1-01 土壌試料の放射性炭素年代:五島福江島,鬼岳降下スコリアの例

第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
1-01 土壌試料の放射性炭素年代:五島福江島,鬼岳降下スコリアの例
奥野 充(福岡大・理)
Radiocarbon dating of paleosol: case study on Onidake scoria falls, Fukue Island
M. Okuno (Fac. Sci., Fukuoka Univ.)
おにだけ
西九州,五島列島の福江島南東部に位置する鬼岳 火山群は,標高 315m の鬼岳火山(Fig. 1:
松井ほか,1977)を中心に 11 の単成火山からなる(長岡・古山,2004).鬼岳火山は,鬼岳
降下スコリア堆積物直下の土壌から 18,090±100 BP(GX-25301-AMS)の 14C 年代が得られて
いる(長岡・古山,2004).また,広域テフラとの層位関係は,姶良 Tn 降下火山灰(AT:町
田・新井,1976)と鬼界アカホヤ降下火山灰(K-Ah:町田・新井,1978)の間にある(長岡・
古山,2004)
.AT と K-Ah の年代は 29 cal kBP および 7.3 cal kBP で(奥野,2002)
,上記の 14C
年代は概ね妥当である.今回,鬼岳降下スコリア堆積物の年代を再検討するため,その直下
の土壌試料の 14C 年代を加速器質量分析(AMS)法により測定した.採取試料の産状を Fig. 2
ひのだけ
しおつ
に示す.ここでは,鬼岳降下スコリア堆積物が土壌層を介して,火ノ岳火山の塩津溶岩を覆
う.土壌層の層厚は約 20 cm で,鬼岳降下スコリア堆積物直下の厚さ約 2 cm を塊状で採取し
た.
測定結果を Table 1 に示す.得られた 14C 年代値は,19,840±120 BP(δ13C=−19.0‰,JAT-7769)
である.Table 1 の2つの年代値は,誤差範囲を超えて一致していないが,層位からはどちら
ともいえない.下位の塩津溶岩の K-Ar 年代も,0.05±0.03 Ma で(長岡・古山,2004)
,広域
テフラとの関係も含めて層位的には矛盾しない.前処理した試料の元素分析結果は,C=0.43%,
N=0.05%,C/N=9.14 である.この C/N は,土壌試料として分解がある程度進んでいることを
示唆し,年代値が若返っている可能性がある(Okuno et al., 1997;奥野,2001)
.しかし,こ
1
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の年代値は,もう一方の 18,090±100 BP(Table 1)より 2000 14C yr ほど古く,若返りの可能性
は低いと考えられる.降下テフラ直下の土壌試料は,現地性の有機物なので,その
14
C 年代
は噴出年代を示すと考えられる(Okuno et al., 1997;Okuno and Nakamura, 2003)
.較正暦年(2σ)
は,23,550 – 24,194 cal BP(probability=100%)で,約 24 cal kBP の暦年代に相当する.14C 年
代測定では,泥炭や炭化木片を見いだすか,さらに土壌試料を測定することも考えられる.
その際には,C/N が 20 に近い土壌有機物の分解のより進んでいない試料が必要である.
Fig. 1
Isopach map of the Onidake Scoria Falls (after, Nagaoka and Furuyama, 2004). A star
indicates sampling site.
2
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Fig. 2
Photographs showing occurrence of dated sample. Arrow in (B) indicates sampling horizon.
Table 1
Results of AMS radiocarbon dating of paleosol samples below the Onidake Scoria Falls.
3
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1-02 九州の火山フロントにおけるマグマ生成プロセス
~メルト包有物からのアプローチ~
田村智弥(西日本技術開発)・長谷中利昭(熊本大)
Paul Wallace(オレゴン大)・安田
敦(東京大)・森
康(いのちのたび博)
Magma generation process beneath volcanic front of Kyushu arc, Japan
- Approach from melt inclusion T. Tamura (West JEC), T. Hasenaka (Kumamoto Univ.),
P. Wallace (Oregon Univ.), A. Yasuda (Tokyo Univ.),
Y. Mori (Kitakyushu Museum of Natural History & Human History)
九州の火山フロントに位置する 4 つの第四紀火山である阿蘇(中岳・往生岳)
,九重(平治
岳),霧島(御鉢),開聞岳について,それらの火山噴出物中に含まれるカンラン石斑晶中の
メルト包有物の化学組成から,初生マグマ及びスラブ流体の組成の推定を試みた.カンラン
石はマグマの結晶分化の早期に晶出する鉱物であり,その中に捕獲されたメルト包有物はよ
り未分化な時のマグマの組成を保持することが期待できる.推定した初生マグマ及びスラブ
流体の組成から,九州の火山フロントにおけるマグマ生成プロセスについて検討した.
推定した初生マグマの組成及びスラブ流体の組成から,高い K2O 量の阿蘇・九重,低い
K2O 量の霧島・開聞の 2 つのグループに分けることができた.また,それぞれのグループに
おいて火山直下に沈み込む海洋プレートの深度が異なっており(Shiono, 1974; Nakada and
Kamata, 1991; Wang and Zhao, 2006)
,阿蘇・九重の直下では約 140 km の深度であるのに対し,
霧島・開聞の直下では約 100 km である.地下 110 km 以深において,沈み込む海洋プレート
からフェンジャイトが脱水分解し K2O が放出されることが指摘されている(Schmidt, 1996).
また,阿蘇・九重と霧島・開聞の全岩の Ba 量(Ba はフェンジャイトのトレーサー;Zack et al.,
4
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2001)を比較すると,阿蘇・九重は霧島・開聞よりも高い含有量を示す.
以上のことから,阿蘇・九重地域では,沈み込むプレートが 140 km の深度に達し,プレー
ト内のフェンジャイトが脱水分解することによって K が放出され,これが初生マグマに付加
することで結果的に K2O に富むマグマが生成された.一方霧島・開聞地域では,沈み込むプ
レートの深度が約 100 km であり,角閃石などの K に乏しい鉱物の脱水分解が生じ,結果的
に K2O に乏しいマグマが生成された.よって,九州地域では火山直下に沈み込む海洋プレー
トの深さ,及びプレートから脱水分解する含水鉱物の種類がマグマの組成を支配していると
考えられる.
4
K2O (wt.%) in melt inclusion
K2O (wt.%) in whole rock
4
3
2
1
0
50
54
58
62
66
3
2
1
0
50
SiO2 (wt.%) in whole rock
54
56
58
60
SiO2 (wt.%) in melt inclusion
600
5
H2O (wt.%) in melt inclusion
Ba (ppm) in whole rock
52
500
400
300
200
100
0
50
54
58
62
3
2
1
0
66
50
SiO2 (wt.%) in whole rock
Fig. 1.
4
52
54
56
58
SiO2 (wt.%) in melt inclusion
Major and trace element compositions in whole rocks (left side). Major element and
volatile compositions in olivine-hosted melt inclusions (right side). Each of five legends
indicates that ◇ is Nakadake from Aso volcano, ◆ is Ojodake from Aso volcano, □ is
Hiijidake from Kuju volcano, △ is Ohachi from Kirishima volcano and ○ is Kaimondake
volcano, respectively.
5
60
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1-03 霧島火山群,甑岳火山の発達史-複成火山の類型化に向け-
田島
靖久(日本工営(株))
Eruptive history of Koshikidake volcano in the Kirishima volcanic group
- A study of the type for compound or composite volcanoesY. Tajima (Nippon Koei Co., Ltd.)
霧島火山群は,多様な形態の火山から構成される火山群であり,火山体の分類を行うのに
良好なフィールドとなる.山頂を中心に裾野が広がる成層火山と似た形態の高千穂峰,御鉢
は,井ノ上(1988),筒井・他(2007)によって急激に成長した発達過程が明らかにされてい
る.この様な推移について,霧島火山群の他の似た火山においても起きているのか検討をす
る必要がある.霧島火山群では,飯盛山,甑岳,丸岡山がこれらに近い成層火山の特徴を有
しており,高千穂峰,御鉢との比較検証が可能と考えられる.この中でも甑岳火山はテフラ
と溶岩の関係を明らかにすることができたため,その発達過程について示し火山体形成の比
較議論を行う.
霧島火山群を起源とするテフラ層の中で,韓国岳-小林テフラ(Kr-Kb)と入戸火砕流堆積
物の間に,降下スコリア層があることが知られている.この降下スコリア層は,飯盛山に向
かい層厚を増すことより,飯盛山スコリア層と呼ばれていた(遠藤・小林ローム研究グルー
プ, 1969).一方,Imura(1992)は,同層の等層厚線図より韓国岳が給源であると推定し,韓
国岳スコリアと改称した.田島・小林(2011)は,同層の等層厚線,粒径が甑岳(以下,甑
岳火山)に向かい増加することを示し,甑岳テフラと再定義した.次に,甑岳火山を起源と
する溶岩は,
霧島火山群の北域に広く分布しており
(図 1: 沢村・松井, 1957; 井村・小林, 2001)
,
火口からの到達距離は 7 km を超える.甑岳溶岩の表面積は約 30 km2 となり,安山岩溶岩と
しては規模の大きなものである.2011 年 11 月から始まった西之島において大量の溶岩噴出が
継続している現在,大規模な溶岩噴出例としてもその噴火推移を示す必要がある.
甑岳火山の活動は,初期に小~中規模のブルカノ式噴火の活動から始まった.Ks-1~Ks-5
は小~中規模の噴火活動を行っていたが,Ks-6 の時に急に大量の溶岩と降下火砕物を噴出す
る噴火活動に変化した.Ks-1~Ks-6 では噴火毎に短い静穏期があったと考えられるが,Ks-1
~Ks-6 間の土壌発達は貧弱であり静穏期間は長くなかったと推定される.城ヶ崎では Ks-7a
~Ks-8 間に泥炭層,湖成層が認められることより,数百年以上の静穏期があったと考えられ
る.その後,Ks-8~Ks-9 は比較的短時間の活動を行い,Ks-10 のブルカノ式噴火で成長を止
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めた.御鉢火山では,約 1300 年前から活動を開始し,500 年後に山体を成長させた高原スコ
リア噴火を発生させた(筒井・他,2007)
.高千穂峰複合火山も,古高千穂-蒲牟田テフラの
噴出から 1000 年内に主たる活動が生じ,高千穂峰-王子テフラでほぼその活動を終えたと考
えられている(井ノ上, 1988).最初期の小~中規模の活動から,前期の急激に山体を成長さ
せる活動に至った.初期の相対的な小規模な活動を経て,急激に成長する火山体の発達過程
は,これらの火山に共通した特徴と言え,成層火山の成長には急激に噴出率が上がる時期が
あると考えられる.
図1 甑岳火山周辺の火山噴出物. E3~E5(不動池溶岩)
,E7~E9(甑岳溶岩)は田島・他(2014)
の全岩化学分析地点.☆の Ks- は甑岳溶岩直上位の甑岳テフラ. 甑岳溶岩上の破線は,周囲
より新しい溶岩地形.
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1-04 霧島火山群,御鉢火山におけるアグルチネートと火砕流
筒井正明(ダイヤコンサルタント 砂防・防災事業部)・
小林哲夫(鹿児島大学大学院 理工学研究科)
Agglutinate and pyroclastic flow deposit at the Ohachi Volcano, Kirishima Volcanic Group,
Southern Kyushu, Japan
M. Tsutui (DIA Consultant Co., Ltd.) and T. Kobayasho (Kagoshima Univ.)
1.はじめに
御鉢火山(標高 1425 m)は,霧島火山群の南東部に位置する小型の成層火山である.御鉢
における最大規模の噴火では,火口近傍にアグルチネートが形成されるとともに,山腹や山
麓に火砕流が流下している.本報告では,これらの関係を明らかにするため,山体を構成す
るテフラや山麓の火砕流の粒度分析を実施し,分布や産状とあわせてその関連性について考
察した結果を報告する.
2.アグルチネートと火砕流の分布と産状
御鉢火山で最大規模の高原テフラ(ThT)は,山麓において 3 つの降下ユニット(ThT-a,
ThT-b 及び ThT-c)に区分され,いずれも 106 ~107 m3 (DRE)オーダーの規模を有する.そ
れぞれの噴火で火口近傍にアグルチネートが形成された(写真 1-6)
.露出の良い南側山体斜
面ではアグルチネートが水平方向にある程度連続的に観察可能で,アグルチネートの弱溶結
部で小規模なローブが累積した構造が認められる.また,アグルチネートが凹地形に厚く堆
積している箇所や,より下流側で火砕流へと連続的に移化しているようにみえる箇所が存在
する.
一方 ThT-c の噴火では,火砕流が南側山腹と西~北側山麓に分かれて堆積した(写真 7)
.
南側山腹の火砕流は山体斜面の特定のガリーを選択的に流下したのに対し,西~北側山麓の
火砕流は隣接する他火山との間の沢を埋めて比較的広い範囲に広がった.また,御鉢火山の
北西に対面する中岳の山体斜面には,この火砕流が通過した際に残していった堆積物が分布
する(写真 8).
3.粒度組成
降下テフラ,山体部(標高 1100~1050 m 以上の山体斜面を構成し,一見して降下テフラや
8
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火砕流と区別できない中間的な産状の堆積物)及び火砕流について,主要な露頭で試料を採
取し,ふるい分け試験を実施した.粒径は-3 から<5φ まで 1φ 間隔で 9 区分した.
降下テフラと山体部は,すべて Walker(1971)の示した「Fall」の領域にプロットされる.
山体部は,降下テフラがプロットされる領域と一部重なるが,全体的に分級が悪く粒径が粗
い.また,山体部の野外の産状は火口近傍から山麓に向かって分級が良く細粒になり,多少
転動したものを含むが,山体部は基本的に降下テフラと判断して良いだろう.
