工学倫理第1回講義資料

2015/10/4
工学倫理
工学倫理 第1回
教科書:技術者の倫理入門 第四版
杉本泰治,高城重厚 著
第1章 モラル
モラルへのとびら
のとびら
在学中の学習だけでなく、卒業し技術者
になってからの利用につながるものです。
2015年10月08日(木)
富山大学工学部
非常勤講師 北野仁郎
工学倫理 第1回
工学倫理 第1回
1
2
技術士法(昭和58年法律第25号) 第1章 総 則
授業の目標‐1(技術者の倫理(狭義))
(目的)
教科書やビデオの事例を通じて、科学技術と法と
倫理との関係を理解する。
• 技術が社会や自然に及ぼす影響や効果、技術者
が社会に対して負っている責任に関する理解を深
め、技術者倫理の必要性、重要性を学ぶ。
• 技術士第一次試験の適性科目に十分合格できる
知識と倫理観を身につける。
•
第1条 この法律は、技術士等の資格を定め、その業
務の適正を図り、もって科学技術の向上と国民経済
の発展に資することを目的とする。
技術士第一次試験の適性科目:
技術士法第四章の既定の順守に関する適
性を問う問題
工学倫理 第1回
工学倫理 第1回
3
技術士法(昭和58年法律第25号) 第1章 総 則
4
技術士法(昭和58年法律第25号) 第1章 総 則
(定義)
第2条 この法律において「技術士」とは,第32条第1
項の登録を受け、技術士の名称を用いて,科学技
術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ。)に
関する高等の専門的応用能力を必要とする事項に
ついての計画、研究、設計、分析、試験、評価又は
これらに関する指導の業務(他の法律においてその
業務を行うことが制限されている業務を除く。)を行
う者をいう。
• この法律において「技術士補」とは、技術士となるの
に必要な技能を修習するため、第32条第2項の登
録を受け、技術士補の名称を用いて、前項に規定
する業務について技術士を補助する者をいう。
5
工学倫理 第1回
工学倫理 第1回
(欠格事項)
第3条
次のいずれかに該当する者は,技術士又は技術士
補となることができない。
(略)
工学倫理 第1回
6
1
2015/10/4
技術士法 第4章 技術士等の義務
技術士法 第4章 技術士等の義務
(信用失墜行為の禁止)
第44条 技術士又は技術士補は、技術士若しくは技術
士補の信用を傷つけ、又は技術士及び技術士補全体
の不名誉となるような行為をしてはならない。
(技術士等の秘密保持義務)
第45条 技術士又は技術士補は、正当の理由がなく、
技術士又は技術士補は 正当の理由がなく
その業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用し
てはならない。技術士又は技術士補でなくなった後に
おいても、同様とする。
(技術士等の公益確保の責務)
(技術士の名称表示の場合の義務)
第46条 技術士は、その業務に関して技術士の名称
を表示するときは、その登録を受けた技術部門を明
示してするものとし、登録を受けていない技術部門
を表示してはならない。
(技術士補の業務の制限等)
第47条 技術士補は、第2条第1項に規定する業務
について技術士を補助する場合を除くほか、技術士
補の名称を表示して当該業務を行ってはならない。
前条の規定は。技術士補がその補助する技術士
の業務に関してする技術士補の名称の表示につい
て準用する。
8
工学倫理 第1回
第45条の2 技術士又は技術士補は、その業務を行う
にあたっては、公共の安全、環境の保全その他の公
7
工学倫理 第1回
益を害することのないように努めなければならない。
技術士法 第4章 技術士等の義務
授業の目標‐2 (その他の学際的教養)
(技術士の資質向上の責務)
第47条の2 技術士は、常に、その業務に関して有す
る知識及び技能の水準を向上させ、その他その資
質の向上を図るよう努めなければならない。
授業やレポートを通じて、多様な価値観や具体的
な倫理実行の手法を学ぶ。
• JABEEや技術士、国際社会における技術者倫理
の位置付けを理解し、科学技術や法だけでなく、倫
理に基づいて行動できる技術者を育てる。
•
JABEE基準1(2)(b):
技術が社会や自然に及ぼす影響や効果、お
よび技術者が社会に対して負っている責任に対
