表面物理特論 Surface Physics 東京大学 工学部物理工学 大学院工学系研究科物理工学専攻 Graduate School of Engineering, Department of Applied Physics 福谷克之 教授 生産技術研究所 (IIS) http://oflab.iis.u-tokyo.ac.jp [email protected] 長谷川幸雄 准教授 物性研究所 (ISSP) http://hasegawa.issp.u-tokyo.ac.jp [email protected] 授業の進め方 前半(長谷川が担当、7回分) ・表面科学の基礎とイントロダクション ・表面における原子構造 基本的な考え方 回折手法 ・走査トンネル顕微鏡 ・表面電子状態(の一部) 後半(担当:福谷先生) ・表面電子状態 ・表面での分子との反応 ・分子運動論 ... ・出席とらず ・成績はレポート提出に依る (これまでのレポート課題は WEBに掲載) ・配布プリントもWEBに掲載 Si(111)7x7表面 探針が受ける信号:トンネル 探針が受ける信号:トンネル電流 信号:トンネル電流 壁の厚さに大きく依存 adatom 走査トンネル顕微鏡 (STM) corner hole rest atom トンネル電流 エネルギー障壁 トンネル現象 ~1 nA 電 < 1 nm 電 unfaulted half faulted half アドアトムの原子間隔: 0.77nm Dimer-Adatom-Stacking fault モデル (東工大・高柳先生) 0.1nmの距離の変化で、電流値は 0.1nmの距離の変化で、電流値は1 の距離の変化で、電流値は1桁変化 1 シュレディンガー方程式を解く 電子のトンネル確率 Ψ( x) 左側 = Aeikx + Be − ikx トンネル確率を求める → シュレディンガー方程式を解いて、 右図のようなポテンシャルでの 波動関数を求める。 Ψ( x) 障壁 = Ceκx + De −κx Ψ( x) 右側 = Eeikx + Fe −ikx トンネル 障壁の 高さ φ e- x = 0 での境界条件 Ψ( x) x =−0 = Ψ( x) x = +0 電子のエネルギー E トンネル障壁の幅 a 障壁内でのシュレディンガー方程式 h 2 d 2 Ψ( x) = E Ψ( x) Ψ( x) ∝ e ± ikx 2m dx 2 障壁内でのシュレディンガー方程式 h 2 d 2 Ψ( x) + ( E + ϕ ) Ψ( x) = E Ψ( x) 2m dx 2 k= d Ψ( x) dx 2mE 波数 h 1 2mϕ Ψ( x) ∝ exp ± h E a x = +0 x Ψ( x) x =− a d Ψ( x) dx A, B, C, D, E, Fの連立方程式 = Ψ( x) x = + a x =− a d Ψ( x ) = dx 透過確率は x =+ a T= E A 2 実際のポテンシャル 1 = 2 2 2mϕ 1 (E + ϕ ) k2 +κ 2 2 sinh 2 sinh (κa ) 1 + 1 + ϕ 4 E κ 2 k h 2mϕ a >> 1 のとき h x = −0 d Ψ( x) = dx φ x = a での境界条件 透過確率 2 E T= = A 2mE h 2mϕ κ= h k= 2mϕ sinh h 1 2mϕ a ≈ exp 2 h a 2 2mϕ a ∝ exp − h a a 探針・試料間のバイアス 電圧により両社間のフェ ルミ準位がずれる。 鏡像ポテンシャルによる 障壁の変形 探針のフェルミ準位 バイアス電圧 試料のフェルミ準位 2 2mϕ 16 Eϕ T≈ exp − 2 h (E + ϕ ) φを~5 eVとして計算すると、0.1 nmのaの変化に 対して、Tは一桁変化 2m 参照 2 = 10.2 /(eV)1/2・nm h 結晶による周期的 ポテンシャル 電子がフェルミ準位 まで詰まっている 探針と試料は別の材料 (異なるポテンシャル) 2 探針と試料の状態間の遷移確率 バーディーンの摂動論 J. Bardeen, PRL, 6, 57 (1961) トランジスタ、超伝導理論 と同一人物 障壁があれば、両電極を分けて考えて もいいのではないか。 