2014年度 「代数的トポロジー春の学校」 勉強会について 玉木 大 January 12, 2015 目次 1 単体的集合とそのホモトピー 2 2 Nerve functor について 3 3 単体的集合と位相空間 4 4 モデル圏の基本 5 5 Cofibrantly generated model structure 6 6 Quillen による単体的集合の圏のモデル構造 7 7 Joyal による単体的集合の圏のモデル構造 7 はじめに この勉強会の主な目的は二つあります。一つは, higher category の構造とホモトピーの関 係を理解し, (∞, 1)-category の定義にホモトピー論の言葉を用いることに納得してもらうこ とです。 そのために, 1 と 2 で small category と simplicial set の関係, より正確には small category の成す bicategory の 2-morphism と simplicial set のホモトピーの関係, そ して simplicial set のホモトピーと位相空間のホモトピーが対応していることを理解します。 もう一つの目的は, 3月4日以降の講義で用いられる simplicial set と model category の言 葉に慣れることです。まず 1 から 3 までで simplicial set の言葉を理解し, 4 で model category の定義と簡単な例を見ます。 5 は, cofibrantly generated という構造を持つ model 1 category についてですが, これはある category が model structure を持つ事を示したり, あ る category の model structure を別の category に移したりするときに便利なものです。 最後の二つは, simplicial set の category 上の良く知られている二つの model structure についてです。 普通 simplicial set の category でホモトピー論を展開するときには, 6の weak equivalence を weak homotopy equivalence にした model structure を用います。そ の fibrant object は, 所謂 Kan complex と呼ばれるものですが, 7 で扱うもう一つの Joyal による model structure では fibrant object が weak Kan complex, 即ち quasicategory にな ります。 ただし, quasicategory は3月4日以降の講義で詳しく扱われる予定ですので, 勉強会の中で は定義を理解するぐらいでよいと考えています。 それぞれの具体的内容についての suggestion を以下に書きます。 もっとも, これは単なる suggestion ですので, 細かい内容は話す人にお任せします。目的を大きく外れない限り, 内容 を変えてもらっても構いません。 ただ, 時間は1人60分しかありませんし, 無理矢理60分に詰め込んで誰も理解できないこと になると勉強会の意味がないので, 内容を絞って重要な概念の解説を中心にして下さい。 1 単体的集合とそのホモトピー 1.1 含めて欲しい内容 1. 基本的な定義。 2. Small category の category から simplicial set の category へ nerve functor が natural transformation を simplicial homotopy に変換すること。 3. Simplicial set X から Y への simplicial map の集合の上の simplicial homotopy は Y が Kan complex なら equivalence relation になること。 1.2 コメント これが最初の話になるので, ここではまず基本的な定義をして下さい。 具体的には以下の ことです: • small category • small category の間の functor とその間の natural transformation • simplicial set 2 • simplicial set の morphism とその間の simplicial homotopy • small category の nerve • Kan complex Small category C の定義は, object の集合 C0 , morphism の集合 C1 , source と target map s, t : C1 → C0 , identity ι : C0 → C1 , そして composition ◦ : N2 (C) → C1 とそれらのみたす可 換図式として述べれば, 元を取らずに定義できます。 ここで N2 (C) は C の nerve N (C) の2 番目 (0 から数えれば3番目) の集合です。Small category の small の正確な意味を説明しよ うとすると, Grothendieck の universe [SGA4-172; KS06] などを用いることになりますが, そこまでは必要ないでしょう。 ここで, 2つの集合 C0 と C1 に写像 s と t を合せたものは, quiver (箙, 有向グラフ) と呼ば れているものに一致していることに注意します。 よって small category は quiver に identity と composition を付加したものとみなせます。この視点は, small category を生成したいと きに有用です。 1.3 参考文献 まず simplicial set については, May の本 [May92], Curtis の解説 [Cur71], そして Goerss と Jardine の本 [GJ99] が基本的です。 より初等的なものとしては, Friedman の解説 [Fri12] もあります。 Small category のホモトピー論については, 基本的な文献は Segal の [Seg68] と Quillen の [Qui73] です。