06P113_大井 由貴子

平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ
論文題目
健康食品・サプリメントに含まれる
機能性ペプチドについて
Functional Peptides in Healthy Foods and Supplements
薬品製造学 研究室 6 年
06P113
大井 由貴子
(指導教員:北川 幸己)
要 旨
機能性ペプチドを探索する新しいアプローチとして、植物や動物由来の天然タンパ
ク質のプロテアーゼ消化物を「ペプチドライブラリー」と捉え、そうしたプロテアー
ゼ消化物から種々の生理作用を指標にペプチドのスクリーニングが行われ、多くの機
能性ペプチドが発見されている。こうしたスクリーニングによって血圧降下を示すペ
プチドが植物タンパク質(ゴマ、ワカメ)や動物性タンパク質(ローヤルゼリー、イ
ワシなど)のプロテアーゼ消化物から見出されており、それらが「特定保健用食品(ト
クホ)」として商品化されている。
現在高齢者から若者まで浸透しているサプリメントや健康食品に含まれる機能性
ペプチドに関心をもち、厚生労働省から「特定保健用食品(トクホ)」として認可を受けてい
る商品について、機能性ペプチドを含むものに焦点を絞って商品名やアミノ酸配列な
どを基にして一覧表を作成した。その結果、「血圧が高めの人に適する食品」とする
商品が多いことがわかり、今度はそれについてさまざまな考察をした。
降圧薬としてアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬はペプチドから創薬された
ものとして有名であるが、トクホ中に含まれる血圧降下ペプチドも ACE 阻害を作用
機序としているものが多く、芳香族アミノ酸(Trp、Tyr、Phe)、枝分かれしたアル
キル鎖を有するアミノ酸(Val、Leu、Ile)、及び Pro を高い比率で含む小分子ペプチ
ドが多いことがわかった。また、そうしたペプチドの構造は、ACE 阻害薬開発の基
盤となったブラディキニンポテンシエーター(BPP)の部分構造に類似性が認められ
た。
キーワード
1.サプリメント
2.健康食品
3.機能性ペプチド
4.イワシペプチド
5.カゼインホスホペプチド
6.グロビン蛋白分解物
7.リン脂質結合大豆ペプチ
8.ラクトトリペプチド
ド
9.かつお節オリゴペプチド
10.ブナハリ茸エキス
11.わかめペプチド
12.ローヤルゼリーペプチド
13.ゴマペプチド
14.海苔オリゴペプチド
15.カゼインドデカペプチド
16.血圧降下作用
17.ACE 活性阻害
目 次
1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2.「特定保健用食品(トクホ)」に含まれる機能性ペプチドについて・・・・・・1
3.血圧降下作用を持つペプチドについて・・・・・・5
4. おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
5.謝辞
引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
論 文
1.はじめに
ペプチドはアミノ酸残基数で一般的に 100 残基程度のものまでを言い、それよ
り残基数が多くなるとタンパク質と呼ばれる。ペプチドは巨大な前駆体タンパク質
から酵素的に分解を受けて生成するが、微量で強力かつ多彩な生理作用をもつペプ
チド性ホルモンやペプチド性神経伝達物質、幅広い抗菌作用をもつペプチド性抗菌
物質の数多くが我々の体内で生合成されることが知られている。一方、我々が日常
的に牛乳、食肉、魚肉、大豆、小麦といった食品として摂取するタンパク質が酵素
的に分解されて生成するペプチドの中にも、血圧降下、抗酸化、抗菌、免疫調節な
どの様々な生体機能を調節する機能を持つものが明らかにされており、これらは
「機能性ペプチド」と総称されている [1]。現在、こうした生体にポジティブに働
くペプチドの作用を活かした機能性食品やサプリメントが「健康ブーム」に乗じて
数多く商品化されており、
