超高齢社会における歯科の役割

略歴
1966 年
1967 年
1985~1988 年
1991~1994 年
2000~2006 年
2000~2003 年
2006~2015 年
1980 年~現在
2013 年~現在
日本大学歯学部卒業
歯科大久保医院開設
静岡市歯科医師会 会長
日本歯科医師会 公衆衛生委員会委員
静岡県歯科医師会 会長
日本歯科医師会 理事
日本歯科医師会 会長
静岡県立北養護学校医
日本大学 客員教授
大久保 満男 先生
超高齢社会における歯科の役割
元日本歯科医師会 会長/歯科大久保医院
大久保 満男
近年の疾病構造の変化は,医療のパラダイムが新たな次元にシフトしたといわれて久しい。この最大の要
因は,いうまでもなく,急性の感染性疾患から非感染性疾患へと,主たる疾患が移行しているからだ。
さらにこのパラダイムチェンジが引き起こした極めて重要な変化は,医療提供の在り方,とりわけ医師と
患者との関係を大きく変えたことにある。
かつての急性感染性疾患,つまり伝染病が猛威を振るう時代において,医師は患者に対し,権威ある父親
のごとく振る舞った。いや振る舞わざるを得なかった。いわゆるパターナリズムとしての医療といわれてい
るものである。この時の患者像を科学史の泰斗である村上陽一郎教授は「ベッドに横たわってひたすら医師
の助けを求める存在」と表現している。
しかし非感染性疾患,たとえば糖尿病の患者は,疾患を抱えながら日々の生活を送っている。そうであれば,
治療の在り方は,その患者の生活のスタイルに合わせて行わなければならないし,そのことは,当然のこと
ながら,医師と患者との関係に大きな変化をもたらす。医師はもはや権威ある父親のように,患者に対して「す
べてを自分にまかせておきなさい」という存在ではありえなくなる。
この時の両者の関係は,疾病に互いに向き合い,共同して治療にあたることになる。
こう書くと,我々歯科医は,何をいまさら,それは当然だろうと思う。そう気づくと,実は,歯科医療に
おいて歯科医師は,その治療に対し,ずっと患者と協同型の治療をしてきたのだと改めて思う。まず私は,
そのことを確認したい。
さらにもう一点重要なことは,このようなパラダイムチェンジは,社会の年齢構造の変化,つまり我が国
の急速な高齢社会の到来と密接に繋がっているということである。
ここから,与えられた本題に入るのだが,まず,我が国の高齢化の進行が,世界各国特に高所得国に比し
ても異常ともいえる速度で進行している状況を確認したい。
さらに,その異常な速度がもたらす事態とは何かを確認したいと思う。
それを一言でいえば,健康寿命と平均寿命の落差であり,そこから,我々歯科医や歯科医療の果たさねば
ならない責務が見えてくるのだと,私は考えている。
つまり,われわれは,歯科医療や歯科保健の成果により,いかに健康寿命を延ばし,平均寿命に近づける
かを真剣に議論し,その方法論を見つけ出さねばならないのだ。
この議論は,当然のことながら,高齢者の生き方をどう支えるのかと必然的に結びつくこととなる。
「生きるということは食べ続けることだ」これは哲学者・鷲田清一先生の言葉だが,我々歯科医の責務は,
生きている限り最後まで口から食べられる人生を支えることであろう。
そこで,最後にわれわれが問われるのは,「食」とは何か,というある種の哲学を持つことだと思う。その
ことを最後に提示したいと考えている。
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