原子力発電のリスクとベネフィット

原子力発電のリスクとベネフィット
一般財団法人 電力中央研究所
原子力リスク研究センター 副所長
示野 哲男
日本原子力学会原子力安全部会
第3回夏期セミナー
ホテルサンルートプラザ福島
平成27年8月18日
2015
1
1
目
次
1.リスクとベネフィット
2.原子力の発電利用におけるリスクとベネフィット
3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
4.NRRCの研究開発活動
5.結び
2015
2
目
次
1.リスクとベネフィット
2015
3
1.リスクとベネフィット
「リスク」の定義 (1)
(例1) JIS Q 31000:2010(ISO 31000:2009)リスクマネジメント-原則及び指針
リスクは「目的に対する不確かさの影響」と定義されている。
また、注記として以下の記載あり。
「影響とは、期待されていることから、好ましい方向及び/又は好ましくない方向に
かい離することをいう」
「ある事象の結果とその発生の起こりやすさとの組合せとして表現されることが多い」
(例2) 日本学術会議「工学システムに対する社会の安全目標」
ISO/IECガイド51の定義を引用する形で以下のように定義されている。
「人間の生命や経済活動にとって望ましくない事象の不確実さの程度および
その結果の大きさの程度の組み合わせ」
(例3) 日本原子力学会「原子力安全の基本的考え方について 第Ⅰ編
原子力安全の目的と基本原則」
リスクの一般的な定義として、「生命の安全や健康、資産や環境に、危険や
障害など望ましくない事象を発生させる確率、ないしは期待損失」との記載。
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1.リスクとベネフィット
「リスク」の定義 (2)
(例4) 米国原子力規制委員会(U.S.NRC)ウェブサイトのGlossary
The combined answer to three questions that consider (1) what can go wrong,
(2) how likely it is, and (3) what its consequences might be. These three
questions allow the NRC to understand likely outcomes, sensitivities, areas of
importance, system interactions, and areas of uncertainty, which can be used to
identify risk-significant scenarios.
(例5) Risk Management Fundamentals
(U.S. Department of Homeland Security, April 2011)
the potential for an unwanted outcome resulting from an incident, event, or
occurrence, as determined by its likelihood and the associated consequences
(例6) An introduction to the IRGC Risk Governance Framework
(IRGC: International Risk Governance Council)
Risk is an uncertain (generally adverse) consequence of an event or activity
with respect to something that human beings value.
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1.リスクとベネフィット
私たちの生活はリスクだらけ (1)
生きている限り、私たちは常にリスク(生命、健康、資産が損なわれ、価値ある
人生が脅かされる可能性)にさらされている
(家の中にいる時)
食事をする、 入浴する、 睡眠をとる
(外出している時)
歩道を歩く、 車に乗る、 学校で勉強する、 会社で仕事をする
買い物をする、運動する、 デートする、 映画を見る、 酒を飲む
病院で検査する・手術する
(旅行している時)
電車に乗る、 飛行機に乗る、 見知らぬ土地を訪ねる
海水浴をする、 ホテルに泊まる
(住む土地を選ぶ時)
海辺に住む、 工場の近くに住む、 空港の近くに住む
(災難に遭遇する) 地震、 津波、 雷、 台風、 火山の噴火、 がけ崩れ、 洪水
交通事故(もらい事故)、 病気、 危険な動物、 犯罪、 産業施設の事故
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1.リスクとベネフィット
私たちの生活はリスクだらけ (2)
ではなぜ、人はリスクがあっても平気で暮らせるのか
⇒ 自分で選択できる場合:
その選択(活動)をすることで、リスクが生じる可能性が
あるけれど、それを上回る価値が得られる(と思っている)
から
⇒ 自分で選択できない場合:
何らかの防護措置(リスク回避の手立て)が取られている
と思っているから
リスクがゼロではなく、残留リスクがあることは、皆、分かった
上で、何らかの意思決定(判断)をして、その残留リスクを受
け入れているように思われる
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1.リスクとベネフィット
リスクとベネフィットのトレードオフ
私たちは、リスクとベネフィットを比較できているのか
○リスクの定量化は、過去のデータを使って比較的容易にできる
- 交通事故による年間の死亡率
- 家が火事になる確率
- 自分が乗った旅客機が墜落して死亡する確率
- 癌にかかる確率
- 全身麻酔の手術中に死亡する確率
○一方で、ベネフィットの定量化は難しい
個人によって、価値に対する重みづけはさまざま
期待値が同じでも、まったく逆の判断をしてしまう例もある
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1.リスクとベネフィット
リスク認知因子
ハーバード大学 リスク解析センターが発表したリスク認知因子
(人々がリスクを強く感じるようになってしまう10の要因)
1.恐怖心
Dread
2.制御できるか Control
3.自然か人工か Is the risk natural or human-made?
