ヘリコプターによる鯨類分布調査の試み

ヘリコプターによる鯨類分布調査の試み
佐野修・山本邦彦・岡本武・坂井恵一(金沢水族館)・森田貞夫・横山朱門(~閣新聞社)・
小笠原晃(す巧.
f
J
.
+航空) ・山田致知(日本梅セト研)
日本海からはこれまでに2
2種もの鯨類が知られて
l
機,一回の飛行時間を2
時間とする。③ヘリコプタ
9
9
1)ものの,この記録のほとんどは
いる(山田, 1
ーの沖合い4
0マイル以遠および小松空港近辺への飛行禁
漂着によるものであり,今後,海上での生息調査が
止。などを考慮して,図 1に示した石川県の富来町
必要となってこよう。そこで,予備的な鯨類の分布
から福井県三国町にかけての沖合い海域をその対象
調査として,石川県から福井県にかけての沖合いで
とした。そして,この海域を A,Bの二つに分け,
ヘリコプターによる観察調査を試み,カマイルカ
Aでは一辺が4
0マイルの正三角形を描く航路, Bでは一
L
a
(
l
e
n
o
r
1
>
μ
1
1
c
h
u
so
b
ii
q
u
i
d
e
n
sの群れをいくつか観察
辺のみ小松空港を迂回するやはり三角形の調査航路
したので報告する。
機がそれぞ
をそれぞれ設定した。この航路にそって 2
,0
0
0
7ィート,時速8
0
ノットのスピー卜やで
れの航路を,高度1
観察しながら一周,鯨類を発見した時は高度を下げ,
観察と写真撮影を行った。観察は 3名で行い,前方,
調査方法
左右をそれぞれ分担した。一回の飛行での滞留観察
人乗りの北園新聞社
調査に用いたヘリコプターは2
のアクタス(現,あすなろ)号とサンライズ航空のロ
時聞は3
0分までとした。調査は, 1
9
9
0年5
月1
6日から
6
月1
3日にかけて計5
回行った。
機である。ヘリコプターの発着
ングレンジャー号の2
は松任ヘリポート場で行った。調査にあたっては,
出来る限り広い海域を対象とするが①目視観察可能
結果と考察
なヘリコプタ←の速度,②海上での安全性を考え,
’
36'
・
0
4
発見,観察した鯨類はカマイルカ一種のみであっ
・
137
月1
6日に B海域で3
群,同 2
4日にはA海域で
たが, 5
1
0群を認めた。カマイルカの群れの発見位置は図 2
に示すとうりで,海岸線より車守2
0∼4
0マイルの沖合いで
ある。
いずれの群れにおいても海面下の個体は肉眼では
3
r
・
識別が困難であったこと,また,群れの全頭がいっ
せいに海面上に姿を現わすこともないため,海上で
各群れの全頭数を正確に把握することはできなかっ
た。しかし,写真記録には海面下の個体もはっきり
写し出されていたので,後日,群れごとに写真記録
°'
に基ずいて全頭数を推定した。表 1に,目視で確認
し得た各群れの頭数を確認頭数,写真判定で推定し
た各群れの全頭数を推定の群構成数として示した。
36
'
・
5
月1
6日は,最初にb
1を発見観察し, 2
0頭および
50mile
仔イルカ 1
頭を確認した。その帰路にb
2を発見した
図 1 調査場所
0頭を認めたにとど
が,すでに滞留観察時聞がなく 2
-15ー
まった。このb
2
では仔イルカを確認出来なかったも
が接近すると群れ毎に別々の方向へ離散するが,遠
のの, b
1が北へ向かつて進んでいたことから同一群
ざかるとまた一つの集団を形成し,ゆったりと遊泳
であった可能性がある。次いで, 1
5頭のb
3を認めた。する行動を繰り返した。四つの群れ共で, 1
5頭前後
写真記録から推定した君科書成数は, b
-1とか2は4
0頭
,
b
-3
は3
0顕である。
イルカ 3
0頭と仔イルカ 2
頭のa
5を認めた。さらにそ
5
月2
4日は,まずa
-i
から a
4
の四つの群れから成る
一つの集団を観察した。この集団は,ヘリコプター
。‘
a
の親イルカと 8
頭の仔イルカを確認した。次いで,親
の集団とは常に一定距離を保つa
1
0を認めた。この
集団も前述の集団と同様,ヘリコプターの描E,離
’・
1
3
6
'
6
から a
9の四つの群れから成る集団とこ
の北で, a
