走査プローブ顕微鏡 走査プローブ顕微鏡 走査プローブ顕微鏡 東京大学物性研究所 長谷川幸雄 長谷川幸雄 走査プローブ顕微鏡 ・走査トンネル顕微鏡 STM scanning tunneling microscopy ・原子間力顕微鏡 AFM atomic force microscopy 走査トンネル顕微鏡 scanning tunneling microscopy (STM) 原子間力顕微鏡 atomic force microscopy (AFM) いろいろな顕微鏡 探針が受ける信号:トンネル 探針が受ける信号:トンネル電流 信号:トンネル電流 走査トンネル顕微鏡 (STM) 壁の厚さに大きく依存 走査トンネル顕微鏡 (STM) 探針 (プローブ) 探針 (プローブ) トンネル電流 光学顕微鏡 エネルギー障壁 トンネル現象 ~1 nA 透過型電子顕微鏡 (TEM) < 1 nm 電 電 試料表面 試料 ~1µm λ (A ) = 150.4 E (eV ) 原子間力顕微鏡 (AFM) 0.1nmの距離の変化で、電流値は 0.1nmの距離の変化で、電流値は1 の距離の変化で、電流値は1桁変化 1 走査トンネル顕微鏡 距離に敏感だと、なぜ高分解能? 探針(プローブ プローブ) プローブ 探針でトンネル電流を検出し、 針でトンネル電流を検出し、 それを一定にしながら 表面をなぞる 一番近い原子の間でしか、 トンネル電流は流れない。 表面の凹凸像 表面の凹凸像、 凹凸像、原子像が得られる 原子像が得られる 探針先端以外の原子からは、 トンネル電流は流れない。 試料表面 シリコン表面の顕微鏡観察 シリコン原子構造(ダイヤモンド構造) (001)面 面 シリコン基板 0.38nm シリコン原子 サイコロ面が(001)面 面 サイコロ面が 2 低温にすると… 低温にすると… Si(001)-2x1表面:ダイマー形成 Si(001)-2x1表面:バックリング 1x1単位格子 単位格子 <001> side view <110> ダングリングボンド数 の減少 バックリング ダイマー(2量体) の形成 2x1構造 2x1単位格子 単位格子 電子を貰ったほうが突出 電子を出したほうが低くなる Si(111)7x7表面 adatom c(4×2) 2つのダングリングボンド間で 電荷移動 p(2×2) 列方向: 交互に傾いた 二量体が並ぶ 列間: 同位相 p(2x2) 反位相 c(4x2) 3D表示 corner hole rest atom unfaulted half faulted half アドアトムの原子間隔: 0.77nm Dimer-Adatom-Stacking fault モデル (東工大・高柳先生) 3 走査トンネル顕微鏡(STM)による 研究例 結晶成長 6.5nm x 6.5nm シリコン結晶の成長を リアルタイムで観察 シリコン上のシリコン シリコンのアイランドが 形成されている 吸着後 吸着前 シリコン上の水素 右図で暗く見えているのが水素と 65nm x 65nm 結合したシリコン原子 薄膜形成・結晶成長など ガス分子吸着・触媒など Voigtländer, Forschungszentrum Jülich カーボンナノチューブ カーボンナノチューブのSTM像 巻き方を決定 巻き方を決定 できる 飯島澄男 1991年に発見 年に発見 透過型電子顕微鏡(TEM)像 )像 透過型電子顕微鏡( Dekker, Delft University of Technology 4 探針が受ける信号:トンネル 探針が受ける信号:トンネル電流 信号:トンネル電流 透過型電子顕微鏡(TEM) 壁の厚さに大きく依存 走査トンネル顕微鏡 (STM) 原子は見える 原子は見える 透過して見ているので、 実際には「原子列」を 実際には「原子列」を 見ている トンネル電流 エネルギー障壁 トンネル現象 STMは表面原子のみを は表面原子のみを 見ている ~1 nA < 1 nm 電 電 ダイヤモンド微粒子のTEMに に ダイヤモンド微粒子の よる原子像 0.1nmの距離の変化で、電流値は 0.1nmの距離の変化で、電流値は1 の距離の変化で、電流値は1桁変化 シュレディンガー方程式を解く 電子のトンネル確率 トンネル確率を求める → シュレディンガー方程式を解いて、 右図のようなポテンシャルでの 波動関数を求める。 