独立行政法人 国立病院機構 九州医療センター臨床研究センター便り 平成26年度Vol.3(秋) Kyushu Medical Center お知らせ 候不順の夏がようやく終わり、馬肥ゆる秋を迎えて、 皆様にはご健勝のことと存じます。臨床研究センタ ーは本年度の国立病院機構臨床研究活動実績評価におい て、130施設中5位でしたが、現在は共同研究における主任 研究領域の拡大(脳卒中、消化器、血液、経営管理)、英文原 著への新たな取り組みなど着実に進展しています(表1)。 天 表1 また院内の臨床研究発表会では血液分野が初めて最優秀 学術賞に輝き、臨床研究の主体性、内容の広がりや質の面 で一段高い活動が展開されています。今後さらに、当院の総 合力を生かした臨床研究・治験を推進していきますのでどう ぞよろしく御願い申し上げます。 平成26年10月 臨床研究センター長 岡田 靖 臨床研究評価トップ10(平成25年度) 1 大阪医療センター 5,635.0 点 6 相模原病院 3,535.0 点 2 名古屋医療センター 4,729.7 点 7 九州がんセンター 3,322.8 点 3 京都医療センター 4,140.4 点 8 四国がんセンター 2,772.9 点 4 東京医療センター 4,088.6 点 9 長崎医療センター 2,290.4 点 5 九州医療センター 3,753.2 点 10 岡山医療センター 1,711.9 点 20周年開院記念行事にあわせて平成25年度優秀研究表彰 を行いました (表2) 。 次頁「臨床研究報告」にて内容を順次ご紹介いたします。 全国143施設のうち、臨床研究センター12施設、臨床研究部71施設、院内標榜臨 床研究部47施設(全130施設)から 表2 九州医療センター学術賞 九州医療センター最優秀学術賞 ★山崎 聡先生(血液内科) 再発又は難治性の高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に 対する救援化学療法の最適化 九州医療センター優秀学術賞 ☆永井 清志先生(歯科口腔外科) C型慢性肝炎の3剤併用IFN療法における口腔症状の評価 Kyushu Medical Center 海外視察報告 国際エイズ会議AIDS 2014に参加して 免疫感染症科 南 留美 014年7月20日から25日までオーストラリアのメル ボルンで、世界中から1万3300人の参加者が集まり 第20回国際エイズ会議が開催されました。本会議は、毎回、 HIV/AIDSの基礎研究や臨床、疫学などの医学分野だけで はなく、政治、経済、社会分野からも多くの人々が参加し、い わゆる学術集会とは趣が異なっています。今回は、本会議 に参加予定であった6名がウクライナで撃墜され死亡が確 認されたという痛ましいニュースとともに始まりました。 今回の会議のテーマは「STEPPING UP THE PACE (ペースをあげよう)」。現在、抗HIV治療提供拡大の努力に 2 ◆楠本 哲也先生(消化器センター外科) 胃癌HER2陽性診断および陽性胃癌に対するtrastuzumab併用化 学療法 ◆辻 麻理子先生(AIDS/HIV総合治療センター) HIV陽性患者に合併する認知機能障害に関連する因子の解析 ◆榊 美奈子先生(高血圧内科) 高血圧患者における尿中食塩排泄量の長期的変動性と血圧についての検討 ◆古森 元浩先生(脳血管・神経内科) ダビガトラン療法中に発症した頭蓋内出血8例のケースシリーズ解析 よりHIV陽性者の1/3が治療を受けることが出来るようにな りましたが、 まだ治療のアクセスを得られていない人が 2200万人もいます。 「もっとペースを上げ、対策の規模を2 倍にしなくてはならない」 と開会式でも指摘されました。 また 「HIV対策によりHIV感染は死の宣告から管理可能な慢性 疾患へと変わってきた」 とも述べられていました。 私も今回は「The influence of adiponectin and glucokinase regulatory protein polymorphisms on antiretroviral therapy-induced hyperlipidemia」 という演 題でポスター発表を行いました。 HIV感染症が慢性疾患となった今、 抗HIV治療の副作用を出来るだ け少なくしたいと考えて始めた研 究ですが、興味を持ってポスタ ーを見て下さっている参加者や 質問して下さる参加者もいて比較的充実したpresentation が出来たのではないかと思います。