エンゲージメント文化の 構築: シニア・リーダーシップの 重要性 デール・カーネギー・トレーニング白書 デール・カーネギー・トレーニング Copyright © 2014 Dale Carnegie & Associates, Inc. All rights reserved. 職場として評判の高い組織もあれば、従業員の離職率の高さに困っている組 織もあるのはなぜでしょうか。これは単純に賃金の差ではありません。金銭 面のインセンティブがより多くの求職者につながることはありますが、お金 が個人を組織につなげることはありません。従業員の献身度、自分の働く組 織を素晴らしい職場または取引先として他者に推薦する意欲をエンゲージメ ントと呼び、そのエンゲージメントが組織の成功を左右します。 デール・カーネギー・トレーニングは、職場のエンゲージメントに影響を与 える論理的要因と感情的要因を調査し、結果、シニア・リーダーの仕事ぶり と行動が重要であることが明らかになりました。雇用する従業員の質、従業 員に与えるリソースとトレーニング、従業員とのコミュニケーション・レベ ル、従業員への報酬、職場環境はシニア・マネジメントを映す鏡です。 「チームワークとは共通の目標に向かい、一丸となって取り組む能力 です。個人の業績を組織の目的に方向付ける能力です。一般の人た ちがありきたりではない特別な成果を得るための燃料です。」 –アンドリュー・カーネギー 2 エンゲージメントのビジネス価値 多くの場合、シニア・リーダーにとって、従業員エンゲージメントが業績 へ与える影響を評価するのは難しいことです。デール・カーネギー・トレ ーニングの調査によると、従業員の 10 人に 7 人は職場で十分にエンゲー ジしていないことが分かりました。自分の仕事はこなしているとする従業 員の半数弱が仕事ぶりを過小評価されていると感じており、自分の仕事以 外のことに労力を使う余裕がなかったり、仕事以外のことをしようとしま せん。 問題なのはアメリカ全土の労働力の 4 分の 1 以上を占めるディスエンゲー ジしている従業員です。ディスエンゲージしている従業員はネガティブな 行動で、同僚の成果に対し批判的です。その影響はアウトプットの低下や 事故、欠勤、離職率の増加に見られます。ディスエンゲージメントは職場 にこのような弊害をもたらすため、雇用主によっては不満を抱いている従 業員を解雇するのが良いと考える人もいますが、そのように解雇された従 業員は不満を外に持ち出し、組織に対する顧客と求職者の評判を下げます。 ディスエンゲージしている従業員の 69%は、給与がわずか 5%増えるだ けで転職しますが、エンゲージしている従業員であれば、給料が 20%増 えないと転職しないことが分かっています 1。ディスエンゲージしている 従業員をエンゲージしている従業員に変えることができれば離職に伴うコ ストが下がることになるので、この事実を軽視するべきではありません。 カリフォルニア大学労使関係センターによると、離職に伴う新たな採用と 研修に給与の 150%の費用がかかると資産されています 2。これには生産 性の低下も含まれます。今日、一部の職種で、特にテクノロジー産業とヘ ルスケア産業では人材が不足しています。つまり、従業員が辞めた後、相 当な期間、ポジションに空きがでている可能性があります。このことは景 気が回復し、労働者にとって選択肢が増える中でより問題となると考えら れます。 ディスエンゲージしている従業員は仕事をするのにコストと時間がかかる のとは対照的に、エンゲージしている従業員はビジネスに貢献します。完 全にエンゲージしている従業員の 29%が同僚よりも短時間で多くの仕事 をこなします。結果として良い効果を組織の内外にもたらし、生産性が上 がります。顧客満足度が上がることにより再契約の確立も上がり、組織と 株主の利益につながります。このような事実の上で 90%の組織が従業員 エンゲージメントはビジネスの成功を左右すると言っているにもかかわら ず、75%の組織がエンゲージメントの計画や戦略を立てていないことは驚 くべきことです。3 役職と報酬が示 す通り、マネー ジャーや直属の 上司の45%は、 エンゲージして います。 他のレベルの従 業員の場合は、 23%だけが十分 にエンゲージし ています。 3 エンゲージメントを高める文化を作る 1. エンゲージメントを育てる文化を作る 2. エンゲージメントレベルを測る 顧客体験 市場でのリーダーシップ 3. エンゲージメントレベルを高める ための計画を作る 従業員 エンゲージメント 4. 従業員に責任を持たせエンゲージメント を構築する 5. 貢献した従業員に報酬を与えること でエンゲージメントを構築する シニア・リーダーは組織を代表する顔です。シニア・リーダーが戦略的目標と組織文化を示し、 目標を達成するために正しい方向へと組織の舵取りをします。