河田惠昭 - 人と防災未来センター

2015年10月19日
危機対応組織論
阪神・淡路大震災記念
人と防災未来センター
河田惠昭
本講義の構成
1.災害の危機管理とは
2.どのようにして危機管理するのか
3.自治体の災害対応能力
4.災害対応において賢くなるために!
災害の危機管理とは
危機管理の構成(Emergency Management)
災害前(Pre‐disaster)
被害軽減(Preparedness)
災害後(Post‐disaster)
応急対応(Response
and Relief)
リスク
マネジメント
クライシスマネ
ジメント
被害抑止(Mitigation)
復旧・復興(Recovery and
Reconstruction)
見逃しの三振
空振りの三振
危機管理の順序
大規模災害の場合,情報が不十分なこともあって
事態の展開を予測することが困難である。
状況の後追い的対応に陥りやすい。
事態の進行と対応とがますます離れてしまいがちになる。
時系列的に進行する危機の把握・評価・進展予測・
対策の実施について,事態の先取り的な対応を目指す。
そのためには,事前対策が重要となる。
なぜ危機管理が難しいのか
• 事前に予知できない。
– 咄嗟に判断することの連続
– 拙速を旨とすることの合意
• 規模が想像を超える。
– 関係機関間の連携や提携
– 日頃からの訓練による習熟
• 平時の考え方が通用しない。
– 集団の利益を重視する有事の掟
– 責任をとる覚悟で躊躇せずに実行する。
減災対策における目標
• 従来の部分最適、全体調和の考え方
(あまりにも被害が未曽有)
• 新しく部分最適、全体最適の同時実現
• 災害の相転移現象を起こさない
(自治体は被害額を少なく、国は回復時間を早くする)
社会構造をモジュラー型、ネットワーク型に変えていく
(サプライチェーンの垂直統合型生産過程の破綻、
協業・絆・縁の水平関係)
縮災(Disaster Resilience)の定義
•
被害に見舞われても速やかに復旧できるように、社会の回復力が高いという
意味である。
•
レジリエンスを高めるとは、「被害を減らすと同時に、復旧までの時間を短くす
ることにより、社会に及ぼす影響を減らすこと」である。
• したがって、「縮災」とは、レジリエンスを高めることを目標とする。
• レジリエンスは、つぎの4点
①頑強なこと(Robustness)、
②ゆとりがあること
(Redundancy)、
③資源・人材の豊かなこと
(Resourcefulness)、
④すばやいこと(Rapidity)
減災と縮災(新しい概念)
• 減災(Disaster Reduction)
D = Fn(H,V,C )
H :ハザード(外力)
V :脆弱性
C :対策
• 縮災(Disaster Resilience)
日本政府
はこれを
「国土強靭化」
と訳した。
R = Fn(D,A,T )・・・・・
A :政府から家庭までの共同体での人間活動
(National (Community) Resilience)
T :時間(回復時間)
R(t)=Fn(人間力、回復力)
どのようにして危機管理するのか
災害の危機管理の基本
• 災害のメカニズムを知る.
(Knowing hazard)
• 災害に弱いところを知る.
(Knowing vulnerability)
• 災害対策を知る.
(Knowing countermeasures)
防災体制の基本
• 自分の命は自分で守る.
(自助)
• まちの安全はみんなで守る.
(共助)
• 地域のインフラ整備を進める.
(公助)
住民・事業者・行政の
三者間のパートナーシップ
危機を管理する
①何を目標とするか
2つの目標:社会的責任を果たし、社会から負託されている社会的信頼
に応える。
②予想される問題は何か
③その原因は何か
④問題発生を回避する対策は何か
⑤問題が発生したときの影響を最小限にする
対策は何か
効果的な危機管理とは
• 組織的な手続きと体制を必要とする.
– 決して個人プレーでは切り抜けられない
• 危機の発生する前に正しい危機管理計画を
準備する.
– 伝統的なリスク分析に依存してはならない.
• 実践的訓練を常時行う.
9/11ニューヨーク同時多発テロ事件
災害対応を効果的にするために
•
•
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•
どのようなことを実施しなければならないのか
それらをどの部局が責任をもつのか
いつまでにどのレベルまで実現するのか
部局の態勢が不十分であれば,どのようにすれ
ばよいのか,
• 進捗状況をどのように評価するのか
• 担当者の訓練は日常の業務に織り込まれている
のか
• 意思決定者はそれを実現する覚悟があるのか
自治体の危機管理体制の強化
• 中央防災会議「地方都市等における地震防災のあり方に関
する専門調査会」は平成22年4月に第一回委員会を開催し、
東日本大震災をはさんで平成24年3月まで計10回開催
• 座長は河田関西大学教授で、15名の委員で構成
• 内容には東日本大震災の教訓が多数含まれている。
• まず、事前の準備段階から初動段階、応急段階、復旧・復
興段階へと進むにつれて約280項目の対応事項が発生する
。
• 実際の災害対応では、これの抜け・漏れ・落ちが発生しない
ようにチェックリストで確認する。
• 具体例は92事例掲載した事例集も同時に掲載した。
• これらを用いて、自治体の災害対応の図上演習すれば、ま
ちがいなく体制強化につながる! 必須!!