基礎、臨床の分野では HIV治癒(cure)に向けた新たな治療戦略、HIV reservoir をtargetにした基礎的研究や臨床研究、 ワクチンの開発、 予防としての治療、結核、HCV感染との重感染についてな ど数多くの発表がありました。特にcureに関しては、HIV感 染症の予後を大きく改善させるため特に注目されており、多 くの参加者が集まっていました。社会分野ではHIV患者の Kyushu Medical Center TOPICS 第15回日本医療マネジメント学会 学術総会会長賞を受賞して 歯科口腔外科 吉川 博政 こ の度、日本医療マネジメント学会から第15回学術総 会会長賞を授与されました。 受賞論文は、 「 医科歯科・地域連携用口腔機能管理計画 書を用いたがん周術期口腔ケアへの取り組み」 のタイトルで、 がん患者の口腔管理における医療連携についてまとめたも のです。2012年6月にがん対策推進基本計画の見直しが 行われ、がん治療における副作用の予防や軽減など、医科 歯科連携による口腔ケアの推進、歯科との連携強化が明記 されました。口腔内には感染源として、800種類以上、10 10 ∼1012個/cm3の口腔内細菌が存在します。抗癌剤、放射線 による口内炎は患者のQOLを低下させ、治療の完遂率に影 響を及ぼします。治療時の口内炎出現の予防は現時点では 困難ですが、治療前の歯周病など口腔環境を改善すること、 治療中に口腔管理を行うことで白血球減少時の口内炎から の細菌の侵入による感染症などの合併症を減少させること 「臨床研究のデザインと 進め方に関する研修」に出席して 消化器内科 原田 直彦 平 ケアへのアクセス方法、 HIV感染予防、 とくに曝露前予防 (PrEP) についての方法およびそのコスト・ベネフィットについての 報告が多数ありました。 以上、第20回国際エイズ会議について簡単に報告させ ていただきました。今回は、基礎分野でのセッションが充実 しており、今後のHIV治療につながるような研究を目の当た りにすることが出来ました。 ここで得た知見を今後の診療や 研究に生かしていけるよう、努力していきたいと思います。 成26年7月12日−13日、国立病院機構本部研修セ ンターで 「臨床研究のデザインと進め方に関する研修」 が開催されました。本来は若手を対象とした研修ですが、ネ ットワーク研究グループリーダーの立場を利用して参加させ て頂きました。 全国から25名の若手が集いました。1日目には実習「研 究計画のプレゼンテーションと見直し」の後、講義「臨床研 究保険について」、 「 研究テーマの選び方」、 「 研究仮説と主 要評価項目の選び方」 「 、実施可能な研究デザインの設計法」 、 「研究計画書の書き方と症例報告書の作り方」、 「英語で論文 を書くコツ」が行われました。実習では、4ブースに分かれ各 自持ち寄った研究デザインをプレゼンテーションし、2名の 講師からアドバイスをもらいます。 ある施設が後ろ向きのデ ータ収集研究デザインをプレゼンテーションすると 「ゴミは が明らかになっています。 また、消化器、呼吸器がんなどの 手術では術前の口腔内不衛生が誤嚥性肺炎、創部感染に 直結することが判明しています。 さらに、骨転移の治療に用 いられるBMA製剤は顎骨壊死、骨髄炎など口腔領域での重 篤な合併症発症との関連が示唆されており、投与前の口腔 管理が必須となっています。 このようにがん治療における口 腔管理の重要性が認知され、医科歯科連携による口腔ケア の推進が求められていますが全国的に進んでいない状態で す。当院では医科歯科連携によるがん患者周術期の口腔管 理を円滑に行うため、独自に医科歯 科共通の口腔機能管理計画書を立 案し、医科・歯科、患者、地域歯科診 療所を含め四者で治療情報を共有 することで、他地域に比べ医科歯科 がん連携が円滑に進んでいます。今後、 このような連携システムをさらに発 展させ、がん治療における患者の皆 様のQOL向上に寄与したいと思いま す。 これからも皆様のご理解とご協力 をお願い申し上げます。 いくら集めてもゴミだ」、 「意図を持って集めないと無駄なデ ータになる」等の厳しいコメントが出ました。 2日目には、講義「同意説明文書の書き方」、 「臨床研究デ ザインのピットフォール」、 「統計手法の選び方と症例数の設 計」 「 、研究費申請書の記載について」 が行われました。