4.選択できるか Choice
5.子供がからむ Children
6.新しいリスク Is the risk new?
7.関心の高さ
Awareness
8.自分に起こるか Can it happen to me?
9.リスクとベネフィットのトレードオフ The Risk-Benefit tradeoff
10.信頼
Trust
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9
1.リスクとベネフィット
リスク対応の一般原則
4つのカテゴリー
高
◆最適化(又は低減)
◆保有
◆共有(又は移転)
◆排除(又は回避)
起
こ
り
や
す
さ
保有
低減
低減
回避
保有
保有
低減
共有
中
低
小
中
影響規模
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大
目
次
2.原子力の発電利用におけるリスクとベネフィット
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2.原子力の発電利用におけるリスクとベネフィット
原子力の利用におけるリスク
原子力技術の3大リスク
○ 核反応(放射線)の固有の危険性
○ 核兵器への転用、テロ
○ 放射性廃棄物の超長期の影響
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2.原子力の発電利用におけるリスクとベネフィット
原子力の利用におけるリスクの体系(例)
原子力を利用
しないことに
よるリスク
原子力安全のリスク safety
原子力の
エネルギー利用
に関わるリスク
原子力利用に
関わるリスク
放射線の
有害な影響に
関わるリスク
核拡散のリスク safeguard
原子力事業
の持続に
関するリスク
放射線の利用に
関わるリスク
(医療、工業、農
業、研究 等)
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核セキュリティのリスク security
政策変更によるプラント停止
(規制政策の見直し、サイクル政策の
見直し 等)
サイクル事業の頓挫によるプラント
停止
サプライチェーンの途絶 等
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2.原子力の発電利用におけるリスクとベネフィット
原子力を利用しないことによるリスクの一例
原子力発電所の停止による燃料費の増加
(政府の電力需給検証小委員会報告書 平成26年10月23日)
2011年度実績
2012年度実績
2013年度実績
2014年度推計
2.3兆円
3.1兆円
3.6兆円
3.7兆円
(参考値)消費税の税収 1%あたり 約2.6兆円
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2.原子力の発電利用におけるリスクとベネフィット
原子力の発電利用のベネフィット
原子力発電は、長期にわたってエネルギー安定供給と地球温暖化対策に貢献する有力な
手段として期待できる。
ウラン資源が政情の安定した国々に分散して賦存
発電過程で二酸化炭素排出を排出しない(ライフサイクル全体で見ても太陽光や風力と
同レベル、天然ガスによる発電と比べても1桁小さい)
放射性廃棄物は人間の生活環境への影響を有意なものとすることなく処分できる
核燃料のリサイクル利用により供給安定性を一層改善できる
高速増殖炉サイクルが実用化すれば資源の利用効率を飛躍的に向上できる
原子力政策大綱(平成17年10月11日 原子力委員会)よりキーワードを抜粋
原子力発電は、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要
なベースロード電源である。
燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きい
数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源と
して、優れた安定供給性と効率性を有している
運転コストが低廉で変動も少ない
運転時には温室効果ガスの排出もない
エネルギー基本計画(平成26年4月 閣議決定)よりキーワードを抜粋
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2.原子力の発電利用におけるリスクとベネフィット
原子力発電のリスクマネジメント
原子力の発電利用に伴うリスクを社会が許容できるレベルに
抑えつつ、原子力発電が生み出す価値を最大化する活動
では、「リスクを社会が許容できるレベルに抑えている」
ということを、どのように説明するのか?
