Bi2Sr2Co2O9 へのインターカレーションと熱電特性

Bi2Sr2Co2O9 へのインターカレーションと熱電特性
○舟橋良次1, 2、前田勇輝3、三上祐史1, 2、三原敏行 1, 2、Emmanuel Guilmeau1
1
産業技術総合研究所、〒563-8577 大阪府池田市緑丘 1-8-31
2
科学技術振興機構CREST、〒563-8577 大阪府池田市緑丘 1-8-31
3
大阪電気通信大学、〒572-8530 大阪府寝屋川市初町 18-8
【緒言】
近年のナノテク技術の進歩に伴い
Bi 2 Te 3 /SbTe 3 超 格 子 薄 膜 [1] や Bi ナ ノ ワ イ
ヤー[2]において、量子効果による熱電特性
の飛躍的改善が報告されている。しかしこ
のような物質は化学的に不安定であり、作
製も容易ではなく、応用へ多くの課題を抱
えている。そのため、量子効果により熱電
特性が向上した大型単結晶あるいは焼結体
とその作製法の開発に大きな期待が寄せら
れている。高温、空気中で高い熱電性能を
示 す Ca 3 Co 4 O 9 ( Co-349 ) や Bi 2 Sr 2 Co 2 O 9
(BC-222)は層状構造を有するものの、残
念ながら二次元量子効果による高い熱電特
性は発現していない。そこで本研究では電
導 層 で あ る CoO 2 層 間 の 距 離 を 増 加 さ せ る
ことで二次元量子効果による熱電特性向上
を目指し、BC-222 相のBiO-BiO層間への原
子及び化合物のインターカレーションを試
み、CoO 2 層間距離と熱電特性について調べ
た。
【結果】
図 1 にインターカレーションのための加
熱 時 間 に 対 す る X線 回 折 パ タ ー ン の 変 化 を
示す。インターカレーション前の試料(0h)
ではBC-222 相の(00 ℓ )ピークのみが観察さ
れた。20 時間インターカレーションを行っ
た試料では、BC-222 相の各(00 ℓ )ピークよ
りも数度低角度側にピークが現れた。これ
らのピークはBC-222 にヨウ素がインター
カ レ ー シ ョ ン さ れ た 結 晶 相 (IBC-222)に 起
因するものである。そして、50 時間加熱す
ることで、BC-222 相のピークは消滅し、
IBC-222 相のみの回折ピークが観察された。
IBC-222 の回折ピークを数度高角度側にあ
るBC-222 相の回折ピークと同じく指数付
けすると、IBC-222 相の c 軸長はBC-222 相
よりも約 3.6Å長い、18.4Åとな った。こ
れ は BC-222 と 類 似 の 構 造 を 有 す る
Bi 2 Sr 2 CaCu 2 O x 相 へ の ヨ ウ 素 の イ ン タ ー
カ レ ー シ ョ ン で 報 告 さ れ て い る c軸 長 増 加
と同程度であった[4]。この場合、ヨウ素は
ファンデルワールス力で結合している
BiO-BiO層間に挿入されていることが分か
っている。このことからIBC-222 ウィスカ
ーにおいても同様にBiO-BiO層間にヨウ素
が存在して いるものと 考えられる (図 2)。
(0010)
(0012)
(008)
(009)
(0011)
(0010)
(008)
(007)
(005)
(006)
(006)
(007)
(004)
(005)
(001)
(003)
(002)
(003)
(004)
Intensity (arb. unit)
(002)
【実験】
単結 晶試 料 はガ ラス 前 駆体 法に よ り合成
した[3]。原料粉末であるBi 2 O 3 、SrCO 3 、
CaCO 3 、 及 び Co 3 O 4 を Bi:Sr:Ca:Co =
1:1:1:1 となるように混合し、アルミナるつ
ぼを用い、1300℃、空気中で 30 分間溶融
した。原料融液を室温の銅板上に流し出し、
0h
もう一枚の銅板で挟み込み急冷することで
ガラス前駆体を作製した。このガラス前駆
体を酸素気流中、900℃で 100 時間熱処理
す る こ と で 繊 維 状 単 結 晶 で あ る 、 Bi 2 (Sr,
20h
Ca) 2 Co 2 O 9 (BC-222)ウィスカーを得た。こ