午後、 実習「模擬プレゼンテーション」が開催されました。前日のア ドバイスにより修正したプレゼンテーションをし、講師より評 価を受け、評価上位2名が全体プレゼンテーションを行いま した。上位2名のプレゼンテーション内容は、 よく考えられた 素晴らしい研究デザインでした。 近年の「ディオバン臨床研究データ捏造事件」以来、臨床 研究を見る目は厳しくなっており、来年度には新たな臨床研 究倫理指針が発表予定です。臨床研究デザインは、批判に 耐えられるものにしないと通用しません。今回の研修は、私 自身もっと若い時に受 講したかったと思う魅力 的な内容でした。臨床研 究を計画している若手 には受講を是非お勧め します。 臨床研究報告 最優秀学術賞(平成25年度)Kyushu Medical Center 再発又は難治性の高齢者びまん性大細胞型B細胞 リンパ腫に対する救援化学療法の最適化 が優位に多いことを確認した。生存曲線では無病生存期間 と全生存期間ともにUGT1A1*6群が優位に長いことが判 明した (下図,Annals of Hematology in press)。 血液内科 全生存期間 山崎 聡 1 Log-rank p=0.034 【背 景】 日本の高齢化が進むにつれ、高齢者の患者数は増加して いる。高齢は、造血器悪性腫瘍患者の予後不良因子である。 高齢者に対する既存の治療には限界があり、新規治療方法 の開発に対する医療ニーズは極めて高い。65歳以上の高齢 者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)に対する救援化学療法として標準とさ れるものはない。 全生存割合 0.8 UGT1A1*6(7人) 0.6 0.4 その他(20人) 0.2 0 0 【目 的】 当方で施行されきたCDE-11療法(カルボプラチン・デキ サメサゾン・エトポシド・イリノテカン)は、短期入院または外 来治療への移行が可能な治療方法である。CDE-11療法で 使用しているイリノテカンはuridine diphosphate glucuronosyltransferase(UGT)1A1遺伝子多型性の違 いによる毒性と治療有効性の関わり合いが報告されており、 保険適応での診断が認められている。再発及び難治性の高 齢者DLBCLに対する救援化学療法としてのCDE-11療法 の位置付け、治療の安全及び有効性の確認を行うことで前 向き臨床試験での患者選択の元となるデータを構築する。 【方 法】 当院で再発又は難治性DLBCLに対し、CDE-11療法を受 けたことがある患者27人のデータを後方視的に調査し、悪 性リンパ腫以外の癌腫と同様にUGT1A1遺伝子変異が治 療毒性や効果に影響を与えるかを確認した。 【結 果】 米国で実用化されているUGT1A1*28に加え東アジア 人で頻度が多いUGT1A1*6の遺伝子変異を後方視的に 確認した。欧米でイリノテカンによる毒性が問題視されてい るU G T 1 A 1 * 2 8 ホ モ 接 合を 有している患 者 は1人 、 UGT1A1*28に異常がある患者は5人であった。欧米では 認めないUGT1A1*6に遺伝子変異がある患者は7人、欧 米のデータをそのまま使用することはできないことが判明した。 多変量解析で UGT1A1*6群での国際予後分類で高リス ク患者が多いこと、下痢の有害事象が少ないこと、生存者数 2 4 6 8 10 時間(年) 【結 語】 再発及び難治性の高齢者DLBCLに対し、CDE-11療法 は安全かつ有効な治療方法である。UGT1A1*6に変異が ない患者にはCDE-11療法は不適切である可能性がある。 この問題の結論は、前向きかつ多くの症例で今後慎重に検 討される必要がある。 【今後の展開】 ゲムシタビンが2013年2月公知申請にて再発及び難治 性の悪性リンパ腫に対し保険適応が認められた。 それ以降、 R-GDP療法(リツキシマブ・ゲムシタビン・デキサメサゾン・ シスプラチン)が日本全国の施設で施行されている。再発及 び難治性の高齢者DLBCLの標準治療を確立するべく、当院 ではこれまで CDE-11療法を施行してきた患者群に対し、新 規R-GDP療法の安全と有効性を前向きに検討する必要が あると考えた。 