一方の電極によるポテンシャルを、 摂動として取り扱う。 → バーディーンの摂動論 ψν Vtip φµ Vsample それぞれの固有状態(波動関数)を個別 に求める 一方の電極のポテンシャ ルを変えれば、他方の電 極での波動関数強度(電 子状態)が変わることを 意味する。 先のトンネル確率の計算では、全体の ポテンシャルでの波動関数を考えた。 試料の波動関数 探針の波動関数 他方のポテンシャルを摂動とした際の 状態間の遷移確率を求める。 ω µν = 両電極の電子状態間の 相互作用を無視する。 2π δ (ε µ − εν ) φµ H − H sample ψ ν h 摂動項が時間に依らないときは エネルギー保存 2 摂動項 cf. フェルミの黄金則 T 電子占有・バイアス電圧 行列要素の計算 探針 試料 ∂T T を探針側の領域とする 温度0の場合 は点線 探針の電子状態にある電子(エネルギーEµ)が、 試料の電子状態(エネルギーEν)へ単位時間当 たりにトンネルする確率は 探針側以外では、ほぼゼロ φµ H − H sample ψ ν = ∫ φµ ( H − H sample )ψ ν dr = ∫ φµ* j Hψ ν dr − ∫ φµ* H sampleψ ν dr * T T T 探針の フェルミ準位 F ( Eµ )(1 − F ( Eν + eV ) )ω µν バイアス電圧 V 2 h =− φµ* ∆ψ ν dr + ∫ φµ*V (r )ψ ν dr − εν ∫ φµ*ψ ν dr 2m T∫ T T 打ち消しあう h2 * * * 0 = ∫ψ ν* ( H − H tip )φµ* dr = − ψ ∆ φ d r + ψ V ( r ) φ d r − E ψ φ d ν µ µ µ∫ ν µ r ∫ ν 2m ∫T T T T εν ~ Eµ より 探針側では、ほぼゼロ φµ H − H sample ψ ν = − ガウスの定理 (体積積分→面積分) h2 h2 (φ µ* ∆ψ ν −ψ ν ∆φµ* )dr = − (φµ* ∇ψ ν −ψ ν ∇φµ* ) ⋅ dn ∫ 2m T 2m ∂∫T 探針と試料の間での面積分 試料の フェルミ準位 フェルミ・ディ ラック分布 探針の電子状 態に電子があ る確率 F (E) = 探針の電子状態が 空いている確率 1 フェルミ・ディラック関数 e ( x − µ ) / k BT + 1 全体の単位時間あたりのトンネル確率は、 (探針→試料) の確率から(試料→探針) の確率を引いたものだから F ( Eµ )(1 − F ( Eν + eV ) )ω µν − F ( Eν + eV )(1 − F ( Eµ ) )ωνµ = (F ( Eµ ) − F ( Eν + eV ) )ωνµ 3 バーディーンのトンネル表式 φµ H − H sample ψ ν = − 2 h h (φµ* ∆ψ ν −ψ ν ∆φµ* )dr = − (φµ* ∇ψ ν −ψ ν ∇φµ* ) ⋅ dn 2m T∫ 2m ∂∫T 以上をまとめて I= 2 2πe ∑ {f ( Eµ ) − f (Eν + eV )}M µν δ (Eµ − Eν − eV ) h µ ,ν ( 2 M µν STMの理論 2 h = ds φµ* ∇ψ ν −ψ ν ∇φµ* 2m ∫ ) バーディンのトンネル表式 Tersoff・Hamann理論 J. Tersoff and D.R. Hamann, PRL, 50, 1988 (1983) バーディーンの式を探針と試料表面の系に適用 探針形状は球形と仮定(s波近似) r r r 2 I (r0 ) ∝ Vρ (r0 , E f ) = V ∑ ψ i (r0 ) δ (E − E f ) i r ρ (r , E ) 局所電子状態密度 電圧が小さい場合 ψ i (r ) r 探針と試料の間の面での積分 個々に求めて良い ・試料と探針の表面での電子状態φµ、Ψνを求め、Eν<E<Eµのエネルギー内で、 同じエネルギーを持つφµ、Ψνに対し、Μµνを計算し、足し合わせる(積分する) とトンネル電流が求められる。 ・フェルミ分布の鈍りが、トンネル分光でのエネルギー分解能を決める。(~3kT) 探針の電子状態は、球面対称性より φµ = Aµ Φµ = Aµ e ここで κ µ = 2mEµ / h このときΦj は以下の式を満たす。 − −κ µ r / r (r > R) h2 h2 ∆Φµ (r ) − E µΦµ (r ) = 4πδ (r ) 2m 2m h2 h2 φ *j (∆ψ ν − ενψ ν )dr + ψ ν ∆φ *j dr + E j ∫ψ ν φ *j dr ∫ 2m T 2m ∫T T Tは探針の内部とすると、右辺第一項はゼロ φµ H − H sample ψ ν STMの理論 Tersoff・Hamann理論 J. Tersoff and D.R. Hamann, PRL, 50, 1988 (1983) I ∝ ∑ { f (E µ ) − f (Eν + eV )}ψ ν (0) δ (Eµ − Eν − eV ) 2 r ψ i (r ) µ ,ν 探針が無いとしたときの 試料の波動関数 STM像は、探針先端中心での試料の フェルミ準位近傍のLDOS分布 フェルミ分布の拡がりが無視できる場合 h2 h2 h2 = − Aµ ∫ψ ν − ∆Φµ* − E jΦµ* dr = − A*j ∫ψ ν 4πδ (r )dr = − A*j 2πψ ν (0) 2m m 2m T T 試料の波動関数Ψνの、r=0(探針先端の中心) での値に比例 ∴ I ∝ ∑ { f (Eµ ) − f (Eν + eV )}ψ ν (0) δ (E µ − Eν − eV ) 2 µ ,ν 探針が無いとしたときの 試料の波動関数 STM像は、探針先端中心での試料の フェルミ準位近傍のLDOS分布 「行列要素の計算」の式より φµ H − H sample ψ ν = − local density of states (LDOS) I∝ EF ∫ ρ (E + eV )T (E ,V )ρ tip sample (E )dE E F − eV ・探針が無いとしたときの試料の電子状態(波動関数)のうち、フェルミ準位付近 の エネルギーを持つ状態の探針先端中心での強度が、トンネル電流に比例。 ・d電子・f電子の寄与の大きい状態や、モーメントの表面平行成分k//が大きい 状態など、減衰が激しい状態はトンネル電流に寄与しない。 4 原子の何が見えているの? なぜ吸着した水素は暗く見えるのか? 6.5nm x 6.5nm エネルギー H 走査トンネル顕微鏡(STM): トンネル電流 フェルミ準位 Si 試料表面の電子状態の フェルミ準位あたりでの 電子密度 電子密度 吸着前 電子密度 (状態密度) フェルミ準位あたりのエネルギーを 持つ電子の分布 → 走査トンネル顕微鏡像 物質内での電子の エネルギー分布 Si Si Si Si Si Si Si 吸着後 フェルミ準位 シリコン上の水素 右図で暗く⾒えているのが水素と 結合したシリコン原子 フェルミ準位での電子が減るから 電子のエネルギー状態 STMによる観察例 バイアス電圧の影響(極性) Si(111)7x7 再構成表面 EF V EF トンネル電流 トンネル電流 EF V EF tip sample sample 試料電圧が正 →試料表面の非占有状態 tip 試料電圧が負 →試料表面の占有状態 非占有状態 (試料電圧が正) 占有状態 (試料電圧が負) H. Neddermeyer, Rep. Prog. Phys. 59 701 (1996). 