バナジウムのサプライチェーン - 金属資源情報

レポート
バナジウムのサプライチェーン
―安定供給上の課題―
サブリーダー
はじめに
金属企画部鉱種戦略チームは、資源の安定供給確
保に向け、各鉱種の需給見通し及びサプライチェーン
(鉱山、選鉱、製錬、加工から素材・部材などの中間
製品、最終製品、さらにはリサイクル)を把握し、安
定供給上の課題を抽出するとともに中長期的視点か
ら、資源探査、金融支援、技術開発等の業務を総合
的・効果的に実施し、企業支援に繋げていくことを目
的として活動を実施している。
鉄鋼・ステンレスグループでは、平成26年度にバナ
ジウムを調査対象として需給をはじめとする統計デー
タや公表資料を中心に情報を収集・整理した。また、
関連企業へのヒアリングやその製造現場の訪問を通じ、
原料調達や製品の流通の実態を把握することに努め、
世界のバナジウム・サプライチェーン、国内のバナジ
ウム・マテリアルフローを作成し、検討を行った。
本報告では、サプライチェーンから浮かび上がっ
た安定供給上の課題を整理するとともに、今後の安定
供給に向けた支援策を考えていきたい。
1.バナジウムの用途
バナジウムは、その硬度、高い融点、優れた耐食
性から主に鉄鋼への添加材として使用され、鉄鋼の強
度、靭性、耐熱性、耐食性などの向上に寄与する材料
である。この他、合金用途や、ケミカル製品として触
媒、顔料等に使用される。
材料としてのバナジウムは、製品用途に合わせて
フェロバナジウム、合金(金属バナジウム)
、バナジ
ウム化合物の形態で用いられる。
1.1 フェロバナジウム
鉄鋼添加用としてはフェロバナジウムが使用され
る。鉄鋼にバナジウムを少量添加すると、炭素と結合
して結晶粒がより微細な構造となるため、靭性を損な
わず強度を上げることが可能となる。
バナジウム消費量の約90% が鉄鋼への添加材であ
り、高張力鋼(自動車用鋼板、橋梁、ビル鉄筋など)、
構造用鋼(タービン、加熱器、蒸気パイプなど)、工
具鋼(切削工具など)、その他鋼材用途に使用される。
この際、バナジウム単体で添加されることは少な
く、クロム、モリブデンなど他の元素と組み合わせて
使用される。例えば、クロムバナジウム鋼は、硬度や
耐摩耗性に優れており、高温衝撃に対する強度が求め
られる高速度工具鋼として利用される。
【参考1】鉄鋼に含まれる元素と特性
鉄鉱石から製錬された鉄(銑鉄)は、炭素を2~3%
程度含んでおり、炭素が多いほど硬くなる反面、靭性
(粘り)がなく脆いため、産業材料としては適さない。
そこで、硬さと強度に優れた特性を持たせるために炭
素量を減らすと同時に他の元素を添加し、鉄鋼として
製錬する。鉄鋼には炭素以外にも珪素、マンガン、リ
ン、硫黄が含まれており、鉄鋼の主要5元素と称され
る。
鉄鋼の主要5元素以外に様々なレアメタルを加えた
ものが特殊鋼であり、添加する元素とその熱処理方法
によって鋼の性質(硬さや粘り)を変化させることが
できる。主にニッケル、クロム、バナジウム、モリブ
デンなどが添加され、様々な機能を鋼に付与すること
が可能になる。
【参考2】フェロバナジウムの製造方法(テルミット法)
五酸化バナジウムからフェロバナジウムを製造す
る方法としてテルミット法(金属アルミニウムで金属
酸化物を還元する冶金法の総称)が用いられる。五酸
化バナジウム、アルミニウム金属粒及び鉄源物の混合
物に着火すると、アルミニウムは五酸化バナジウムを
還元しながら高温を発生する。2分~3分程度で還元
反応を終え、鉄と結びついたバナジウムが炉内下部に
沈降し、フェロバナジウムが生成される。
2015.11 金属資源レポート
1
(392)
バナジウムのサプライチェーン―安定供給上の課題―
山本 広規
山本万里奈
阿部 和彦
千葉 樹
金属企画部 鉱種戦略チーム
鉄鋼・ステンレスグループ
レポート
バナジウムのサプライチェーン―安定供給上の課題―
1.2 バナジウム合金
1.3 バナジウム化合物
バナジウムを合金の形で添加するものとしては、
チタン合金が代表的である。例えば、アルミニウム
6%、バナジウム4% を含有するチタン合金(Ti-6Al4V)は、軽量で疲労強度、破壊靭性、加工性などの
特性をバランスよく備えた合金であり、航空機ジェッ
トエンジンのファンブレードやファンディスクなどに
使用される。
バナジウム合金は、航空機以外にも原子力産業、
宇宙産業などの分野において重要である。また、民生