火砕流は,分布域により異なる特性を持つ.南側山腹のものは概ね Walker(1971)の「Flow」
の領域にプロットされ,火口からの距離に応じた系統的な変化は確認できない.この火砕流
は,分級が働く前に噴煙柱の比較的低い部分が崩壊した(もしくは火口から直接溢れ出した)
ことで形成され,比較的低速だった可能性がある.このタイプの火砕流で火口近傍にアグル
チネートが形成された.小規模な火砕流が連続的に堆積すれば,ローブが累積する構造や成
層構造が生じるだろう.また,山体部では概ね斜面上に平行に堆積するが,凹地形に比較的
厚く堆積することで火口から離れた場所でもアグルチネートを形成し,さらに山腹や山麓ま
で流下したものが,弱~非溶結の火砕流としてガリーや沢を埋めたと考えられる.
西~北側山麓のものは,降下テフラや山体部と比較すると,やや分級が悪く粒径が粗いが,
南側山腹の火砕流と比較すると明らかに分級が良く,
「Flow」と「Fall」の中間領域から「Fall」
の領域にかけてプロットされる.この火砕流は,分級の進んだ部分が噴煙柱から分離して生
じた可能性がある.北西に対面する中岳の山体斜面を這い上がれたのは,噴煙柱からの崩壊
高度が高く,比較的高速で流下したことを示唆する.中岳山体斜面上に這い上がった火砕流
本体が残存できなかったように,御鉢火山の山体斜面でも火砕流が残らなかったのであろう.
このタイプの火砕流は火口近傍に顕著なアグルチネートを形成していないと考えられる.
4.おわりに
106 ~107 m3 オーダーの準プリニー式噴火である ThT-c の噴火では,噴煙柱の崩壊高度が低
い火砕流,もしくは,火口から直接溢れ出すような火砕流が火口近傍で累積しアグルチネー
トを形成しているようである.一方,噴煙柱の崩壊高度が比較的高い火砕流は,より遠方ま
で到達しているが,火口近傍や山体斜面には堆積せず,アグルチネートも形成されなかった
と思われる.霧島火山群では,多くの火山でアグルチネートが観察でき,少なくとも高千穂
峰や新燃岳でも 106 ~107 m3 オーダーの準プリニー式噴火に伴う火砕流によって,火口近傍に
アグルチネートが形成されている.御鉢火山でも小規模だが降下テフラ起源のアグルチネー
トが存在し,本報告は降下テフラ起源のアグルチネートの存在を否定するものではないが,
安山岩質火山の火口近傍には火砕流起源のアグルチネートがかなり存在すると思われる.
火口近傍のアグルチネートを,露頭単位で降下テフラ起源か火砕流起源か判断することは
9
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困難なことが多いが,噴火様式が準プリニー式噴火(少なくとも 106 ~107 m3 程度)である
こと,山腹や山麓に火砕流が分布することが,有効な判断材料になると考える.
写真 1
写真 2
火口縁でみられるアグルチネート(ThT-c)
写真 1 のアグルチネートと同層準の末端部でみられる小規模なローブ(ThT-c)
10
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写真 3
写真 4
火口近傍でみられるアグルチネート(ThT-c)
写真 3 のアグルチネートと同層準の末端部でみられる厚いアグルチネート(ThT-c)
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写真 5
アグルチネートの産状(ThT-c)
写真 6
アグルチネートの産状(ThT-c)
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写真 7
写真 8
標高 1110~1050m 付近における火砕流の産状(ThT-c)
中岳山体斜面上に分布する火砕流の残存堆積物(ThT-c)
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1-05
鬼界カルデラ,幸屋火砕流による地層横転現象
成尾英仁(武岡台高校)
Overturned strata caused by Koya ignimbrite from Kika caldera
H. Naruo (Takeokadai Senior High School)
1
アカホヤ噴火の推移
7300 年前に鬼界カルデラで発生した大規模なカルデラ噴火は一般にアカホヤ噴火とよばれ,
一連の噴出物は鬼界アカホヤテフラと称される(町田・新井,2003)
.初期のプリニー式噴火
では幸屋降下軽石(Ky-p)が噴出し,その後,大規模な火砕流が発生し幸屋火砕流堆積物(Ky)
が形成され,極めて薄く拡がり堆積した(宇井,1973).上空に舞い上がった細粒火山灰はア
カホヤ火山灰(K-Ah)とよばれ,東北地方まで分布する(町田・新井,1978).噴火の途中
では噴礫現象を伴うような 2 回の大地震が発生した(成尾・小林,2002)
.
2
幸屋火砕流による地層横転
Ky が堆積した範囲では,それより下位の Ky-p 層および古土壌層が,局部的に数 10°~垂
直に横転する地層横転現象が認められる.地層横転の方向はおおむね南から北である.
A distribution map of Overturned strata caused by Koya ignimblite
- 14 -
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鬼界カルデラの北部に位置する薩摩半島南部では,指宿地方および知覧・川辺地方の遺跡
で Ky による地層横転が確認されている.例えば,南九州市迫瀬戸に所在する前原遺跡群で
は,平坦な台地上で多数の地層横転が確認されている(知覧町教育委員会,2003).遺跡群
の一つである堂山迫遺跡では,鬼界アカホヤテフラの Ky をはぎ取った縄文時代早期後半の
黒色腐植土層表面で,地層横転が確認された.地層横転は桜島薩摩テフラ(Sz-S)層直下の粘質
ローム層から始まり,黒色腐植土層まで及んでいる.それぞれの地層横転方向は北~西へと
変化に富むが,おおよその傾向としては北西方向である.
地層横転は大隅半島南部でも確認されている.例えば,南大隅町大中原遺跡では多数の地
層横転が確認された(根占町教育委員会,2000).大中原遺跡では鬼界アカホヤテフラ下位
に,古い方から清見岳テフラ,大隅降下軽石・入戸火砕流堆積物,粘質ローム層,SZ-S,黒
色腐植土層が順に堆積する.遺跡で最も大規模な地層横転では,清見岳テフラまでの各層が
一体となったブロックを形成し,約 45°の角度で横転している.横転したブロックの詳細な
観察では,厚さ 30cm の Ky-p も横転し,その部分では成層構造が著しく乱されている.横転
したブロックは Ky および K-Ah により覆われている.
遺跡南西部では約 50m2に1個程度の割合で地層横転が存在したが,その平面形態は円形
ないしは楕円形で,最大長5mから1m程度まで規模は様々であった.遺跡内における地層
横転の分布は不規則で,集中や定向性は認められないことから,人類活動による遺構ではな
いと判断される.横転の方向はおおむね北北東方向であるが,薩摩半島の堂山迫遺跡同様,
個々の地層横転は必ずしも同一方向を示すとは限らない。周辺の地形の影響や火砕流内部の
乱流状況を反映していると思われるが,おおよその傾向として鬼界カルデラと反対方向に横
転している.
3
幸屋火砕流による地層横転の過程
遺跡での観察によると,鬼界アカホヤ噴火の初期噴出物である Ky-p も横転していること,
Ky に確実に覆われることから地層横転のタイミングは Ky-p の降下直後と判断される.多く
の例で横転した古土壌層ブロックの隙間を Ky が埋めるように入り込んでいることから,Ky
により横転が生じた後,引き続き流走してきた Ky が隙間を埋め堆積したと判断される.
このような Ky-p,Ky との被覆関係,地層横転が約 50m2ごとに存在すること,横転したブ
ロックの中心に樹木の痕跡と考えられる腐植土壌が存在する例などから,当時の地表面に生
えていた樹木が,Ky による直撃を受け根鉢ごとなぎ倒され,地層横転が形成されたと判断さ
れる.
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1-06 熱ルミネッセンス(TL)年代および全岩化学組成による
松の台岩屑なだれ堆積物の給源推定
坂口
巧・柚原雅樹・山崎圭二・奥野
充(福岡大・理)
Source of Matsunodai debris avalanches deposit inferred from thermoluminescence age and
chemical composition, Kuju volcanic group, central Kyushu, Japan
T. Sakaguchi, M. Yuhara, K. Yamasaki and M. Okuno (Fukuoka Univ.)
松の台岩屑なだれ堆積物(MDA)は,中部九州に位置する九重火山群の北麓に分布する岩
屑なだれである.その給源は特定されていない.そこで,改めて MDA の内部構造,堆積物
周辺の湯沢山,三俣山西峰(古い三俣山)の野外調査を行い,MDA に対比される堆積物を下
湯沢溶岩の上に発見した. TL 年代と全岩化学組成から MDA の給源と流下過程を考察した
ので報告する.
湯沢山は地形的に 2 枚のフローユニットが認められるが,岩石的に似ていることから一括
して湯沢溶岩とされてきた(小野,1963;太田,1991)
.しかし,下部溶岩台地の開析度とそ
の上に MDA に対比される崩壊堆積物が乗る産状から,
下湯沢溶岩と上湯沢溶岩に区別する.
三俣山西峰は下湯沢山溶岩が形成する溶岩台地上に位置し,北に開く馬蹄形カルデラの一部
が確認できる.現在の三俣山の北側火口には上湯沢溶岩の溶岩流痕が認められる.TL 年代は
下湯沢溶岩が約 43~44ka,三俣山西峰が約 34~35ka,上湯沢溶岩が 25~28ka を示し,各火山
体,岩体の地形的な順序と調和的である.
MDA の分布域には流れ山地形が多数存在し,流れ山の長軸方向は北‐ 南方向,北北東‐ 南
南西方向,北北西‐ 南南東方向の 3 方向に卓越する.空中写真判読では,MDA の堆積面が 3
段確認できる.H/L 比は 0.10 である.岩塊にはジグソークラック構造が発達し,多くの露頭
- 16 -
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第 5 回研究集会 講演要旨集
では高温酸化を示す赤紫色の火砕流堆積物のブロックを含む.上流部から末端部にかけて岩
塊は小さくなっていき,基質部の量比が増える傾向がある.MDA と基盤土壌層との境界相で
は直径 5 ㎝以上の礫を含まず,より大きな岩塊や岩片は堆積物中の中部に集中する.
MDA には主に,黒雲母含有斜方輝石単斜輝石角閃石安山岩で石基がインターサータル組織
を示すもの(A グループ)
,黒雲母含有単斜輝石斜方輝石角閃石安山岩で石基がハイアロピリ
ティック組織を示すもの(B グループ)が含まれる.三俣山西峰は A グループ,下湯沢溶岩
は B グループの安山岩で構成される.A グループおよび B グループの SiO2 含有量は,それ
ぞれ 59.8~61.5wt.%,58.6~59.2wt.%である.A グループは約 34~37ka,B グループは約 41~
45ka の TL 年代を示す.
三俣山の周辺には三俣山西峰の溶岩ドームが崩壊して形成された火砕流が堆積している
(長岡・奥野,2014)
.このような火砕流堆積物を山体崩壊時に取り込んだものが MDA 中の
火砕流ブロックである可能性が高い.これらの特徴から,MDA の流動機構としてプラッグフ
ローモデル(三村ほか,1988)が当てはまる.給源は三俣山西峰であると考えられ, 流下ま
でのプロセスは下湯沢溶岩が溶岩台地を形成した後,その上に三俣山西峰を形成する溶岩ド
ームが成長して山体崩壊を起こし,周辺の火砕流堆積物をとり込んで MDA を現在の地域に
堆積させた.MDA 基底部の剪断応力により,基盤である B グループの安山岩がひきはがさ
れ,MDA に取り込まれた.その後すぐに三俣山溶岩ドームが成長して崩壊火口をほぼ埋積し,
最後に上湯沢溶岩が下湯沢溶岩の一部を覆う形で北側に流れたのだと考えられる.
MDA の流下過程は,下湯沢溶岩を覆って流下した流れと三俣山西峰から北西麓の緩斜面に流
下した流れの 2 種類あると考えられる.3 段の堆積面のうち中段面の流れ山長軸方向は,推
定される流下方向(北北西-南南東方向)に直交しており,岩塊が長軸方向を軸に回転しつつ
流下したことが示唆される.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
Fig. 1
Thermoluminesence age of the Matsunodai Debris Avalanches Deposit.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
2-01 露頭データベースの作成はなぜ困難か?(2)
横田修一郎(元
島根大学・総合理工)
Difficulties in construction of geological exposures database (2)
S. Yokota (Shimane Univ.)
1.基礎データの価値と露頭データベース
今日,地形・地質に関連した様々なデ-タベースが社会に深く浸透し,インターネットを
介して活用されている.しかし,その多くはシステムとしてうまく機能していても,データ
の中身や質に関しては課題山積というのが実態であろう.筆者がこの数年間かかわってきた
ものに自然災害のデータベース化があるが,これでも基礎データの重要性とともにそれにた
どり着くことの困難さを痛感した.洪水,地震,津波,噴火などによる災害記録は各地に多
数散在するが,大半は伝聞記録であり,伝達過程のフィルタリングで内容や質は大きく変化
している.
地質図と関連資料も膨大な数が画像などのかたちで公開され,容易にアクセスできるよう
になったが,室内での分析値等を除けば,それらの多くは野外データが基礎となっている.
このようにみれば,野外からいかにして価値あるデータを短期間に網羅的に取得するかがこ
の分野の発展を左右するといえよう.
1990 年代に露頭データベース構築への関心が高まったが(横田,1996;横田・升本,1997,
佐野,1997 など),これは,わが国では露頭デ-タは複数の機関や個人によって別々に得ら
れていることから,基礎データとしてそれらを集積して供すれば,地質学各分野の発展にも
資するとの考えからであった.しかし,露頭といえども空間内では「点」ではなく,3次元
的な広がりをもっているし,岩石タイプ,岩相・層相に加えて方向のデータや層序,構造,
貫入等に関する相互関係のデータを含んでいる(横田,1996)
.さらに,現実の地質図作成過
程では隣接露頭間のデータ比較に基づいて局所的な地質モデルを試行錯誤的に構築していく
ステップもあるが(図-1),これらへの対処が露頭データベース構築における困難な課題であ
った.