【解決すべき課題(例)】
○社会が許容できるリスクレベルは明確になっているか
○リスクについて、どこまで分かり、どれだけの不確実性があり、どれだ
けのリスクが残っているのかを説明できるか
○未知のリスクがありうることを自覚し、常に学び、問い直す文化が定着
していることを示せるか
○利用可能なあらゆる最新の知見を活用して的確な意思決定を行うこと
ができていることを示せるか
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2.原子力の発電利用におけるリスクとベネフィット
リスク情報を活用した意思決定のフレームワーク
原子力リスク研究センター アポストラキス所長発表資料(平成27年6月3日 原子力委員会)より抜粋
Traditional
“Deterministic”
Approach
• Unquantified
probabilities
•Design-basis accidents
•Defense in depth
•Can impose
unnecessary
regulatory burden
•Incomplete
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RiskInformed
Approach
Risk-Based
Approach
•Combination
of traditional
and riskbased
approaches
through a
deliberative
process
• Quantified
probabilities
•Thousands of
accident
sequences
•Realistic
•Incomplete
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目
次
3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
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3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
原子力リスク研究センター(NRRC)設立の経緯
福島第一原子力発電所事故を踏まえた反省
・原子力のリスクと正面から向き合う仕組みが不足
・特に地震や津波をはじめとする低頻度外的事象への対応が不十分
電事連会長会見資料より
(平成26年6月13日)
規制に留まらない安全性向上に向けて顕在化した技術的課題
①低頻度外的事象の発生メカニズムの解明
②PRAの活用
③リスク低減に向けた研究開発
「反省」や「顕在化した技術的課題」を踏まえ、強化すべき機能・仕組みを検討
各事業者は、原子力リスクを経営の最重要課題と位置づ
け、リスク低減に向けた対応力強化を図ることが必要
低頻度外的事象によるリスク対応のための技術開発は
事業者共通の課題であり、高い専門性が要求されるこ
とから、一元化された研究開発体制の確立が効果的
検討から導き出された取り組みの方向性
各事業者が独自に取り組むべき事項
事業者が共通的に取り組むべき事項
・リスクマネジメント強化のための体制整備
・リスクマネジメントにおけるPRAの活用
・リスクコミュニケーションの充実、リスク
情報の活用 等
・低頻度外的事象の発生メカニズムの研究、解明、
技術課題の解決
・安全性向上活動へのPRA活用手法の確立
・一元的な研究開発体制の構築 等
(各事業者が検討・公表)
「原子力リスク研究センター」の設置 平成26年10月1日
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3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
NRRCの体制
<外部諮問体制>
<センター内部体制>
<会議体制>
(事業者・産業界含む)
センター顧問
センター所長
(Dr. R. Meserve)
(Dr. G. Apostolakis)
社長(CEO)との対話
※ CEO=Chief Executive Officer
技術諮問委員会
( 委員長:
Mr. John W. Stetkar)
原子力経営責任者会議
技術顧問
所長代理
(CNO会議)
※ CNO=Chief Nuclear Officer
副所長(2名)
企画運営チーム(約10名)
小委員会 (分野別)
技術会議
リスク評価研究チーム
(約40名:リスク解析U、プラント熱流動U、環境解析評価U )
・ワーキンググループ1
(リスク評価分野)
自然外部事象研究チーム
・ワーキンググループ2
(約60名:活断層・地震動評価U、津波評価U、火山評価U
極端気象影響評価U、地盤・施設健全性評価U )
※ U=ユニット
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(自然外部事象分野)
3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
電力中央研究所にNRRCを設置する利点
