福島大学行政政策学類 地域と行政専攻入門科目 F クラス D 班 2015 年度 前期第 16 回 –地方創生のとりくみ状況を調べる- 前期のまとめ 2015 年 8 月 20 日 小野さやか、佐藤慶貴、室井亮哉 会津美里町の現状から見る協働体制のあり方 あらすじ 「地方創生」という言葉が各方面で叫ばれている昨今において、今一度「地方創 生」とは何か、私たちは地方の消滅を防ぐためにどのような行動をとるべきなのか を見直す機会が必要とされているのではないだろうか。 私たちの班は、地方の消滅を防ぐためのカギを握っているのは行政と住民の関係 性ではないかと推察する。 したがって、このレポートでは、福島県会津美里町の「八木沢菜の花会」、 「あい づ関山倶楽部」、 「サポートみさと」の三団体の視点から行政と住民がどのように関 わっていくべきなのかについて考察する。 目次 1 八木沢菜の花会の概要及び考察 2 あいづ関山倶楽部の概要及び考察 3 サポートみさとの概要及び考察 4 結論 1 1 八木沢菜の花会の概要について 概要 八木沢菜の花会は、会津美里町で休耕地を利用して土壌改良や地域の美化運動として 菜の花畑を広範囲に作ったのがきっかけとなり、見るだけではもったいないと菜種油を 絞ってはどうかと興味がある女性が集まり、平成 21 年に発足した。現在の会員は女性 7 名でほとんどが兼業農家であり、菜の花の栽培、菜種油の搾油・販売などを中心に行 っている。搾油は会津若松市にある平出油屋に委託し、120・200・500gの三種類のボ トルに詰め合計 1200 本になる。また、平成 26 年度からは6次化も行っており、加工 部の三人が菜種油や地元の食材を使って凍み餅やシフォンケーキ、クッキー、漬物、芋 餅などを加工している。5月に行われる菜の花祭りでは運営や菜種油や加工品などの販 売を行っており、平成 23 年に原発事故による楢葉町の避難者への炊き出しから始まっ たこのイベントは、現在では約 800 人が集まるほどのイ ベントになっている。菜種油や加工品は菜の花祭りだけ でなく、福島県や会津美里町のアンテナショップ、観光 客の多い売店4店などで販売されており、今後さらに販 売箇所を増やしていく予定である。これらの菜の花に関 する活動のほかにも、八木沢地区には婦人会がないため、 地区行事等に協力、ボランティア活動を行っている。以 上のように八木沢菜の花会では少人数ながら様々な活 動を行っており、八木沢菜の花会によって八木沢地区の 住民の絆が深まり、休耕地を活用して町おこしを行っている。しかし、後継者不足や資 金不足などの課題も存在する。 より 考察 私はこの考察において地方創生に必要なことは何か、八木沢菜の花会と会津美里町を 例に考えていきたい。なぜならこれからの地方自治体は人口がどんどん減少していき、 収入が減っていき行政は少ない予算でやりくりしていかなければならない。私はそこで 行政だけでなく住民の力が必要になってくると考える。しかし、いくら住民の力が必要 となってくるといっても、一人で何かを行うのは難しい。したがって、八木沢菜の花会 のような住民団体がこれから必要になってくるのである。確かに八木沢菜の花会は直接 行政のまちづくりにかかわっているわけではないが、菜種油によって会津美里町を PR したり、菜の花畑や菜の花祭りによって観光客を集めたり、地区行事に参加して住民の 絆を深めるのに貢献したりと、八木沢地区が主だが会津美里町に大きく貢献している。 会津美里町にはほかにも住民団体があるし、ほかの多くの自治体でも住民団体があるは 2 ずなので、会津美里町と八木沢菜の花会を例に考察し、ほかの団体、自治体に活かせれ ばと考える。 まず、これからの地方創生に必要なのは先ほども述べたように住民と行政との協力だ と考える。八木沢菜の花会は聞いた話では現在あまり行政とのかかわりが少なく、助成 金の話、町の行事に参加するといったことしか行っていない。行政と協力すればもっと さまざまなことが行えると私は考える。たとえば、八木沢菜の花会の PR に行政が協力 することである。八木沢菜の花会では現在農業普及所のホームページに掲載してもらっ ているが、会津美里町のホームページには掲載されていない。また、八木沢菜の花会だ けでなく、菜の花祭りも掲載されていない。現在八木沢菜の花会では、会員の年齢が 50~60 代と後継者が不足しており、もっと自分たちの活動を広める必要がある。