2.露頭データベースの利用と取り巻く環境の変化
こうした課題は今日でも大きくかわるものではないが,露頭デ-タベースの利用目的や環
境はこの 20 年間に大きく変化してきた.社会全体に自然ハザードと災害に関する関心が高ま
り,構造物やインフラ整備に関しても将来のハザード予測の必要性が高まってきた.多様な
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
図-1
露頭データベースにおけるデータの集積(横田,1996)
.
一般には(a)のような単純なものではなく,(b)のように隣接露頭間で局所
的な地質モデルを構築していく.
ハザードマップの構築と公表がそれを裏付けており,それらはデータベースの出力表現でも
ある.また,これに関連して,目的を限定したトレンチ調査やボーリング調査が広く実施さ
れるようになり,トレンチ壁面やボーリングコア等,露頭以外の野外データが急増してきた.
活断層とそれを覆うテフラの野外データでもこの種のものが大半を占めるようになっている.
こうした利用面の変化を考慮すれば,露頭データベースの構築は単に地質図作成のための
基礎データとしてだけでなく,地質図作成を経ないで実社会で直接利用できるデータをも提
供できなければならない(図-2)
.この場合,地質モデル構築のステップを必ず含むことはな
くなるが,新たな課題とそれへの取り組みが必要である.
3.実社会が直接利用する露頭データベ-スの課題
新たな課題として,露頭データは可能な限り実社会のタイムスケール精度に近いかたちの
もので得られるか,あるいはそれに変換できることが望まれる.さらに,データ取得は,従
来のような地質図作成を念頭においた層序や構造の表現のためだけでなく,層序から堆積過
程へ,あるいは構造から構造運動へといった地質現象そのものを読み取れるものでなければ
ならない.露頭として保存された「もの」や「かたち」を得るだけでなく,それらをもとに
実社会のタイムスケール精度に近いかたちで「現象」を推定できれば,実社会での利用に資
するところが大きい.
一方,トレンチ壁面や大規模な道路掘削面のデータも自然露頭と同様に取り扱う必要があ
るし,ボーリングコアも一見深度方向への一次元データのように見えるが,コア中の産状ま
で含めれば,前者と同様の取り扱いが必要となる.このため,これらについてはいずれも「露
頭」と同様のデータ取得などの対処が必要である.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
近年,露頭データベースのシステムに「関係の代数」や「グラフ理論」の導入が試みられ
(河西,2001,2003 など)
,地質データの数学的表現は進展したが,それに見合ったかたちでの
データ取得は容易ではない.層序や構造,貫入関係など,地質学の世界では概念の複雑さに
対応してデータ取り扱いの難しさが山積する.また,大規模な道路掘削面も含めて露頭は頻
繁に生まれ,かつ消失するし,調査者や調査ステージの違いによって露頭から得られるデー
タが異なることも多々ある.
しかし,3次元データの取得方法および出力表現に関連した情報技術が著しく進展し,写
真,ビデオ,スケーラブルな地形・空中写真データを併せた取り扱いも容易になってきたこ
とから,上述した利用面の変化への対応に加え,これらの技術を組み合わせることで効果的
な露頭データベースが展開できる可能性もある.地質図作成を目的とした汎用性の高い露頭
データベース構築にはまだまだ課題が多いが,社会的要求を考慮して利用目的を絞れば,効
果的なものの構築は可能かもしれない.
図-2 汎用性の高い利用を目指す場合(A)と,実社会での目的を絞った利用(B)の違い.
(地質モデルの構築) ・・・今日でも最大の課題
(A)(汎用性の高い利用)
地質図
露頭データ
ベース
実社会で
の利用
(B)(目的を限定した利用)
入力データの多様化
急増するボーリングコア・
トレンチ壁面などの野外デ
ータにも対応する取得方法
の模索
新たな課題
・実社会のタイムスケール精度での
データ取得または変換.
・露頭から地質現象の髙精度
読み取り.
汎用性を目指せば地質図作成が必要となるが,実社会での目的を絞った利用で
は必ずしも地質図作成を必要としない.ただし,その場合には新たな課題が
発生する.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
文 献
河西秀夫,2001,個人用露頭データベースの設計について-露頭構造の数式化に関する考察
-,情報地質,11, 235-240
河西秀夫,2003,個人用露頭データベースの設計について(2)-層序の表現方法について-,
情報地質,14, 249-258.
佐野雅之,1997,ディジタルフィールドマップ,日本情報地質学会シンポジウム’97,講演論
文集,27-32.
横田修一郎,1996, 露頭データベースの作成はなぜ困難か? 情報地質,7, 297-301.
横田修一郎・升本眞二,1997, 地質データベース,応用地質,38, 153-158.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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第 5 回研究集会 講演要旨集
2-02 露頭情報の収集と共有ための情報サイトと収集支援ツールの整備
奥村
勝(福岡大・総合情報処理センター)・矢羽田優輝(福岡大・工)
高橋伸弥(福岡大・工)・鶴田直之(福岡大・工)
Preparation of outcrop information site and supporting tools for collecting and sharing
M. Okumura (Info. Tech. Center, Fukuoka Univ.), Y. Yahata (Fac. Eng., Fukuoka Univ.),
S. Takahashi (Fac. Eng., Fukuoka Univ.), N. Tsuruta (Fac. Eng., Fukuoka Univ.)
火山地質学において露頭情報を軸とした研究データの収集・蓄積は研究者個人だけでなく
防災やアウトリーチの面からも非常に重要である.国際火山噴火史情報研究所では露頭情報
共有の為のウェブサイトを試験的に公開し,データベース構築の方針について検討を進めて
いる.一般的に研究者が発見,収集した露頭情報は検証を得て研究論文等に纏められ,公表
されることになるが,その数は極めて限られており,野外調査で得られた露頭情報の大半は
研究者個人の手元で収集した多量の調査素材として埋もれてしまうケースが多い.仮に収集
した露頭情報を整理し,データベース化して広く公表して活用するとしても,露頭情報は本
質的に非定型かつ自由度の高いデータであるため,編纂者毎に露頭情報の表記や表現が異な
ることも多々ある.また,それらを整理,構築するには専門家による手作業を必要とし,膨
大な人的・時間的コストを要することとなる.しかしながら,少なくとも位置情報に紐づく
露頭画像情報が公開されれば,仮に露頭が消滅してもボーリング採掘やトレンチ調査を行う
ことも可能となるなど,露頭そのものの存在性が記録,共有されることは極めて重要である
と考える.
そこで我々は従来とは異なるアプローチでの露頭情報データベースの構築を試みている.
従来の地質データベースでは,組織的に地質データの収集や検証を行い,十分に精査された
データのみを公開するという方法が採られているが,我々の構築するデータベースでは研究
者を始め,地質学や火山学に興味を持つ一般の市民の方を含めた市民参加型による地質デー
タの収集と情報の共有によるアプローチを目指し、露頭情報を中心とした地質情報の収集と
共有を目的としたサイト「じおログ」1を開発し,インターネット上で公開している.「じお
ログ」は研究者や市民の方から,露頭情報を中心とした地質データ(主に露頭写真とその位
置)の情報提供を受け,露頭情報を共有することを目的とした情報サイト(Fig.1)である.
1
http://www.acrifis-ehai.fukuoka-u.ac.jp/geolog/
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第 5 回研究集会 講演要旨集
露頭写真などの情報提供者は,パソコンなどから本サイトへアクセスし,投稿メニュー
に沿って露頭写真を提供する仕組みである.その際に露頭の具体的な位置を撮影画像に埋め
込まれた EXIF 情報や提供者の指示から取得する.また,露頭画像の提供時に簡単なコメン
トやキーワード(タグ)も付与してもらう.最小限度のこれら補足情報は,後々メタ情報と
して利用し、集積された露頭情報の検索や分類に利用することを想定している.
一方,
「じおログ」は Web サイトである性質上、露頭情報の入力は Web ブラウザを用いた
画像データ,位置情報等のアップロードが必須である.そのため操作性などの点から野外で
の露頭情報の収集が行い辛い.加えて,露頭は野外で見られるものであり,露頭の発見現場
からデータのアップロードが直接行えることが望ましい.そこで我々は,屋外における露頭
情報の収集を円滑に行えるようスマートフォンから直接,露頭情報の登録が行える 2 種類の
モバイルアプリケーションの開発を行った.
Fig.1 露頭情報サイト「じおログ」
Fig.2「じおログ」投稿用アプリケーション
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
2-03 研究データ共有のための地理情報データベースサービスの構築
高橋伸弥(福岡大・工)・奥村 勝(福岡大・総合情報処理センター)
鶴田直之(福岡大・工)
Development of geo-information database service for data sharing
S. Takahashi (Fac. Eng., Fukuoka Univ.),
M. Okumura (Info. Tech. Center, Fukuoka Univ.), N. Tsuruta (Fac. Eng., Fukuoka Univ.)
火山地質学において露頭情報を軸とした研究データの収集・蓄積は研究者個人だけでなく
防災やアウトリーチの面からも非常に重要である.国際火山噴火史情報研究所では露頭情報
共有の為のウェブサイトを試験的に公開し,データベース構築の方針について検討を進めて
いる.これまでに,火山露頭情報の収集・共有のための Web サイト「じおログ」 や,経緯
度情報や任意のキーワード・コメントを露頭画像に一括して付与するツール「o-GIE」などの
開発を行ってきた.
露頭情報は本質的に非定型かつ自由度の高いデータであるため,編集者によって表記や表
現が異なることは多々ある.また,それらを整理,構築するには専門家による手作業を必要
とし,膨大な人的・時間的コストを要することとなる.この問題に対し,利用者がデータに
付与した任意のタグを用いて自動分類することによりデータベース作成を省力化することを
考える.タグを利用したデータ管理では,自由に任意のキーワードを付加することができる
ので,データ項目の内容や項目数,フォーマット等に頭を煩わせることがなく,タグに基づ
くデータ間の類似度計算により自動分類が可能となるため,事前の分類・整理が不要,とい
ったメリットがある.ファイルの種類や位置情報など,機械的に処理できる情報は自動的に
タグ付けすることが可能であり,所有者やアクセスレベル、登録日時、更新日時は隠しタグ
として保持する.さらには,入力されたコメント等の文章から自動的に適切なキーワードを
抽出することで,タグ入力の手間を軽減することもできる.また,データを従来型の階層構
造ではなくフラットな構造として管理することから,物理的なデータ管理の構造を考慮する
必要がなく,大規模分散データ管理システムとして構築可能な点もメリットとして挙げられ
る.
このタグによるデータベース作成手法の有効性を検討するため,地質学研究室における卒
業研究等の関連データを対象としたデータ管理支援システムを開発した. 地質学研究室にお
いて,卒業研究等でまとめられる研究資料は膨大なものとなることから,それらのデータの
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散逸を防ぎ,かつ再利用を円滑にするようなデータ管理手法の確立は重要な課題となる.ま
たデータの種類としても,写真や画像だけではなく各種ドキュメントファイルや測定結果の
生データなど多岐にわたる.本研究では,これらの点を考慮したデータ管理支援システムを
構築し,実際の運用を通して新たな課題や必要な機能を検討する.
まずは、基本機能を組み込んだプロトタイプシステムを実装し,β 版として 2014 年 9 月
から試用を開始した.実装された機能のうち主なものとしては,①タグによるファイル管理
機能,②各種ファイル(画像ファイル及び Word/Excel/PowerPoint/PDF 他)を一括管理する機
能,③直感的な操作によるタグ検索機能,④位置情報との紐付け機能などがある.
地質学研究室の関係者ら6名を対象として,このプロトタイプシステムを試用してもら
った結果,
収集されたデータ総数は 892 個となった.うち画像が 630 個であり,
その他 docx/xlsx
等のファイルが 262 個であった.また作成されたページ数は 95 となり1ページあたりの平均
データ数は 9.4 となった.一方タグに関しては,総数が 138 種類となり,かなりの重複が見
られた.使用頻度の最大値は 90 回で,10 回以上使用されたタグは 18 種であった.逆に 3 回
以下の使用頻度のタグは 13 種であった.