シニア・リーダーポジティブな 態度と行動を示すことで、すべての従業員を巻き込み、やる気にさせることでエンゲージメン トの文化を構築することができます。60%の従業員はシニア・リーダーの能力を信じ、彼らが 正しい方向に組織を導いていると考えており完全にエンゲージしているのに対し、シニア・リ ーダーが組織を正しい方向に導いていないと考える従業員の 3 分 1 以下がディスエンゲージし ています。 従業員は自分の意見を声に出し、それを真剣に聴いて欲しいと思っています。オープンで誠実 なコミュニケーションを奨励する組織の従業員がよりエンゲージしているのは当然のことです。 そのような組織では、課題を共有する機会を受け入れ、一丸となって取り組んで解決策を見つ けていきます。自分の仕事に影響する決定に自分の意見や提案が取り入れられていると満足し ている従業員の61%がエンゲージしています。意見を述べる機会がない、自分の声が届いてい ないと感じている従業員はモチベーションが下がる傾向にあります。 4 多くの従業員は自分が何を期待されているのか分かっています。新しいスキルを身につけたり、新 しいことを試す機会がエンゲージメントレベルを高めます。シニア・リーダーは明確なキャリアの 方向性を示し、従業員のためになる意見を出し、組織全体での研修を行うことでエンゲージメント を確立することができます。従業員は自分の仕事には意味があり、会社の成功のために働いている のだと実感する必要があります。会社の方向性に関与できていると感じている従業員の60%がエ ンゲージしています。 人は自分の価値観を共有できるコミュニティーの一員でありたいと感じているのです。組織と従業 員の価値観が一致するとき、そして従業員の価値が組織の行動に反映されているとき、エンゲージ メントが生まれます。たとえば、従業員の 3 分の 1 が自分の組織は多様性を重視していると応え た場合、その内の 55%はエンゲージしている従業員です。組織が従業員の健康や幸せをサポート していると感じている安全な職場環境を確保することにより、マネジメントは従業員に対する責任 を強めることができます。 組織の社会的責任と従業員エンゲージメントには直接の相関関係があります。組織の地域社会に対 する貢献を誇りに思っていると答えた従業員は、そうでない従業員に比べてエンゲージメントレベ ルが 2 倍に高くなります(54%対 25%)。 シニア・リーダーは、チームワークと助け合いの精神を促進することで職場のエンゲージメントを さらに高めることができます。このポジティブな職場での関係は、出勤することが楽しみになるな ど、同僚との友情を育むのに役立ちます。また、エンゲージメントの高い従業員は組織のために働 くことを誇りに思い、組織の代表として行動します。 従業員エンゲージメントの測定 効果的な人材マネジメントは、1 回限りの業績評価からは生まれません。継続的なプロセスから生 まれてくるものです。シニア・リーダーはエンゲージメントの測定に時間とリソースを投資するこ とが必要です。アンケートと面接を定期的に実施し、結果を分析し、将来のための対策を立てるべ きです。退職者に対する調査を行い、従業員が辞める理由を見つけ出します。従業員が相手の反応 を恐れずに、自信を持って自分の意見を言えるようでなければなりません。一部の従業員は答える ことに対するモチベーションにも欠けているということを覚えておいてください。同様に、適切な 質問ができていない場合、ディスエンゲージメントに気づかないままでいることを意味しているの かもしれません。従業員からのフィードバックを奨励し、その内容について最後まで責任を持ちま しょう。途中で投げ出すことは最初から何もしないことより悪い結果を招きます。面接を受けた人 が自分の意見が尊重されていないと感じたら、その従業員は幻滅し、ディスエンゲージメントを生 み出してしまうことになってしまいます。 5 課題に対処するための行動計画 「幸せな家族はどこ 組織内での結果に基づいた組織に応じた計画が必要です。マネジメントには、 エンゲージしている従業員の区分 (部署とロケーション)、エンゲージメン トを高める要因およびディスエンゲージメントの要因を理解する必要があり ます。その知識があれば、シニア・リーダーは個人、部署、組織レベルにお いてより詳細な計画を作成することができます。 も似たり寄ったりだ • 組織レベル が、不幸せな家族は 独自の方法で不幸 せになっている。」 — レオ・トルストイ 組織のあり方や目標設定は、シニア・リーダーにより示されます。これらの 設定と目標は明確に定義されたものであり、従業員が達成できる現実的なも ので、組織全体で共有する必要があります。これにより、従業員同士に組織 の成功のための責任感が生まれてきます。 シニア・リーダーに対する意識は、直属の上司に対する意識に比べるとポジ ティブでない傾向があります。