セメントを用いた石炭灰の環境基準物質の溶出低減効果

セメントを用いた石炭灰の環境基準物質の溶出低減効果
佐藤厚子・西本
聡
北海道開発土木研究所
1.はじめに
石炭火力発電所から排出される石炭灰は、原材料である石炭の性状や、石炭を燃焼するボイラの形式、燃焼温度など
の違いにより異なった性状となる。石炭灰は盛土材料や不良土の改良材など地盤材料としては、十分活用できる材料で
あることが確認されている1)。一方、石炭灰の中には有害物質が溶出する2)ものがあり、この場合には有害物質が溶出
しないように対策しなければならない。その方法として、薬品や固化材などで有害物質を不溶出化する方法3)と、有害
物質を含んだ材料の周辺を囲んで有害物質を封じ込めてしまう方法4)がある。
本検討では、有害物質が溶出しない対策として、セメントを加えて固化する方法を取り上げ、石炭灰に加水して締固
めた材料5)および加水して造粒化した材料6)について有害物質の溶出を求めた。その結果、固化や造粒化により溶出量
を抑制できる場合があることがわかった。本報告は、これらの結果をまとめたものである。
2.石炭灰の性質
2.1
地盤材料としての性質
本検討で用いた石炭灰の地盤材料としての性状を表−1に示す。a、b、c、d、e の各ボイラから排出した石炭灰をそ
れぞれ a 灰、b 灰、c 灰、d 灰、e 灰と呼ぶこととする。a、b、d 灰の土粒子密度は、一般的な土材料7)の土粒子密度(2.5
∼ 2.7)よりもかなり小さい。石炭灰排出時に運搬時の飛散防止のために加水しているc灰は水分を多く含んでいるが、
他の石炭灰は含水比はほぼ 0%、コンシステンシー限界は N.P.、75µm 以下の細粒分を 80%程度有する細粒土である。
このため、地盤材料として利用する場合には飛散防止の対策が必要である。各石炭灰の均等係数は小さく均等粒径な材
料であることから、地震などの震動により液状化の可能性がある。この対策として若干の固化材を投入する方法がある。b
灰の一部に酸性のものがあるが、ほとんどの石炭灰は強アルカリ性であることから、施工した構造物に植生する場合に
は、客土を施工するなどの対策が必要である。e 灰は燃焼過程で発生する硫黄分を石灰石により取り除く方式のボイラ
より排出されることから、10 %程度の酸化カルシウム分が含まれている。このため、加水することにより固化する。
これらの石炭灰を地盤材料として利用する場合は、飛散対策、アルカリ対策、液状化対策などを考慮すれば、地盤材
料として十分活用できる材料であり、盛土材料、不良土の改良材料として各地で施工実績が多い。
表−1
炉の名前
石炭灰の基本物性値
a
b
c
d
e
2.120 ∼ 2.334
2.238 ∼ 2.501
2.470 ∼ 2.522
2.167
2.522 ∼ 2.690
0.05 ∼ 0.30
0.02 ∼ 0.30
43.68 ∼ 58.18
0.06
0.00
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
75µm ∼ 2mm(%)
7.8 ∼ 19.0
5.5 ∼ 7.0
0.0 ∼ 2.7
9.5
4.5 ∼ 8.1
75µm 以下(%)
81.0 ∼ 92.2
93.0 ∼ 94.5
54.6 ∼ 71.8
90.5
91.9 ∼ 95.5
コンシステンシー特性
N.P.
N.P.
N.P.
N.P.
N.P.