「平成26年度NHOネットワーク共同研究血液 疾患領域:再発又は難治性の高齢者びまん性大細胞型B細 胞リンパ腫に対するR-GDP療法に関する第Ⅱ相試験 (EDLGDP)」 の研究代表を務めさせていただくこととなった。 【謝 辞】 本研究の遂行に際し、 岡村精一先生はじめ血液内科現役・ OB医師スタッフの指導・協力・支援を頂いた。木下悦子9階 東病棟看護師長はじめ現役・OB看護スタッフ、西福岡臨床 血液研究会(村上華林堂病院、早良病院他、多くの関連医療 機関) の日々の指導・協力・支援に深謝します。 Kyushu Medical Center CPC 慢性心房細動をもつ呼吸器感染症を 契機に急速な循環不全を来した症例 病理 桃崎 征也 呼吸器科 溝口 麻衣・熊野 友美・ 田口 和仁・一木 昌郎 60歳代 男性 臨床診断 #1.クレブシエラ肺炎 #2.慢性心房細動 #3.2型糖尿病 既往歴 高血圧症 脂質異常症 腰部脊柱管狭窄症術後 右アキレス腱断裂術後 背部炎症性粉瘤 胸腺腫疑い [心電図]Atrial Fiblliration, HR 145bpm, V5,V6で ST-T低下 [胸部CT]右上葉全体を占める軟部陰影あり。左上区にも Consolidation認め、大葉性肺炎の所見。 入院後経過 生活歴 喫煙歴:不明 飲酒歴:大酒家(詳細不明) アレルギー:不明 内服薬 ジゴシン錠0.125mg レザルタス配合錠HD カルデナリン錠2mg ワーファリン錠1mg ワーファリン錠0.5mg 1錠 1錠 1錠 2錠 1錠 現病歴 高血圧、慢性心房細動に対して内服加療されていた。 20XX年12月初旬より咳嗽症状、嘔気・嘔吐、水様性下痢 が出現したが、同居人も咳嗽など感冒様症状があったため 看病のため受診せず、自宅で様子を見ていた。1週間ほど 経過した頃から血痰が出現し、 発熱、 倦怠感が増悪したため、 高血圧内科かかりつけ医受診目的に当院来院。38℃を超 える発熱を認め、インフルエンザを疑われ、総合診療科を 受診した。胸部単純X線写真で右上葉透過性低下を認め、 肺炎の疑いで同日当科紹介受診となった。 入院時現症 意識レベル:JCS1、 Vital Sign:BT 39.2℃ HR 140bpm BP 85/51mmHg SpO2 93%(RA) RR 24 [頭頸部]眼瞼結膜充血(+)、眼瞼結膜黄染(+)、頸部リン パ節腫脹(−) [胸部]呼吸音:右上肺呼吸音減弱、心音:不整、S1→S2→ S3(−)S4(−)、雑音なし [腹部]平坦・軟、肝腫大(−)、腸蠕動音亢進減弱なし [四肢]チアノーゼ(−)、浮腫(−)、末梢動脈触知可 [神経学的所見]特記事項なし 検査所見 抗インフルエンザ抗体 A(−)、B(−)、H1N1(−) [ABG](Nasal 4L/min)pH 7.520, pCO2 30.8Torr, pO2 68.9Torr, HCO3- 25.0mmol/l, SaO2 95.2%, Lac 5.6mmol/l [血算]WBC 2600/μl, (Neut 86.4%, Ly 6.4%, Mono 5.2%, Eosin 0.4%, Baso 0.9%), RBC 450 万/μl, Hb 15.1g/dl, Ht 44.0%, Plt 12万/μl [生化学]TP 6.5g/dl, Alb 3.2g/dl, T-bil 1.9mg/dl, LDH 237IU/l, AST 51IU/l, ALT 18IU/l, ALP 79IU/l, BUN 35mg/dl, Cr 1.5mg/dl, eGFR 37.1ml/min/1.73㎡, Na 135mEq/l, K 2.9mEq/l, Cl 88mEq/l, CRP 35.93mg/dl, Glu 158mg/dl, プ ロカルシトニン>100mg/dl [凝固]PT 24.0秒, PT% 46%, PT-INR 1.69, APTT 46.1秒, FIB 830mg/dl, FDP-T 14.3μg/ml, Ddimer 3.2μg/ml [細菌学的検査] マイコプラズマ抗体 <40倍, クラミジアシッタシ抗体 <4 倍, C.ニューモニエIgG 1.96mg/dl, C.ニューモニエIgA 1.40mg/dl [血液培養]Klebsiella Rhinoscleromatis [胸部単純X線]CTR:52%、C-P angle:Dull、右上肺野、 左肺門部に浸潤影あり 来 院 時 、3 9 ℃ 台の 発 熱あり、血 液 検 査でW B C 高 値 、 CRP 35mg/dlと高い炎症反応を認めた。