する理解。
工学倫理 第1回
工学倫理 第1回
9
授業の予定‐1
授業の予定‐2
• 第1回 モラルへのとびら(第1章)
ビデオ:JR西日本福知山線脱線事故
• 第2回 技術者と倫理(第2章)、第1回レポート
• 第3回 組織のなかの一人の人の役割 (第3章)
ビデオ:チャレンジャー号爆発事故
• 第4回 モラル上の人間関係(第4章)、第2回レポート
• 第5回 技術者のアイデンティティ(第5章)
ビデオ:JCO臨界事故
• 第6回 技術者の資格(第6章)
技術士第一次試験:適性科目
• 第7回 倫理実行の手法(第7章)
技術倫理問題解法の手引き
• 第 8回 事故責任の法の仕組み、第3回レポート
• 第 9回 法的責任とモラル責任(第9章)
ビデオ:カネミ油症事件
• 第10回 コンプライアンスと規制法令(第10章)
ビデオ:隠された臨界事故
工学倫理 第1回
工学倫理 第1回
11
工学倫理 第1回
10
12
2
2015/10/4
成績評価方法
授業の予定‐3
• 第11回 説明責任(第11章)、第4回レポート
ビデオ:不正を正すために
• 第12回 警笛鳴らし(または内部告発)(第12章)
ビデオ:内部告発の果てに
• 第13回 環境と技術者(第13章)
ビデオ 越境汚染
ビデオ:越境汚染
• 第14回 技術者の財産的権利(第14章)
技術者の国際関係(第15章)
• 第15回 期末試験と解説
試験を授業から切り離すのではなく、
授業の一部とする。
工学倫理 第1回
13
倫理についての先入観
講義の情報、連絡方法
わが国の社会には、つぎのように、いくつかの
“倫理”が先住し、倫理とは何かについての共通の
理解がない。
①教育勅語の周辺の考え方
②思想家をた る倫理学
②思想家をたどる倫理学
③武士道賛美
④形式志向の企業倫理
⑤公務員倫理
• 講義の情報
北野仁郎のblog:http://kitanojinrou.seesaa.net/
講義ノート、課題レポートなどを掲載予定。
必ずチェックして下さい!
• 連絡方法
連絡はE-mailを利用して下さい!
E-mail:j-kitano@ctie.co.jp
(@(全角)→@ (半角))
工学倫理 第1回
• 平常点(出席、授業態度など) =30点
• 課題レポート(4回を予定)=20点
総合評価
• 期末試験(第15回に実施) =50点
合計=100点
優
80点以上
良
70点以上80点未満
可
60点以上70点未満
不可 60点未満
欠席、遅刻、早退、課題未提出は、不可のおそれ大。
出席が2/3未満の者は、レポート、期末試験の点数に
関わらず不可とする。
病気や理由がある場合は、説明できれば考慮する。
(事前の連絡、病院の領収書、講習会の参加証など)
14
工学倫理 第1回
15
工学倫理 第1回
16
倫理についての先入観
①教育勅語の周辺の考え方
明治23年発布の教育勅語は、第二次世界大戦
が終わるまで、教育の根本規範とされてきた。
それがなくなり、日本のモラルがダメになった、
という根強い主張がある。
②思想家をたどる倫理学
アリ トテレ
アリストテレス、カントなど思想家の系譜を
カ トなど思想家の系譜を
たどるタイプの倫理学が、学問のなかでも最も
高等で高尚なものとして一般に知られる。
③武士道賛美
日本にはサムライの立ち居ふるまいへのあこ
がれがあり、新度戸稲造による明治32年出版の
“Bushido(武士道)”を引き合いに、わが国
17
工学倫理 第1回
には世界に誇る武士道があるとする。
工学倫理 第1回
倫理についての先入観
④形式志向の企業倫理
企業などが倫理規定・行動憲章を制定し、倫理担
当役員・倫理委員会・ホットラインを設けるなど、形
式をととのえる方式の企業倫理がある。
⑤公務員倫理
国家公務員倫理法にもとづくもので、金銭・物品の
贈与や供応接待を受けてはならないなどとする。い
わゆる消極的倫理(negative ethics)を推進する。
(7.5日本の公務員倫理法)
工学倫理 第1回
18
3
2015/10/4
JABEE制度
現代の技術者の在り方
倫理を普通の技術者のものにした。
• 組織内の技術者
科学技術が人間生活に広く深く浸透し、人間生活を
豊かにする。
科学技術が人間や環境に危害を及ぼす負の影響
の大きさが認識されるようになった。
JABEE制度が技術者の倫理の社会への通路を開