地盤材料の分類記号
ML
ML
ML
ML
ML
8.2 ∼ 17.3
1.0 ∼ 3.7
5.2 ∼ 16.5
16.0
9.3 ∼ 18.8
12.0 ∼ 13.0
3.7 ∼ 13.0
11.6 ∼ 13.0
12
11.5 ∼ 12.6
0.923 ∼ 1.085
1.020 ∼ 1.592
0.839 ∼ 1.013
0.956
1.005 ∼ 1.104
36.1 ∼ 43.0
17.0 ∼ 31.2
47.8 ∼ 61.1
48.1
38.3 ∼ 46.0
3
土粒子密度 ρs(g/cm )
自然含水比 wn(%)
粒度
特性
2mm 以上 (%)
強熱減量 Li(%)
pH
3
最大乾燥密度 ρdmax(t/m )
最適含水比 wopt(%)
Use of Cement for Reducing Elution of Hazardous Substances from Coal Ash
Atsuko Sato, Satoshi Nishimoto (Civil Engineering Research Institute of Hokkaido)
KEY WORDS: Coal ash, Stabilization, Reducing elution, Hazardous substances
2.2
有害物質含有量
近年、汚染土壌の管理8)の適正化が進められており、土木工事においても、セメントやセメント系固化材により改良
した材料については、六価クロム溶出に関する基準9)が設定されているところである。石炭灰を使用する場合、通常こ
れらの基準を適用する必要はないが、地盤中に施工することから環境への影響を配慮して土壌環境基準を適用すること
が多くなってきた。そこで、いくつかの石炭灰について土壌環境基準項目を測定した。
なお、土壌環境基準に関わる測定項目は 27 項目である。このうち石炭灰の生成過程2)を考慮して、カドミウム、鉛、
六価クロム、ひ素、総水銀、セレン、ふっ素、ほう素の8項目のみ測定の対象とした。すなわち、石炭灰は天然の鉱物
資源である石炭を高温で燃焼することにより発生する材料である。このため、チラウム、シマジン、ベンチオカーブ、
ジクロロプロペンなどの農薬や、揮発性有機化合物であるトリクロロエチレンを含む可能性はない。また、硝酸性窒素、
亜硝酸性窒素は肥料や家畜糞尿に由来するものであり石炭には含まれていない。シアンについても、メッキなどの薬品
由来であり石炭には含まれていない。また、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素、シアンは高温燃焼でガス化して揮発するもの
であることから石炭灰には含まれない。
水銀やカドミウムは高温燃焼で揮発する可能性があるが、石炭に含まれる可能性がある。六価クロムは燃焼過程で三
価クロムから六価クロムに変化する11)ため、燃焼前の石炭に含まれる量よりも大きな溶出量となる場合がある。鉛、
ひ素、セレン、ふっ素、ほう素などは、石炭に含まれている可能性があることおよび高温燃焼でも揮発しにくいもので
ある。
以上のことから、27 項目のうち石炭に含まれている可能性がなく高温燃焼によりガス化して揮発する物質について
は、石炭灰には含まれないと判断できる。残ったカドミウム、鉛、六価クロム、ひ素、総水銀、セレン、ふっ素、ほう
素の8項目を検討の対象とした。
石炭灰の土壌環境基準に関わる有害物質溶出量を表−2に示す。カドミウム、鉛は計測したすべての石炭灰で溶出基
準内であった。しかし、石炭灰の種類によっては、六価クロム、ひ素、セレン、ふっ素、ほう素などの有害物質が溶出
基準を超えるものがあり、このような石炭灰を地盤材料として利用するためには対策が必要である。
表−2
測定項目
基準値 mg/l 未満
石炭灰の土壌環境基準に関わる有害物質溶出量
a
b
c
d
e
カドミウム
0.01
<0.001
<0.001
<0.001
<0.001
<0.001
鉛
0.01
<0.005
<0.01
<0.001
<0.001
∼ 0.002
六価クロム
0.05
0.021 ∼ 0.05
0.017 ∼ 0.07
∼ 0.07
ひ素
0.01
<0.005
0.002 ∼ 0.03
∼ 0.018
総水銀
0.0005
−
−
<0.0005
セレン
0.01
∼ 0.005
∼ 0.33
<0.001
ふっ素
0.8
∼ 0.68
1.3 ∼ 3.4
ほう素
1
0.3 ∼ 2
1.8 ∼ 2.8
−は測定値なし
0.011 ∼ 0.014
<0.001
<0.0005
0.005 ∼ 0.13
∼ 0.004
<0.0005
0.122 ∼ 0.181
<0.001
1.1 ∼ 2.6
∼ 1.2
−
1.0 ∼ 1.6
2.6 ∼ 4.78
−
<は測定精度以下
