平成27年 日本音声言語医学会理事長 9月8日 殿 所属施設・部局 福島県立医科大学・耳鼻咽喉科 申 請 者 (代 表 者 ) 今泉光雅 ( 署 名・捺 印 ) 所属部局責任者 大森孝一 ( 署 名・捺 印 ) 研究報告書 フ ゚ ロ シ ゙ ェ ク ト の 名 称 : ヒ ト iPS細 胞 を 用 い た 喉 頭 組 織 再 生 に 関 す る 研 究 1 .実 施 結 果 の 概 要( 800字 程 度:な お ,そ の 中 に 本 経 費 で 購 入 し た 機 器・消 耗 品 等 が ,ど のように研究に活用されたのかを簡潔に記入する。) 喉 頭 組 織 の 再 生 に 有 用 な 移 植 材 料 、お よ び 移 植 細 胞・組 織 の 実 用 化 に 向 け て 研 究 を 行 う 。 生 体 適 合 性 の Injectableな ゲ ル を 骨 格 と し 細 胞 の 進 入 ・ 生 着 に 適 し た 足 場 材 料 ( ス キ ャ フ ォ ー ル ド )を 作 製 、研 究 し た 。ヒ ト 声 帯 の 損 傷 後 の 再 生 促 進 を 意 図 し 、ヒ ト iPS細 胞 の 培 養 法を確立した。 実績、成果 ① iPS細 胞 の 培 養:ヒ ト iPS細 胞 の 樹 立 を 世 界 で 初 め て 成 功 さ せ た ウ イ ス コ ン シ ン 大 学 、京 都 大 学 よ り ヒ ト iP細 胞 を 入 手 し た 。フ ィ ー ダ ー 細 胞 上 ま た は フ ィ ー ダ ー 細 胞 フ リ ー で の 状態で培養し、実験に適した培養方法を確認し、十分量のストックの確保に成功した。 ② 足 場 材 料 の 開 発 : 上 皮 再 生 を 行 う 上 で 最 適 な 条 件 を 探 索 し 、 生 体 適 合 性 の Injectable なゲルを入手した。 ③ iPS細 胞 の 声 帯 上 皮 へ の 分 化 誘 導 技 術 の 開 発 : 純 化 し た iPS細 胞 を ゲ ル 内 に 包 埋 し 、 三 次 元 培 養 方 法 を 確 立 し た 。 三 次 元 培 養 方 法 以 外 に も 、単 層 培 養 や 声 帯 由 来 の 線 維 芽 細 胞 等 と 共 培 養 し て 培 養 皿 上 で も 、分 化 誘 導 し 、比 較 検 討 を 試 み た 。 ゲ ル へ の EGFな ど の 増 殖 因 子 添 加 な ど に よ り iPS細 胞 の 分 化 を 誘 導 し 、 上 皮 形 成 を 図 り 、得 ら れ た 組 織 片 の 組 織 像 、蛋 白 質 や 遺 伝 子 の 発 現 に 関 し て 評 価 を 行 い 発現が確認された。 2 0 1 4 年 9月 、高 橋 政 代 医 師 を プ ロ ジ ェ ク ト リ ー ダ ー と す る 理 化 学 研 究 所 チ ー ム ら が 、患 者 由 来 の iPS細 胞 か ら 作 製 し た 網 膜 の 細 胞 を「 加 齢 黄 斑 変 性 」の 患 者 に 移 植 し た こ と が 報 道 さ れ た が 、2 例 目 に 移 植 す る 際 、iPS細 胞 の 腫 瘍 化 の 危 険 性 が 高 く 、移 植 が 中 止 さ れ た 経 緯 1 が あ る 。そ の た め 、よ り 適 切 な iPS細 の 作 成 方 法 、分 化 誘 導 方 法 が 重 要 で あ り 、情 報 収 集 に 時間を割くべきと考え、結果として本経費は学会参加・研修費の主に使用された。 2 2.本研究に関わる将来展望 (1) 研究成果とそのインパクト(A4用紙に2~3枚程度) 音 声 障 害 の 生 涯 に お け る 罹 患 率 は 約 30% と さ れ て お り 、 個 人 の QOL( 人 生 の 質 ) の み な らず、音声障害に伴う社会的・経済的損失に関しても報告されている。声帯瘢痕に伴う 音声障害は、喉頭の術後や炎症、外傷後に形成され、瘢痕の形成に伴い声帯粘膜の振動 が阻害され、その結果音声障害が生じる。声帯の瘢痕に対する治療は、ステロイド薬や 成長因子の注入、種々の細胞や物質、組織片の移植などが試みられているが、現在まで 決定的な治療法がないのが実情である。 細胞治療の中でも、最も期待されているのが幹細胞治療である。通常の分化した体細 胞と比較し、幹細胞は分化能や増殖能に優れ、血液内科領域や整形外科領域等ですでに 臨床応用され、通常の体細胞や組織の移植では得られない利点が報告されている。しか しながら、現在まで幹細胞を用いた声帯の治療に関する臨床研究は報告されていない。 我 々 の 研 究 グ ル ー プ は 、 マ ウ ス iPS細 胞 を 用 い た 気 管 の 再 生 研 究 を 行 い 、 in vitro、 in vivoの 実 験 に て 良 好 な 結 果 を 得 て い る 。 