次世代製造業の潮流

東大駒場リサーチキャンパス公開2015
【HEMSアライアンス】セミナー 「スマートハウスからIoTワールドへ」
次世代製造業の潮流
-Industry4.0の設計思想(プレゼン資料より抜粋)
2015年6月5日
コンサルティング事業本部 統括部長
グローバル製造業コンサルティング部長
主席コンサルタント 近野 泰
動き出した50億人市場の克服
50億人市場の克服に向け、次世代製造業革命が胎動
 独・・・顧客作りのみならず、仲間作り(供給者)に注力
 日独の決定的違い・・・仲間作りを踏まえた戦略の設計思想
 日・米市場が好況を見込む今、仕込まないと負ける
6億人市場:G7時代
一人当り
GDP
(ドル)
3万以上
(2007年)
ハイエンド
1.5万以上
3万未満
ミドル
3千以上
1.5万未満
ローエンド
3千未満
50億人市場:G20時代
BOP
(Base of the Economic Pyramid)
(2025年)
6 ⇒ 17億人
5⇒
7億人
ハイエンド
ミドル
15 ⇒ 28億人
ローエンド
35 ⇒ 20億人
BOP
下
か
ら
上
出所) NRI主催セミナー資料「閉塞感を打破する! 日本の製造業の戦略ギアチェンジ」 (2010年6月)
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1.製造業が直面している課題
2.ドイツが仕掛ける第4次産業革命
3.ドイツ企業の戦略設計思想
4.日本の製造業への提言
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1.製造業が直面している課題:市場は分散・拡大、顧客も多様化
グローバル市場拡大の本質は分散と多様化
世界のGDPシェア推移予測
今後5年間の自動車市場の成長幅
50%
(100万台)
24.0
98
新興国シェア
36%
46%
53%
47%
先進国
新興国
中国
中東アフリカ
中南米
中東欧
19.0
74
他アジア
世界総GDP
61 (兆ドル)
中南米
14.0
中東欧
中東アフリカ
インド
日本
新興国
今後5年の
成長幅
インド
他アジア
81% 新興国
中国
9.0
北米
先進国
EU
4.0
EU
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
(年)
出所) IMFデータよりNRI作成
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北米
19% 先進国
日本
0.0
-1.0 0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
現状の日系自動車メーカの地域別販売台数
30.0
(100万台)
出所) World Bank, IHS GlobalデータよりNRI作成
3
1.製造業が直面している課題:「規模の不経済」への対応
「分散・多様化」に対応するために、現地経営資源を大幅に投
入。新興国市場攻略のため、経営の複雑性とコストが増大
ドイツ自動車メーカAの
R&D費用と人員数推移
日系自動車メーカBの
R&D人員の内外比率
R&D費用
(人)
(百万ユーロ)
グローバルR&D人員数
50,000
10,000
40,000
8,000
30,000
6,000
20,000
4,000
10,000
2,000
0
0
海外
約40%
日本
出所) IR資料などよりNRI作成
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2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
約60%
出所) 各種資料よりNRI作成
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1.製造業が直面している課題:「規模の不経済」への対応
成長を求めて多様化に応じると、「不経済性」のジレンマに
陥る。「規模の不経済」を克服する戦略転換が必要
(様々な)
コスト
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規模(量の拡大、地域・顧客の増加)
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1.製造業が直面している課題:製造業のパラダイムチェンジ
「分散・多様化」による「規模の不経済」を克服するため、ドイ
ツは国策として仲間作りを仕組化する動きを始動
先進国中心の
モノづくり
の時代
日本の
製造業各社
独米の
先進企業
独米の
産業政策
現地適合・
ダウングレード
の時代
多様化対応・
仲間作り
の時代
第4次産業革命
への胎動
新興国・中産層
の消費拡大
消費国・消費者
の多様化
製造業の
先進国回帰
仲間作りの仕組み化が加速