∼は測定精度以下から最大値まで
3.試験方法
土壌環境基準の測定項目で溶出基準を超えた石炭灰があったことから、これを不溶出化する対策として固化すること
を検討した。固化の方法として、石炭灰に適当量加水し固化材を混合した後締め固める方法と、石炭灰に適当量加水し
固化材混合して造粒化する方法を検討した。いずれの方法であっても盛土材料として必要な強度を確保できることを確
認するとともに土壌環境基準項目を測定した。なお、固化材としては安価な高炉 B 種セメントを用いた。また、e 灰は、
加水して締め固めることにより固化することから、固化材を混合しない場合も場合もある。
3.1
室内試験
①加水して締固めた石炭灰の有害物質溶出量の測定
石炭灰に所定の水を加えホバート型ミキサーで攪拌混合した後、固化材を投入しさらに攪拌混合する。盛土材として
の強度を確保できる材料であるかの確認をするため、混合した石炭灰を、2.5kg ランマー、10cm モールドを用い1層当
たり 25 回、3 層締め固めコーン指数を求める。このときと同じ密度になるように地盤工学会安定処理土の静的締固め
による供試対作製の方法7)により直径 5cm 高さ 10cm の供試体を作成し、気温 20 ℃の室内で 7 日間養生する。一軸圧
縮強さを確認した後、供試体を 2mm 以下に細かく砕き、土壌環境基準の8項目の溶出量を測定した。a、b 灰について
は、加水量が少ないため締め固めをしないで石炭灰に加水して混合した状態で 7 日間養生した。
②造粒化した石炭灰の有害物質溶出量の測定
造粒化に用いた機械はバッチ式で、材料となる石炭灰に所定の水とセメントを加え、容器の回転により造粒化を図る
ものである。目標の平均粒径を 3mm として造粒化を図った。造粒物は造粒直後には強度がないことから、ビニール袋
の中に入れ約1か月程度、室内で養生した後土壌環境基準の 8 項目を測定した。
③土壌環境基準の8項目の測定方法
上記①または②で準備した材料を 2mm 以下に細かく砕いた試料と、溶媒(純水に塩酸を加え水素イオン濃度指数が 5.8
∼ 6.3 となるように調整したもの)を重力体積比 10%の割合で混合し、混合液を 500ml 以上作る。この混合液をおおむ
ね 20 ℃、1 気圧で振とう機(振とう回数毎分 200 回、振とう幅 4 ∼ 5cm)で 6 時間連続して振とうする。振とう後 10
ろ過してろ液をとり、このろ液について、カドミウム、鉛、
六価クロム、ひ素、総水銀、セレン、ふっ素、ほう素の 8
50m
項目の溶出量を測定した。
1:1.5
3.2
1m
現場施工
加水して締固めた石炭灰とにより図−1に示す断面で試
a.加水して締固めた石炭灰
験的に盛土を施工した11)。この盛土施工から 2 ∼ 3 年経過
試料採取箇所
したので、施工した盛土について土壌環境基準の8項目を
4m
測定した。なお、試料は盛土表面から 2 ∼ 3cm 下の部分で
空気には直接暴露されていない箇所より採取した。
1:1.5
室内及び現場試験の条件を表−3に示す。a 灰による現場
2m
施工では、盛土が地下水位よりもかなり高い水位置であっ
たことから固化材を混合せずに転圧可能な含水比に調整し
b.造粒化した石炭灰
て施工した。また、e 灰は加水して固化する材料であること
から現場での試験施工は固化材を混合しなかった。
図−1
表−3
加水締め固め
室内試験
造粒化
加水締め固め
試験施工
造粒化
試験実施項目
a
石炭灰
施工断面図
b
含水比(%)
5
固化材混合量(%)
20
5
c
d
e
約 50%
20、34、48
最適含水比
5
0
含水比(%)
20 ∼ 40
18 ∼ 29
固化材混合量(%)
0 ∼ 25
0、2.5、5、7.5
含水比(%)
20 2、6、10、20
15.7
38(最適含水比)
含水比(%)
40.9
4.試験結果
4.1
室内試験結果
4.1.1
加水、固化材混合、締固めによる改良
①a、b灰
a、b 灰について加水してセメン
トを混合した後締め固めた石炭灰
表−4
の有害物質溶出量をセメントを混
セメントによる有害物質抑制効果(a、b 灰)
a-1
a-2
b
合しない石炭灰とともに表−4に
石炭灰
示す。六価クロムについてはセメ
固化材
ントを混合してもあまり溶出量が
六価クロム
0.05
0.023
0.05
0.057
0.07
0.03
0.05
低減しない場合もあり、石炭灰に
ひ素
0.002
0.001
0.005
0.006
0.002
0.001
0.01
よって溶出量抑制効果が異なるこ
セレン
0.001
0.0009
0.002
0.001
0.067
0.003
0.01
とが考えられる。一方、セレン、
ふっ素
0
0
0
0
1.09
0.49
0.8
ふっ素、ほう素の溶出量が基準値