TV コマーシャルや新聞広告でなじみがあるものも多い。
一般に「健康食品」は、「健康の保持増進に役立つ食品として販売されているも
の」を指すが、そのうち「特定保健用食品(トクホ)
」と呼ばれているものは、ヒ
トでの臨床試験が義務付けられており、科学的に効果や安全性が証明された食品と
定義できる。またトクホは、消費者庁により健康維持や増進に関する効果を表示す
ることが許可されているが、「血圧が高めの人に適する食品」
、「コレステロールが
高めの人に適する食品」、
「血糖値が気になる人に適する食品」などの表示にとどま
る。
「トクホ」には、乳製品、米飯類、パン類、菓子類(ガム、クッキー)、清涼飲
料水、調味料など多くの種類の食品があり、2012 年 3 月の時点で 990 品目が認可
されている [2]。
現在市販されている特定保健用食品(トクホ)やサプリメントに含まれる成分は、
キシリトールやオリゴ糖などの糖成分、及びアミノ酸数残基で構成されるペプチド
類が圧倒的に多い。著者が所属する薬品製造学研究室では、ペプチド科学に基盤を
置いた研究活動を展開していることから、特定保健用食品(トクホ)などに含まれ
るペプチドに関心をもち、調査研究を開始した。特にアンギオテンシン変換酵素
(ACE)阻害に基づく血圧降下作用を持つとされるペプチドに関して、カプトプリル
等の ACE 阻害薬との構造の類似性について考察を行った。
2.「特定保健用食品(トクホ)」に含まれる機能性ペプチドについて
トクホに含まれる機能性ペプチド 12 種類 (イワシペプチド(サーデンペプチド)、
カゼインホスホペプチド、グロビン蛋白分解物、リン脂質結合大豆ペプチド、ラク
トトリペプチド、かつお節オリゴペプチド、ブナハリ茸エキス、わかめペプチド、
1
ローヤルゼリーペプチド、ゴマペプチド、海苔オリゴペプチド、カゼインドデカペ
プチド) に着目し、これらを含む商品をインターネットの通販サイトで検索し、そ
の商品名について Table1にまとめた。様々な変わった名前がつけられており、購
買者の気を惹きつけるような工夫を感じる。
Table 1.機能性ペプチドを含む「トクホ」商品
商品名
サーデンペプチド
スーパーSP100、イワシペプチド 1500、イワシペプチド 500、
ペプチド-α、イワシエース、ペプチドオブサーディン、
ペプ IQ アップ
カゼインホスホペプチド
ヘルスメイトマグマイト 120 粒、クロスタニンさわやか倶楽部 330 粒、
クロスタニンヘム鉄メディコ 180 粒、カルシウムプラス 180 粒
グロビン蛋白分解物
ナップル GD150 粒、バップルドリンク、ハーフシトールドリンク
リン脂質結合大豆ペプチ
リメイクコレステブロックコーヒー味、リメイクコレステブロックココア味、ゲンコレス、ダイズ=ダ
ド
イジ、コレとるペプチド、コレデュース、シャットコレス、大豆でげんき、大豆+
ココア、ソイドリップ、大豆サプライ、ロールコレステ、大豆インココア、だいずなペプ
チド、ダイズダイブダイジ、大豆に聴こう、大豆 de ココア
ラクトトリペプチド
アミールS毎朝野菜、アミールサプリメントボトル
かつお節オリゴペプチド
ペプチドおみそ汁、ペプチド茶、ペプチドストレート、ペプチドスープ EX、
ペプチド ACE3000
ブナハリ茸エキス
ブナハリ茸
わかめペプチド
わかめペプチドゼリー
ローヤルゼリーペプチド
ステイバランス RJ、エバーライフローヤル
ゴマペプチド
リアルサプリ ゴマペプチド、胡麻麦茶、AL 圧アツ
海苔オリゴペプチド
毎日海菜、海苔ペプチド、
カゼインデカペプチド
カゼイン DP ペプチドドリンク
その後これらの機能性ペプチドについて、主に機能があると考えられている一次
構造配列について検索を行った (Table 2)。
2
Table 2.「トクホ」食品中の機能性ペプチドのアミノ酸配列
アミノ酸配列
サーディンペプチド
V-Y、アミノ酸 2~10 残基のオリゴペプチド
カゼインホスホペプチド
1.αs1-casein-5phosphate(f59-79)
Q-M-E-A-E-S(P)-I-S(P)-S(P)-S(P)-E-E-I-V-P-N-S(P)-V-E-Q-K
2.
