No.144 − Siggraph2015 その 2 − 松野 美茂 今年の Siggraph は最多開催都市のロサ Siggraph は学会でありアカデミックな場 はりエンターテインメントを重視した布陣 ンゼルスであった。 であると考えれば少々似つかわしくない感 であった。 Siggraph の規模の衰退は今に始まった じもしたのである。もちろん随分前から学 基本的には Siggraph はコースと呼ばれる 事ではないが、当の Siggraph 事務局側も 会のわりには商業主義的であり明るくオー 授業形式に近い各専門分野の講義といわゆ 黙って事態の推移を見守っている訳ではな プンな気質の学会イベントであったからこ るペーパーセッションと呼ばれている論文 く、様々な方策を導入し始めている。 そ魅力的であった事も否めない。 発表が中心で構成されていた。その意味で 昨年のバンクーバー開催においては失業 映像やテクノロジーアート、映画などと は極めてアカデミックである。研究論文の 者向けの格安パスを出す等、様々なアプロ どうしてもエンターテインメントから離れ 提出と授業で有るのだから当然と言えるだ ーチを行っているが今年はプラチナと言わ ない産業がコンピューター・グラフィック ろう、しかしその中で研究論文の成果が映 れる VIP パスを発行していた。 スを使いこなして来ただけに商業主義の香 画などのエンターテインメントに活用され 内容は長蛇の列になるイベントにおける りはどうしようもないのかも知れないが。 るようになり研究成果が直接映像となって 優先入場口を設けて列に並ばずにスムー 個人的には財布が許すのであれば次回は購 行ったのである(時間を省略して表現して ズに会場入りできると言うものであった。 入してみたいチケットである事は間違いな いるので若干の跳躍が有ります) 。 Siggraph では人気のある会場はスタート い。このプラチナチケットは通常のチケッ 研究成果としてエンターテインメントを の 1 時間前ぐらいから列になり始める事が トより 150 ドル割高で販売数には制限が 見ると言う姿になって来ると、更に映画に 多々あり、確かに便利なサービスだとは思 ある事を御注意頂きたい。むろん来年も販 おけるメイキング的な要素が増えて行き通 った、まるでディズニーランドやユニバー 売されるかは不明である。 常の Siggraph のフォーマットに当てはま サルスタジオの様である。 ともかくディズニーランドなどの好調な らなくなって行くのである。 優先入場口以外ではランチタイムは必ず テーマパークのサービスを学会イベントに その結果、登場したフォーマットがスケ ごった返すカフェテリアエリアにも専用ス 導入して顧客サービスを向上させようとす ッチ(現在は無い)と言われるものであっ ペースが設けられており席が無くてうろう るなど Siggraph 独特の文化であろう。 たり、スペシャルセッションからトークス ろする場面では羨ましく感じた事実も有る。 そんなエンターテインメントな学会であ やプロダクションセッションとなり映像制 確かに便利なのではあるが基本的に る Siggraph の今年の傾向は、こちらもや 作プロダクションの中で行われているテク 用語解説 「Siggraph2015 エキジビション」 (シーグラフ・機材展示) 今年の Siggraph のエキジビションは例年よりは人出が多かっ 子を見ているのではないかと感じたのである。 たのではないだろうか、エキジビション会場と VR ビレッジそし 実際、360 度 VR 用のカメラなどは展示されているのでベーシ てエマージングテクノロジー、スタジオ、アートギャラリーの会 ックなインフラ関係は活発なのでが、コンテンツとしての流通形 場が直結していたので非常に見て回り易かった事も人手の増加の 態などが整備されないと企業は色々と踏み出せないのであろう。 一因だろう。Siggraph の事務局は今年は非常に気を使った采配が また、展示会場で目を引いたのはロサンゼルスでのエキジビシ 光っている。 ョンでは名物だった VFX プロダクションのブースが見当たらなか エキジビション会場その物は昨年とはあまり変わらない様に思 った事であろう。 うが、昨年よりは勢いは感じられた。 毎年華やかさを添えていた VFX プロダクションは全てシンプル 個人的には 360 度 VR 映像関係と HMD 関係が大量に展示され な形で JobFair のコ−ナーへ移動していた、もちろん外国企業が ると踏んでいたのであるが、それらの展示は今までよりも少ない 中心でハリウッドのプロダクションはなかなか見当たらない。 のではと感じたくらいで少々拍子抜けしたと言うのが実情である。 VFX 技術者は既にロサンゼルスでは供給過多なのでわざわざ出 これはおそらく様々なフォーマットやデバイスが乱立している 展して人材を探す必要が無いのかも知れないが風景としてはさび 状態なので、どのフォーマットでビジネスが立ち上がるのかの様 しい限りであった。 32 FDI・2015・10 ノロジーの発表に繋がって現在の形を成し のである。 ドリームワークスが VR に対応したプロジ ているのである。 論文等の傾向は大きくは変わらないが、 ェクト開始をアナウンスしていたりと VR この様にコンピューターグラフィクスの やはり VR 技術が意識され始めている様で 映像周りで動き出す映画関連企業が多いの 学会にも関わらず、映画 VFX の制作ノウ ある。