くクサビを打ち込んだ。
工学倫理 第1回
19
難しい倫理問題にぶつかったとき、「倫
理とは何だろう」と問うてみることが、
解決のカギとなることがある。
1.1 倫理とは何か
倫理とは何か
1.2 倫理順守の仕組み
1.3 モラル上の不一致
1.4 技術者の倫理教育
1.5 まとめ
21
1.1 倫理とは何か-2
工学倫理 第1回
そういう技術者のイメージを確立し、社会に受け
入れられるようにする。
工学倫理 第1回
20
• 倫理(ethics)
人間関係における対人関係の規範である。
規範(norm)は、人が守る「きまり」で、
「○○してはいけない」、「○○するようにし
よう」という「きまり」である。
倫理は本来わかりやすい。
倫理は本来わかりやす
• モラル(morals)
倫理は、モラルの意識から生まれる。
人が対人関係において、してよいこと、して
はいけないことを識別し判断する基準をそなえ
ていて、その判断に従って行為しようとする意
識(sense=感覚)である。
22
工学倫理 第1回
1.1 倫理とは何か-3
• 法と倫理
倫理=自主的に順守する自律的な規範
法=国家権力によって強制する他律的な規範
倫理は、コミュニティの規範
工学倫理 第1回
・ 技術者は、上からの業務命令に従うと同時に、自
ら自主的に問題を発見し、判断し、行動する積極的
な姿勢を必要とする。
1.1 倫理とは何か‐1
第1章 モラルへのとびら
工学倫理 第1回
・ 技術者の倫理が、技術者だけのものではなく、経
営者と共通の理解を築く必要がある。
• 公衆
公衆は、技術業や技術者に対して、批判者と
なることはあっても、敵対者ではない。
技術者は「公衆の安全、健康、および福利」
を図る義務がある。
公衆を対人関係の相手とみるのは、現代の技
術者倫理の重要な特徴である。
(公衆については、第4回であらためて述べ
る。)
23
工学倫理 第1回
24
4
2015/10/4
1.1 倫理とは何か-5
1.1 倫理とは何か-4
• 法と倫理
法の領域では早くから、図の関係が考えられた。
規範(法と倫理)は、意識(モラルと常識)から生
まれ、意識が規範を支えている。
法と倫理は、相互に補完関係にある。
工学倫理 第1回
25
1.2 倫理順守の仕組み-1
1.1 倫理とは何か-6
• 美徳(virtue)
義務を越えた良い仕事(good works)への心がけ。
• 道徳
道徳という語が使われるのは、
哲学の中の倫理学であって、moralsの訳語に
は“道徳”を当てる。
“道徳”を
る
“道徳教育”の推進を考えている教育関係者
“道徳”には他律的側面がある。自律的な倫理と
は異なる。
(技術者の倫理規定(2.4)は、自律の規範である。)
工学倫理 第1回
27
1.2 倫理順守の仕組み-2
• 倫理の条目のつくり
五倫(孟子)の条目には、倫理規範の構造が表れて
いる。
・親子、君臣、夫婦、長幼、朋友の対人関係
・対人関係において大切とされる価値基準
対人関係において大切とされる価値基準
対人関係と価値基準の組合せで、条目が作られる。
明治時代の日本人のモラル上価値基準
率直、正直、誠実、親切、優しい、礼儀正しい、
信用する、愛情のこもった、
(親に対して)子どもとしてふさわしい、忠実
=人のモラル上の性格でもある。
29
工学倫理 第1回
工学倫理 第1回
用語の選び方
日本語には、モラルや倫理に相当する様々な用語があ
り、整理されずに、概念があいまいなまま使われてきた。
理系では、用語を定め、明瞭に定義する習慣がある。
• 倫理(ethics)
人間関係における対人関係の規範である。
規範(norm)は、人が守る「きまり」で、「○○しては
いけない」、「○○するようにしよう」という「きま
「
「
り」である。
倫理は本来わかりやすい。
• モラル(morals)
倫理は、モラルの意識から生まれる。
人が対人関係において、してよいこと、してはいけな
いことを識別し判断する基準をそなえていて、その判断
に従って行為しようとする意識(sense=感覚)
である。
26
工学倫理 第1回
• 伝統的な倫理
黄金律(Golden Rule)は、古代からの代表的な倫
理の規範であり、主要な文化に見い出せる。
キリスト教:あなたたちが人にしてもらいたいと
思うことを、人にもしてやりなさい。
ヒンズー教:人が他人からしてもらいたくないと
