認知症の人とのコミュニケーション コミュニケーション

コミュニケーション
認知症の人とのコミュニケーション
桜美林大学大学院老年学研究科
J. F. Oberlin University Graduate
School of Gerontology
長田久雄
コミュニケーションは
カウンセリングの中心であり、
コミュニケーション・スキルズは
カウンセリング・スキルズと同義である。
カウンセリング辞典
人間関係における基本的視点
ジョハリの窓
自分
気づいている
• 相手を理解すること:心・身・社会・歴史、診断
的理解・共感的理解
• 自分自身を理解すること
他
人
気づいていない
気づいている
開放領域
盲点領域
気づいていない
隠蔽領域
未知領域
• 関係性を理解すること
・相手を理解する
・自分自身を知る
・相手から見た自分という視点
・鳥瞰的に二者間の関係を眺める
人間関係(カウンセリング)の
基礎となる姿勢
傾聴
受容
聞く
共感
同情
拒否
まきこまれる
ラポール
説得より納得
1
Communicationとは何か?
ラポール:
信頼感があって
心が通い合っている状態
• コミュニケーションの定義は多様
• 定義の例
• コミュニケーションは、他者の行動や他者の行動の余波に対
して、何らかの反応を示したときに常に起こるもの(Porter &
Samovar,1997)
• コミュニケーションは、シンボルを介した人間のインタラクショ
ンの中で、意味が創られ、反映される動的で系統的プロセス
(Wood,1994)
• 人々の間で、知識、アイデア、考え、概念や感情をやりとりす
ること(Matumoto,2000)
森田、2015
コミュニケーションの分類
• 何らかの目的をもったコミュニケーション(道具
的コミュニケーション)と喜びや怒りなどの表出
に重点があるコミュニケーション(表出的コミュ
ニケーション)に区別されることもある。
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• 送り手の目的に基づいて、情報の伝達、説得、
自己表現、娯楽、援助、交渉、要請、攻撃、欺
瞞などに分類されるといわれる。
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個人レベル:個人内コミ:ュニケーションと、個人間コミュニケーショ
ンに分かれる。個人内コミュニケーションとは、個人の知覚や思考
のことを指し、個人間コミュニケーションは1対1のコミュニケーショ
ンつまり対人コミュニケーションのことである。
集団レベル:集団内と集団間コミュニケーションに分類される。ある
友人グループ内で起こるコミュニケーションは、集団内コミュニケー
ションであるが、複数のグループがグループ同士でコミュニケーショ
ンを図る場合には、集団間コミュニケーションとなる。
組織レベル:組織内と組織間コミュニケーションに分けられる。例え
ば、ある企業の中でのコミュニケーションは組織内コミュニケーショ
ンであるが、企業間のコミュニケーションは組織間コミュニケーショ
ンとなる。
国家レベル:国家内と国家間コミュニケーションに分類される。日本
国内のコミュニケーションは国家内コミュニケーションとなるが、日
本と中国などの国同士のレベルでのコミュニケーションは国家間コ
ミュニケーションである。国家間コミュニケーションは多くの場合、国
際コミュニケーションと呼ばれている。
文化レベル:文化内コミュニケーションと文化間コミュニケーションに
分かれる。若者と高齢者という「年齢」という文化グループを例に取
ると、若者の間のコミュニケーションは文化内コミュニケーション、若
者と高齢者は文化間コミュニケーションとなる。文化間コミュニケー
ションは、一般に異文化間コミュニケーションと呼ばれている。
一方向か双方向か: 一方向とは、演説や講演など、基本
的に一人の人が長い時間話すような形を指し、双方向と
は、話す人と聞く人とが頻繁に入れ替わるような場合を意
味する。
対面的か媒介的か:対面的とは直接コミュニケーションを
行うもの同士が対面する場合を指す。例えば、授業を受け
る際に、講師から直接教室で話しを聞くのは対面的コミュ
ニケーションである。一方、媒介的とはメディアを使うコミュ
ニケーションを指す。例えば電話や郵便、ラジオやテレビ
などを用いたコミュニケーションは媒介的である。
公的か私的か:公的コミュニケーションは、制度的に認め
られているもの、つまりコミュニケーションしている人たちが
役割を担いつつ行うコミュニケーションである。例えば、医
師と患者、上司と部下等である。私的コミュニケーションは
、役割から外れて人々がコミュニケーションを図る場合で