無 限 の 増 殖 能 や 分 化 能 を も ち 、 患 者 本 人 の 細 胞 か ら 作 製 可 能 な iPS細 胞 は 、 移 植 医 療 に お い て 大 き な 問 題 と な る 組 織 の 拒 絶 も 原 則 認 め な い と さ れ 、 再 生 医 療 に お い て 理 想 的 な 細 胞 と い え る 。 ヒ ト iPS細 胞 が 臨 床 応 用 可 能 と な れ ば、音声障害を有する労働者の人口を減少させることが可能であり、より豊かな社会生 活に貢献できることが期待される。 本 研 究 の 対 象 で あ る 声 帯 上 皮 は 声 帯 の 重 要 な 構 成 要 素 で あ る が 、声 帯 組 織 再 生 に 対 す る iPS細 胞 を 利 用 し た 研 究 は 不 十 分 で あ る の が 現 状 で あ る 。 ヒ ト の 声 帯 が 疾 患 等 に よ り 損 傷 し た と き に 、そ の 修 復 に 幹 細 胞 等 を 用 い た 再 生 医 療 技 術 を 適 用 す る こ と は 、そ の 後 の ヒ ト が 生 活 の 質 (QOL)を 落 と さ ず に 暮 ら し て い く た め に 必 要 な 技 術 で あ る こ と は 言 を 待 た な い 。 幹 細 胞 の ソ ー ス と し て は 、骨 髄 由 来 間 葉 系 幹 細 胞 、脂 肪 由 来 間 葉 系 幹 細 胞 、胚 性 幹 細 胞 等 が 存 在 す る が 、こ れ ら の 細 胞 は 増 殖 能 や 分 化 能 に 限 り が あ る 、 ま た は 倫 理 的 問 題 が あ る 、 移 植 時 に 拒 絶 反 応 が 予 想 さ れ る 等 、理 想 的 な 幹 細 胞 と は 言 え な い 。 2 0 0 6 年 に マ ウ ス 人 工 多 能 生 幹 細 胞 (iPS細 胞 )が 京 都 大 学 山 中 教 授 に よ っ て 開 発 さ れ 、 2 0 0 7年 に ヒ ト iPS細 胞 が 、 京 都 大 学 山 中 教 授 お よ び ウ イ ス コ ン シ ン 大 学 ト ム ソ ン 教 授 ら に よ っ て 誕 生 し た 。 iPS 細 胞 は 増 殖 能 や 分 化 能 に 限 り が な く 、倫 理 的 問 題 や 移 植 時 の 拒 絶 反 応 を 認 め な い こ と よ り 、 前 述 の 問 題 点 を 解 決 す る 可 能 性 が 極 め て 大 き い 。 マ ウ ス iPS細 胞 に 関 し て は 研 究 が 進 ん で い る が 、臨 床 応 用 の 実 用 化 に 向 け て 、ヒ ト iPS細 胞 の 研 究 開 発 が 急 務 で あ る 。 2 0 1 4 年 9 月 、高 橋 政 代 医 師 を プ ロ ジ ェ ク ト リ ー ダ ー と す る 理 化 学 研 究 所 チ ー ム ら が 、 患 者 由 来 の iPS細 胞 か ら 作 製 し た 網 膜 の 細 胞 を「 加 齢 黄 斑 変 性 」の 患 者 に 移 植 し た こ と が 報 道 さ れ た 。こ れ は iPS細 胞 を 用 い た 臨 床 研 究 を 世 界 で 初 め て 実 施 し た も の で あ り 、細 胞 移 植 は今後眼科領域のみではなく、人体のあらゆる部位に応用される可能性を示唆する。 3 耳鼻咽喉科領域において、内耳再生に関する多能性幹細胞を用いた研究は比較的活発に 行 わ れ 、ヒ ト iPS細 胞 を 用 い た 内 耳 有 毛 細 胞 の 再 生 に 関 す る 報 告 も さ れ て い る 。し か し な が ら 、喉 頭 再 生 に 関 す る ヒト多 能 性 幹 細 胞 を 用 い た 移 植 実 験 は 、現 在 ま で Cedervallら が 、2007 年 に報 告 したヒトES細 胞 を用 いた動 物 モデルのみである。ヒト多 能 性 幹 細 胞 の維 持 培 養 が困 難 であ ること、および分 化 誘 導 技 術 が高 度 であることより、続 報 が報 告 されないまま10年 が経 過 しようとして いる。本 研 究 では、倫 理 面 、細 胞 移 植 の際 の拒 絶 の問 題 ともに優 れたヒトiPS細 胞 を用 いた移 植 モ デルの研 究 であり、世 界 的 にも類 を見 ない独 創 的 な研 究 であるといえる。