使用者からの要望としては,タグの表記の揺れに対処してほしい,タグ入力の際に補完機
能があるとよい,経緯度から地名タグを自動でつけられないか,といったタグ入力に関する
ものが多く挙げられた.これは今後の改善項目として検討し,順に機能追加・改良を行って
いく予定である.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
2-04 火山噴火史情報データベースの 2 次利用について
鶴田直之(福岡大・工)・高橋伸弥(福岡大・工)・
奥村 勝(福岡大・総合情報処理センター)
About secondary use of eruptive history and informatics database
N. Tsuruta (Fac. Eng., Fukuoka Univ.), S. Takahashi (Fac. Eng., Fukuoka Univ.),
M. Okumura (Info. Tech. Center, Fukuoka Univ.)
本稿では,火山地質データベースに保存されたデータの活用方法について考える.研究者
が自身で集めてデータベースに保存したデータを 1 次データと呼ぶことにして,1 次データ
を検索しながら論文を書くといった利用形態をデータの 1 次利用と呼ぶことにする.一方,
研究機関が公開されているデータを大量に集め(例えば統計的な)処理を施して得たデータ
を 2 次データと呼ぶことにして 2 次データを白書の一部として利用すると言った利用形態を
2 次利用と呼ぶことにする.1 次利用と 2 次利用の関係は,非公開データの利用と公開データ
の利用の関係とは必ずしも対応しない.例えば将来的には,研究目的に限って研究者個人の
収集データを広く公開することもあるであろうし,元データを公開しないことを前提に統計
処理への活用を認めるような形態も考えられる.図1に 1 次利用と 2 次利用およびデータの
公開と非公開との関係において
現地
必要となるであろう要素技術に
観測
ついて整理した.データは,参
1次利用
成果物
① or ②
1次データ
非公開
公開
②
1次利用
成果物
③
④
⑤
②
⑥
2次利用
成果物
③、④、⑤
2次データ
非公開
公開
考文献などと同じようにオリジ
ナルが特定できなければならな
い.したがって,何らかの ID を
付加することになる.データの
③、④、⑤
2次利用
成果物
①個人のPCで管理しサーバには載せない
②サーバ上で,利用権限の制限や認証機能を利用する
③引用の際に元データを一意に辿れるようなIDを付与する
④最新情報が特定できるようにデータ作成日時をスタンプする
⑤アクセスログを残す
⑥元データの逆引きを許さないために、データIDを匿名化しておく
図1.データ共有に必要な要素技術
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保存サーバとディレクトリ,フ
ァイル名を使った URI(Uniform
Resource Identifier)などが応用で
きれば効率が良い.一方で,非
公開の1次データから2次デー
タを生成する際は,2次データ
の生成作業中に非公開データを
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辿ることができないようにする必要がある.これには,ID の匿名化の技術が必要になる.匿
名化とは個人情報を2次利用する際などにも使われている技術である.また,露頭画像を緯
度経度で検索すると,撮影時期の異なる複数の画像が得られることが考えられる.この場合,
どちらが最新の情報であるかは重要なので撮影時のタイムスタンプをデータに付与しておく
ことが必要となる.更には,不正利用の抑止効果を働かせる意味で,データへのアクセスロ
グを一定期間保持することも必要となろう.
次に,画像処理を用いた 2 次利用を視野に入れた技術開発の具体例を示す.この技術は二
つの要素からなる.一つ目は,2 次利用を容易にするための 2 次データの生成技術である.
二つ目は,2 次利用の具体的なアプリケーション技術である.一つ目の要素(本田・竹下・
前田・鶴田
2014)では,露頭写真が大量に集まることを想定して,サーバ上で露頭写真か
ら断層の候補となる亀裂を自動検出し,その 3 次元的な姿勢を推定することを目的としてい
る(タブレット端末などに実装すれば露頭の撮影時に現地で計測を済ませ,計測結果をサー
バにアップロードするインターフェイス・ツールとしても利用できる).図2に示すように,
地磁気センサーと加速度センサーを内蔵したスマートフォンなどのカメラで露頭を動画撮影
する(a).撮影中にカメラを移動し,ステレオビジョンにより特徴点の三次元位置をカメラ
中心座標系で計測する(b~d)
.その際センサーから得られた情報をもとにカメラの位置姿勢
を垂直軸と緯度経度からなる水平軸によって構成される座標系(これを本研究では地球座標
系と呼んでいる)で推定しておき,特徴点の三次元座標値を地球座標系に変換する.更に露
頭画像から亀裂線を画像特徴として抽出し,先の特徴点を亀裂線上あるいはその周囲首位の
特徴点に限定する(e).限定した特徴点の座標値から,亀裂の方向を最小二乗推定により推
定する(f)
.
二つ目の要素(前田・井手・鶴田
2014)では,ジオパークや露頭の現場において,AR
(Augmented Reality: 拡張現実感)技術を開発して,2 次データを実際のシーンに投影するこ
とによって一般市民向けの学習教材としたり,露頭の再調査を容易にしたりすることを目的
としている.特殊なマーカーを必要とせず,事前の風景そのものをマーカーとして利用する
マーカーレス方式の一つ PTAMM(Parallel Tracking And Multiple Mapping,
G. Klein・D.W.
Murray 2007)を採用している.PTAMM では,前述の亀裂検出と同じステレオ視の原理を用い
て,シーン中の特徴点の 3 次元位置を推定してマーカーの代わりとして記憶する.この記憶
データをマップと呼ぶ.その後は,現在のシーンから得られる特徴点の 3 次元位置とマップ
の特徴点の 3 次元位置とを照合して現在のカメラの位置・姿勢を推定し,目的の位置にCG
を表示する.図3に図2で得た亀裂上の特徴点を露頭シーンにCG化して重ね合わせ表示し
た例を示す.視点を変えても亀裂の位置が特定できている様子がわかる.CG 化するコンテン
ツとしては,説明用の仮想パネルやムービーを重ね表示することなどが考えられる.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
(a)概念図
(b)露頭に見立てたパネル
(c)画像処理による特徴点検出
(e)亀裂検出結果と特徴点の選択
(d)特徴点の三次元計測結果
(f)亀裂方向の三次元計測結果
図2.亀裂線の3次元測定の処理過程
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
図3.PTAMM による AR の実現例
〔参考文献〕
G. Klein and D.W. Murray(2007): Parallel Tracking and Mapping for Small AR Workspaces, Proc
International
Symposium
on
Mixed
and
Augmented
Reality
(ISMAR)
2007,
http://www.robots.ox.ac.uk/ActiveVision/Publications/klein_murray_ismar2007/klein_murray_is
mar2007.html
本田裕紀・竹下優・前田佐嘉志・鶴田
直之(2014)
:地質調査のための露頭画像における亀
裂抽出に関する研究,信学技報, vol. 113, no. 431, PRMU2013-125, pp. 25-30.
前田佐嘉志・井手翔大・鶴田直之(2014)
:特徴点抽出戦略の改良による自然環境を対象とし
た PTAMM の位置推定能力の向上,
信学技報, vol. 113, no. 431, PRMU2013-134, pp. 73-76.
- 30 -
第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
3-01 南九州,池田カルデラの噴火史
稲倉寛仁(西日本技術開発)・成尾英仁(武岡台高)
奥野
充(福岡大)・小林哲夫(鹿児島大)
Eruptive history of Ikeda caldera, southern Kyushu, Japan
H. Inakura (WEST JEC), H. Naruo (Takeokadai High School)
M. Okuno (Fukuoka Univ.) and T. Kobayashi (Kagoshima Univ.)
Ikeda caldera is a small-scale caldera (about 4 km in diameter), located in the southern tip of the
Satsuma Peninsula, southern Kyushu, Japan. We made a detailed geological study to understand the
eruptive history of Ikeda caldera (Fig. 1), including a study of the processes leading to the catastrophic
eruption. The pre-caldera activity began at about 20 cal kBP with the Iwamoto ash fall deposit. The
Senta lava was also effused before the Kikai-Akahoya tephra (7.3 cal kBP). The caldera-forming
eruption began at 6.4 cal kBP with a phreatic explosion that produced the Ikezaki ash fall and surge
deposits. This was soon followed by the magmatic eruptions that produced the Osagari and Mizusako
scoria fall deposits and the Ikeda pumice fall deposit. During the climactic stage, the Ikeda ignimbrite
was erupted and covered portions of the coastal area. Immediately after the caldera-forming event,
four maars were formed along the fissure vent southeast of the caldera. The Yamagawa maar, which is
the largest and is located at the southeastern end of the fissure vent, erupted a pumiceous base surge
(the Yamagawa base surge), while the other maars ejected small amounts of accessory or accidental
materials. During the late stage of the Ikeda eruption, a phreatomagmatic eruption occurred at the
bottom of the caldera floor, which formed the widespread Ikedako ash fall deposit. The central lava
dome was formed during the late stage of this eruption. After the Ikedako ash fall, secondary
explosions of the Ikeda ignimbrite occurred mainly along the coastal area, generating small base surge
deposits.
池田カルデラは南九州,薩摩半島南端に位置する小型(直径約 4 km)のカルデラである.
カルデラ形成噴火はその規模の大きさから噴火前の情報がほとんど失われてしまうが,小型
の池田カルデラは,噴火前の情報が比較的保存されているカルデラである.本発表では,詳
細な地質調査をもとに,カルデラ形成噴火の準備過程を含めた池田カルデラの噴火史を示す.
池田カルデラの活動に先行する約 2 万年前に岩本降下火山灰堆積物を噴出した.仙田溶岩
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
も鬼界カルデラ(7.3 cal kBP)の活動の前に噴出している.6.4 cal kBP のカルデラ形成噴火(Fig.
1)は,水蒸気爆発により池崎サージ堆積物・降下火山灰堆積物の噴出により開始し,その後
マグマ噴火(一部マグマ水蒸気噴火も含む)に移行し,尾下降下スコリア堆積物,水迫降下
スコリア堆積物及び池田降下軽石堆積物を相次いで噴出した.最盛期には池田火砕流堆積物
を噴出し,カルデラを形成するともに,火砕流は当時の内湾を埋め立て現在の火砕流台地を
形成した.この直後,カルデラの南西方向に次々とマールを形成した.このうち給源から最
も遠い山川マールではベースサージ(山川ベースサージ堆積物)が発生したが,それ以外の
マールでは,火口周辺に少量の異質岩片もしくは類質岩片の堆積が認められるだけである.
一連の噴火の最後には,カルデラ底で水蒸気マグマ噴火が発生し,池田湖降下火山灰堆積物
を噴出した.この噴火の末期には溶岩円頂丘が形成された.池田湖火山灰堆積後には,沿岸
部では池田火砕流堆積物の二次爆発が発生した.これらの噴火から数千年後に再びカルデラ
南縁の鍋島岳の活動が開始し,火砕物・溶岩を噴出した.
Fig. 1
Type columnar section of Ikeda caldera products (after, Inakura et al., 2014).
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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3-02 姶良入戸火砕流噴出に至る前駆噴火過程:マグマ溜まりの減圧進行
下司
信夫(産総研・活断層火山)
Precursory eruptive process for the Ito ignimbrite eruption of Aira caldera:
Decompression process of the magma chamber
N. Geshi (Inst. Earthquake Volcano Geology, AIST)
陥没カルデラの形成は,マグマ溜まりからの急速なマグマの噴出によって,マグマ溜まり
内のマグマ圧が低下し,支持を失ったマグマ溜まり天井がマグマ溜まり内に沈降することに
よって引き起こされる.マグマ溜まり天井の沈降は,環状断層の形成とその変位によって規
制される.したがって,陥没カルデラの形成メカニズムを理解するためには,マグマ溜まり
の減圧過程をコントロールする“前駆噴火”プロセスを理解しなければならない.
鹿児島県の姶良カルデラから約 29,000 年前に発生した姶良 AT 噴火は,我が国において後
期更新世~完新世に起こった最大級の噴火の一つである.この噴火によって噴出した入戸火
砕流は,九州島南部の広い範囲に広がった.その総量は 350 立方 km と推測されている(上
野,2001)
.入戸火砕流の噴出に先行し,現在の桜島付近にあたる姶良カルデラ南縁部から大
規模なプリニー式噴火が発生し,約 100 立方 km におよぶ大隅降下軽石を噴出した(Kobayashi
et al. 1983).この大隅軽石の噴出は妻屋火砕流の噴出に移行し,次いでカルデラ陥没の開始を
示すと考えられる亀割坂角礫層の形成とそれを覆う入戸火砕流の噴出に至った.従って,姶
良 AT 噴火におけるカルデラ陥没は,大隅降下軽石の噴出ステージにおけるマグマの排出と
それによるマグマ溜まりの減圧によって引き起こされたと考えられる.
大隅降下軽石の噴出過程を検討するため,その層序及び構成物の垂直変化を解析している.
大隅降下軽石堆積物には目立った降下ユニットは(一部のやや細粒の薄層を除いて)認められ
ず,全全体として上方粗粒化するほぼ単一の降下ユニットを構成する(図 1)
.詳しく見ると,
図 1 の地点(分布主軸上,桜島から約 15km)では基底から約 1m の領域では,それより上部
に比べると軽石粒径が小さく,上方に向かって急速に最大粒径が増加する.基底から 1m よ
り上位では,約 4m 付近に厚さ 0.2m のやや細粒の層を挟むものの,全体として緩やかに最大
粒径が増加する.このような最大粒径の上方粗粒化は,大隅降下軽石分布域のほぼ全域で観
察される(Kobayashi et al., 1983).降下軽石の最大粒径は噴煙高度に依存し,噴煙高度は噴出
率の 1/4 乗に比例する(ref)ため,大隅降下軽石全体にみられる上方粗粒化は,大隅軽石の
噴出率が噴火の進行につれて増加したことを示している.
- 33 -
第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
一方,大隅降下軽石に含まれる異質岩片は火道の拡大過程を反映している.大隅降下軽石
に含まれる異質岩片は,主に地表付近に存在していたと考えられる安山岩~デイサイト溶岩
片と,姶良カルデラの基盤を構成する四万十層群からもたらされた頁岩及び細粒の砂岩から
なる.異質岩片の含有量は,大隅降下軽石の全体を通して約 4~5%程度である.従って,大
隅降下軽石の噴出中に,約 5 立方 km の基盤岩および地表付近の火山岩類が破砕し異質岩片
として噴出したことを示している.
大隅降下軽石では,火道壁の大規模な侵食とそれによる火道径の拡大により,高い噴出率
を維持し続けることが可能となったと推測される.姶良カルデラから発生したほかの軽石噴
火では,異質岩片の含有量は大隅降下軽石に比べて小さく,基盤岩の大規模な侵食は認めら
れない.このことから,カルデラ陥没に至る十分なマグマ溜まりの減圧をもたらす大規模な
マグマ噴出は,火道の拡大プロセスによってコントロールされていることを示唆する.
10
Height from the bottom of
Osumi Pumice deposit (m)
Ito pyfl
8
6
ML
MP
4
Osumi
pumice
fall
dep.