用としては、デンタルインプラント、ゴルフクラブの
ヘッドなどの用途もある。
バナジウム化合物として高純度五酸化バナジウム、
メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ソー
ダ、メタバナジン酸カリウム等が製造される。これら
は、主に製油所で重油から LPG、ガソリン、軽油等へ
の精製プロセスで脱硫触媒として利用される。また、
これらの化合物は触媒以外にも電子材料、顔料、試薬
等に使用されている。
2.バナジウムの供給
2.1 バナジウムの埋蔵量、生産量
世界のバナジウム埋蔵量を図1に、世界の鉱石生産
量を図2に示す。
600t
1%
1,800千t
12%
3,500千t
23%
5,100千t
33%
21,000t
27%
41,000t
53%
15,000t
19%
5,000千t
32%
世界計 約15,000千t
世界計 約78,000t
図1 バナジウム埋蔵量(2014年)
( 単位:純分千 t)
図2 バナジウム鉱石生産量(2014年)
( 単位:純分 t)
図1のとおり2014年の世界の埋蔵量は約15,000千 t
(純分)であり、中国、ロシア、南アフリカ、豪州の
4ヵ国がほぼ全量を占める。また、図2のとおり世界
の鉱石生産量は約78,000t(純分)であり、中国、ロシ
ア、南アフリカが99% を占める。
バナジウムの埋蔵量は、現在の鉱石生産量の192年
分に相当し、バナジウム資源の枯渇は考えにくいが、
その生産は上記3ヵ国による寡占状態にあり、安定供
給上の不安要素となっている。
こ う し た 状 況 に お い て、2014年8月 に Largo Resources 社(カ ナ ダ)が ブ ラ ジ ル・Bahia 州 の
Maracas 鉱山で操業を開始し、新たにブラジルが供給
国として加わった。Maracas 鉱山から産出したバナジ
ウム鉱石は、Glencore 社(スイス)が6年間のオフテ
イク権を有しており、日本へも供給されている模様。
なお、最近の金属価格の下落により Glencore 社の
経営状況を不安視する報道もあり、同社の今後の動向
には注意が必要である。
また、バナジウムは微量ながら原油にも含まれて
おり、石油精製時の使用済み脱硫触媒や重油燃焼灰を
焙焼処理することによりバナジウムが回収されてい
る。(世界のバナジウム供給の1割程度を占めると推
定される。)
(出典:USGS Mineral Commodity Summaries 2015)
2
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2015.11 金属資源レポート
(出典:USGS Mineral Commodity Summaries 2015)
2.2 バナジウムの原料
●鉄鋼スラグ、鉱石からのバナジウム生産
生産国
主な生産者
南アフリカ
Glencore、Evraz Highveld Steel and Vanadium
ロシア
Evraz
中国
攀鋼集団有限公司(Pangang)
、承徳鋼鉄集団有限公司(Chengde)
ブラジル
Largo Resources
含バナジウム・チタン磁鉄鉱を原料として製造さ
れた鉄鋼スラグには6%~24% 程度のバナジウムが含
まれており、主に中国、ロシア、南アフリカから供給
される。
前述のとおり、新規供給源としてはブラジル Bahia
州の Maracas 鉱山(カナダ Largo Resources 社)が
2014年8月に生産を開始しており、2015年から本格的
に 市 場 に 流 通 し、 生 産 量 が 増 加 し て い る。Largo
Resources 社は、2016年に32百万 US$ の拡張投資によ
り生産能力を50% 増強(現在の生産能力は、五酸化バ
ナジウム11,400t/ 年)することも見据えている。この
拡張が実現した場合、南アフリカ Evraz Highveld
Steel and Vanadium 社(2014年五酸化バナジウム生
産量約21,772t)に迫る供給能力を持つこととなる。
なお、米国 Stratcor 社(Evraz 子会社)は鉄鋼スラ
グからの五酸化バナジウム回収設備を新たに導入し、
2014年1月から稼働を開始している。
●廃触媒等からのバナジウム回収
国・地域
主な生産者
米国