盛んになって行くゲームエンジンを である。勿論ルーカスフィルムも VR 系技 ハウや VFX プロダクションの運営方法に 中心としたリアルタイムレンダリング技術 術開発を LIMxLAB と言うプロジェクトで 至るまでの、およそコンピューターとは関 は相変わらず盛んであるが VR 技術との親 スカイウォーカーサウンド社と ILM 社を巻 係のない経済学的な要素までを網羅してい 和性の良さから両者を同時に扱う発表が増 き込んで開始しているのである。 る形となっている。 えていた様に思う。 ま た、Siggraph の 展 示 の 中 で も「VR 実際にコンピューターグラフィクスの研 リアルタイムグラフッィクスはわが世の Village」と言う特設展示が行われており、 究者でなくとも、ここ 20 年は誰でも楽し 春が来た感じだろうか、アメリカのゲーム ドームスクリーンを設置した会場の一部で めるイベントの要素があり家族連れで来場 業界が活況な中でゲームエンジン系の技術 は 1 日中、全天周コンテンツが上映されて している関係者も良く見かけるのである。 の注目度は益々上がっておりゲーム基盤技 いた。 では今年の Siggraph の内容はと言うと、 術に人材が流れている様である。 それでは Siggraph の見ものの一つであ より一般の方々が楽しめる構成になってい また、同様に VR 技術関係もヘッドマウン るエレクトロニック・シアターの上映はど たのである。 トディスプレイ(HMD)系のデバイスが実 うだったのかと言うと、此方もまたゲーム 各講演内容は興味のある要素に綺麗に分 用機として揃い始めている事から勢いを増し 業界の好調さを示す結果になっていた。 割され、コンピューターグラフィクス要素 ている。特に簡便に HMD コンテンツとして 残念ながら、日本のゲーム業界はそれほど の少ないものを選べばエンターテインメン 提供できる 360° VR と呼ばれる全天周映 の勢いは感じられなかったがアメリカ、ヨ ト傾向が強くなると言う風に良く練られて 像は注目を浴びる点を飛び越して、実用的に ーロッパのゲーム業界は活発であった。ゲ 作られていた様に思う。その意味では稀に 販売が始まろうとしているのである。 ームエンジンを発表している会社が元気が みるバランスの良さと言っても良いだろう。 既 に 開 始 さ れ て い る Google に よ る 良いのは当たり前かもしれないが、それ以 しかし、ここでもアメリカ国内における 360 度 VR 専用のコンテンツ販売サイトの 外のゲーム会社もオリジナルピースをリア VFX 産業の低迷が影を落としており、これ GoogleSpotlightStories では Android だ ルタイムレンダリング以外でも作成してシ 程考えられた構成内容でも人出は少ない様 けではなく iOS 上でもアプリとして展開さ アターにかかるレベルに持って行くなどプ に感じたのである。 れており現在無料サービスを実施中である。 リレンダーでも実力を誇示していたのであ どちらかと言えばアメリカ国内よりは国 価格は 1 ドル位から 5 ドルぐらいと言う値 る。 外の来場者が多かった様である、成長著し 付けで 360 度 VR ショートピース映像と この様に 360 度 VR 映像前夜、ゲーム いインドはもちろん、中国、そして伸び盛 してはなるほどと言うコンテンツ価格だと 業界の隆盛が今回の Siggraph の個人的総 りの東南アジア諸国。 思う。 評と行って良いだろう。来年には量産され そして何よりもアメリカの仕事の多くを この様に VR 映像コンテンツは HMD に た HMD がオキュラス社とソニーから発 肩代わりしているヨーロッパ勢、オセアニ 限らず様々な展開が可能でスマートホンで 売される。来年の Siggraph はは果たして ア勢であろう、かれらは一見して区別は出 もカジュアルに楽しむ事が出来る点が今後 360 度 VR 映像と HMD コンテンツが爆発 来ないのでアメリカがまだまだ元気にも見 の展開の広さを感じさせ興味深い。 しているのであろうか、非常に興味深い。 えるのであるが内情は国外の先進国に流出 またハリウッドにおける VFX 系の映像 しているのである。またアメリカ在住であ エンターテインメントに従事していた人々 360 度 VR の浸透と可能性、VR Village った人たちも多くがヨーロッパ、オセアニ が随分、この 360 度 VR の業種に吸い込 ゲーム業界の隆盛企業ブースがリクルート ア地域のアメリカ国外企業に移動している まれている様で彼らにとっての新たな新天 でゲーム系の映像が多いシアター VR ビレ 様である。 地となっている様である。 ッジが出来ていた。 主にコンピューターグラフィックスを使 これは Facebook 社が大金をかけてハリ 用した VFX の主戦場はヨーロッパ企業が ウッドの VFX 技術者を集めて 360 度 VR 進出しているバンクーバーであり、国外な 専門の映像プロダクションを設立したり、 Yoshishige Matsuno VFX スーパーバイザー 33 FDI・2015・10
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