そのため、本 申 請 の 研 究 開 発 が 成 功 し 、喉 頭 の 再 生 技 術 が 確 立 さ れ た 暁 に は 、喉 頭 組 織 の損 傷 、特 に声 帯 組 織 の損 傷 に伴 う音 声 障 害 を治 療 ・修 復 することが可 能 となり、成 長 因 子 の投 与 、細 胞 の移 植 治 療 等 の治 療 法 によっても音 声 回 復 が困 難 である現 状 においては、新 たな治 療 方 法 となり得 る。 研究成果 ① iPS細 胞 の 培 養 : ヒ ト iPS細 胞 を 入 手 し 、フ ィ ー ダ ー 細 胞 上 ま た は フ ィ ー ダ ー 細 胞 フ リ ー で の 状 態 で 培 養 に 成 功した。培養自体が困難であり、失敗に終わることの多い実験系であるが、分化したヒト iPS細 胞 の コ ロ ニ ー は 適 宜 除 去 す る こ と に よ っ て 、 移 植 実 験 に 適 し た 培 養 方 法 を 確 立 し た 。 継 代 培 養 中 の ヒ ト iPS細 胞 分化してしまった部位は認めず、 適切に未分化な状態のまま維持 培養されている。 フィーダー細胞フリーでの培養 条件 (継代培養後4日目) 継 代 培 養 中 の ヒ ト iPS細 胞 iPS細 胞 が 分 化 し て し ま い 、 不 均 一 な 形 態 を 示 し て い る 。培 養 が 困 難 と さ れ て い る 点 で あ り 、毎 日 観 察を行い必要であれば排除する 必要がある フィーダー細胞フリーでの培養 条件 (継代培養後4日目) 4 ② 足場材料の開発: 上 皮 再 生 を 行 う 上 で 最 適 な 条 件 を 探 索 し 、 生 体 適 合 性 の Injectableな ゲ ル を 入 手 し た 。 実 際 の 分 化 誘 導 実 験 施 行 前 に 、ヒ ト iPS細 胞 お よ び 声 帯 由 来 線 維 芽 細 胞 を 、ゲ ル 上 お よ び ゲ ル内に包埋した。三次元的な培養環境で、細胞が生着および増殖するかを確認した。 ③ iPS細 胞 の 声 帯 上 皮 へ の 分 化 誘 導 技 術 の 開 発 : 純 化 し た iPS細 胞 を 生 体 適 合 性 の Injectableな ゲ ル 内 に 包 埋 し 、三 次 元 培 養 方 法 を 確 立 し た 。 声 帯 由 来 の 線 維 芽 細 胞 等 と 共 培 養 し 、分 化 誘 導 後 比 較 検 討 を 試 み た 。更 に Epidermal growth factor( EGF) な ど の 増 殖 因 子 を ゲ ル へ 添 加 し 、 よ り iPS細 胞 の 分 化 を 効 率 的 に 誘 導 し 、 上 皮形成を促した。 得られた組織片の組織像、蛋白質や遺伝子の発現に関して評価を行った。組織像として、 分 化 誘 導 を 行 っ た iPS細 胞 は 、上 皮 の 特 徴 で あ る 細 胞 間 同 士 の 接 着 お よ び 極 性 が 確 認 さ れ た 。 分化誘導を行ってない細胞群では、細胞間同士の接着所見や極性は認められず、組織学的 な変化は確認されなかった。 声帯由来線維芽細胞との共培養 を 試 み た ヒ ト iPS細 胞 細 胞 塊 を 形 成 し て い る の が 、ヒ ト iPS細 胞 で そ の 周 囲 の 紡 錘 状 の 細 胞が線維芽細胞 (2)その他に特記すべきことがありましたら記入ください。 5 3.実績発表(発表予定を含む) 代表者・分担者氏名 発 表 論 文 名・著 者 名 等( 音 声 言 語 医 学 誌 の 投 稿 規 定 に 沿 っ た 書 式 でお願いします)(著者名:論文名.雑誌名,巻:頁,年次.) 発表論文名 今泉光雅 iPS細 胞 を 用 い た 気 管 ・ 喉 頭 の 再 生 技 術 開 発 . 日 本 気 管 食 道 科 学 会会報,66:123-125,2015 Yoshie Susumu, Ikeda Visualization of mouse induced pluripotent stem cells for Masakazu, evaluation of tracheal regeneration. Acta Otolaryngol, Mitsuyoshi 135(4), 395-401, 2015. Imaizumi, et al. シンポジウム 今泉光雅 ヒ ト iPS細 胞 を 用 い た 声 帯 の 組 織 再 生 . 第 5 9 回 日 本 音 声 言 語 医 学会.2014年10月9日~10日 パネルディスカッション 今泉光雅 ヒ ト iPS細 胞 を 用 い た 喉 頭 ・ 気 管 の 再 生 技 術 開 発 . 第 6 6 回 日 本 気管食道科学会.2014年11月13日~14日 6
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