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1.製造業が直面している課題
2.ドイツが仕掛ける第4次産業革命
3.ドイツ企業の戦略設計思想
4.日本の製造業への提言
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2.ドイツが仕掛ける第4次産業革命:独米における次世代製造業への変革
ドイツは国策としてIndustrie 4.0を立上げ、仲間作りの仕組み化
を推進。米国も追う。急がなければ日本は取り残される
独米における第4次産業革命への胎動
 ドイツはITによる開放的かつ柔軟な産業基盤を構築し、
製造業の競争力を強化する「Platform Industrie 4.0」
を2013年4月に設立、始動。
⇒2017年までに一定の結論
 初期検討の助成金だけで2億€ (約250億円)投入
 米国はドイツを徹底ベンチマーク。その結果、ドイツと
類似のデジタルプラットフォーム構築を担う組織 DMDII
設立に向け、補助金申請受付を2013年7月開始
⇒5年以内に一定の結論
 設立準備だけに7,000万$(約70億円)投入予定
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注) DMDII: Digital Manufacturing and Design Innovation Institute
出所) DoD(アメリカ国防総省)、Industrie 4.0の公開Web、インタビューなどよりNRI作成
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2.ドイツが仕掛ける第4次産業革命:ドイツにおける次世代製造業への変革
ドイツは、2020年に向けて次世代製造業として、
第4次革命(Industrie 4.0)を進めようとしている
【CPSの要素技術】
CPS
・センサー
・人工知能
・データフォーマット
・通信セキュリティ
CPSを利用した
開発・生産革命
Industrie 4.0
電子・IT
電子制御・IT制御
された生産設備の導入
※ CPS: Cyber Physical System
センサー、人工知能、データフォーマット、
通信セキュリティなどのITを用いて、実世界
とITが緊密に結合された仕組み
Industrie 3.0 複
雑
性
電力
電力で稼働する
生産設備の導入
Industrie 2.0
蒸気機関
蒸気機関を動力とした
生産設備の導入
Industrie 1.0
18世紀
20世紀
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1970年代
現在
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2.ドイツが仕掛ける第4次産業革命:
Industrie4.0の戦略目標は2つ (Dual-Strategy)
市場創造
 中小企業を含めた産業ネットワー
クを構築
 独産業界で圧倒的な生産性向
上を早期に実現
守
グローバル展開
 急拡大する新興国展開に際し、
先端の製造技術をサービスモデル
として展開
 欧・中・印で標準化
攻
出所:Final report of the Industrie4.0 Working Group にNRI加筆
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2.ドイツが仕掛ける第4次産業革命:独Industrie4.0の目指す未来
Industrie4.0はCPSを活用し、ユビキタス環境を狙う
開発
ニーズ探索・マーケティング
現
在
•分散化する市場のニーズ
を把握しきれない
Industrie 4.0
50億人市場を
リアルタイムで理解する
生産
•自分たちだけで考える
•多様なニーズに対応しき
れない
50億人で開発できる
•製品ごとのライン
•柔軟性に欠ける
どこでも何でも生産できる
他社
自社
他社
•ネットに繋がった製品から
情報を収集
→センサー
→BigData分析
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•ITを使って開発資源を最大
活用
→共通のデータフォーマット
→技術の流通市場(IT活用)
•フレキシブルなライン
•自動で判断し最適化
→センサー
→AI
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2.ドイツが仕掛ける第4次産業革命:独Industrie4.0の目指す未来
ドイツの自動車関連企業が着手している実験
RFIDを活用し、自動車の全VCのリアルタイム管
理、最適化のための標準プロセス、ガイドライン
を作成中
全VCが同じプロトコルでつながる世界を目指す
Y社
Z社のターゲットは、ボタンひとつで工場を全て
コントロールできること。そのためのシミュレー
ション開発に力を入れている
Z社
X社
W社
X社
コンシューマ