最悪被災シナリオの重要性
• 個人、企業、自治体と災害との距離を短
くする.つまり他人事でなくなる.
• 具体的な災害像をもつことができる.
つまり,イマジネーションが豊かにな
る.
• 災害予防と応急対応,復旧・復興のいず
れにも貢献できる.
• 複数ある対策の優先順位がわかる。
わが国の災害対策の特徴
• 現在は、被害先行型の対策
• 1961年災害対策基本法(趣旨:二度と同じ被害を繰り返
さない。言い替えれば、被害が発生しない限り対策はやらない。唯
一の例外は、1978年施行の大規模地震対策特別措置法による東
海地震対策)
• 対処療法中心の対策に終始し、抜本策にはなら
ない。
• 対策先行型に変える必要がある。しかも、
• 被災者目線を導入することも大切
• 起これば、政府・自治体の不作為が裁判にな
る。
災害対策基本法の問題点 (1)
1.地方分権の流れの中で、First responderを市町村として
しまったこと。
2.わが国では自己責任の原則が徹底していないために、
災害が起これば、自治体が対応しなければならない。
2.市町村には、災害対応能力はない(ひと、モノ、情報、
資源の不足)。
3.とくに、大災害を想定したものではない。
4.都道府県知事は、災害時に何の実行部隊ももっていな
い。都道府県警察は、名ばかりであって警察庁が意思決
定する。消防は市町村に属する。自衛隊は、独自の意思
決定をする。
災害対策基本法の問題点 (2)
6.都道府県の災害対策本部に集まる関係機関の代
表者は、単なる連絡員であって、意思決定ができない
。リエゾン・オフィサーの定義をわが国では間違ってい
る。
7.避難指示は、避難命令ではないため、拘束性がな
く、住民は従わない。
9.非常事態条項を実行するには、昨年6月の改正で
は不十分であって、憲法改正が必要である。
10.したがって、首都直下地震が起こっても対応でき
ない。大規模災害には対応できない。
海外の成功事例から学ぶ
先進国では米国だけが近年、
大災害を経験してきた。
1994年
2001年
2005年
2012年
ノースリッジ地震(ロスアンジェルス)
同時多発テロ事件(ニューヨーク)
ハリケーンカトリーナ災害(ニューオーリンズ)
ハリケーン・サンディ災害(ニューヨーク)
先取りの例:ハリケーン・サンディ調査
• 2015年3月31日:全国の一級河川で「タイムラ
イン」の取り組みが導入された。
• これは、2012年ハリケーン・サンディによる高
潮災害調査(関係学会と政府共同調査:団長
:河田恵昭)の成果の活用
• 風水害では、被害が発生するまでのリードタ
イムを活用するという知恵が、わが国にはな
かった。
タイムライン、AARの導入
• あらゆる災害を対象として、今後、タイムライ
ン、AARを導入する。
• タイムラインについては、米国陸軍工兵隊の
支援、AARは国交省などと研究会を立ち上げ
た。
• 運営はNPO法人・CEMIが担当(自主研究)
• 高潮、洪水問題(台風に起因)を先行させる。
• 自治体への普及に5年くらいかかる。
災害時対応業務の効率化:標準化
(Operational Excellence)
→業務軽減
80%
繰り返す
課題
災
害
・
危
機
新しい
課題
20%
→業務支援
標準化
標準対応手順確立
(応援可能)
パートナーシップ
問題解決能力向上
事前
対応計画
(タイムライン)
現場への
権限事情
報告
関係者で状況認識を共有し、
計画立案
自治体の災害対応能力
東日本大震災の被災自治体の教訓
• 『日頃やっていることしかできない』『日頃やっていな
いことは失敗する』ーーーー阪神・淡路大震災と共通
• 『日常防災』の重要性が改めて認識された。
• 毎日の仕事の前提条件が、災害によって急変する
という認識が日頃からなかった。
• 家族が被災し、家もなくなるとは考えもしなかった。
• 阪神・淡路大震災以降、全国の自治体で災害対応
業務が行われたが、まさか自分たちが被災するとは
考えていなかった。
東日本大震災における被災市町村の対
応の困難さの原因(1)
1. 将来地震が起これば、それは宮城県沖地震であ
るという思い込みがあった。ーーー思い込み、確証
バイアス
これは気象庁から県レベルの関係者も一緒!