• 電気事業者の中央研究機関として1951年に設立。
• 研究分野:発電、送配電から環境、販売までサプライチェーンの全体をカバー。
• 多様な専門分野にわたる700名以上の研究者と3地区と2試験場に大規模な実験設備を有する。
• 2012年7月に各研究所を横断する「軽水炉安全特別研究チーム」を設置⇒これを強化してNRRC
を発足。
電力中央研究所の組織
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3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
NRRCの研究チーム体制
「リスク評価研究チーム」、「自然外部事象研究チーム」を組織横断的に編成し、研究開発を
推進する体制を構築している。
「リスク評価研究チーム」・・・原子力技術研究所、地球工学研究所、環境科学研究所、
電力技術研究所から、システム安全、熱流動、PRA、気象、大気拡散などの研究者を
結集。加えて、人文系の社会経済研究所からも研究者が合流。
「自然外部事象研究チーム」・・・地球工学研究所、環境科学研究所、原子力技術研究
所から、活断層、地震動、地盤、構造物・設備、津波、火山などの研究者を結集。
狛江地区
大手町地区
横須賀地区
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3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
NRRCの研究拠点
2 1
4
3
1 本部
社会経済研究所
(リスク評価研究チーム)
2 狛江地区
3 横須賀地区
4 我孫子地区
原子力技術研究所、システム技術研究所
エネルギー技術研究所、材料科学研究所、 地球工学研究所、環境科学研究所
(リスク評価研究チーム、自然外部事象研究チーム) 電力技術研究所
(自然外部事象研究チーム、リスク評価研究チーム)
(リスク評価研究チーム)
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3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
国際的な協力体制
・ 広範な国際経験を有する専門家がNRRC幹部に就任
・ 技術諮問委員会(TAC)の委員にも多様な国際経験を持つ専門家を選任
技術諮問委員会(TAC)
A. アフザリ氏
TAC委員長
J. W. ステットカー氏 米国電力会社(サザン・カンパニー)
米国NRC原子炉安全諮問
委員会(ACRS)議長
G. アポストラキス博士
NRRC所長
リスク情報活用担当役員
N. チョクシ博士
元 米国NRC規制局
技術部門 副部門長
R. メザーブ博士
NRRC顧問
元 米国原子力規制委員会 元 米国原子力規制委員会
(NRC)委員長
(NRC)委員
X. プジェアバディ氏
高田 毅士 教授
東京大学大学院
フランス電力会社 原子力エンジニア
リング部門上級安全アドバイザー 工学系研究科建築学専攻
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山口 彰 教授
東京大学大学院
工学系研究科原子力専攻
3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
オープンで透明性の高い活動 (1)
(1)日本語と英語のウェブサイトによるタイムリーな情報発信
http://criepi.denken.or.jp/en/nrrc/index.html
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http://criepi.denken.or.jp/jp/nrrc/index.html
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3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
オープンで透明性の高い活動 (2)
(2)技術諮問委員会(TAC)とのオープンな意見交換
TAC会合の開催後、以下のレターをTACのウェブサイトに掲載
- TAC委員長からNRRC所長宛に提出された報告書
- それらの報告書に対するNRRC所長からTAC委員長宛の返信レター
- 産業界からNRRC所長宛に提出されたレター
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3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
産業界との連携 (1)
原子力経営責任者会議(CNO会議)
電力会社の原子力事業の経営トップとの
直接のコミュニケーション
電力会社の社長(CEO)との対話
NRRCが優先的に研究開発に取り組むべき
課題を共有
産業界で組織された「PRA活用推進
タスクチーム」のメンバーと議論
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3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