X社
FA機器
Z社はW社のツールを2027年まで
に全世界に導入
「製品ライフサイクル管理と生産
オートメーションをシームレスに統
合していくことで、生産性を限界を
超えて高めることができ、25%以
上リードタイム削減を実現できる」
カスタマイズ品(一品物)の低コスト生産
の開発を狙う(規模の経済へのアンチテーゼ)
X社
ソフトウエア
生産・製造プロセスの自動化をサービスポータルから簡
易に実現できるプラットフォームの研究開発
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1.製造業が直面している課題
2.ドイツが仕掛ける第4次産業革命
3.ドイツ企業の戦略設計思想
4.日本の製造業への提言
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3.ドイツ企業の戦略設計思想:事業の構造化における違い
世界中の資源を「動員」するため、分けて、任せて、動かす。
現地のリソースに踊ってもらう場作りを実現すべき
事業の構造化における日・独比較
日本企業
独の先進企業
「適合」
の見直し
投
入
工
数
地域
A
商品
開発
地域
A’
商品
開発
「集約」
地域A向け の見直し
プラットフォーム
地域 地域 地域 地域 地域
A
B
C
D
E
商品 商品 商品 商品 商品
開発 開発 開発 開発 開発
「動員」の実行
組織マネジメント
増える適用開発を現地
適合
に分けて、任せる
機能移管を迅速に
遂行できる組織ルール 動員
知識インフラ
現地を動かすが、
門外不出は死守
全地域共通
プラットフォーム(P/F)
決めたら不変の土台
を分けて本社開発
開発モデル数
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自前
集約
他力
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3.ドイツ企業の戦略設計思想:知識・組織マネジメント
先進開発の手を緩めず、適合開発を拡大再生産するために、
分けて、任せて、動かす、仲間作りと仕組み作りを先行
 組織マネジメント:「集約」の精鋭組織 ⇒「適合」の仲間作り
 知識インフラ:「集約」で生まれる知識の共有・再生産と防衛の仕組み
知識インフラ
 新しいイノベーション再生産のための技術管理
 新興国「適合」に必要な現地開発ツールの提供
先進ユーザへの適合
適合
(第1号の先進開発)
P/F
集約
「集約」を担う
社内の精鋭組織
後続ユーザ 適合
への適合
動員
移管
「動員」を担う
現地の受皿組織
組織マネジメント
 精鋭によるプラットフォーム開発
 開発移管の仲間作りの仕組み
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3.ドイツ企業の戦略設計思想:戦略設計思想の日・独米の比較
日本企業とドイツ先進企業とでは、戦略の設計思想に決定
的な違いがある
独米先進企業の戦略
事  世界中の、どの市場・顧客に
業
も適合可能な世界共通のプ
構
ラットフォーム(変えない)
造
 市場全体の俯瞰、したたか
な継続展開を想定
市
場
戦  現地移管を加速させる
略
組織マネジメント
 現地の資源を味方に引込む
経
ための組織設計
営
資
源
 秘匿/共有を使い分けできる
知識インフラ
日本企業の戦略
思想の差
標準化は、知っていた
 商品開発のたびに変わる
プラットフォーム(変わる)
頑固さ
ローカライズは、やっていた
 日本流が通じる所だけの
局所市場、個別展開
貪欲さ
 日本流のコピーで現地化
現地人採用は、考えていた
 差別化だけを追求し、孤立
 技術・ナレッジの流出を恐
れ、共有を回避
仲間
作り
今までの思い込みとは異なる戦略の設計思想が必要
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3.ドイツ企業の戦略設計思想:ドイツの戦略設計思想
グローバル戦略において厳然とした違い
3つの設計思想(Architecture)
頑
固
さ
貪
欲
さ
① 「集約 Aggregation」の設計思想
 事業構造をプラットフォームとアプリケーションと
に徹底的に弁別するとともに、技術やナレッジの
漏洩防止の仕組みを予め構想すること
② 「適合 Adaptation」の設計思想
 市場や顧客を徹底的に広範・多様に捉え、事業
の持続性を重視して、市場への適応をしたたかに
追求する活動を予め構想すること
仲 ③ 「動員 Activation」の設計思想
間
作
り
 国・地域・市場の多様化を前提に、自社資源の
限界を認識したうえで、現地資源の投入や現地
人材の戦力化を予め構想すること
(1)弁別
(Distinction)
(2)変える/変えず、自力/他力
(Platform / Application)
(3)形式知化ルール
(“Co-opetition”)
(1)全世界
(Global Scope)