また、 菜の花祭りも年々来場者が増え、現在では約 800 人が来場するような大きなイベント になったが、運営には多くのボランティアが参加しているので、さらに来場者とボラン ティアを増やすためにも町のホームページに掲載してもらいたいと考える。PR のほか にも、現在行っている活動を八木沢地区だけでなく街全体に広げることによって、菜の 花を八木沢地区だけでなく会津美里町の大きな観光資源にできるのではないかと考え る。これにはほかの地区の人の協力や資金が必要なので行政との協力が必要不可欠であ る。 このような住民団体と行政との協力が行われればいいが実際はなかなか難しい。私は 協力するためにはお互いの信頼関係が必要であると考える。信頼関係を築くためには話 し合いを何度も継続して行わなければならない。その際に、住民団体は行政から補助金 を受け取るなど弱い立場にあるため、行政から住民団体に対して歩み寄っていかなけれ ばならない。 もう一つ必要なのは、その土地にある魅力やその土地だからこそできることを見つけ るということである。確かに企業を誘致したり、商業施設を作ったりすることも重要だ が、その土地にある資源を活かすことも重要である。どんな自治体にもその地域にしか ない魅力があるはずである。その点において、八木沢菜の花会は、休耕地に美化運動と し菜の花を植え、さらにそこから菜種油を取るなど、自分たちの地域にある資源を有効 活用している。 以上のように、八木沢菜の花会と会津美里町から、地方創生に必要なことは地域の魅 力を最大限に活かしたまちづくりを住民と行政が協力して行うことだと考えられる。そ うすることによって、地域が活性化され、人口減少に歯止めがかかるはずである。また、 両者が協力するためには、話し合いによって信頼関係を構築していかなければならない。 今後、八木沢菜の花会は行政と協力することによってさまざまな可能性が広がっていく と考えられる。八木沢菜の花会と会津美里町が今後の地方の小規模自治体における地方 創生のモデルケースになるのではないかと考える。 (室井亮哉) 3 2 あいづ関山倶楽部について 概要 あいづ関山倶楽部は福島県会津美里町本 郷地区の南部に位置する関山地区にあるこ ぶし荘(写真 1)を拠点とし、地域の人々 が地区内の高齢者を互いに助け合い・支え 合うことにより地域の中で活き活きと生活 し続けられる仕組みづくりを構築すること を目的とし、古くからの強い絆で結ばれ、 支え合ってきたコミュニティをより発展さ せることと、これまで守ってきた住まいや 写真 1 こぶし荘の外観 蔵を活用し、活力ある高齢化社会の継続的 な維持活動に取り組んでいる団体である。 その活動は関山地区の住民台帳調査や高齢化に関するアンケート調査による地域の 現状の把握から、利用可能な住まいの実測調査や高齢者施設の視察調査といった実際に その場所に足を運んで調べるもの、そして村づくりワークショップの開催や懇談会及び 講演会の開催による意見の交換など多岐に渡る。これらの活動は高齢者を中心とした地 域コミュニティの再生に取り組み、過疎化・高齢化する地方集落活性化のモデルとなる ことをねらいとしている。 考察 私は上記のこぶし荘を訪問し、関山地区の実情のお話を伺って衝撃を受けた。あいづ 関山倶楽部の理事である鈴木氏によると地方の消滅を免れて存続させることは不可能 であるとのことだった。そのお話の内容は、現代の日本においてどこの地方も若年層率 の低下は著しいものであり、仮にどこかの地域が若年層の住民誘致に成功したとしても その分他の地域の若年層が減少し、互いの地域が競争を行ってしまうので結果的に地方 全体の観点から見ると減少してしまうのであるというものであった。私は今までのゼミ 活動において、地域の実情やその打開策に検討を重ねてきたつもりであったにも関わら ず、実際には地域がどれだけ追い詰められた状況にあるのか、その打開策で本当に地域 を救えるのかを全く理解していなかったのである。 したがって、私はこのことについてあいづ関山倶楽部を実例として取り上げ、すべて の地域を救うことは本当に不可能なのかについて考察する。 まず、関山地区が抱えている課題を挙げると、 ① 空き家の増加 4 ② 新生児の減少 ③ 高齢者の割合の増加 ④ 一人暮らし世帯の増加 ⑤ 耕作放棄地面積の増加 などがある。 これらは、全国の地方が頭を悩ませてい る課題でもあると思われる。こういった課 題に対して、関山地区は様々な解決策をと っている。