ある。例えば、上司と部下がその役割から外れて友人同
士としてコミュニケーションする場合である。
ことばの鎖
(話し言葉によるコミュニケーションの図式)
植田、2015
speech chain (P.B.Dens 12
& E.N.Pinson, 1963
;切替,藤村,1966より)
2
言語学的レベル(大脳)の障害
ことばの鎖
言語学的
段階
生理学的
段階
音響学的
段階
生理学的
段階
言語学的
段階
行われる処理
①話し手は,考えをまとめて伝えたいメッセージを決め,そ
れに対する単語を選び,文法規則にしたがって文を組み
立てる
②発話運動のプログラミング
③運動神経を介して喉頭,舌,軟口蓋,口唇などの発声発
語器官に運動の指令が伝わり,音声が発せられる
④空気が振動し,疎密波(音声波)が生じて空気中を伝播
していく
⑤聞き手の耳に到達した音声波は,外耳,中耳を経て内
耳で神経信号に変換され,感覚神経を通じて処理される
⑥大脳の言語野に到達し,言語形式の意味が読解され,
メッセージが理解される
大脳
部位
言葉を理解する・思い出す
•言語発達遅滞
言語発達遅滞
ことばの遅れ
中枢および末
梢の神経系~
発声発語筋
言葉が思い出せない,
言われたことが理解できない
耳~中枢神経
•注意力,記憶力の低下
注意力,記憶力の低下
•失語症
失語症
•脳外傷
脳外傷
大脳
植田、2015
speech chain (P.B.Dens & E.N.Pinson, 1963
14
;切替,藤村,1966より)
植田、2015
生理学的レベル(神経・筋肉)の問題
生理学的レベルの問題
話 す
聞く
構音障害
音声障害
うまく話せない,
声がかすれる
聴覚障害
聞こえない
speech chain (P.B.Dens & E.N.Pinson, 1963
15
知
情
speech chain (P.B.Dens & E.N.Pinson, 1963
16
;切替,藤村,1966より)
植田、2015
言語的コミュニケーション
言語的
コミュニケーション
知
意
;切替,藤村,1966より)
植田、2015
情
• 言葉を媒介したコミュニケーションを、言語的コ
ミュニケーションという。
意
• 話しかけ、それを相手が聞き、答える、というコ
ミュニケーションは、通常、話すこと、聞くことと
いう構音や感覚器官を通して行われるが、
• 筆談のような場合には、書くこと、読むことという
機能が用いられる 。
3
悲しい
悲しい
悲しい
×
悲しい
非言語的コミュニケーション
非言語的コミュニケーション
• 音声言語や文字言語そのもの以外のコミュニケー
ションの側面を非言語的コミュニケーションという。
• 音声言語では、声の高さや調子、強さなどだけでな
く、言葉を発したときの表情や顔色、姿勢なども非
言語的情報となり、相手の気持ちや意図を汲み取る
手掛かりとなる。
• また時には、容姿や服装なども相手を理解する手
掛かりになるであろう。
• 文字言語では、書いた文字の大きさや形、筆圧の
強さなども非言語的情報になり得る。
さまざまなコミュニケーション手段
非言語的手段
表情
しぐさ
身振り
など
言語的手段
音声
文字
コミュニケーション手段
植田、2015
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音声言語
音声を伴う言語を用いたコミュニケーション、私達が普段話して
いる話し言葉を指す。
言語非音声
音声を伴わない言語を用いたコミュニケーションのことである。
代表例としては書き言葉が挙げられる。このほかにも手話など
もこの分類に入る。
非言語音声
音声を伴うが、言語ではないコミュニケーション、例えば声の高
さや抑揚などを指す。準言語やパラ言語と呼ばれることもある。
私たちの普段の会話のほとんどは話し言葉であるが、声の高さ
や抑揚によって意味が変化することがある。つまり、言語音声コ
ミュニケーションは多くの場合、非言語音声の側面を伴っている
と言える。
非言語非音声
音声を伴わない非言語コミュニケーションのことをいう。身振り
や手振りなどのいわゆるジェスチャーといわれるものがこれに
あたる。この他にも、握手や、相手との距離、衣服や装飾品など
も非言語被音声コミュニケーションに分類される。
one way communication
と
two way communication
×
4
看護師:おはようございます。
患者:おはよう。
看護師:きょうは良い天気ですね。
患者:明け方から腰が痛くて。
看護師:これから朝の検温です。
患者:昨晩、急に冷え込んだのがいけなか
ったのかな。
• 看護師:それでは、体温計を脇に挟んでく
ださいね。