β-casein-4phosphate(f1-25)
R-E-L-E-E-L-N-V-P-G-E-I-V-E-S(P)-L-S(P)-S(P)-S(P)-E-E-S-I-T-R
3.
αs2-casein-4phosphate(f1-21)
K-N-T-M-E-H-V-S(P)-S(P)-S(P)-E-E-S-I-I-S(P)-Q-E-T-Y-K
4.
αs2-casein-4phosphate(f46-70)
N-A-N-E-E-E-Y-S-I-G-S(P)-S(P)-S(P)-E-E-S(P)-A-E-V-A-T-E-E-V-K
グロビン蛋白分解物
V-V-Y-P
リン脂質結合大豆ペプチ
不明
ド
ラクトトリペプチド
V-P-P、I-P-P
かつお節オリゴペプチド
L-K-P-N-M
ブナハリ茸エキス
I-Y
わかめペプチド
ローヤルゼリーペプチ
ド
ゴマペプチド
海苔オリゴペプチド
カゼインデカペプチド
F-Y、V-Y、I-Y
I-Y、V-Y、I-V-Y
A-K-Y-S-Y
F-F-V-A-P-F-P-E-V-F-G-K
次に消費者が認識している効果効能と作用機序についてまとめたものが、Table
3 である。
3
Table
3.
機能性食品
サーディンペプチ
機能性ペプチドの効能・効果とその作用機序
効能・効果
血圧降下
作用機序
アンギオテンシン変換酵素阻害
HP 名
ケンコウコム・健康
メガショップ 1)
ド
カゼインホスホペプ
骨粗鬆症など
受動輸送に基づく小腸下部でのカルシウ
ケンコウコム・健康
チド
の予防
ムの吸収促進
メガショップ 2)
グロビン蛋白
瘦身・体重減化
膵リパーゼ活性を阻害して腸管からの脂
ケンコウコム・健康
肪の吸収を抑制する。
メガショップ 3)
分解物
リポ蛋白リパーゼ活性と肝性トリグリセ
リドリパーゼ活性を亢進して吸収された
脂肪の代謝を促進する。
リン脂質結合
瘦身・体重減化
大豆ペプチド
食事で摂取したコレステロールや中性脂
HELLO DIET4)
肪は、消化吸収されるときに胆汁によりミ
セル状態になるが、このペプチドはミセル
化を阻害し、コレステロールや中性脂肪の
吸収を抑制し、便中に排出する。
ラクトトリペプチド
血圧降下
アンギオテンシン変換酵素阻害
ケンコウコム・健康
メガショップ 5)
かつお節
血圧降下
アンギオテンシン変換酵素阻害
カラダに e-サ
イト health
オリゴペプチド
クリニック 6)
ブナハリ茸エキス
血圧降下
アンギオテンシン変換酵素阻害
美容と健康 7)
わかめペプチ
血圧降下
アンギオテンシン変換酵素阻害
サポートプラ
ス 8)
ド
ローヤルゼリーペプ
血圧降下
アンギオテンシン変換酵素阻害
HELLO DIET9)
血圧降下
アンギオテンシン変換酵素阻害
ケンコウコム・健康
チド
ゴマペプチド
メガショップ 10)
海苔オリゴペプ
血圧降下
アンギオテンシン変換酵素阻害
HELLO DIET11)
血圧降下
アンギオテンシン変換酵素阻害
HELLO DIET12)
チド
カゼインデカペプ
チド
1) http://www.kenko.com/product/seibun/sei_831007.html
2) http://www.kenko.com/product/seibun/sei_832529.html
3)http://search.kenko.com/product/%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%93%E
4
3%83B3%E8%9B%8B%E7%99%BD%E5%88%86E8%A7%A3%E7%89%A9