①は家主の転居や死去により家 写真 2 放置された蔵 屋(写真 2)が放置されることで発生し、 こうした家屋が 7 戸(関山地区全体の こうした家屋は一軒家の購入を検討して 10%)存在する。 いる若年層に提供することで住民誘致に 繋がる。②や③はどの地域においても騒がれている問題であるが、①のように若年層の 住民誘致によって解決が見込まれる。④は高齢者の孤独死にもつながるので、同じ境遇 にある人同士の共同生活や地域コミュニティの交流会を催している。⑤は①と同様の原 因で発生し、その土地は都会の人々に農作業を体験してもらう田んぼインターンシップ に活用されている。 このように、関山地区は数多くの課題を抱えて消滅の危機に瀕しているものの、様々 な角度からの働きかけや工夫をすることで消滅の難を逃れている。しかし、これらの活 動を執り行っているあいづ関山倶楽部にも問題は存在する。その最大のものはやはり資 金不足である。鈴木氏によると人口減少のアイデアはまだまだ存在しているものの、資 金がないために誰も動こうとしないのだ。この現状を打開するためには行政からの資金 提供が必要なのだが、行政もあまり積極的に動いてくれないのである。 何故このような事態に陥ってしまっているのか、それは地域団体と行政機関の間にズ レが生じているからだと思われる。地域団体は自分たちの集落の存続を最優先に考えて 行動しているが、行政機関は自分たちの市町村全体の存続を最優先に考えているために どれか一つの地域を優遇するわけにはいかないのである。本当に地方を救いたいと思う のであれば、まず地域団体と行政機関がお互いに歩み寄り、それぞれの希望、打開策に ついて綿密に議論・意見交換を行うことから始めるべきではないだろうか。 以上のことから、地方創生を目指すうえでまず行動するべきことは、地域団体と行政 機関が互いの現状を把握し、一つに結束して課題の解決に尽力することであり、このこ とが地域を救うことの第一歩になると思われる。 (佐藤慶貴) 5 3 サポートみさとについて 概要 「サポートみさと」は会津美里町の NPO 法人や ボランティア団体などと行政とを繋ぐ中間支援組 織である。実際に見学に行ってみると、そこは公民 館(右図)の一室であり、正式な建物や場所はなく、 あくまでも「準備室」である。「町民が自らの力で 住みやすい町作りに貢献することを支援する」こと を目的に、地域団体の自立を促進している。自主的 な公益活動の支援として、活動内容は、広報から助成金の申請、事務支援など多岐に渡 る。「中間支援組織」として、行政と地域というつながりだけではなく、地域における 団体同士での連携も重視されている。「サポートみさと」が主体となって団体間の協働 のきっかけを作ることで、よこのつながりを強める活動も行っている。また、講演会・ 勉強会を開くことによって団体のスキルアップの機会も提供している。 次の図は、サポートみさとが「ちょっと不便、ちょっと田舎だけどどこにも負けない 魅力はある町」=「Aでもない、でもBよりはちょっといい町」=「B+」な町の実現 をゴールとして掲げる図である。 生き甲斐を感じ る人が増える 役立っていると 感じる(存在意義) B+な町の実現のために 住みたいと思う 人が増える 交流・協働の機会 が増える 考察 「サポートみさと」は「中間支援組織」となっているが、その活動の実態はより地域 団体に視点が置かれているものであった。そのため、地域団体との関わりは密接であり、 団体が声をあげ易い環境がつくられている。実際に「サポートみさと」において行われ ている町の地域団体同士を結ぶ「ネットワーク会議」では、住民同士が積極的に話し合 い、意見を交換し、自身の団体に活かすという構図が完成されている。 しかしその一方で、中間支援組織とは言っても、町との接点は現段階では「助成金」 のみとも言える現状も存在している。中間支援組織と行政には壁がある。中間支援組織 とは本来中立的な立場であるべきであるが、その位置づけが、行政と地域住民との考え 6 方の不一致によって、中間組織というよりは板挟み的存在になりつつある。例えば、地 域団体による共同事業の提供やその受け入れの場、行政への提案の場としての中間支援 組織、などとスムーズな仕組みづくりが完成されていれば中間支援組織は活かされるの ではあるが、「地域団体が行政に求めるもの」と「行政が地域住民に求めるもの」の相 違が中間支援組織におけるこじれをもたらしている。