奥野製薬工業 株式会社

会員企業訪問
奥野製薬工業 株式会社
Future Chemical Future Life
化 学 の研 究 開 発 を通 じて豊 かな社 会 生 活 の提 案 を
~ 三 つの顔 を持 つ技 術 主 導 型 企 業 ~
今月の会員企業訪問は今年創業 110 年を迎える
奥野製薬工業㈱です。同社は表面処理薬品、食品、
無機材料の3部門の製造・販売を行っています。
になったのは、二代目の社長として私の祖父であ
る奥野清六が就任してからです。
あるとき、卸先のお菓子屋さんから提案があり
本日は研究開発・製造・営業部門が集結する大阪
ました。そのお客さんには饅頭に使用するふくら
市鶴見区放出の事業所を訪問し、代表取締役社長
し粉(ベーキングパウダー)の原料を何種類か卸
の奥野和義氏に、会社の沿革や事業展開について
していました。それを配合して使用されていたの
お話を伺いました。
ですが、配合を間違うことがよくあったそうです。
奥野社長は、一般社団法人日本表面処理機材工
そこで、別々の原料を事前に混ぜて卸してくれな
業会会長を務めておられ、その産業振興に対する
いかと依頼があったのです。これをきっかけに原
功績により、平成 27 年春に藍綬褒章を受章され
料を卸すだけでなく、当方で配合して販売するこ
ました。
とで付加価値が付くことに気づきました。そこか
ら、大正 15 年に大阪市城東区に工場を建設し、
製造会社となり、大きく成長しました。
現在では表面処理薬品が売り上げの 70%を占
めていますが、製造会社としての原点は、ふくら
し粉という食品分野でした。
食品分野の売り上げは現在でも全体の約 25%
を占めています。今でも製菓用製品として菓子・
パン作りに便利なベーキングパウダーを製造し
ています。ベーキングパウダーなどの製菓用製品
代表取締役社長
奥野
和義
氏
以外にも製麺用製品、惣菜用製品など、様々な食
品業界向けに食品添加剤や食品素材を提供して
̶まずは今年で 110 周年を迎える会社の
創業についてお聞かせください。
奥野製薬工業㈱の創業は、明治 38 年に奥野藤
吉が奥野藤商店を設立したのが始まりです。
当時は輸入したナフタリンやホウ酸を小分け
にして販売する小分問屋でした。奥野藤吉は頭の
います。
一つ紹介しますと、コンビニの三角おにぎりや、
お弁当などには弊社の日持向上剤や食感改良剤
が使われています。腐敗や食中毒を防いだり、食
材がパサついたり硬くなるのを防いでいます。
食品に対するお客様の要求が益々高くなる中、
固い人で、商売は大きくしてはあかん、が口癖だ
「おいしさと安全を食卓に」をモットーに信頼性
ったようです。
を第一に考えて生産しています。
会社として大きく成長するターニングポイント
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̶ふくらし粉の製造から現在の事業まで
どのように発展されたのでしょうか
ふくらし粉の配合から製造会社として始まっ
しています。アルミは軽量であるため、自動車部
品や自転車部品などに広く使われており、弊社の
薬品が多く使用されています。
た奥野藤商店は、第二次世界大戦中の昭和 19 年
船舶の青写真の複写に使用される薬品を製造
̶今、特に力を入れておられることは何で
しょうか
していましたが、戦争が終わると倉庫に在庫が山
環境に配慮した新製品開発に積極的に取り組
ほど残りました。この薬品が、ガラスの着色に使
んでいます。絶えず新しい製品を作り、お客様の
用できることがわかり、初めは陶磁器用絵具とし
ニーズに応えなければ他社との競争に負けてし
て販売し、その後ガラスの着色へとシフトしてい
まいます。
に奥野製薬工業株式会社として発足しました。
きました。販売を開始した当時は、牛乳瓶などへ
環境に配慮した製品の一例として、クロムを使
の着色が多かったようです。現在では自動車用ガ
用しない樹脂めっき用エッチング液があります。
ラスや建築用ガラス、産業用ガラスなど幅広い分
通常、樹脂めっき用エッチング液には六価クロム
野に使われています。
が含まれています。この六価クロムは人体に悪影
牛乳瓶などへの着色は、回収瓶の増加により需
響を及ぼす物質であり、今後規制対象となる可能
要が減り始めました。そこから、ガラスへの着色
性が高い物質です。人体に悪影響を与えないめっ
技術を応用し、電子回路に使われるチップ抵抗な
き処理薬品の要望があり、六価クロムを使用しな
どに用いられるオーバーコートガラスを製造し
い、環境に優しい製品の開発を行いました。この
ました。これがガラスカラーや電子材料部品など
ようにお客様のニーズに沿った新製品を開発し
の無機材料部門になっています。
ています。
現在の主要製品である表面処理用薬品分野は、
さらに販売後のアフターフォローもしっかり
昭和 33 年にめっき用光沢剤の製造から始まりま
やっています。フォローアップ専門の技術員が全
した。それまでは、めっき加工の処理後に研磨し
国の営業所におり、お客様の要望に迅速に対応し
なければ光沢が出ませんでした。そこでめっき液
ています。そのため、全社の約1/3は研究開発
に光沢剤を入れることで研磨しなくても光沢が
の社員で、製造部門の2倍にあたる人員を配属し
出るようにしました。工程が減りコストダウンに
ています。
もなるということで、いろいろな分野のお客様に
採用していただきました。
その次の転換点はプラスチック用めっき薬品
無機材料
6.1%
の製造を始めたことです。従来、めっきというの
は金属に施すものでしたが、自動車業界で車の軽
量化のために金属部品を樹脂に変える動きが広
がってきました。エンブレムやフロントグリルに
食品関係
23.6%
その他
24.0%
表面処理
70.3%
始まり、ドアハンドルや内装部品でも樹脂化が進
み装飾用めっき薬品の需要が伸びました。
現在では表面処理薬品が主力となり、各種金属
商品別分布
製造
15.7%
研究
35.1%
販売
25.2%