Ψ( x) 左側 = Aeikx + Be − ikx κx e- 2mE h 2mϕ κ= h k= x = 0 での境界条件 Ψ( x) x =−0 = Ψ( x) x = +0 電子のエネルギー E トンネル障壁の幅 a 障壁内でのシュレディンガー方程式 h 2 d 2 Ψ( x) = E Ψ( x) Ψ( x ) ∝ e ± ikx 2m dx 2 障壁内でのシュレディンガー方程式 h 2 d 2 Ψ( x) + ( E + ϕ ) Ψ( x) = E Ψ( x) 2m dx 2 −κx Ψ( x) 障壁 = Ce + De Ψ( x) 右側 = Eeikx + Fe −ikx トンネル 障壁の 高さ φ k= d Ψ( x) dx 2mE 波数 h 2mϕ Ψ( x) ∝ exp ± h x = −0 = d Ψ( x) dx φ E a x = +0 x = a での境界条件 x Ψ( x) x =− a d Ψ( x) dx A, B, C, D, E, Fの連立方程式 = Ψ( x) x = + a x =− a = d Ψ( x ) dx 透過確率は x =+ a T= E A 2 5 透過確率 2 E T= = A 1 実際のポテンシャル 1 = 2 2 2mϕ 1 (E + ϕ ) k2 +κ 2 2 sinh 2 sinh (κa ) 1 + 1 + 4 Eϕ 2kκ h 2mϕ a >> 1 のとき h 2mϕ sinh h 1 2mϕ a ≈ exp 2 h a 2 2mϕ a ∝ exp − h a a 探針・試料間のバイアス 電圧により両社間のフェ ルミ準位がずれる。 鏡像ポテンシャルによる 障壁の変形 探針のフェルミ準位 バイアス電圧 試料のフェルミ準位 2 2mϕ 16 Eϕ T≈ exp − 2 h (E + ϕ ) φを~5 eVとして計算すると、0.1 nmのaの変化に 対して、Tは一桁変化 2m 参照 2 = 10.2 /(eV)1/2・nm h 結晶による周期的 ポテンシャル 電子がフェルミ準位 まで詰まっている 探針と試料は別の材料 (異なるポテンシャル) 探針と試料の状態間の遷移確率 バーディーンの摂動論 J. Bardeen, PRL, 6, 57 (1961) トランジスタ、超伝導理論 と同一人物 先のトンネル確率の計算では、全体の ポテンシャルでの波動関数を考えた。 障壁があれば、両電極を分けて考えて もいいのではないか。 一方の電極によるポテンシャルを、 摂動として取り扱う。 → バーディーンの摂動論 一方の電極のポテンシャ ルを変えれば、他方の電 極での波動関数強度(電 子状態)が変わることを 意味する。 両電極の電子状態間の 相互作用を無視する。 探針の波動関数 試料の波動関数 ψν Vtip φµ Vsample それぞれの固有状態(波動関数)を個別 に求める 他方のポテンシャルを摂動とした際の 状態間の遷移確率を求める。 ω µν = 2π δ (ε µ − εν ) φµ H − H sample ψ ν h 摂動項が時間に依らないときは エネルギー保存 2 摂動項 cf. フェルミの黄金則 6 電子占有・バイアス電圧 行列要素の計算 温度0の場合 は点線 T を探針側の領域とする 探針の電子状態にある電子(エネルギーEµ)が、 試料の電子状態(エネルギーEν)へ単位時間当 たりにトンネルする確率は 探針側以外では、ほぼゼロ φµ H − H sample ψ ν = ∫ φµ* ( H − H sample )ψ ν dr = ∫ φµ* j Hψ ν dr − ∫ φµ* H sampleψ ν dr T T T 探針の フェルミ準位 F ( Eµ )(1 − F ( Eν + eV ) )ω µν バイアス電圧 V 2 h =− φµ* ∆ψ ν dr + ∫ φµ*V (r )ψ ν dr − εν ∫ φµ*ψ ν dr 2m T∫ T T 試料の フェルミ準位 打ち消しあう h2 0 = ∫ψ ν ( H − H tip )φµ dr = − ψ ν ∆φµ* dr + ∫ψ ν V (r )φµ* dr − Eµ ∫ψ ν φµ* dr 2 m ∫T T T T * * F (E) = 探針側では、ほぼゼロ εν ~ Eµ より φµ H − H sample ψ ν = − 探針の電子状 態に電子があ る確率 フェルミ・ディ ラック分布 h2 h2 (φ µ* ∆ψ ν −ψ ν ∆φµ* )dr = − (φµ* ∇ψ ν −ψ ν ∇φµ* ) ⋅ dn 2m T∫ 2m ∂∫T 探針の電子状態が 空いている確率 1 フェルミ・ディラック関数 e ( x − µ ) / k BT + 1 全体の単位時間あたりのトンネル確率は、 (探針→試料) の確率から(試料→探針) の確率を引いたものだから F ( Eµ )(1 − F ( Eν + eV ) )ω µν − F ( Eν + eV )(1 − F ( Eµ ) )ωνµ = (F ( Eµ ) − F ( Eν + eV ) )ωνµ バーディーンのトンネル表式 φµ H − H sample ψ ν = − h2 h2 (φ µ* ∆ψ ν −ψ ν ∆φ µ* ) dr = − (φµ* ∇ψ ν −ψ ν ∇φµ* ) ⋅ dn ∫ 2m T 2m ∂∫T 以上をまとめて I= 2 2πe ∑ {f (Eµ ) − f (Eν + eV )}M µν δ (Eµ − Eν − eV ) h µ ,ν M µν ( h2 = ds φµ* ∇ψ ν −ψ ν ∇φµ* 2m ∫ ) バーディンのトンネル表式 探針と試料の間の面での積分 個々に求めて良い ・試料と探針の表面での電子状態φµ、Ψνを求め、Eν<E<Eµのエネルギー内で、 同じエネルギーを持つφµ、Ψνに対し、Μµνを計算し、足し合わせる(積分する) とトンネル電流が求められる。 ・フェルミ分布の鈍りが、トンネル分光でのエネルギー分解能を決める。(~3kT) STMの理論 Tersoff・Hamann理論 J. Tersoff and D.R. Hamann, PRL, 50, 1988 (1983) バーディーンの式を探針と試料表面の系に適用 探針形状は球形と仮定(s波近似) 電圧が小さい場合 r r r 2 I (r0 ) ∝ Vρ (r0 , E f ) = V ∑ ψ i (r0 ) δ (E − E f ) i r ρ (r , E ) 局所電子状態密度 ψ i (r ) r local density of states (LDOS) 探針が無いとしたときの 試料の波動関数 STM像は、探針先端中心での試料の フェルミ準位近傍のLDOS分布 7 探針の電子状態は、球面対称性より φµ = Aµ Φµ = Aµ e ここで κ µ = 2mEµ / h このときΦj は以下の式を満たす。 −κ µ r / r (r > R) STMの理論 Tersoff・Hamann理論 J. Tersoff and D.R. Hamann, PRL, 50, 1988 (1983) r r r 2 I (r0 ) ∝ Vρ (r0 , E f ) = V ∑ ψ i (r0 ) δ (E − E f ) i r ρ (r , E ) 局所電子状態密度 h2 h2 − ∆Φµ (r ) − E µΦµ (r ) = 4πδ (r ) 2m 2m 「行列要素の計算」の式より φµ H − H sample ψ ν = − h2 h2 φ *j (∆ψ ν − ενψ ν )dr + ψ ν ∆φ *j dr + E j ∫ψ ν φ *j dr 2m T∫ 2m ∫T T r ψ i (r ) Tは探針の内部とすると、右辺第一項はゼロ h2 h2 h2 ∆Φµ* − E jΦµ* dr = − A*j ∫ψ ν 4πδ (r ) dr = − A*j 2πψ ν (0) 2 m 2 m m T 試料の波動関数Ψνの、r=0(探針先端の中心) での値に比例 ∴ I ∝ ∑ { f (Eµ ) − f (Eν + eV )}ψ ν (0) δ (E µ − Eν − eV ) 2 探針が無いとしたときの 試料の波動関数 STM像は、探針先端中心での試料の フェルミ準位近傍のLDOS分布 φµ H − H sample ψ ν = − Aµ ∫ψ ν − T local density of states (LDOS) ・探針が無いとしたときの試料の電子状態(波動関数)のうち、フェルミ準位付近の エネルギーを持つ状態の探針先端中心での強度が、トンネル電流に比例。 ・d電子・f電子の寄与の大きい状態や、モーメントの表面平行成分k//が大きい 状態など、減衰が激しい状態はトンネル電流に寄与しない。 µ ,ν 原子の何が見えているの? 電子状態とは 原子・分子の場合 エネルギー 走査トンネル顕微鏡(STM): トンネル電流 フェルミ準位 試料表面の電子状態の フェルミ準位あたりでの フェルミ準位あたりでの 電子密度 電子密度 電子密度 (状態密度) フェルミ準位あたりのエネルギーを フェルミ準位あたりのエネルギーを 持つ電子の分布 持つ電子の分布 → 走査トンネル顕微鏡像 物質内での電子の エネルギー分布 原子:とびとびの軌道 分子(2原子の場合): それぞれ2つの軌道に分裂 8 電子状態とは 結晶の場合 電子状態とは 周期ポテンシャルの影響 連続的(バンド) 連続的(バンド) 周期ポテンシャルに よりバンドギャップが 生成 どこまで詰まっているか(フェルミ準位)によって、金属か 絶縁体かが決まる バイアス電圧の影響(極性) なぜ吸着した水素は暗く見えるのか? 6.5nm x 6.5nm H Si Si SiSi Si Si SiSi EF V EF トンネル電流 トンネル電流 EF 吸着前 V EF 吸着後 フェルミ準位 シリコン上の水素 右図で暗く見えているのが水素と 結合したシリコン原子 sample sample 電子のエネルギー状態 フェルミ準位での電子 フェルミ準位での電子が減るから 電子が減るから tip 試料電圧が正 →試料表面の非占有状態 tip 試料電圧が負 →試料表面の占有状態 9 STMによる観察例 積層欠陥 Si(111)7x7 再構成表面 積層欠陥 非占有状態 (試料電圧が正) 占有状態 (試料電圧が負) H. Neddermeyer, Rep. Prog. Phys. 59 701 (1996). トンネル電流 STM像に関するまとめ 電圧依存性 バイアス電圧 I∝ EF ∫ ρ (E + eV )T (E ,V )ρ tip sample (E )dE E F − eV 電子状態分布像(フェルミ準位あたりの) 原子の周囲には電子状態があるから、原子像が得られる ρ tip (E + eV ), ρ sample (E ) 探針先端中心での電子状態密度像 探針・試料の電子状態密度 フェルミ準位 EF 探針の電子状態 (一定と仮定) EF V T (E , V ) : トンネル確率(透過係数) 単位エネルギーあたりの 電子状態数なので「密度」 density of states (DOS) 試料の 電子状態 Tersoff-Hamann理論 バイアス電圧に依存 電子状態の積分 占有準位・非占有準位(極性) フェルミ準位からバイアス電圧分 (×e)の電子状態がトンネル電流 に寄与(左図斜線部) 10 トンネル電流 走査トンネル分光(STS) 電子状態の影響 バイアス電圧 T (E , V ) と ρ tip (E ) I∝ EF ∫ ρ (E + eV )T (E ,V )ρ tip sample ρtip (E + eV ), ρ sample (E ) I∝ ∫ρ sample (E )dE EF V フェルミ準位 EF E F − eV 探針・試料の電子状態密度 T (E , V ) EF sample (E )dE 探針・試料の電子状態密度 T (E ,V ) トンネル確率(透過係数) フェルミ準位からバイアス電圧分 (xe)の電子状態がトンネル電流 に寄与(左図斜線部) トンネル確率 dI ∝ ρ sample (E ) dV dI/dVを測定することにより試料の電子状態密度(DOS)を測定 tip ρ tip (E + eV ), ρ sample (E ) (E )dE E F − eV ∫ ρ (E + eV )T (E ,V )ρ E F − eV エネルギーに依らないと仮定 I∝ EF 探針の電子状態 (一定と仮定) dI ∝ ρ sample (E ) dV 試料の 電子状態 走査トンネル分光(STS) 走査トンネル分光(STS) 測定例 dI/dV 微分 トンネル電流 バイアス電圧 バイアス電圧 dI/dVは電子状態 dI dVは電子状態 密度に相当 