Gulf Chemical( 仏 Eramet 社系列)
欧州
Treibacher Industrie AG(オーストリア)
日本
太陽鉱工(株)、新興化学工業(株)
、
(株)メタルテクノロジー(JFE マテリアル(株)子会社)
この他に台湾、ロシア、中国、韓国、タイ等
バナジウムは工業上重要な金属であるものの、産
出国が限定的であることから、リサイクルも重視され
ており、石油精製時の脱硫触媒、硫酸製造触媒、ダイ
オキシン分解触媒や重油燃焼灰など廃触媒や重油から
の回収が行われている。国内では太陽鉱工(株)、新
興化学工業(株)及び(株)メタルテクノロジー(JFE
マテリアル(株)子会社)が廃触媒からのバナジウム
回収を行っている。
廃触媒を原料とする五酸化バナジウムの製造工程
はおおよそ以下の流れとなる。
「原料混合→焙焼→リーチング→塩析(メタバナジ
ン酸アンモニウム)→焙焼(五酸化バナジウム)」
なお、焙焼前廃触媒の輸送は発火の危険性があり、
海上輸送が困難であることから焙焼後の廃触媒が流通
している。日本のバナジウム生産者も海外の焙焼品を
一部輸入しているが、触媒用途の高純度バナジウムを
製造するためには品質の問題から国内の廃触媒のみが
使用可能である。
2015.11 金属資源レポート
3
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バナジウムのサプライチェーン―安定供給上の課題―
原料(鉄鋼スラグ、鉱石、廃触媒等)別に主要なバ
ナジウム生産国、生産者等を整理すると以下のとおり
である。
レポート
バナジウムの原料としては、主に鉄鋼スラグ(鉄鋼
製造工程において鉄鉱石から鉄を採取し終わった副産
物)、鉱石(含バナジウム・チタン磁鉄鉱)
、廃触媒等
がある。
このうち、鉄鋼スラグからの供給が6割~7割を占
めるが、品質の問題から触媒用途などの高純度バナジ
ウムを製造することは難しく、フェロバナジウム原料
としての用途に限定される。
一方、高品位のバナジウム鉱石は、フェロバナジ
ウムのほか触媒用途の高純度バナジウムの原料として
使用することが可能である。
廃触媒を原料とする場合、高純度バナジウムを製
造するには高度な焙焼技術を必要とするため、その多
くはフェロバナジウム原料となる。ただし、国内では
廃触媒を原料として触媒用途の高純度バナジウムを製
造する技術を有し、原料の循環(リサイクル)を確立
している企業がある。
3.バナジウムの需要
レポート
3.1 世界のバナジウムの需要
バナジウムの世界需要(国・地域別内訳推移)を
図3に、世界の粗鋼生産量推移を図4に示す。
図3のとおり世界のバナジウム需要は、金融危機の
影響による需要減少が起きた2009年以降は増加を続
けている。バナジウムの需要は、鉄鋼への添加が約9
割を占めるという性質上、鉄鋼生産量とある程度連動
する傾向にある。
バナジウムのサプライチェーン―安定供給上の課題―
図3 バナジウムの世界需要 国・地域別内訳推移(V 2 O 5 換算)
(出典:工業レアメタル2010-2015を基に JOGMEC 作成)
図4 世界の粗鋼生産量推移(単位:マテリアル千 t)
(出典:日本鉄鋼連盟 HP worldsteel 銑鉄 ・ 粗鋼生産速報を基に JOGMEC 作成)
2007年時点では、西ヨーロッパ、米国、中国のバ
ナジウム需要はほぼ横並びであったが、近年、中国の
需要が増加し、2014年には中国が世界需要の3割以上
を占め、第1位の消費国となっている。
中国の動向としては、2012年以降、中国政府によ
り建築材の使用基準が強化されたことに伴い、第二級
棒鋼からより高級な第三・第四級棒鋼への生産シフト
4
(395)
2015.11 金属資源レポート
によってバナジウム需要が伸びることが予想された。
しかしながら、使用基準強化に伴う建築材へのバナジ
ウム使用量の大きな増加は見られていない。中国の需
要増加は、世界需要全体に影響をもたらす可能性が示
唆されるものの、中国の経済成長の減速や不動産投資
の減退等により、鈍化していくとの見方もある。
3.2 国内のバナジウムの需要
レポート
フェロバナジウムの国内需要推移を図5に、2014年
のバナジウム国内用途別需要を図6に示す。
輸出
(素材)
7.4%
フェロバナ
ジウム
90.5%
図5 フェロバナジウムの国内需要推移(単位:マテリアル t)
(出典:合金鉄年鑑2013-2015)