2. したがって、ハザードマップも避難計画もそれを中
心に作成された。ーーー対策が有効であるという錯覚
3. 市町村の庁舎が破壊し、町長や職員も殉職するこ
とが起こるとは夢にも思わなかった。ーーー想定外
4. 津波の怖さやどのようなものか理解していなかっ
た。ーーーー津波のこわさを軽視
東日本大震災における被災市町村の対
応の困難さの原因(2)
5. 気象庁の大津波警報が、これまで過大だったので、
今回も実際の津波は小さいと考えた。ーーー過去の経
験を中心に思考
6. 情報の受信・発信が不可能という環境に直
面ーーーー情報不足での対応は未設定
7.指定避難所となった小中学校の被災は想定外
だった。ーーー被災者への対応の遅延
8. 県はもっと支援してくれるはずだとの錯覚ーーー県
は連携など最初から全然考えず。
なぜ県の災害対応が遅れたのか(1)
• 岩手県、宮城県ともに近年、複数の地震災害があっ
たにもかかわらず、災害時の県と市町村との連携体
制を事前に構築していなかった。
• 現場を持っていた土木部や県土整備部などは、日
頃の業務の延長上で仕事が出来た(教訓:日頃やっ
ていないことは、いざというときできない、阪神・淡路
大震災と同じ)。
• スーパー広域災害(災害救助法の適用:241市町村
)となり、あまりにも被災市町村が多かった。
なぜ県の災害対応が遅れたのか(2)
• 岩手、宮城、福島県ともに知事の危機管理能力、リ
ーダーシップに問題があった(自助努力を前面に出
す勇気がない、先頭に立つ気概がない等)。
• 自治体独自の復興基金を作らなかった。したがって
、自治体の単独事業がほとんどなく、すべて国費頼
りとなっている(財源が足らない)。
• 県庁からまず、人材を派遣することが必要であると
の認識がなかった。
• 情報ネットワークが長期中断した。
自治体の災害対応能力とは
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知事、市町村長のリーダーシップ
職員の資質、防災担当職員の研修、訓練
地域防災計画を初めとする法制度
防災戦略、アクションプログラム
危機管理システムなどのツール
公共事業への累積投資額
職員の絶対数
地域の高齢化率などの社会の防災力
災害対策本部とは
• 災対法23条に基づき、地域防災計画の定めるとこ
ろにより、地域にかかわる災害予防及び災害応急
対策を実施するものとする。
役目:全庁的な対応方針を決定する場である。
そのために、
1.目標を設定し、行政力を結集
2.非常体制下での自治体の長のリーダーシップ
3.参謀、事務局の機能強化
災害対策本部会議とは 1
1.本部会議の機能とは
-状況を把握し、共有する
-住民に発信する
-施策判断し、対応を指示する
2.課題解決には、担当者との別会議を行う。
災害対策本部会議とは 2
1.被災地の状況の報告
例:ライフライン
2.被害・復旧状況と実施中の業務の報告
3.何が最大の課題かについての説明
4.動員できる資源情報
5.今後の展開に対する見解
6.次回までの対策目標
災害対応において
賢くなるために!
災害多発時代をどう生きるか?
• 知識、情報、教訓がいのちを助けて
くれる。
• 自分から必要な知識、情報、教訓を取りに行
く。
• 勇気がなければ命を亡くす。
• 身勝手な親の犠牲になるのは子どもである。
• 高齢者は、もっと自分のいのちを大切にする。
• 自分一人では、安全に生きていけない。隣近
所と助け合う。
わが国の長期的な災害発生傾向
地球温暖化による風水害の激化傾向
1. 台風の大型化、総雨量の増加
2. 集中豪雨・ゲリラ豪雨の頻発
高潮の脅威の増加
1. 海面上昇の継続による高潮危険度の増加
2. 既存防災施設の機能不足
3.人工島の地盤沈下の継続(例:大阪・咲洲)
2100年頃まで続く地震・火山噴火活動の活発化
1. 南海トラフ地震、首都直下地震の発生
2. 地方での活断層地震の頻発
3. 富士山をはじめ活火山の噴火危険の継続
2014年に災害が発生した道府県
47都道府県中、
25道府県で発生
2014年の災害事例
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2月14日~16日:大雪による被害 26人死亡
7月6日以降:台風第8号及び梅雨前線豪雨 3人死亡
8月15日以降:大雨等による河川氾濫と土砂災害 8人死亡
台風第12号及び第11号災害 6人死亡
8月22日 広島市土砂災害 74人死亡
9月27日 御嶽山噴火 60余名死亡
台風18号災害 6人死亡
台風19号災害 3人死亡
11月22日 長野県神城断層地震
新潟・神戸ひずみ集中帯
1502年から2014年まで、被害
地震が47個発生している(お
よそ11年に一度の割合)。
1995年 兵庫県南部地震
M7.3
2004年 新潟県中越地震
M6.8
2007年 新潟県中越沖地震
M6.8
2011年 長野県北部地震
M6.7
2013年 淡路島地震
M6.3
2014年 長野県神城断層地震
M6.7
水害犠牲者の出方の激変(2000年以降)
死者の2/3法則
死者の2/3は男性、死者の2/3は屋外、
の2/3は高齢者
ところが、2009年
2009年の佐用水害では、死者の男女比は1:1、死者は
ほぼ 全員屋外、20歳未満と高齢犠牲者は全体の半分