2
0
0
2
4
6
8
Diameter (cm)
図 1 大隅降下軽石堆積物の最大軽石粒径(MP)及び石質岩片(MP)分布.
桜島から南東約 15km の垂水市垂桜.
引用文献
Kobayashi T., Hayakawa Y., Aramaki S., (1983) Thickness and grain-size distribution of the Osumi
pumice fall deposit from the Aira caldera. Bull Volcanol Soc Japan, 28, 129-139.
上野龍之(2001)火山灰粒子組成の側方・垂直変化から見た入戸火砕流の堆積機構.火山,46,
257-268.
- 34 -
第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
3-03 陥没カルデラの噴出量とマグマ溜りの準備期間
三浦 大助(電力中央研究所)
The volume and periodicity of magma discharge at the caldera-forming eruption: A review
D. Miura (CRIEPI)
カルデラとその陥没構造は,地下に存在する巨大マグマ溜りと関係が深いといわれる (e.g.,
Gayer and Martí, 2008; Sobradelo et al., 2010).巨大噴火で放出されるマグマの噴出量は,カル
デラの直径 (Sc) や面積 (A) に対して,両対数軸上で正の相関が認められている (e.g., Spera
and Crisp, 1986; Sato and Taniguchi, 1997; Fig. 1).直径 (Sc)・面積 (A)は構造要素の一部である
が,深さを含めた 3 次元陥没構造が噴出量に与える影響については良くわかっていない.
カルデラ径と変形モード:陥没床の変形モードは火道の分布を支配するため,噴出量・噴出
様式に影響が大きいと推察される.地殻の断面において,カルデラの直径 (Sc)とマグマ溜り
天井の深さ (D) の比は Roof aspect ratio と定義され (RAR = D/Sc: Roche et al., 2000),1 度の陥
没に伴う変形モードは,RAR によって変化するとされる (e.g., Roche et al., 2000; Acocella et al.,
2000).陥没床の変形をになう構造要素を引張割れ目や断層等の不連続面とみなした場合,大
—小規模断層の割合を表す累積頻度分布は「べき乗則」に従うと予想されるため,負の傾き
を示すべき指数が,陥没床の変形モードを表す.負の傾きが大きいほど,小規模断層の寄与
率が高く,断層群の総表面積が大きい変形,すなわち延性的変形となる.同じ径サイズで変
形が異なるカルデラを比較すると,RAR が大きく断層表面積が大きい変形モードを起こすカ
ルデラ噴火は,変形に対する内部 (熱) エネルギー分配が大きいといえる.一方,噴出物から
内部エネルギーを見積り,同エネルギー相当の核爆発と比較すると,大型のカルデラほどそ
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
の径が有意に大きい (Scandone, 1990).このことから,大型のカルデラでは効率的な変形モー
ドが必要と推測され,浅いマグマ溜りの方が有利であると考えられる (三浦・和田, 2007).
マグマ供給系の進化:巨大噴火の周期性を推測するためには,大量のマグマを放出するマグ
マ溜りの準備過程,すなわち,マグマ供給系の進化について考察が必要である.一般に,大
規模マグマ噴出は休止期間が長いとされるが (Spera and Crisp, 1986; White et al., 2006),デー
タに不確実性が大きく,また,巨大噴火の周期性を一般化するほど充実していない (Deligne et
al., 2010).既に活動を終えたカルデラ火山群では,階段図において巨大噴火の周期性を議論
した例があり (Salisbury et al., 2011),階段図を物理化学的にモデル化することも重要である.
巨大噴火の休止期間には中・小規模噴火が生じており,中・小マグマ供給系の解明も,巨大
マグマ溜りの準備過程を知る一つの方法である.小規模マグマ噴火においては,階段パター
ンを単純な弾性モデルで説明した例がある (Miura et al., 2013: Fig. 2).巨大マグマ溜りでは熱
量が大きいため,地殻の延性的振る舞いを考慮に入れてモデル化される必要がある (e.g.,
Jellinek and DePaolo, 2003; Gregg et al., 2012: Fig. 1).マグマ溜りの熱的制約に関する研究から
は,花崗岩体はマグマ溜りの単調な冷却ではなく,複数回の溜り形成を経るモデルが提案さ
れている (e.g., Annen, 2009).LA-ICP-MS を用いた U-Pb 年代測定法により,黒部川花崗岩体
中に複数のマグマ貫入イベントが識別された例がある (Ito et al., 2013).これらの研究や,さ
らに様々な手法を組合せ,総合的にマグマ供給系の進化を理解することが不可欠であろう.
文献: Acocella et al., 2000: 10.1016/S0377-0273(00)00201-8; Annen, 2009: 10.1016/j.epsl.2009.05.006; Deligne et al.,
2010: 10.1029/2009JB006554; Gayer and Martí, 2008: 10.1016/j.jvolgeores.2008.03.017; Gregg et al., 2012:
10.1016/j.jvolgeores.2012.06.009; Ito et al., 2013: 10.1038/srep01306; Jellinek and DePaolo, 2003: 10.1007/
s00445-003-0277-y; 三浦・和田, 2007: 10.5575/geosoc.113.283; Miura et al., 2013: 10.1130/B30732.1; Roche et al., 2000:
10.1029/1999JB900298; Sato and Taniguchi, 1997: 10.1029/96GL04004; Scandone, 1990: 10.1016/0377-0273(90)90005-Z;
Sobradelo et al., 2010: 10.1016/j.jvolgeores.2010.09.003; Spera and Crisp, 1981: 10.1016/0377-0273(81)90021-4; White et
al., 2006: 10.1029/2005GC001002.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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3-04 高精度地震波トモグラフィーから見た活火山下の深部構造
趙 大鵬(東北大・理)
Tomographic imaging of the deep structure of active volcanoes
D. Zhao (Dep. Geophys., Tohoku Univ.)
E-mail: [email protected]
We determined detailed three-dimensional (3-D) images of P and S wave velocity and Poisson’s
ratio in the crust and upper mantle beneath NE Japan and SW Japan using a great number of
high-quality arrival-time data from local crustal earthquakes and intermediate-depth events in the
subducting Pacific slab. Then we examined the images beneath the active volcanic areas as well as the
source areas of large crustal earthquakes (M 6.0-7.2) which occurred in Tohoku during 1894 to 2014.
Among the 26 earthquakes in NE Japan, 10 events occurred in the Tohoku forearc, 10 in the back-arc,
and 6 events are located along the volcanic front. Main findings of this work are summarized as
follows.
(1) Prominent low-velocity (low-V) and high Poisson’s ratio (high-σ) anomalies are revealed in the
crust and upper-mantle wedge beneath the active arc volcanoes and the source zones of the large
crustal earthquakes.
(2) Beneath the volcanic front and back-arc areas, the low-V zones reflect arc-magma related
high-temperature anomalies which are produced by joint effects of corner flow in the mantle wedge
and fluids from dehydration of the subducting slab. The hot low-V anomalies can cause locally
thinning and weakening of the brittle seismogenic crust above them. In addition, low-frequency
micro-earthquakes are observed in the lower crust and uppermost mantle in and around the low-V
zones, which reflect ascending of magma and fluids from the mantle wedge to the crust, inducing
large crustal earthquakes.
(3) No volcano and magma exist in the fore-arc area duo to the low temperature there, hence the
low-V zones in the forearc may reflect fluids from the subducting slab dehydration, which may have
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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第 5 回研究集会 講演要旨集
formed a water wall in the mantle wedge and lower crust. When the fluids enter active faults in the
upper crust, the fault-zone friction is reduced and so large earthquakes can be triggered.
(4) Our present results as well as some previous studies indicate that the nucleation of a large
earthquake is not entirely a mechanical process, but is closely associated with the subduction
dynamics and physical and chemical properties of rocks in the crust and upper mantle. In particular,
the arc magma and fluids play an important role in the earthquake nucleation. These results have
important implications for the reduction of seismic hazards.
References
Zhao, D., W. Wei, Y. Nishizono, H. Inakura (2011) Low-frequency earthquakes and tomography in
western Japan: Insight into fluid and magmatic activity. J. Asian Earth Sci. 42, 1381-1393.
Zhao, D., T. Yanada, A. Hasegawa, N. Umino, W. Wei (2012) Imaging the subducting slabs and mantle
upwelling under the Japan Islands. Geophys. J. Int. 190, 816-828.
Zhao, D., H. Kitagawa, G. Toyokuni (2015) A water wall in the Tohoku forearc causing large crustal
earthquakes. Geophys. J. Int. 200, 149-172.
Zhao, D. (2015) The 2011 Tohoku earthquake (Mw 9.0) sequence and subduction dynamics in
Western Pacific and East Asia. J. Asian Earth Sci. 98, 26-49.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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第 5 回研究集会 講演要旨集
3-05 阿蘇-4火砕流堆積物の斜長石およびメルト包有物からみた
マグマ組成の時間変化
山崎秀人・長谷中利昭(熊本大・自然科学)・安田
敦(東京大地震研)
Temporal variation of magma composition as observed by
plagioclase and melt inclusions in Aso-4 pyroclastic flow deposit
H. Yamasaki, T. Hasenaka (GSST, Kumamoto Univ.) and
A. Yasuda (Earthquake Res. Inst., Univ. of Tokyo)
約 9 万年前に起こった阿蘇-4 火砕噴火は日本における最大規模の噴火である上に,噴出物
の層序学的関係が多くの研究者によって明らかにされており,巨大火砕噴火の推移を研究す
るには最適である.またカルデラ外では巨大火砕噴火直前の噴出物が得られるので,準備過
程の研究にも適している.本発表では阿蘇-4 火砕流堆積物に含まれる鉱物の組成変化,およ
びそれらの鉱物に含まれるメルト包有物の組成変化を報告する.分析試料は,阿蘇-4 火砕噴
火初期の小谷軽石流堆積物(以下,小谷)
,肥猪火山灰流堆積物(以下,肥猪)
,八女軽石流
堆積物(以下,八女),弁利スコリア流堆積物(以下,弁利)の斜長石斑晶,および斑晶鉱物
に含まれるメルト包有物である.各サブユニットの軽石,火山灰層試料から斑晶鉱物を分離
し,鉱物のみの薄片を作成し,熊本大学理学部および東京大学地震研の EPMA によって化学
分析を行った.また東京大学地震研では FT-IR による含水量の測定も行った.
軽石中に含まれる斜長石の組成は組成分布幅のピーク中央値が,An=35%(肥猪)
,An40%
(小谷,八女)
,An45%(弁利)と層序に従ってわずかではあるが増加する傾向が見られる.
また組成分布も単一ピーク(肥猪)から高 An 側に弱いピークを持つもの(小谷,八女,弁
利)に変化していき,斜長石組成の幅がより広くなる(弁利).コアとリムに分けて分析した
が,明らかな逆累帯構造は見つからなかった.
全岩化学組成では肥猪,小谷,八女,弁利(軽石)は SiO2=68~70%に集中しており,組
成の違いは認められない.しかし,斜長石,斜方輝石斑晶に含まれるメルト包有物のガラス
では,分析した肥猪と小谷の間で明瞭な違いが認められた.肥猪のメルト包有物は
SiO2=73~74%の狭い組成領域に分布するが,小谷のメルト包有物は肥猪の組成領域を含み,
SiO2=71~74%のやや広い組成範囲を示す.椎原(2014)が,カルデラ東方の Aso-4A テフラで
同様の関係をもつ 2 種のガラス組成を報告しており,それらは肥猪と八女の火砕流堆積物の
ガラスに対応することを議論した.椎原(2014)の八女が,本論の小谷と似通った組成を示
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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すことから,南および西方に流れた小谷火砕流と北方に流れた八女火砕流が,ほぼ同じマグ
マ供給系由来であることが推察される.
含水量は肥猪のメルト包有物は 4%以上,シリカにやや乏しい小谷ガラス包有物は 2~4%
であった.塩素濃度は肥猪のメルト包有物の方が小谷より高いが,硫黄はシリカに乏しい小
谷の方がやや高い含有量を示す.
以上をまとめると,肥猪は 1 つのマグマ液相を,小谷,八女,弁利は 2 つのマグマ液相を
代表すると考えられる.肥猪噴出時はマグマ液相部分が均質であり,斜長石はそれと平衡で
あったと考えられる.これに対し,小谷,八女,弁利では複数のマグマ液相とそれらに平衡
な斜長石が存在する.これらのデータを最も説明しやすいモデルは成層マグマ溜まりの上層
からの段階的なマグマ排出,混合であろう.
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3-06
鬼界カルデラのアカホヤ噴火
小林哲夫(鹿児島大学)・成尾英仁(武岡台高校)
The 7.3 cal kBP Kika Akahoya eruption of Kikai caldera
T. Kobayashi (Kagoshima Univ.) and H. Naruo (Takeokadai Senior High School)
1
鬼界アカホヤ噴火の概要
鬼界カルデラは,鹿児島県薩摩半島から南方へ約50 kmに位置する海底カルデラであり,
ここでは7.3 cal kBP(奥野,2002)に鬼界アカホヤ噴火下位とよばれる大規模なカルデラ形成
噴火が発生した.噴火は前半のプリニー式噴火と後半の大規模火砕流噴火と引き続くカルデ
ラ形成からなり,それらは連続して発生したと推定される(小野・他,1982;Maeno and Taniguchi,
2007).前半のプリニー式噴火の終末には噴煙中崩壊により高温の船倉火砕流が発生した.後
半の噴火では薩摩・大隅半島に分布する幸屋降下軽石(Ky-p)と幸屋火砕流堆積物(Ky)が
噴出した(宇井,1973).上空に舞い上がった細粒火山灰は,鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah:
町田・新井,1978)とよばれ,東北地方まで分布が確認されている.幸屋降下軽石は約20km
3
,幸屋火砕流堆積物は約50km3,鬼界アカホヤ火山灰は100km3以上と推定されている(町
田・新井,2003)
.一連の噴出物は鬼界アカホヤテフラと称されている.