解説としては, [DH01] の中の Dwyer のものがあります。 例えば, nerve functor が natural transformation を homotopy に変換することは, Dwyer の Proposition 5.1, 5.2, Segal の Proposition 2.1, そして Quillen の Proposition 2 にあります。 2 Nerve functor について 2.1 含めて欲しい内容 1. Nerve functor が left adjoint τ1 を持ち fully faithful であ ること。 2. Small category C の nerve N (C) が Kan complex である必要十分 条件は C が groupoid であること。 3. Lurie の [Lur09] の Proposition 1.1.2.2 (small category の nerve の特徴付け)。 3 2.2 コメント 1 と一緒にやってもよい内容ですが, 人数の関係で分けました。 1 より量が少なくなって しまったかもしれません。 ここでの目的は, small category の category と simplicial set の category の関係を理解す ることです。ただし, model category としての関係は要求しません。 まずは, small category の category が simplicial set の category に埋め込まれること, そ してその像がどのようなものかを理解することが重要です。歴史的には groupoid の場合が古 くから知られていたので groupoid の場合を別にしましたが, small category の nerve の特徴 付けだけでもいいでしょう。 また, simplicial set から small category を作る functor τ1 の構成を見ると simplicial set が small category に higher morphism を付け加えたものだと認識できるでしょう。 2.3 参考文献 N の left adjoint は Joyal の [Joy; JT07] では fundamental category と呼ばれ τ1 で, Thomason の [Tho79; Tho80] では categorization functor と呼ばれ c で表されています。 ここでは Joyal に従って τ1 の記号を用いました。 Thomason の [Tho79] の 1.3 Remarks で は simplicial set の 1-skeleton を quiver とみなし, そこから生成される free category を適 当な relation で割ったものとして定義されています。 C が groupoid のときの nerve N (C) の特徴付けは, 恐らく Lee の [Lee72] の Theorem 3 が最初だと思います。ただし, そこでは nerve は N ではなく M で表してありますが。C が 一般の small category の場合は, 上記のように Lurie の本に書いてあります。 3 単体的集合と位相空間 3.1 含めて欲しい内容 1. 位相空間の category から singular simplicial set functor S は geometric realization functor の right adjoint であり, その像は Kan complex になっている。 2. Kan fibration の geometric realization は Serre fibration であること。 3.2 コメント ここでは, simplicial set の category のホモトピー論と位相空間の category のホモト ピー論の関係を理解するのが目的です。 正確には, それぞれに弱ホモトピー同値を weak 4 equivalence とした model structure を入れて model category として Quillen 同値であるこ とを述べられると良いですが, 残念ながら時間の関係でそこまでは無理だと思います。それに 位相空間の category の model structure は他では使わないので無駄になってしまいます。 そこで, その代りに fibrant object と fibration の対応の一部を見ることにより, simplicial set と位相空間の関係を理解してもらおうというわけです。 位相空間の category の standard な model structure では, 全ての object が fibrant です から, 位相空間 X に対し S(X) が Kan complex だと分かれば, S が fibrant object を保つこ とが分かります。 また, geometric realization が Kan fibration を Serre fibration にうつすことが分かれば, geometric realization が fibration を保つことが分かります。また geometric realization が weak equivalence と保つことは, simplicial set の category での weak equivalence の定義 そのものです。 3.3 参考文献 Singular simplicial set と geometric realization については, simplicial set の文献に書い てあります。例えば, 位相空間 X の singular simplicial set S(X) が Kan complex であるこ とは Goerss と Jardine の本の Lemma 3.3 にあります。それは Serre fibration に S を apply したものが Kan fibration であることの Corollary になっているので, このより一般的なもの を説明してもらっても構いません。 