胸部単純X線写 真で両上肺野に浸潤影を認め、画像と重症度から大葉性 肺炎を疑い、精査加療目的にICUへ入院となった。血圧 85/51mmHg, 脈拍140bpmとプレショックバイタルであ り、外液を160ml/hで補液を開始したところ、収縮期血圧 120mmHgへ改善を認めた。急性期DIC Scoreは3点であ りpreDICの状態であった。喀痰培養からグラム陰性桿菌 ( 3 + ) が 検 出され 、緑 膿 菌 、嫌 気 性 菌を焦 点としL V F X 500mg/Dayで治療を開始した。血液培養の結果、βDグル カンは陰性であったが、エンドトキシンは44.3pg/mlと高 値であったことからグラム陰性桿菌による敗血症と考えら れた。入院後も持続的に血痰を認めており、肺内出血が持 続していることが呼吸苦にも関与していると考え、 ワーファ リンを中止とし、入院翌日からはヘパリンで代替予定として いた。 LVFX投与後も明らかな解熱は得られず、38℃台の発熱 が持続していた。脈拍160-170bpmと頻脈が見られ、心房 細動と考えジゴキシンを投与したところ、脈拍130bpmまで 改善を認めた。頻呼吸であったが、酸素マスク 5L/minで SpO 2:95%と比較的酸素化は保たれており、発熱も37℃ 台まで解熱を認めていた。 入院当日の23時24分、呼びかけに反応がなく、呼吸停 止状態となった。 その後収縮期血圧40mmHgへ低下、頸動 脈触知不能となり、心肺蘇生術が開始された。気管挿管、 ア ドレナリン静注し収縮期血圧 140mmHg台へ上昇したが、 自 発 呼 吸 は 認 め な かっ た 。心 電 図 モ ニ ター で は 脈 拍 60bpm認めるも、経胸壁心エコーでは有意な心臓の壁運 動を認めず、無脈性電気活動であると判断した。左房内に 心内血栓を疑う停留所見を認めたため、心運動促進により 血栓を飛ばしてしまう可能性を考慮し、 アドレナリンは追加 投与しない方針となった。入院翌日の12月12日午前1時 35分、死亡確認となった。 急性な経過であり、左房内血栓、胸部CTで指摘された右 肺の腫瘍を疑う軟部陰影などが死因と関与する可能性あり、 死因究明のため病理解剖を行う方針となった。 剖検所見 剖検時肉眼所見では、右肺上葉に大葉性肺炎、両肺で気 管支肺炎・うっ血・出血が疑われた。 両側心室肥大と両側心房拡張を認めた。大酒家とのこと で、肝脾腫をともなっていた。 また皮膚に紫斑、十二指腸に潰瘍を認めた。 血液培養にて敗血症の存在が証明されている。 組織学的には右肺上葉に大葉性肺炎の像を認めた。脾 炎も伴っており、心など他の臓器に明らかな死因となるよう な所見がないことからも、敗血症性ショックが直接死因と推 察された。 死亡後にクレブシエラが検出されている。 剖検診断 右肺大葉性肺炎、両側気管支肺炎、 うっ血、出血 (敗血症)、脾炎 脂肪肝、 アルコール性肝線維症、脾腫 血球貪食症候群 十二指腸潰瘍 大動脈粥状硬化 考 察 当症例は、中高年男性、大酒家、糖尿病というクレブシエ ラ肺炎の好発条件を多く満たすものであり、 また、喀痰培養 や血液培養からはKlebsiella rhinoscleromatisが検出さ れていたことから、クレブシエラ肺炎と考え抗菌薬治療を 開始した。A-DROPでは中等症の肺炎として分類されたが、 IDS/ATSによる市中肺炎ガイドラインではICU入室の適応 を満たしており、重症肺炎として多剤併用の抗菌薬治療が 必要だった可能性もあるといえる。 また、今症例のように大 酒家、糖尿病などの基礎疾患を有する大葉性肺炎症例は 診断時より比較的重症と捉えて治療を開始する必要がある と考えた。 今症例は肺炎としては比較的急性な経過を辿ったことか ら、悪性腫瘍の可能性や循環動態不全が生命予後に影響 した可能性が考えられた。 剖検では、軽度心房拡大みられるものの、疣贅など感染 性心疾患の所見は認めなかった。 また、胸部CTで認めた 肺陰影に関して悪性腫瘍の可能性を考えたが、肺胞内膿 瘍のみの所見であった。 リンパ球浸潤や組織の壊死状態 から、2,3日の間に増悪した感染症であると考えられた。 細菌検査で検出されたKlebsiella rhinoscleromatisは、 本来鼻硬症など上気道感染症に認められる菌であり、重症 化することはまれである。