従業員構成
部品や、プラスチック材料、プリント配線板用な
ど様々な用途向けを製造しています。
その他、アルミニウムへの処理薬品も製造販売
また、アフターフォローの際に技術者がお客様
と直接お会いする機会が多いため、こんな製品は
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できませんかという問い合わせがあります。それ
ただいたお客様と直接意見交換し、その時に、何
らが新規の研究テーマとなり、次の新製品を開発
が求められているかを知ることができます。お聞
していくという良い循環となっています。
きした意見をもとに次の研究テーマの参考にし
ています。
̶新製品開発を行う際に、気を付けている
ことはありますか
新製品開発を行うことは、今後の会社の方向性
また、研究に携わる技術者は年に数回は学会な
どで発表しています。発表することで改めて自社
の技術をより深く理解することができます。また、
を決めるということです。ですので、新製品開発
他社の研究内容を知ることで、自社の技術に応用
を行う際は必ずお客様の声を聞くことにしてい
できないかと考える機会が増え、新製品開発の参
ます。そして求められている製品を開発すること
考にしています。それが、技術者としていい刺激
が重要な事と考えています。
になっています。
̶研究開発に力を注いでおられますが、今
後どのように事業を展開していこうと考
えておられますか
現在、放出にある第一工場の隣に、研究棟を新
たに建設しています。来年の春ごろには稼働でき
ると思います。
研究開発の様子
お客様のニーズを調査もせず、勝手な思い込み
で、大きな目標を宣言して新製品開発の方向性を
決めてしまいますと、それが間違っていた場合に
軌道修正するのが大変です。その点、お客様の意
見を聞けば、必ずその製品にはニーズがあるとわ
かります。
私はお客様の求めている技術を試し、その技術
建設中の新研究棟イメージ
が今後伸びそうだと判断したら、集中して開発す
新しい研究棟には少し離れた第二工場と第五
る方法がいいと考えます。なので、技術やこだわ
工場に併設している無機材料研究所と食品研究
りで仕事をするのではなく、お客様の求めている
所を移設します。そして、表面処理部門を併せて
製品を作ることが必要だと思います。
研究所を1ヵ所に集約します。1ヵ所に集約する
ことで部門間の垣根を越えて意見を取り入れる
̶お客様のニーズを調べるのに、工夫され
ていることはありますか
機会が増えます。そのため、より効率よく研究開
発を行うことができると考えます。また、移設後
展示会に積極的に出展するようにしています。
の工場は製造部門として稼働することで、生産能
展示会では弊社の技術を来場者にアピールし
力を上げることができます。
ています。そこでは弊社の技術に興味を持ってい
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̶アジアを中心に展開されている海外事業
についてお聞かせください
海外展開については今まで何回か進出のチャ
他の地域では、メキシコにも進出する話があり
ます。アメリカと同じくメキシコにも日系企業が
多く進出しており、アメリカより人件費が安く、
ンスがあり、現在では合弁会社を含め8つの海外
また、メキシコは多くの国とFTA(自由貿易協
法人があります。
定)を締結しており、関税がかからないことがメ
海外展開は表面処理薬品などの製品の業務サ
リットです。
ポートのために香港に駐在員を派遣したのが始
さらに現在進出していない地域では、ヨーロッ
まりです。そこから奥野工程(香港)有限公司を合
パに進出できないかと考えています。ヨーロッパ
弁会社として設立しましたが、利益はほとんどあ
でのニーズなどを調査するために現地に駐在員
りませんでした。そこで株式を全て取得し、販売
を派遣しており、今後進出できるかを検討してお
だけでなく、製造設備を導入し現地での生産を開
ります。
始しました。香港での現地生産が成功したことも
あり、香港を起点として上海と深圳にも進出して
います。
̶最後に今後の抱負をお聞かせください
今後もニーズに合った新製品を開発し、技術の
中国以外のアジアでは、タイとベトナムに合弁
会社を含めて3社進出しています。タイは現在工
向上、品質管理の徹底をはかり、安全で安心でき
る製品を提供していきます。
場を建設中ですが、生産を開始すれば、タイで製
現在はグローバル化の時代で、弊社のお客様も
造したものをシンガポール、フィリピン、マレー
海外でのビジネスを活発化されています。これか
シアに販売する予定です。将来はインドネシアに
らは海外へ出られたお客様にも、国内と同じよう
も進出を考えています。
にご満足いただける対応ができるよう体制を整
えていきたいと思っています。
繰返しになりますが、来年の春に新しい研究棟
が完成します。研究棟の稼働が始まれば、今より
も研究開発に力を注ぐことできます。さらに現在
の工場は製造工場として集中稼働することがで
きますので、生産能力も向上します。これまで以
上に幅広く事業を展開していきたいと思ってい
ます。
タイ工場の完成イメージ
さらにアメリカにも 2012 年に奥野インターナ
ショナル(USA)をデトロイト近郊に設立しま
した。日本の自動車メーカーがアメリカに進出し
ていますが、それに伴い自動車の部品メーカーも
アメリカに進出し現地生産を開始しました。日本
で生産していた頃から、弊社のめっき処理薬品を
̶本日は誠にありがとうございました
奥野製薬工業
株式会社
本社所在地:大阪市中央区道修町4-7-10
事業内容:表面処理薬品、無機材料、食品
添加剤の製造及び販売
従業員数:441名
URL:http://www.okuno.co.jp/
使用していただいており、現地でも使用したいと
の要望が多くあり弊社も進出しました。
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