これはおそらく、マネジメントとは距離があ り、組織の問題点に対する非難がエグゼクティブに向けられる傾向が強いた めです。リーダーは他のマネージャーや従業員との関わりの中でポジティブ な態度で、近づきやすい存在になる必要があります。 • 部署レベル シニア・リーダ ーは完全にエン ゲージしている 従業員ですが、 シニア・マネジ メントに対する 従業員の認識は ポジティブでは ない傾向があり ます。 エンゲージしているシニア・リーダーは、全従業員のポジティブなロール・ モデルとして行動します。特に、直属の上司にとってのロール・モデルとな り、その影響を受けた直属の上司がよりエンゲージの強いチームを作ります。 エンゲージしているマネージャーはエンゲージメントの強いチームを作る傾 向があります。エンゲージしていない従業員はそのマネージャーもエンゲー ジしていません。 それぞれのチームや部署は、それぞれ役割と仕事がどの様に組織の目標につ ながるのか理解する必要があります。チーム内の多様な技能、経験、経歴を 活用し、熱心で想像力に富む環境を作りましょう。 直属の上司から必要なフィードバックを正しく受けとめ、それにより全体的 な業績が上がるようにしていくことで、チーム内で信頼関係が築かれます。 直属の上司が個々のチームメンバーをサポートし、個人として気遣えるよう になりましょう。マネージャーの長所から学ぶよう従業員を励ましていきま しょう。 6 • 個人レベル 従業員を内部顧客として考えてください。従業員は、組織の成功につながるエンゲー ジメントという文化を実践し、維持する重要な資産なのです。会社側が「会社のビジ ネスに対する私の考えに興味を持ってくれる」と答えた従業員はエンゲージメントレ ベルが高くなっていました 4。 個人の望みが組織の目標と一致する仕組みを決定します。 個人の成長を励まし、業績を認めましょう。褒めるときは人前で、咎めるときは人の いないところで行い、エンゲージメントの低い従業員に対してはコーチングをしまし ょう。 一人一人が責任を持つ シニア・リーダーはエンゲージしている職場のパラメーターを確立し、部下と毎日接 する直属の上司は個人レベルのエンゲージメントレベルを評価します。直属の上司を サポートし、適切なスキルとモチベーションがあることを確かにし、エンゲージメン トレベルの変化を理解することはシニア・マネジメントの仕事です。個々の従業員は 自分の行動や同僚との関係に責任を持つことでポジティブな職場環境作りに貢献しま す。仲間同士で尊重し合い、意見を交換することでチーム全体でのエンゲージメント を築くことができます。 エンゲージメント構築に貢献する従業員への報酬 従業員は皆、自分の貢献を認められたいと思っています。有能なエグゼクティブは 現実的な目標を設定し、継続的な努力を高く評価しますー熱意があり、生産性を高 める従業員とマネージャーに報酬を与えます。この報酬は賃金である必要はありま せんが、意味のあるものでなければなりません。何度も同じインセンティブを提示 していると、マネジメントは自分のことを本当は気にも留めていないと考えます。 福利厚生とインセンティブは従業員の区分に応じて変えることで従業員にとって魅 力あるものにすることができます。物理的なインセンティブに加えて、仕事ぶりを 認められ、評価されることでエンゲージメントが促進されます。 7 結論 有能なシニア・リーダーは仕事に適した人材を雇用し、明確な目標と責任 でモチベーションを与え、キャリアを通して研修機会を与えます。従業員 を信頼し、ポジティブなコミュニケーションを行い、仕事ぶりを評価し報 酬を与えるシニア・リーダーは、エンゲージメントの高い職場を築く傾向 が強く、組織に競争上の優位性をもたらします。 参考文献 1 Apostle Employee Engagement Report 2012, Dale Carnegie Training/MSW Research 2 Employee Replacement Costs Working Paper 2010, Institute for Research on Labor and Employment, UC Berkeley 3 Reward to Engage 2008, Accor Services 4 Apostle Employee Engagement Report 2012, Dale Carnegie Training/MSW Research その他の資料 デール・カーネギー・トレーニング白書 (2012年発行) 「従業員エンゲージメントを推進する重要性とその要因」 「従業員エンゲージメントの原動力」 「従業員エンゲージメント:感情を動かすドライバー」 「従業員エンゲージメントの強化:直属の上司の役割」 WWW.DALE-CARNEGIE.CO.JP 8
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