本症例起因菌のString test陽性 が確認できただけでなく、病原性遺伝子検査の結果、通常 Klebsiella pneumoniaeに好発現し、Klebsiella rhinoscleromatisで陰性と報告されているmagAが今症例の Klebsiella rhinoscleromatisで発現していたことが確認さ れ、過去の報告の鼻硬化症や環境から分離された Klebsiella rhinoscleromatis に比べて高病原性であり、致死的 な大葉性肺炎に至ったと考えられた。 入院時画像所見 胸部CT 胸部レントゲン写真 (急変時) 胸部CT Kyushu Medical Center 委員会報告 薬剤科 西野 隆 事委員会は、医薬品、検査用試薬(以下「医薬品等」 と いう)の適正な管理と医薬品等購入費の効率的な運 用を図ることを目的とし、原則として2ヶ月に1回開催してい る。構成メンバーは副院長 (委員長) 、 薬剤科長 (副委員長) 、 臨床研究センター長、統括診療部長、看護部長、事務部長、 医局長、 放射線部長、 臨床検査部長、 各診療科医長 (若干名) 、 副薬剤科長、薬務主任、企画課長、業務班長をもって構成さ れている。審議事項は、医薬品等の採用及び削除の決定に 関すること、医薬品による治療方法の検討と向上に関するこ と、医薬品等の情報交換及び副作用情報に関すること、同 効品の使用の検討と在庫品活用に関すること、医薬品等購 入費の効率的使用に関すること、救急医薬品、病棟保管薬 品等の取り扱い及び緊急時の医薬品に関すること、約束処 方、繁用処方の検討、院内使用医薬品等のリストに関するこ と、 その他医薬品等に関することを討議・審議している。 <医薬品情報活動について> 薬事委員会にて採用が決定した医薬品に関する情報は 医薬品適正使用の観点から、院内LANを活用して、全職員 向けに随時情報発信を行っている。 <当院の医薬品購入状況> 当院における医薬品購入金額(放射性医薬品・検査試薬 を除く) を図に示しているが、23年度33億4千万円、24年度 36億7千万円、25年度34億6千万円となり、 これまで通り増 加傾向が続いている。購入金額の上位を占めるものとして は新規抗がん剤の分子標的薬、抗ウイルス薬等であり、今ま でと大きな変化等はみられていない。 <後発医薬品の導入状況について> 後発医薬品への導入についても一定の基準も持って選 定にあたり、平成25年度末には258品目となった。 なお、平 成25年4月に 「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロ ードマップ」が示され、後発医薬品数量シェアの算出方法が (後発医薬品の数量( /[後発医薬品のある先発医薬品の数 量]+[後発医薬品の数量])) となり、平成30年3月までに 数量シェアを60%以上とする目標が示された。 この新算出 方法によると平成25年度末の当院の数量シェアは57.3% (旧算出方法では37.0%) となった。 また平成26年度の診 療報酬改定の機能評価指数Ⅱの見直しの中で「後発医薬 品指数」が新設され、数量シェア60%を評価上限として後 発医薬品の使用割合が評価されることとなった。 このような 状況の中、当院においても今後数量シェア60%以上を目標 とし、後発医薬品の切り替えに積極的に取り組んでいく必要 があると考える。 図)医薬品購入金額並びに採用品目数、採用後発品目数 金 額 ︵ 単 位 ・ 千 円 ︶ 4,000,000 1,600 3,500,000 1,400 3,000,000 1,200 2,500,000 1,000 2,000,000 800 1,500,000 600 1,000,000 400 500,000 200 0 0 H 1 7 年 度 H 1 8 年 度 H 1 9 年 度 H 2 0 年 度 H 2 1 年 度 H 2 2 年 度 H 2 3 年 度 H 2 4 年 度 H 2 5 年 度 薬事委員会 薬 十二誘導心電図 胸部レントゲン写真 購入金額 採用品目数 採用後発品目数 品 目 数 Kyushu Medical Center 臨床試験支援センター 独立行政法人 国立病院機構 九州医療センター臨床研究センター便り 平成26年度Vol.3(秋) 信頼される治験実施医療機関 臨床試験支援センター 若狭 健太郎 回は、治験を実施する医療機関における留意点を、 GCP実地調査の照会事項をとりあげて紹介させてい ただきます。 