「日本にとって国連とは何か」

平成 27 年 3 月 16 日/東京・国連大学
日本国総理大臣・安倍晋三
「日本にとって国連とは何か」
**行動の年、日本の覚悟
デイビッド・マローン学長、ご紹介有難
しかし、このことが教えるのは、ただひ
うございました。
とつ。国際社会は、「デバイデッド」であ
ってはならない、ますます、「ユナイテッ
潘基文事務総長、素晴らしいお話に、
たいへん感銘を受けました。お礼を申
ド」でなければならないという事ではな
いでしょうか。
し上げます。
今年の安保理選挙において、11 度目
お集まりの皆様、国連にとって、また
の当選を目指して立つ我が国は、あら
日本にとっても、今年から来年にかけて
ゆる問題、いかなる局面でも、国連内
は、たいへん重要な時期に当たります。
外の議論をリードしていく覚悟です。
国連にとっては、今年が発足 70 周年。
新たな開発のアジェンダには、日本
日本にとっては、来年が、国連に加わっ
の進めてきた「人間の安全保障」を目
て 60 年目の年になります。私達はこの
指す思想を、盛り込むことを訴えます。
2 年を、「具体的な行動の年」と位置づ
けることにしました。
なにより、安保理の改革は、もはや議
論に時間を割くときではありません。具
私達が直面する課題は、国家の枠を
体的な、成果を生むときです。
超えるものばかりです。過激主義、テロ
リズム、核拡散の恐れ、気候変動や、恐
ろしい感染症。
日本は、ひとつ、ひとつ、実績を積み
上げてきた静かな誇りを胸に、常任理
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事国の役目を引き受ける用意がありま
来に対して決意を新たにする時となる
す。いままで、そうでした。この先も、そ
でしょう。
うであり続けます。
戦後、日本は、先の大戦に対する深
例えば日本にできる貢献には、新し
い反省の上に、自由で、民主的で、人
い分野もあります。
権を守り、法の支配を尊ぶ国づくりに励
みました。
「スマート・プラチナ・ソサエティ」―。
まだ、皆様の辞書には無いかもしれま
目指したものとは、アジア・太平洋、
せん。ないなら、この際「ジャパングリッ
世界の平和と発展、繁栄に、貢献でき
シュ」としてご記憶ください。
る国となることでした。
情報通信技術やロボットの技術を活
そう考えた父や母、祖父母ら先人達
かし、お年を召した方々が、元気に暮ら
が、再び国連に入れてどんなに喜んだ
せるようにする社会のことです。
か、また、感謝の念を抱いたか。後の世
代の私達も、折に触れ想像してみたい
国連が、エイジングの問題に力を傾
ものです。
けるいま、「プラチナ化」で先頭を行く
日本は、得意技術の粋を尽くして取り
組むつもりです。
加盟が許された日、重光葵(まもる)外
相は国連で演説し、「日本がもつすべ
ての手段をもって、国連憲章が掲げる
義務を遂行する」と宣言しました。
**60 年前の誓いをいまに
今年、そして来年は日本にとって、国
連とともに歩んだ道のりを振り返り、未
重光を継いで外相となった岸信介―
私の祖父も、国会の演説で、「常時、国
連の権威向上と国連を通じての世界平
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和の確保のため、応分の寄与をなす心
金言は、いまなお私達の心に響きま
がまえが必要」だと強調しています。
す。
初心を貫き、以来日本は、国連を支
しかし日本に関する限り、国連の大切
える、太くて、頑丈な柱であり続け、今
さを、誰かに説得してもらわなくてはな
日に至ります。
らない必要は、まったくありませんでし
た。
60 年前の喜びと感謝を、常に思い起
こしながら、初志を、今日の誓いとし続
なぜならば、皆様――、日本国民と
けること。――その意義を、私はとくに、
は、国連の掲げる理想の下、自分たち
次の世代をになう若い日本人に、伝え
に何ができるかを常に考え、力を惜し
たいと念じています。
まない国民だからです。
その点、誰と比べても、人後に落ちな
**資金を拠出し、アイデアを出した
いからです。これまで、そうでした。今
「天国に連れて行ってくれるものでは
後とも、そうであり続けます。
ない」と、国連について述べたのは、第
二代事務総長のダグ・ハマーショルドで
した。
日本が払った国連分担金、PKO 分担
金の累計は、その時、その時の金額の
積み上げで、200 億ドルをゆうに上回り
ます。過去約 30 年、日本を上回る財政
「しかし国連は、地獄行きからなら救
ってくれる」と、有名な言葉(エピグラム)
的貢献をした国は、唯一、米国を数え
は続きます。
るにすぎません。
東西冷戦たけなわのころ、国連の意
義を諦めず、情熱を燃やし続けた人の
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開発援助の実績は、これも当時の金
日本は、アマルティア・セン、緒方貞
額の積み上げで、3249 億ドルに上りま
子といった指導者とともに、安全保障の
す。
概念に、ある根底的転換を促しました。
自画自賛をしているのではありません。
「安全保障」という言葉の前に、「国家」
59 年前の初心を今日まで貫いたという
でなく「ヒューマン」がつくのは、この時
そのことを、自らに言い聞かせ、皆様に
からです。
知っていただくため、あえて申し上げて
おります。
それは時代の変化をとらえ、日本が、
年来育ててきた哲学を、国連の課題、
そのうえで、もう一度、訴えておきまし
ょう。国連には、変化し、複雑化する国
人類の課題として、信念を持って押し
出した時でもありました。
際社会の課題に応えられるよう、改革
が不可欠です。安保理を含む改革の
