 で あ るFIC
indexの
い る の で は な く,絶 対 値 で あ るMICの
み を用
値 を 用 い る必
要 が あ る と考 え られ る 。 今 回 検 討 し た18例
の2剤
併
用 例 に お い て も,臨 床 効 果 が 無 効 で あ っ た と考 え ら れ
る症 例5.のFIC
indexは,0.75と
い た 。 ま た,症 例7.8.9.10.で
ぞ れ,2.0,1.5,2.0,1.013で
相 加 効 果 を示 し て
は,FIC
indexは
それ
拮 抗 効 果 を示 して い
ポ イ ン ト以 下 に な っ て お り,良 好 な 臨 床 効 果 の裏 付 け
た が,投
に な っ て い る。 ま た,IPM/CSはP.aemginosaに
が ブ レ イ ク ポ イ ン ト以 下 で あ り,臨 床 的 に 治 癒 し て い
著 効 を 示 し,CMZはB.fragilisに
CMZ+IPM/CSの
有 効 で あ る の で,
組 み合 わ せ は消化 器 外 科術 後 の混
CTM+IPM/CSは4例
で 用 い ら れ,良
た。 以 上 の こ とか ら併 用 化 学 療 法 を 検 討 す る 際 に は,
FIC
MIC値
合 感 染 例 に も有 効 で あ ろ う。
好 な 治療 成
績 を示 して い た。 細 菌 学 的 実 験 結 果 で も,併 用 に よ り
与 さ れ た 薬 剤 の う ち の ど ち ら か 一 方 のMIC
indexの
み で な く,併 用 に よ り少 な くと も一 方 の
が ブ レ イ ク ポ イ ン ト以 下 に な る と い う判 定 基
準 を も十 二 分 に 参 考 に す べ き で あ る と考 え ら れ た。
本 論 文 の 要 旨 は第36回
日本 消 化 器 外 科 学 会(1990,
7月,東
SEPT.1991
CHEMOTHERAPY
892
京)に
菌)。 診 断 と治 療76:
おい て発表 した。 また本研 究 の一 部 は
平 成 元 年 度 お よ び2年
度 東 京 都 衛 生 局 臨 床 研 究 費(元
衛 病 開 第128号,2衛
病 開 第113号)に
12)竹
均,
よって行 わ れ
文
島 田
3)
5)
日 本 臨 床44:
耐 性 機 構 か ら見 た対 策。 順 天 堂
15)
岩 井 重 富,
佐藤
10,
毅,
1990
阿 久 津 昌 久,
国 松 正 彦,
新 井 尚 之,
西川
田中
松 本 慶 蔵,
木 村 久 男,
1989
野 口行 雄,
宇 塚 良 夫,
西 岡 き よ: 点 滴 静 注 用Minocyclineに
横田
Journal
本 田一
関 す る研
of Antibiotics27:
横 田
健: MRSA
shock
syndrome
上 寺 祐 之,
2: 163∼168,
佐 藤 富 良,
雄: MRSA感
(TSS)
の1例
20)
渡 辺 忠 洋,
35∼40,
柴 田 雄 介,
戸 塚 恭 一,
菊池
菅 野 治 重: MRSA
1991
Utsui
Y,
深 田
1989
(メ チ シ リ ン 耐 性 黄 色 ブ ド ウ 球
Ohya
T:
and
aureus.