4) http://yume356.com/supplement/seibunbetu-19.html
5) http://www/kenko/com/product/item/iym6529492172.html
6) http://www/health.ne.jp/product/tokuho/list6/html
7) http://healthlife.gain100.net/?eid=31
8) http://www/rikensupportplus.jp/rikensp/7.1/w2-40000/
9) http://yume356.com/supplement/seibunbetu-18.html
10) http://www/kenko.com/product/seibun/sei_715050.html
11) http://yume356.com/supplement/seibunnetu-42.html
12) http://yume356.com/supplement/seibunnetu-62.html
一覧表からは、アンギオテンシン変換酵素(ACE)を阻害することにより血圧
降下作用を示すとされるペプチドを含むものが圧倒的に多いことが分かる。
最後に原材料別、効能別に Table 4 をまとめた。
Table 4 トクホ中の機能性ペプチドの分類
(A)原材料別の分類
動物由来のペプチド
植物由来のペプチド
イワシペプチド
リン脂質結合大豆ペプチド
かつお節オリゴペプチド
ブナハリ茸エキス
ローヤルゼリーペプチド
わかめペプチド
カゼインホスホペプチド
ゴマペプチド
カゼインデカペプチド
海苔オリゴペプチド
ラクトトリペプチド
グロビンタンパク分解物
(B)効能別の分類
血圧降下
イワシペプチド、ラクトトリペプチド、かつお節オリゴ
ペプチド、ブナハリ茸エキス、わかめペプチド、ゴマペプチド、
海苔オリゴペプチド、カゼインデカペプチド、ローヤルゼリー
ペプチド
骨粗鬆症などの予防
カゼインホスホペプチド
痩身・体重減少
グロビンタンパク分解物、リン脂質結合大豆ペプチド
5
3.血圧降下作用を持つペプチドについて
生体内での血圧調節機構の一つとしてレニン-アンギオテンシン系(昇圧系)と
カリクレイン-キニン系(降圧系)がある。この系で直接昇圧作用を示す物質はア
ンギオテンシン II であり、アニギオテンシン変換酵素 (ACE) はアンギオテンシ
ンIのC末端ジペプチドを切断してアンギオテンシン II を生成する (Fig. 1)。
Asp‐Arg‐Val‐Tyr‐Ile‐His‐Pro‐Phe‐His‐Leu‐Leu‐Val‐Tyr‐Ser‐・・・・・・・
Angiotensinogen
Renin
Asp‐Arg‐Val‐Tyr‐Ile‐His‐Pro‐Phe‐His‐Leu
Angiotensin I
ACE
Asp‐Arg‐Val‐Tyr‐Ile‐His‐Pro‐Phe
Angiotensin II
Fig. 1 レニン-アンギオテンシン系
現在経口高血圧治療薬として ACE 阻害薬は臨床現場で使用されているが、最初
の ACE 阻害薬として実用化されたカプトプリルの創製には、ヘビ毒中の血圧降下
ペプチドの研究が大きく貢献している。こうしたヘビ毒中の血圧降下ペプチド(ブ
ラディキニンポテンシエーター:BPP)は 5~10 数残基のペプチドであり、Table
X に示したようにブラディキニン増強作用とともに、
強い ACE 阻害活性を示す[3]。
Table 5 .