(2)あらゆる顧客/等級
(Any customer, any grade)
(3)持続性
(Business Sustainability)
(1)自前資源の逼迫
(Capability)
(2)現地資源の巻込み
(Mobilization)
(3)現地人材の戦力化
(“Learn-strument”)
注) Co-opetitionはCo-operation+competition、LearnstrumentはLearning+instrumentの造語
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1.製造業が直面している課題
2.ドイツが仕掛ける第4次産業革命
3.ドイツ企業の戦略設計思想
4.日本の製造業への提言
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4.日本の製造業への提言
「匠の技」に頼るオペレーションだけでは、グローバル化に太
刀打ちできなくなっているのではないか
 日本の競争優位性と 匠の技≒現場の各種調整能力
 「匠の技」に頼るオペレーションだけでは、グローバル化(規模と地域の拡
大)に勝てないのではないか
 規模の不経済の壁を乗り越えるためには、設計思想の観点から
抜本的に事業の組立て(構想)を見直すべきではないか
 得意 = 先進ユーザとの最難関の適合開発、そのプラットフォーム作り
 不得意 = 頑固さ + しなやかさの具備、貪欲な市場全体観、仲間作り
 知識・組織のマネジメントを確立しなければ、自らの知的資産を
活かした仲間作りは困難
 技だけではなく、システムとしてバージョンアップを検討する
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4.日本の製造業への提言:我が国製造業の課題
米国は日本企業のオペレーションの優位性を解析
情報技術の活用によりスケーラブルな管理の仕組みを構築
 1984年、米国科学/工学アカデミーからの働きかけにより、日本学術振興会の中
に第149委員会(「先端技術と国際環境」)が設置され、産学のハイレベルの日
米対話が開催された
 米国側の狙いは、日本企業のオペレーション領域での競争優位性を理解することに
あり、15年にわたる対話を通して、その現場調整力の仕組みをモデル化し、IT活用
によりスケーラブルな仕組みにまで高めた
『米国側は多くを学んだが、日本側は自己変革するのに失敗したので
はないか。』
米国側議長 ハロルド・ブラウン博士による総括(2000年)
・日本が追求した自動化の技術は、米国企業がIT技術をうまく利用した
ことにより、問題解決に重要ではなくなった。
・米国企業は、「かんばんシステム」などの日本の慣行を採用し、それにIT
技術を付加したのである。
・この意味において、米国は学び、日本は自己変革に失敗したのである。
出所:児玉文雄 編 『技術潮流の変化を読む』(2008年) をもとにNRI作成
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4.日本の製造業への提言:我が国製造業の課題
優れた技・習慣を体系化・定式化しなければ勝てない
属人知・日本人限定に閉じ籠っていては勝てない
□他産業では、日本の自動車産業の生産技術革新から多くを学
び、これを形式知・組織知化したケース
 APICS
米国生産在庫管理協会(American Production and Inventory Control Society)
(KANBAN、KAIZEN、7S、JIT、TPS)
 欧米の流通業と製造業
(TPSの形式知化:CPFRとIBP)
 米国工学アカデミーの活動
□さらにITでレバレッジをかけたケース(ZARA)も出現
 ZARAにおけるノックダウンを応用した高速事業展開
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4.日本の製造業への提言:我が国製造業の課題
まとめ:次世代製造業の潮流=仲間作りの設計思想
差別化・独自化 ⇒ ルール作り・仲間作り、へ
 “脱”テクノヘゲモニーの顕在化
 グローカリゼーション ⇒ 新興国リバース・イノベーション
 技術エントロピーと新たな競争戦略
 “差別化・孤立化”から脱却を模索するグローバル製造業
 技術”覇権”主義 ⇒ 技術”王道”主義
 個社単独の独自性 ⇒ 相互発展の仕組化による次の世界像
 “定式化“と”仲間作り”による協働システムの構築
 技術(知財)エントロピーの法則を受け入れる
 新たな競争パラダイムにおける哲学・思想を見極める
 差を以って追随を許さず ⇒ 差を以って真髄を押さえ、共栄する
▪ 「使わせる」技術を見習う :ドイツのグローバル開発と現地適合開発の設計思想
▪ 最も価値ある情報の宝庫を見直す :日本の複雑なエンジニアリングの蓄積
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