1982
山 崎 悦 子,
21)
水 口 国 男: 東 京 都
染症 の検討。 日
1990
S,
横 田
Magaribuchi
Antibacterial
in
activity
combination
with
cephem-resistant
T,
of
195∼
Tajima
M,
cefmetazole
fosfomycin
against
Staphylococcus
Agents
Chemother
30:
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瀬分
津 村 祐 昭,
14)
出 和,
ブ ドウ 球 菌)。 月 刊 薬 事32:
9)
沖 田 光 昭,
宮 本 勝 也,
ment
cal Practice6:
8)
今 村 裕 司,
五 島 嵯 智 子: 併 用 の 基 礎 的 問 題 。 抗 生 物 質 の 使 い 方
-基 礎 編-105∼124
, 1989
1988
究 。The
Japanese
∼306 , 1974
7)
1988
藤 本 三 喜 夫,
日 本 医 事 新 報No.3451:
565∼570,
334∼342,
1383∼1388,
節,
13)
1986
横 田
陽,
6)
2112∼2121,
療 法 。 日 本 臨 床45:
健: MRSAの
村 上 義 昭,
学 会 誌51:
紺 野 昌 俊: メ チ シ リ ン 耐 性 ブ ド ウ 球 菌 感 染 症 の 化 学
医 学34:
4)
献
馨: メ チ シ リ ン 耐 性 黄 色 ブ ド ウ 球 菌
(MRSA)。
2)
児玉
山
隆: 外 科 病 棟 に お け る 院 内 感 染 と し て の
Pseudomonas
aeruginosaの
検 討 。 日本 臨 床 外 科 医
た。
1)
末 芳 生,
松 本 慶 蔵,
1149∼1156,
他
基礎 的 展開。化学 療法
1990
(33施 設 お よ び 関 連 施 設):
ミノ サ イ
ク リ ンの 黄 色 ブ ド ウ球 菌 性 感 染 症 に 対 す る 臨 床 効
果 。 化 学 療 法 の 領 域6:
160∼172,
1990
VOL.39
NO .9
CLINICAL
外科術 後MRSA感
AND BACTERIOLOGICAL
CHEMOTHERAPY
EVALUATION
IN POST
OPERATIVE
METHICILLIN-RESISTANT
Yushi
Uetera1),
Yamazaki2),
PATIENTS
WITH
A UREUS
INFECTIONS
Tomiyoshi
Kunio
OF COMBINATION
STAPHYLOCOCCUS
(MRSA)
Etsuko
893
染症 に対 す る併 用化学 療法
Sato1),
Mizuguchi2)
Yasuyuki
Awane1),
and Takeshi
Department of Surgery, Tokyo Metropolitan
Fuchu city, Tokyo, Japan
Yokota3)
Fuchu Hospital,
1)
Clinical Laboratory, 2)
Tokyo Metropolitan Fuchu Hospital
Department of Bacteriology, Juntendo Medical College.
3)
We have experienced
46 cases of postoperative
MRSA infections,
including: intraabdominal
abscess 26; wound infection 12; pneumonia
3; enterocolitis
3; pyothorax
1; and pyelonephritis
1.
Eighteen patients were treated by combination
chemotherapy
with two antibiotics and its efficacy
was analyzed in terms of clinical results and fractional inhibitory concentration
(FIC) index. From
June 1988 to October, 1989, the combination
chemotherapy
used to treat 10 cases was as follows:
cefmetazole
(CMZ)+fosfomycin
(FOM) 3; CMZ+amikacin
(AMK) 2; cefuzonam
(CZON)+
minocycline
(MINO) 2; CMZ+MINO
1; imipenem/cilastatin
(IPM/CS)+ofloxacin
(OFLX)
1;
and FOM+OFLX
1. The FIC indexes of the isolates in 8 of these cases showed 3 synergistic,
1
additive and 4 antagonistic,
but the combination
chemotherapy
was clinically effective in all cases.
In 2 cases, however, the combination chemotherapy
was clinically ineffective, one being additive and
the other antagonistic.
However, in these cases the MICs of both of the paired antibiotics were above
the break point. From November 1989 to June 1990, 4 cases each were treated with CMZ+IPM/CS
and cefotiam
(CTM)+IPM/CS.
In all cases, the MIC of at least one of the antibiotics fell below the
break point, and the clinical course was uneventful.
The CMZ+IPM/CS
conbination
showed
additive action, whereas CTM+IPM/CS
was synergistic.
In evaluating the clinical efficacy of
combination chemotherapy,
not only the FIC index but also the fact that the MIC of at least one of
the antibiotics must be below the break point, should be taken into account.