国内のバナジウム需要は、世界需要と同様に2009
年以降増加しており、鉄鋼添加向けのフェロバナジウ
ムが全体の約9割を占める。ここ数年ではフェロバナ
ジウムの国内生産量が増加しており、国内生産品と輸
入品との割合はおおよそ半々となっている。
国内のフェロバナジウム生産者は太陽鉱工(株)及
び(株)メタルテクノロジーの2社であり、また、新
日本電工(株)などがフェロバナジウムの輸入を行っ
ている。これらは主に鉄鋼メーカーで鉄鋼製品の原料
として消費される。
図6の2014年 国 内 用 途 別 需 要 に お け る「輸 出(素
材)7.4%」は、フェロバナジウム、五酸化バナジウム
の輸出を示しているが、2013年以降増加している。
図7 国内の粗鋼生産量推移(単位:マテリアル t)
(出典:日本鉄鋼連盟 HP 鉄鋼生産速報を基に JOGMEC 作成)
図6 2014年のバナジウム国内用途別需要
(出典:経済産業省 鉄鋼・非鉄金属統計、化学工業統計 /
原材料統計、財務省貿易統計)
これは米国、ブラジルへのフェロバナジウム輸出の増
加であり、国内生産のフェロバナジウムが海外市場で
シェアを伸ばしている。
国内の粗鋼生産量推移を図7に、国内の特殊鋼生産
量推移を図8に示す。
図7のとおり2012年~2014年の国内の粗鋼生産量
は、若干の増加もしくは横ばいで推移しているが、図
8の国内の特殊鋼生産量の推移を見ると、24百万 t か
ら25百万 t 強に増加している。国内の特殊鋼生産が順
調であることから、前掲の図5のとおりフェロバナジ
ウムの国内需要量は2012年の7,000t から2014年では
8,000t 強に増加している。
図8 国内の特殊鋼生産量推移(単位:マテリアル t)
(出典:日本鉄鋼連盟 HP 鉄鋼生産速報を基に JOGMEC 作成)
2015.11 金属資源レポート
5
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バナジウムのサプライチェーン―安定供給上の課題―
触媒
2.1%
4.バナジウムの価格
レポート
バナジウムのサプライチェーン―安定供給上の課題―
バナジウムに関する国際的な価格決定機構は存在
しない。 フェロバナジウムの取引では、一般的に
Metal Bulletin 誌のフェロバナジウム(バナジウム純
分70%~80%)の価格が指標として用いられる。
過去の価格推移としては、2005年と2008年に需給
の逼迫による価格高騰の時期があった。
2000年代初めのフェロバナジウム価格は10US$/kg
を下回る低水準にあり、2003年に10US$/kg 台、2004
年上期まで20US$/kg 台で推移した。この時期、パイ
プラインプロジェクトの進展など中国を中心とした世
界 的 な 需 要 が 増 加 す る 一 方 で、2003年 に 豪 州
Windimurra 工場が市況低迷により閉鎖、2004年には
南アフリカ Vantech 工場もバナジウム資源量の低下に
より生産中止となり、供給不足状態となった。こうし
た要因により2005年には国際価格が5倍以上に高騰
し、一時120US$/kg を超える史上最高の価格水準に
達した。
その後、2006年には30US$/kg 台まで値を下げてい
たが、2008年に南アフリカの電力不足によるフェロ
バナジウムの減産、中国四川省大地震の発生による供
給不安から再び価格が高騰し、一時90US$/kg 台と
なった。
2010年以降の価格は20US$~30US$/kg 台で推移し
てきたが、最近では14US$~15US$/kg まで下落し、
2015年4月には南アフリカ Evraz Highveld Steel and
Vanadium 社が Business Rescue(会社更生法に近い
内容)を申請するなど影響が懸念されている。
5.世界のバナジウムのサプライチェーン
5.1 バナジウム・サプライチェーン概要
世界のバナジウム・サプライチェーン概要を図9に
示す。
概観すると、主要生産3カ国の南アフリカ、中国、
ロシアを中心にそれぞれの貿易圏が形成されていると
言える。
(1)南アフリカ / 欧州 / 北米
南アフリカからの五酸化バナジウム、フェロバナ
ジウム輸出の殆どが欧州・北米向けである。
日 本 向 け と し て は、 新 日 本 電 工(株)が South
African Japan Vanadium(SAJV)社からフェロバナ
