会 議 報 告 - 東北大学電気通信研究所

人 工 知 能 30 巻 3 号(2015 年 5 月)
402
会議報告
ACM SIGGRAPH Asia 2014
1.は じ め に
SIGGRAPH は,米国に拠点を置く ACM(Association
for Computing Machinery) の 一 つ の SIG(Special
Interest Group)で,コンピュータグラフィックスとイ
ンタラクティブ技術に関する研究推進や教育・普及など
の諸活動を行っている.そして,この分野で世界最大の
国際会議として SIGGRAPH を 40 年以上前より主催し,
毎年夏に北米で 2 万~ 3 万人の参加者を集めて開催して
図 1 Emerging Technologies でのデモの様子
きた.そのアジア版である SIGGRAPH Asia は 2008 年
に開始され,SIGGRAPH よりもやや小規模ではあるも
術に関するデモンストレーション展示で,例年,厳正な
のの,表 1 のように毎年数千人が参加する規模の国際会
査読を経て採択が決まる査読付きデモ発表である.今年
議として,この分野の発展に寄与してきた.第 7 回とな
も 40 件の投稿から 14 件が採択され,期間中毎日終日デ
る SIGGRAPH Asia 2014 は,中国・深圳で 2014 年 12
モと説明を行っていた(図 1)
.例年同様,日本からの
月 3 日~ 6 日に開催された.参加者は,例年に比べる
発表が特に多く,存在感を感じさせた.
とさすがに中国からの参加がやや多いように感じられた
Symposium on Mobile Graphics and Interactive
が,いつものように欧米からの参加も多く見られた.日
Applications:2013 年から開始された SIGGRAPH Asia
本からも 300 人を超す参加があった.
独自の新しいプログラムで,口頭発表やライブデモ,
パ ネ ル, チ ュ ー ト リ ア ル な ど か ら 構 成 さ れ て お り,
SIGGRAPH Asia の中で開催される一つの小さな国際会
2.SIGGRAPH Asia 2014
SIGGRAPH 同様,SIGGRAPH Asia でも非常に多岐
にわたるプログラムが組まれ,いずれもこの分野で最大
議のように運営されていた.部屋から人が溢れるような
盛況ぶりであった.
の規模と学術的権威を誇ってきた.2014 年に開催され
これらのほかにも,コンピュータグラフィックス技術
たプログラムの主なものを,技術系と芸術系のプログラ
に関するチュートリアルを行う Course が 20 件 , 萌芽
ム,そして一般のプログラムに分けて報告する.
的研究成果を比較的手軽にポスターや口頭発表形式で発
(1)
技術系プログラム
表できる Poster や Technical Briefs などのプログラムも
Technical Papers: コンピュータグラフィックスとイ
ンタラクティブ技術の最新技術に関する論文とその著
あり,いずれも多くの参加者で賑わっていた(図 2)
.
(2)
芸術系プログラム
者による口頭発表で,SIGGRAPH の権威を形成してき
SIGGRAPH および SIGGRAPH Asia では,芸術系
た最も重要なプログラムといえる.今回も,352 件の投
のプログラムとして,例年,Art Gallery と Computer
稿から厳正な査読を経て 63 件と ACM Transactions on
Animation Festival が開催されてきた.このうち Art
Graphics(TOG)の 6 件が採択され(採択率 19.6%)
,
Gallery は,コンピュータグラフィックスやインタラク
発表された.
ティブ技術を用いた芸術作品が展示されるプログラム
Emerging Technologies:最新のインタラクティブ技
で,招待作品とかなり厳しい審査を経て採択される作品
とがあり,多面的な SIGGRAPH Asia をアートの側面か
表 1 SIGGRAPH Asia の歴史
年
開催都市
参加者数
出展企業数
1
2008 年
シンガポール
3 389 人
81 社
2
2009 年
横浜
6 424 人
71 社
3
2010 年
ソウル
9 238 人
102 社
4
2011 年
香港
7 734 人
122 社
5
2012 年
シンガポール
4 438 人
130 社
6
2013 年
香港
6 078 人
96 社
7
2014 年
深圳
5 968 人
45 社
神戸
6 000 人
(予定)
100 社
(予定)
8
2015 年
図 2 Poster 発表の様子
人 工 知 能 30 巻 3 号(2015 年 5 月)
ら見せる唯一のプログラムであるが,残念ながら今回は
実施されなかった.