思ういかなることも他人にしてはいけない。他
人に苦痛を与えると知れ。
儒教:己所不欲、勿施於人(自分が嫌だと思うこと
は人にもするな)。
仏教:君をくるしめる他人を憎むな
ユダヤ教:自ら憎むことを他人にしてはいけな
い。・・・
イスラム教:自らのために欲する如く・・・
工学倫理 第1回
28
1.2 倫理順守の仕組み-3
技術者の倫理規程(2.4)も、対人関係と価
値基準の組合せからなる。
現代の技術者には、新しい対人関係があり、
価値基準にも新しいものがありえる。
工学倫理 第1回
30
5
2015/10/4
1.2 倫理順守の仕組み-4
1.2 倫理順守の仕組み-5
• 倫理がモラルを支える
モラルと倫理は、明瞭に区別して定義されて
も、実際に、どこまでがモラルの意識で、どこ
からが倫理の規範かの境界がはっきりしない。
怠けるのはよくない :モラルの意識
怠けないようにしよう:規範
区別は難しいが、区別には重要な意味がある。
• 形骸化の危険性
・ 規範は、書き表わされることによって確定し、
一定不変のものとなる。
・ しかし、それが順守されるには、順守しよう
という意識が必要である。
という意識が必要である
・ 意識の支えがない規範は、形式であり、実態
のない“空文”にすぎない⇒法や倫理の形骸化
工学倫理 第1回
31
工学倫理 第1回
32
1.3 モラル上の不一致-1
討論1
倫理規定、行動憲章などの規範は、作文でつ
くられる形式であり、困難なのはそれに実体を
備えることである。つぎの事例を読んで、その
ことについて討論しよう。
工学倫理 第2回
33
• 価値観の違い
価値観は、身近な事例でつかむのが実際に役立つ。
友人3人で一緒に食事をする場合
共通の利益=食事をしながら話をしたい
価値観は違っても、相談して調整できる。
工学倫理 第1回
工学倫理 第1回
34
1.3 モラル上の不一致-3
1.3 モラル上の不一致-2
工学倫理 第1回
モラル上の不一致(disagreement)に出会うのはな
ぜ?
• モラル上の価値判断
「盗みをしない」という、昔からの価値判断
友人の机の上に何かが置いてあるという事例
時と場合によ て 判断が異なる
時と場合によって、判断が異なる。
35
• 信頼と対話の人間関係
・ 価値観の違いは、必ずしも人間関係を阻害しない。
・ 阻害しないような、モラル問題の解決がありえる。
・ 最善でなくても、次善がある。
・ 信頼関係、対話、情報の共有があれば、
⇒共通のモラルが成立する可能性がある。
• モラル問題解決にアルゴリズムはない
・ モラル問題は、個々の問題ごとに自分で考え、解
決するしかない。
・ 技術者の判断は、裁量を必要とする事柄について
求められる。
工学倫理 第1回
36
6
2015/10/4
1.4 技術者の倫理教育-1
1.4 技術者の倫理教育-2
• 学際的な性格
・ 技術者倫理は、科学技術・法・倫理の融合又は複合。
・ 技術者倫理の目標は、倫理についての知識を広げ、
かつ法における知識を広げることにある。
工学倫理 第1回
37
1.4 技術者の倫理教育-3
1.5 まとめ
• 倫理学習の姿勢
モラルや倫理は、われわれ自身に内在する。
自主的、自立的、積極的な姿勢が大切。
技術者倫理は、知識が20、意識が80。
工学倫理 第1回
工学倫理 第1回
• 安全確保などの3要素
安全確保の対策=科学技術的、法的、倫理的対策
事故の原因究明=科学技術的、法的、倫理的要因
• 教育の責任を負うのはだれか
日本の技術者倫理は、米国の翻訳から始まり国際的。
しかし
しかし、日本に適したものに育てる必要がある。
本に適したも に育 る必要がある
学生の行く末を思いやる立場にある者の責任。
倫理学系:文学部哲学、倫理学など専攻の方々
教養系:科学史・科学論、技術史・技術論など〃
エンジニア系:技術専門科目の教員、
実務経験のあるエンジニア
38
工学倫理 第1回
技術者倫理は、真の学際的な教養教育の始まり。
学習の最初に、モラル(あるいは倫理)とは何
かを理解しておくと、実務の役に立つものであ
る。
•
人の世代は続いていて、倫理にも連続性があ
る。
•
十戒、五倫などの伝統的な倫理は、われわれ
の学習の出発点となり、そこから現代の技術者
の倫理までを、一貫したものとして理解すると
よい。
•
39
工学倫理 第1回
40
7