走査しながら各点でトンネル電流・バイアス電圧特性を測定 ・ 各位置での電子状態密度 各位置での電子状態密度 ・ 各エネルギー値での電子状態密度分布像 各エネルギー値での電子状態密度分布像 Si(111)7x7表面 表面 11 Si(111)7x7表面 adatom Si(111)7x7表面の電子状態 corner hole rest atom unfaulted half faulted half アドアトムの原子間隔: 0.77nm Dimer-Adatom-Stacking fault モデル (東工大・高柳先生) 光電子分光 光電子分光・逆光電子分光による測定 (表面全体で平均した電子状態) 表面での電子定在波 放出された電子の 運動エネルギーを測定 電子の波の観察 (Cu(111)表面のSTM像) 表面層に捕われた電子 (金や銅の表面など) 波の間隔: 1.4nm 電子が波の性質 電子が波の性質を持つことの直接証明 波の性質を持つことの直接証明 12 電子定在波 表面電子状態:ショックレー状態 ステップなどの障壁があると… Ψ i = exp(ikx) Ψ r = r exp( −ikx − δ ) ブロッホ波のeikrにおいて、 kが実数とする条件から、 バンドギャップが現れる 波数kの電子状態から、 波数-kの電子状態への散乱 波数k r:反射係数 δ: 位相のずれ 散乱ベクトルq=(-k)- k= -2k の波が発生 波数-k kが複素数であれば eikrは減衰。表面局在の 電子状態が現れる Ψ = Ψ i + Ψ r = exp(ikx ) + r exp( −ikx − δ ) 2 2 Ψ = exp(ikx ) + r exp(−ikx − δ ) = 1 + r 2 + 2r cos(2kx + δ ) 残りの1-r2分は、透過あるいは吸収されるが、 逆プロセスによって、こちら側にも加算される。 規格化により1/2されて、最終的には 定在波として観察 周期は元の波の周期の半分 波数は元の波数の2倍 BZ: ブリルアンゾーン境界 Ψ = 1 + r cos(2kx + δ ) ショックレー状態 2 となる。 Cuの電子状態 Cu(111)表面の電子状態 1s(2)2s(2)2p(6)3s(2)3p(6)3d(10)4s(1) 表面電子状態の分散関係 EF Γ 表面での電子状態を議論するときは、 投影されたバンド(projected band)を用いる。 ギャップが無い場合 表面電子状態 (111)方向 L点近傍でギャップ ギャップ L点に穴 d軌道 k // 表面電子状態のフェルミ面 Γ フェルミ面 投影された バルク状態 13 電子の波 走査トンネル分光により 走査トンネル分光により 各エネルギーでの 電子分布が観察できる ド・ブロイ波長 λ= h mv h: プランク定数 エネルギー 電子のエネルギー 1 2 mv 2 2 h h 2k 2 = = 2mλ2 2m E= フェルミ準位 Si(111)-√3Ag構造 構造 STSスペクトルの問題点 0.8 0.4 EF 0 -2.0 -1.0 0 1.0 2.0 3.0 電子の波数 k// (nm-1) dI/dV像から求められたエネルギー 分散関係 表面でのブロッホ波 ψ (r ) = exp(ik // ⋅ r// )u (r// , z ) = exp(ik // ⋅ r// )∑ exp(iG m ⋅ r// )φm ( z ) 電子状態密度 u (r// , z ) : 結晶の周期関数 G m : 逆格子ベクトル E L. Bürgi, Ph. D. thesis (ETH Zürich, 1999). h2k 2 + E0 2m∗ 表面電子状態の真空内への減衰 ・ k// 依存性の問題 Ag(111)表面でのdI/dVスペクトル E (k ) = 1.0 -0.4 h = h / 2π k = 2π / λ :波数 エネルギーが高いほど波長が 小さい(cf. 