5 トンネル電流 積層欠陥 電圧依存性 EF バイアス電圧 ∫ ρ (E + eV )T (E ,V )ρ I∝ tip sample (E )dE E F − eV 積層欠陥 ρ tip (E + eV ), ρ sample (E ) 探針・試料の電子状態密度 EF V フェルミ準位 EF T (E , V ) : トンネル確率(透過係数) 単位エネルギーあたりの 電子状態数なので「密度」 density of states (DOS) 探針の電子状態 (一定と仮定) STM像に関するまとめ 試料の 電子状態 フェルミ準位からバイアス電圧分 (×e)の電子状態がトンネル電流 に寄与(左図斜線部) 走査トンネル分光(STS) T (E , V ) と ρ tip (E ) 電子状態分布像(フェルミ準位あたりの) 原子の周囲には電子状態があるから、原子像が得られる エネルギーに依らないと仮定 探針先端中心での電子状態密度像 Tersoff-Hamann理論 I∝ EF ∫ ρ (E + eV )T (E ,V )ρ tip sample (E )dE E F − eV ρtip (E + eV ), ρ sample (E ) 探針・試料の電子状態密度 バイアス電圧に依存 電子状態の積分 占有準位・非占有準位(極性) I∝ EF ∫ρ sample (E )dE E F − eV T (E , V ) トンネル確率 dI ∝ ρ sample (E ) dV dI/dVを測定することにより試料の電子状態密度(DOS)を測定 6 トンネル電流 電子状態の影響 バイアス電圧 I∝ 走査トンネル分光(STS) dI/dV EF ∫ ρtip (E + eV )T (E ,V )ρ sample (E )dE 微分 トンネル電流 E F − eV ρ tip (E + eV ), ρ sample (E ) EF V フェルミ準位 EF バイアス電圧 バイアス電圧 探針・試料の電子状態密度 T (E ,V ) トンネル確率(透過係数) dI/dVは電子状態 dI dVは電子状態 密度に相当 フェルミ準位からバイアス電圧分 (xe)の電子状態がトンネル電流 に寄与(左図斜線部) 走査しながら各点でトンネル電流・バイアス電圧特性を測定 探針の電子状態 (一定と仮定) dI ∝ ρ sample (E ) dV 試料の 電子状態 走査トンネル分光(STS) ・ 各位置での電子状態密度 各位置での電子状態密度 ・ 各エネルギー値での電子状態密度分布像 各エネルギー値での電子状態密度分布像 Si(111)7x7表面 測定例 adatom corner hole rest atom unfaulted half faulted half アドアトムの原子間隔: 0.77nm Dimer-Adatom-Stacking fault モデル (東工大・高柳先生) Si(111)7x7表面 7 Si(111)7x7表面の電子状態 表面での電子定在波 電子の波の観察 (Cu(111)表面のSTM像) 表面層に捕われた電子 (金や銅の表面など) 光電子分光・逆光電子分光による測定 (表面全体で平均した電子状態) 波の間隔: 1.4nm 電子が波の性質を持つことの直接証明 電子の波 電子定在波 ステップなどの障壁があると… 波数kの電子状態から、 波数-kの電子状態への散乱 波数k Ψ i = exp(ikx) Ψ r = r exp(−ikx − δ ) r:反射係数 δ: 位相のずれ 波数-k エネルギー 散乱ベクトルq=(-k)- k= -2k の波が発生 Ψ = Ψ i + Ψ r = exp(ikx ) + r exp( −ikx − δ ) 2 2 Ψ = exp(ikx ) + r exp(−ikx − δ ) = 1 + r 2 + 2r cos(2kx + δ ) 残りの1-r2分は、透過あるいは吸収されるが、 逆プロセスによって、こちら側にも加算される。 規格化により1/2されて、最終的には Ψ = 1 + r cos(2kx + δ ) 2 走査トンネル分光により 各エネルギーでの 電子分布が観察できる フェルミ準位 定在波として観察 周期は元の波の周期の半分 波数は元の波数の2倍 Si(111)-√3Ag構造 エネルギーが高いほど波長が 小さい(cf. 小さい(cf. ド・ブロイ波) となる。 