2
幸屋火砕流の到達範囲
Ky は極めて薄く拡がったが,その範囲について南側はトカラ列島北部,北側は薩摩半島中
部の鹿児島市喜入と大隅半島の志布志を結ぶ線以南とされてきた(町田・新井,2003)
.しか
し,その後の研究で屋久島南部には到達せず(下司,2009),種子島北部にも到達しなかった
(藤原ほか,2001)ことが明らかになった.また,トカラ列島口之島にも到達しなかった.
大隅半島中部の肝属平野では鬼界アカホヤテフラが明瞭に堆積するが,いずれの地点にお
いても Ky-p とその上に載る K-Ah のみが堆積し Ky は認められない.大隅半島南部には標高
1000m 近い山地が存在するが,山地中腹には Ky の堆積が認められることから,Ky は山地を
越えることができなかったと考えられる.
一方,大隅半島中部の鹿児島湾に面した鹿屋市高須や花岡では,わずかであるが良く発泡
した数 cm 大の軽石が点在することから,Ky は到達したと結論づけられる.Ky は鹿児島湾沿
いに海上を北上し,湾に沿った半島の斜面を流走し駆け上ったものであろう.
東シナ海側の薩摩半島では,日置市吹上南部まで Ky が確認されるが,それより以北では
K-Ah のみが堆積する.鹿児島湾沿いでは鹿児島市喜入の北部まで Ky が堆積し,標高 500m
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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第 5 回研究集会 講演要旨集
以上の山地にも堆積している.したがって,薩摩半島側では吹上南部と喜入北部を結ぶ以南
が到達範囲となる.
3
鬼界アカホヤ噴火に随伴する地質現象
アカホヤ噴火に近い時期の地質現象としては,数百~100 年前に大規模な山崩れ(山体崩
壊)と流紋岩質の長浜溶岩噴出があった(小林・他,2006;小林・他,2010)
.さらにそれ以
前には長期にわたる断続的な噴火の産物である籠港テフラの噴出があった(奥野ほか,1994)
.
鬼界アカホヤ噴火では,前半のプリニー式噴火直後および後半の火砕流噴火・カルデラ形
成期の2度にわたって大地震が発生した(成尾・小林,2002)
.
種子島および屋久島では更新世後期の段丘礫層から上昇する噴礫脈の存在する.噴礫脈は
Ky 直下に達するが,Ky を貫くものは見られない。Ky-p 直下の土壌層が Ky-p 中に上昇する
例,地割れに Ky のグランドレイヤーが入り込む例などから,大地震の発生は Ky-p の噴出後
で Ky の噴出直前であったと結論づけられる.
一方,大隅半島中部では噴砂が K-Ah 中に噴き出している例が多数存在する.噴砂は K-Ah
層の下側 1/3程度の位置で横に広がり,K-Ah の降下途中で地震が発生したことは疑いない.
霧島火山群の甑岳山頂火口では,浅い湖に堆積した K-Ah が見られる.K-Ah 層内部には顕
著なラミナやスランプ構造があり,さらに K-Ah 下部の牛のスネ火山灰層が波状を呈してい
る。このような構造は K-Ah 層が激しい震動を受けたことを示している.震動の発生した時
期については特定が難しいが,K-Ah 層上部が水平であることからすると,K-Ah 降下途中で
発生した地震によるものかもしれない.
火砕流により樹木が横転することは桜島の大正噴火などでも知られているが,樹木ととも
に地層が横転する例が Ky に伴う地質現象として存在する(本研究集会,成尾)
.一般的な大
きさは径1~5mであり,深さ1~2mまでの古土壌層・テフラ層が数十~90°横転する.
横転方向はほぼ北であり,鬼界カルデラと反対方向である.
薩摩半島南部海岸沿いでは Ky の破片を含む礫層が存在する.礫は様々な形状を呈するが
円礫も少なからず含まれる.この礫層は標高 30m 程度の位置にあり,付近に顕著な河川はな
く,礫層は河川以外の営力,例えば津波で運ばれてきたことなどが考えられる.すでに,後
半の火砕流噴火・カルデラ形成期には巨大津波が発生した可能性が指摘されている(藤原・
他,2010;小林,2008;Maeno and Imamura, 2007 など).
屋久島では Ky 中に樹木が含まれる例が多数あるが,いずれの樹木も炭化していない.ま
た,宮之浦川や安房川沿いでは Ky 中に砂や礫が入り込む例があり,小瀬田の海岸では礫層
中に Ky の一次堆積物が挟まっている.これらの起源については Ky 堆積後のラハール堆積物
の可能性,津波堆積物の可能性について,今後,詳細に検討していく予定である.
- 42 -
第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
3-07
桜島火山の噴火史からみた薩摩噴火の可能性
奥野 充(福岡大)
Possibility of the biggest eruption of Sakurajima volcano, viewed from eruptive history
M. Okuno (Fukuoka Univ.)
桜島火山は,姶良カルデラの後カルデラ火山であり(小林ほか,2013)
,29 kcal BP(奥野,
2002)の入戸火砕噴火(以下,A-Tn という)からわずか 2000 年後に最初のプリニー式噴火
(P17)を開始している(Okuno et al., 1997)
.桜島の噴火史は,古期北岳,新期北岳,南岳に
3つにステージ区分できるが,小林ほか(2013)は歴史時代の天平宝字(764〜766)
,文明(1471
〜1476),安永(1779),大正(1914)の大規模なプリニー式噴火を中心とした活動を,新期
南岳ステージとして独立させた.2015 年現在も,昭和火口を中心にブルカノ式噴火を活発に
続けている.約 13 cal kBP の桜島薩摩テフラ(Sz−S/P14)は桜島火山最大のテフラで,南九
州一円に分布し(Fig. 1),みかけの体積は 14 km3 と推定されている(小林ほか,2013)
.この
Sz−S 噴火から新期北岳ステージが開始したが,その前には 1 万年以上の休止期がある(Fig.
2:Okuno et al., 1997;奥野,2002)
.また,この休止期には,高野ベースサージ(A-Tkn)や
新島火砕流(A-Sj)などの姶良カルデラ起源のテフラが小規模ながら噴出している.
桜島と姶良カルデラのマグマ溜まりは近接していると考えられ,このような姶良カルデラ
のマグマ噴出が,桜島火山の長い休止期を実現可能にしたのであろう.さらに,桜島の最初
の P17 噴火は,体積 500 km3 の A-Tn 噴火からあまり長い休止期を挟まずにおこっている.こ
のことも,両者のマグマ溜まりが独立・並行して活動していることを示す.この P17 の体積
が 1.1 km3 と Sz−S に次ぐ規模であることも,そのことを強く示唆する.鬼界カルデラでもカ
ルデラ形成噴火と後カルデラ噴火で同様の時間関係があり(奥野,2002)
,カルデラ火山では
両者が同時並行的に進んでいるのであろう.以上のように, 桜島火山の噴火史を眺めると,
Sz−S 噴火が極めて特別であることがわかる.したがって,新期南岳ステージにある桜島火山
で,近い将来に Sz−S のような規模の噴火がおこるとは考え難い.それよりもむしろ,姶良カ
ルデラは 16 cal kBP の A-Sj 以降,明確な噴火活動が認められず,現在までにどの程度のマグ
マを蓄積してきたかを詳しく見積もる必要があろう.この見積もりが明確になれば,姶良カ
ルデラの次のカルデラ噴火の規模が推定できる.
- 43 -
第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
Fig. 1
Fig. 2
Isopach map of Sakurajima-Satsuma (P14) tephra (after, Kobayashi et al., 2013).
Cumulative tephra (bulk) volume for Sakurajima volcano (after, Kobayashi et al., 2013).
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
3-08
地獄や温泉地域に認められる高温酸性の火山性流体の名残り
田口幸洋(福岡大・理)
Remnan of volcanic fluid in geothermal manifestations such as steaming ground and hot
springs -a good monitoring point for big eruptions?-
S. Taguchi (Fukuoka Univ.)
火山の周辺に発達する地熱地帯には噴気帯や温泉などの地熱徴候が分布している.このよ
うな地熱徴候地のなかには,かつて高温の火山性流体が作用した名残りが認められる.この
ような跡は,火山性流体がマグマから発散され,比較的に周辺の岩石と反応せず地表に到達
した後であり,地下深部に直結している通路でもある.このような地熱徴候地の詳細な把握
は,温泉を含む地熱系の歴史や現状の理解を深めるばかりでなく,防災上も重要な情報を与
えてくれる可能性がある.
ここでは九重の火山活動に伴う地熱系の発達過程について,主に八丁原発地熱帯を取り上
げ,八丁原の地熱徴候地はかつて火山性流体の通路であったことを紹介する(Fig. 1)
.
八丁原地熱帯の北部には噴気活動を伴う小松地獄があり,地下 1000m位まで酸性変質帯が
発達している (Hayashi, 1973)
.小松地獄の温泉は,地下の熱水が沸騰し,分離された蒸気,
硫化水素,二酸化炭素等が地下浅所に上昇し,地表近くの地下水を加熱し形成されたもので,
蒸気加熱水の SO4 型(硫化水素の酸化による)を示している.一般的に pH は 2-4 程度の値を
示す.変質鉱物はクリストバル石+明礬石が卓越し,周辺部ではこれにカオリナイトを伴って
いる.しかしながら,小松地獄ではこの中に,石英からなる珪化岩が地表で認められ,現在
の噴気活動下で形成されたものでないこと,すなわち pH<2 の Cl-SO4 型の火山性流体がかつ
て作用したことを示唆している.また,明礬石の硫黄同位体比は,現在の噴気活動下(蒸気
加熱水の作用)でできたことを示しているが,中にはより高温酸性下の条件下で形成したも
のであることを示すものも認められる.
この付近の地下の熱水変質は,明ばん石が地下約 350m まで厚く発達し,その下位はカオ
リナイトやパイロフィライトが地下 1000m 以上の深さまで分布している.地下 100mまでの
明ばん石の硫黄の同位体比は 0.5‰程度で,現在の噴気活動の影響下で生成したことをしめし
ている.しかし,それ以深は 10 数‰~23‰と高い値を示し,地表付近の噴気活動とは関係の
ないことを,またこのような明礬石のコアには APS 鉱物が認められ,火山活動中心部の高硫
化系の環境下で形成したことを示している.また,明ばん石帯の下位のカオリン-パイロフィ
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
ライト帯には,トパーズ,ズニ石,紅柱石,ダイアスポアなど高温酸性,すなわち火山性流
体の通路付近で形成された鉱物も分布している.これらのことから,小松地獄付近は,かつ
ての高温・酸性の火山性流体の通路にあたり,厚く発達する酸性変質帯はこの活動により生
成したものであることが明らかである.なお,八丁原北部には現在も酸性の高温熱水が存在
しており,現在も火山性流体の活動が続いていると考えられる.
八丁原の北 2km に位置する大岳では,明ばん石帯の硫黄同位体比は火山性流体の存在下で
形成されたことを示しているが,現在では地下に関連した酸性の熱水を見出すことができな
い.大岳-八丁原地熱帯で認められるような火山性流体が作用した痕跡は,九重火山の周辺
の温泉地にのほか,九州各地の火山周辺の地獄や温泉などにも見出される.
このような火山性流体の名残りを伴う地熱徴候地は,その通路が地下深部の高温部に直接
つながっていると考えられるので,大規模噴火の際の徴候がいち早く検知される場となる可
能性がある.なお,ピナツボ火山にも火山性流体の徴候地は存在していたが,噴火直前の変
化については報告がなされていない.
Fig. 1 Schematic geothermal model of Otake-Hatchobaru geothermal model (After modified Taguchi, et al,
(2001).
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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第 5 回研究集会 講演要旨集
3-09
火山活動初期のテフラを使った岩石学的モニタリング
―セントヘレンズ火山 1980 の例ー
渡邉公一郎(九州大)
Petrological monitoring using early tephra for volcanic activity
- Case study of Mt. St. Helense 1980 eruptionK. Watanabe (Kyushu Univ.)
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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第 5 回研究集会 講演要旨集
4-01 Eruptions at Sinabung and Kelud in Indonesia
S. Nakada (ERI, Univ. Tokyo), M. Yoshimoto (Mt. Fuji Res. Inst.),
F. Maeno (ERI, Univ. Tokyo), M. Iguchi (DPRI, Kyoto Univ.),
A. Zaennudin (CVGHM) and M. Hendrasto (CVGHM)
インドネシア,シナブン火山とケルート火山の噴火
中田節也(東京大)・吉本充宏(富士火山研)・前野 深(東京大)・井口正人(京都大)・
A. ザエヌディン (インドネシア火山地質災害軽減センター)・
M. ヘンドラスト (インドネシア火山地質災害軽減センター)
In Indonesia, two distinct eruptions occurred at Sinabung and Kelud in 2014. The geophysical
and geological observation and petrological research on these eruptions provide us an important key
question; why two different modes of eruption occurred under a similar volcanological background.
Lava dome-forming eruption started at Sinabung volcano, Northern Sumatra, in the end of 2013,
which was preceded by the phreatic eruption period since 2010. The eruption had continued in a
nearly constant rate of magma effusion as of the summer of 2014. The 2010 eruption was the first
historic eruption, and the latest eruption geologically recorded occurred in the 9-10th Century. This
time eruption was very similar to the 9-10th Century eruption in terms of style, scale, position and
magma chemistry; that is the growth of a lava flow/dome complex in the summit area and generation
of collapsed-type block-and-ash flows. This time, the lava complex extended on the southeastern
volcano slope, frequently generating pyroclastic density currents, and became horizontally about 3 km
long from the source (Fig. 1). The volume of erupted magma reached about 0.13 km 3. The lava is
porphyritic hornblende-bearing two pyroxene andesite (SiO2 57-58%) and high-Si rhyolite melt (SiO2
~75%). The geological study showed the absence of explosive eruption in this volcano through its
growth history.