蛇毒由来の ACE 阻害ペプチドとその活性 ([3]より改編)
ACE 阻害活性
IC50
BPP 活性
(BPP5a=100)
BPP5a
EKWAP
0.09μM
100
BPP9a
EWPRPQIPP
0.02μM
410
BPP10a
ESWPGPNIPP
3.2μM
80
6
BPP13a
0.2μM
EGGWPRPGPEIPP
200
BPP の構造活性相関の研究からは、Pro を含むカルボキシ末端のジペプチド
Ala-Pro や Phe-Pro でも弱いながらも確実な ACE 阻害作用が認められている。こ
の事実を考えるとラクトトリペプチドに含まれる Val-Pro-Pro、Ile-Pro-Pro といっ
たペプチドが血圧降下作用を示すことは理解できる。
機能性ペプチドを探索する新しいアプローチとして、植物や動物由来の天然タン
パク質のプロテアーゼ消化物を「ペプチドライブラリー」と捉え、そうしたプロテ
アーゼ消化物から血圧降下作用を示すペプチドのスクリーニングが行われ、多くの
血圧降下ペプチドが発見されている。このうちカゼインのような乳タンパク質のプ
ロテアーゼ消化物中には血圧降下作用を示すペプチドが多く見出されているが、カ
ゼインは Pro 含量の多いリン酸化タンパク質であることを考えるとそうしたペプ
チドの ACE 阻害活性が理解できる。
ローヤルゼリーのタンパク質分解物やイワシの肉由来のタンパク質分解物の中からは
Val-Tyr という血圧降下作用を持つジペプチドが見つかっている。この Val-Tyr は、いわ
し由来のサーデンペプチド、わかめタンパク質の加水分解物から商品化されたワカメペ
プチド、及びゴマタンパク質の酵素分解物を由来とするゴマペプチド中にも含まれること
から、Val-Tyr は確実な ACE 阻害活性をもつことがわかる(参照:Table.4)。かつお節オ
リゴペプチドに含まれる LKPNM というペンタペプチドは、ACE により ACE 阻
害ペプチドに変換される“プロドラッグタイプペプチド”とされるが、ACE によ
り C 末端ジペプチドが切断されてトリペプチド LKP が生成し、このトリペプチド
が血圧降下作用を示す。
以上述べてきたような健康食品中の血圧降下ペプチドは、ジペプチドから数残基
のオリゴペプチドが多い。またそうしたペプチドを構成するアミノ酸としては、芳
香族アミノ酸(Trp、Tyr、Phe)、枝分かれしたアルキル鎖を有するアミノ酸(Val、
Leu、Ile)、そしてイミノ酸である Pro が多いことがわかった。こうした疎水性ア
ミノ酸により構成されたジペプチド、トリペプチドのような低分子量ペプチドには
血圧降下作用が期待できそうである。
また Pro 含量の高いことがこうした血圧降下ペプチドの特徴のひとつである。カ
ゼインデカペプチドやラクトトリペプチドのように、牛乳タンパク質由来の血圧降
下ペプチドを含むものが多く商品化されているが、本来カゼインタンパク質は Pro
含量が高いタンパク質である。Pro 残基は、α-へリックス構造やβ-シート構造中
に存在することは稀であることから、Pro 残基を多く含むカゼインはランダム構造
をとり易い。ランダム構造を取り易いタンパク質は、一般的に消化されやすいと考
7
えられるが、一方で Pro rich な配列、特に連続した Pro 配列はプロテアーゼによ
る加水分解を受けにくいことが知られている。従って Pro を含む数残基のオリゴペ
プチドが、加水分解産物として多く産生されることとなる。Table 5 に示した BPP
が同様に Pro rich のアミノ酸配列を持つオリゴペプチドであることを考えると、
興味がもたれる。
健康食品やサプリメント中に含まれる ACE 阻害に基づく血圧降下ペプチドの降
圧活性は、高血圧症の治療に使用されているカプトプリルなどの ACE 阻害薬と比
較して、1オーダー以上弱い。従って、健康食品やサプリメントの摂取によって、
医薬品を服用したときと同じような顕著な血圧降下作用は期待できない。一般にこ
うした機能性ペプチドを含む健康食品・サプリメントは、素材に含まれるタンパク
質をプロテアーゼで処理して、商品化されている。従って商品中での血圧降下作用