8 電子の波 λ= h mv h: プランク定数 電子のエネルギー 1 2 mv 2 2 h h 2k 2 = = 2mλ2 2m E= ・ k// 依存性の問題 電子のエネルギー (eV) ド・ブロイ波長 STSスペクトルの問題点 E (k ) = 1.0 2 電子状態密度 2 hk + E0 2m∗ 0.8 E 0.4 二次元電子系であれば、本来 ステップ的に増加するはず EF 0 k//依存性のため、底(k//=0 ) -0.4 -2.0 -1.0 0 1.0 2.0 3.0 電子の波数 k// (nm-1) 近傍が強調されピークになる Ag(111)表面でのdI/dVスペクトル L. Bürgi, Ph. D. thesis (ETH Zürich, 1999). h = h / 2π k = 2π / λ :波数 dI/dV像から求められたエネルギー 分散関係 k// 依存性 表面電子状態の真空内への減衰 表面でのブロッホ波 ψ (r ) = exp(ik // ⋅ r// )u (r// , z ) = exp(ik // ⋅ r// )∑ exp(iG m ⋅ r// )φm ( z ) u (r// , z ) : 結晶の周期関数 G m : 逆格子ベクトル 電子状態にk//(表面平行成分)があると、減衰が強くなる m 波動関数のz方向成分は exp − h2 2 シュレディンガー方程式に代入 − ∇ + V (r )ψ (r) = Eψ (r ) 2m 今、真空中での振る舞いを考えるので、V=φ (仕事関数) h2 h2 d 2 φm ( z ) = (k // + Gm )2 + φ − E φm ( z ) 2m dz 2 2m d2 2m(φ − E ) φm ( z ) = (k // + Gm )2 − φm ( z ) dz 2 h2 k⊥ STMでは、k//の大きい成分は検出されにくい 原子間隔の周期関数 は、逆格子ベクトルを 波数として、フーリエ 展開できる。 E ≈ 0 (フェルミ準位近傍)とすると 2m φ 2 + (k // + G m ) z φm ( z ) = exp − 2 h k//が大きいほど減衰は強い 高周波のブロッホ波成分ほど減衰が強い 2mφ 2 + k // ⋅ z 2 h 感度低い k⊥ k// Γ 近傍はSTM/STSによる 検出感度が高い 横軸k// k//=0 k//(表面平行成分)が あると、垂直成分が小さく なり、障壁を超えられない。 9 STS像・ dI/dV値を比較する際の問題点 dI dV STSのまとめ はトンネル確率にも比例 DOSは一定なのに dI/dVは変化する dI ∝ T (E , V )ρ sample (E ) dV 2 2mϕ T ( E ,V ) ∝ exp − z h I-V曲線・dI/dV像 dI/dVを得るには、I-Vから微分あるいはロックイン検出 STS像 dI/dV像 STM像 バックグランドの影響 高さ変動の影響 dI/dVの値を比較、あるいはdI/dV像をと るときには、距離の変動による影響が 無視できることを確認する必要あり 前者は、トンネル確率のバイアス電圧依存性に起因 規格化により抑えられる (dI/dV)/(I/V) k//依存性 この電圧で測定 STS像がSTM像と似ている場合、 反転している場合は疑ってみる 各サイトでの試料の電子状態 走査トンネル分光の測定例 超伝導Pbアイランド Conductance [nS] 70 60 Pb(鉛): Pb(鉛): 臨界温度7.2K 臨界温度7.2Kの 7.2Kの 超伝導体 50 40 30 20 10 0 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 Bias voltage [mV] 第Ⅱ種超伝導体 超伝導転移温度: 7.2 K 超伝導ギャップ: 1.3 meV 電荷密度波(CDW)転移:33 K 単位胞の大きさ : 0.345 nm dI/dVスペクトル( スペクトル(@0.5K) ) スペクトル( 超伝導ギャップの測定 2H-NbSe2 300 nm アイランドの大きさによって 超伝導特性が異なる 10 渦糸をどうやって観察するか 第二種超伝導体 一般に、磁場と超伝導は相性が良くない 