On the other hand, the Plinian eruption began at Kelud volcano, east Java on the evening of
February 13, 2014, which had declined almost within about 6 hours. The eruption cloud rose to 18-25
km above the crater, and tephra deposited on extensive areas. The precursory seismic activity started
two weeks before the eruption and the intensity increased with time. This short but explosive eruption
was one of recent large eruptions (VEI 4) typical at Kelud, which repeated every about 20 years.
Before this eruption, a lava dome complex of about 0.04 km3 had been formed within the crater in
2007-2008 (Fig.2). The total volume of tephra of the 2014 eruption is 0.2 to 0.3 km 3 in DRE. The
magma is crystal-rich (about 60 vol.%), porphyritic pyroxene andesite (SiO2 55-56%) with rhyolite
melt (SiO2 ~70%). The petrological characteristics of the magma are similar to the 2007-2008 lava
dome, except the foam glassy groundmass in the former.
The 2013-2014 eruption at Sinabung and the February 2014 eruption at Kelud are good
examples of less-explosive and explosive eruptions in Indonesia, respectively. The magnitudes of
eruption are similar in orders between the two volcanoes, and the magma compositions are basaltic
andesite to andesite. Magma storage depths and the resultant estimated water contents were similar to
each other. However, the eruption rates were different; ~5 m3/s and 20,000 to 40,000 m3/s for
Sinabung and Kelud, respectively (Fig. 3). At Kelud, the compositionally identical magma erupted
both explosive and non-explosive for these 6 years. A critical difference of eruptions between two
volcanoes and in a single volcano is the eruption rate.
(Modified from the abstract read in the 2014 AGU Fall Meeting)
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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第 5 回研究集会 講演要旨集
2014 年にインドネシアではシナブン火山とケルート火山とで異なるタイプの噴火が起きた。
地球物理学的および地質学的観測と岩石学的研究から,これら 2 火山が似た地質学的背景で
どうして異なるタイプの噴火をするのかという基本的な疑問を投げつけた。
北スマトラにあるシナブン火山では 9 世紀から 10 世紀の火砕流噴火が最も新しかったが,
2010 年 8,9 月に有史初めての噴火(水蒸気爆発)を起こした。2013 年9月中旬に水蒸気爆
発が再開し,マグマ水蒸気爆発を繰り返し,12 月に山頂部の膨張を伴って溶岩が山頂火口に
出現した。12 月末から溶岩崩落に伴う火砕流が発生し始め,溶岩ドームは成長続け,次第に
南東斜面に成長を続け溶岩流となり,水平距離で長さ約 3 km に達し,噴出量は 0.13 km3 に達
した(図 1)
。2014 年末でも,当初の勢いは減じたが,溶岩はまだ成長を続けている。噴火の
仕方や火砕流の分布範囲は 9-10 世紀噴火とほぼ同じである。溶岩は斑晶に富む角閃石輝石安
山岩(SiO2 57-58%)である。地質学的な研究ではこの火山の成長史を通して爆発的な噴火が
起きていないことを示している。
東ジャワにあるケルート火山は約 20 年おきにプリニー式の噴火(VEI 4)を繰り返してい
る。2014 年 2 月 13 日の夜にプリニー式噴火を開始し,約 6 時間後に噴火は収まった。噴煙
は上空 18-25km に達し,火山灰は火山の西側遠方まで広く堆積した。噴火の前 2 週間前から
急激に地震が多発し,その頻度と強度を時間とともに増して噴火した。2007-8 年には,火口
内に溶岩ドーム(約 0.04 km3)が形成されたが,この溶岩ドームは今回の噴火で完全に吹き
飛ばされた(図 2)
。今回の噴火の噴出量は 0.2-0.3 km3 である。噴火した軽石は結晶に富む輝
石安山岩(SiO2 55~56%)である。岩石学的特徴は 2007-2008 年溶岩と酷似している。
2013~2014 年にシナブン火山とケルート火山で起きた噴火は,非爆発的噴火と爆発的噴火
の好例である。噴火の規模はオーダーでは同じであり,マグマ組成も大きく違わない。マグ
マの蓄積深度や推定される水の量も良く似ていると考えられる。しかし,噴出率は両者で大
きく異なり,シナブン火山で 5m3/s であるのに対しケルート火山では 2~3 万 m3/s である(図
3)。一方で,ケルート火山ではこの6年間に組成が同じマグマが溶岩ドーム噴火とプリニー
式噴火を起している。シナブン火山とケルート火山,あるいはケルート火山だけでも,異な
るタイプの噴火が異なる噴出率で引き起こされた。
Fig. 1. Lava flow on the southeastern slope of Sinabung volcano (left: night view in Jan. 2014) and
ash-cloud of pyroclastic flow of the Feb. 1, 2014 event (right). The latter was taken by CVGHM
図 1 シナブン火山の南東斜面の溶岩流(左。2014 年 1 月の夜景)と 2014 年 2 月 1 日火砕流
(右。インドネシア火山地質災害軽減センター提供)
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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第 5 回研究集会 講演要旨集
Fig. 2. Crater area of Kelud volcano.
Left: after the Feb 2014 eruption (Feb. 23, 2014) taken by CVGHM. Right: before the eruption (Dec. 8,
2008).
図 2 ケルート火山噴火前後の火口の様子。左)2014 年 2 月 23 日。右)2008 年 12 月 8 日。
Fig. 3 Discharge rate and eruption volume relationship. The original iagram of Kozono et al. (2013)
was referred.
図 3 噴出率と噴出量(溶岩換算)の関係。Kozono et al. (2013)の原図を参考にした。
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第 5 回研究集会 講演要旨集
4-02 インドネシアの火山地形
守屋以智雄(金沢大・名誉教授)
Volcanic geomorphology of Indonesia
I. Moriya (Honorary Prof., Kanazawa Univ.)
Sumatra, Java, Bali, Lombok, Sumbawa, Lomblen, Marisa, Banda 諸島などが連なる長さ約 1600
km に及ぶインドネシア大スンダ弧に沿う火山の概要を,地形図・Google Earth 3D 画像の判読
から明らかにし,守屋(1979, 1983, 2012)にしたがって分類した.したがって本報告は地形
情報採取を主体とする予察作業結果の報告ともいえる内容であるが,多くの新たな情報が得
られたので,ここに報告する.今後さらに地質・岩石・年代値などの情報を加え,より完全
な成果を導きたい.
インドネシア・大スンダ列島の火山総数は 236 個で,そのうち成層火山 180 個(76 %),カル
デラ火山 20 個(8 %),溶岩原 2 個(0.8 %),単成火山群 34 個(14 % 流紋岩質溶岩ドーム火山
12 個,玄武岩質スコリア丘・小楯状火山・マール 22 個)の内訳となっている.ただし後カ
ルデラ火山はカルデラ火山に含め数えていない.西太平洋沈み込み帯の火山総数 940 個のう
ち成層火山が 676 個 72 %であるのに対し,大スンダ列島の成層火山の占める割合は 76 % と
やや高い.しかし島弧にはめったに出現しない玄武岩質マグマ起源の溶岩原が 2 個も存在す
ること,玄武岩質マグマ起源のスコリア丘などの単成火山群が,西太平洋の平均 9 %に対し
て 14 %と高い出現率を示すことは注目される.カルデラ火山の 8 %は西太平洋の平均 7 %と
くらべ差がない.成層火山の発達は Java 島の成層火山のみ初期のものが少なく,Sumatra,
Flores 島などの成層火山では発達初期の富士山型のものが多い.島弧ごとに火山形成に遅速
があったのか,発達速度に差があったのか興味深い.
Sumatra 島と Java 島では沈み込むプレートの方向に差からか,Sumatra 島では火山が右横ずれ
断層に沿って 50 km ごとにほぼ1列に島弧伸長方向に並ぶのに対し,Java 島では 5-10 個の火
山がみたらし団子のような列をなし,島弧伸長方向に直交して並ぶ.互いの距離は 50-100 km
程度で,20 列ほどある.火山が同様の配列をする例は東北日本弧(Tamura et al., 2002)と中米
Costa Rica(守屋,1999)に見られるだけである.
地形図判読から Sumatra 島の火山の一部,Java 島の大部分の火山の地形分類図が作成され
た.その一部を提示するとともに,それから読み取れる事例について解説する.
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第 5 回研究集会 講演要旨集
Fig.1
Distribution of the volcanoes in Java Is.
Note the chains of the volcanoes!
Fig.2 Northern half of Danoe caldera volcano
Fig.3 Kendeng caldera volcano
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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第 5 回研究集会 講演要旨集
4-03 Volcanic history and geothermal activity in Dieng geothermal field,
central Java, Indonesia
A. Harijoko and W. Warmada (Gadjah Mada Univ.)
The Dieng Volcanic Complex (DVC), in the Central part of Java Island, is characterized by a
collapse structurecontaining 17 post intra-caldera eruptive centers. Thisvolcanic complex
shows long-term volcanic activity of about 3 M.y. and is possibly record the long-term
magmaevolution at a single volcanic complex. The volcanicedifices in DVC can be grouped
into three stages, namelypre-caldera (~3 Ma), post-caldera I (~2 to 1 Ma) and post-caldera II
(< 1 Ma). Major element rock compositionssuggest that the DVC magma cyclically evolved
frombasaltic to dacitic composition. Both pre-caldera and post-caldera I have a wide range of
composition from basalt todacite, in contrast the post-caldera II ranges from andesite todacite.
Phenocryst assemblage of all the stage show similarcomposition including plagioclase,
clinopyroxene,orthopyroxene, olivine and magnetite. The post-caldera IIlava also contain
biotite phenocrysts and are richer ingroundmass glass. The increase of silica content is
followedby increasing potassium content (K57.5) so that we candistinguish medium-K and
high-K magmatism in early andlate stage of each group in pre- and post-caldera.Harker
diagrams indicate that magma in DVC isdifferentiating from the same magma source.
Chondritenormalized incompatible element plots show similar patternsamong for all edifices,
and are typical of the island arccompositions, with enrichment of LILE and LREEcompared
to HSFE and HREE. Ta/Nb and Zr/Nb ratios of the lava from all stages are similar and range
from 0.04 to0.1 and 16 to 37, respectively, indicating that the mantlecomposition beneath
DVC is still the same and resemblesthe ratio of Indian MORB. Ce/Pb and Th/Yb ratios
indicatethe contribution of continental material either as crustalcontamination during the
passage of magma to surface orsediment influx during partial melting. There are nosignificant
geochemical differences among magmas at DVC.
(from the abstract of Proceedings World Geothermal Congress 2010 )
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
5-01 Geology and crisis management
of Pinatubo volcano, central Luzon, Philippines
C. Newhall (Mirisbiris Garden and Nature Center, formerly with USGS, NTU/EOS)
[email protected]
Pinatubo Volcano produced a low-end VEI 6 eruption (~5 km3 DRE of dacitic magma) on June 15,
1991, and developed a 2.5 km diameter caldera the same day.
These events were the climax after
precursory intrusion of basaltic magma into the dacite reservoir, small phreatic explosions on April 2,
magma mixing and eruption days thereafter of a hybrid andesite lava dome on June 7, and three days
of conduit-clearing VEI 3 eruptions from June 12-14.
As seen from the Total Ozone Mapping
Spectrometer (TOMS), the eruption injected a very large amount of SO 2 (17 Mt) that had accumulated
as a discrete bubble phase in the reservoir over preceding centuries – probably a prerequisite for such
large eruptions.
Modern Pinatubo had a long history of similar or larger dacitic eruptions, and associated hybrid
andesite domes.
The largest of these – the Inararo eruption – was also the first (originally found to be
>35 ka, later determined to be 81 ka from deep sea cores).
An Ancestral andesitic Pinatubo had been
active over ~ 1 ma prior to that time, and its remaining deposits are much more indurated than those of
the Modern Pinatubo.
Based on hasty reconnaissance stratigraphy (from air photos and on the
ground) and gas-line radiocarbon dates that hadn’t even stabilized, we judged that Pinatubo had repose
periods in the order of 1000 years, some longer, some shorter, and that the unrest of 1991 might lead to
an eruption similar to those which occurred previously, especially the latest, 400 y BP Buag eruption.
On that basis, we forecast that IF Pinatubo would erupt, the eruption would likely be large (e.g., VEI
6), and hazard zones were drawn accordingly.
The scientific response to the crisis was managed by the Philippine Institute of Volcanology and
Seismology (PHIVOLCS), led by the late Ray Punongbayan.
Assistance Program (VDAP) assisted.
The USGS’ Volcano Disaster
Mitigation decisions were managed by Philippine civil
defense and, on the US bases, by US military commanders.
Public skepticism was high, public
understanding was low, and we scientists used every tool we could to get people ready: hazard maps;
personal, group, and community briefings; videos for these briefings and for broadcast TV; talks to
schoolchildren and science teachers; probability trees; a numerical alert level scheme; “translation”
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
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第 5 回研究集会 講演要旨集
help from nuns and pastors, and more.
and urgently.
We did not exaggerate the threat, but we did speak frankly
The volcano helped us by ramping up both its geophysical and geochemical precursors
from June 3-14 and its visible activity on June 12-14.
The highest risk areas were evacuated before
the climactic eruption.
Scientific colleagues in Japan will appreciate the irony of the June 3 increase in activity. On that date
in Japan, Maurice and Katia Krafft were trying to collect better pyroclastic flow footage at Unzen, and
miscalculated their own risk.