産業界との連携 (2)
電気事業連合会は、平成27年1月、「PRA活用推進タスクチーム」を設置。
四国電力の伊方発電所3号機をモデルプラントに選定し、PRA手法の改善を推進中。
PRA活用に向けた検討体制
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(平成27年2月20日 電気事業連合会発表資料より)
3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
NRRCの成果がどこに活かされるのか (1)
ミッション
確率論的リスク評価(PRA)、リスク情報を活用した意思決定、
リスクコミュニケーションの最新手法を開発し用いることで、
原子力事業者及び原子力産業界を支援し、原子力施設の
安全性をたゆまず向上させる。
ビジョン
PRA手法及びリスクマネジメント手法の国際的な中核的研究
拠点(センター・オブ・エクセレンス)となり、それによって、あら
ゆる利害関係者から信頼を得る。
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3.原子力リスク研究センター(NRRC)の設立
NRRCの成果がどこに活かされるのか (2)
ステークホルダー
最新の実用技術
最先端の研究開発
NRRC
電力会社
ギャップ分析
安全性の継続的な
向上のために
取り組むべき課題
NRRCがいつまでに
何を行うかを決定
関係機関
- 海外
- 国内
電力会社のリスクマネジメントプロセス
研究開発計画、
ロードマップの策定
NRRCの
経営資源
研究開発の実施
情報発信
研究開発成果
電力会社の活動の確認
活用成果
3
ステークホルダー
からの信頼
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NRRCの研究開発成果を
リスク情報を活用した
意思決定に活用
活用成果
2
センター・オブ・エクセレンス
モデル
手法
データ
知見
優秀な研究者
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活用成果
1
安全性の
継続的な向上
目
次
4.NRRCの研究開発活動
2015
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4.NRRCの研究開発活動
主な研究開発計画
短期目標
中期/長期目標
確率論的
リスク評
価(PRA)
の改善
- 伊方3号機をパイロットプラントと
したプロジェクトによるレベル1、
レベル2 PRAの改善
- 地震、津波PRA
- 火災、溢水PRA
自然外部
事象のメ
カニズム
解明
- 竜巻: ローカルな地形に基づく現 - 地震と津波の重畳による影
実的な評価の予備的実施
響の評価
- 火山: 火山灰の降灰の現実的な - 自然事象の様々な重畳に対
評価の予備的実施
する影響評価
- 断層変位: 変位による影響の現
実的な評価の予備的実施
基盤整備
- 人間信頼性分析(HRA)
- リスクコミュニケーション
- PRA実施のためのデータベース - 産業界の安全目標
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- 様々なハザードに対する
PRA
- 地震随伴事象のPRA
- 複数号機のPRA
- レベル3 PRA
4.NRRCの研究開発活動
確率論的リスク評価(PRA)とは
 確率論的リスク評価(PRA:Probabilistic Risk Assessment)
施設を構成する機器・系統等を対象として、発生する可能性がある事象(事故・故障)を網羅的・系統的に
分析・評価し、事故シーケンスを網羅的に摘出し、それぞれの発生頻度と、万一それらが発生した場合の被
害の大きさとを定量的に評価する方法をいう。原子力発電所のPRAを行うことにより、原子力発電所の設計
及び運転の長所と短所に関する知見が得られ、予想される結果、感度、重要となる範囲、システムの相互作
用及び不確かさの範囲を理解し、リスク上重要なシナリオを特定することが可能となる。
出典:原子力の自主的安全性向上の取組の改善に向けた提言(自主的安全性向上・技術・人材WG、平成27年5月27日)
◆ 原子力発電所のPRAは
・確率論を用いてそのリスクを総合的かつ定量的に評価する手法
・炉心又は燃料の損傷に係る事象に着目して、損傷に至る事故シナリオ及び損傷後の事故進展を定量化
することによって、発生頻度と影響を推定することができる
◆ PRAの特徴
・原子力発電所のリスクにかかわる評価を現実的な仮定の基に論理的かつ包括的に行うことができる
・リスクに影響を与える要因について定量的な考察が可能
・原子力発電所やその構成設備に関する特性ならびに現象論に関する知識・データの不確実さとそれらに
よりもたらされる評価結果の不確実さを明示することができる
原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的リスク評価に関する実施基準(レベル1PRA編):2013(日本原子力学会)よりキーワードを抜粋