ほう素
0.47
0.11
0.92
0.4
2.4
0.13
1.0
を超えている石炭灰では、セメン
なし
あり
なし
あり
なし
基準値
あり
mg/l 未満
る。
②c灰
c灰は、六価クロム、ふっ素、ほう素が溶出基準
値を超えている。c灰にセメントを混合したときの
セメント混合量と六価クロム、ふっ素、ほう素の溶
出量を図−2に示す。c灰では、六価クロム溶出量
ふっ素・ほう素溶出量(mg/l)
混合することは有害物質抑制の効果があるといえ
ほう素溶出基
準値1.0mg/l
1.8
では含有量にかかわらずセメントを混合することに
より、溶出量が半分以下となっており、セメントを
ほう素
ふっ素
六価クロム
2.0
きの半分以下の溶出量となっている。特に、ほう素
0.09
1.6
0.08
1.4
0.07
1.2
0.06
1.0
0.8
0.05
ふっ素溶出基準値0.8mg/l
0.04
0.6
0.03
六価クロム溶出
基準値0.05mg/l
0.4
0.2
はセメントを混合すると大きくなる傾向にある。さ
0.10
0.02
0.01
白抜き:c1 黒塗り:c2
0.0
らにセメント混合量を大きくすると溶出量が少なく
0.00
0
なるが、 20%のセメントを混合しても溶出基準値を
六価クロム溶出量(mg/l)
トを混合することにより、セメントを混合しないと
5
10
15
20
セメント混合量(%)
超えてしまうものがある。これに対し、ふっ素とほ
う素はセメントを混合することにより少しずつ溶出
図−2
有害物質溶出量
量が小さくなり溶出基準値を満足できる。ふっ素は
セメント 10%、ほう素はセメント 20%混合すること
表−5
により溶出量は基準値以下となる。有害物質の種類
も溶出抑制の効果に違いがある。
③d灰
セメントによる有害物質抑制効果(d 灰)
含水比
測定項目
基 準 値
0
20
34
48
mg/l 未満
0.161
0.008
0.01
0.011
0.01
セメントの固化は水分の量が大きく影響する。そ
セレン
こで、d灰では混合するセメント量を 5%として加
ふっ素
1.2
<0.01
<0.01
<0.01
0.8
水量を変えて溶出量を求めた。含水比は締め固め可
ほう素
4.78
0.22
0.22
0.16
1
能な最低の含水比と最適含水比、その中間の 3 種類
である。もとの石炭灰で溶出基準値を満足できなか
ったセレン、ふっ素、ほう素の 3 項目について表−5に示す。いずれの項目もセメントを混合することにより溶出基準
を下回るようになる。含水比が異なっていても溶出量はほぼ同じであり、この石炭灰では含水比は抑制効果に影響を与
えない。
④e灰
e 灰では、石炭灰の排出時期によって六価クロムの溶出量が基準値を上回ることがある。e 灰に加水して締固めた材
料の六価クロム溶出量を測定したところ、基準値を下回った。土木材料として使用する場合には加水して締め固めるこ
とから、e 灰については固化すれば、有害物質の溶出が抑制される。
以上、各石炭灰に加水してセメントを混合し締め固める方法では、セレン、ほう素、ふっ素の有害物質はどの石炭灰
でもセメント混合により溶出抑制効果がある。しか
制効果のないものがあるので注意が必要である。
造粒化による改良
①d灰
粉体状の d 灰は、セレン、ふっ素、ほう素につい
て基準値を超えた溶出量があった。これらの項目と
六価クロム溶出量を求め、造粒化する際混合したセ
メント量との関係を図−3に示す。造粒化したとき
に混合した最低のセメント量でセレン、ふっ素は測
定限界以下となった。ほう素の溶出量は 5%のセメ
2.5
ほう素溶出量(mg/l)
4.1.2
0.06
ほう素
六価クロム
d−造粒
0.05
六価クロム溶出基準値
2.0
0.04
1.5
0.03
ほう素溶出基準値
1.0
0.02
0.5
0.01
0.0
ント混合で基準値を満足している。六価クロムの溶
0.00
0
出量は、セメントの混合量に関係なくほぼ一定であ
六価クロム溶出量(mg/l)
3.0
し、六価クロムについては、石炭灰により、溶出抑
10
20
30
セメント混合率(%)
り有害物質の溶出抑制効果があった。
5%のセメント混合による溶出抑制効果を粉体状の
図−3
造粒化した石炭灰の有害物質溶出量(d灰)
粉体と造粒の有害物質抑制効果の比較(d 灰)
セメント 5%混合
測定項目
0.09
基 準 値
粉体に加水
造粒化
mg/l 未満
セレン
0.008
<0.001
0.01
ふっ素
<0.01
<0.01
0.8
ほう素
0.22
0.14
1
e−造粒
0.08
六価クロム溶出量(mg/l)
表−6
石炭灰に加水し締め固めた場合と造粒化した場合で比
較し表−6に示す。加水量、セメント量が同じであれ
e-1
e-2
0.07