GCP実地調査とは、原資料(診療録等)から、治験が、被 験者の人権、安全、福祉の向上を図り、治験実施計画書を遵 守して実施され、科学的な質と成績の信頼性が確保されて いるかを検証するものです。調査における実施医療機関へ の改善すべき事項の内訳としては、多いものから以下のよう になっています。 ① 治験実施計画書からの逸脱 ② 被験者の同意 ③ 症例報告書への記載不備 ④ 被験者の選定 ⑤ 記録の保存 ①に関する事例としては、臨床所見スコアが中止基準に 達しているにも関わらず試験が継続されていた、検査結果 により治験薬の投与量の増減が規定されているにも関わら ず遵守されていなかった、検査結果を確認する前に治験薬 が投与されていた、主要評価を実施するためのCT撮影が 規定された撮影条件(スライド厚等) で実施されていなかっ た等があります。 今 ②に関する事例としては、前治療薬のwash-outを同意取 得に先立って実施した、投与前検査を同意取得に先立って 実施した、説明文書を改訂したが被験者に対して文書によ る再同意を得ていなかった、説明文書に記載のない再検査 を行うことに関し被験者へ情報提供し同意を得た旨を文書 に記録していなかった等があります。 ④に関する事例としては、除外基準(※)に規定された併 用禁止薬の投与及びwash-out期間が遵守されていなかっ た、 既往歴・合併症・臨床検査値が除外基準に抵触していた、 治験薬投与前に変更が禁止されていた前治療薬の用量が 変更されていた等があり、通常診療ではあまり実施しない 検査項目や、同意前の過去の履歴に関する規定を見落とし てしまうケースが多く、選択・除外基準を独自に解釈してしま うケース、通常の診療の経験から問題ないと判断し、組み 入れてしまうケースがあるようです。 (※)選択・除外基準は、被験者保護の観点及び有効性等の情報を適 切に収集すること等を目的として、治験依頼者により根拠をもっ て設定されています。 日本の臨床研究に関する不祥事が相次いで明るみに出 ている現在、信頼回復のために国をあげて対策が行われて います。国際共同治験が増えている治験分野において、当 院をはじめ日本の評価の改善に向けて、今後ともご協力の ほど宜しくお願いいたします。 Kyushu Medical Center お知らせ 候不順の夏がようやく終わり、馬肥ゆる秋を迎えて、 皆様にはご健勝のことと存じます。臨床研究センタ ーは本年度の国立病院機構臨床研究活動実績評価におい て、130施設中5位でしたが、現在は共同研究における主任 研究領域の拡大(脳卒中、消化器、血液、経営管理)、英文原 著への新たな取り組みなど着実に進展しています(表1)。 天 表1 また院内の臨床研究発表会では血液分野が初めて最優秀 学術賞に輝き、臨床研究の主体性、内容の広がりや質の面 で一段高い活動が展開されています。今後さらに、当院の総 合力を生かした臨床研究・治験を推進していきますのでどう ぞよろしく御願い申し上げます。 平成26年10月 臨床研究センター長 岡田 靖 臨床研究評価トップ10(平成25年度) 1 大阪医療センター 5,635.0 点 6 相模原病院 3,535.0 点 2 名古屋医療センター 4,729.7 点 7 九州がんセンター 3,322.8 点 3 京都医療センター 4,140.4 点 8 四国がんセンター 2,772.9 点 4 東京医療センター 4,088.6 点 9 長崎医療センター 2,290.4 点 5 九州医療センター 3,753.2 点 10 岡山医療センター 1,711.9 点 20周年開院記念行事にあわせて平成25年度優秀研究表彰 を行いました (表2) 。 次頁「臨床研究報告」にて内容を順次ご紹介いたします。 全国143施設のうち、臨床研究センター12施設、臨床研究部71施設、院内標榜臨 床研究部47施設(全130施設)から 表2 r 学会の お知らせ Kyus hu Med ic a l C t en e 第49回 九州リウマチ学会 九州医療センター学術賞 九州医療センター最優秀学術賞 2015年 3月21日(土)∼22日(日) 会 長 宮原 寿明(九州医療センター副院長) 会 場 アクロス福岡 事務局 ★山崎 聡先生(血液内科) 再発又は難治性の高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に 対する救援化学療法の最適化 九州医療センター 整形外科 江崎 幸雄 九州大学整形外科 中島 康晴 九州医療センター優秀学術賞 ☆永井 清志先生(歯科口腔外科) C型慢性肝炎の3剤併用IFN療法における口腔症状の評価 ブラジルワールドカップでは、 「自分たちのサッカーができな かった」ため、日本代表は3戦全敗で予選敗退となりました。 