のBC-222 ウィスカーとヨウ素をガラス管
でつないだ二本のガラス容器に別々に入れ、
50h
容器全体を真空封入した。ガラス容器を電
気炉に入れ 120℃で 20∼100 時間加熱した。
室温まで冷却後ウィスカーをエタノールで
洗浄し、室温で乾燥させヨウ素をインター
100h
カレーションしたBC-222 ウィスカーを得
た。
このウィスカーの ab -面内のゼーベック
10 20 30 40 50 60 70
係数と電気抵抗率を測定した。ゼーベック
2θ / deg (Cu-Ka)
係数は MMR 社製ゼーベック係数測定装置
を用い、80∼300K で測定した。一方、電
気抵抗率測定は直流四端子法により、電流
図 1 ヨウ素インターカレーションした
値を 1mA とし、4∼250K で行った。どち
BC-222 ウィスカーのX線回折パターンの
らの測定も端子付けには金ペーストを用い
インターカレート時間依存性
た。
(a)
(b)
CoO2
SrO
BiO
BiO
SrO
CoO2
CoO2
SrO
BiO
I
BiO
SrO
CoO2
c
b
a
100Å
図 2 BC-222 相(a)と IBC-222 相(b)の結晶
構造の模式図
走 査 型 電 子 顕 微 鏡 を 用 い た 特 性 X線 分 析
から、120℃、20 時間の加熱ではインター
カレーションによりヨウ素が占有できる約
60%が 占 め ら れ 、 平 均 組 成 は I 0.56 Bi 2.7 (Sr,
Ca) 2.5 Co 2.0 O x となった。そして 50 時間以
上 加 熱 す る こ と で 平 均 組 成 は I 0.98 Bi 2.5 (Sr,
Ca) 2.3 Co 2.0 O 9 と な り ヨ ウ 素 量 が 飽 和 し た 。
その結果、全てのBC-222 相のXRDピーク
が消滅した。
図 3 にBC-222 ウィスカーとIBC-222 ウ
ィスカーの電気抵抗率とゼーベック係数の
温度依存性を示す。抵抗率はヨウ素量の増
加に伴い増加し、ゼーベック係数は低下し
た。ゼーベック係数の減少はヨウ素のイン
タ ー カ レ ー シ ョ ン に よ る CoO 2 層 の ホ ー ル
濃度増加が原因であると考えられる。
150
100
Resistivity (mΩ cm)
Resistivity
80
20h
100
50h
60
50h
40
50
20
0
Seebeck coefficient (µV/K)
0h
0
50
20h
0h
0
100 150 200 250 300 350
Temperature (K)
図 3 BC-222 及び IBC-222 ウィスカーの
熱電特性
図4に 50 時間インターカレーションを
行った IBC-222 ウィスカーの側面の透過型
電子顕微鏡(TEM)像を示す。この写真か
ら IBC-222 中には多数の積層欠陥が存在し
ていることが分かる。これはインターカレ
ーションがまだ十分進行していないことを
示しており、この結晶構造の乱れが電気抵
抗率の増加を引き起こしている。
図4
IBC-222 ウィスカー側面の TEM 像
【まとめ】
高い熱電特性を有する BC-222 ウィスカ
ーへのヨウ素インターカレーションを行っ
た。インターカレーションによりゼーベッ
ク係数は減少し、抵抗率は増加した。
BC-222 へヨウ素がインターカレートでき
たことは、ヨウ素以外の原子あるいは化合
物でもインターカレートが可能であること
を示しており、これによる熱電特性の向上
にも期待できる。
【参考文献】
[1] R. Venkatasubramanian et al .,
Nature 413, 597-602 (2002).
[2] J. Heremans et al ., Phys. Rev. B 61,
2921-2930 (2000).
[3] R. Funahashi et al. , Chemistry of
Materials 13, 4473-4478 (2001).
[4] Y. Koike et al., Solid State Commun.
79, 501-505 (1991).