小さい(cf. ド・ブロイ波) 電子のエネルギー (eV) 電子の波 m h2 2 シュレディンガー方程式に代入 − ∇ + V (r )ψ (r) = Eψ (r ) 2m 今、真空中での振る舞いを考えるので、V=φ (仕事関数) 二次元電子系であれば、本来 ステップ的に増加するはず h2 h2 d 2 φm ( z ) = (k // + Gm )2 + φ − E φm ( z ) 2m dz 2 2m k//依存性のため、底(k//=0 ) d2 2m(φ − E ) φm ( z ) = (k // + Gm )2 − φm ( z ) dz 2 h2 近傍が強調されピークになる 原子間隔の周期関数 は、逆格子ベクトルを 波数として、フーリエ 展開できる。 E ≈ 0 (フェルミ準位近傍)とすると 2m φ 2 + (k // + G m ) z φm ( z ) = exp − 2 h k//が大きいほど減衰は強い 高周波のブロッホ波成分ほど減衰が強い 14 STSスペクトルの問題点 k// 依存性 電子状態にk//(表面平行成分)があると、減衰が強くなる 波動関数のz方向成分は exp − 2mφ 2 + k // ⋅ z h2 ・実は、トンネル電流は状態密度の単純な積分ではない トンネル確率が、電子エネルギーやバイアス電圧に依存 k⊥ I∝ STMでは、k//の大きい成分は検出されにくい k// はトンネル確率にも比例 dI ∝ T (E , V )ρ sample (E ) dV 2 2mϕ T ( E ,V ) ∝ exp − z h (E )dE 明らかに一定ではない ・探針の電子状態密度が一定とは限らない 素性がわかっている試料上で正しく測定が行われていることを確認の上、 測定 STS像・ dI/dV値を比較する際の問題点 dI dV sample ピークのエネルギー精度: ~0.1eV (0V付近を除いて) k//(表面平行成分)が あると、垂直成分が小さく なり、障壁を超えられない。 k//=0 tip 試料・探針とも電子状態が一定として、 数値計算で求めたdI/dVスペクトル Γ 近傍はSTM/STSによる 検出感度が高い 横軸k// ∫ ρ (E + eV )T (E ,V )ρ E F − eV k⊥ 感度低い EF DOSは一定なのに dI/dVは変化する STS像 dI/dV像 dI/dVの規格化 dI ∝ T (E , V )ρ sample (E ) dV を、 I ∝ T (E ,V ) で割れば、 T (E ,V ) V が相殺されて距離依存性が小さくなる。 dI/dVの代わりに(dI/dV)/(I/V)を、 試料の電子状態の指標として 用いることがある。 STM像 dI/dVの値を比較、あるいはdI/dV像をと るときには、距離の変動による影響が 無視できることを確認する必要あり 振動ノイズの影響も小さくなる。 バンドギャップがある場合など、 電流のレンジが大きい場合、 規格化によって細かな特徴が見 えやすくなる。 この電圧で測定 STS像がSTM像と似ている場合、 反転している場合は疑ってみる 万能ではない。 各サイトでの試料の電子状態 15 ロックインアンプによるSTS像取得 STSのまとめ トンネル電流 I-V曲線・dI/dV像 dI/dVを得るには、I-Vから微分あるいはロックイン検出 バイアス電圧 バックグランドの影響 高さ変動の影響 前者は、トンネル確率のバイアス電圧依存性に起因 規格化により抑えられる (dI/dV)/(I/V) 走査しながら、バイアス電圧に変調信号を加え、トンネル電流の同相成分を ロックインアンプで検出し、dI/dVを測定 k//依存性 利点: 簡便(フィードバックを切る必要なし)、時間がかからない 欠点: STMをとるバイアス電圧でのdI/dV像しか得られない 走査トンネル分光の測定例 超伝導ギャップ Conductance [nS] 70 60 50 40 30 20 10 0 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 Bias voltage [mV] 第Ⅱ種超伝導体 超伝導転移温度: 7.2 K 超伝導ギャップ: 1.3 meV 電荷密度波(CDW)転移:33 K 単位胞の大きさ : 0.345 nm dI/dVスペクトル スペクトル( ) スペクトル(@0.5K) 超伝導ギャップの測定 2H-NbSe2 Pb上でのdI/dV測定 (Pbの臨界温度: 7.2K) 16 超伝導Pbアイランド 第二種超伝導体 第二種超伝導体 一般に、磁場と超伝導は相性が良くない