Kan fibration の幾何学的実現が Serre fibration であることは, 最初 Quillen [Qui68] によ り証明されました。最近の model category や simplicial set の教科書にも書いてあります が。 4 モデル圏の基本 4.1 含めて欲しい内容 1. 定義 2. 簡単な例 (Lárusson の [Lár]) 4.2 コメントと参考文献 まず問題は model category の定義に何を用いるかでしょう。Quillen の 最初の定義 [Qui67] は古すぎて論外ですが, それ以外でも様々な variation があります。例えば limit と 5 colimit の存在を有限なものだけ仮定するか任意のものを要求するか, とか morphism の factorization が natural であることを要求するか否か, など。 現在の標準的な定義は Hovey の教科書 [Hov99] だと思いますが, 藤田君のメールにあった ように, ここでは weak factorization system を用いた定義を用いることにしましょう。 正確 な定義は, 例えば Joyal と Tierny の [JT07] の Appendix や Worytkiewicz らの [Wor+07] の 3 にあります。 その二つは, (co)limit の存在の点で少し違いますが, どちらでもいいでし ょう。 さて, 定義だけではつまらないので, 何か簡単な例をできるといいと思い, Lárusson の [Lár] にある equivalence relation の category の model structure を suggest しました。 Hovey の本で最も simple な model category の例として挙げられているのは Frobeinus 環 上の module の category で stable equivalence を weak equivalence にしたものですが, Lárusson の例の方がこの春の学校の内容に合っているでしょう。 というのも, その model structure は自然に groupoid の category に拡張され [And78; Str00; Hol08], 更にそれは small category の category に拡張される [JT91; JT07; Rez01] からです。 5 Cofibrantly generated model structure 5.1 含めて欲しい内容 1. 定義 2. Hovey [Hov99] の Theorem 2.1.19 3. (cofibrantly generated model structure を adjunction で移す) 5.2 コメント 実際にある category が与えられたときに, その上に model structure を定義するのはとて も面倒です。 そこで, generating cofibration と generating trivial cofibration を指定してそ れにより定義される model structure を考えることがよく行なわれます。そのようなものを cofibrantly generated model structure と呼び, model category を扱う上で基本的な構造で す。 そこで, ここでは cofibrantly generated model structure の定義と, それを generating cofibration と generating trivial cofibration から生成するために条件を理解することを目標 にします。 Model structure を functor で別の category に移すことができると便利ですが, cofibrantly generated な場合は, ある条件をみたす adjunction があれば model structure を移せるので 6 便利です。 もし余裕があればそのような定理の一つぐらい紹介してもらってもいいですが, 残 念ながらここを希望している人がいなかったので, 無理に入れる必要はないと思います。 5.3 参考文献 標準的な教科書は Hovey の [Hov99] の 2.1 でしょう。 とりあえず, その Theorem 2.1.19 があれば cofibrantly generated model structure を生成することができます。 Adjunction により cofibrantly generated model structure を移すことができるための criterion には, 例えば Berger と Moerdijk [BM03] で transfer principle と呼ばれているもの があります。 6 Quillen による単体的集合の圏のモデル構造 6.1 含めて欲しい内容 1. 定義と基本的性質 6.2 コメント 「Quillen による単体的集合の圏のモデル構造」とは, weak equivalence が弱ホモトピー 同値で fibration が Kan fibration であるもののことです。 ここを担当する人は, それなりに 分かっている人だと思うので, 特に内容は指定しません。 1 から 5 までの内容を元に, この model structure の構成とその基本的性質について話して下さい。 7 Joyal による単体的集合の圏のモデル構造 7.1 含めて欲しい内容 1. 定義と基本的性質 2. quasicategory の定義 7.2 コメント ここでようやく quasicategory が出てくるわけですが, quasicategory については, 詳しく は3月4日からの講義で扱うので, ここでは model structure の構成とその基本的な性質を中心 に話して下さい。 7 7.3 参考文献 References [And78] D. 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