テニス全米オープンでは、 錦織 圭選手が快進撃を続け準決勝 発 行 責 任 者: 臨床研究センター長 医療管理企画運営部長 がん臨床研究部長 各研究室室長・副室長: 組織保存・移植 生化学・免疫 研究企画開発 化学療法 放射線治療開発 システム疾患生命科学推進 医療情報管理 臨床試験支援室 独立行政法人 国立病院機構 九州医療センター ではランキング1位のジョコビッチ選手に圧勝しました。 しかし ながら、 決勝では、 チリッチ選手に対する過去の優位な対戦成 績にとらわれ、 自分が出せずに3:0で敗れました。 ここ一番で自 分の全てを出すためには何が必要なのでしょう。 (原田) 岡田 靖 (臨床研究企画運営部長併任) 才津秀樹 臨床研究推進部長 楠本哲也 トランスレーショナル研究部長 岡村精一 、 江 崎 幸 雄 病態生理 山本政弘 、 冨 永 光 裕 動態画像 中牟田誠 、 久 冨 智 朗 情報解析 蓮尾泰之 、 内 野 慶 太 臨床腫瘍病理 松村泰成 、 坂 本 直 孝 先端医療技術応用 佐藤真司 、 小 河 淳 医療システムイノベーション 原田直彦 、 占 部 和 敬 教育研修 岡田 靖 、 山 脇 一 浩 〒810-8563 福岡市中央区地行浜1丁目8番1号 矢坂正弘 富田幸裕 中 村 俊 博 、 一 木 昌 郎 、 村里 嘉 信 黒岩俊郎、桑城貴弘 吉住秀之、中村 守 桃崎征也、中川志乃 小野原俊博、高見裕子 詠 田 眞 治 、 甲 斐 哲 也 、 津本 智 幸 末松栄一、 TEL:092-852-0700(代) FAX:092-846-8485 Kyushu Medical Center 海外視察報告 国際エイズ会議AIDS 2014に参加して 免疫感染症科 南 留美 014年7月20日から25日までオーストラリアのメル ボルンで、世界中から1万3300人の参加者が集まり 第20回国際エイズ会議が開催されました。本会議は、毎回、 HIV/AIDSの基礎研究や臨床、疫学などの医学分野だけで はなく、政治、経済、社会分野からも多くの人々が参加し、い わゆる学術集会とは趣が異なっています。今回は、本会議 に参加予定であった6名がウクライナで撃墜され死亡が確 認されたという痛ましいニュースとともに始まりました。 今回の会議のテーマは「STEPPING UP THE PACE (ペースをあげよう)」。現在、抗HIV治療提供拡大の努力に 2 ◆楠本 哲也先生(消化器センター外科) 胃癌HER2陽性診断および陽性胃癌に対するtrastuzumab併用化 学療法 ◆辻 麻理子先生(AIDS/HIV総合治療センター) HIV陽性患者に合併する認知機能障害に関連する因子の解析 ◆榊 美奈子先生(高血圧内科) 高血圧患者における尿中食塩排泄量の長期的変動性と血圧についての検討 ◆古森 元浩先生(脳血管・神経内科) ダビガトラン療法中に発症した頭蓋内出血8例のケースシリーズ解析 よりHIV陽性者の1/3が治療を受けることが出来るようにな りましたが、 まだ治療のアクセスを得られていない人が 2200万人もいます。 「もっとペースを上げ、対策の規模を2 倍にしなくてはならない」 と開会式でも指摘されました。 また 「HIV対策によりHIV感染は死の宣告から管理可能な慢性 疾患へと変わってきた」 とも述べられていました。 私も今回は「The influence of adiponectin and glucokinase regulatory protein polymorphisms on antiretroviral therapy-induced hyperlipidemia」 という演 題でポスター発表を行いました。 HIV感染症が慢性疾患となった今、 抗HIV治療の副作用を出来るだ け少なくしたいと考えて始めた研 究ですが、興味を持ってポスタ ーを見て下さっている参加者や
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