37
6からa
遠により離散,集合を繰り返した。また, a
'
1から a
4 の群れと同数の 1
5頭前後
-1
0の群れも, a
20
の親イルカと 8
頭の仔イルカと思われた。なお,海面
下の仔イルカは親イルカよりさらに識別が困難であ
-5
を除く各群れ共,ほとん
ったが,写真記録により a
・
37
ど、
の個体が仔イルカを連れていることが分かった(写
真 1)。したがって,これらの群れは母イルカが主
体となっている育児群といえよう。写真記録から推
.。
。
定した群構成数は, a
1から a
4
およびa
6から a
1
0は
2
0頭の親イルカと 1
5頭の仔イルカ, a
5は5
0頭の親
イルカと 4
頭の仔イルカである。
仔イルカのサイズは親イルカの二分のーから二分
メートル前後と推定さ れた。
のー弱であり,体長1
36
一方,育児群中の雄イルカについては,背ビレの
。
50川 畑
図 2 カマイルカの発見場所
形状からそれと判別できる個体も認められるものの
群れの一部の写真記録を欠く ため正確な頭数を知る
までにはいたらなかった。今回は可能な限り広い範
表 1 観察したカマイルカの群れ
調査日
観劇
v
ソゾャ
5
/1
6
レ
ン
シ
‘
十
7
ク
タ
ス
観察時間
l
l
:
4
0∼l
l
:5
9
1
2:
1
0∼1
2
:1
1
1
3:
35
∼1
4:
1
1
群れの番号
嬬忍頭数
推定群構成数
b
1
b
2
b
3
2
0
+
1
2
0
1
5
4
0
4
0
3
0
備
考
b
1と同ーの可能性あり
ーーーーーーーーーーーーーーーー ー 『ーーーーーー ーーーーーーーーーーーーー一一一ーーーー一一『 ーーー ーーーー一一ーー一ーーーー 一ーー一一ーー ーーーーーー ーーーーー ー ーーー
ア
ク
タ
ス
5
/
2
4
l
l
:1
5∼1
1:
2
4
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
v
:
r
/ャ
7
ク
タ
ユ
1
1
:3
7∼1
2
:
0
9
1
1
:5
3∼1
2
:
1
8
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
a
1
a
2
a
3
a
4
a
5
a
6
a
7
a
8
a
9
a
1
0
1
5
+
8
2
0
+
1
5
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
3
0
+
2
1
5
+
8
I
I
5
0
+
4
2
0
+
1
5
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
I
集団とは一定距離を保つ
+の数値は仔イルカの頭数
16-
写真 1 カマイルカの育児群( 4組の親子)
囲を飛行し,多くの鯨類を発見することを目的とし
な便宜を図って下さった北園彩澗社,岡田尚壮会長
たためもあり,各群れについての詳しい観察,記録
および飛田秀一社長ならびにサンライズ航空,藤間
は行わなかった。しかし,観察時間をもっと長くと
和夫社長および篠原邦夫専務に深く感謝申し上げる。
り,群れ全体の連続写真記録を撮るなどすれば,カ
調査にあたり有益なご助言とご協力を頂いた金沢大
マイルカの群れ構造解析に供し得る資料が得られる
学医学部児玉公道助教授と北園新聞社横山久夫写真
可能性が高いと思われた。
部長に感謝申し上げる。また,調査にご協力頂いた
この後に行った5
月2
8日
,6
月7
'1
3日の調査では鯨類
は観察出来なかった。以上,本調査ではカマイルカ
サンライズ航空および金沢水族館の諸氏に厚く御礼
申し上げる。
一種のみの観察に終わったが,中部日本海では鯨類
の分布生息調査がほとんどなされていないので,今
後も機会をとらえては調査を行っていきたいと考え
引用文献
ている。
山田致知. 1
9
9
1
. 日本海産鯨類リスト.日柄毎セト
ロジー研究,創刊号: 1
6
1
9
.
謝辞
本調査の機会を与え,かつ調査遂行に際し,多大
1
7