2014年2月後半 - 広報コンサルタント

With
いじめ・自殺問題 における
学校の対応と説明責任の
あり方について考える
(ふじもり かずみ)
(いしかわ けいこ)
藤森 和美
石川 慶子
武蔵野大学教授、
博士
(人間科学)
、
臨床心理士
犯罪や事故の被害者に対する心理的支援を
実践しながら、心理支援の専門家養成にも
力を入れ、被害者を取り巻くさまざまな関
係組織のコラボレーションの必要性につい
ても論じている。特に、子どもへの事件事
故被害後の緊急支援活動は、システム作り
からチームを育成に積極的に関わっている。
広報コンサルタント
有限会社シン取締役社長
日本リスクマネジャー&コンサルタント協
会理事
企業・官公庁・学校に対し、平時・緊急時
のマスコミ対応を中心とした広報コンサル
ティングを提供。
警察大学校、国土交通大学校でも講師を務
める。http://ishikawakeiko.net/
の選択肢を提示します。個別対応は、対応に時間がかかるわりには、
相談がよくあります。いろいろな保護者がいるのでさまざまなこ
結果として報道が各社ばらばらになるため影響が長引くことを説
とを想定すると対応方針が決められないのではないかと思います。
思春期にあたる中学・高校生のいじめやそれをきっかけとする自殺について学校はどのように対応
明すると、皆さん記者会見を選びます。記者会見は、2 時間程度で
当事者同士での話し合いが無理なら、裁判で決着をつければよい
したらよいのだろうか。臨床心理士として横浜市内の学校の緊急支援に携わっていらっしゃる武蔵
すから、体力的にも負担が少ないです。教員や生徒、保護者への
と思いますが、訴訟に慣れていないのでしょうか。
野大学教授の藤森和美先生にお話を伺った。今号は、リスクマネジメントの最大のポイントである「リ
取材攻勢を防ぐこともできます。マスコミ対応は専門家が一人入
スクの芽」にどう気づくのかといった視点から、いじめを発見した際にどう対応したらよいのかを
考える。次号は自殺という最悪の事態になってしまった際の対応と説明責任について考える。
インタビュアー : 石川慶子 (広報コンサルタント)
れば乗り切れますが、メンタル面は人数が必要になるだろうと思
藤森先生 確かに保護者対応には労力がかかります。ずっと文句
います。実際に支援で入る場合の人数ですが、中高一貫校で各学
を言い続ける保護者は私学でも公立でもいるでしょう。ただ、学
年100 人として600 人の学校の場合では、何名のサポート体制に
校を責め続けても仕方ない、自分達は何ができるか、と言いだす
なりますか。
別の保護者は出てきます。そこで収まってくるケースが多いですね。
ただ、最近の傾向として、保護者は以前よりも顧客感覚を強く持
[ 後編 ]
外部専門家から客観的視点のアドバイスを受けながら
組織的に対応すべき
組織的な対応体制を構築し、ケアプランを立てる
藤森先生 全ての学年に波及すると考えた場合、各学年に一人ず
つようになっていると感じます。学校を信頼していないのに期待
つで6 名、保健室への支援、教職員への支援、校長先生への支援
する、あるいは信頼していないから要求する、というのでしょうか。
となると10 名位は必要になるでしょう。もっとも、実際にはそれ
保護者の方に精神障害が入っていることもあります。ある先生は
だけのカウンセラーを集めるのは大変難しいですが。
授業があるのに、毎日3 時間も 4 時間も保護者対応をした結果、病
んでしまいました。この時には、校長先生に訴えようアドバイス
かわからないマスコミへの対応方針を立てます。関係者からのヒ
アリングや取材対応、記者会見は全て記録を取ることを伝え、
IC
石川 一昔前と異なり、学校に対して説明責任を求める声は高まっ
したのですが、
「いや、教育力で乗り切る」とおっしゃるのです。
石川 最悪の事態、つまりいじめがきっかけとなって生徒が自殺
レコーダーやビデオカメラを準備してください、と申し上げるの
てきていますが、学校は誰にどこまで説明すべきだと考えますか。
学校は保護者を訴える勇気がないのでしょう。校長先生は教員を
をしてしまった場合のことをお伺いしたいと思います。生徒だけ
ですが、機器を買いに行くことが最初のアクションになることも
でなく教員も含めて衝撃が走り、頭が真っ白になってしまうと思
あります。さて、最初に立てる「組織的なケアプラン」について
藤森先生 学校の管理内で起きたのか、管理外で起きたのかによっ