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4.NRRCの研究開発活動
PRAの分類 (影響の程度によりレベル分け)
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4.NRRCの研究開発活動
レベル1 PRAによる評価のイメージ (1)
<炉心損傷確率(CDF)の算出の例>
-5
起因事象:外部電源喪失 CDF 3.5×10
-6
起因事象:主給水流量喪失 CDF 7.0×10
-6
起因事象:大破断LOCA CDF 3.5×10
不
確
実
性
成功 0.9
過去の事故発生データなど
から、確率を評価する
発生確率
-5
1.0×10
大破断
LOCA
発生
成功 0.9
低圧注入
系統が
作動
成功 0.8
蓄圧注入
系統が
作動
低圧再循
環系統が
作動
(注)数字はイメージをつかみやすい
ようにダミーの数値を入れており、
実際の評価値ではありません。
炉心冷却
-6
6.5×10
成功
-6
合計 3.5×10
-6
失敗 0.1
炉心損傷 0.7×10
-6
炉心損傷 1.8×10
失敗 0.2
-6
炉心損傷 1.0×10
失敗 0.1
LOCA: 冷却材喪失事故
(Loss of Coolant Accident)
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失敗する原因ごとに、その確率を求
めて、全体の失敗確率を算出する
・弁が開かない 0.04
・ポンプが回らない 0.06
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過去の故障データ、ヒュー
マンエラーのデータなどか
ら、確率を評価する
不確実性
4.NRRCの研究開発活動
レベル1 PRAによる評価のイメージ (2)
機器ごとのCDFへの
寄与度を評価
起因事象ごとの
CDFへの寄与度を評価
(注)実際には、もっと多くの
起因事象があります
方法 ①
大破断LOCA
その機器の故障率を「ゼロ」と仮定した
場合に、CDFがどれだけ減るかを計算
して、機器ごとの重要度の比較を行う
0.5
3.5×10- 6
主給水流量喪失
7.0×10- 6
外部電源喪失
0
ディーゼル ◆◆◆
発電機 ポンプ
3.5×10 - 5
方法 ②
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◎◎弁
▲▲配管
その機器の故障率を「1」と仮定した
場合に、CDFが何倍になるかを計算
して、機器ごとの重要度の比較を行う
4.NRRCの研究開発活動
PRAの評価結果の活用例
出典:関西電力 浦田部長発表資料 (日本原子力学会 原子力安全部会主催 「原子力安全分野におけるリスク情報の
活用の現状と課題」フォローアップセミナー 平成27年6月22日)
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4.NRRCの研究開発活動
産業界の安全目標設定に向けた取組み
安全目標とは
「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ」(平成15年12月 原子力安全委員会 安全目標専門部会)より抜粋
本専門部会が提案する「安全目標」は、国の安全規制活動が事業者に対してどの程度発
生確率の低いリスクまで管理を求めるのかという、原子力利用活動に対して求めるリスク
の抑制の程度を定量的に明らかにするものである。
産業界が安全目標の設定に向けて検討することを提案
NRRCアポストラキス所長発表資料(平成27年1月21日 自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ)より抜粋
-
国際原子力機関(IAEA)やCANDU炉オーナーズグループなど
による最新の国際的な取り組みを参考にして、我々自身の目
標を設定するための取り組みに着手する
-
複数号機を有する発電所に対する性能指標を設定する
-
複数号機を有する発電所を対象としたPRA手法の課題を明確
化し、解決する
-
この取り組みにより、一般社会とのコミュニケーションに向けた
重要な情報を得ることが可能となる
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4.NRRCの研究開発活動
(参考1)米国原子力規制委員会(NRC)の安全目標声明(1986年)
出典:自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ(第5回)資料(平成27年1月21日)
2015
39
4.NRRCの研究開発活動
(参考2)日本における安全目標の議論(旧原子力安全委員会)
出典:自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ(第5回)資料(平成27年1月21日)
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4.NRRCの研究開発活動