On that same date in the US, a colleague and I had to use the Krafft/
IAVCEI video to convince US military commanders in Hawaii of the seriousness of the threat to Clark
Air Base in the Philippines.
When we briefed the military commanders, we told them that the
film-makers (Kraffts) had just been killed by the same phenomenon – a pyroclastic flow – that we
feared could strike Clark Air Base.
They listened well, and evacuated.
An important lesson for stratigraphers and for crisis managers is that the precursors to this
exceptionally large explosive eruption were absolutely UNREMARKABLE until the last 24 hours
before the climax, i.e., on June 14.
geologic record.
Our forecasts of a “worst case” VEI 6 event were based on the
We were watching closely for geophysical or geochemical indications of an
exceptionally large eruption, and it was not until June 14 that the number and energy of shallow
low-frequency earthquakes went “off-scale,” well beyond precursors of small eruptions. In other
words, it was not until June 14 that the tapping of gas-charged magma became a “runaway” process
that would not stop until the gas-rich top of the magma reservoir was exhausted.
Fortunately, most
communities were already evacuated by that time; it would have been too late to adjust evacuations
based on that late seismicity.
Another important lesson for hazard assessment is that in some cases, as at Pinatubo, large explosive
eruptions are so prevalent that it makes sense to use a “worst case scenario” for evacuation planning.
This might not be true where the largest events are relatively rare, but it was true at Pinatubo.
Fortunately for Clark Air Base and Angeles City, an even worse case – an even larger eruption – that
we discovered after June 15 did not materialize.
We thought we had warned of a worst case, but
learned later that even worse might have occurred.
In the end, most of the 400 eruption-related fatalities were from roofs that collapsed from rain-soaked
ashfall.
Coincidence of Typhoon Yunya with the climactic eruption was especially unfortunate, as
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
people outside the original evacuation zones naturally wanted to stay in their own homes or under
other roofs to avoid both rain and ashfall.
Poorly supported roofs collapsed under 10 cm of wet ash.
At a volcano known to produce large pyroclastic flows, that hazard gets first attention and it is
common for ashfall (and lahars) to be consider only later, sometimes too late.
The large amount of loose pyroclastic debris on the slopes, and torrential typhoon rains with up to 750
mm/24 hours, conspired to send many lahars – from 10’s to >100 million m3 – into lowland farms and
towns.
Over the succeeding decade, roughly 60% of the deposit on the volcano slopes was washed
down into surrounding lowlands, burying some towns completely.
Several hundred people died from
lahars, most because they got poor advice and thought they were safe when they were not. Scientific
advice re: lahars of Pinatubo was generally excellent; the main problems came from non-scientific
misinformation.
Tephra fall layers are not well preserved at Pinatubo.
them as marker horizons.
In fact, we found so few that we could not use
Perhaps with more careful work along ridge crests and in special
environments like long-lived lakes it might be possible, but in our rapid reconnaissance we worked
mainly in river valleys and thus with flow deposits.
We used mainly the Fe-Mg mineralogy (all
dacites have hornblende; some also have biotite) and radio-carbon ages to establish correlations.
There was an optimal period – roughly, in years 2-5 after the eruption – in which incision through the
toes of pyroclastic fans and the heads of alluvial fans was greatest, all the way down to ancestral
Pinatubo deposits.
maximum exposure.
those outcrops.
Stratigraphers should be ready to jump into action to capture outcrops at their
Vegetation had not yet covered the outcrops, nor had aggradation re-buried
The tephra story merits further study, and might still be accessible, especially with
new roads up interfluves on most sides of the volcano.
There were also many opportunities – spread over a decade – to witness active processes including
pyroclastic flows; secondary (rootless) explosions and secondary pyroclastic flows; lahars of all kinds;
dome growth; and creation, filling, and breaching of a small caldera lake.
In most cases, we could
study deposits shortly after the events, and also correlate them to geophysical and geochemical
signatures in monitoring data.
An eruption like Pinatubo is a wonderful opportunity for those who
work on older deposits to learn the complex details of events that can be lost from the geologic record.
Specifically, in the valleys, there was so much cut and fill activity that the final deposits represented
only the latest and/or largest events, with many more intermediate events lost from the geologic record.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
Lahars from single typhoons can scour down tens of meters and then backfill (aggrade) by the same or
more!
Indigenous people of Pinatubo, the Aytas, were at special risk.
Most of them were saved by timely
evacuations, except for one group that sought shelter in a cave close to the volcano.
About 500 Ayta
children died from measles in evacuation centers because their parents distrusted lowland doctors and
could no longer collect traditional plant medicines from Pinatubo.
brought many changes to the Ayta culture, both good and bad.
The eruption and its aftermath
A researcher from Kyushu
University, Hiromu Shimizu, has published on the effects of Pinatubo on the Aytas.
Volcanologists from the Philippines, US, and many other countries including Japan, and a few social
scientists from the Philippines, described the eruption, its precursors, its lahars, and its immediate
physical effects on the surroundings in a 1996 monograph titled “Fire and Mud: Eruptions and lahars
of Mount Pinatubo, Philippines.
This can still be found in used bookstores, and it is freely
accessible online at http://pubs.usgs.gov/pinatubo.
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第 9 回 西日本火山活動研究集会
国際火山噴火史情報研究所
第 5 回研究集会 講演要旨集
5-02 フィリピンのピナツボ火山山頂カルデラ湖周辺の
熱ルミネッセンス(TL)年代
高島
勲・西川
治(秋田大)・小林哲夫(鹿児島大)・奥野
充(福岡大)
Thermoluminescence(TL)age of rocks from summit caldera lake
at Pinatubo volcano, Luzon Island, Philippines
I. Takashima, O. Nishikawa (Akita Univ.),
T. Kobayashi (Kagoshima Univ.) and M. Okuno (Fukuoka Univ.)
フィリピン共和国ルソン島中部にあるピナツボ火山は 1991 年に大噴火を起こし,山頂部に
カルデラ湖を生じている.このカルデラ周辺には,最新期の噴火活動によるドーム溶岩や火
砕流が分布しており,活動史の復元に重要である.新期の火山活動は山麓の火砕堆積物の14
C 年代測定から,35kaBP, 17kaBP, 9kaBP,
6-5kaBP,
3.9-2.3kaBP および 0.5kaBP という活動年
代が報告されている (Newhall et al., 1996)
.また,山頂部の岩体についても熱ルミネッセン
ス(TL)法により直接測定が行われ,20ka,9ka,6-5ka という年代が得られている(守安ほ
か,2007)
.
今回,より詳細な年代を得るため山頂部のカルデラ湖周辺の 13 地点(Fig.1)で 24 個の試
料を採取し,TL 年代測定を進めている.試料は,解釈が容易なドーム溶岩を優先して採取し
たが,湖成堆積物や崩壊堆積物中の溶岩片も含まれている.TL 年代を確定するためには,地
質時代に受けた放射線量(パレオドース,PD)と1年間に試料が受ける線量(年間線量,AD)
の双方の測定が必要である.後者については,放射
性元素である U,Th,K(K2O)の全岩測定から求め
ることができ,γ 線スペクトロメトリー法によりす
でに算定されている.一方、PD については,人工的
な放射線照射(γ 線)により求めることが必要であ
り,正確な評価には複数の異なった線量の照射が行
われる.現在は一部の試料について,1点のみの照
射データで概略の年代を求めている(Table1).そ
の結果は,一部を除いてこれまでのデータと近い値
となっているが,精度は全く劣っている.今後,γ
線照射を増やして測定することで精度の高い年代が
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Fig. 1 Location of TL samples.
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求められる.なお,年代とは直接の関係はないが,地点4,5,6では U 含有量が異常に高
い試料が認められる(一般に,火山岩中の U:Th は1:3程度)
.これらの岩石は,通常と
は異なるマグマ分化が想定され,その面からの検討が期待される.
Table 1
Preliminary TL age data of Pinatubo Volcano.
(文献)Newhall et al. (1966) in Fire and mud, 165-195.
守安ほか(2007)地質学会 115 年学術大会講演要旨,O-51.
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5-03 Radiocarbon dating of wood trunks from crater wall of
Pinatubo volcano, Luzon Island, Philippines
M. Okuno (Fukuoka Univ.), T. Nakamura (Nagoya Univ.),
E. Bariso, M.T. Quilalang, A. Daag (PHIVOLCS) and T. Kobayashi (Kagoshima Univ.)
The summit crater of Pinatubo volcano was formed by the calderagenic eruption of 1991 (Newhall
and Punongbayan, 1996). At eastern wall of the crater, wood trunks are embedded in lacustrine deposit.
The lacustrine block fell directly from the wall were found at foot slope (Fig. 1). We conducted
radiocarbon (14C) dating of wood trunks with accelerator mass spectrometer (AMS) at Nagoya
University. The obtained dates of 3770±50 BP and 3550±50 BP corresponds to ca. 4 cal kBP (Table
1). The two ages do not agree beyond the error range. Therefore, these samples may be from different
horizons. However, wood trunks are found from only one horizon. These dates are almost consistent
with dates in Maraunot period (Newhall et al., 1996). From the age of lacustrine deposit, it indicates
that crater lake was formed by the eruptions during Maraunot period, which shows similar pattern
from the 1991 Pinatubo eruption that formed the present crater.
ピナツボ火山の山頂火口は,1991 年の噴火で形成された(Newhall and Punongbayan, 1996)
.
火口東部崖に露出している湖成層中には材化石が含まれている.演者らは火口内に崩落した
ブロック中の材化石(Fig. 1)の放射性炭素(14C)年代を測定したので,この結果を報告する.
14
C 濃度測定は,名古屋大学の加速器質量分析(AMS)計を用いた.得られた年代は,3770
±50 BP と 3550±50 BP で,暦年較正の結果,これらは約 4 cal kBP の暦年代に相当する(Table
1)
.2つの年代値は誤差範囲を超えて一致しないため,異なる層準に由来する可能性がある.
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その後,火口内壁に露出する湖成層を観察した結果,材化石が産する層準はひとつしか確認
できない(Fig. 2).そのため,崩落ブロックもその層準に由来すると考えられる.今回の年
代は,Maraunot 期のもの(Newhall et al., 1996)と概ね一致しており,この時期の噴火で現在
のように火口湖がある期間存在していたことを示す.
Fig. 1
Table 1
Photo showing occurrence of wood trunks in lacustrine block.
Radiocarbon dates from wood fragments in lacustrine at summit crater of Pinatubo volcano
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5-04 パイタン湖のボーリング掘削(速報)
鳥井真之(熊本大)・E. Bariso・D.J. Rivera・R. Lim・C. Pogay・A. Daag (PHIVOLCS)・
山崎圭二・中西利典・奥野 充(福岡大)
Boring cored sediments from Paitan Lake, central Luzon, Philippines
M. Torii (Kumamoto Univ.), E. Bariso, D. J. Rivera, R. Lim, C. Pogay, A. Daag (PHIVOLCS),
K. Yamasaki, T. Nakanishi and M. Okuno (Fukuoka Univ.)
日本同様に数多くの活火山を有するフィリピン共和国では,徐々にではあるが各火山ごとに
噴火史研究がおこなわれつつある.しかし,層序の基準となる広域テフラの存在が認識され
ていなかったことから,正確な層位関係に基づく火山活動の把握が困難であった.近年,ル
ソン島南東端にイロシン(Irosin)カルデラを形成した大規模火砕流噴火(41 cal kBP)において,
降下火山灰(co-ignimbrite ash-falls)の存在が明らかにされ,フィリピンにおける広域対比の
鍵層となり得る可能性が示された( Mirabueno et al., 2011).このような鍵層となり得るテフラ
のカタログ化はこの地域の火山学に大きく寄与することから,イロシン噴火以降の高精度テ
フラカタログの構築を当面の目標としイロシンカルデラ周辺の3サイトでボーリング調査を
おこなってきた.しかし,テフラ保存性のよい湖成層の存在を期待したカルデラ内のボーリ
ング調査では,結果として河川成の堆積物とブルサン火山起源のラハール堆積物を主体とし
ており,テフラは火砕流堆積物 1 層と降下テフラ 12 層を見い出したのみで,広域テフラの特
徴を示すテフラの発見は出来ていない(Mirabueno et al., 2014)
.そこで今回は掘削調査の対象
を静かな堆積環境が推定されるパイタン湖の湖成層にターゲットを変更し 2015 年 1 月末より
掘削を開始した.パイタン湖は円形クレーター状の地形とリムを形成するサージ堆積物の存
在からタフリングと推定される.現在,タフリング中心付近のみが湛水しており,リム内側
斜面には水田が形成されている.湖には北側に幅数 m の小川があるのみで事実上湖に流入す
る河川はないことから,洪水による堆積物の変化は比較的軽微なものと思われる.実際,植
物珪酸体分析を目的とした吉田ほか(2011)では,手動式ピストン・ サンプラーを用い 240cm
の試料採取をおこない,全層準がシルトであることを示しており,最下部付近の年代がよそ
2,500 年前であることも報告している.Fujiki et al.(2013)では花粉採取のために行ったハンド
オーガーによる採取で約 300cm の試料を得ており,同様に全層準がシルトであること,深度
278cm で約 1,200 cal BP であることを示している. 掘削地点は湖の中心にできる限り近い地
点として南東側を選定し,50m の予定で掘削を開始した.2 月 6 日現在深度 27m まで SPT に
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より掘削が進行している.採取されたコアは先行研究同様に大部分がシルトからなり,暗灰
色から黒色を呈し,また既に複数層準でテフラ層が確認されている.本講演では掘削の状況
を紹介する.
Fig.1 位置図
Fig.2
パイタン湖と掘削サイト位置
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(google map による)