ジウムを輸入している。SAJV 社は2002年に日本電工
(株)
( 現、 新 日 本 電 工(株)
)
、 三 井 物 産(株)、
6
(397)
2015.11 金属資源レポート
Highveld Steel and Vanadium 社(現 Evraz Highveld
Steel and Vanadium)が出資して設立された。
Evraz Highveld Steel and Vanadium 社が操業する
Mapochs 鉱山の鉱石から生産されたバナジウム・ス
ラグを原料として Vanchem 社(スイス Duferco 社系
列)のプラントで五酸化バナジウム、三酸化バナジウ
ム、化学用バナジウムが製造される。この五酸化バナ
ジウムが SAJV 社に供給され、フェロバナジウムが製
造されている。
(2)中国 / 日本・台湾・韓国
中国は、自国消費をメインにバナジウムを生産す
るが、日本を含むアジアや欧州向けの輸出も多い。日
本と韓国に対してはフェロバナジウムに加えて五酸化
バナジウムも輸出している。
中国のバナジウム製品生産企業は、攀鋼集団有限
公司:Pangang(四川省)
、承徳鋼鉄集団有限公司:
Chengde(河 北 省)が 生 産 の 大 部 分 を 占 め る。
Pangang と Chengde の2社は2007年に共同販売会社
「北京攀承バナジウム業貿易有限公司(Beijing PanCheng Vanadium Trading Co., Ltd.)」を設立し、バナ
ジウム製品の販売を統括している。
(3)ロシア / チェコ
ロシアからの五酸化バナジウムは大半がチェコへ
輸出される。チェコでロシア系企業(Nikom 社)が
フェロバナジウムを製造し、主に北米に輸出するほ
か、一部日本にも輸出されている。
ロシアでは、Evraz 社がバナジウム製品を生産する
代表的な企業であり、世界のバナジウム製品市場でも
重要なプレーヤーである。同社は、2006~2007 年に
バナジウム製品生産企業である南アフリカ Highveld
Steel and Vanadium 社と米国 Stratcor 社の2 社を買収
したことにより、バナジウムの加工設備と製造技術を
有する。
このように世界のサプライチェーンを俯瞰すると、
南アフリカ(欧州・北米)
、中国(アジア圏)
、ロシア
(ロシア・東欧圏)の各貿易圏内での取引は盛んであ
るが、圏外との取引は必ずしも多くない。
世界のサプライチェーンを見ると、日本ではアジ
ア圏からの調達が多いが、新規のブラジル・Maracas
鉱山など、アジア圏外からの原料調達を増やすことに
より供給の安定化に繋がるものと考えられる。
レポート
バナジウムのサプライチェーン―安定供給上の課題―
図9 世界のバナジウム・サプライチェーン概要
2015.11 金属資源レポート
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5.2 フェロバナジウムの生産
レポート
フェロバナジウムの主な生産国、生産者等を整理
すると以下のとおりである。
●フェロバナジウム
国・地域
主な生産者
バナジウムのサプライチェーン―安定供給上の課題―
南アフリカ
South African Japan Vanadium(SAJV)
米国
International Specialty Alloys, Inc.、Bear Metallugical Company 等
欧州
Treibacher Industrie AG(オーストリア)
、Nikom(チェコ)
、GfE(ドイツ) 等
日本
太陽鉱工(株)、(株)メタルテクノロジー
台湾
Hong Jing
韓国
Korvan、Woojin
この他に中国には多数の生産者が存在する。
5.3 日本のサプライチェーンについて
日本は、中国、韓国からフェロバナジウム、五酸
化バナジウムを輸入しているほか、台湾、タイから廃
触媒起源の五酸化バナジウム、南アフリカからフェロ
バナジウムを輸入している。
日本企業のバナジウム原料調達状況等を以下に整
理する。
(1)五 酸化バナジウム(フェロバナジウムメーカー2
社)
a.中国からの原料調達が多い。
(調達先の多角化で供
給リスクの低減。
)
b.廃 触媒の原料は日本国内、韓国等から調達してい
る。
c.国
内の廃触媒から高純度五酸化バナジウム等を製