超伝導になると 超伝導 フェルミ準位 にギャップ 壊れると金属状態 (ギャップ消失) 量子磁束(渦糸) EF EF 0.10 T フェルミ準位での 電子状態密度 (=0Vでの でのdI/dV) ) での を測定すればよい 0.13 T 0.15 T 0.20 T 25 [nS] 20 H < Hc1 Hc1 < H < Hc2 H > Hc2 15 0.25 T 0.27 T 0.30 T 0.35 T マイスナー効果 10 Hc1: 下部臨界磁場 Hc2: 上部臨界磁場 5 実際に観察して確認しよう 原子マニピュレーション 探針 原子マニピュレーション 探針を 使って 原子を 一つ一つ 移動 原子 Cu(111)表面上のCu原子 11 量子井戸 電子の囲い込み シュレディンガー方程式を解くと、 電子の波動関数が得られる。 一次元では、三角関数 二次元では、ベッセル関数 IBM Crommie, Lutz, Eiglerによる 銅表面上に48個の 原子を並べる 原子ワイヤー上の電子 N. Nilius, T.M. Wallis, and W. Ho, J. Phys. Chem. 109, 20657-20660 (2005) 12 非弾性トンネル分光 単一分子による化学反応 (inelastic electron tunneling spectroscopy) 2つの C6H5I 分子から、 C12H10 分子 を作る 非弾性→エネルギーが保存されない フォノン、原子振動、スピン反転… 励起に伴うエネルギー損失が測定可能 tip sample EF V トンネル電子 EF Hla et al., Phys. Rev. Lett., 85, 2777, 2000 調和振動子(バネ振動) 原子の振動 アセチレン分子 C-H間で振動 角振動数 ω= k m k: ばね定数 m: Hの質量 エネルギー(ポテンシャル)は 位置に対して放物線状に変化 放物線ポテンシャル内での エネルギー準位は等間隔 エネルギー hω を与えると振動(量子化) 13 アセチレン分子の振動測定 非弾性トンネル分光 (inelastic electron tunneling spectroscopy) 非弾性→エネルギーが保存されない フォノン、原子振動、スピン反転… 励起に伴うエネルギー損失が測定可能 D D 266mVでのd2I/dV2像 弾性 ω = k /m 非弾性 d2I/dV2にピーク HとD(重水素)では重さが違う ので、振動数も異なる スピンの検出 電子・原子: 小さな磁石 スピン スピン分極 スピンの向きによって電子状態が異なり、 そのため占有される電子数も異なる スピン分極度 スピンの向きによってトンネル電流の流れやすさが 異なることを利用 交換エネルギー 交換分裂 P ( EF ) = ρ ↑ ( EF ) − ρ ↓ ( EF ) ρ ↑ (EF ) + ρ ↓ (EF ) トンネル現象におけるスピン分極度 Fe: 44%, Co: 34%, Ni: 11% 14 スピントンネリング スピンの向きが平行 スピン偏極探針 スピンの向きが反平行 ρtip↑ (EF )ρ sample↑ (EF ) + ρ tip↓ (EF )ρ sample↓ (EF ) > ρtip↑ (EF )ρ sample↓ (EF ) + ρ tip↓ (EF )ρ sample↑ (EF ) スピン分解走査トンネル顕微鏡 例えば、Fe 外部磁場により、磁化の向き を制御できる。 探針からの磁場によって試料 の磁化状態が変わってしまう 場合がある。 例えば、Cr 探針からの磁場は無視できる。 磁化の向きは制御しにくい。 先端原子の磁化方向で決ま る。 