徳島東警察署の裁判所跡地への移転に反対する会長声明

徳島東警察署の裁判所跡地への移転に反対する会長声明
飯泉嘉門徳島県知事は、本年6月16日に開催された徳島県議会6月定例会の本会
議において、徳島東警察署を核にした「新防災センター」の立地場所を、現在建替
工事中の裁判所跡地に決定したとして、速やかに用地取得に向け、国との協議を開
始していくとの方針を明らかにした。同知事の発言によれば、「新防災センター」
は、万一の場合に県庁や警察本部庁舎の代替機能を果たす総合指揮所として活用す
ることも予定されているが、基本的には徳島東警察署の新庁舎として整備されるも
のである。
しかし、徳島東警察署の新庁舎を、現在の裁判所敷地内に、裁判所の新庁舎に隣
接して建設することは、裁判所の中立・公正さや裁判所の警察からの独立性に疑念
を持たれる可能性があり、司法に対する徳島県民の信頼が損なわれることにもなり
かねない重大な問題をはらんでいる。
警察は、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締りその他公共の
安全と秩序の維持に当たることをその責務としており(警察法2条1項)、犯罪の
捜査においては、警察官を中心とする司法警察職員が第一次的な担当者とされてい
る(刑事訴訟法189条2項)。
しかし、警察の活動は、その活動目的を達成するために、人身の自由や私生活の
自由など憲法の保障する個人の権利及び自由を制限することがあり、その権限が濫
用される危険性を内包している(警察法2条2項、警察官職務執行法1条2項参
照)。特に、犯罪の捜査においては、捜査機関である警察の活動と被疑者その他の
関係者の人権とは、絶えず矛盾・対立する要素を持っており、治安維持や犯人検挙
という目的のために、警察が行き過ぎた行動に出てしまうことも少なくない。
そのため、憲法は、警察の活動について、法律によって定められた適正な手続に
よって行われるべきことを要求している(憲法31条)。特に、逮捕、捜索及び押収
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については、警察の判断だけではこれらの処分を行うことはできず、原則として、
裁判官の事前の許可(令状)が必要とされているし(令状主義。憲法33条、35条)、
強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留又は拘禁された後の自白は、
これを証拠とすることができないものとされている(憲法38条2項)。
このように、警察の活動に対しては、被疑者その他の関係者の人権が不当に侵害
されることのないよう、裁判所による司法的な統制が行われることが憲法上予定さ
れており、裁判所と警察は、法制度上、一定の緊張関係にある。そして、裁判所が
こうした人権擁護の砦としての役割を果たすためには、裁判所は中立・公正な立場
を堅持する必要があり、そのためには裁判所がいかなる権力からも影響を受けるこ
となく独立していることが求められ(憲法76条3項参照)、とりわけ警察組織とは
一線を画することが強く要請される。しかも、裁判所の中立・公正さや独立性は、
単に裁判官の意識として保持されているだけでは足りず、そのことに対する市民の
信頼があって初めて実現されるものであって、そのためには外見上も中立・公正さ
や独立性が確保されていることが必要である。
ところが、徳島東警察署が裁判所跡地に移転した場合、現在建替工事中の裁判所
の新庁舎と徳島東警察署の新庁舎とが現在の裁判所敷地内で並立することとなり、
両者があたかも一体の組織であるような外観を呈することとなる。これでは、裁判
所の中立・公正さや警察からの独立性に疑念を持たれる可能性があり、司法に対す
る徳島県民の信頼が損なわれることにもなりかねない。このような事態は、徳島県
民の人権擁護の観点に照らして決して看過することができない。
しかも、このたびの徳島東警察署新庁舎の整備計画では、裁判所敷地内に植栽さ
れている桜の保存が図られなくなる可能性もある。
この桜は、徳島県民が他県に誇る樹齢を重ねた美しいもので、徳島市内で最も早
く開花することでも知られており、徳島県民に春の到来を告げる存在となっている。
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裁判所庁舎の建替工事を実施するにあたっても、いったんは桜の伐採が検討された
が、市民の反対運動によって保存が決定されたという経過がある。にもかかわらず、
このたびの徳島東警察署新庁舎の整備計画によって、この桜が伐採されるというこ
とになれば、せっかくの裁判所の努力も無に帰してしまう。
以上の観点から、当会は,裁判所の中立・公正さや裁判所の警察からの独立性に
不当な影響を与えかねない徳島東警察署の裁判所跡地への移転に反対し、計画の白
紙撤回を求める。
2015(平成27)年10月19日
徳島弁護士会
会
長
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上
地
大三郎