日本建築学会大会学術講演梗概集 (関東) 2015 年 9 月 7234 周遊観光における地方公共交通機関の研究 空港からの乗継ぎを事例に 正会員 公共交通 空港アクセス 周遊観光 中村 幸子 地方空港 1.はじめに 旅行者が観光目的地へアクセスする手段は、長距離移 外国人旅行者に対応するためにも、公共交通の観光利用 を進めることが重要である。 動の場合は新幹線/飛行機/長距離バスなど、観光目的 地内では路面電車・LRT/コミュニティバス/コミュテ ィタクシー/レンタサイクル/徒歩などがあるが、特に 3.分析概要 (1)地方空港の選定 航空機を利用する人の行動は異なる。そこで乗降客の 地方都市では長距離移動においても観光目的地内におい ても自家用自動車を利用する旅行者が多い(※1)。自 家用自動車での観光は、交通事故や大気汚染、駐車場確 典型的な行動様式の違いに着目し、本研究では日本の空 港を、国際国内拠点空港、離島のための空港、地方空港 に分類し、その中で議論がされている地方空港を利用す 保などの問題が指摘されており、観光における公共交通 計画において、観光客の公共交通利用促進は非常に重要 である。そこで、公共交通を利用した街中の周遊観光行 る観光客を分析対象とする。 2015 年 1 月現在、日本に公共用飛行場(空港)は 96 あるが、その中でも空港法第4条で「国際航空輸送網又 動を進めるよう高知県高知市や石川県金沢市などの自治 体が公共交通総合計画を進めているが、いまだ自家用自 動車利用が多い(※2)。地方都市において観光客は公 は国内航空輸送網の拠点となる空港」と指定された成田 国際空港・東京国際空港・中部国際空港・関西国際空港 の4カ所は対象外とした(大阪国際空港:通称伊丹空港 共交通の利用は進んでいないが、そもそも公共交通は観 光客に求められているのだろうか、あるいは観光地が備 えるべき前提条件はとは何だろうか。日本の地方都市が は、2012 年に関西国際空港と経営統合した際に上記の 空港法に追加されたが、データは 2010 年を中心に収集 したので本論文では対象内とする)。また、主に離島に 抱えるこのような問題を解決に導くためには、この点に 関する検証が不可欠であると考えられる。 2.既往研究と本稿の意義 住む人の生活手段のための空港 34 カ所、定期便が廃止 された広島西飛行場や開港したばかりでデータが十分に ない百里飛行場(茨城空港)など7カ所、観光客割合の これまでに公共交通と観光利用の先行研究には、東京 都内の訪日外客の公共交通に対する選好の分析(早川ほ か 2010 ※3)、リアルタイムでバスの最適な乗り換え データが出所にない5カ所、以上を除いた 46 カ所の空 港をここでの分析対象の地方空港と定義する。 (2)分析データと概要 情報を配信するシステム(清水畑ほか 2011 ※4)、当該 観光地エリア内のアンケートによる周遊行動特性の分析 (古市ほか 2012 ※5)などがあるが、地方における観 観光客に影響を与える要因を明らかにするため、観光 客と観光に関するデータ・公共交通に関するデータ(各 空港からの行き先便数、空港周辺の観光地など空港特性、 光統計での実証研究は現段階では不十分である。 そこで本稿では、観光地までのアクセスのしやすさの 評価が観光客数に影響を与えると仮説を設定する。訪日 鉄道・バス・乗合タクシーなど空港アクセス、中核都市 の駅までの距離、中核都市の駅までの時間距離、中核都 市の駅までの料金など)を分析し、「空港利用観光客数 外国人も対象とするので空港を利用しておとずれた観光 客と、空港から街中へのアクセス手段の交通手段と観光 統計調査を使用し、公共交通が観光客数に与える影響を =(空港行き先便数+空港特性+空港アクセス+中核都 市までの時間距離)」という関数を想定した。 分析した結果、観光客との相関が高かった各変数の概 分析することを目的とする。構成は街中へのアクセス手 要は表1にまとめてある。 段の分析、調査、地方都市における観光支援の問題点を 空港の乗降客に対する観光目的の 46 空港平均割合は 公共交通利用という視点から提案することを結論とする。 約 36.5%(他はビジネス目的とその他)であった。最 公共交通利用の選択に特に関係すると考えられること は、その交通が自分の目的にかなうかどうかが挙げられ る。交通事故などの問題を緩和し、街中を周遊観光して も割合が高いのは佐賀空港で 71.7%、最も割合が低い のは北九州空港で 7.6%であった。ただし本データの出 所は 2001 年でその後新しいデータが出ていないことに もらうためには、航空機や新幹線を降りた後に街中を通 っている公共交通への円滑な乗り継ぎを積極的に提供す ることが重要と考える。