Pb(鉛): Pb(鉛): 臨界温度7.2K 臨界温度7.2Kの 7.2Kの 超伝導体 量子磁束(渦糸) H < Hc1 H > Hc2 Hc1 < H < Hc2 マイスナー効果 300 nm アイランドの大きさによって 超伝導特性が異なる Hc1: 下部臨界磁場 Hc2: 上部臨界磁場 実際に観察して確認しよう 渦糸をどうやって観察するか 磁場中での超伝導アイランド 3.0 EF EF 0.10 T フェルミ準位での 電子状態密度 (=0Vでの でのdI/dV) ) での を測定すればよい 0.13 T 0.15 T 0.20 T 25 [nS] dI/dV [nS] 壊れると金属状態 (ギャップ消失) 超伝導になると 超伝導 フェルミ準位 にギャップ 2.0 0.0 T 0.6 T 0.9 T 1.0 20 0 -8 -4 0 4 8 sample bias [mV] 15 0.25 T 0.27 T 0.30 T 0.35 T 磁場をかけると超伝導が壊れる 10 5 17 A B mag. field 0VでのdI/dV [nS] 2.0 1.5 1.0 数字はPb 数字はPbの原子層数 Pbの原子層数 A) A ( center B ( 40nmBfrom the center) 0.5 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 magnetic field [T] [nS] 2.5 y [nm] 30 0 -30 -30 0.0 T 0 0.5 T 0.6 T 0.9 T 30 0 超伝導が中心付近で壊れている x [nm] 量子磁束の形成 原子マニピュレーション 探針 原子マニピュレーション 探針を 使って 原子を 一つ一つ 移動 原子 Cu(111)表 表面上の 原子 面上のCu原子 18 量子井戸 電子の囲い込み シュレディンガー方程式を解くと、 電子の波動関数が得られる。 一次元では、三角関数 二次元では、ベッセル関数 IBM Crommie, Lutz, Eiglerによる による 銅表面上に48個の 原子を並べる 原子ワイヤー上の電子 N. Nilius, T.M. Wallis, and W. Ho, J. Phys. Chem. 109, 20657-20660 (2005) 19 単一分子による化学反応 2つの C6H5I 分子から、 C12H10 分子 を作る 原子の振動 アセチレン分子 C-H間で振動 角振動数 ω= k m k: ばね定数 m: Hの質量 エネルギー hω を与えると振動(量子化) Hla et al., Phys. Rev. Lett., 85, 2777, 2000 非弾性トンネル分光 調和振動子(バネ振動) (inelastic electron tunneling spectroscopy) 非弾性→エネルギーが保存されない エネルギー(ポテンシャル)は 位置に対して放物線状に変化 フォノン、原子振動、スピン反転… 励起に伴うエネルギー損失が測定可能 tip sample 放物線ポテンシャル内での エネルギー準位は等間隔 EF V トンネル電子 EF 20 アセチレン分子の振動測定 非弾性トンネル分光 (inelastic electron tunneling spectroscopy) 非弾性→エネルギーが保存されない フォノン、原子振動、スピン反転… 励起に伴うエネルギー損失が測定可能 D D 266mVでのd2I/dV2像 弾性 ω = k /m 非弾性 d2I/dV2にピーク HとD(重水素)では重さが違うので、 振動数も異なる スピンの検出 電子・原子: 小さな磁石 スピン スピン分極 スピンの向きによって電子状態が異なり、 そのため占有される電子数も異なる スピン分極度 スピンの向きによってトンネル電流の流れやすさが 異なることを利用 交換エネルギー 交換分裂 P ( EF ) = ρ ↑ ( EF ) − ρ ↓ ( EF ) ρ ↑ (EF ) + ρ ↓ (EF ) トンネル現象におけるスピン分極度 Fe: 44%, Co: 34%, Ni: 11% 21 スピントンネリング スピンの向きが平行 スピン偏極探針 スピンの向きが反平行 ρtip↑ (EF )ρ sample↑ (EF ) + ρ tip↓ (EF )ρ sample↓ (EF ) > ρtip↑ (EF )ρ sample↓ (EF ) + ρ tip↓ (EF )ρ sample↑ (EF ) スピン分解走査トンネル顕微鏡 例えば、Fe 外部磁場により、磁化の向き を制御できる。 