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コミュニケーションの要点
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正しく情報を伝える
相手にわかる言葉で伝える→相手の知識や理解のレベルを
適切にとらえ合わせる、専門用語や略語、隠語に注意
自分が理解したことを伝える
非言語コミュニケーションを伝える
音声や発音を明瞭にする
声の大きさに注意する
相手と自分の距離をモニターする
相手の聞こえや身体の状態に注意する
相手の意図を掴んでおく
傾聴・受容・共感
説得より納得
自分のコミュニケーションの癖に注意→「ちがう」、「そうじゃ
なくて」・・・
• 関わりへの偏見:高齢者がいつも話したがっ
ており、話を聞いたら止まらないほどである、
という印象を持っていること
• 関わりの困難さ:認知症患者への声かけ、難
聴者との会話、失語症のコミュニケーションな
ど、対象の抱えるコミュニケーション障害に対
して、どのように対応しようかと不安に思って
いる状況
看護師:おはようございます。
患者:おはよう。
看護師:きょうは良い天気ですね。
患者:明け方から腰が痛くて。
看護師:えっ、それはいけませんね。
患者:昨晩、急に冷え込んだのがいけなかったの
かな。
• 看護師:これから朝の検温ですが我慢できますか
。
• 患者:ありがとう。大丈夫だよ。
• 看護師:それでは、体温計を脇に挟んでください。
検温が済んだら、すぐにA先生に診察して貰いま
しょう。
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高齢患者との対話
若い看護師における問題
• 関わりへの戸惑い:年齢差による歴史的な話
題などの会話適合度の問題、大声を出す必
要から会話を省略する傾向、認知機能の低
下の影響
• 関わりへの懸念:高齢者が若者をどう思って
いるか気にしながら、対話の際の声のトーン
や大きさを相手に合わせようと気遣い、対話
中の高齢者の視力や疲労感が気掛かりであ
ると感じること
難聴高齢者への対応
• 補聴器:調整が不可欠
• 筆談の支援機器
• 言語的コミュニケーション方略:相手に話を繰
り返してもらうように依頼をする、自分自身が
難聴であることを相手にい説明する
• 非言語的コミュニケ-ション方略:相手の表
情に注目する、良く聞こえる場所に移動する
• Cf.分かった振りをする、会話を避ける
5
• 手話や指文字:高齢になってからの学習は困
難な可能性が高い
• 言語的配慮:文章は短く、単語は平易に、分
からない時には言い換える、書く
• 準言語的配慮:声のトーンや口調、はっきり
話す、ゆっくり話す、叫ばない、自然な声の大
きさで Cf.リクルートメント現象による丁度良
い大きさの範囲の狭さ
コミュニケーションと認知機能
• 非言語的配慮:近づき、話す前に注意を引き、突
然話しかけない、話す前にトピックスを伝える、相
手の方を見て話す(相手に顔を向ける)、離れす
ぎず、近づき過ぎず適度な距離をとる、静かな場
所で明かりが話者の顔を照らす位置に来るよう
に、ジェスチャーを使う、口元を隠さない
• マナーの配慮:口の中が一杯の時に話をしない、
会話の輪から外さない、直接話をする、話を理解
しているかどうか確認する、相手が応えるために
十分な時間を取る
認知症の進行と
コミュニケーション手段
注意
記憶
推論
知識
言語
言語的手段
音声
文字
判断
コミュニケーション手段
重症度が増すと言語的手段から非言語的手段中心に
どのような手段が使えるか?
どうやって意思を確認するか?
植田、2015
植田、2015
認知症の人のコミュニケーション障害の要因
(心身機能・身体構造)
認知症の人のコミュニケーション障害
の要因(活動・参加)
認知症特有の問題
認知症特有の
(中核症状;認知機能障害など)
注意の障害・・・ぼんやり
見当識障害・・・何をすればいいの?ここはどこ?
記憶障害・・・そんなこと言われてない!
判断・思考の障害・・・勘違い,理解困難
失語症・・・言語機能の問題
構音障害・・・発音の問題
認知症の人を
とりまく環境
認知症特有
の問題
(BPSD)
高齢者一般の問題
本 人
混乱
不安
抑うつ
視力低下
聴力低下
反応速度の低下 など
機能改善のための直接的な働きかけは限定的
非言語的手段
表情
しぐさ
身振り
など
認知機能障害
認知機能障害
家 族
BPSD
サポート体制
使用できる社会資源
植田、2015
活動や社会参加を促進するような働きかけが必要(本人・環境)
植田、2015
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