また、地方都市へ観光する訪日 留意する必要がある。空港と中核都市との距離よりも、 時間距離に着目したことについては、46 空港中 28 空港 は第二次世界大戦前戦中に作られた飛行場を民間の公用 Study of local public transport in round tourism Nakamura Yukiko ― 487 ― 飛行場に転用したもので出撃や用地確保の利便性の面が 合しつつ再検討の余地がある。 強いと考えられるため、留意する必要がある。 まずは空港アクセスについて分析する。観光地への直 通バス、駅へ向かう直通バス、空港と駅と観光地を経由 するバス、市内各地を経由する路線バス、乗合タクシー、 タクシー(乗り場)、空港鉄道と観光客数を分析した。 結果、市内の各地を経由する路線バスについては正の相 関(R2=0.389)が現れた。空港まで早く安定した時間で 行く手段に空港アクセス鉄道がある。日本の空港アクセ ス鉄道はもともとあった駅につなげる形態が多く、観光 客数の主要な交通手段になっている。空港アクセス鉄道 本数(平日1日)と観光客数の関係を見てみると強い正 の相関(R2=0.745)が得られたが、観光客数がもともと 多かったところに空港アクセス鉄道が建設されたとの見 方もできる。新千歳、福岡、伊丹は大都市圏にあり人口 も多い。そこで大都市圏地方空港はもともと多いという ことではずしたが一般地方空港でも空港鉄道アクセスが あると観光客数は多くなる傾向が出た。これは地方空港 から駅へ向かう手段が重要であると考えられる。 5. 結論と今後の課題 国内便本数・羽田便本数は、自治体単体では改善や本 数増加することは難しいが、公共交通の改善は可能であ る。本稿では公共交通のうち、路線バス活用の可能性を 述べた。地域の公共交通を単発的に展開するのではなく、 観光の利便性や地域の生活活用といった観光とまちづく りが一体となった展開が期待できる。自治体には、効果 的で円滑な公共交通への乗り継ぎで、観光のためにどの ように活用していくのかといった観光交通整備を提案す ることがねらいである。観光産業は日本にとって必要で あり、特に訪日外国人の観光にとって周遊観光する時に は公共交通は最重要である。今後は第 2 章でも留意点と 4. 推定結果 推定結果は表2に示す。中核都市の駅までの時間距離 についてみると、いずれも負の有意な結果(有意水準 5%)が得られている。つまり中核都市の駅まで時間距 離が短いほうが観光客数に影響を与えているといえる。 一日の国内便出発本数と羽田空港行き本数であるが、 それぞれモデル2、モデル3において正の有意な結果 (有意水準5%)が得られた。モデル2においては市内 の各地を経由する路線バスの本数についてもやや弱いが 正の有意な結果(有意水準 10%)が得られた。つまり 市内の各地を経由する路線バス本数は、観光客数に影響 を与えているといえる。ただし、大都市圏ダミーについ ては、大都市圏が空港に近ければそれだけ観光客数に影 された変数の精度を高めていきたい。 参考文献 ※1 国土交通省観光庁「旅行・観光消費動向調査」 http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/shouhidoukou.html ※2 国土交通省「広域的な公共交通利用 転換に関する実証実験実施計画 の概要 平成 15 年度」 http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kouiki/H15nintei_.html ※3 早川伸二、奥山忠裕、室井寿明、ミッシェル・パルモグ・ペルーニ ャ、毛塚宏、藤﨑耕一「訪日外客の公共交通に対する選好の定量分析」 2010 ※4 清水畑朋子、佐藤永欣、高山毅、大信田祥代、村田嘉利「FeliCa 乗 車券と降車バス停情報によるバスの遅延に対応した観光案内システム」、 2011 ※5 古市英士、永田史孝、三田村純、藤田素弘「アクセス交通と周遊行 動分析による観光振興に向けた交通支援に関する研究」、2012。 響があると予想されたが、有意な結果は得られなかった。 この点については、周辺観光地数で得られた結果とも照 ※6 羽生冬佳「わが国の空港の観光利用特性に関する研究」2005 法政大学大学院政策創造研究科 Hosei Graduate School of Regional Policy Design ― 488 ―
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