を示すペプチドの含量を明確に表示できるものではなく、消費者としても、そのこ
とを念頭において健康食品・サプリメントを摂取すべきであろう。
5.おわりに
以上のことを踏まえた上で、機能性ペプチドを含むトクホやサプリメントの利
点を考えてみた。一つに日本薬局方で収められている医療用医薬品などと違って副
作用が少ない事が挙げられる。それは Table.4 にあるようにほとんど動物や植物か
ら抽出されたものであり、生体由来の物質と考えてよい。また、単体のアミノ酸よ
りも豊富な栄養素を持ち、体内に早く吸収される性質がある。これまでに小腸上皮
細胞にペプチドトランスポーター1(PEPT1)が発現し、ジペプチド及びペプチド
が PEPT1 を介して小腸を通過することが知られている。しかし、大部分のペプチ
ドは細胞膜上または血液中のペプチダーゼにより速やかにアミノ酸にまで分解さ
れると考えられている。そのため、食事と一緒に摂ると本来の消化吸収能が働くた
め、サプリメントの成分が食事中の様々な栄養素と一緒に吸収されやすくなる。従
って食後 30 分以内に摂取するのが良いと思われる。また長期間に渡り摂取するこ
ともあるため、原材料となる動物や植物が農薬や重金属などに汚染されていないか、
品質の確かなものを選ぶことも当然ながら重要である。
また、サプリメントも医薬品同様飲み合わせで効果が強くなったり弱くなったり
することがあるので普段薬を常用している人は注意が必要である。簡単な例で言う
ならば、同じ作用機序をもつ医薬品と健康食品・サプリメントを一緒に飲むことは
避けるべきである。
他にも以下のような注意事項が挙げられる。
1 水で飲むこと
2 用法・用量を守ること
3 冷暗所で保存すること
8
4 小児は飲まない
5 妊娠中・喫煙中の人はなるべく飲まない
1 に関しては、牛乳や清涼飲料水などで服用すると相互作用を起こして効果が出
にくくなったり副作用を起こしたりすることがあるかもしれないからである。2 は
サプリメントに含まれるビタミンなどを過剰に摂取すると、ビタミン A の過剰摂
取による胎児などの奇形などが見られる例のように、過剰症や欠乏症などが起こり
やすくなるからである。3 はサプリメントによっては色が落ちてしまったり湿気に
弱い物があるからである。4 は大人より少量なら飲んでもいいという商品もあるが、
あまり勧められてはいない。なぜなら小児期というのは普通の食事を摂ることによ
って味や嗅覚やなどを発達させ、噛むことによって顎を鍛えるという大事な時期で
もあるからである。栄養のことばかり考えて食事の楽しみを奪うことは将来のこと
を考えてもあまり良い方法とはいえない。5 は、上記に示したようにお腹の中の子
供に悪影響をきたすこともあるからである。喫煙に関しては、逆に喫煙者にお勧め
のサプリメントなどがあるようだが、β-カロチンなど肺癌を逆に悪化させるもの
もあるので注意した方がよい。
しかし、どの情報源を見ても共通して言えることは、健康食品やサプリメントは
あくまで補助的なものであるということである。きちんと食事や睡眠をとり、適度
な運動をすることが健康への近道である。これからもさまざまな健康食品が開発さ
れていくと思われるが、過剰な情報に惑わされず、正しい摂取の仕方を患者さんや
購買者に伝えて行きたい。
9
謝 辞
本調査研究をまとめるにあたり、随時有益なご助言とご指導をいただきました新
潟薬科大学薬学部薬品製造学研究室 北川 幸己 教授、及び 浅田 真一 助教
に深く感謝いたします。またディスカッションに加わっていただいた薬品製造学研
究室のメンバーに感謝いたします。
10
引 用 文 献
[1] 有原 圭三監修:機能性ペプチドの最新応用技術―食品・化粧品・ペットフー
ドへの展開―、シーエムシー出版(東京)(2009)
[2] 公益財団法人日本健康・栄養食品協会,消費者庁許可
版[トクホ]ごあんない (2012)
特定保健食品 2012 年
[3] Ferreira S.H., Greene L.J., Alabaster V.A., Bahle Y.S., Vane J.R., Nature,
225, 379 (1970)
11