河川営力を活用した樹木管理抑制指標についての一考察

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
一般発表論文 №102
河川営力を活用した樹木管理抑制指標についての一考察
株式会社エイト日本技術開発
鈴木 良徳
株式会社エイト日本技術開発
平野 寿謙
株式会社エイト日本技術開発
北村 聡
株式会社エイト日本技術開発
○大関 祐次郎
論 文 要 旨
河道内樹木は、自然景観や生態系等の環境面や、堤防河岸保護の治水面において重要な役割を果たしている。一
方で、河道内樹木は河道の流下能力を低下させる、橋脚に樹木が引っかかり堰上げを発生させる等の治水上の問題
を引き起こす場合がある。
このような状況を踏まえ、加古川では河道内樹木が水位上昇に及ぼす影響を把握した上で『樹木管理ガイドライ
ン』を策定し、輪伐による樹木管理を実施すると共に、平成 20 年度以降は河川の営力により礫河原が維持される
河道計画を立案し、重点施工区域において樹林化抑制が実施されてきた。
本論文ではこれまでに実施されてきた重点区間におけるモニタリング状況及び、流況解析を踏まえ、礫河原を維
持するため指標について検討を行った。
キーワード:樹木管理、礫河原維持、モニタリング調査、平面流況解析、加古川
1.はじめに
近年、わが国の礫河床の多くは、河道内樹木の過剰な繁
茂や低水路の固定化、礫河原の減少により、洪水時の水位
上昇や礫河原特有の植物が減少する等、治水上・環境上の
課題が生じており、伐採・伐根、掘削・切り下げ、低々水
路の設置、フラッシュ放流などによる樹林化抑制の取り組
みが全国で実施されている。
加古川においても、平成 19 年度に中流部において試験
施工として切り下げが実施され、その後、モニタリング調
査が実施されている。加古川の試験施工から 5 年以上が経
過した現在、数度の洪水、冠水、かく乱を経験し、現状で
は土砂の堆積により試験施工前の状況に戻りつつあるが、
一部では礫河原の維持・樹林化抑制が図られている。
本論文では試験施工地のモニタリング結果を踏まえ、試
験施工当初に設定された目標指標について評価・再整理を
行い、加古川中下流部全体の平面流況解析を用いて、加古
川全川における適応性について整理を行った。
2.試験施工地概要
(1)試験施工地周辺の河道特性
図-1 加古川 23.6k 付近の植生の変遷
試験施工地は加古川のセグメント 2-1 に該当する区間
(2)試験施工地の概要
である 23.6k 右岸に位置し、計画高水流量は 4000 ㎥/s、
植生の繁茂が困難な河道形状を目指し、試験施工とし
平均年最大流量は 1280 ㎥/s、河床勾配は 1/820 となって
て、平成 19 年度にエリアⅠ~エリアⅢの 3 段階の切り下
いる。図-1に示すようにかつては交互砂州が形成され、
げを行った。上記エリアに加え、切り下げ区間よりも水
水際は礫河原が広く分布していたが、近年ではみお筋の
際側の礫河原をエリア 0 として 4 区分のエリア分けを行
固定化により、謙著に樹林化した箇所である。
った。
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3.モニタリング調査
①エリアⅠ
毎年のかく乱を想定し、礫河原が維持されるエリア
(1)期間中の主要出水
試験施工後、約 2 年間は十分な流量の洪水が発生しなか
(年最大流量 1280 ㎥/s 時にτ*≧0.05)
ったものの、平成 22 年 5 月、平成 23 年 9 月、平成 25 年 9
②エリアⅡ
概ね 5 年に 1 回程度のかく乱を想定し草地化により樹
林化が抑制されるエリア
(1/5 確率流量 1990 ㎥/s 時にτ*≧0.05)
月に 3000 ㎥/s を越える洪水が発生している。また、近年 7
年間で確率規模 1/5 年流量を上回る洪水は 7 回発生してい
おり、十分な掃流力が発生していたことが推察される。
表-1 主要洪水流量一覧
③エリアⅢ