探針からの磁場によって試料 の磁化状態が変わってしまう 場合がある。 例えば、Cr 探針からの磁場は無視できる。 磁化の向きは制御しにくい。 先端原子の磁化方向で決ま る。 ナノサイズFeアイランドの磁区構造 Wachowiak, et al. Science 298, 577-580 (2002). Mn/Fe(001) 層ごとにスピンの向きが 異なる Yamada, van Kempen, Univ. Nijmegen 厚さ8nmの Fe アイランド構造 STM像 dI/dV 像 探針:Cr (面内磁化) 22 単一磁区のFeアイランド構造 個々の原子のスピン M. Bode et al., Microscopy Research and Technique, 66, 117 (2005) W(001)表面上の単層のFe 反強磁性 理論予想 Mo(001)表面上のFe単層アイランド 探針:Cr、垂直磁化 測定温度: 13K M. Bode, et al. Nature Materials 5 477 (2006) out-of-plane in-plane Mn原子のスピン反転 スピン反転 A. J. Heinrich, et al. Science, 306, 466 (2004) 酸化膜 NiAl表面 Mn: S=5/2 酸化膜上のMn原子 g = 2.01 ± 0.03 スピンは磁場 の方向に向く 非弾性トンネル分光による検出 エネルギーを与 えると反転 中間の状態は取らない(量子化) ・磁場を印加するとスピンの向きに よりエネルギーが変化する。 ・低温では基底状態にある。 ・外部からエネルギーを与えると 励起される。 ・STM探針からの電子により励起され、 そのエネルギーがトンネル分光に より計測される g = 1.88 ± 0.02 23 Mn原子のスピン状態 スピン状態: S=5/2 3d軌道 スピン間相互作用 ・非弾性トンネル分光では、 一段しか、観察されない。 ・m=5/2から3/2の励起に 伴い、電子のmは -1/2から1/2に変化 (全スピンは保存) 磁気量子数 エネルギー m = -5/2 Co2+(S=1/2)の 一次元鎖が形成 m = -3/2 m = -1/2 磁場 m = 1/2 × E = − gµ B B ⋅ S ハイゼンベルグ交換相互作用 コバルトフタロシアニン cobalt phthalocyanine m = 3/2 m = 5/2 J 2個のスピンの場合 2つのスピンの場合 3個のスピンの場合 H = JS1 ⋅ S2 = JS1xS2x + JS1yS2y + JS1zS2z ↑↑ ↑↓ ↓↑ に対する行列 1 0 1 1 −1 1 1 0 J 0 1 2 1 −1 1 1 0 1 昇降演算子 ↓↓ に対する行列 1 J −1 2 2 −1 4 1 エネルギー・固有関数を求めると、 J 4 3J − 4 ↑↑ , ( ↑↓ ↓↓ , − ↓↑ ) ( ↑↓ + ↓↑ ) エネルギー 2 2 固有関数 3個のスピン ( ↑↑↑ , ↑↑↓ + ↑↓↑ + ↓↑↑ J 2 ( ↑↓↓ + ↓↑↓ + ↓↓↑ 0 ( ↑↑↓ − ↓↑↑ −J ( ↑↑↓ − 2 ↑↓↑ + ↓↑↑ 3重項 スピン状態間での遷移 J ↑↑↑ , ↑↑↓ , ↑↓↑ , ↓↑↑ , ↑↓↓ , ↓↑↓ , ↓↓↑ , ↓↓↓ J = JS S + (S1+S2− +S1−S2+ ) 2 z z 1 2 S± = Sx ±iSy J > 0: 反強磁性的 Chen et al. Phys. Rev. Lett., 100, 197208 (2008) ) ) ) 3, 3 , ↓↓↓ ( 2 , ↑↓↓ − ↓↓↑ 1重項 ) 2 4個のスピン ) ( 6 , ↑↓↓ − 2 ↓↑↓ + ↓↓↑ ) 6 反強磁性、J=18meV 24
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