材料技術戦略論 鈴木義和 ([email protected]) 材料技術戦略論 (01BG326、水曜日1限) 場所:3A408 材料技術戦略論 2015 数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 准教授 鈴木 義和 日程 授業内容 戦略論概論 9 12/2 レアメタル・レアアース戦略 2 10/14 技術マップ・技術戦略マップと 技術ロードマップ 10 12/9 元素戦略 3 10/21 19世紀以前の材料イノベーション 11 12/16 次世代電池戦略 4 10/28 20世紀の材料イノベーション 12 1/13 ICT技術戦略 5 11/4 宇宙材料開発 13 1/20 世界の省庁に見る戦略オフィスとその役割 6 11/11 超高温材料開発 14 1/27 米国DoE、DoD、NASAの材料技術戦略 7 11/18 超電導材料開発 15 2/3 将来展望:21世紀以降の材料イノベーション 8 11/25 ナノテクノロジー戦略 2/10 レポート 2 Yoshikazu SUZUKI 19世紀ってどんな時代? 18世紀後半、ラヴォアジェによる「質量保存の法則」(1774年)、「化学命名法」等を経て、 化学分野が一気に開花 19世紀、帝政ドイツの宰相オットー・フォン・ビスマルクは、 こう語ります。 "Ihr seid alle Idioten zu glauben, aus Eurer Erfahrung etwas lernen zu können,... ・ドルトンの原子論 (1803年:倍数比例の法則、1808年:化学哲学の新体系) ・アレニウスのイオン説 ・ブラウン運動の発見(1827年) ⇒1905年にはアインシュタインが原子の存在を説明 ⇒ジャン=ペランによる原子論・分子論 ・世界初の化学の国際会議(1860年ドイツ・カールスルーエ) ・メンデレーエフの周期表(1869年、1871年改訂) ⇒未発見元素の予測 ・希ガスの発見(1892年:レイリーによるアルゴンの発見) You are all idiots to believe to be able to learn something from your experience,... ich ziehe es vor, aus den Fehlern anderer zu lernen, um eigene Fehler zu vermeiden." I prefer to learn from the mistakes of others to avoid my own mistakes. ・有機化学の発展 ・1807年 ベルセリウス 有機物・無機物の概念を提案 ・1828年 ウェーラーによる有機物(尿素)の合成 ・1845年 コルベによる酢酸合成 ・ケクレ、クーパーの理論(構造式の提案) ・電気化学の発展 ・1833年 ファラデーの法則 ・化学工業の勃興(石油生産) 「自分の経験から何か学べると思うのんって、あほちゃうん? わしやったら、人のふり見て、わがふり直すわ。」 (ほぼ原文に近い鈴木訳) さらに有名な意訳(?)では、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」 となるわけです。 ということで、今回は19世紀の材料イノベーションの歴史を学びます。 Yoshikazu SUZUKI 授業内容 10/7 1 明日を知るには、まず歴史を振り返ろう 写真の出典: http://ja.wikipedia.org/wiki/オットー・フォン・ビスマルク 日程 1 評価割合は出席60%、レポート40%です [email protected] Yoshikazu SUZUKI ★10月28日分は、後日、Web補講 3 Yoshikazu SUZUKI ドルトンの原子量表 原子価の概念は確立しておらず 当量に近い値があげられている。 参考:竹内敬人「ビジュアルエイド化学入門」 4 あけみちゃん、今日もツッコミ好調 ミッション1: アルカリ(ソーダ灰)不足を解決せよ ・・・時は18世紀、フランス アルカリ(炭酸ナトリウム&炭酸カリウム)は、漂白のみならず、ガラ ス工業や石けん工業に欠かせない原料であった。古代から近代にか けて、アルカリ源のほとんどはソーダ灰であった。 これは、文字どおり、木や海藻の灰から作られていた。これでは、 大量の需要に応えることは難しい。 さらに、燃料としての木材は切りつくされる事態にあった。 事態を重く受け止めた、フランス科学アカデミーは、1775年、 ソーダ(炭酸ナトリウム)の新製法を募集した。 あなたなら、どうしますか? ・・・それでは、本題に入りますか。 じゃ、無機系教員らしく、無機のネタを発掘してみましょう。 Yoshikazu SUZUKI 5 参考・出典:ビジュアルエイド化学入門 6 Yoshikazu SUZUKI ちょうどその頃・・・フランス革命勃発 ルブラン法 外科の開業医であったルブラン氏。 1780年、十分な生活費が得られず、フランス公爵家である オルレアン家の侍従医をすることに。 1791年、食塩から炭酸ナトリウムを工業製造することに成功 Nicolas Leblanc (1742-1806) 画像の出典: http://ja.wikipedia.org/wiki/ニコラ・ルブラン 第1段階の反応は1772年には発見されていたが、 第2段階以降の還元反応を確立した。 Yoshikazu SUZUKI 7 http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Prise_de_la_Bastille.jpg Yoshikazu SUZUKI Prise de la Bastille 8 ルブラン法の問題点 化学工学・材料科学も時代の流れに飲み込まれる ルブラン法の確立で成功を収めたルブラン。