洪水影響をほとんど受けず樹林化を許容するエリア
④エリア 0
切り下げ範囲よりも水際側で平水程度で礫河原が維持
されているエリア
(2)地形の経年変化
地形変化の把握のため、試験施工地について横断測量を
実施し、経年的な変化について整理を行った。
(図-4)
試験施工地の堆積状況は、侵食が発生する平成 25 年度
までにエリアⅠ:+1.0m程度、エリアⅡ:+1.0m程度の
図-2 試験施工の横断イメージ図
堆積(23.6k~23.8k ラインの最大値の平均)が見られた。
試験施工後は、概ね堆積傾向にあり、整備地盤高が維持さ
れなかった。また、エリア 0 については大きな変化は見ら
れなかった。
なお、平成 26 年 8 月と 10 月に発生した 2 度の洪水によ
り水際部は侵食され、堤防側は堆積が顕著に表れている。
特にエリア 0 では侵食により礫河原がほぼ全て流失し、エ
リアⅡ、Ⅲではさらに堆積が進行した。
図-4 礫河原の変遷
図-3 調査箇所平面図(調査地点)
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4.水理指標評価の整理
(3)河床材料粒径調査
エリア別の河床材料粒径は、エリアⅡ、エリアⅢについ
ベルトトランセクト調査結果を踏まえ、コドラート内の
ては大きな変化はないが、エリア 0・エリアⅠについては
植被率、樹木本数等により礫河原率、樹木密度を樹林化抑
経年的に堤防側の細粒化と水際側の粗粒化が顕著であり、
制の判断基準として使用し、これらと水理量の関係により、
施工時粒径から大きく変化した(エリア 0:105.7 ㎜、エリ
樹林化を抑制する水理指標の評価を実施した。
なお、集計に使用したコドラートはエリア 0、エリアⅠ、
アⅠ:74.2 ㎜)
。この傾向の要因として、水際に近い区域
では、比高が低く出水時の流速が速いことから、粒径が大
エリアⅡのものを使用した。
きい河床材料が移動して堆積しやすいためと考えられる。
1)礫河原率
礫河原率は、植被率5%未満となるコドラートに着目し、
また、堤防に近い箇所では、比高が高く出水時の流速が遅
くなり、細粒分しか移動・堆積できないためと考えられる。
植被率5%未満となるコドラートの割合を礫河原率とし
て算出した。1)
2)樹木密度
樹木密度は、樹幹の投影面積が 30%以上を占めていると
ころを樹林地と定義し、既往成果から得られた加古川にお
図-5 代表粒径調査(d=50%)
(4)植生調査
ける樹林地の樹木密度概ね 1 本/7.5 ㎡以下(1.3 本/10 ㎡)
に着目し、1 本/10 ㎡以上を樹林化が抑制されているエリ
当該地における樹木の侵入状況、侵入後の樹木の生長状
アと設定した。2)
表-2 礫河原率の判断基準
況を把握するため,エリア内に 4 本のベルトトランセクト
を設け、経年変化を把握した。
ベルトトランセクト調査は、平成 21 年度から継続的に
実施されており、樹木本数、樹木大きさ、植被率等につい
表-3 樹林化の判断基準
て整理を行っている。その結果からは、試験施工直後から
樹木が侵入し,侵入後は年々生長を続けていることが樹高
等から明らかとなった。また、洪水時の掃流力の増加によ
り樹木の流出は見られるがその数は全個体数の 1 割程度で
あり、樹林化が進行している結果となった。
(図-6)
(2)礫河原率、樹木密度と水理指標の関連整理
施工後、7 ヶ年間の検証を水位・流量、現地調査結果等
を用いて準 2 次元不等流計算により水理量の算出を行い、
現状における樹木密度、礫河原率と水理指標、比高との関
連を整理した。
この結果、目標流量である平均年最大流量では目標掃流
力τ*≧0.05 は達成できず、エリアⅠ~エリアⅡの一部箇
所では攪乱は生じない状況であった。
今回、複合的な評価として、現状で樹林化抑制(樹林 1
本/10 ㎡以下)及び、礫河原維持(礫河原率 50%以上)の
箇所に限定し整理すると、τ*≧0.070 程度、攪乱頻度 2 回
/年程度、Στ*≧4,500 程度、比高は平水位+0.8~1.0m 程