0.06
溶出基準値0.05mg/l
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
ば、造粒化した方が溶出量が少ない傾向にある。
0
②e灰
0
e 灰について造粒化した石炭灰の六価クロム溶出量
2
をセメント混合量とともに図−4に示す。図中黒塗り
は、粉体状の石炭灰の溶出量である。e 灰については、
図−4
4
セメント混合量(%)
6
8
造 粒 化 し た 石 炭 灰 の 有 害 物 質 溶 出 量 (e 灰 )
セメントを混合しないで造粒化した場合でも六価クロ
ム溶出量は基準値を下回っている。セメントを混合す
ることにより、若干、六価クロム溶出量が大きくなる傾向にあるが、e灰については造粒化することにより、六価クロ
ム溶出量が抑制されるといえる。
4.2
現場施工
石炭灰により施工した盛土の有害物質溶出量を表−7に示す。No.1 の盛土ではひ素について基準値を超える溶出量
が確認された。No.1 施工時には、土壌環境基準の適用がされなかったことから、ひ素の溶出基準の調査を実施してい
なかったが、今後盛土の施工時には溶出量について注意が必要である。No.4 の盛土ではふっ素、ほう素のいずれも施
工時測定した溶出量よりも多くなっている。特にふっ素では溶出基準値を超えている。この盛土の施工時には、ふっ素
とほう素に関する基準がなかったことから測定を行っていなかったが、粉体状の石炭灰には基準値に近い溶出量であっ
たことが考えられる。このことから、ふっ素、ほう素については、粉体の石炭灰で溶出する場合には、造粒化した直後
に溶出しなくても時間の経過とともに溶出する場合がある。したがって、セメントのみの不溶出化だけでは、不十分で
あることも考えられる。この後の追跡調査や対策方法の検討が必要である。ただし、六価クロムについては時間が経過
しても溶出量が増えていないことから、六価クロムの溶出抑制効果は評価できる。
なお、石炭灰の pH は、施工時にはすべて 12 程度であったが、施工後 2 ∼ 3 年経過すると pH8 程度にまで低下する
ことが確認できた。
表−7
盛土 No.
1
経過時間
a 粉体
(年)
3
石炭灰による盛土の有害物質溶出量
2
3
e 粉体
施工時
<0.001
3
施工時
カドミウム
<0.001
鉛
<0.001
六価クロム
<0.01
ひ素
0.31
0.004
0.007
総水銀
<0.0005
<0.0005
<0.0005
セレン
0.005
<0.001
<0.001
ふっ素
0.6
−
0.2
0.1
ほう素
0.55
−
0.58
0.31
<0.001
0.018
4
e 造粒化
2
基 準 値
mg/l
3
未満
<0.001
不検出
<0.001
<0.001
0.01
<0.001
不検出
<0.001
<0.001
0.01
0.022
<0.01
<0.01
0.05
不検出
<0.001
<0.001
0.01
不検出
<0.0005
<0.0005
0.0005
−
<0.001
<0.001
0.01
0.9
0.7
0.8
0.74
0.48
1
0.02
5.まとめ
これまでの検討の結果、石炭灰には日本の土壌環境汚染に関わる基準を上回る有害物質が溶出するものもあるが、セ
メントを混合することによりある程度有害物質を抑制することができることがわかった。これらをまとめると以下のこ
とがいえる。
①石炭灰は、排出する炉の種類によって有害物質の溶出量が異なり、固化対策では同じセメント混合量でも溶出抑制効
果が異なる。
②石炭灰に対して、固化することにより、ふっ素、ほう素、セレンの有害物質を抑制できる。また、同じ石炭灰であれ
ば造粒化した方が溶出抑制効果が大きい。
③固化による不溶出化で、溶出が抑制された有害物質であっても時間の経過とともに溶出する物質があるので注意が必
要である。
6.おわりに
石炭灰は、盛土材料として有効利用できる材料であり、北海道内では利用の実績が多い。しかし、環境に関わる測定
例が少ない。今後、時間が経過した石炭灰について有害物質抑制効果の確認を行うとともに有害物質抑制方法の検討を
を行いたいと考える。石炭灰の利用に際して小文がその一助となれば幸いである。
参考文献
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9)
国土交通省:セメント及びセメント系固化材を使用した改良土の六価クロム溶出試験実施要領(案)、2001.4
10) 佐藤厚子・西本聡・松田正大:石炭灰の土木材料への有効利用技術、石炭灰有効利用シンポジウム講演集、財団法
人石炭灰利用総合センター、2003.12
11) 松田正大・西本聡・佐藤厚子:造粒化石炭灰を用いた盛土施工、第 25 回日本道路会議、2003.11