行政が求めるものが行政への「住 民参加」であったとすれば、住民側が求めるのは「自立的に活動するための助成金」で ある。矢印の方向が異なっている。ここで必要となってくるのは、行動の連携という以 前に、お互いの意思疎通を図ることであると考える。普段から交わる機会の多くはない 2つの団体を、意思疎通のツールとしても中間支援組織は役立てることができる。 また、どちらも常に主催側、求める側というのではなく、参加する側として協働を図 っていくことが重要である。双方からの積極的な働きかけを中間支援組織で支援し、 「相 違」の調整をしていかなければならない。これまでは横一列に並んでいた構図を、それ ぞれがそれぞれに結ばれている構図が重要である。 これまでの構図 中間支援 住民 行政 組織 これから必要な構図 中間支援 組織 住民 行政 地方創生という面では、外部に対する働きかけも大切である。一例としての会津美里 町の目標として、最終的には外部からの定住ということが挙げられていた。しかし、最 終的な目標が同じであったとしても、地域団体においては、町としての魅力ある団体が 外部に対して自立して働きかけができるような段階ではないのである。それを支援する 中間組織は、どうしても地域内に向けた支援をしがちになっている。現状、会津美里町 においては地域団体・中間支援組織のどちらも外部に対しては「管轄外」となっており 自分自身のことで「手いっぱい」なのである。それに対し、町は外部に対して「Iター ン・Uターン」の促進や定住を大きく掲げている。「住民参加の地域づくり」という町 としての魅力が確立されていない段階で町だけが「定住を!」と空回りしている現実が ある。こういった現実は、会津美里町に限られたものではないと考えられる。 (小野さやか) 7 4 結論 したがって、 「八木沢菜の花会」の PR 不足による認知度の低さ、 「あいづ関山倶楽部」 の資金不足による活動範囲の縮小、「サポートみさと」が陥っている中間支援組織の板 挟み化など様々な問題が山積しているのが地方の現状であるが、それらの問題の根底に 存在している原因は「地域団体」と「行政機関」の認識のズレだと思われる。「地域団 体」は自分たちの集落の今後について優先的に考えていて、「行政機関」は自分たちの 市町村全体を存続させることを優先的に考えているのだ。お互いの目指すものは共通し ているにも関わらず、実際に見ている展望は異なっているのである。この認識のズレが 存在している限り、本当の意味での地方創生の実現は厳しいものとなる。 では、「地域団体」と「行政機関」はこれからお互いにどのような活動をしていけば いいのだろうか。 そこで重要となるのは、「協働」のまちづくりである。外部から人を呼び込むことを 前提とした地方創生のために必要なことは、まず内側からの改革である。これまでのよ うな隣近所の付き合いなど地域の結びつきが弱まっている今、ひとりひとりの「協働」 の意思が必要とされている。 「協働」に対して地域全体、全員で取り組むためには、これまでのような横一直線に つながっていたそれぞれの関係性を輪にする必要がある。例えば、中間支援組織を間に 立つ存在、仲介としてだけではなく、各団体が協働する機会を与えるための場の提供を 行うなど、つながりを輪にするきっかけが必要なのである。行政を中心としたまちづく りから、子供から高齢者が同じ立場に立って、全員が主役として地域の課題に取り組む 体制を整える。まずはこの第一歩から始めなければならない。 さらに「協働」のまちづくりを行う上で必要とされるのは、お互いの信頼関係の構築 である。信頼関係がなければ、行政は各団体に補助金を出せず、各団体は行政と協力し て活動を行うことができない。そして、信頼関係の構築のためには繰り返し話し合わな ければならない。繰り返し話し合うことによって、互いの考え、抱えている問題などを 共有することができ、円滑に協働を進めていけるようになるはずである。 各団体は行政から活動資金として補助金をもらっているため、立場が弱くなってしま う。各団体が行政に対して話し合いを持ちかけても行政が拒めば、各団体はそれ以上い うことができない。そのため、話し合いを行う際には行政が各団体に対して歩み寄って いく必要がある。行政が歩み寄ることによって、話し合いがもたれて、信頼関係が築け るのである。 8
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