度が必要であるという傾向が見られた。
(図-8、図-9)
また、現地状況及び、計算結果より樹林化が進行した箇
所は、計算上十分な掃流力が発生していても礫河原の再生
は困難であることも明らかとなった。
表-4 樹林化抑制に関する水理指標一覧
図-6 樹木調査結果
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粒径=28mm)
。
初期河床(H21 年)~H22 年において、24.0~24.2K で侵食
し、その下流のエリア 0~Ⅱに堆積していることがわかる。
それ以降も試験施工地の上流で侵食し、試験施工地で堆積
が生じている。 (図-10)
各年の攪乱頻度、累加掃流力では、エリア 0、エリアⅠ
では概ね攪乱頻度、累加掃流力ともに目標を達成していた
がエリアⅡでは目標を達成できていない。
礫河原率 50%以上の範囲では累加掃流力平均で 10,000
以上、攪乱頻度でみると年 3 回は発生しており、礫河原が
維持されている箇所は目標とされている水理指標に対し
図-7 樹林密度と指標の関係
て大きい値となっている。 (図-11)
図-9 平均粒子直径計算結果(H25 時点)
図-8 礫河原率と指標の関係
5.平面 2 次元流況解析による水理指標の評価
試験施工地(23.6K)において、河道の横断的・平面的
な土砂の堆積傾向を把握するとともに、試験施工地の現状
と樹林化の関係を分析するため、平面二次元河床変動解析
を行った。
試験施工直後の形状を初期河道として現時点までの出
水を対象に解析を行い、土砂堆積特性を踏まえた試験施工
地の樹林化要因の推定を行った。
1)検討条件
水理計算検討条件は表-5 に示す通りである。
表-5 検討条件(試験施工地河床変動解析)
図-10 河床変動解析結果
2)検討結果
図-9 に示した H25 年時点の平均粒径の平面的な分布を
みると、侵食部分である低水路部は粗粒化、エリアⅠの堤
防側~エリアⅢの堆積部分は細粒化されている(初期平均
図-11.平面 2 次元解析における礫河原と水理指標の関係
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6.加古川全川における水理指標の検討
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2)解析結果
試験施工地の樹林化抑制箇所について、礫河原率と無次
平面二次元解析より、メッシュ毎に算出した無次元掃流
元掃流力、比高等の関係を整理した結果、礫河原と比高の
力について礫河原で整理を行った。図‐12 に示す地点別に
関連性が見られた。
整理してみると、平均年最大では礫河原平均でτ※<0.05
これまで、試験施工地(23.6K)において、準二次元不
の箇所があるが、
1/5 流量では概ねτ※≧0.05 となっている。
等流計算を用いて水理指標の評価を行ってきたが、ここで
近年 5 年間の年最大流量平均が 2,660m3/s(23.6K 地点)
は加古川全川において平面二次元流況解析を行い、現存す
であることから、
当初設定の 1/5 流量
(23.6K 地点 1990m3/s)
る礫河原の水理指標を算出し、既往の水理指標の閾値、特
より近年では大きな出水が発生している。このため、現在
に比高と無次元掃流力との関係について分析を行った。
の礫河原は概ねτ※≧0.05 で形成されていると考えられる。
表-7 各地点別の無次元掃流力一覧
(1)加古川全川流況解析
1)検討条件
水理計算検討条件は表-6 に示す通りである。
表-6 検討条件(試験施工地河床変動解析)
流向
図-13 平面 2 次元解析結果 例(1/5 年確率流量時)
(2)無次元掃流力と比高の関係
1)検討概要
冠水頻度や流速・水深に影響を与える比高について着目
し、加古川全川での平均年最大、1/5 流量の無次元掃流力
と比高の関係を整理した。
比高は横断測点上のラインを基本とし、単点測量により
図-14 に示すように現在礫河原が維持されている箇所にお
