甲状腺の検査(H27.4月号)

頭頸部外科・甲状腺外科センター
甲状腺腫 瘍
の
検査
甲状腺腫瘍の検査
甲状腺は頸部の浅い部分にある臓器(表在臓器)
のため、頸部の触診が大切な検査法です。一般には、
石灰化(石のようなもの)がないか)などを観察し
ます(図2・3)。小さな腫瘍は、観察のみとするこ
とがありますが、腫瘍を認める場合は、その腫瘍が
どのような性質(良性か悪性か)なのかを判断するた
診だけで発見するのはできません。ある程度の大き
要なのかの判断は困難です。また小さな腫瘤は、触
瘍が良性であるのか悪性なのか、さらには治療が必
あります。しかし、腫瘤を触れるだけでは、その腫
くゴツゴツして、動きの悪い腫瘤は悪性の可能性が
常は1週間程度で結果が判明します。超音波エコー
安全で侵襲(体に対する害)の少ない検査です。通
観察しながら針を刺すため(針先も分かります)、
をもたれる方も多いですが、超音波エコーで腫瘍を
検査です。首に針を刺す検査のため、恐ろしい印象
穿刺吸引細胞診は、超音波エコーで腫瘍を観察し
ながら、細い針を用いて、腫瘍から細胞を吸い出す
めに、穿刺吸引細胞診という検査を行います。
さがあっても、腫瘤の位置や体型によっては、発見
検査による腫瘍の性状と穿刺吸引細胞診の結果をも
丸くなめらかで、動きのよい腫瘤は良性が多く、硬
が困難なものもあります。
よいものかを判断します。
す。
した。今回は、甲状腺腫瘍の検査についてお話しま
ていること、また腫瘍ができやすいことをお話しま
前回は、甲状腺は首にある小さな臓器ですが、生
命を維持するうえで非常に重要なホルモンを分泌し
や形(丸くなめらか
超音波エコー検査
では、腫瘍の大きさ
た。
ようになってきまし
腫瘍の性状がわかる
伴い、非常に鮮明に
エコー機器の進歩に
らに、甲状腺は頸部の浅い部分にあるため、超音波
を抜く必要もない、体に非常に優しい検査です。さ
胞性腫瘍には、良性の濾胞腺腫と悪性の濾胞がんが
す。このような腫瘍は濾胞性腫瘍と呼ばれます。濾
超音波エコー検査で、はっきりとして被膜(腫瘍
を包む膜)があり、中身の詰まった(充実性)腫瘍
腫瘍の性状を観察することが殆どです。
断された場合は、大きな腫瘍でない限り、定期的に
瘍ではありません)で、穿刺吸引細胞診で良性と診
きりしない腫瘍(腺腫様甲状腺腫と呼ばれ、真の腫
超音波エコー検査で、液の溜まった(のう胞性)
腫瘍や、多発性にできる被膜(腫瘍を包む膜)のはっ
とに、手術が必要な腫瘍か、定期的に経過観察して
そこで、簡便で情報量が多い検査として、頸部の
超音波エコー検査(図1)があります。超音波エコー
甲状腺腫瘍の多くは良性腫瘍で、その大部分は手
術の必要はありませんが、一部の良性腫瘍は手術が
か、ゴツゴツしてる
はじめに
必要です。また、良性に比べると頻度は低いですが、
か)、内部の性状(中
検査は、放射線の被ばくはなく、検査のために食事
甲状腺には悪性腫瘍もできます。そしてこれらは手
身が詰まっているか、
甲状腺腫瘍について
術が必要です。それでは、手術が必要かを判断する
液が溜まっているか、
ものや、大きくなるスピードの速いものは、悪性腫
と診断されます。濾胞性腫瘍で4㎝を超える大きな
取れるため、良性か悪性かの判定ができず鑑別困難
あります。しかし、これらは細胞診では同じ細胞が
は、細胞診では鑑別困難と診断されるものがありま
のにどのような検査をすればよいでしょうか?
図1 エコー検査
4
広報誌 あおばな 2015年 4月号
のどぼとけ
図3 甲状腺乳頭がんのエコー像
図4
る場合は、乳頭がんと診断されます。乳
胞診で、その特徴のある細胞を多数認め
る形状をしています。よって穿刺吸引細
です。乳頭がんの細胞は、非常に特徴あ
甲状腺がんの9割以上が、この乳頭がん
悪性腫瘍の代表的なものとして、乳頭
がんがあります。日本で治療されている
瘍の可能性が高く手術が必要となります。
CT検査やPET検査が有効です。
がんが全身への広がりの有無を調べる検査として、
骨が多い)に散らばる(遠隔転移)ことがあります。
は、血液にのってがん細胞が甲状腺から全身(肺や
検査が有効です。また、このように進行したがんで
腫瘍の浸潤を調べる検査として、CT検査やMRI
器官に浸潤していないかを調べる必要があります。
が悪くなった)場合にも起こります。腫瘍が大きい
る場合はその広がりを調べる必要があり
首のリンパ節に転移がないか、転移があ
このため乳頭がんと診断された場合には、
ての検査を行う必要はありません。進行度に合わせ
判断する必要があります。また悪性であっても、全
正確に診断し、治療が必要なのか観察でよいのかを
最後に、甲状腺にはさまざまな腫瘍ができます。
このため、その腫瘍がどのような性質を持つのかを
場合やこのような症状を伴った場合、腫瘍が周囲の
頭がんは、悪性腫瘍の中でも非常におと
なしい性質のがんですが、首のリンパ節
ます。首の転移に対しても、超音波エコー
て、適切に検査を組み合わせることが、最善の治療
に転移をしやすい特徴も持っています。
検査は非常に有効な検査です。
設での検査や治療をお勧めします。
当センターは、
西日本では数少ない
資格:
日本耳鼻咽喉科学会認定専門医
日本気管食道科学会認定専門医
内分泌・甲状腺外科専門医
頭頸部がん専門医
日本がん治療認定医
森谷 季吉
すえよし
頭頸部外科・甲状腺外科
センター センター長
甲状腺外科 の専門施設 です。
につながります。甲状腺腫瘍が疑われれば、専門施
おとなしい性質のがんであっても、長
年にわたりがんを持たれている場合には、
大きな腫瘍として発見されることがあり
ます。甲状腺は首の真ん中で、気管にくっ
ついており、周囲には喉頭(声や呼吸に
関係する器官)、食道(食べ物の通り道)
や反回神経(声に関係する神経)があり
ま す( 図 4)。 こ の た め 腫 瘍 が 大 き く な
ると、これらの器官にがんが浸潤(食い
込んでいく)する場合があります。がん
がまわりに浸潤した場合、声のかすれ、
息苦しさ、食べ物の通りが悪いなどの症
状が出ることがあります。またこのよう
な症状は、腫瘍がさほど大きくなくても、
がんの悪性度が高くなった(がんの性質
広報誌 あおばな 2015年 4月号
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図2 正常甲状腺エコー像
気管
輪状軟骨
甲状腺
食道