ナノサイズFeアイランドの磁区構造 Wachowiak, et al. Science 298, 577-580 (2002). Mn/Fe(001) 層ごとにスピンの向きが 異なる Yamada, van Kempen, Univ. Nijmegen 厚さ8nmの Fe アイランド構造 STM像 dI/dV 像 探針:Cr (面内磁化) 15 磁化の回転方向・中心磁化方向に より4通りの可能性 単一磁区のFeアイランド構造 M. Bode et al., Microscopy Research and Technique, 66, 117 (2005) (左) 面内方向 (右)面直方向 に磁化した Cr 探針を用いて測定したdI/dV 像 Mo(001)表面上のFe単層アイランド 探針:Cr、垂直磁化 測定温度: 13K 超常磁性 サイズ依存性 磁気異方性エネルギー (∝体積 v )による障壁が 温度ゆらぎより小さくなっ た。 単一磁区を持つ磁性 体の反転頻度v 反転頻度pは Kv p ∝ exp k BT Ean = KV K: 磁気異⽅性定数 ・小さいアイランドほど、 頻繁に向きを変える ・隣合わせのアイランドは、 反強磁性的 (静磁エネルギーによる) ネール・ブラウン則 左のグラフは直線に なるはず ・小さいアイランドほど、反転しやすい。 ・長いアイランドほど、反転しやすい。 逆向きの磁区が端 から発生し、境界が 移動することによっ て反転するメカニズ ムが寄与 16 スピン反転 個々の原子のスピン W(001)表面上の単層のFe 反強磁性 スピンは磁場 の方向に向く 理論予想 エネルギーを与 えると反転 M. Bode, et al. Nature Materials 5 477 (2006) 中間の状態は取らない(量子化) out-of-plane in-plane Mn原子のスピン反転 Mn原子のスピン状態 A. J. Heinrich, et al. Science, 306, 466 (2004) 3d軌道 酸化膜 NiAl表面 Mn: S=5/2 スピン状態: S=5/2 ・非弾性トンネル分光では、 一段しか、観察されない。 ・m=5/2から3/2の励起に 伴い、電子のmは -1/2から1/2に変化 (全スピンは保存) 酸化膜上のMn原子 磁気量子数 g = 2.01 ± 0.03 エネルギー m = -5/2 非弾性トンネル分光による検出 ・磁場を印加するとスピンの向きに よりエネルギーが変化する。 ・低温では基底状態にある。 ・外部からエネルギーを与えると 励起される。 ・STM探針からの電子により励起され、 そのエネルギーがトンネル分光に より計測される m = -3/2 g = 1.88 ± 0.02 m = -1/2 磁場 m = 1/2 × m = 3/2 E = − gµ B B ⋅ S m = 5/2 17 2個のスピンの場合 スピン間相互作用 2つのスピンの場合 H = JS1 ⋅ S2 = JS1xS2x + JS1yS2y + JS1zS2z J = JS1zS2z + (S1+S2− +S1−S2+ ) 2 S± = Sx ±iSy ↑↑ ↑↓ ↓↑ 昇降演算子 ↓↓ に対する行列 1 J −1 2 2 −1 4 1 Co2+(S=1/2)の 一次元鎖が形成 エネルギー・固有関数を求めると、 J 4 ハイゼンベルグ交換相互作用 コバルトフタロシアニン cobalt phthalocyanine − J ( ↑↓ ↓↓ , − ↓↑ ) ( ↑↓ + ↓↑ ) 2 3重項 2 1重項 J > 0: 反強磁性的 Chen et al. Phys. Rev. Lett., 100, 197208 (2008) 3個のスピンの場合 3J 4 ↑↑ , スピン状態間での遷移 反強磁性、J=18meV J ↑↑↑ , ↑↑↓ , ↑↓↑ , ↓↑↑ , ↑↓↓ , ↓↑↓ , ↓↓↑ , ↓↓↓ に対する行列 1 0 1 1 −1 1 1 0 J 0 1 2 1 −1 1 1 0 1 エネルギー 固有関数 3個のスピン ( ↑↑↑ , ↑↑↓ + ↑↓↑ + ↓↑↑ J 2 ( ↑↓↓ + ↓↑↓ + ↓↓↑ 0 ( ↑↑↓ − ↓↑↑ −J ( ↑↑↓ − 2 ↑↓↑ + ↓↑↑ ) ) ) 3, 3 , ↓↓↓ ( 2 , ↑↓↓ − ↓↓↑ ) 2 4個のスピン ) ( 6 , ↑↓↓ − 2 ↓↑↓ + ↓↓↑ ) 6 18
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