ける植生境界と平水位相当時の水際線の標高を計測し、各
横断測線上の高低差を比高として整理を行った。
無次元掃流力は各調査地点に該当する平面二次元流況
解析のメッシュの値である。
図-14 比高調査計測地点イメージ
図-12 モデル検討範囲(礫河原一覧)
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2)検討結果
7.まとめ・今後の課題等
 無次元掃流力と比高の関係を見ると 1/5 計画流量時に無
既往検討において、試験施工地(23.6k)において樹木管
次元掃流力 0.05 の閾値が見られるものの、比高に関して
理のための様々な調査を実施してきた。
は 0.2m~3.0m と値の幅は広かった。
これまでの調査、検討結果から、河川営力のみによる樹
 上記点を踏まえ、平面特性考慮し、直線・湾曲部で数値
木管理には限界があることが明らかになってきた。
※
をフィルタリングすると、直線部ではτ ≧0.05、比高
河川営力の活用について今後は、樹木管理から、樹林化
2.0m 以下にプロットが集中する。また、この結果から礫
抑制(礫河原の維持)により絞り込んだ調査検討を行うこ
※
※
河原の維持には比高 1.0m でτ =0.05、比高 2.0m でτ
とが重要であると考える。
=0.1 が必要と考えられる。
(図-16)
また、従来のベルトトランセクト調査は、100m 毎のラ
 また、各砂州の位置でフィルタリングすると、砂州上流
イン上の調査が中心であり、ライン上の詳細な調査結果は
と砂州下流で上記と同様の傾向となる。
(図-17)
得られるが、エリアの面的な変化は十分に把握できないと
 無次元掃流力と比高の両者で閾値を設定することにより、
いう短所がある。
全川に適用範囲を広げた場合でも礫河原を維持できる範
囲が表現できると考えられる。
(表-7)
水理計算モデルを平面二次元モデルに変更したことか
ら、面的なデータの取得が重要となる。このため、簡易空
中写真撮影等により平面的な植被率や標高データ等から
面的な分析を行うことが有効であると考えられる。
今後は、今回作成した指標について、他地点の礫河原で
面的に評価することにより、指標の妥当性を再評価してい
図-15 無次元掃流力と比高の関係(全川)
く。また、現在、検証地点が1地点となるため、新たに検
討対象の礫河原を追加して複数の地点で評価することも
重要である。
試験施工地における横断測量については、試験施工地の
地形変化を把握するため地上面のみの測量を実施してい
た。しかしながら、洪水時の水理特性を把握する(水理指
標を算出する)ためには水面下の変化の情報も重要である
ことから、今後は、水面下も含めた横断測量を実施する必
要がある。
図-16 湾曲・直線別 無次元掃流力と比高の関係
樹林化抑制(礫河原の維持)は、高水敷掘削後、一時的
にこそ形成されるものの、それを長期間維持することは困
難であることを、これまでの調査・検討結果から基本的な
認識として持たなければならないと考えられる。この認識
を前提として、いかに効果的かつ効率良く、高水敷掘削を
樹林化抑制(礫河原の保全や再生)に結びつけることがで
きるかを考えることが必要である。
特に、樹林化抑制(礫河原が維持)されやすい平面的な
位置や比高を絞り込み、実際の河川管理(治水安全度の確
保や自然再生)の目的に応じて、河川営力による管理と、
半人工的管理を併用していくことなども重要である。
謝辞
図-17 区間別 無次元掃流力と比高の関係
最後に本論文をまとめるにあたり、資料の使用をお許し
頂きました国土交通省近畿地方整備局姫路河川国道事務
表-8 加古川全川における掃流力と比高
所に謝意を表します。
参 考 文 献(または引 用 文 献)
1) ダム湖環境基図 作成調査編 P X-26
2) 総務省統計局 HP:樹木の種類別樹林地面積
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