実現が、欠かせません。
人間、ひとり、ひとりに重きを置き、読
み書き、算術を教え、欠乏と、恐怖から
の解放を図ってきたのは、近世以降一
日本と国連との関係で、もうひとつ、
貫した、日本の歩みだったからでした。
触れておかなくてはならないことがあり
ます。
**私達が考えた、援助のかたち
1990 年代、東西冷戦が、私達、自由
教育こそは、人が人たるための尊厳
で民主主義的な政治経済体制をもつ
を生み、平和と繁栄の基礎をなします。
側の勝利として、終わったときのことで
犯罪や、過激主義を防ぐ、社会の安定
した。
につながります。
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「すべての子供たちに質の高い教育
今年も、夏休みが明けたころ、どうか日
を」――、日本が実施する支援では、こ
本にお集まりください。
の考えを常に柱のひとつとしています。
UN Women に対する拠出の額は、
私達は、村に学校を建てます。校舎
本年、一昨年に比べ、10 倍に増やしま
に清潔な洗面所をつくり、少女たちを不
す。
安から解き放ちます。
エイズ、マラリア、結核という三大感染
水を汲むだけに半日を費やし、その
症撲滅を目指した、グローバル・ファン
重労働が得てして女性の肩に食い込
ドの発足と、発展に、日本は邁進しまし
む。――私達はこうした状態を不正義
た。
と思い、女性や、少女、ひとりひとりの
今年も日本は、ファンドに 1 億 9000
エンパワーメントを追い求めます。
万ドルを拠出し、12 月には東京で、ファ
皆様――、私達は、こうした考えのも
ンドの未来を語り合う会議を開きます。
と、今日まで、一筋の道を歩いてまいり
ました。
近々日本は、ケニア政府の保健政策
それ自体を支えようとする、前例のない
「女性が輝く社会」をつくろうと、私は
支援に踏み切ります。金額はおよそ、
40 億円となるでしょう。
毎日話します。何度でも、いつまでも、
言い続けます。
その政策とは、すべての人が、基礎
昨年開いて成功を収めた「WAW!
的な保健サービスを、妥当な費用で受
(World Assembly for Women)」という
けられるようにすること、「ユニバーサ
会議を、社会の「game change」が実現
ル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の推進
するその日まで、いつまでも続けます。
です。
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確かに私達は、誰よりも、ヒロシマ、ナ
この 20 年一心に進めてきた開発政
ガサキが、二度と繰り返されてはならな
策、ヒューマン・セキュリティの思想に立
いことを知っています。だからこそ、国
つ援助の理念を、私達はこのほど、「開
連の場において、核廃絶の必要を訴え
発協力大綱」として発表しました。
続けてきました。
開発とは、持続可能で、長い視点に
本年は、ヒロシマ、ナガサキ以来、70
立つものでなくてはなりません。欠乏、
年を迎える年でもあります。この両都市
恐怖からの解放に加え、これからは、夢
で重要な国際会議を開き、核軍縮の意
を見る自由を、人々に与えるものとなる
義と、拡散の危険を訴えます。そのうえ
必要がある。そのためにこそ、質の高
で、今年も日本は、国連総会に、核軍
い成長を目指さなくてはなりません。
縮決議案を提出します。
これが、私達の開発協力大綱に流れ
今年の初め私は、イエルサレムでヤ
る思想です。「ポスト 2015 年・開発アジ
ド・ヴァシェムを訪れ、特定の民族を差
ェンダ」の議論に、寄与できればと願っ
別し、憎悪の対象とすることが、人間を
ています。
どれほど残酷なものにしてしまうのか、
深く心に刻みました。
私たちはこの 6 月、「アジアの平和構
**ヒロシマ、ナガサキ、平和構築
59 年前、国連加盟がなった日の演説
築と国民和解、民主化に関するハイレ
で、重光外相は、「日本は原子爆弾の
ベル・セミナー」という会議を開きます。
試練を受けた唯一の国であって、その
フィリピンのミンダナオで、スリランカで、
惨害の如何なるものであるかを知って」
日本外交はささやかながら、憎しみを
いると述べました。
解き、和解を促す努力を続けてきまし
た。
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いまこの瞬間にも、エボラ熱に苦しむ
6 月に開くのは、アジアの国々がおの
患者がいて、無法なテロリストたちに、
おの、そうした経験を持ち寄る会議で、
脅かされる命があります。大量破壊兵
場所はここ、国連大学です。
器の建設に勤しむ者があれば、その拡
散を図る者もあるでしょう。
日本がいま、「国際協調主義にもとづ
く積極的平和主義」の旗を掲げている
国連とは、古くなることを予め禁じられ
ことは、皆様ご存知でしょう。国連との
た組織です。常に、新たに、生まれ変
協調、協働が、その根幹にあることは
わることを義務づけられた集団です。
言うまでもありません。
なぜなら問題が、姿、形を変えようとも、
いつもそこに存在し続けるからです。
あわせて私達がいま、平和構築の専
門家を育てるため、包括的な事業を始
国連改革は、急務であって、私たち
めることも、ご記憶いただければと思い
はそのためあらゆる努力を惜しまない
ます。
ことを繰り返し、私の話を終わりにいた
します。
**国連は、古くなれない
ありがとうございました。
最後に申し上げます。
国連のような組織にとって、長寿を祝
うことができるとすれば、それは、常に
前進を続けていることの、証明となる場
合にのみ、でしょう。
7/7
了