日本のエネルギー事業会社の新興国進出戦略

論 文 要 旨
所属ゼミ
小林喜一郎研究会
学籍番号
81330927
氏名
戸谷 好孝
(論文題名)
新興国におけるインフラ事業戦略
-日本のエネルギー事業会社の新興国進出戦略-
(内容の要旨)
<研究の目的>
本研究の目的は、国内エネルギー事業会社の新興国進出における成功要因を見つけることである。
ここに至る背景として、国内エネルギー事業会社における国内市場での成長性への懸念と海外成長
市場における進出の遅れの二つの懸念がある。国内市場での成長性への懸念については、少子高齢
化により生産年齢人口に比例するエネルギー市場が長期的に縮小傾向であること、また、規制緩和
による国内エネルギー市場の競争激化などが挙げられる。加えて、海外成長市場における日本のエ
ネルギー事業会社の進出の遅れについては、新興国においてはエネルギーインフラ整備への需要が
旺盛である中、欧米のエネルギー企業は本国市場の自由化を契機としてグローバル化を進めている
一方、国内エネルギー企業は本国市場の規制に守られていた過去から続く無リスク経営体質により
海外進出に消極的であることが挙げられる。
以上から、国内エネルギー企業が今後長期的な成長を達成するには、エネルギー需要旺盛な新興
国への進出が不可欠であり、その成功要因を分析し、自社及び国内エネルギー企業への提言を行う。
<研究のプロセス>
先行研究及び先行事例である水ビジネスから、「本国と進出との距離(CAGE)」を考慮した地域
選定、進出に際して「自社以外の企業との協業要否」、自社が保有しているべき「内部資源」、参入
形態や進出事業領域など「自社の取り得る戦略」、という観点から新興国進出への成功要因のフレー
ムワークを形成し、そのフレームワークから仮説を導出した。
仮説の検証方法としては、事例研究を実施した。事例研究では、現在時点で新興国市場に進出経
験のある企業をタイプ別に、日系エネルギー事業会社(5 社)、日系商社(4 社)
、欧米系エネルギー
事業会社(6 社)の計 15 社を選定した上で、文献研究により、導出した仮説の検証及び、戦略のタ
イプ分けを実施した。
<主な結論>
進出地域の選定に際しては、CAGE を考慮した地域選定をしており、特に進出国の規制緩和(A)
が前提条件となっている。また、協業に関しては、本国関連・支援産業とは自社がエネルギーバリ
ューチェーン全ての機能を持っているかどうかが協業要否を決め、進出国同業企業とは現地でのタ
ーゲット顧客の設定により協業要否が決まる。なお、自社の内部資源に関しては、新興国進出への
「トップのコミットメント」が必須であり、現地ネットワークやリスクマネジメント力は自社保有
が望ましいが、協業先からの獲得により進出も可能である。参入形態は「合弁」もしくは現地企業
の「買収」により進出するが、現地での進出事業領域によって参入形態が異なる。加えて、進出事
業領域は、本国で享受する法規制有無によって決まる。
また、新興国進出戦略は、自社の「事業運営ノウハウの幅」から本国での協業要否、進出地域で
の「参入事業領域の幅」によって参入形態が決まり、大きく 4 つの戦略パターンに分けられ、企業
グループ毎に異なる戦略を採用している。日系エネルギー事業会社は「本国協業型合弁」戦略、日
系商社は本国協業有無を問わない「合弁」戦略、欧米系エネルギー事業会社は参入形態を問わない
「本国非協業型」戦略を採用している。
なお、海外進出は売上、利益ともの上昇させることのできる有効な手段である一方、本国での事
業運営と比較してリスクが高いため、トップのコミットメントと海外事業を行うための専従組織の
形成、国内市場での安定的なキャッシュの創出が上記戦略を遂行する上で前提条件となる。