入しているようなEAP(Employee Assistance Program:従
います。心理的観点から、最初に何をすべきでしょうか。
もう少し詳しく教えていただけますか。
て期待される説明責任は異なると思います。管理外であれば、攻
業員をメンタル面から支援する制度)を導入する必要があるので
撃の的になることはあまりないでしょう。いずれの場合であれ、
はないでしょうか。
守る経営者としての視点も持つ必要があります。学校も企業が導
藤森先生 私達に依頼がある場合には、子ども達のケアのため、
藤森先生 最初に校長先生にヒアリングを行い、学校がどこまで
学校はきちんと対応したのだと伝えることは必要でしょう。学校
といったことが多いのですが、最初にすべきことは「組織的なケ
情報を把握しているか確認します。ケアプランは2~3時間毎の
の管理内で起きた場合には、遺族や被害者の保護者は、必ず学校
アプラン」を立てることです。そして、2番目が教職員への心理教育、
計画です。先生方にとって何が不安かを確認し、遺族対応へのア
に対して不満を感じ、攻撃的になります。自分達の至らなかった
<取材を終えて>
3番目が保護者への心理教育、最後に子ども達への個別のケアと
ドバイスや保護者対応・生徒への対応をどう行うのかを考えてい
部分を責めると辛くなるので学校を責めてしまうのです。親族や
藤森先生へのインタビューで共感したことは、
「組織的
なります。つまり、子ども達のケアをする前に3つのことをしな
きます。特に自殺の場合には、遺族の意向が大きく影響します。
知人など周囲の第三者から「訴訟したらいい」などのアドバイス
対応」を強調していた点である。いじめの問題が発生し
ければならないということです。また、記録を取ることは大変重
そして、遺書があったかどうかは大きいです。その遺書を遺族が
も受けるでしょう。ただ、最初は学校が悪いと恨んでいても、その後、
た際には担任だけで抱えるのではなく、その情報を皆で
要です。必ず、
「言った/言わない」といったことになりますし、
どのように受け止め、何を学校に望むのか、学校は遺族の意向を
ネットで子どもが残した言葉の中に親への不満を見つけると学校
リスクとして共有するチームとしての力をつけること、
カーッとなってしまうと頭に入っていないこともあります。若い
どう受け止めるのか。生徒には伝えるのか、伝えないのか、伝え
への責任追及の気持ちが変化することはあります。学校側は、遺
親は知識がありますから、訴訟も視野に入れていて、いざとなっ
るとしたらどのようにするのか。遺族から情報を出してほしいと
族や被害者の保護者への対応には時間がかかること、ずれが生じ
たら裁判で決着をつけたいと考えているのです。そのため、保護
依頼されれば、情報収集して出さなければいけません。このよう
ること、彼らの感情は変化するものだと覚悟して接した方がよい
者はICレコーダーを使って録音していると思った方がよいで
な中、学校の先生も当事者になってしまうので、普段仕切ってい
でしょう。寄り添うことと謝罪は違うのですが、混同も見受けら
しょう。一方、学校側は訴訟文化に慣れていないため、記録する
るような形では動けないのです。また、マスコミ対応に慣れてい
れます。
習慣があまりないのです。
ない学校では、校長先生が終日電話で取材対応をしてしまったこ
とがあります。これでは、他の対応がおろそかになってしまいます。
石川 それは同感です。私は緊急マスコミ対応で支援に入ること
が多いのですが、事実関係を把握する調査に入る前に、いつ来る
26 FORWARD No.24
石川 マスコミ対応で支援に入る場合には、個別対応と記者会見
万が一自殺といった結果になった場合にも、組織として
の対応プランを立てること。いずれも校長のリーダー
シップが重要だが、その校長を支えるのが外部専門家で
はないだろうか。私学の場合には、公立のような事務的
支援を行ってくれる教育委員会もない。自力で乗り越え
るしかない。これからは第三者視点によるチェックを社
会から要請されることが多くなっていくだろう。そのた
石川 管理外の事件なら、謝罪はしないが寄り添うことは必要で
めには、私学が平時から、情報を豊富に持つ外部専門家
すし、管理内であれば、寄り添う前に謝罪だと思いますが、謝罪
を活用することが、生き残る道になるかもしれない。
の仕方がわからない、どう表現したらいいかわからないといった
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