(参考3)日本における安全目標の議論(原子力規制委員会)
出典:自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ(第5回)資料(平成27年1月21日)
2015
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4.NRRCの研究開発活動
新規制基準適合のための対策実施に貢献する活動
<設計基準外部事象評価に関わる技術的根拠の提供>
・敷地内破砕帯等の活動性評価
・震源を特定せず策定する地震動評価
・基礎地盤および周辺斜面の2次元非線形解析(時刻歴非線形解析)手法開発
・遠心振動台による基礎地盤・周辺斜面変形解析の妥当性実証
・波力・衝撃力等の津波外力の評価手法開発
・津波漂流物の衝突力評価手法開発
・竜巻検討地域/ハザード/飛来物速度の評価手法開発
・竜巻飛来物に対する発電所防護設備の耐衝撃性能評価法開発
<重大事故対策に関わる技術的根拠の提供>
・フィルタベントの性能評価
・シビアアクシデント解析コードを用いた炉心、使用済燃料プールの燃料損傷進展の解析的評価
・使用済燃料プールにおける再臨界可能性と臨界時の影響と波及効果の評価
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4.NRRCの研究開発活動
活断層等の活動性の評価
電中研の専門家による
活断層調査の実施
X線CTスキャナを
用いた試料解析
2015
43
43
4.NRRCの研究開発活動
遠心載荷振動台試験
遠心加速度場を利用して、実物に近い応力条件における基礎地盤・斜面の
フラジリティ評価法の改良開発を実施
2015
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4.NRRCの研究開発活動
津波氾濫流水路 (1)
我孫子地区に設置した
「津波氾濫流水路」の全景
(世界で唯一、氾濫した津波の
水流を陸上で模擬できる設備)
防潮堤に相当する壁を
用いた越流試験
2015
45
45
4.NRRCの研究開発活動
津波氾濫流水路 (2)
津波・氾濫流水路の概念図
ヘッドタンク(650 ton)
制御ユニット
実験水路
貯水槽
4m
6.5m
2.5m
10m
20m
帰還水路
60m
N
バルブ(8個)
2015
ラジアルゲート
46
可動堰
4.NRRCの研究開発活動
津波氾濫流水路 (3)
津波漂流物衝突力評価の試験
衝突力 [kN]
100
50
0
0
1
2015
2
3
衝突速度[m/s]
4
5
47
4.NRRCの研究開発活動
竜巻飛来物に対する防護ネットの開発
・二重の高強度金網の4辺を4本のワイヤーロープで支持
・支持ワイヤーは4隅の緩衝鋼管に巻いて鋼製枠の支持構造物に固定
・竜巻などによる飛来物の衝突に対し、金網と緩衝構造の変形によりエネルギーを
吸収し、貫通を防ぐ
2015
48
4.NRRCの研究開発活動
免震装置の破断試験装置
積層ゴムを試験装置に設置
2015
破断直前
49
破断直後
4.NRRCの研究開発活動
共振振動台による機器の耐震性能評価
世界最高性能である20Gの加速度を付加することができる「共振振動台」を開発・設
置している。原子力発電機器が、どれくらいの加速度まで耐えることができるのかに
ついて、従来実現できなかった高い加速度を用いて実証することが可能。
共振振動台
大型振動台
2015
50
4.NRRCの研究開発活動
乱流輸送モデリング風洞
従来の大型拡散風洞では再現が難しい、複雑な温度分布、気流分布、乱流変動分布を
形成することのできる風洞実験設備を我孫子地区に設置
2015
51
目
次
5.結び
2015
52
3.結び
結 び
-
NRRCは、電力中央研究所の経営資源を最大限に
活用する形で発足した
-
NRRCは発足後、約10ヶ月の活動を進める中で、
 NRRCのミッションとビジョンを確立した
 強力な技術諮問委員会を設置した
 オープンで透明性の高い運営を行っている
-
通常の活動に加えて、新たな課題にも率先して取り組む
-
産業界や国際機関と密接な連携を図っていく
2015
53
参
考
原子力リスク研究センタ-(NRRC)シンポジウム2015
• 日時:平成27年9月2日(水)9:20~17:30 (入場無料)
• 会場:大手町サンケイプラザ ホール(東京都千代田区大手町1-7-2)
• 主なプログラム:
・アポストラキスNRRC所長の基調講演
「リスク概念と、それを活用した原子力施設の安全問題の合理的解決」
・パネルディスカッション [ テーマ:リスク情報活用の定着に向けて ]
パネリスト:唐木英明氏(食の安全・安心財団理事長)、櫻井敬子氏(学習院大学教授)
長谷川聖治氏(読売新聞科学部長)、更田豊志氏(原子力規制委員会委員)
松浦祥次郎氏(原子力安全推進協会代表)、渡部孝男氏(東北電力副社長)
•
開催案内・申込み:
http://criepi.denken.or.jp/jp/nrrc/event/sympo2015.html
2015
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