益子焼技術映像マニュアルの作成

栃木県産業技術センター 研究報告 No.12(2015)
経常研究
益子焼技術映像マニュアルの作成
興野 雄亮*
山ノ井 翼*
Development of MASHIKOYAKI Technical Manual with Videos
Yusuke KYOUNO and Tsubasa YAMANOI
益子焼のロクロ成形技術・施釉技術等は修得に特に時間のかかる伝統技術のひとつであり,同時に陶芸の
魅力をアピールできる技術でもある。しかしながら,益子焼特有のロクロ技術・施釉技術等は口伝に頼るの
が現状であり,他産地交流も盛んになったため本来の姿が失われる恐れがある。
そこで,技術継承/保存/普及に資するため,パソコンのほかタブレット端末,スマートフォンでも再生
できる映像マニュアルを開発した。同時に開発のための知見も得た。
Key words: 陶芸,伝統工芸,伝統技術,マニュアル
1
はじめに
業・平成 26 年度伝習生養成課程で指導に用いている説
益子焼のロクロ成形技術・施釉技術等は修得に特に時
明図を基に Microsoft Word 2010 を用いて作図した。
間のかかる伝統技術のひとつであり,同時に陶芸の魅力
文章情報は窯業技術支援センターの人材育成事業・平
をアピールできる技術でもある。しかしながら,益子焼
成 26 年度伝習生養成課程で説明に用いている文言を編
特有のロクロ技術・施釉技術等は口伝に頼るのが現状で
集し作文した。
あり,他産地交流も盛んになったため本来の姿が失われ
2.3
る恐れがある。
マニュアルの再生
映像マニュアルの再生は,ウェブブラウザを介するこ
そこで,益子焼技術映像マニュアルを開発し技術継
とによりパソコンのほかタブレット端末,スマートフォ
承・保存・普及に資するとともに,開発のための知見を
ンでも再生できる(図1)よう各種仕様を設定した。
得た。
2
2.1
研究の方法
撮影する工程と対象
撮影する工程は工芸品検査基準
1)
や益子焼技術に関す
2)
る書籍 を参考に,主に窯業技術支援センターの人材育
成事業・平成 26 年度伝習生養成課程の中から抽出した。
撮影する工程は土揉み技術,ロクロ成形技術,泥掛
け・施釉技術を対象とし,各工程に応じて適切な情報と
図1
なるよう動画形式,静止画(イラスト)形式,文章形式
タブレット端末・スマートフォンでの
映像マニュアルの再生
の3種に分類した。
2.2
情報の編集・作成
具体的には HTML 文書に再生できるタブレット端末等
映像の撮影は紬織物技術支援センターの事例
3)-6)
を参
考に,一般的なコンパクトカメラ3台(Sony DSC-W550,
で再生できる形式の動画情報,静止画(イラスト)情報,
文章情報を埋め込んだ。
Sony DSC-W610,Sony DSC-W730)及び三脚を用いて行っ
た。
文書は CSS3 に準じた形式で記述した。動画情報は H.264
動画情報および静止画情報は Adobe Premier Elements
10 を用いて撮影した映像から切り出して作成した。
栃木県産業技術センター
形式による mpeg4 ファイルとして,静止画(イラスト)
情報は主に jpeg ファイルとして作成した。文章情報は
イ ラ ス ト 情 報は 窯 業 技 術 支援 セ ン タ ーの人材育成事
*
なお,HTML 文書は HTML 4.01 transitional に,CSS
HTML ファイルに直接記述した。
窯業技術支援センター
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栃木県産業技術センター 研究報告 No.12(2015)
3
3.1
結果及び考察
ただし,ロクロ成形は成形品が異なる場合も類似の作
土揉み技術
業が多いため,各工程を切り分けたものは原則として小
土揉みについては,連続した3つの工程からなってい
る(図2)。これを踏まえ,揉みはじめ・揉みおわり・
皿成形の例のみとした。
3.3
一連の作業の3種類を動画情報として編集し,その補助
に静止画情報,イラスト情報,文章情報をまとめた。
泥掛け・施釉技術
泥掛け・施釉については,単一の工程からなっている。
これを踏まえ,一連の作業を単一の動画情報として編集
し,その補助に文章情報をまとめた。
揉みはじめ
4
100 回程度
揉み
おわりに
本研究により,技術継承・保存・普及に資する「益子
焼技術映像マニュアル」が完成した。窯業技術支援セン
繰り返す
ターの人材育成事業で用いる教材として活用する予定
である。
揉みおわり
また,本研究で作成した HTML ファイルは他の映像マ
(まとめる)
図2
ニュアル作成へ応用することができるので,今後活用方
法を探りたい。
揉みの工程
なお,本研究で得られた映像情報等は益子焼業界のニ
3.2
ロクロ成形技術
ーズを把握しつつ更なる活用方法を探っていきたい。
ロ ク ロ 成 形 技術 に つ い て は連 続 し た 複数の工程から
なっている(図3)。また,製品の形状に応じて工程が
謝
辞
変化する。これを踏まえ,各工程を切り分けたもの・一
映像の撮影にあたって,協力いただいた窯業技術支
連の作業の数種類を動画情報として編集し,その補助に
援センター伝習生・研究生の皆様に,感謝の意を表し
静止画情報,イラスト情報,文章情報をまとめた。
ます。
参考文献
土据え
土取り
ナデ皮
1) "伝統的工芸品「益子焼」検査基準 " (1979)
2) 塚田泰三: "益子の窯と佐久間藤太郎 ",東峰書房
荒のばし
土殺し
切り取り
(1965)
3) 嶋田和正,金子優,永田順子: "栃木県産業技術セ
ンター研究報告 ",1,126-128(2004)
コテの使用
4)嶋田和正,金子優,永田順子: "栃木県産業技術セ
ンター研究報告 ",7,130-132(2010)
大きさ確認
5)嶋田和正,金子優,永田順子: "栃木県産業技術セ
ンター研究報告 ",8,111-113(2011)
図3
小皿ロクロ成形の工程
6)嶋田和正,金子優,永田順子: "栃木県産業技術セ
ンター研究報告 ",9,134-136(2012)
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