403
Exhibition: コンピュータグラフィックスをはじめと
する関連分野の企業や団体,大学や専門学校などが 45
Computer Animation Festival: コンピュータアニメー
件の展示を行っていた(図 4)
.これは例年に比べると
ション技術や視覚効果を駆使したエンタテインメントか
やや小規模であった感は否めなかった.しかし,展示企
ら科学シミュレーションまで広範な映像作品が上映され
業からの紹介を行う Exhibitors Talk のセッションでは,
るプログラムで,公募で集め厳しい審査を経て選ばれる
立ち見が出ているものもあったようである(図 5)
.
作品の中でも特に優秀な作品は,Electronic Theater で
Student Volunteers: 世界中から集まる約 200 人の学
上映される.さまざまなジャンルの作品をじっくり鑑賞
生が大会運営をサポートしていた(図 6)
.動機や抱負
できる Animation Theater の上映もあり,SIGGRAPH
などを英語で書いて応募し,審査によって選ばれた大学・
Asia に参加するほとんどの人が必ず出席する最も華や
大学院・専門学校などの学生が運営に携わり,さまざま
かなプログラムとなっていた.
な事を学び,世界各国から参加する同世代で研究や作品
(3)
一般プログラム・その他
制作に取り組む友人をつくり,第一線で活躍する研究者
Keynote: 毎年,コンピュータグラフィックスやイン
やクリエイターと接点をもつ大変貴重な機会となってい
タラクティブ技術に関わる研究者,ゲームやエンタテイ
たようである.仕事は交代制で,空き時間には興味のあ
ンメントのクリエーションに関わる人,医療や建築,デ
るセッションの聴講やイベントに参加していた.
ザインなどさまざまな分野で活用して成果をあげられた
人の中から著名な方々が招聘されているが,今回は 2 件
の Keynote があった(図 3)
.Digital Domain Founder
の Scott Ross は,米国 Hollywood での豊富な経験から,
3.お わ り に
2015 年 の SIGGRAPH Asia は,11 月 2 ~ 5 日 に
神 戸 で 開 催 さ れ る.6 年 ぶ り の 日 本 開 催 で, 筆 者 が
Can Asia become Hollywood? と題して,アジアにおけ
Conference Chair を務めさせていただくことになって
る映像メディア産業の発展について語った.同じく米
いる.Education や Visualization in High Performance
国 Columbia University 教授の Steven Feiner は,自ら
Computing の Symposium を新設するなど,今のところ,
が長く研究を続けてきた Augmented Reality(AR)や
SIGGRAPH Asia 史上最大のプログラム数となる予定で
モバイルデバイスのユーザインタフェースの知見をも
準備を進めている.扱う技術は人工知能の分野とも親和
とに,From See-Through to Be-Through: AR and the
性が高いと思われる.アジアに留まらず世界の関連分野
Future of User Interfaces という題で講演した.その他,
の発展につながる情報発信を,日本からできるような会
コンピュータグラフィックスやインタラクティブの技
議にしたいと思っている.
術的または芸術的ブレークスルーについて焦点を当てた
Featured Session が 5 件組まれていた.
SIGGRAPH Asia 2015: http://sa2015.siggraph.org
〔北村 喜文(東北大学電気通信研究所)
〕
図 5 Exhibitors Talk の様子
図 3 Opening Ceremony と Keynote の際の会場の様子
図 4 Exhibition 会場の様子
図 6 Student Volunteers の皆さん