1791年にパリの北、サンドニに 工場を建設するに至る。 革命政府は1794年、オルレアン公爵ルイ・フィリップ家 (バスティーユ事件を誘発したフィリップ・エガリテの時代) の財産を没収! ⇒ オルレアン家の侍従医でもあったルブランの 工場も没収される。 ⇒ 1802年 第一執政時代のナポレオン・ボナパルト が工場を返還してくれたが、時すでに遅し。 ・放出されるHClガスは大気中に放散。副生成物の硫化カルシウム(目的生成物の ソーダ灰とほぼ同量)は野積みされ、有害な硫化水素を放出。 ⇒ 失意のうちに、1806年、ルブランはピストル自殺。 ⇒ 訴訟と法規制の標的にされる。 ルブラン法は、その後、19世紀中ごろまで盛んに用いら れたが、「環境汚染」等の問題を引き起こす。 1863年、イギリス議会が大気汚染規制に関する法案を可決。 アルカリ工場で生み 出される塩化水素の5%以上を大気中に放出することを禁じた Louis Philippe Joseph d'Orléans Yoshikazu SUZUKI ソルベー法の登場 9 コスト・環境がプロセスを変える! http://ja.wikipedia.org/wiki/ルブラン法 10 Yoshikazu SUZUKI ソルベー法(少し詳しく) http://ja.wikipedia.org/wiki/ソルベー法 まず石灰石をコークスとともに石灰炉で1000℃に加熱して二酸化炭素を発生させる (この方法は大量の二酸化炭素が必要な時に用いられる) 次に食塩を水に飽和させ、そこへアンモニアを十分に溶かした後に二酸化炭素を通じる と、溶解度の低い炭酸水素ナトリウムが沈殿する。 ここで発生した塩化アンモニウムはアンモニア蒸留工程に回され、水酸化カルシウム と反応させてアンモニアとして再回収される。 沈殿した炭酸水素ナトリウムを取り出し、熱分解して炭酸ナトリウムを得る。 Ernest Solvay (c1900) 発生した二酸化炭素は回収して先ほどの工程に戻すので、一部が再利用される。 最初に生成された生石灰(CaO)は水と反応させ、消石灰(Ca(OH)2)とする。 病気のため大学に行くことができず、21歳の時、叔父の化学工場で働き 始める。1861年に無水炭酸ナトリウムの製造法を開発。ソルベー法と呼 ばれることになる。 晩年には、ベルギーの国務大臣を務めることに。 消石灰と塩化アンモニウムを反応させるとアンモニアが回収され、2段目の工程に再利用 参考: 足立吟也、岩倉千秋、馬場 章夫 『新しい工業化学-環境との調和をめざして』 図の出典: http://ja.wikibooks.org/wiki/ファイル:アンモニアソーダ法反応過程.svg Yoshikazu SUZUKI 11 すなわち理論上、アンモニアは全て回収され消耗しない。 Yoshikazu SUZUKI 12 ルブラン法とソルベー法から学ぶ材料技術戦略 ソルベー法のメリット ソルベー法の反応を一つにまとめると ・材料技術開発 単純な「技術面」だけでなく、社会情勢、関税障壁、国の戦略など さまざまな影響がのしかかる。 この反応は直接には起こらない(炭酸カルシウムは難溶であり沈殿するから、 逆反応が極めて起こりやすい)。 例:ルブラン法自体は、(環境面はさておき)コスト面では 当時悪くはなかったものの、大きな関税が普及の妨げとなった。 直接には起こらない反応をいくつかの段階を経て 実現したのが、ソルベー法 の最大の特徴である。 この工程から発生する主な廃棄物は塩化アンモニウムをアンモニアとして回 収する際に生じる塩化カルシウムの 溶液のみであり、このような廃棄物が少 ない点もソルベー法の特徴の一つである。 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ ナトリウムベースでの工業的な収率はおよそ70%であり、これは中間生成物 の炭酸水素ナトリウムの一部が水に溶解してしまうためである。 19世紀の歴史に、賢者は学ぶ。 「環境問題を意識して、副生物・産廃をできるだけ 少なくするような材料プロセスが重要」なのだと。 ソルベー法による炭酸ナトリウムの製造工場が1872年にイギリ スに建設されて以降急速にソルベー法が世界中に広まりルブラ ン法に代わって主流となった 参考: 足立吟也、岩倉千秋、馬場 章夫 『新しい工業化学-環境との調和をめざして』 図等の出典: http://ja.wikipedia.org/wiki/ソルベー法 Yoshikazu SUZUKI 13 演習(3a) 競合プロセスの対比 Yoshikazu SUZUKI 14 演習(3b) 競合プロセスのプレゼンテーション 201x年、関東圏某国立大学。 さきほどの検証に基づき、どちらのプロセスを選ぶのかを、できるだけ 客観的に説明して下さい。 (競合プロセスを必要以上にけなさないように注意) 部外者にも分かりやすいように説明することを心がけてください。 皆さんは、研究室で指導教員とともに、新しい材料の研究開発を行っています。 目的とする材料は決まっていますが、作り方は一つではありません。 具体例を念頭において、それぞれのプロセスの強み、弱みを検証して下さい。 (計算科学の方は、計算方法の比較でも構いません) 例) ○○材料の湿式成膜 vs 乾式成膜 Yoshikazu SUZUKI 15 Yoshikazu SUZUKI 16
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