造する技術を有する。ただし、原料調達量に限り
があり、生産量も限定的である。
d.南 アフリカやロシアからの五酸化バナジウムの輸
入はほとんどない。
ェロ バ ナ ジ ウ ム(鉄 鋼 メーカー・ 特 殊 鋼 メー
(2)フ
カー等複数社)
a.国 内 生 産 品 の ほ か、 南 ア フ リ カ 産(SAJV、
Glencore)
、中国産、韓国産を使用している。
b.五 酸化バナジウムと比較して多様な供給元から調
達しているが、少数の企業や中国に供給を握られ
ている。
8
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2015.11 金属資源レポート
6.バナジウムのマテリアルフローと安定供
給上の課題への対応
バナジウムの(日本)マテリアルフローを図10に示
す。
世界のバナジウム・サプライチェーン及び日本の
バナジウム・マテリアルフローから、安定供給上の課
題を整理すると、
*原料が中国、南アフリカ、ロシアの3ヵ国に偏在し
ており、生産国、生産企業も寡占化されている。
*供 給面では、ブラジルの Maracas 鉱山が2014年に
鉱石生産を開始したことから、3ヵ国以外の新たな
供給源が出現した。しかし、価格低下により南アフ
リカの Evraz Highveld Steel and Vanadium 社が
Business Rescue を申請するなど供給面の不安も懸
念される。
*需要面では、中国の建築基準強化に伴う需要が大き
く増加する可能性、新興国需要の増加やレドックス
フロー電池などの新規用途開発の動向に注意が必要
と考えられる。
日本のバナジウム原料の供給は、南アフリカでの
SAJV 社からフェロバナジウムの調達、国内の石油廃
触媒等からの回収など、他のレアメタルに比較すると
安定していると考えられる。
しかしながら、生産国が限定されるバナジウム原
料の更なる安定的な確保を考えるならば、本邦企業が
南アフリカ等資源国において信頼できる現地企業と
JV(ジョイントベンチャー)を組んで鉱山権益を取得
して事業展開を図るなどがリスク回避の有効な手段の
一つと考えられる。
レポート
バナジウムのサプライチェーン―安定供給上の課題―
図10 バナジウムの(日本)マテリアルフロー
また、廃触媒等からバナジウムを回収し、触媒用
途に利用するには高度な製造技術を必要とするが、国
内バナジウムメーカーがこうした技術を保有し、向上
させることは、生産コストの低減と安定的な原料供給
が図られるだけでなく、製品そのものの高付加価値化
や低環境負荷をもたらすことになると考えられる。
現状では海外から輸入する焙焼済み廃触媒は品質
の問題から、高純度バナジウムを製造することはでき
ない。今後、海外の廃触媒を活用することが可能にな
れば、供給源の多角化が進むことになる。
バナジウムの世界の需給動向、本邦企業の供給確
保状況等を踏まえ、JOGMEC の持つ地質構造調査、
出融資・債務保証などのファイナンス支援、企業ニー
ズに応じた技術開発などの機能を幅広く活用して本邦
企業の活動を支援していきたいと考えている。
最後に、鉱種戦略チーム鉄鋼・ステンレスグルー
プの活動において、貴重な情報をご提供いただいた各
関係企業・業界団体の皆様に、厚く御礼を申し上げ
る。
(2015.10.29)
【参考文献】
1.太陽鉱工株式会社ホームページ
2.新日本電工株式会社ホームページ
3.株式会社メタルテクノロジーホームページ
4.新興化学工業株式会社ホームページ
5.一般社団法人日本鉄鋼連盟ホームページ
6.工業レアメタル(アルム出版社)
7.2015年合金鉄年鑑(テックスレポート)
8.ロ シア CIS の鉄鋼産業(日本貿易振興機構海外調
査部欧州ロシア CIS 課)
9.新 日鉄住金技報第396号(2013)
「 航空機用チタン
の適用状況と今後の課題」
10.財務省貿易統計
11.金属資源レポート2011.9 「バナジウム資源の供
給ポテンシャルについて」
( 独立行政法人石油天
然ガス・金属鉱物資源機構 中山健)
12.鉱物資源マテリアルフロー2014(独立行政法人石
油天然ガス・金属鉱物資源機構)
13.メタルマイニング・データブック2013(独立行政
法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)
2015.11 金属資源レポート
9
(400)